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社史編纂室の話

2018.12.12 (Wed)
あ、横田ともうします、よろしくお願いします。自分、ある証券会社に勤めてまして。
社名は言いませんけど、話の内容で察しがつくと思います。
先月、うちの社長が急逝しました。ゴルフをしている最中に、心筋梗塞の発作を
起こしたんです。救急搬送されたんですが、郊外のゴルフ場だったために、
病院が遠くて時間がかかり、手遅れになってしまったんですね。
はい、このことは新聞でも報道されました。それで、社長の死を契機に、
社内でクーデターが起きたんです。本来なら社長の後を継ぐはずだった副社長が、
取締役会議で解任され、専務の一人が次期社長になったんです。
で、そのために副社長派と目されていた幹部たちも次々に辞めちゃって。
まあね、自分みたいな下っ端には関係ない雲の上の話なんですけど。
そういうことがあったので、新年度でもないのに社内人事が改変されて。

自分もね、新しい部署に変わったんです。営業から総務部にです。
これはね、よかったと思ってました。外回りの営業は重労働だし責任も大きいけど、
総務はずっと会社にいますでしょ。それに、仕事内容も社内の備品を揃えるとか、
そんな程度のもんだと思ってたんですよ。それがまさか、あんな目に遭うとはねえ。
でね、今回の人事改変を契機として、大規模な社内の整理を行うことになったんです。
ええ、廃棄するものは廃棄し、鍵類を確認し、新たに入退室システムを導入する。
まあ、こう言うと大変そうですけど、本社は貸しビルの3階分のスペースで、
そこまでたくさんの部屋があるわけじゃないんです。
でね、自分と部下2人が担当になって、まず1部屋ずつ確認していったんです。
そしたら、会社が入ってるのは17階建てビルの15、16、17階なんですが、
最上階の外れにある一室、これが使われていないことがわかったんです。

ええ、小部屋ですけど鍵はかかります。その鍵を誰も持ってる人がおらず、
入れなくて、いろんな人から話を聞いたら、鍵は亡くなった前社長が持ってるって
ことだったんです。そのときに、妙な噂も耳に入ってきたんですよ。
その部屋は封印されてるって。誰もはっきりしたことはわからなかったんですが、
その部屋は社史編纂室として使われてた。で、社史ができあがったので、
編纂室は解散したんですが、そのときに亡くなった人が何人かいるってことです。
まあでも、社史編纂なんて、こう言うとなんだけど、社内でも窓際になった人が
やるもんじゃないですか。だから、そんなに気にしなかったんですよ。
とにかく入れないんで、業者を呼んで鍵を開けてもらったっていうか、
ドアごと取り外したんです。そしたら、入っていった瞬間、背筋がぞくぞくっとしました。
寒いんです。もちろん部屋のエアコンのスイッチは入ってないんですが、

季節は秋口で、そんなに寒いわけがない。中は、日本間だったら12畳くらいの広さで、
長テーブル4つとパイプ椅子が10個ほどあって、簡単な会議ができそうでした。
けど・・・とにかく様子が変だったんです。まずね、窓が板で塞がれてたんです、
内側から。それも太いネジで壁に板がはりつけられてて、外すには業者を呼ぶしか
ないだろうと思いました。あと、天井から杭みたいなのが4本、
頭を下にして打ち込まれてて。ええ、蛍光灯を避けるようにして等間隔で。
杭って言いましたけど、ほら、映画でドラキュラの胸に打ち込むやつがあるじゃないですか。
金属の尖ったやつ。あれを連想してしまいました。意味がわからなかったですね。
何かを上から吊るすために使ったのか。あと、一方の壁は全面が書棚になってて、
中にはびっしり綴じた書類が入ってたんです。それにも鍵がかかってて、
ガラスを割らないと中のものが取り出せない。

はい、それでまず、内装の業者を呼んだんです。窓の板を外して、
天井の杭を抜いてもらうためです。でね、その作業中に業者に呼ばれて、行ってみると、
窓の板が外されてて空が見えました。17階だから、隣にビルはないんです。
見下ろした下は駐車場でした。で、問題は天井の杭です。すごく長かったため、
業者が天井板を外したんです。ふつうはそこ、パイプ類が通る空間になってるんですが、
中にねえ、黒いものが渦を巻くようにして詰まってたんです。
髪の毛だと思いました。それも長い女の髪の毛が大量に。もっと変だったのは、
その髪の毛が奇妙な機械にからみついてたこと。うーん、なんと説明すればいいか。
昔の真空管のテレビがあるじゃないですか。自分は機械いじりが好きで、
工業博物館に行ったことがあるんですが、そこで見たような古めかしい機械が、
髪の毛がからんだ状態で、天井裏にびっしり詰まってたんです。

何のためのものかわからないし、そもそもその機械には電源が取られてなかったんです。
これには業者も困ってました。自分も、撤去していいのかどうかわからず、
とりあえずそれは保留にしたんです。あと、業者が言うには、
杭は天井を突き抜けて屋上まで続いてるってことで、一緒に屋上を見に行ったんです。
はい、屋上はふだんから出入り禁止で、鍵がないと入れません。
でね、給水塔とかあるんですけど、その杭が出てる部屋の真上に、
お社みたいな建物があったんです。大きさは2間四方くらい。木でできたお社の扉は
固く閉まっていて、その前にあるロウソク立てにはロウが溜まってました。
だれかがお参りしてロウソクをあげてたってことですよね。もうね、
これは自分の手には負えないと考えて、総務部長に相談しました。来てもらって
現場を見せたら、部長も困惑して、とりあえずどうするかは棚上げになったんです。

できることは書棚の整理でした。鍵は開けなくても、サッシ自体を外すことができたんです。
中に入ってたのは、会社がまだ始まったばかりの頃の古い書類、
昔のワープロで感熱紙に打ったのやら、手書きのものまであって、おそらく、
社史編纂の資料なんだと思いました。全部シュレッダーにかけてよさそうでしたが、
万一貴重なものがあってはいけないと考え、部下のA君に整理を頼んだんです。
で、自分は総務の部屋に戻ってたんですが・・・2時間くらいたって、
廊下が騒がしくなり、社員の一人が部内に駆け込んできて、「人が落ちた」って言うんです。
はい、A君です。あの部屋の窓から下の駐車場に飛び降り、17階なので即死でした。
救急車や警察も来まして、たいへんな騒ぎになったんです。A君は結婚して2年目、
まだ子どもはいなかったんですが、奥さんが変わり果てた遺体に取りついて泣いてました・・・
それで、飛び降りたのがあの部屋の窓からってことで、警察が見に来たんですが、

窓が全開になってました。あと、机の上に紐閉じの厚い綴りが広げられてて、それがねえ・・・
開かれてたページは紙が黄ばんだ古いもので、書かれてるのは事務的な内容。
けど、写真が1枚載ってて、それ、A君の結婚式のものだったんです。新郎新婦が腕を組んで、
各テーブルを回ってるときの。ありえないですよね。2年前に行われた結婚式の写真が、
そんなとこに載ってるなんて。綴りに書かれてる日付は、昭和42年だったんです。
それと、そのページの欄外にボールペンの走り書きがあって、
「この部屋ヤバイです」って書かれてたんです・・・A君の字だと思いました。
本を棚に戻そうとしたとき、「カッチコッチ」という音が上のほうから聞こえてきて、
警察がいなくなってから机に上がって、天井板が外されてる穴から中を覗いてみました。
ほら、髪の毛がからみついた古い機械があるって行ったでしょ。
それの真空管にオレンジの明かりがついて、歯車みたいなのが動いてたんです。

けど、それは、自分が見てるうちに止まって静かになりました。どう考えても
おかしいですよね。それで、A君の葬儀が済んだ2日後、編纂室に一人で入り、
あの結婚式の写真が入った綴りを出そうとしました。けど、一番手前においたはずなのに、
見つからなかったんです。あれから誰もその部屋に出入りはしてないし、
失くなるわけはないんで、何冊も引き出して開いてみました。その中で、
一枚の写真が目に止まったんです。中学生が何かの行事のときに撮ったクラス写真で、
それ、驚いたことに自分の中学校のときのものだったんです。
「ええ!」で、中に子どもの頃の自分がいました。その3人隣が、
Yという男子で、Yはその年自殺したんです。はい、イジメが原因でした。
恥ずかしい話なんですが、自分もそのイジメに一枚加わってたんです。
「なんでこんなものが印刷されてこんなところに!?」当時の出来事がばーっと甦ってきて、

写真から目を離せなくなりました。中に引き込まれていきそうな感じというか・・・
そのとき耳に、前に聞いた「カッチコッチ」という音が入ってきました。
「ああ、天井の機械が動いてる」そう思って、無理やり綴りのページを綴じたんです。
はい、もう一度開いても、その写真は見つからなかったです。
その後、自分からすべてのことを聞いた総務部長が新社長に相談し、
社史編纂室はそれ以上手つけないことになりました。それから2週間後、
会社で頼んだ神職が何人もやってきて、部屋と屋上の神社のお祓いをしたんです。
日曜日だったので、そのことを知ってる社員は少ないです。で、部屋のほうは、
前のように窓を塞ぎ、天井の機械もそのままにして封印されたんです。
はい、もう入る人はいません。・・・あの部屋、何のためのものだったんでしょう。
こちらで何かわかりますでしょうか?







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夢の神社の話

2018.12.09 (Sun)
今年の春から普通高校に通ってます。よろしくお願いします。
私、バレー部に入ってて、同じ中学校からきた友だちが2人いたんですけど、
その2人に関係した話なんです。2人とももう亡くなってしまったんですが、
仮名でいいですよね。一人は彩花、もう一人は麗美ってことにしておきます。
彩花は中学校でセッターをやってて、あんまり背が高くないんです。
逆に麗美は、中学校時代に県代表に選ばれてて、175cmくらいあります。
私はその中間くらい。私も彩花も、高校のレギュラーはまだまだ遠いけど、
麗美のほうは、新人戦前からベンチ入りしてました。
それで、3人とも同じ中学出身だから帰りが同じ方向で、
いつも同じバスに乗ってたんです。そのバスの中で、いろいろ話をするんですが、
やっぱり、一番多いのは男子のことですね。

ただ、麗美は体が大きいわりに、そういうことにはおっとりしてる感じでした。
まあ、バレー命って感じだと思ってたんです。けど、彩花のほうはすごくそういうの好きで。
で、男子バレー部の2年生のK先輩っているんですけど、
その人に彩花がすごく熱をあげてて。まあでも、ちょっと釣り合わないっていうと
悪いけど、私は、無理だよなあって内心思ってたんですよ。それが・・・
彩花が、K先輩がつき合ってた子と別れたって情報を仕入れてきて、
今フリーのはずだから、告白してみようかなって言い出したんです。
「無理だから」とも言えないし、そのときは「頑張ってね」とは話したんですが・・・
ところが、その告白がうまくいって、彩花、K先輩とつき合い始めたんです。
驚いたんですが、2年生の先輩方の嫉妬がすごい高まってて、
何にもなけりゃいいなって、麗美と話してたんですよ。

で、帰りのバスの中で「スゴイねー」ってその話を出したら、彩花は自慢そうな顔で、
「そういうことに効果のある神社にお参りした」って言うんです。
当然、「それどこ?」って聞きますよね。そしたら、「夢の中に出てくる神社」って。
彩花の話をまとめると、ネットを見てたら、何でも願いことがかなう神社の
サイトがあって、そこで参拝券のようなものを買うと、
夜寝てから、夢の中に神社が出てきて願い事をすることができ、
それは高い確率でかなうってことでした。これも当然「いくらなの?」って聞きますよね。
そしたら、「お試し期間だったからタダ」ってことでした。
タダならほしいじゃないですか。「どこのサイト?」って聞いたら、
「それがもう閉鎖されたのか、見つからなくなっちゃった。でも、私は名前と住所を変えて、
 いくつかもらってるし、親友だから分けてあげる」って言って。

次の日またバスの中で、彩花からお守り袋みたいなのを、それぞれ渡されたんです。
10cmくらいの赤い布の袋です。ヒモがついていて、口のところが固く縛ってありました。
軽くて、中には何かやわらかいものが入ってる感じがしたんです。
あ、今は持ってないです。捨てちゃったんで。彩花は、「まず、神社にお参りする夜は、
 お風呂に入っちゃダメなの。顔とかは洗ってもいいけど、石鹸とか使っちゃダメ、
 歯磨きもダメ。で、お守りを枕の下に入れて寝ると、夢の中でその神社の鳥居の前に
 いるの。でも、それだけだとダメで、特別な形で手を叩く」
こう言って、奇妙な動作をやってみせたんです。手を背中に回して、
指先を下に向けてパンパンと2回叩く。それから一礼して、さらにもう一回。
「これ、あめのさかてって言うんだって」その場で麗美とやってみたんですが、
背中の筋肉がつりそうな感じがしました。

で、もちろんやってみようと思ったんですが、お風呂に入らないっていうのがネックで。
バレー部は毎日、3時間以上の練習があるので、すごく汗臭くなるんです。
でも、月に2回、高体連の取り決めで、土曜日が休みになるんです。
それで、麗美と話をして、次の土曜日にやってみて、どうなったか報告し合おう、
ってことにしました。うーん、そうですね。信じてはいなかったですよ。
でも、ちょっとわくわくするじゃないですか。で、土曜日の夜です。
気持ち悪かったんですが、お風呂に入らず歯磨きもしないで、枕の下に赤い袋を入れて、
11時過ぎに寝ました。でもそのとき、神社で何をお願いするかまでは
考えてなかったんです。はい、夢は見ました。気がついたら、何というか、
廃墟のビルの中のようなところにいたんです。かなりの広さがあって、
体育館半分くらいでしょうか。床はコンクリで、厚くホコリが積もって、

コンクリの欠片が転がってました。あと、見回しても窓がどこにもなかったので、
地下の駐車場みたいな場所かと思ったんです。そのとき、自分で、ああこれは夢の中だって、
わかってました。でも、神社って聞いてたので、意外な感じがして。
どこにも照明は見あたらないのに、うすぼんやり明るかったです。
で、一方の壁に、ペンキで吹きつけたみたいな、鳥居が描かれてたんですよ。
すごい雑で、まるで落書きみたいな。そっちに向かっていったんですが、
すごい、背中がぞくぞくするような感じがありました。鳥居は人の背の倍くらいの高さ。
その前に立って、彩花から聞いたとおり、背中を向けて「あめのさかて」をやりました。
そしたら、頭の中に声が響いてきたんです。「またおなごが来たのか、
 まあよい、願い事を一つ言え」たぶん男の声だと思いましたが、自信はないです。
そのときに、願い事を考えてなかったのを思い出して、とっさに、

「レギュラーでバレーの試合に出たいです」って言いました。そしたら、
しばらく沈黙があって、「わかった。出してやろう。ただし一試合だけだ・・・
 もし、もっと願い事をしたいのなら、次は捧げ物を持ってこなくてはならぬ。
 捧げ物は肉がよいなあ」こういう意味のことが頭の中にわーんと響いて、
壁の鳥居の中が、一瞬青白く光ったように思いました。そこで目が覚め、
枕元の時計を見ると、朝の5時少し前でした。私は体中汗をびっしょりかいていて、
あと、動物みたいな臭いがしたんです。はい、それは私の体じゃなく、
枕の下からでした。あの赤いお守り袋を出してみると、すごい臭いで。
子どもの頃に、家で猫を飼ってたことがあるんですけど、
そのオシッコの臭いに似てるように思いました。それで、お守りは机の引き出しに
入れたんですよ。次の日の日曜日、部活は練習試合で、母に車で送ってもらいました。

そしたら、マネージャーから、彩花が、熱が高くて休む連絡があったって聞きました。
その日は、市の体育館で、他の学校と何試合かしたんですが、
最初の試合で、先輩方が2人ケガをしたんです。それで、かわりに私が出ることになって。
「ああ、夢の中の願い事が、もしかしてかなった?」そうも考えたんですが、
先輩方のケガも軽かったので、公式戦では無理だろうなって思いました。
それでも、監督に認めてもらおうと思って、プレーは必死に頑張ったんです。
で、昼休みの時間になって麗美と話をしたら、見た夢が同じだったんです。
薄暗いビルの中にいて、壁に描かれた鳥居に向かってお祈りしたこと、
頭の中に声が聞こえてきたことも。私は、試合に出たいって願ったことを言い、
「麗美は?」って聞いたら、麗美は、「私、願い事考えてなかったし、
 そのときになって迷っちゃって言えなかった」って。

あと、私が、枕の下のお守り袋が臭くなってたことを言ったら、麗美は、
「私は気がつかなかった。臭いなんてしなかったと思う」こう答えたんです。
それから・・・彩花はずっと学校を休んだままでした。
部の監督の先生から、ちょっと難しい病気にかかってるって話がありました。
無菌室というとこに入ってるので、面会謝絶で見舞いには行けないことも。
メールとかもできなかったんです。それからまたしばらくして、彩花は大きな市の病院に
移ったって聞かされました。それと、麗美のほうは・・・
練習でも試合でも、何か元気がない様子でミスが多く、自慢の強打がまったく決まらなくなり、
とうとうレギュラーから外されちゃったんです。でも、あんまり落ち込んでる様子もなくて。
なんでかっていうと、彩花の入院後、k先輩とつき合いだしたからです。
これ、すごく意外で、私だけじゃなくみんな驚いてました。

それから1ヶ月ほどして、彩花が亡くなったという知らせが入りました。
お葬式にはもちろん出ました。私は泣いてしまったんですが、麗美は平然とした様子だったんです。
ここで私、「もしかして麗美、K先輩とつき合いたいって、あの神社でお願いしたんじゃないか」
そんなことを考えてしまって、家に帰ってから、あのお守り袋を出してみたら、
臭いはまったくなくなってました。その日はお風呂に入らず、もう一度、
枕の下にしいて寝たんです。・・・同じ場所にいました。赤い鳥居もありましたが、
前と違ってたのは、鳥居の前に大量の・・・赤黒い肉が積み重なっていたことです。
夢の中なのに、臭くて近づけなかったんです。その大量の生肉の積まれた後ろに、
人の足が片方見えました。足はバレーシューズをはいていて、もうとっくに火葬されてる、
彩花の足じゃないかって思ったんです。そのときすごく怖くなりました。
体がガタガタ震え、頭の中に前に聞いた声が響いてきたんです。

「捧げ物は持ってきたのか? もっともっとほしい」って。私が頭を振ると、
「ないのか、ならば去ね」・・・それで目が覚めたんです。枕の下からお守り袋を出してみると、
袋が硬くなって破れてました。中から、焦茶色の毛の束がこぼれてて、
気持ち悪かったんですけど全部集めてビニール袋に入れ、家のゴミには出さず、
近くの橋にいって川に捨てました。・・・その後、麗美とK先輩のつき合いは続いてましたが、
完全にレギュラーからは外れてしまって、私のほうが、公式戦でもときどき使ってもらえるように
なったんです。麗美は部活に来なくなり、1週間前に行方不明になりました。
警察の捜索でもなかなか見つからなかったんですが、市の郊外にあるホテルの廃墟の地下で
亡くなってるのが発見されて。解剖の結果は、殺人とかじゃなく急な病死ということだったんです。
ただ、どうしてそんなところに行ったかは誰もわからなくて。あと、これは噂ですけど、
麗美が妊娠してたって話が広まってるんです。本当かどうかはわからないですが。







魚釣りにいく話

2018.12.07 (Fri)
あ、こんばんは、よろしくお願いします。俺ね、ある県の地元の大学の3年生です。
いや、国立じゃなく私立の。でねえ、のっけからこんなことを言うのも
なんなんですけど、将来に希望が持てないっていうか。
ええ、誰でも入れるような大学ですからね。就職先がしれてるんですよ。
県内だと、スーパーとか、市場とかしかありません。
ずっと長い下積み生活だし、そのゴールが、よくてスーパーの店長でしょ。
いやいや、スーパーの店長をバカにしてるわけじゃなくて・・・
若いんだから、もっと夢を持ちたいじゃないですか。
でね、今、成り上がれるっていったらインターネットじゃないですか。
あのほら、ユーチューバーってやつ。調べてみたんだけど、
人気のあるユーチューバーって、収入が億を超えてるんですよ。

単純にうらやましいじゃないですか。まあね、ほとんどのやつはそう思って
始めるんだろうけど、実際は、時間ばかりかかって儲けはスズメの涙。
割に合わないんでやめちゃう人が大部分だってのも知ってます。
だけどね、やってみて悪いこともないでしょ。でね、まず仲間を集めたんですよ。
これは、俺一人じゃカメラが買えないってのが大きかったです。
いいビデオカメラは高いんですよ。あとね、やっぱ一人だと、
何やっていいかわかんなくて。俺、特に趣味もないし、何かに詳しいわけでもないし。
で、石原ってやつと沖田ってやつ、同じ学部から仲間2人を集めたんです。
2人ともすぐ乗ってきましたよ。何をやろうか相談して、とりあえず「釣り」
でいってみないかってことになりました。あの、あるんですよ、
「釣りよか」っていうユーチューブのチャンネルが。

やってるのは俺らみたいな普通の若いやつ。ただ、やつらは海釣りが多いんだけど、
それは用具に金がかかるんです。俺らは、3人で金を出しあってカメラ買ったら、
ほとんどスカンピンで。だから、ホームセンターで売ってる安い竿とかでできる
淡水の釣りにしたんです。でね、去年の夏休みですね。レンタカーを借りて、
ダム湖で釣りをして回るのをやったんです。予定は1週間でした。
俺らの地方は山が多くて、ダム湖があちこちにあるんです。
でね、やってみたら、難しかったんですよねえ。釣りもビデオ撮影も。
まずね、釣りのほうはまったくダメ。最初は小魚も釣れなかったし、
釣師の人に、その仕掛けじゃ釣れないよ、ってバカにされました。それと、
ビデオのほうは、自分らで撮影したのを見たら、画面がグラグラ揺れてて吐き気がする。
やっぱ素人はダメですよねえ。ユーチューブに何本か投稿しても、ほとんど反応なし。

まあ、最初から話題になる人のほうが少ないんで、続けなきゃなんないんだろうけど、
俺ら、その1週間ですっかりメゲちゃって。なんかね、3人の仲も悪くなってきたんです。
それで、もうやめようってことになって。ずっと車中泊だったから体が痛くて、
風呂にも入ってないんで汗臭くってね。だから、もう終わりだから、
最後だけでも旅館に泊まろうってことになりました。けど、そんなに金もなくて、
ダム湖の周回道路を車で流してたら、釣具屋を兼業してる民泊があったんです。
そこに入って。そしたら、店の奥に巨大な魚の剥製がありました。2m以上です。
形はイワナに似てましたね。それと、その回りに写真が何枚も貼ってあったんです。
見ると、どれも古くて黄ばんでましたが、ダムの岸やボートから、
その剥製と同じ魚を釣り上げてる写真です。「すげえ」俺らは興奮して、
店番の親父さんに「これ、何すか?」って聞いたんです。

そしたら、そこのダム湖はもとは自然の湖で、昭和の10年頃まで、
巨大なイワナ型の魚が釣れてた。ただし、釣った人は1年に数人。釣れなかった年もあり、
太平洋戦争が終わったら、まったくと言っていいほど釣れなくなった・・・そういう話でした。
いわゆる幻の怪魚ってやつです。それ聞いて、俺らちょっと興奮しましてね。
もう1回だけ、この湖で釣りをしてビデオに撮ろう。まあ巨大魚は釣れなくてもともと、
この剥製を動画に出すだけでもすごくね、って思ったんです。けども、
最初から出鼻をくじかれちゃって。親父さんに撮影していいですかって聞いたら、
断られちゃったんです。「マスコミで話題になって、湖を荒らされたくない」って理由でした。
でもこれ、釈然としませんよね。釣具店で民泊なんだから、人が来たほうがいいに
決まってるじゃないですか。けどまあ、その日泊まって、翌日はそこのダム湖で、
最後の撮影をするつもりでした。民泊はその親父とおかみさんの2人でやってるみたいで、

奥さんは太った話好きの人でしたね。夕食込みで一泊一人5000円。
高くはないですよね。夕食は、地元のダム湖でとれた魚を中心に豪勢でした。
部屋は8畳間に3人です。で、おかみさんには、「家の中は好きにしてていいけど、
2階には上がらないでくれんね」って言われたんです。風呂は家庭用だったので、
一人ずつ入ったんだけど、その手前に、2階へのせまい階段がありました。
その夜はビールを飲んで寝て、翌朝早くに起き出してダム湖に釣りに行く準備をし、
庭先に停めてあるワゴン車に向かったら、民泊の2階の窓がガラッと開いたんです。
で、そこから「ねえ、釣りに行くの?」女の子が顔を出したんです。
上半身しか見えなかったんですが、高校生くらいだと思いました。それがね、
すごいきれいな人だったんですよ。顔も手も抜けるように白くて、目が大きくてね。
赤い模様の浴衣の袖が見えました。今でも顔を思い出せます。俺ら3人がぼうっとしてると、

その子は、「大きい魚釣ってきてね」そう言って、下にいる俺らに手を振ってから、
中に引っ込んだんです。「見たか、おい」 「ああ、見た。すごいきれいな人」
「この宿の娘さんかな」 「そうだろ、学校が夏休みなんだろうな」
「それで二階に上がるなって言ってたわけか」こんなことを言い合いました。
でね、ダム湖で1日過ごしたんですが、やっぱりまったく釣れませんでした。
ただ、釣師何人かにインタビューをしたんです。巨大魚を見たことがあるかって。
そしたら、知らない人が多かったんですが、ベテランの釣師の一人が、
「お前さんら、あの民泊にある剥製見て、そんなことを言ってるんだろ。あれな、
 木を彫った作り物だぞ。貼ってある写真は本物かもしれんが、なんせ古い話で、
 巨大魚なんて、仲間で釣ったやつはいねえよ」こんなことを言ったんです。
「ああ、それで撮影するなって言ったわけか」俺はそう考えて納得したんですよ。

昼を過ぎて、民泊に寄って荷物をとって地元に戻る予定でしたが、沖田が、
「もう一泊だけしよう」って言い出したんです。「明日も同じことだぞ。
 俺らには巨大魚どころか普通の魚も釣れねえから」そう言っても沖田は、
「いいじゃないか。金はそんなに変わらないだろ。魚よりなあ、俺、2階の子と
 話がしてみてえ」こう言い出しまして。それはねえ、俺らも同じ思いがあったんで、
「じゃあ、そうしようか」ってなったんです。でもね、民泊の娘さんとどうにか
なるとは思いませんでしたよ。だって、ガードの固い箱入り娘みたいだし。
でね、店の親父さんに、もう一泊したいって言って。おかみさんは喜んでました。
夕食の膳を運んできたときに、「2階の娘さん、高校生ですか?」って沖田が
聞いたんです。そしたら、おかみさんは何ともいえない顔になって、
「うちに娘はいません」って答えたんですよ。その夜、寝る段になって、

沖田が、「俺、2階にしのび込んでいってみようかな。夜這いってやつ」こう言ったんですが、
もちろん冗談だと思ってました。女好きだけど、そこまでするやつじゃないし。
でね、酒を飲みすぎたせいか、次の朝は寝坊して、起きたのが7時過ぎでした。
寝床を見たら、沖田がいなかったんですよ。便所でもないし、やつの釣り道具もない。
外に出ると、おかみさんが店の前を掃いてたんで、「連れを見ませんでしたか?」って聞いたら、
「かなり早い時間に一人で出かけられたみたいですよ」こう言われて。
そんなに釣りも撮影も熱心なやつじゃなかったし、変だなあと思ったんですが、
とにかく湖の、昨日回ったとこにもう一度行ってみようと思いました。
でも、どこにも沖田はいなくて。「一人で帰ったんじゃないか」とも考えたんですけど、
車はあるし、鉄道の駅は遠かったんです。もちろんやつのスマホにも連絡したけど、
まったく音沙汰はなし。もしや事故かもしれない、夕方まで探して、

見つからなかったら警察に届けようか。そう石原と話して、周回道路を車で走ってると、
助手席の石原が「あ、あれ沖田じゃないか」湖の回りの林の切れ間に、沖田らしい姿。
それと、隣に白地に赤い模様の浴衣の女の子。「やっぱ沖田だよ。あいつ、宿の娘
 連れ出したんだな。うまいことやりやがって」 路肩に車を停めて、そっちに向かったんですよ。
そしたら、何が起きたと思います?沖田がね、その子と手をつないで湖に入っていったんです。
「おいバカ、やめろ!」そう叫んで走りましたが、草がじゃまでなかなか近づけなくて。
湖はダム湖なので急に深くなってて、そうしてる間に、2人の姿はがくんと沈んで
見えなくなったんです。「あ、あ、あ」 どうしてなのかわからないけど、沖田は、
その子と心中したんだと思ったんです。2人の姿が消えた湖面には大きな波紋が広がって
ましたが、そこからどーんと大きな水しぶきが上がり、巨大な、人間よりも大きな魚が
跳ね上がって胴体をギラリと光らせ、真下に落ちて泳ぎ去っていったんですよ。

すぐに警察に通報しました。「友人と女の子の2人が湖に落ちた」って。
警察が来るまでに時間がかかり、大掛かりな捜索になりました。でね、沖田の遺体はその日の
うちに見つかったんです。水に入ったすぐのところに沈んでて、腹に大きな魚が咥えた
としか思えない歯の跡がありました。ただねえ、女の子については・・・
警察が民泊に問い合わせたところ、その家に娘さんはいなかったんです。
正確には、民泊の一人娘は、10年以上前にダム湖で水死してたんですよ。
警察の中にはそのときの事故を覚えてる人もいました。もちろん、それ以外の女性の
可能性もあるので、警察の捜索は続きましたが、遺体は見つかりませんでした。
あと、そのあたりで行方不明になった若い女性もいなかったですし。
けどね、さっき話したように、俺と石原は、たしかに2人が湖に入ったのを見たんです。
え、巨大魚のビデオは撮ったのかって? まさかですよ。あんな状況ではとても。






病院のヒルの話

2018.12.04 (Tue)
先月のことです。むち打ち症になっちゃったんです。いやあの、
追突とかじゃなく、自損事故でした。コンビニで買い物してから
車を出そうとしたとき、シートの位置が気に入らなかったんです。それで、
ブレーキ踏んで直そうとしたんだけど、そんときアクセル踏んじゃったんですね。
急発進して通りに出そうになり、あわててハンドル切ったらコンビニの横の壁にドーンと。
いや、コンクリの壁が少し崩れた程度で、そんなに強くぶつかったわけじゃなく、
エアバッグも開かなかったんです。けど、シートに後頭部を打ちつけちゃって。
はい、弁償も車の修理も全部保険で済んだんですが、やっぱ首が痛くて。
でも、そのうち治るだろうとそのままにしてて、翌朝起きたとき、
右腕がしびれたんですよ。それで病院に行って検査をしてもらったら、
外傷性頸部症候群、つまりむち打ち症ってことです。

MRIを撮ったら、頚椎の一部がずれて神経を圧迫してるって言われて、
そのまま入院になっちゃったんです。はい、ずれた位置が悪かったみたいです。
それで、ある大学病院の整形外科病棟に入院しました。
治療は手術とかじゃなく、首をサポーターで固定して牽引するんです。
会社に報告したら、「何やってるんだ」みたいな目で見られたんですが、
まあ、10日程度ってことでしたのでなんとか。最初のうちは、右手がしびれて
物を持てなかったんだけど、毎日牽引してるうちによくなってきました。
首の痛みもとれてきたんで、どうせだから入院期間はゆっくり休むつもりでした。
俺、会社はIT関連で、ブラックとまではいかないけど、かなり激務でしたから。
でね、俺のつけてた首サポーターはかなり長くて硬いやつで、
首がいっさい動かせなかったんです。だから、横のほうを見るときには

体全体を動かさなきゃならない。サポーターは、退院してからもしばらくつけて
ないとダメということでした。整形外科の病棟は7階で、若い人がけっこういました。
ほら、高齢化社会で、内科とかは老人ばっかりなんだそうですが、
整形の場合、ゴルフで靭帯を切ったり、作業中に足を複雑骨折したとか、
そういう人が多いんですよ。ああ、すみません、話を進めます。
朝7時に1階に入ってるコンビニが開くんです。入院中は毎日新聞を買いにいってました。
で開店時間を待ってたように、入院してる年寄りがたくさんきて、点滴のスタンドを
押してる人も多かったんです。でね、コンビニを出ようとして、
体ごと入り口のほうを向いたとき、「あっ!」と声を上げてしまいました。
少し前に入院着のジイさんがいたんですが、その背中に大きな緑色のものが
はりついてたんです。そうですね、長さは4、50cm。

ちょうど背中に背負うバッグくらいの大きさ。でも、バッグでないことはすぐに
わかりました。動いてたからです。それは濃い緑とやや薄い緑がまだらになった色で、
上下にゆっくりと伸び縮みしてたんです。第一印象はヒルですね。
ほら、沼とか田んぼにいる。けど、そんな巨大なヒルはいないと思うし、
病院内で背中にしょって歩いてるなんてねえ。しかもそのジイさん、
すごい痩せてよれよれで足取りもおぼつかない感じだったんです。呆然として
立ち止まって見てたので、どんと後ろからぶつかられ、俺が悪いんで「すみません」
そう言ってもう一度前を見たら、そのジイさんの背中のヒルはなくなってたんです。
まあ・・そのときは幻覚だと思いましたよ。だってそんなのいるはずないし。
次に見たのは翌日の午後でした。課長が病室に見舞いに来てくれて、
それを送って1階の外来まで行ったときです。玄関のところで課長に頭を下げて、

体ごと振り向いたら・・・ほら、病院ってその時間だと、外来の患者の診察は
ほとんど終わって、支払いと処方箋を待ってるんだけど、
その背中に緑のヒルを背負ってる人がいたんです。一人じゃなく何人も。
俺のところからは、ずらっとイスに座ってる上半身の上のほうが見えるんだけど、
イスの背もたれからはみ出すようにして、緑のくねくねしたものが動いてました。
いや、全員じゃないです。5、6人に一人って割合くらい。
色合いが同じだったので、前にコンビニで見たのと同類じゃないかって思いました。
気持ち悪かったけど、もっと近くで見ようと思って、
待合席のほうに近づいていったんです。そしたら、そのヒルたちは、
俺の動きを察したみたいにして、スススッと潜って消えてったんです。
はい、潜ったのは、イスの背もたれの下のようにも、その人の首筋のようにも見え、

どっちかわかんなかったんです。ただね、そのときに気がついたのは、
ヒルが背中に見えた人は、年寄りで、病気が重そうな人ばかりだったんですよ。
車イスをつき添いが押してる患者には、たいがい見えた気がします。
でねえ、これ、そんなのが現実にいるより、俺自身の病気のせいで見えてるんだ、
って思いますよね。ましてほら、痛めた箇所が首だから、何か神経に影響があってとか。
だから、翌日の朝の回診のときに、主治医に話したんですよ。
「変なものが見えます」って。主治医は黙って話を聞いてて、すぐにその日、
脳のMRIを撮る予約を入れてくれました。それまで頭部は、レントゲンしか撮ってなかったんで。
でね、そのときに気になることがあったんですよ。俺が「緑色のヒルみたいなのが・・」
って話をしたとき、主治医は「うーん、たしか前にもそんなことを言ってた人がいたなあ」
って、つぶやくように言って。でね、その日の夕食の時間です。3回目を見たんです。

そこの病院は、食事のトレイは、動ける人は自分でワゴンから取るんです。
俺は自分の分を持ってきて、隣のベッドの患者ののも取りました。隣はアメリカ人で、
地元のバスケチームに所属してる黒人選手だったんです。俺、少しだけど英語できるんで、
いろいろ話とかしてたんです。その人は試合で足を骨折して、自分で動けなかったんですよ。
でね、トレイを持って振り向いたときに、足を吊って寝ている黒人の背中の下から、
あの緑のヒルが顔を出してたんです。ああ、顔と言っても、目も口もないんですが。
それが、俺がトレイを持って近づいてくと、ササッという感じで、
大きな黒人選手の体の下に潜っていって。けど、ベッドと体の間にそんな隙間なんてないし。
で、MIRの結果は、脳はなんともなかったんです。あとね、その黒人選手、
数日後の夜中に胸が痛いって騒ぎ出し、ベッドごと運ばれて帰ってこなかったんです。
いや、足自体は命に関わるようなケガじゃないから、心臓の発作だと思います。

何日か後に、テレビで訃報が流れてました。さすがにね、このあたりで気がつくじゃないですか。
いろいろ実験してみました。で、わかったのは、左側から体ごと振り向いたときに、
人の背中にヒルが見える場合があるってことです。もちろん全員じゃなく、
命の危ない人ほど大きなヒルが背中にいる。何でそれがわかったかっていうと、
整形だと、そんな命にかかわる病気の人は少ないですよね。けど、他の科だと
毎日のように亡くなる人がいる。でね、そこの病院、ひとつ下の階のデイルームに、
入院患者が読んだ本や漫画を置いてった、他の階からきて借りられる書棚があるんですよ。
そこに行ったとき、左から振り向いて、デイルームの中をのぞいてみたんです。そしたら、
いるわいるわ。2人に一人以上の割合で、背中にヒルをついてました。たぶん、癌患者とかが
多いんでしょう。あとですね、トイレの鏡で、自分のことも見てみたんです。
動きが不自由で、はっきりはわかんなかったですが、そのときはいないように思いました。

で、首のほうは、毎日牽引してたおかげで、腕のしびれはとれてきました。退院して、
あとは通院治療になる前の夜です。夜中にトイレに起きたんです。トイレは病室にあるけど、
ドアの開け閉めや水を流す音がするんで、いつも廊下にある共同トイレに行ってたんです。
トイレを済ませて戻ろうとしたとき、廊下の端に、何か動くものがいたんです。
オレンジの照明で色ははっきりしませんでしたが、あのヒルに思えました。
小学生の子どもくらいにまで育ったやつです。人の背中に乗ってないのを見たのは
初めてで、かなりの速さで這ってました。いや、そのときは怖いとは思わなかったです。
後をついていくと、ヒルはナースステーションの横手で曲がって、
非常階段に入っていったんです。その病院は、非常階段にはドアがなく、
緊急時に患者を下ろせるようにかなりの広さがありました。
その階段を2段飛ばしに転がるような感じで、ヒルはどんどん降りていく。

6階、5階・・・でね、その次の階の階段の踊り場に、低いベンチがあったんです。
そこに座ってる人がいました。子どものように小さい体で、頭から毛布を被ってて
顔が見えない。俺がギクッとして立ち止まると、その人は、「よしよし、よく育った」
って言って、その声で女じゃないかって思いました。その人は、足元までやってきたヒルを
赤ん坊のように両手で抱き上げ、口をつけて吸うような仕草をして・・・
俺は怖くなって、後退りするように階段を数段上ったところで、その人が頭を俺に向けて、
「お前もこれがほしいのか」って、しわがれた声で言ったんです。走って逃げましたよ。
翌朝、検温に来た看護師に、非常階段の踊り場のベンチの話をしたら、
「避難のじゃまになるから、そんなのはないはず」って言われました。実際、見にいったら
やっぱりなかったです。俺は退院し、首のサポーターがとれて、少しずつ動かせるように
なりました。でね、あの病院を出てから、ふり向いてもヒルは見えなくなったんですよ。






火の女の影の話

2018.11.30 (Fri)
あの、山根と申します。よろしくお願いします。一連の出来事の最初が、
4年前の夏なんです。俺、当時、期間工として某県の会社に勤めてました。
ラインに入って乗用車を組み立てる単純作業で、寮生活でした。
でね、8月になって、夏休み期間があったんですが、
俺には帰るような実家もなくて。うちの両親は離婚していて、
俺は高校出てから、どっちとも会ってなかったんですよ。寮にはそういう、
どこも帰るあてのない若いやつらが何人か残ってて、毎日どっかの部屋に集まって
酒飲んでたんです。そこに、峰田ってやつが顔を出しまして。
峰田はそこの工場の正社員で、家から通ってるんです。そいつが、
「何だよお前ら、ヒマそうだな。そんな昼から酒ばっか飲んでるとアル中になるぞ」
と言って、「盆だから、心霊スポットめぐりでもしねえか」って誘ってきて。

面白そうだし、皆すぐに承知したんです。ほら、峰田は地元だから、
近辺の廃屋とか墓地とか、幽霊の噂のある場所をあちこち知ってて、
車も持ってたんで、一晩に2ヶ所くらい夜中に行ってみたんですよ。
俺は、幽霊なんていないと考えてたし、全然怖いとは思わなかったです。
実際、スマホで撮った写真にもおかしなものは写ってなかったしね。
でね、盆休みが終わる2日前の日です。その夜も、心霊スポットに行ったんですが、
その前に峰田が、「これまで行ったとこはいまいちパッとしなかったが、
 今回は怖ええぞ。そこのホテルはな、ある部屋で女が焼き殺されて、
 その黒いススみたいな影が壁に焼きついてるんだ。スゲエだろ」こう言って、
俺が「峰田さん、これまでそこ、行ったことがあるんスか?」って聞いたら、
「いや、始めてだけど、俺のダチが何人も行って確認してる」って。

で、皆でビール、チューハイを飲んで11時ころに、峰田が乗ってきた
ワゴン車に乗ってね。ああはい、峰田ももちろん飲んでました。
だから、飲酒運転ってことになりますが、当時はそういうことあんまり気にしなくて。
場所は国道が山に入ったすぐにあるラブホテル。寮から1時間くらいでした。
着いてみると、ホテルそのものが黒く焼け焦げてて、中に入るのが危険に見えました。
なんか天井とか崩れ落ちてくるかもって感じで。
「峰田さん、これ大丈夫なんスか?」 「いや、入ったやつらがいるって言ったろ。
 ほら見てみ、スプレーの跡があるだろが」確かに、黒くなった壁の上に、
いろんな落書きがあったんですよ。あ、そんときはホテルの前に車停めたんですが、
やっぱお盆のせいか、俺ら以外に来てる物好きはいないみたいでした。
で、ガラスの割れ落ちた入り口から、そのままどんどん中に入っていきました。

はい、数日前からのスポット探索で、みなそれぞれ懐中電灯を持ってて。
で、入ってみると、中の焼け方はそれほどひどくなかったんです。
おそらく、外から放火されたんじゃないかって思いました。
ここでね、峰田の話とちょっと違うなって。だって、女はホテルの部屋で焼き殺された
って言ってたから。まあでも、噂ってそんなもんだとも思いました。
1階は1時間くらいかけて全部見ました。ある部屋には、大人のおもちゃが
何個か転がってて、拾ってスイッチを入れても動かなかったです。
峰田が、「女の影がある部屋は、階段のぼって2階の4番めだから」そう言って、
みなでそれぞれライトで照らしながら上がってきました。
ホテルの中も落書きだらけで、俺は怖いとは思ってなかったです。
たぶん皆も同じ。「ここだな」峰田が言って、4番目の部屋のドアを開けました。

中はせまくて、ベッドのある部屋とバスルームしかなかったです。
それに、焼けた跡もなかった。「峰田さん、どこスか、その女の影って?」
「ちょっと待てよ。うーん、あれじゃねえか」指さしたのが、
ベッドの枕側の壁。「いや、きれいなもんじゃないスか?女なんてどこにも」
「いやほら、あれが頭だろ、あれが腕で、ひざまずいた格好に見えるだろ」
「えー、普通の人間よりかなりでかいですよ」 「そう言われれば、そう見えなくも
 ないけど、俺らがライトで照らした影なんじゃないスか。
 じゃなきゃ、前に来たやつが描いたとか」 「いや、俺どこだかわかんねっス」
「ほら、これが頭だろ」峰田がイラついた声を出して、落ちてた電気スタンドの笠を
拾って、思いっきり壁の頭の部分に投げつけた・・・そしたら、
俺には、その黒い大きい頭が急に動いて、壁から突き出す形で、

峰田の胸にぶつかったように見えたんですよ。「ぐへはっ!」峰田が変な声を上げ、
それから「うわーっ」と叫んで部屋から逃げ出して行ったんです。
俺らが後を追って飛び出すと、転げるような勢いで階段を降りてって、
ホテルから出て自分の車に向かって走ってってね。これ、峰田に一人で逃げられちゃ
困るでしょ。だって俺ら足がないから。タクシーだって、こんな盆休みの深夜に
来るかどうかもわからない。だから、峰田がリモコンで車のドアを開けたとき、
みなで取りついて乗り込んだんです。「大丈夫っスか?」そう聞いても、
峰田はまっすぐ前をみたまま車のスピードをどんどん出して、そのほうが怖かったですよ。
でね、街に近くなって24時間のファミレスが見えたんで、皆で峰田に車を停めるように言い、
そこに入ったんですよ。その頃には、峰田もだいぶ落ち着いてきてました。
「ああ、さっきはびっくりした。ドスンと胸に何かがあたったんだよ」

で、皆で軽い食い物を注文したんです。あ、ほら、こういう話って、よく店員が
人数より多い水のコップを出したりするじゃないすか。でも、そんなことはなかったです。
さっきの部屋での話をして、壁の影が動いたように見えたってのが俺を含めて2人。
何もわからなかったのが2人。峰田自身は、「確かに女の大きな頭が俺に向かって
 きたんだよ。顔には目もあった」こう言ってました。でもね、俺はそう見えたのは、
誰かが懐中電灯を動かしたせいだろうと思ってました。で、峰田が俺らを寮に送って、
「胸が痛え」って言いながら帰ってったんです。で、俺らはほら、まだ明日も休みだからって、
また一部屋で酒飲みを始めたんです。それから小一時間して、俺のスマホに着信が入って、
峰田からでした。ひどくおびえた声で、「今 家にいるが、俺の部屋に女の影が来てる。
 お前らすぐ来てくれよ」って言うんです。「峰田さん、俺ら足ないっスよ」そう答えると、
「金払うから、今すぐタクシーで来てくれ」ってことで。

まあね、相手は先輩の正社員だし、皆、なかばバカバカしいと思いながら行ったんです。
俺は前に峰田の家には行ったことがあるんで、場所は知ってました。
わりに近いんだけど、こんな時間にタクシー来ないと思ったんですが、
一社、来てくれたところがあって、皆で峰田の家の前で降りたんです。
2階の峰田の部屋の窓に明かりがついてました。でねえ、峰田の家には両親がいるんだし、
中から開けてもらおうと思って、窓に向かって小石を投げたんですよ。
そしたら、ドッシャーンって窓が割れたんです。いや、石で割れたんじゃなくて中から。
窓を破って下に峰田が落ちてきたんです。これはびっくりしましたよ。
まあでも、普通家の2階だから、そんな高さがあるわけじゃなく、足から落ちたんで、
峰田は足首をネンザした程度でした。峰田は自分の部屋の窓を指さして、
「女がいる、部屋の壁に黒い影の女がいる」って言って。

俺らで救急に連れて行こうかとも思いましたが、峰田の両親が音で起きて出てきたんで、
事情を話して医者に連れてってもらうよう言いました。
でね、工場が始まって、峰田は出てきたんですが、足にギブスをはめ、
松葉杖をついてました。峰田は、「全部俺の勘違いだった、お前らには迷惑かけたな」
って殊勝にも菓子とか配ったんですよ。それからは忙しくて、峰田とも会いませんでしたけど、
社食で、峰田が不機嫌で誰とも口を聞かず、つき合ってた女とも分かれたって噂を
聞いたんです。はい、やつは社食にも出てこなかったんで。
それから2週間後、峰田が自殺したんですよ。それもね、俺らが行ったラブホテルの廃墟。
あの中に夜中に一人で入り、ガソリンをかぶっての焼身自殺・・・
まあ、警察ではそうと決めつけてるわけでもなくて、ホテルの建物が全焼して、
中から黒焦げの焼死体が発見された。それが峰田と判明したんで、

事件の可能性も考えてたみたいです。結局、真相はわからなかったです。
で、そんな死に方で、地元の新聞にも大きく出たんで、
峰田の葬式はやらなかったんですよ。でもね、その週の土日、俺が何人か誘って、
峰田の家にお線香をあげに行こうって言ったんです。俺は両親も知ってましたし。
でね、前みたいにタクシーで行って、降りて峰田の部屋を見上げました。
窓は修理されてましたが・・・なんというか、家の壁に、巨大な女の体の影があるように
俺には見えたんです。窓のところがちょうど頭。でも、それを言ったら、
他のやつらは「そうかなあ、見えないよな」ってね。まあ、俺の気のせいでしょう。
両親は憔悴してて、皆で峰田の遺影に手を合わせて帰りました。これで終わりなんですが、
ほら、ラブホテルで焼き殺されたっていう女ね。調べたんだけど、
そんな事実はなかったんですよ。そうだろうと思ってたとおり、まったくのガセネタでした。

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