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ある駅の話

2019.11.20 (Wed)
鉄道関連会社職員 安田貞一さんの話
あ、どうも、〇〇駅で駅務係をしてる安田といいます。よろしく
お願いします。駅務係というのは駅員とは違って、電鉄の子会社の
社員なんです。まあ簡単に言えば、駅構内の清掃が仕事で、
僕は複数のホームを担当してます。ここの駅は中心部から外れてて、
通勤ラッシュ時でもそう混雑することはありません。
それ以外の時間は乗客もパラパラで、その分汚れることは少ないし、
のんびりしています。交代制で定時に帰れますし、
給料は多くありませんが、いい仕事についたなあと思ってたんです。
それが、ここ1ヶ月で3件、そこのホームで飛び込み自殺があったんです。
いや、ここで勤務してもう15年になるんですが、
それまでは1度も自殺に遭遇したことなんてなかったのに。

最初が女性、次が男性、そしてまた女性でした。
新聞とかに出たわけじゃないので詳しいことはわかりませんが、
みな若い人だったはずです。時刻は3人とも同じで、
夕方の4時半ころ、飛び込んだ場所も、4番線のホームと同じ。
乗客が増える少し前の時間帯です。え、その3人に関係があるかって?
いや、僕にはわかりません。もしかしたら警察のほうでは
調査したりしてるのかもしれませんけど。3件とも僕の勤務時間帯
だったんですが、はじめの2件は他のホームに出てて目撃してないんです。
じかに見てしまったのは、最後の女性のときだけです。
それが、なんとも異様な状況で・・・ はい、そのときのことを
これから話していきたいと思います。

◯◯駅から出てすぐの交差点脇に、ええとたしか5階建てのビルがあって、
1階がコンビニ、2~4階までが英会話スクールになってるんです。
ほら、ひところ「駅前留学」なんてCMが出てたでしょう。
でも、ああいうのって言語教師とかの資格を持ってないただの外人さんを
講師にしてたりするでしょ。そういう内情がわかってきたせいか、
あんまり生徒さんも多くないように思いました。
それとね、これは仕事仲間から聞いたんですが、その英会話スクールの
チェーン、なんとかっていう新興宗教団体が母体になってるってことで。
それは確かだと思います。僕もね、そのコンビニに行ったとき、
横の階段から白い・・・なんていうんですかね、ギリシア風のひらひらした
衣装をつけた外人の男女が降りてきたのを見てるんです。

考えてみれば怖い話ですよね。英語の勉強をするつもりだったのが、
いつの間にか信者に取り込まれてたりとか。あ、それで、
なんでこの話をしたかっていうと、僕が目撃した飛び込み自殺と関係が
あるんじゃないかって思うんです。そのときは・・・ホームのゴミ箱の
ゴミを回収してました。そしたら4番線のホームの終りに近いとこの
ベンチに、すごく大柄な男性が座ってたんです。ライオンのような金髪で、
ひと目で外国人ってわかりました。服は茶色いスーツで白い杖を携えてました。
で、その前に若い女の人がいたんです。25歳くらいですかねえ。
水商売風の服装をしてたので、これから夜の街に出勤するとこだったん
じゃないかと思います。その2人、知り合いとかじゃないと思いますよ。
話とかしないし、顔も合わせなかったですから。

ベンチに座った外国人の前に、その女性が3mくらい離れて立ってて、
快速が入ってくるアナウンスがありました。そしたら、外国人は
座ったままで杖を槍みたいに前に構えたんです。ちょうど女の人の
背中に向くようにして。で、その杖をちょんちょんと動かしたら、
女の人の体がガクッと腰を折ったんです。立ったまま深いおじぎをしたみたく。
「えっ?」と思いましたよ。外国人が杖を少し動かすと女の人の体が
ガクガク揺れ、もう電車がそこまで来たとき、ズーンと杖を押し込むようにして。
そしたら、立ってた女の人がトットッという感じでホームの先に
走り出ていって線路にふわっと・・・飛び込んじゃったんです。あの、
杖で押したとかじゃないんですよ。さっき言ったように3mは離れてたのが、
超能力みたいに女の人が飛び込んじゃって・・・

犯罪なんでしょうか、よくわかりませんでした。直接手をふれたわけじゃないし。      
乗客は他に10人はいましたけど、ホームの階段に近いほうで、
見てたのは僕だけだと思います。電車はかなり先までいって停止し、
ああ、助からないだろうなって思いました。それでね、外国人がゆっくり
立ち上がって僕のほうを向いたんですが、その目が両方とも真っ白だったんです。
はい、盲人で、そのための杖だったんです。立ち上がった外国人は背が高く、
僕の頭が肩ぐらいでした。外国人は杖を突きながら僕のほうに近づいてきて
にやっと笑い、何かされるんじゃないかと思いましたが、
そのまますれ違っていったんです。それで、鉄道警察とかから目撃証言を
求められたときに、このことは話しました。けど、どこまで
信じてもらえたかはわかりません。まあ、こんな話なんです。

△△電鉄 保線技術員 三沢光輝さんの話
さっそく話していきます。今、出ていた安田さんと同じ◯◯駅に勤務してます。
保線技術員をしてて、ようするに線路の点検をし、定期的に
部品を交換したりする仕事なんですが、線路上にある異物も処理しなくちゃ
いけないんです。はい、自殺者の遺体なんかも。安田さんがおっしゃってたように、
その◯◯駅では、それまで自殺はなかったんですが、僕が前にいた路線区では
けっこう頻繁に自殺がありました。自殺者の遺体は、線路に飛び込んだときの
状況や角度、あと電車のスピードとかの関係で、いろんなケースがあります。
まず、電車のフロントガラスにあたって中に飛び込んじゃう場合。
これ、JRでも話題になったけど、助かることがあるんですよ。
僕もね、窓にささったままの人と会話したことがあります。それから、
大きく跳ね飛ばされて体全体が遠くに落ちる場合。

それだと生きてられませんが、遺体の損傷はそこまで大きくはありません。
ひどいのが、線路に落ちてから電車が来て轢かれる場合で、
それでもね、車体の下にもぐり込むと、まあいくつかに分断はされますが、
顔が判別できて身元確認につながることもあります。
一番むごいのは、遺体が車輪に巻き込まれてしまったときですね。
まさに細切れのバラ肉状態で、よく言われるように焼肉の臭いがします。
それをすべて拾い集めなくちゃなりませんから、これは嫌ですよ。
最初に処理したときは吐きそうになりました。あとね、電車の車両下の
各部にも遺体の一部がこびりつくんですが、その回収は僕らじゃなく、
車両整備部がやります。ああ、すみませんね、気持ちの悪い話をしてしまって。
ここのみなさんはそういうことに慣れてると聞いたもので。

それで、3人の自殺者のうち、最初の女性、2番めの男性は跳ね飛ばされた
形でしたので、遺体はほぼ回収できたんです。ところが、3人目の女性は
電車の下部に体がもぐり込んでしまって。幸い、車輪には巻き込まれず、
下半身と右腕は見つかりました。ですが、頭から肩にかけてと左腕が
出てこない。肉片とかも落ちてなかったんです。このことは
車両整備部にも伝えたため、向こうでも念入りに調べたはずですが、
どこかにはさまってたというわけでもない。不思議ですよね。
それで、自殺から3日後の早朝、始発の前に保線作業してました。
〇〇駅を出て200mほどいったとこですかねえ。
線路上に何か異物があったんです。30cmよりちょっと大きいくらいの
赤黒いもの。自力で動いてるように見えたんで、生き物かと思いました。

これもね、よくあるんです。線路に犬や狸なんかが入り込んではねられるのが。
傷を負った猫かなにかだろうかと思って近づいてくと、
まだ薄暗いのではっきりしなかったですけど、上向きに人の顔のようなのが
ついてたんです。「うわ!」と思いながら懐中電灯を向けました。
・・・なんと言ったらいいんですかねえ。大きな太い腸詰めに顔、それと
人間の腕を一本つけたのが、ゆっくりと這ってたんです。ありえない、
と思い、体が動かなくなりました。それは、光を感じたせいなのか動きを速め、
線路脇の鉄柵に近づいて・・・するとそこに、すごく大きな人が立ってたんです。
さっき安田さんが話した外国人じゃないかと思います。外国人はそれを
拾い上げると、鉄柵の向こうにいた白いトーガを着た人たちに、柵ごしに手渡し、
自分は鉄柵を乗り越えて、停まってた車でどこかに去ってったんです。

zairai mihari





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つながる話

2019.11.17 (Sun)
あ、どうも山根ともうします。仕事は公務員で、郷土史館に勤めてます。
独身で家族はいません。僕も30歳を過ぎて、実家の両親からは
早く結婚しろってせっつかれてるんですけど、なんか一人のほうが
気楽なんですよね。仕事のほうは定時で終わるので、
好きな趣味のことをやってブログに書いてます。
はい、趣味は鉄道写真です。いわゆる撮り鉄ってやつ。
この趣味の人、けっこう多いんですよ。休日のたびに目的の
路線や電車を決めて、現地に行って写真を撮ってくる。
で、それをブログに載せる。まあね、中には、そんなことのどこが
面白いんだって思われる人もいるでしょうけど、
趣味ってそういうもんじゃないですか。

ブログを始めた動機も、もちろん撮った写真を誰かに見てもらいたい
ってことが主だったけど、それ以外にも同じ趣味の仲間と
交流したいってのもあったんです。ええ、鉄道写真の仲間は
何人かできましたし、オフ会と称してバーベキューの会なんかも
やりました。あ、すみません、よけいな話が長くなって。
この10日ほど、なんかおかしなことが起きてるんです。それで、
ここのみなさんに、どういうことなのか訳を教えていただきたくて。
うーん、パソコンを変えたのが原因じゃないかと思うんです。
今はタブレッド端末を使ってる人も多いけど、僕は仕事で慣れてるので
ノートパソコンのほうが使い勝手がいいんです。
今はね、中古のオーバーホール済みのが専門店で安く買えるんです。

2万円くらいで、けっこうスペックの高いやつが。その金額だったら、
まあ1年使って壊れたとしてももとが取れると思うんですよね。
それで、ちょうど1ヶ月前にパソコンを中古から新しい中古に変えたんです。
台湾製のやつです。でね、撮りためてた写真を選んで、
自分のブログにアップしました。それで、僕が加入してるブログの
サービスには訪問者履歴がわかる機能がついてるんです。
はい、その日、誰が訪問してくれたかが、コメントがなくても
わかるんです。まあ、これは自分のサイトを持ってられる方だけで、
いつも来てくださるのは常連の人たちなんですが・・・
その日の一番最初、夜中の2時ころに、それまで見たことのない
訪問者さんがあったんです。そのブログタイトルは、

「クリスタルの部屋の秘密」で、エリカさんという人が管理人でした。
気になったのでリンクをクリックしてそのブログを見てみたんです。
どうやらシングルマザーの人みたいでした。離婚して、
やや発達障害のある男の子を働きながら育てている。
ピンクのテンプレートに、パステルカラーが多用されてて、
ご自分や子どもの写真もたくさん載ってる。僕が書いてるブログとは
まったく関係ない内容なんですが、まあ、そういう人が訪問されることも
なくはないです。こちらがお礼の訪問返しをするので、アクセス数が
増えますから。でも、そのブログ、最後の更新が2年前だったんです。
・・・それも、すごい気になる終わり方をしてて。はい、最後の記事が、
病院の検査で脳腫瘍が見つかって入院することになったが、

わたしは負けない、みたいな内容で。その前の記事もいくつか読んで
みたんですが、頭が痛い、割れるようだって書かれてて。
まあでも、他のブログを訪問してるんだから、更新がなくても
ご健在なんだろう、そのときはそう考えていたんです。
で、翌日です。またそのブロガーさんが訪問されてて、見ると、
昨夜づけで新しい記事が書かれてたんですが、その内容が、
1ページずっと「・・・・」これだけで埋めつくされてたんです。
正直、気味悪いなと思いました。それでもページにある「いいね」を
ぽちっと押しました。さらに次の日、やはりエリカさんは訪問されてて、
また「・・・・」だけの記事。何か嫌がらせのようなことだろうかと
思ったりもしたんですが、心あたりはないし。

それと、もう一人、初めての訪問者があったんです。ブログタイトルは
「肝臓がんには負けない」で、いわゆる闘病ブログってやつです。
ただ、その人のブログも2年前、「これが最後の入院かもしれません」
という記事を最後に、更新がされてなくて。このときにちょっと
怖くなったんです。もしかしてこれ、亡くなった方が来てるんじゃないかって
思って。でも、そんなバカなことがあるはずはない・・・
その夜も自分のブログを書こうと思ってたんですけど、
パソコンに向かったら頭が割れるように痛くて。
エリカさんのブログの脳腫瘍って言葉がよみがえってきて、
市販薬を飲んですぐに寝ました。幸い、朝になったら治ってたんですが。
それから、毎日のように新しい訪問者さんが増えて、

本来ならね、自分のブログの読者が増えてうれしいことなんですが、
鉄道写真とは何の関係もないものばかりで、どのブログも、ずっと以前に
更新されなくなった、もしかしたら管理人さんが亡くなってるんじゃないか
と思われるものばかり。エリカさんのブログはまた更新されてて、
「・・・・」ではなく意味不明の文字の羅列。「くだ まだ まだ まだ
くだ まだ くだ まだ くだ まだ まだ」こういうのが何ページにもわたって
続いてたんです。また頭が痛くなって、それだけじゃなく腹も。
汚い話ですが、すごい下痢になっちゃったんです。それは翌朝も
続いてて、仕事を休んで大きな病院に行くハメになってしまいました。
その日は血液と尿だけでしたが、結果は、白血球数がかなり増えている、
精密検査が必要ということでした。それで予約していただいて。

病院は2時過ぎに終わり、部屋に戻っても体調がわるくて何も
する気が起きない。怖かったんですが、ブログを見てみると新規の訪問者が
70名ほど、全部は見てないですけど、どこも更新されたページは
「くだ まだ まだ まだ」ばっかりで。おかしいですよね。
ジャンルも管理人の性別も年齢もすべて違う多種多様のブログが、
全部同じ内容を書いて僕のところにアクセスしてくる。
・・・常識的に考えれば、誰か一人の人物が何らかの悪意を持って
僕に嫌がらせをしてるってことでしょうけど、それにしても、
そんな手の込んだことをされる覚えはまったくないんです。
僕はどっちかといえば人づき合いの悪い人間で、その分、
人に恨まれるようなことは心あたりがありません。

体調はますます悪くなって、次の日も仕事は休んでしまいました。
もうパソコンを見るのはやめよう、と思うものの、やはり気になる。
もしかしたらネット依存症というのになってるのかもしれません。
新しい訪問者はもう数え切れないくらい、数百になってました。
それで、いくつか見たブログのすべてが、文字の羅列はなくなってて、
同じと思える真っ黒な画像がアップされてたんです。
はい、大きさもほぼ同じ横長の画像で、暗い中に何かがあるんだけど、
はっきり見えない。それで僕、鉄道写真を加工するために
画像ソフト持ってるんです。画像を保存して画像ソフトに取り込み、
光度をあげてみました。何が写ってたと思いますか・・・
荒涼とした岩場なんです。石がたくさん散らばっただだっ広い場所。

その石を人の背丈よりも高く積み上げた塔がいくつもあって、
その下を小川が何筋も走ってる。僕ね、前に下北半島の恐山に行ったことが
あるんです。はい、霊場です。それとよく似た風景。で、僕、
自分でもわからないまま、自分のブログに「これが最後の記事です。
みなさん大変お世話になりました。もうお会いすることはないでしょう。
さようなら」こう書いてから、部屋を出てもよりの駅に向かったんです。はい、
ホームから飛び込めば楽に死ねるんじゃないかと思って。足早に急いでる途中、
後ろから強く肩をつかまれました。袈裟を着た大柄なお坊さんでした。
「あんた、大変なことになってる」そう言われ、その場で短いお経を唱えられ
我に返りました。そのお坊さんに言われたとおり、パソコンは水を張った
バケツに沈め、こちらのことを伺って、ご相談に来たんです。







呪いの話

2019.11.13 (Wed)
今回はこれに関するお話です。最初に余談を述べますと、
「呪(のろ)い」と「呪(まじな)い」って同じ書き方なんですよね。
でも、ニュアンスは違うと思うので、自分は「まじない」のほうは
平仮名で書くことにしています。さて、みなさんは呪いってあると
思いますか。まさか、実行されたりはしてないですよね。
先日、このブログにちょくちょく登場いただく霊能者のKさんに
お話をうかがう機会がありました。Kさんの本業は不動産や飲食店の
経営で、年収数億です。そのためというわけでもないんでしょうが、
謝礼などは一切うけ取らず、霊に関係する事件の解決に
全国を飛び回ってるんです。この話は、大阪市内のホテルにある
いつものバーでお聞きしました。

「あ、ご無沙汰してます。最近、事件とかありましたか」 
「うん、一昨日まで山形にいて、ミイラ復活に関するものに首を
 つっ込んでた」 「うわあ、山形でミイラというと、即身仏関係ですか」
「そうだ」 「うーん、それもお聞きしたいですが、今夜は呪いについて、
 考えを聞かせていただきたいんです」 「呪いねえ、まさかお前、
 誰かを呪うつもりか」 「いやまさか、滅相もないです。
 そうじゃなく、一般論として」 「ある、と答えてほしいんだろ」
「・・・まあ、お話はブログに書かせていただくんで、あるほうが
 面白いとは思います」 「呪いの話は、世界各地に古くからある。
 日本だと、奈良時代の養老律令に人を呪うことの禁が出ているな」
「知ってます」 「中国だと3000年も前から呪いはあるし、

 それで戦争まで起きている」 「ああ、前漢の巫蠱の乱のことですね」
「ああ、それだけじゃなく、古代のヨーロッパ、アメリカ先住民、
 アフリカ大陸、太平洋の島々・・・ どこに行ってもあるし、
 方法も定まっていて、世界中でよく似ているな」 「たしかに」
「で、呪いには一つ重要な法則があるんだよ」 「え、何ですか?
 人形を使うとか?」 「いやいや、そういうことじゃなく、
 呪いというのは、弱い者から強い者に対して行われる」
「ああ、なるほど」 「強い者は武力や権力を使って弱い者を踏み潰せばいい。
 それに対抗するための唯一の手段が呪いなのさ」 「うーん、そういう
 観点から考えたことはありませんでした。勉強になります」
「あと、呪いと祟りの違いはわかるか」 「そうですね、呪いは普通、

 生きた人間が行いますよね。それに対して祟りは、死んだ人間の怨念の
 場合が多いとか。怪談でよく、殺された人物が死に際に、末代まで祟ってやる
 なんて言いますよね」 「正解」 「ところでKさん、呪いを行ったとして、
 現代の法律ではそれを裁くことはできませんよね」
「昔は日本でも中国でも、呪いを実行した者は即座に死罪だった。
 たしかに今は、一般的に呪いでは罪にならないと言われてるが、
 秋田県で、呪いを行った者が逮捕された事例がある」
「え、それは」 「ある女性が自分をふった男性に対して丑の刻参りを
 行ったんだが、体調を崩して自分が倒れた。それは暗示効果や寝不足に
 よるものだろうが、警察はその女性を逮捕したんだよ」
「でも、呪いは不能犯ですよね」 「相手の男性が、噂と本人からの話で

 自分が丑の刻参りのターゲットになってることを知ってたんだ。
 だから、警察は脅迫罪にあたると判断したんだな」 「うーん、裁判の結果は?」
「無罪・・・だけど、その女性は職場や地域に居づらくなっただろうし、
 結局、その地を離れざるをえなかった」 「なんか気の毒な話ですね。
 ところでKさん、呪いが中心となる事件に関わったことあるんでしょ。
 ぜひ話を聞かせてもらえませんか」 「・・・あまり後味がよくないぞ」
「望むところです」 「お前、バブル期の1980年代の終りは何歳だった?」   
「小学校の高学年くらいですかね。うちは両親とも公務員だったんで、
 バブルの恩恵はあんまりなかったみたいですが」
「当時はな、右を向いても金、左を見ても金、金、金、金、金、世の中に
 金があふれてた」 「土地が金を産んだんですよね」 「まあそうだ。
 
 土地を買ってゴルフ場をつくる、レジャーランドをつくる。ただ転がして
 おくだけでも倍々ゲームになった」 「Kさんもだいぶ儲けたんでしょう」
「俺は地上げとかしちゃいないぞ」 「地上げといえば、悪い噂を聞きますよね。
 立ち退きをしなかった家族がこつ然と行方知れずになったとか」
「それに類する話だが、地上げじゃなく会社買収に関するものだった。
 ある親族会社の会長の祖父、社長の父親、母親、高校生と中学生の子どもの
 一家計5人が、ある夜を境にして消えた。もちろん警察の捜査はあったが、
 一軒家の中は荒らされておらず、血痕なども見つからない。
 結局、今にいたるまで手がかり一つなしさ」 「全員が拉致された?」
「まあな。で、その社長の弟が俺のちょっとした知り合いで、
 当時シンガポールに住んでた」 「で」 「俺のとこに来てな、

 真相を調査してくれって言われたが、俺は危ぶんでた。血の気が多やつで、
 事情がわかったら、たぶん復讐に出るだろうって」 「どうしたんですか」
「まあ、調査はしたよ。その結果、ある筋者の組が経営してる金融会社が
 関わってることがわかった。だが、そいつらは末端でな、
 上にはゼネコンの幹部、地方政治家までいたんだ」 「で」
「その家族は、船でロシアに密出国したことも判明したよ、おそらくは死体で。
「それを教えたんですか」 「・・・そいつを呼んでな、
 金融会社のとこまで話をした。で、予想どおり いきりたったんで、
 復讐するつもりなら一人までは協力する、って言ったんだよ」
「え? Kさんがそんなことを」 「当時は俺も若かったし、そのやり方には
 腹にすえかねるものもあった」 「復讐はどうやって」

「合法的なことだよ。ここからは詳しいことは話せないが、ある山奥に神社がある。
 つくられたのは6世紀ころだ。日本で知ってる人間は100人もいないだろう。
 闇の神社なんだ。神職はいないが、管理者は江戸末まで皇族だ」 「で」
「そこに連れてって、俺から事情を話して頼み込んだ。1ヶ月ほどして
 呪詛を行う許可が出たんだよ」 「どうやって」 「言えない。ただな、
 呪いは、呪うほうもただでは済まないのは知ってるよな」 「はい」
「その弟は左手を肩から失った」 「・・・相手は?」
「金融会社の会長にして組長」 「どうなったんですか」 「その会長
 60歳を過ぎても愛人が何人もいて健康そのものだったが、
 ある日ゴルフに出かけ、2番ホールでドライバーをふった途端に
 腹が裂けた」 「ええ!?」 「芝の上に内臓をデラデラとまき散らして即死だ」

「まさか」 「いや、本当のことだ。死因は病死。目撃者も大勢いて、
 その前までピンシャンしてたことはわかってる。警察の監察医も
 困惑しただろうが、急な動きによって腹直筋から腹膜が裂けた、
 刃物の傷ではないし、そういう結論を出すしかなかったんだ」
「・・・まだ、続きがあるんですよね」 「ああ、俺が関わったのはそこまでだが、
 その弟、半年ほどたって、兄一家が消されたのは政治家の指示だったって
 知ったんだな。また俺のとこに来たが、もう協力は力はできないと言った」
「で」 「直接あの神社に行ったらしいが、場所が見つからなかった。
 結界で隠されてるから」 「うーん、で」 「弟は片腕を失ってるし、
 政治家にはボディガードもいて、直接的な襲撃は不可能に近い」
「それで」 「俺が悪かったんだが、その弟、この世に呪いってものが

 マジであることを知ってしまったからな。東南アジアに戻り、金にあかせて
 呪いの情報を収集した」 「見つかったんですか?」 「執念だな。
 ジャワ島で、力のあるまじない師に出会ったらしい」 「で」
「噂では億の金を払ったそうだよ」 「どうなったんです」
「その政治家の地盤の地方で地震が起きた。直下型だが震度3程度で、
 死傷者はなかったんだ、その政治家本人をのぞいて」
「一人だけ死んだと」 「そう、それも自宅の中でだ。どういう死の
 様子だったかは伝わってないが、葬儀のときに棺は閉じられていたそうだ」
「でも、呪いで地震を起こせるなんて信じがたいです」 「まあな」
「で、その弟のほうは」 「願いがかなったのに沈んだ様子でな、
 それから2ヶ月で消息が途絶えた。今もってどうなったかはわからん」



 


猫ドアの話

2019.11.10 (Sun)
今晩は。橋本ともうします。主婦をしております。どうぞよろしく
お願いします。現在、自宅に主人と2人暮らしです。
主人は銀行員でしたが、退職して2年になります。
子どもは男女一人ずつ。どちらも就職して家庭を持ってます。
娘のほうは比較的近くに住んでますが、息子は他県に出ておりまして、
なかなか会えないんです。それでも、お盆や正月は孫を連れて
里帰りしてくれます。はい、孫は4人です。主人はずっと仕事一筋の
生活で、趣味は特別なかったんです。ですから退職後は、いっとき
気が抜けたようにぼーっとした状態でしたが、それだと早く
ぼけがくるということで、現在は地域のハイキングの会に入って、
ときおり近くの山に出かけたりしています。

それには、私もおともすることもありまして、お金の心配もなく、
特別に不自由のない老後ではあったんですが・・・
といっても、やはり一軒家に2人暮らしですから、寂しさを感じる
こともあります。それで、私のほうから猫を飼わないかって主人に
持ちかけました。インターネットで猫ブログなどを拝見し、
ああ、いいなあと思ってたんです。主人はもともと動物嫌いではなく、
猫はペット店で入手することも考えたんですが、
私としては、猫の品種には特別こだわりはなかったんです。
そうちに主人が、山の会のお仲間から猫の里親さがしの会の方を
紹介されまして、うちで申し込んだんです。審査などもありましたが、
特に問題もなく、1匹の猫が来ることになったんです。

和猫の雑種で男の子でした。生後3ヶ月で、ワクチンの接種などは
済んでました。白地に黒い斑のある毛の短い猫で、それは可愛かった
んですよ。名前は、主人はタマがいいんじゃないかと言ったんですが、
私が好きな西洋の小説の主人公の名前をとって、ミゲルにしました。
ミゲルは頭のいい子で、トイレのしつけなどもすぐに覚え、
粗相をすることはほとんどなかったんです。私にも主人にもなついて、
どちらの膝にも上がってきました。そうして2年が過ぎまして、
ミゲルの様子に変化があったんです。落ち着きがなくなり、
日中ずっと寝ていて、そのかわり夜は起きてて家の中をうろうろ歩き回る。
かかりつけのペット医の先生に相談したら、大人になってきたためで、
去勢するように勧められました。お願いするつもりだったんですが、

検査したところ、腎臓の数値がよくないことがわかったんです。
はい、麻酔に耐えられないかもしれないって。それで手術は
やめたんですが、ミゲルのストレスを解消するため、外に出して
みることになりました。ずっと家猫だったんですけど、サッシからいつも
外を眺めていて興味津々の様子でしたから。少しずつ外に慣らすと、
戸を開けてくれと頻繁に催促するようになり、これでは大変だと思って、
猫ドアを設置したんです。はい、サッシにはめ込む形のもので、
工事は必要ありませんでした。磁石がついてて すきま風は入らず、
それだけじゃなく、センサーもついててミゲル以外の猫は通れないんです。
ですから、ノラ猫が侵入してくるのを防げます。
ミゲルの首輪につけた小さなキーで判別するんですね。

最初のうちは、ミゲルが外に出ていって帰ってこないんじゃないかって
心配でしたが、食事の時間を覚えてて、必ず戻ってきました。
その点はよかったんですが・・・外からちよくちょく、狩りの獲物を
くわえて戻ってくるんです。体の小さい猫ですので、ネズミのような
大きなものはなかったですが、セミ、コガネムシ、トカゲ、
一度などは頭だけになった小鳥もありました。さも得意げな顔で、
私の前まで持ってきて落とすんです。気持ち悪かったですが、
叱るわけにもいかず、主人に頼んで捨ててもらってました。
それで、3日前の朝です。ミゲルがかなりのケガを負って帰ってきたんです。
背中の毛がむしられ、大きな裂傷がありました。家の外に
点々と血が落ちてたんです。すぐにバスケットに入れ、

ペット病院に連れていきました。診断の結果、血はかなり出ているものの
傷自体はそう大きくはなく、10針程度縫うだけで済んだんです。
私も主人もほっとしました。家に連れて帰ると具合が悪そうにしてたん
ですが、傷のせいだと考えてました。ためしにペットフードを出してみると、
食べようとしたので、ああ、大丈夫だなと思ったら、急にえづいて、
唾液とともに何かを吐き出したんです。そうですね、太さ2cm、
長さ3cmほどの黄色い三角形のものです。吐き終わると、
ミゲルはけろっとしたようにフードを食べ始めました。
主人がそれを拾い、しげしげと見て、「何だろうなこれは。動物の
 角みたいだ」って言ったんです。たしかに年輪のような細い線が
たくさん入っていて、角といえばそうも見えました。

「気味が悪いから捨てて」と頼んだんですが、主人は、「いや、植物とか
 じゃないし、やはり動物の角だと思うけど、こんな小さいのがついてる
 生き物なんていないよなあ。今度ペット病院に行ったとき、
 先生に見てもらおう」そんなことを言いまして、わざわざ洗って、
居間のテレビ台の上にあげておいたんです。その日の夜です。
ミゲルは私たち夫婦の寝室に寝てるんですが、シャーッ、シャーッという
声で目が覚めました。ふだんはまず鳴くことのない子なんです。
見ると、包帯を巻いた体で寝室の扉の猫ドアから出ようとしてたので、
止めなければと起き上がりました。ミゲルはトットッと、ケガをしてる
とは思えない動きでキッチンを通って玄関に向かったので、
「ミゲル、待ちなさい!」と声をかけ、廊下の明かりをつけました。

すると、玄関の猫ドアに何かがいたんです。・・・先ほど話しましたように、
猫ドアはセンサーでミゲルしか入れないはずなのに、
太い柔らかそうなものが、つっかえるようにはまりこんでいたんです。
うまく表現できないんですが、猫の胴体よりもやや太いくらいの毛虫。
色は濃い赤です。「何これ?」と思うと、足がすくんで動かなくなりました。
それはずるずると猫ドアを通り、1mほどの体が玄関に入ってきました。
頭らしき部分には、目も口も見あたらないんですが、上のほうに
片方だけの黄色い角が見えたんです。ミゲルが吐いたのと同じものに
思えました。しのび寄っていたミゲルがそれに飛びかかり、前足が触れた
と見るまに、それはバッと赤黒い煙に変わって散ったんです。
「え、え、生き物じゃない?!」煙はひとかたまりのまま、

大人の頭くらいの高さを漂い、ミゲルが飛び上がっても届きませんでした。   
煙は壁に沿って動き、寝室のほうに向かい、それをまずミゲル、
その後を私が追いかけました。それは開け放していた寝室の戸から
中に入り、寝ている主人の顔の上にわだかまりました。
ミゲルがだだっとベッドに駆け上がったとき、その煙は一瞬で、
主人の鼻と口にしゅっと吸い込まれてしまったんです。いえ、自分から
入ってったと言ったほうがいいのかもしれません。主人は半身を起こし、
大きくむせて何度も咳をしました。そこへミゲルが飛び乗り、
主人は咳き込んだまま、ミゲルを大きく突き飛ばしたんです。
ミゲルは壁にあたり、でも、さしてダメージもなく床に降り立って、
うなりながら主人のほうをにらみました。私はもう、

どうしていいかわからず、ただおろおろしているだけでした。主人は
ゆっくりベッドから降り、そのとき固く目をつぶっているのがわかりました。
そのまま歩いて居間に向かい、途中で、まとわりついてくるミゲルを
足で蹴りました。それで、何をしたかわかりますか。あのテレビ台に
取っておいた角を手でつかむと、自分の口の中に放り込んだんです。
ミゲルはじりじり後退りし、傷ついた体のまま玄関の猫ドアから
外に出ていってしまいました。主人は・・・急に力が抜けたようにくたくたと
その場に座り込みましたが、目を開けて、「あれ、俺、何してるんだ?」
そう言ったんです。はい、正気に戻ったんですが、あの不気味なものは
主人の体に入ったままです。あれからミゲルは戻ってこないし、主人にあの夜の
話をしても信じてくれず、困ってしまって、ここにご相談にうかがったんです。






塀を高くする話

2019.11.04 (Mon)
今晩は。わたくし、三輪と申しまして、地図作成の会社に勤務しております。
ずっと測量部に所属して転勤族だったんです。ですが、上の子が
今度高校に上がることになり、さすがにそろそろどこかに
居を定めたほうがいいだろうと考え、開発部に移動させてもらいました。
地図閲覧ソフトのデータベースの開発です。今はほら、カーナビだけじゃなく、
スマホ等でも見られるデジタルの地図ソフトの需要って多いんです。
そっちに変われば、定年までとはいかないにしても、かなりの長期間、
移動なしで生活することができます。で、開発所勤務になったんですが、
これが地方都市だったんです。ええ、今は一流企業でも、研究所などを
地方においているところが多いんですね。データはどこからでも
一瞬で送れますし、テレビ会議に出ることもできます。

ですから、土地代の安い地方都市のほうがいい。
引っ越した先は、人口40万人ほどの某市です。
場所は勘弁してください。ひじょうにさし障りのある話なんです。
その県の県庁所在地の次に大きい市で、人口は20万人台、
昔は30万人を超えてたときもあったんですが、過疎化が進んで。
転居にあたって、まず不動産屋に行って中古住宅をあたりました。
そしたら、過疎地ですからもともと安いんですが、その中でも、
かなりの出物があったんです。1千万かからずに土地と一軒家が手に入る。
もちろん、それなりに改築の手を入れなくちゃなりませんけど。
その家は、築30年ほど。前の住人は老夫婦で、いよいよ体が利かなくなって
息子一家のところに住むことになり、売って出ていった。

つまり、よく言われる事故物件などではないってことです。
その家では、誰も亡くなった人はいない。2階家で、総部屋数は5つ。
うちは4人家族、わたしたち夫婦と、中3の兄、小4の弟。
広さ的には十分です。あと、家を買うにあたっては、会社から退職金を
前借りしたんで、ほぼ借金なしでした。改築は、
そもそも老後用に建てた家ですから、不便な部分がいろいろありました。
まずオール電化にしてもらって、内装も今風に変えたんです。
10年ちかくも人が住んでなかったにしては、中はきれいでしたよ。
あと、家の周囲は生垣に囲まれてたんですが、のび放題で不格好だったんで、
すべてとっぱらって、モルタルの塀に変えることにしたんです。
工事は、近くの地元の工務店にお願いしました。

そのときにね、変なことを言われたんです。家の裏手の塀、そこだけ
高くしませんかって。でも、そんなことをする意味がないですよね。
理由を聞くと、そちら方面からの風が強いという話でしたが、
わたしは納得できませんでした。方角としては南東にあたり、
強い風が吹くとは思えなかったんです。ほら、わたしはこれでも地図の
プロですから、地形を読むのは得意です。そう言ったら、
近所を案内されまして。家の裏側に回ると、両隣、それと道をはさんだ
後ろの家々も、その方角だけ塀が1mほど高くなってたんです。
うーん、と考えざるをえませんでした。やはり風があるのか。
にしても、特定の季節だけだろうし、アンバランスになるので、
そのときは断ったんです。それが、まさかあんなことになるとは。

あとね、工事の最中、ときたま見て回ってたんですが、家の裏の
塀をつくるときに、面した道路の側溝のコンクリ蓋を全部あげたんです。
どうしてそんなことをするのかと思ったら、工務店の人は
みな手ぬぐいで顔を覆って、黙々とドブさらいを始めて・・・
そしたらですね、いくつもいくつも白い骨があがってきたんですよ。
「何ですか、それ?」思わず聞くと、「犬猫のものです」こう言われ、
それ以上の言葉はなかったんです。でも、不思議ですよねえ。
あの重いコンクリ蓋だし、動物が入れるすき間があるとも思えない。
側溝には藻もほとんどなく、水は飲めるかと思えるくらい澄んでました。
まあこうして、新しい生活が始まったんですが、下の息子が妙なことを
言い出しまして。弟の部屋は2階で、兄のと並んでるんですが、

その部屋の窓は南東向きなんです。ええ、家の裏手が見える。
「夜に勉強してて窓を見ると、裏の森の上に青い火が上がってる」って。
家の裏は2列ほどの家並みがあって、その後がちょっとした森になってます。
青い火というのは信じられなかったけど、ある日曜日に、
ぶらっとそっちに散歩に出てみたんです。それが異様で・・・
まず、木のほとんどは松でしたけど、その下にヒイラギがたくさん生えてて。
でも、自然のヒイラギって珍しいですよね。人の手で植えないかぎり
まず平地に自生はしません。やっと人が通れる道を進んでいくと、
頑丈な鉄パイプを組んだ柵にいきあたりました。その奥にかろうじて見えたのが、
古民家です、藁葺き屋根の農家。もうボロボロに朽ちてました。
おそらく築百年以上でしょう。何でこんなものが残っているのか。

どうして柵で囲まれてるのか、わからないことばかりでした。
地域の史跡なんだろか・・・ で、興味を持ちまして、本社の資料部に個人的に
調査をお願いしたんです。ほら、うちは地図会社でしょ。江戸時代以前からの
古地図や、地方史なんかが かなりそろってるんです。資料部のキャップは
わたしと同期で、頼みやすかったですし。こうして1ヶ月ほど、
何もないまま過ぎ、その間に、わたしは町内会の会合に出席したんです。
みな、よさそうな人で親切にしてくれました。そのときに50代の町会長さんに、
あの森の中の家について尋ねたんです。そしたら、少し言葉を濁してましたが、
「太平洋戦争中の記念史跡で、いちおう市で保存をしている」という
答えでした。それ以上の説明はなく、聞きにくい雰囲気でしたね。
それで、話は変わりますが、息子たち2人が、

犬を買いたいって言い出したんです。これはわからなくもありませんでした。
ずっと転勤族だったので、ペットは飼えなかったんですよ。ただ、
少し意外だったのは妻もそれに賛成してたことで、結婚以来、
動物は好きじゃないと思ってたんです。せまいながらも庭もあるので、
それなら番犬にもなる中型犬を飼おう。そう考えて、息子たちと休日に
ペット店に行き、子どもたちがいいというので、ビーグルという種類の
犬を買ってきました。高かったですよ。日曜大工で犬小屋を作りました。
可愛い犬で人なつっこく、ただほとんど吠えないので番犬としては
役に立ちそうもなかったです。息子たちは交代で朝に散歩に連れてってました。
裏手の森のほうです。それから1ヶ月くらいたち、わたしが晩の8時過ぎに
開発所から戻ると、家が真っ暗で妻も子どもたちもいなかったんです。

その時間に人がいないのはおかしい、どうしたんだろうととまどってると、
町会長さんがみえました。そして「奥さんたちが犬を連れて森に向かうのを
見た。止めないと大変なことになる」そう言われて、わけがわからないまま、
会長さんの後に続きました。森の中までは10分もかかりません。
あの家の柵の前まで来て、会長さんが持ってた大型懐中電灯で照らすと、
光の中に妻と息子2人がいたんです。3人はそれぞれ向き合って立ち、
真ん中にビーグル犬がいました。「ああ、生きてる。間に合った」
会長さんはそう言うと、走り寄って妻の手を押さえました。
「何を?」 会長さんが妻から取り上げたのは、台所にある包丁でした。
3人とも呆然とした様子でしたが、会長さんが強く肩を揺すると
正気に戻ったようになりました。後で聞いたところでは、

自分たちが何をしていたのか、まったく覚えてなかったそうです。
会長さんは事の次第を説明してはくれず、そのかわり、
「家の後側の塀、もっと高くしたほうがいいです。でないと、またこういうことが
 起こりますよ」と。ここからは後日談です。本社の資料部から連絡が来て、
その民家には出征兵士の家族3人、母親と年頃の娘2人が疎開に来ていたが、
ある夜に娘2人が殺され、母親はその後自殺したということだったんです。
なにぶん戦争中ですから、犯人は見つかっておらず、捜査もまともに
行われたかもわからないという話でした。それで・・・それ以上考えるのは
やめたんですよ。郷に入っては郷に従え、ですね。また工務店にお願いして、
他の家と同じ高さに、後ろの塀だけつくり直してもらいました。え、犬ですか。
いや、元気ですが、息子たちが飽きたので、朝の散歩はわたしがやってます。