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ロボットの権利と責任

2019.05.17 (Fri)
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ロボット開発ベンチャーのGROOVE X(グルーブエックス)が、
自社開発ロボットを初公開した。同日夜から予約受付を開始。
2019年秋から順次、出荷する。新型ロボットは「LOVOT(ラボット)」。
ロシアの民芸品「マトリョーシカ」を連想させる見た目である。

「4次元ポケットのない『ドラえもん』を作ろうとした。
大して役に立たないロボットです。人の代わりに仕事をしません。
人類のパートナー作りを目指しています」(グルーブエックスの林要代表)。

(GIZMODO)

「LOVOT」 売れるといいですね
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今回は、やや古いんですが、科学ニュースからこういうお題でいきます。
家庭用ロボットは、日本では1990年に登場し、2017年に復活した
犬型ロボット「AIBO」をはじめ、さまざまなものが発売されてきましたが、
なかなか普及しません。これは外国でも同じで、
販売不振で製造中止になってしまったものが多数あります。

なぜ、普及しないのか、原因はいろいろあります。まず、家庭用ロボットの
機能と愛玩性の2つの面から見ていきましょう。
家庭用ロボットに多数の機能を持たせる、例えば、朝起こしてくれる、
音楽をかけてくれる、コーヒーメーカーのスイッチを入れてくれる。
こういうシーンはSF映画によく出てきますよね。

家にある他の家電製品と連動させ、持ち主が音声で命令することができれば、
確かに便利は便利です。ただ、コーヒーメーカーでも、オーディオ機材でも、
さまざまなタイプが発売されていて、消費者は自分の好みに合ったものを
買います。それらをすべて連動させるのは、特許等、いろいろ難しい面があります。
また、地震等で電力が遮断されれば、すべてダウンしてしまいます。

現状では、掃除用ロボットに言葉を話させ、あといくつかの機能を追加する
程度しかできていません。それと、費用の点です。
多くの機能を持たせれば持たせるほど、値段が高額になります。
そうすると、「そんな高いものはムダだ。エアコンのスイッチくらい
自分で入れる」となってしまわないでしょうか。

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次に愛玩性の面ですが、例えば犬ロボットを、外見から行動から、
できるかぎり本物の犬に近づけたとしても、やはり犬ではありません。
生命を持ってないんですね。新型AIBOは30万円ほどするようですが、
それだと、血統書つきの犬が買えます。

まあ、犬には寿命があり、いつか死んでしまうわけですが、
AIBOはサポートが完全に終了しないかぎり、修理をくり返して
使用することができます。ただ、みなさんが飼っている犬や猫は、
量販製品ではなく、世界で一匹だけのかけがえのないもので、
だからこそ愛しいと言えるかもしれません。

ということで、家庭用ロボットがなかなか普及しない理由として、
ここまで書いたようなことが言われてるんですが、自分は、
最大の問題点は、現状、ロボットでは自身が生命体ではないので、
持ち主の孤独を解決してくれないことにあると考えています。

「AIBO」
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さて、少し話を変えて、人間には権利と義務がある、と言われますよね。
日本国憲法では基本的人権が保障されています。
では、いつかロボット(AI)にも、権利や義務が与えられるときが
来るんでしょうか? これはなかなか難しい問題です。

まず議論が進んでいるのは義務のほうです。この理由はおわかりだと
思います、自動運転ですね。2017年、EUの欧州議会法務委員会は、
倫理や安全性、セキュリティをめぐる問題を解決するため、EUとして
ロボットの使用に関するルールを定める必要があると提言しています。

これによって、ロボットは「電子的人物」としての法的地位を持つ
可能性がとりざたされました。自動運転や自動制御によるドローンが
事故を起こした場合、それが製造したメーカーの責任になるのか、
それとも所有者の責任なのか、それを明確にするための
法整備が必要ということだと思います。

現状ではさすがに、ロボット自身の責任は問えません。
では、将来的にロボットの責任が問えるようになるかというと、
これは、ロボットが人権のような権利を持つかどうかにかかっている
んじゃないかと思うんです。権利と義務は表裏一体の関係です。

ロボットがどの程度まで進歩すれば、個としての権利が認められるのか。
今のところ、ロボットは買った人の私有財産です。
ですから、故意のあるなしにかかわらず、壊してしまえば
弁償しなくてはなりませんし、器物破損で罪に問われることもあります。
でも、これはロボットの権利とは違います。

人権とロボ権
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ロボットが権利を持つ条件として、「感情を持ったとき」と説く人も
います。ですが、感情って難しいんですよね。定義が難しいし、
量的にも質的にも測定しにくい。それに、感情は動物だって
持ってるんじゃないでしょうか。

次に「知能」という点はどうでしょう。でも、これも人間におよばない
だけで、チンパンジーなどの動物にも知能があります。
ロボットの知能が人間と同等になったら、あるいは人間を超えたら、
ロボットに権利が与えられることになるのか、
どうもそうは思えないですよねえ。

「自我」あるいは「意識」のあるなし、というのはどうでしょう。
SFだと、ロボットが自我に目覚め、意識を持って人類に敵対しはじめる
という、『ターミネーター』シリーズをはじめとする怖い作品があります。
ロボットが意識を持ったときには、その権利が保障されることになるのか。

さてさて、とはいっても、ロボットが意識を持ったとしても、
やはり「人間ではない」という一点は大きいんじゃないかと思います。
ただ、遠い将来、フィリップ・K・デイック描くところの「レプリカント」
のように、生体組織などを使って、人間とロボットの境目がかぎりなく
あいまいになる時代が来るのかもしれません。では、今回はこのへんで。

関連記事 『自動運転あれこれ』

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「アルケー」って何?

2019.04.28 (Sun)
今回はこういうお題でいきます。「アルケー」という語を聞かれた
ことがある方は少ないと思います。これは、古代ギリシアの自然哲学で
「万物の根源」を指しています。すべての自然を生み出す源、
世界をつくりだしている根源的な要素、と言っていいかもしれません。

さて、古代ギリシアからエーゲ海をはさんだ対岸(現在のトルコ)は、
イオニア地方と呼ばれ、ギリシア人の植民都市がありました。
ここでは、宇宙や生命の成り立ちを神話によらず説明しようとする
学問が生まれ、それを「イオニア学派」と言います。

イオニア学派を興したのは、タレスと言って前6世紀の人物です。
みなさんは中学生のときに、「半円に内接する角は直角である」
という定理を勉強されたと思います。これを考え出したのが
タレスであるとされています。また、天文学にも精通し、
日食が起きる期日を予言したとも言われます。

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で、このタレスがつくりだした概念がアルケーなんですね。
タレスは万物の根源であるアルケーは水だと考えました。たしかに、
人間の体のほとんどが水分ですので、この考え方は理解できます。
川や海、雨や雲など、自然界には水が満ち満ちています。

その他、ヘラクレイトスは火を、ピタゴラスは数をアルケーとしました。
また、デモクリトスは万物の根源として「アトモス」を考え、
これは「最小の単位にして、それ以上分割できないもの」という意味ですが、
現在使われている科学用語「原子 atom」の語源になっています。

ただ、だんだんにギリシア哲学が進むにつれて、
一つのものからすべてが生まれるという考え方には無理があるのではないか
という論が出てきました。例えば、水がアルケーだとして、
石などの鉱物には水は含まれていないように見えますよね。

エンペドクレス
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そこで出てきたのが「四大元素説」で、始めに提唱したのは、
前5世紀のエンペドクレスという人物です。
エンペドクレスが考えた四大元素は「水・火・土・空気(風)」でした。
彼はこれらの4つを「リゾーマタ rizomata」と呼び、
すべてのものは、この4つの結合と分離からできていると説明します。

ちなみに、みなさんの中には、ファンタジー小説で、火の精霊、水の精霊
などが出てくるものを読まれたことがある方がおられると思いますが、
あれも四大元素説をもとにして想像され、伝説化したものです。
四大元素説はギリシア時代に続く古代ローマ時代に受け継がれましたが、
キリスト教の登場でいったん下火になってしまいます。

古代ギリシアの四大元素説
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その理由はおわかりだと思います。キリスト教では、
万物の根源となるものは「神」なんですね。神がすべてを創り、定め、
支配する。ということで、ヨーロッパ地方は自然哲学にとっては
暗黒の時代になってしまいました。ですが、ギリシア・ローマ時代の
考え方はイスラム社会で継承され、独自の発展をとげます。

そしてその知識が、12世紀から始まる十字軍遠征によって
再発見されることになります。何度か記事に書いたんですが、
ヨーロッパで錬金術が盛んになるのは、この十字軍遠征以降なんですね。
錬金術は、卑金属から金をつくりだそうとするもので、
基本的に、四大元素説にしたがって実験が行われました。

アントワーヌ・ラヴォアジェ
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さて、それから長い年月がたち、はじめて四大元素説を否定したのは、
17世紀の化学者にして錬金術師、ロバート・ボイルであるとされます。
ボイルがいくら四大元素説にしたがって実験をくり返しても、
金はできなかったからです。18世紀に入ると、すべてのものは
「元素」から成り立っているということが、だんだんにわかってきました。

元素周期律表
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アントワーヌ・ラヴォアジェが、著書で33の元素と「質量保存の法則」
を発表したことが、錬金術の終焉、近代化学の始まりとされています。
そして、元素の実質は「原子」であると考えられるようになりましたが、
原子の存在が広く認められるようになったのは20世紀の初頭、
ちょうどアインシュタインが一般相対性理論を発表した頃です。

ということで、古代ギリシアの時代から、長い長い期間をかけて、
物質は原子からできているということが判明したわけです。
さらに、原子はもっと小さく分けることができるのではないかという
考えが出てきました。ただし、これには強い批判もあったんです。

みなさんは中学校で、原子は原子核の周囲を電子が回る構造を持つ
ことを学習しましたよね。そして、原子核はさらに、
素粒子の組み合わせからできていることが判明します。
クオークやレプトンなどのことです。では、素粒子をさらに分割した
最小単位があるのか。これは現在の科学ではわかっていません。

素粒子からできている原子核
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超ひも理論では、素粒子は振動するひもとして説明されますが、
そのひもが万物の最終単位であると言っているわけではありません。
万物の最終的な単位があるのかどうか、
プランク長という限界があるので、なんとも言えないんです。

さてさて、では、素粒子はいったいどうやってできたんでしょう。
これは、特異点から始まったとされるビッグバン直後のごくごく短い時間に
できたと考えられます。そうすると、万物の根源である「アルケー」は、
物質ではなくビッグバンだったと考えたほうがいいのかもしれません。
では、今回はこのへんで。





ウィグナーの友人と神

2019.04.25 (Thu)
去年、オーストリアのウィーン大学に在籍するCaslav Brukner氏が、
複数の粒子の量子もつれ(エンタングルメント)を同時に利用することで、
「ウィグナーの友人実験」を研究室内で再現する方法を考案しました。
Proiettiと彼のチームは、これを実行に移すことに成功したのです。

彼らはもつれの発生した6つの光子を利用して2つの現実を作りました。
一つはウィグナーを表し、もう一つは友人です。「友人」側は光子の回転軸
(上向きか下向き)を観測して結果を記録し、「ウィグナー」側はその後、
観測結果と光子が重ね合わせになっているかどうかを観測します。

量子力学上、光子の回転軸は、観測されるまで上向きと下向きの状態が
重なり合っているとされます。普通に考えれば、「友人」が観測した段階で
回転軸はどちらかに収束し、「ウィグナー」から見ても「友人」と同じ結果が
得られるはずです。しかし結果はウィグナーの予想通りで、
二つの現実は一致しませんでした。
(GIZMOD)

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科学ニュースから、今回はこういうお題でいきます。ただこれねえ・・・
難しいというか、考えても無益かもしれない内容なんですよね。
なぜ無益なのかは、後のほうで少しふれたいと思いますが、
このニュースのような物理学的内容を「解釈問題」と言います。

さて、みなさんは「シュレディンガーの猫」の思考実験はご存知でしょう。
当ブログでも何度か取り上げていますが、もう一度簡単におさらいすると、
「蓋のある箱に猫を一匹入れる。また、箱の中にはラジウムがあり、
このラジウムは1時間に50%の確率でアルファ粒子を放出する。

アルファ粒子が放出された場合、ガイガーカウンターがそれを検知し、
青酸ガス発生装置のスイッチが入って、ガスを吸った猫は死ぬ。
量子力学的には、アルファ粒子の放出は確率的に記述される。つまり、
粒子が放出された状態と放出されない状態が重なり合っていることになる。
では、猫についても、死んだ猫と生きた猫が重なり合っているのか?」

だいたいこんな内容です。まず、「量子力学的な記述」について説明します。
昔は、原子核のまわりを回る電子は下の図の左のような形で表わされました。
これをラザフォードモデルと言います。しかし、量子力学が進展するにつれ、
電子が原子核のまわりのどこにあるのかは、
確率的にしか言えないという考え方が強くなってきたんですね。

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電子は原子核の周囲のどこにあるかはわからない。ただし、電子がある確率が
高い場所と低い場所がある。これは空に雲の濃い場所と薄い場所が
あるのと似ている。だったら電子の場所は確率の雲として図示しよう。
そうして考え出されたのが、図の右側です。で、この電子の雲は、
観測された瞬間に収縮して、ある一点に定まります。

「シュレディンガーの猫」の場合も、猫の生死を蓋を開けて観測するまでは、
死んだ猫と生きた猫が、重なった状態で存在している・・・
さすがにそうは思えませんよね。ですから、この思考実験には多くの
批判が出されました。その代表的なものとして、「ミクロの世界の現象を
マクロの世界に適用してはならない」とするものです。

この場合、ミクロの世界は「アルファ粒子の放出の有無」であり、
マクロの世界は「猫の生死」です。この論は一見正しいように思えます。
「トンネル効果」という現象があります。エネルギー的に、
通常は超えることのできない領域を、粒子が一定の確率で通り抜けてしまう
ことで、それがミクロの世界では起きるんです。

ですが、例えばみなさんが野球のボールを壁に向かって投げたとして、
ボールが壁を通り抜けることはありませんよね。ボールを投げるのは
マクロの世界であり、そこにはミクロの世界の法則は通用しない。
だから、「シュレディンガーの猫」でも、生きた猫と死んだ猫が
重なり合っているなんてことはありえない。

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まあ、たしかに常識的な解釈です。ですが、「ミクロの法則はマクロには
通用しない、マクロの世界では量子的な効果は消えてしまう」ということが、
本当に正しいかどうかは証明されていないんです。もしかしたら、
たいへんに低い確率ですが、ボールが壁を通り抜けることも
起こりえるのかもしれません。

さて、引用ニュースの話に戻って、「ウィグナーの友人実験」とは、
ノーベル物理学賞受賞者のユージン・ウィグナーが、「シュレディンガーの猫」
のバリエーションとして考え出した思考実験で、「観測」ということを
より重要視しています。だいたいこんな内容です。

ユージン・ウィグナー
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「アルファ粒子が放出されると、箱の中のランプがつく。
ウィグナーの友人はそれを観測すれば、粒子が放出されたかどうかがわかる。
友人はその結果を別室から部屋に入ってくるウィグナーに伝えるが、
そのとき、友人のいる部屋は、ウィグナーにとっては
シュレディンガーの猫の箱と同じ状態になっているのではないか?」

ウィグナーが部屋に入って友人に聞くまで、当然ながらランプがついたか
どうかはわからないわけです。とすれば、ウィグナーからみれば、
いまだにアルファ粒子は、放出された状態と放出されない状態が重なり合って
いることになります。でもまあ、友人が見た結果とウィグナーが見た結果が
同じなら、それほど問題はないだろうと思いますよね。

ところが、最近の実験で、矛盾するような結果が出てきました。
わかりやすくするために極端な話をすれば、「友人はランプがついているのを見た」
「ウィグナーが確認するとランプはついていなかった」これだと、客観的な現実は
存在せず、観測者によって世界は異なる、ということになってしまいます。

引用ニュースの実験のイメージ
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また、もし、友人とウィグナーがいる研究所に別の研究者が来て、
ランプがついてるかどうかを聞いたらどうなるでしょう。その研究者にとっては、
研究所の建物が、シュレディンガーの猫の箱になってしまいます。
さらに、研究所は塀に囲まれていて、その外からまた別の研究者が・・・(笑)
という具合に、無限に続く入れ子構造を想定することもできてしまうんです。

さて、ここまで読まれて、みなさんはどうお考えになられたでしょうか。
これについて、無限の観測の上に立つ、究極の観測者を想定する論があります。
つまり、その観測者だけは、死んだ猫と生きた猫の重ね合わせなどということに
左右されず、全ての出来事を無限の視点から観測して結果がわかっている。
もうおわかりでしょう。この観測者は、神ということになります。

さてさて、最初に書いた話に戻って、量子力学では、研究者に対して
「若いうちは解釈問題には立ち入るな」と言われることが多いんですね。
いくら解釈問題に深入りしても、ノーベル賞級の確たる成果は出ず、
学者として一番頭の働く時期をムダにしてしまうという意味です。
では、今回はこのへんで。





臓器をつくる3つの道

2019.04.16 (Tue)
イスラエル・テルアビブ大学のタル・ドビル教授らの研究チームが、
人間の細胞や生体物質を使った人工心臓を3Dプリンターで試作した。
同大が15日発表した。実用化に向けてなお開発が必要だが、
将来の心疾患治療への応用が期待される。

3Dプリンターで血管や心房、心室などが備わった人工心臓が
作られたのは「世界で初めて」(同大)という。
(JIJI,com)

今回は科学ニュースから、こういうお題でいきたいと思います。
さて、上記引用のニュースですが、バイオ3Dプリンターで、
血管や心房、心室などが備わった人工心臓がつくられたということです。
これはまだ試作の段階で、下の画像のように人間の心臓よりずっと小さく、
ウサギの心臓程度の大きさしかありません。

バイオ3Dプリンターでつくられた心臓
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なぜ心臓をつくったかというと、これは比較的つくりやすいからです。
哺乳類の心臓は大部分が心筋でできており、心筋は高分化のため、
細胞は生まれた直後からほとんど分裂せず、入れ替わらないんですね。
ですから、遺伝子変異が起きる可能性が少なく、きわめて癌になりにくい
性質を持っています。「心臓癌」という言葉を聞くことはないですよね。

一般的に、バイオ3Dプリンターで臓器をつくる場合、組織が均質で
あるほど簡単なんです。角膜や肝臓なども、つくりやすいと言われます。
また、引用記事の心臓は、本人の生体組織を材料にしているため、
拒絶反応が起こりにくいのがメリットとなっています。

バイオ3Dプリンター


では、この心臓、体内に移植して動くかというと、
動きません。一番の理由は、自律神経がつながらないからです。
実際に使えるようになるためには、乗り越えなくてはならない
技術的なハードルがたくさんあり、もし実用化できるとしても
10年以上かかるのではないかと思われます。

さて、この間、医療界で人工透析中止による患者死亡という
大きな出来事がありました。臓器不全のため、移植を待っている
患者はたいへんに多いんですが、日本の場合、
世界の先進国の中でも圧倒的にドナー数が少ないんです。

下の図を見てもらえばわかりますが、アメリカの30分の1程度
しかいません。これには文化的、社会的なさまざまな理由があります。
特に、子どもの脳死からの臓器移植はほとんど行われていない現状です。
ですから、募金をつのって外国で移植手術を受ける子どもの話題が、
少し前までは大きくマスコミに取り上げられていました。

クリックで拡大できます
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ですが、これには強い批判があります。もしアメリカに渡って
臓器移植を受けたとしたら、それは順番待ちをしている
アメリカの子どもの中に割り込むことになります。また、途上国で
臓器を金で買うようにして移植を受ける場合もあるんです。
本来、臓器移植はその国の中で行われるべきものです。

ですから、ドナーなしで移植するための臓器を開発することができれば、
移植を待つ患者にとっては、大きな福音となります。
移植用の臓器の作成は、各国で競うようにして研究が行われていますが、
はっきり言って、まだまだ時間がかかると思われます。

豚の体内で人間の臓器をつくる
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さて、自分は、移植用の臓器の作成には3つの道があるかなと
考えています。① 主にバイオ技術を用いて作成する
② バイオ技術と機械工学の連携によって作成する
③ 完全な人工臓器 です。引用のニュースはバイオプリンターの
機械を使っていますので、②ということになります。

①で、現在研究されているのは、キメラ動物を用いたものです。
キメラ動物とは、ゲノムが異なる細胞が混じりあった状態の個体の
ことで、 例えば人間とブタの場合、ヒト幹細胞を
ブタの受精卵に注入してつくられます。

これにより、人間とブタの遺伝子が入り混じった生物ができますが、
外見はまあブタです。で、このキメラブタの特定の臓器を遺伝子操作に
よって欠損させます。例えば、膵臓が欠損したキメラブタは生まれてすぐに
死んでしまいますが、その胚を取り出してさらにヒト幹細胞を注入し、
別のブタの体内で育てることで、人間の膵臓に近いものがつくり出されます。



ただ、この方法は倫理的な問題が大きいのはおわかりでしょう。
動物の胎内で人間の臓器をつくってもいいのか。また、
できた臓器にはどうしてもブタの細胞が入り込んでしまいます。
それを人間に移植してもいいのか。さらに、動物が持っている
よくわからない病原菌に感染する危険もあるんです。

バイオ3Dプリンターでつくられた耳
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②については、くわしくは触れませんが、上記したように、
バイオ3Dプリンターによって、多くの臓器が、その形だけはつくれるように
なりました。ですが、それが生きて動くためには、
解決しなくてはならない問題は多いんです。

③は、完全な機械で臓器の代用をすることで、人工透析機がそうですよね。
現在の人工透析機は大きな装置ですが、将来的には、
体内に埋め込むことができるまでに小型化される可能性はあります。
また、機械式の補助人工心臓はすでに実用化されていますし、
血液中の酸素と二酸化炭素を交換する人工肺もあります。

人工肺「テルモ」
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さてさて、ここまで読まれて、みなさんはどう考えられたでしょうか。
どの道も大変そうだと思いませんか。実用化までには、
長い長い時間がかかりそうな気がします。
で、自分としては、当面使えそうなのは③かなあと思います。

人体については、いくら研究を重ねても未知の部分が多すぎます。
①②で臓器をつくったとしても、予想もしなかった問題が
次々発生してくるんじゃないでしょうか。それに対し、③は純 機械工学
ですので、なんとかなりそうだなあと。でもそれだと、
人間はサイボーグになってしまいますね。では、今回はこのへんで。




ブラックホール観測!

2019.04.11 (Thu)
日本時間の2019年4月10日夜、国立天文台を含む世界16の国と
地域の研究機関が共同で記者会見を開き、ブラックホールの「穴」
の撮影に成功したことを発表しました。撮影されたのは、
おとめ座にある楕円銀河「M87」の中心にある巨大ブラックホールです。

(現代ビジネス)

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今回はこのお題でいきます。科学ニュースサイトを見ると、
どこもすべてこの話題でもちきりなので、当ブログでも取り上げないわけには
いきません。なるべく間違えないよう、わかりやすく書きたいと思います。
さて、まずこのブラックホールですが、どこにあるんでしょう?

これは、おとめ座にある楕円銀河、M(Messier)87の中心部分です。
(ウルトラマンの故郷はM78星雲、ちょっと違います)
地球からの距離は、約5500万光年と計算されています。
このブラックホールの質量は、太陽の約65億個分。さらに、
大きさは直径380億キロにわたり、時計回りに回転しているそうです。

Messier87
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じつは地球からもっと近いところにも、ブラックホールの候補(いて座A)
があるんですが、今回観測されたブラックホールはそれよりもはるかに重く、
また、周囲をとりまくガスの移動する状態が観測に向いていたんですね。
じゃあ、これまではどうして観測できなかったんでしょうか?

簡単に言うと、電波望遠鏡の力が足りなかったからです。今回の観測は、
国際協力ブロジェクト「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」
が行ったものです。米国のマサチューセッツ工科大学とハーバード大学を中心に、
ドイツやオランダなどの欧州、また日本や台湾などのアジア、
そしてメキシコやチリも参加する、たいへん国際的なプロジェクトです。

世界各地にある8つの電波望遠鏡を結合させて出力をあげたものを使用し、
ハッブル宇宙望遠鏡の2000倍の解像度があり、
あんまり意味ないですが、人間の視力に換算すると300万になります。
それで、撮影に成功することができたんですね。

世界各地の8つの電波望遠鏡
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次、この画像の中心の黒い穴がブラックホールなんでしょうか?
厳密にいうと違います。たんにこの画像だけを見ると、中央の穴の部分が
事象の地平線(ブラックホールの中から光をふくめ何も
脱出できなくなる面)だと思われるかもしれませんが、そうではなく、
これは「ブラックホールシャドウ」と呼ばれるものです。

ブラックホールはまったく光を出さない一方、重力で周囲のガスを集め、
そのガスが降着円盤として明るく輝きます。このような明るい円盤を背景に、
ブラックホールの光が出てこない部分が黒い影として見えるのが
ブラックホールシャドウなんですね。また、周囲のオレンジの光は、
ブラックホールに吸い込まれている超高温のプラズマガスが放つ電磁波です。

ブラックホールに近づいた電磁波は、ブラックホールに吸収されてしまいますが、
そのとき空間がゆがめられた結果、電磁波がブラックホールの周囲を
回り込むようにして縁どるため、リング状に見えるわけです。それが観測
されたということは、ブラックホールが実在する確定的な証拠になります。

さて、ここからはブラックホールについての一般的な解説です。
1915年、アインシュタインが一般相対性理論を発表しました。
そこでは、重力によって空間と時間がゆがめられる世界が、
宇宙方程式で記述されています。よく使われる例えとして、
3次元を2次元に落としたゴムマットが持ち出されます。

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ゴムマットを張った上に、重い鉄球をのせるとマットがたわみます。
それが空間のゆがみなんですが、もし大きさはそれほどでもないのに、
ものすごく重いものをのせたらどうなるでしょう。
マットに穴が空きますよね。その穴がブラックホールというわけです。
中心部分は温度・圧力無限大の特異点になっています。

特異点では、あらゆる物理法則が破綻し、数式が成り立たなくなります。
この問題を生涯をかけて追求したのが、故ホーキング博士です。
では、ブラックホールの概念を最初に提唱したのは誰かというと、
ドイツの天文学者・数学者で、幼時から神童と呼ばれた
カール・シュヴァルツシルトです。

カール・シュヴァルツシルト
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彼はアインシュタインの理論が発表されてすぐ、宇宙方程式を厳密に解き、
特異点の存在に言及しました。ですが、アインシュタインは、
それはあくまで数学的なもので、実際には存在しないと考えました。
シュヴァルツシルトがどう考えていたかはよくわかりません。というのは、
論文発表の4ヶ月後、第一次世界大戦の従軍中に病死してしまったからです。

これ、前にも少し書いたんですが、人間の想像力は数学に追いつかないんですね。
数学的に存在が示されても、人間の側で「そんなバカなことがあるはずがない!」
と切り捨ててしまったのが、後になって観測で証明されたというケースは、
この他にも、量子力学などでもいろいろあるんです。

関連記事 『数学には勝てない』

どうしても人間は常識に支配されてしまうんですが、じつはこの世界は、
人間の想像力を超えた形で成り立っているわけです。これなんか、
自分は素人ですが、物理学、天文学が面白いなあと思う部分です。
さて、ブラックホールでは空間と同時に時間もゆがみます。

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それについても書こうと思ったんですが、残念ながら余白がなくなってきて
しまいました。いつかまたふれる機会もあると思います。ブラックホール内では、
時間についてもたいへんに奇妙な現象が起き、最近提唱されている
ホログラフィック理論にまでつながっていく話なんです。

さてさて、ということで、ブラックホールの直接観測という画期的な成果に
ついて見てきたわけですが、これはノーベル賞候補になるんでしょうか。
観測は誰がやっても同じになる客観的な事実なので、なりやすいとは思いますが、
自分にはよくわからないですね。では、今回はこのへんで。