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瞬間移動の話

2020.01.25 (Sat)
みなさんは、超能力についてどうお考えでしょうか。いわゆる心霊とは
違うものだと考えておられる方も、かなりいるんじゃないかと
思います。ですが、この2つ、線引きはあいまいなんです。
心霊については、超心理学のほうから「超ESP仮説」というのが
出されています。簡単に言えば、「死後生や霊魂の存在の証拠とされる
心霊現象も、ESPや超能力によるものだと見なすことで、霊魂を想定
しなくても説明可能になる」というものです。これ、どう思われますか?
例えば、幽霊を見るということは、超能力者が自分の力で過去のビジョンを
見ているというわけです。ただ、こう言えるということは、逆もまた
可能なんですね。すべての超能力は霊の力で生じている、と。まあ、
小難しいことはこれくらいにして、今回は瞬間移動に関するお話です。

小売業 小畑浩一さんの話
俺、青果市場で店やってる小畑って言います。よろしくお願いします。
これな、俺が小学校の5年のときに体験した話なんだ。
昭和のまだ40年代初めだった。当時はほら、ゲームなんてなかったから、
どこの家の子も外で真っ黒になって遊んでたもんだ。
でな、あれは夏休みだった。その日は遅く起きたんで、みなが集まってる
小学校の校庭には行かず、一人で川で魚採りをしてた。
釣りじゃなく、網ですくうやつ。しばらくそうしてたら、
土手から「おーい」って呼ぶ声がした。見ると、同じクラスの三原って
やつだった。そいつ、その頃の一番の親友だったんだよ。
家もすぐ近くだった。「なんだよ~」と返事したら、息せき切って
土手を駆け下りてきて、「おい、スゲえぞ、スゲえこと発見した」

って叫んだ。けど、こう言っちゃなんだが、三原ってあんまり頭よくなくてな。
こいつが興奮してるときって、たいがいくだらねえことだったんだよ。
「スゲえから」って言うんでついてったら、公園に人の糞が落ちてて
ウジであふれ返ってるとかだったり。あ、汚い話でスマン。
「どうした」って改めて聞くと、「ユリ・ゲラーだよ」って答えが返ってきた。
ああ、当時スゲえ流行ってたんだよ。超能力ってやつ。壊れた時計が
動き出したり、あとほら、スプーン曲げ。鉄のスプーンがくねくねに曲がる。
もちろん俺もやったけどな、成功したためしはねえ。
「ユリ・ゲラーって?」 「よくわからんが、テレポテーションってやつじゃ
 ないかと思う」・・・よくガキがテレポテーションなんて言葉を知ってた
と思うだろうが、マンガ雑誌の超能力特集で出てたばかりなんだ。

だから、三原もそれ見て騒いでるんだと思った。土手に上がると、
三原は俺の手をつかんで、「とにかく来てくれ。やってみればわかる」って
言うんだな。「やってみるって、何をだ?」 「オイサキ様だよ」
「え?」 このオイサキ様ってのは、運動公園の裏のほうにある
神社みたいなものだ。みたいってのは、鳥居も何もなくて、ただ小さい四角い
建物があるだけで、回りを大人の腰くらいの鉄柵で囲まれてる。
だから近くに寄れなくて、お参りもできない。賽銭箱もない。
ただ、落ち葉とかが掃き清められてたから、世話する人はいたんだろう。
「俺な、夏休みの自由研究でアリジゴクを飼ってみようと思って、
 あちこち探したんだよ。んで、オイサキ様の下な、砂地になってるのを
 思い出して行ってみた。そしたらアリジゴクの穴がいっぱいあったんだ」

オイサキ様も、俺や三原の家からは近い。「お前、柵、乗り越えて入ったのか」
「ああ、あんなのわけねえ」 「そら、わけねえだろうが・・・」
前にそのあたりで遊んでたとき、柵を飛び越えたりしてたのを大人に見つかって
こっぴどく叱られたことがあった。「でな、あそこ床下が広いだろ。
 もぐり込んで、アリジゴクをつかまえてたら、夢中になって立ち上がっちまった」
「で?」 「したら、頭あたったとこがボカッと抜けたんだよ。割れたって
 ことじゃなく、床に敷いてた板がずれたんだと思う」 「それでどうした?」
「子どもなら入れるほどの穴になったんで、手をかけてのぞいてみた。
 中は暗かったが、少しだけ光が入ってて、台の上に鏡みたいなのがあった」
「それ、御神体ってやつじゃねえか」 「ああ、たぶんな。でな、俺
 上がってみたんだよ」 「うわ、大人に見つかったらヤベえ」

「ああ、でも回りに誰もいなかったし。床は四角い板が並んでて、
 俺が入ったとこだけズレてた。中はガランとして、あるのはその丸い鏡だけ。
 鏡は光ってた。天井に小さな穴が空いてて、そっから光があたってたんだ」
「で?」 「鏡の面が、虹みたいに光ってて、ああ、きれいだと思って
 指でつついたんだよ。したら急に真っ暗になって、俺、地蔵様の
 頭をなでてたんだよ」 「?? どういうことだ」 「ほら、向こう辻の
 とこに地蔵様のお堂があるだろ、そこにいた」 「嘘つくなよ」
俺はすぐにそう言ったよ。地蔵様のお堂は戸がないんで誰でも入れるが、
オイサキ様とはかなり離れてる。「いや、俺も何がどうなったかわからんかったけど、
 これ、雑誌に載ってたテレポテーションってやつじゃねえかと思ったんだ」
「信じられん」 「まあな。だからもう一回やってみようと考えてお前さそった」

てことで、2人でオイサキ様まで行った。大人は周囲に誰もおらず、離れた
市民球場で草野球してる人たちくらいだった。2人で柵を越えると、
たしかに高床の下から入れるくらいの穴があった。最初に三原、俺は
少し躊躇したが、勇気なしと思われるのが嫌で後に続くと、
三原の言ったとおり鏡があった。まだ光はあたってて、水に油を流したように
七色に渦巻いてた。「じゃあ、いっせいので指でさわろうぜ」三原はそう言って、
「いっせいの!」ビビッと電気みたいなのを感じて目の前が暗くなり・・・
また明るくなって、地蔵様の丸い頭の上に手があったんだ。「な!」
俺のほうを見て三原が言ったんで「ほんとだ、スゲえ」俺はもう大興奮だったよ。
「も一回やんねえか」 「ああ、やろうぜ」このとき、歩きながら
三原とこんな話をした。「でもよ、地蔵様ってお寺さんのだよな。

 オイサキ様はあれ、神社のほうだろ。なんでつながってるんだろうな?」
「いや、わからんが、どうせ親戚みたいなもんなんじゃないか」って。
で、このときもオイサキ様のあたりに人影はなし。前より余裕があったんで、
鏡をよく見てみた。大きさは直径20cmないくらい。ガラスじゃなく、
金属を磨いたものだったと思う。裏は鉛色で、墨かなんかで大きく黒く
漢数字の「三」が書いてあった。「いっせいの!」ドンと爆発したような
感じがした。俺は吹っ飛ばされ、地蔵堂の前の舗装してない道に倒れてた。
見上げた空は真っ暗で雷が走ってたな。全身が痛かったが顔を動かすと、
横に三原がやっぱ倒れてたんだ。「うううう」うめきながら立ち上がると、
あちこち痛いがネンザとかはなかった。「大丈夫か」手を取って
三原を起こしたら、俺よりひどくやられてる感じがした。

不思議なのは、さっきまでは晴れてたのに、大きな黒雲が頭上にのしかかってて
今にも雨になりそうだったことだな。気味が悪かったんで「帰らねえか」と
言うと「ああ」三原も顔をしかめながらうなずいた。でな、田んぼに出ると、
道の脇で軽トラがひっくり返って用水路に落ちてた。「あ、事故だ」深い側溝を
のぞき込むと、作業着の初老の男性が泥の中に仰向けに倒れてたんだ。
頭から血が出て、目をつぶったまま小さく何か言ってた。
「助けてくれ」だと思った。俺が「誰か人、呼んできます!」叫ぶと、
その人がギッと目を開け、俺らのほうを見て「お前らのせいだあ!!」
って叫んだんだよ。「わああ」俺と三原は走って逃げた。ああ、もちろん
大人に知らせるつもりだったが、誰とも会わなかったんで、辻の公衆電話に
駆け込んで110番した。警察にたどたどしく事情を話すと、

今から行くからボクたちもそこにいて、ってことだった。わりとすぐ、
パトカーと救急車が来たんで手を振った。パトカーの後部に乗せてもらって
田んぼのとこまで行くと、やはり軽トラが転がってた。俺らも下り、
おそるおそる側溝をのぞくと、さっきの人はうつ伏せに姿勢が変わってて、
泥水の中に顔を突っ込んでた。ピクリとも動かず、生きてはいないと思ったよ。
そんとき、土砂降りの雨になったんだよ。俺らはまたパトカーに避難し、
応援のパトカーが来て、俺も三原も家まで送ってもらった。家には耳の遠い
バアサンしかおらず、しかたなく宿題をやった。やがて家族が帰ってきて、
夕食のときに警察から電話がかかってきた。電話に出た親父は、「いいことした
みたいだな、警察が感謝してるぞ」って言ったが、俺にはまったくそう思えなかった。
あれ以来、俺も三原もオイサキ様の話題は避け、俺は一度も行ってない。

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鳥屋さんから聞いた話

2020.01.19 (Sun)
自分(bigbossman)の知り合いに水沼さんという30代の男性が
いまして、この人はいわゆる鳥屋さんなんです。鳥屋といっても、
ペットショップ関係ではなく、本業はミニコミ誌の編集者です。
バードウオッチャーが自分たちのことを称して鳥屋と言ってるんですね。
水沼さんはほんとうに野鳥観察が大好きで、年に50日以上は
山に入ってるそうです。まあ編集者の場合、雑誌の校了の期間は
忙しいですが、ひと月のうちぽっかりと暇になる時期もあるので、
そういうことができるのかもしれません。自分が京都に遊びに行ったとき、
たまたまお会いして、嵐山にある甘味処でお話をうかがいました。

「どうもお久しぶりです。どうですか、最近も鳥を見に行ってますか」
「ええ、もちろん。つい3日ほど前も行きましたよ。ほら、僕ら編集者は、
 校了期間は徹夜の連続になるし、精神的にもかなりキツイんです。
 だから、それが終わると自然の中に逃げ込むんですよ。それとね、
 ずっとマックとにらめっこでしょ。目が悪くなりそうなんで、
 野山の緑を見るようにしてるんです」 「ははあ、ご存知だと思いますが、
 自分は怖い話のブログをやってまして、バードウオッチングで
 何か怖い目に遭ったことはありますか。あ、遭難とかじゃなく、
 オカルト的なことで」 「うーん、そうですね。なくもないですよ。
 僕らが行くのは、いわゆる里山なんです。どこにでもあるような低山。
 登山が目的じゃないし、また標高が高くなるほど鳥の種類も少なくなる」

「ははあ」 「鳥に関しては怖い目に遭ったということはないです。
 鳥が巣作りしてるのは落葉広葉樹帯です。杉や松林じゃなく、
 雑木林なんですが、そうすると、ニホンザルの生息地と重なってる
 場合が多いんです。でね、そのニホンザルに関してなら、
 奇妙な話がいくつかあります」 「あ、ぜひお聞かせください」
「ニホンザルは日本のどこにでもいますけど、寒い地方と暖かいところでは、
 毛の長さが違うんです。まるで別種に見えるくらい違う。それと、
 やつらはオスのボス猿を中心に群れを作って生活してますよね」
「そうみたいですね」 「メス猿が産まれたばかりの子どもを抱いてる
 とこなんか、まるで人間みたいです。けどね、やつら、得体のしれない
 面があるんですよね」 「ははあ」 「あれは北関東に単独で出かけた
 
 ときのことです。渓流をちょっと登った、標高は数百mのあたりです。
 ねらってた鳥の写真は十分に撮れて、もう帰ろうかってころでした。
 山の斜面に細い登山路があるんですが、そこをぞろぞろニホンザルが
 降りてきたんです。驚きました。ふつう、やつらは樹上を跳び移って
 移動するんですけど、そのときは地面を歩いてましたから。でね、
 僕はやつらを驚かせたくなかったんで、木の陰に隠れて見てたんです。
 けど、やっぱ臭いで気づかれたんでしょうね。先頭にいたオス猿が
 キーッという声を出すと、みながバラバラに散って近くの木に
 登ったんです」 「それで?」 「サルたちが樹上から自分の様子を
 うかがってるのがわかったので、そろそろと山を下ろうとも
 考えたんですが・・ でも、サルがそろって下りてきた山に

 何があるのか気になるじゃないですか。それで、サルたちの気配が
 消えたのを見はからって、細い登山路を登ってみました」
「そしたら?」 「高さにして300mくらい登って、何もないんで
 戻ろうとしたとき、ふっと木の間に赤いものが目についたんです」
「何でした」 「人です。50代くらいの女性だと思います。
 立ち膝の状態だったんですが、声はかけませんでした。
 ひと目で生きてないってわかったので」 「遺体ってことですか」
「ええ。こっちを向いた顔には両目がありませんでした。黒い穴になってて、
 腐って溶け落ちたんだと思います。あと、むき出しの腕はほとんど
 骨になってました」 「でも、立ち膝って言いましたよね」
「ええ、気味悪かったですが、遺体を見つけたら通報するのが義務ですから。

 近づいてみると、背中と服の間に細い木がはさまってて、
 それで立ち膝に。無理やりそういう姿勢にさせられてるってことです」
「うーん、サルがやったんでしょうか?」 「おそらくそうだと思います。
 その遺体の前には果物とか木の実が山と積み上げられてましたし」
「サルたちがお供えをした?」 「たぶん」 「で、どうしました」
「地元の警察に連絡しようとしたんですが、携帯は圏外でした。
 で、通じるとこまで下りてったんですが、木の上にサルがいるんですよ。
 で、僕のほうに尖った枝とかを投げつけてくる。ほら、ここ傷に
 なってますが、そのときのものです」 「うーん、で?」
「怖くなって走って逃げました。すると樹上のサルたちが一斉に
 キイキイキャアキャア叫びだして、一時はどうなることかと思いました。

 でも、林を抜けるとそれ以上は追ってこなかったんで、
 そこで警察に通報して、来るのを待ってたんです。2時間以上かかりました。
 そのうちに日が暮れてきて、ああ、変な好奇心を出して見にいかなきゃ
 よかったって後悔しましたよ」 「それで?」 「地元の署の警官が
 2名来たので、事情を話し、遺体があるとこへ案内したんです」
「サルは?」 「そのときは妨害はありませんでした」
「で?」 「さっきの場所に行ってみたら、遺体はなくなってました。
 場所を間違えたわけじゃありません。サルたちのお供えはそのまま
 残ってましたからね」 「うーん、サルたちが移動させたんでしょうか」
「たぶん」 「何のために?」 「わからないですけど、あの遺体で、
 サルは神様ごっこみたいなことをしてたんじゃないかと思うんです。

 その山の麓には新興宗教の本部があって、観音像なんかがありましたから」
「サルがそれを目撃してマネをした?」 「そうじゃないかと思うんです」
「その後は?」 「警察は僕の言うことを信じてくれたみたいです。
 僕が証言した、遺体が着てた服が、前年に山菜採りで行方不明になった
 主婦のものと同じだったようで」 「うーん、じゃあその遺体はまだ、
 サルたちの神様になってる?」 「いや、あれから2年たってるので、
 さすがにもう骨だけになってボロボロだと思います」
「なるほどねえ、その亡くなった方にとっては、供養になってるのかも
 しれませんね」 「あ、そう考えるとそうかもしれません」
「他にないですか」 「まだあります。あれは中部地方の山に行ったときで、
 単独行じゃなく、ネットで知り合った地元のバードウオッチャ2人と

 いっしょだったんです」 「で」 「そのときは、 サシバやノスリ
 なんかをねらって、いい写真がたくさん撮れました。
 やはり、地元の人は穴場をよく知ってるんです。で、その帰り、
 もうすぐ森から出るってときに、頭上でサルたちが騒ぎはじめたんです。
 最初はキイキイ言ってたのが、ウオーウオーってうなるような
 声に変わりました。群れ全体でウオーって。あんなの聞いたことがないです」
「どうなりました?」 「それ聞いて、地元の2人の顔色が変わりまして。
 登山路のわきで、それぞれ自宅に電話したんです。
 一人はすぐに家の人が出ましたが、もう一人は家とは連絡が取れず、
 急いで下山してると、連絡が取れなかった人に電話がかかってきたんです」
「なんと?」 「自宅が火事になってるって」 「う」

「これは後で聞いたことですが、火事の原因はいまだに不明のようです。
 幸い、家族はそれぞれ出かけてて、自宅には人がいなかったんですが、
 全焼だったそうです」 「これも不思議な話ですよねえ。サルが教えて
 くれたってことですか」 「その人の家は山に近いとこにあったので、
 もしかしたら上から火が見えたのかもしれませんが、さすがに、
 サルがそれを教えるってことはないと思います。けど・・・」
「けど?」 「言われてみれば、あのときのサルの声、消防車のサイレンに
 よく似てたんですよ」 「うーん、火が出てるのを見つけたサルが
 伝言ゲームみたいにして山の中まで伝えたってことでしょうか。でも、
 その人の家だってわかるとも思えないですよね」 「ええ」 「いや、
 貴重なお話ありがとうございました。これ、ブログに書いてもいいですよね」







眷属の話

2020.01.16 (Thu)
あ、どうも、辻と申します。よろしくお願いします。
今年、大学の4年生になります。あ、就職のほうはなんとか
内定をもらってます。それで、大学は東京ですけど、
実家は〇〇県の□□市なんです。ええ、北関東の。
そこにある神社のお使いの話をします。少し調べたんですけど、
お使いは、正式には眷属って言うらしいですね。
その神様と関係の深い動物の場合が多いみたいです。
ふつうの小さい神社は、境内にある狛犬が眷属を務めてるん
だけど、大きな神社だと、鹿、猿、狼、龍なんかが眷属に
なってることもあります。そういう場合、狛犬のかわりに
その眷属の像が造られてたりするんですね。

ああ、すみません。こういう話は、ここのみなさんならよく
ご存知ですよね。その神社、名前を出すのは控えさせていただき
ますが、眷属がカラスなんです。これは神社の本社がそうだから
だと思います。ほら、日本神話で、神武天皇の道案内をしたという
三本足の八咫烏。その神社は、摂社の中でも大きなほうで、
海沿いにあるんです。まわりは運動公園になってて、
野球場、サッカー場なんかが並んでる中に、けっこう広い杜が
残ってて、その中に。はい、僕の実家も比較的近くにあります。
ですから、子どもの頃からよく両親にその神社に連れてかれました。
産まれて間もない赤ちゃんの頃から。七五三もその神社で
やりましたし、小学生のときはお祭りのお神輿も担いでました。

で、いつからなのかなあ。はっきりとはわからないんですが、
その神社の大鳥居の上に、巨大なカラスがいつもとまってることに
気がついたんです。そうですね、大きさは2m近くあったと思います。
人間の背丈より高く、ふつうのカラスの数十倍大きい。
まだ幼児だったときに、そのときいっしょにいた父親に、
「あそこに大きなカラスがいる」って言ったんです。
鳥居を見上げた父親は、「そうか、いないように見えるけどな。
 ここの鳥居は、カラスがとまらないことで有名なんだ。
 カラスたちは神様のお使いだから、神社の神様に遠慮して、
 鳥居にとまらないようにしてる」だいたいこんな内容を、小さな
子どもにわかるように説明してくれたんです。

はい、そのカラスが見えるのは僕だけみたいなんですね。
このことは母親にも、小学校のときの友だちにも話したんですよ。
でも、誰もが「いない、見えない」って。ただ、その神社の神主さん
だけは、僕の言うことをわかってくれました。
いつだったかのお祭りのとき、神主さんが近くにいたんで、
「鳥居に大きなカラスがいつもいますよね」って言ってみたんです。
そしたら、神主さんはすごく驚いた顔になって、「ほう、ボク、
 それが見えるのかい」って。それで、初めて自分以外にも
見える人がいるのかと思って、息せき切って話したら、
神主さんは「いやあ、残念ながら私には見えないんだよ。
 ただ、いることは知ってる。ボクのほうが正しいんだよ」

そして僕の頭をなでてから、続けて「でもそれは、あんまり人には
 言わないほうがいいな。ほとんどの人には見えないんだから」って。
それからは人には話さないようにしてました。どうして、
そのカラスが僕だけに見えるかの理由はわからないです。
うちの父方の祖父は、その神社の氏子代表の一人だったんです。
でも、早くに亡くなってて、父親の代からは一般の氏子に戻って
ました。もしかしたら、おじいさんにも見えたんじゃないかなんて
思うこともありますが、わからないですね。他には心あたりはないです。
あ、肝心のカラスのことをあんまり話してないですね。
鳥居に向かって、中央やや右寄りの同んなじ場所にいつもいました。
それで、ピクリとも動きません。羽づくろいどころか、

頭を動かすことさえしなかったです。まるで彫像みたいなんだけど、
羽毛や目の光なんかを見るかぎり、生きてるものとしか思えませんでした。
足は3本ありました。そのうち左右の2本で、がっしりと鳥居をつかみ、
一本はつねに浮かしてましたね。・・・前置きが長くなってスミマセン。
ここから本題に入るんですが、このカラスが鳥居以外の場所にいるのを
2回見たことがあるんです。1回目は、小学校5年生のときの
お正月でした。初詣に行ったんです。その年は、紅白を見て年越しそばを
食べると家族みんな寝てしまって、初詣は2日の午後になったんです。
でも、行列ができるほどじゃなかったけど、そのときも神社は
だいぶ混雑してました。歩きで行って鳥居が見えてくると、
いつものように大カラスの姿を探したんですが、いないんですよ。

こんなことは初めてで、びっくりしました。鳥居へと続く道は両側が
駐車場になってて、たくさん車がありました。キョロキョロあたりを
見回してたら、いたんです。大ガラスは、やや離れたところにある
一台の車の上にとまって、上からガッツンガッツン、その車の
屋根を突っついてたんです。あ、ガッツンって言いましたけど、
音はしてなかったと思います。でね、当時は僕、車の車種なんて
よくわからなかったんですが、白いSUVでした。
どうしてカラスが鳥居を離れたのか、なんで車の屋根にとまって
つついてるのか、わけがわからなかったです。僕が立ち止まってると、
父親が「置いてくぞ」って言ったんで、あわてて後を追いながら
何回かふり返って見たけど、カラスはずっとそうしてたと思います。

でね、その意味がわかったのは2日後の新聞を見たときです。
いや、テレビのほうが先だったかな。地元の高校生のグループが
自損事故を起こしたんです。男女5人が海岸沿いの道を走ってて、
運転を誤って堤防から砂浜に転落したって出てました。
運転してた男子生徒は無免許で、即死だったみたいですが、
他の4人はフロントガラスを破って浜に投げ出されたりしたのに、
ケガだけで済んだんです。後の証言で、全員が飲酒してたとも
出てましたね。その事故車の写真が、新聞の地元版に出てたんですが、
それが僕には、駐車場でカラスがつついてたのと同じに思えたんです。
いや、違うかもしれないんですけどね。あと、もし同じ車だったとしても、
カラスが屋根をつついてたのが、事故のことを警告してたのか、

それとも怒ってたのか、そのあたりのことはわからないです。
運転者が死んでるので、やはり怒ってたのかもしれません。で、2度めに
カラスが鳥居を離れたのを見たのは、あの日の前日の夕方です。
僕は中学生になってて、吹奏楽部に入り毎日練習があったんですが、
卒業式が近かったんでその日の練習は早めに終わって、4時半頃に家に
向かってました。そしたら、頭上を何か大きなものが飛んでいることに
気がついたんです。そんなに高くないところでした。あのカラスです。
普通の鳥とは考えられない異様に大きい影が、ゆっくりと町並みから湾岸道路、
それと、夏は海水浴場になってる浜を、円を描くようにして飛んでたんです。
神社のカラスだ、とすぐに思いました。けど、誰も上を見上げたり
してる人はいないし、やはり見えてるのは僕だけなのか。飛んでいる姿を

見たのは初めてでした。あの車のときも、屋根にとまってたわけですし。
雄大な感じというより、すごく不吉な気持ちになったんです。何かが
起きるんじゃないかって。カラスは、僕が外にいる間ずっと、大きな弧を
描いて旋回してました。もうおわかりですよね。翌日の午後、あの地震が
起きて津波がきたんです。幸い、僕らの市は他のところに比べて被害は
少なかったです。海岸が長い遠浅の浜になっていたからかもしれません。
家族にも被害はありませんでしたが、津波で神社の大鳥居は倒れてしまい
ました。その後、3年くらいたって僕が高校生のときに鳥居は再建され、
見に行ったんですが、もうカラスはいなかったです。もしかしたら、
神社には神様もいないのかもしれません。あのとき・・・
僕に何かできることがあったんだろうかって、今でも考えてしまいますよ。






老人アパートの話

2020.01.12 (Sun)
南といいます。この2ヶ月の間に俺の身に起きたことを話そうと思って
ここに来ました。複雑なことはしゃべれないんで、実際にあったことだけ、
時間を追って話していきます。2ヶ月前にね、長期間やってたバイトを
辞めたんです。本筋には関係ないけど、中古家電屋の店員だったんです。
4年以上やってて、正社員になるって話も出てたんだけど、
ちょっと事情があって。それからは、なかなかいいバイトがなくて、
短期のやつをぼちぼち入れてました。そしたら、生活が苦しくなってきて。
貯金なんてほとんどなかったですから。それで、支出を切りつめようと
思いました。といっても、食費はもとからそんなにかかってないし、
光熱費たってたかがしてれてます。一番大きいのがアパートの家賃なんで、
これが何とか出来ないかと思ってね。ひと間なんだけど、分不相応に、

俺にしてはちょっと高いとこに住んでたんです。手近な不動産屋を
何件か回って、格安物件を探したんです。そんときはまあ、
部屋は寝れればいいやと思ってました。仕事が安定すればまた移れる
わけだしね。で、3件目に行った不動産屋で、バス・トイレ・キッチン
つき6畳で、家賃が2万5千円という破格のとこを見つけたんです。
こう言うと、みなさん、今にもつぶれそうなボロアパートって
思うかもしれないけど、見せられた物件の画像は、
部屋の中だけだったけど、すげえ新しかったんです。不動産屋の
話だと、築7年ってことでした。でもね、そうするとますます怪しい。
そのあたりの相場だと、どう考えても4万は下るはずがないんです。
そう思って、単刀直入に聞いたんです。

「ここ、訳あり物件ってやつですか?」って。ほら、よくホラーマンガ
とかに、前の住人が自殺したり、孤独死で長い間発見されなかったりって
事情があって、異様に安くなってるところ。そのかわり、
もれなく幽霊がついてくるってやつ。いや・・・あのね、俺自身、
幽霊なんてまったく信じてなかったんです。だから、そういう話だったら、
めっけ物だって思ったくらいで。ところが不動産屋は、にこにこ顔で、
「ああ、やっぱりそう思われますよねえ。けど、われわれにも
 告知義務というのがありまして、そういう情報をお伝えせず、
 お客様とトラブルが起きると、裁判で負けてしまうんです。
 はっきり言いまして、あの部屋で亡くなった方はいません。
 その点は心配する必要はないです。住人の方はひんぱんに替わられては

 いますが、これは学生さんが多かったからでしょう」
こう言ったんです。俺がけげんそうな顔をしてたからでしょうか、
続けて「ただね、特殊な事情がないわけではありません。
 アパートは2階建てで、部屋は12ありますが、住人の方の
 ほとんどは高齢者なんです。あ、でも、みな身元のしっかりした方で、
 生活保護なんかではありません。今は、そういう人たちがまとまって
 住んでるとこもありますが、それとは違いますから」って説明をしたんです。
それ聞いて、高齢者かあって、ちょっと考えました。だってね、そういう人たち
って世話好きというか、いろいろ干渉してくるかもしれないじゃないですか。
そしたら不動産屋は、こっちの気持ちを見透かしたかのように、
「その方々、昼は全員がある施設に行ってて夜にならないと戻って

 こないみたいですよ。それに全員が健康そのもので、その点でも
 お客様がご心配するようなことはないかと」まあ、ここまで言われたんで
契約することにして、さっそく前のとこをから移りました。
引っ越ししたのは午後ですが、他の住人の姿は見なかったです。
ふつうほら、引っ越しだとわかれば窓からのぞいたり、出てきてあいさつしたり
するもんじゃないでか。ところが、そういったことは一切なし。しんと静まり
返ってて、誰もいないみたいなんです。部屋はね、不動産屋の画像のとおり、
新しくてきれいで快適でした。しかも2階の角部屋で日当たりもいい。
あと、最初から大型のエアコンがついてました。聞いたことのない
メーカー名だったけど、かなり強力そうな。で、こうして俺の新しい生活が
始まったんですが・・・ あ、一つだけ、このときに気づいたのが、

押入を開けたときに妙な臭いがしたことです。いや、嫌な臭いってことじゃなく、
それまで嗅いだことのない、異国的っていうのか、そういう臭いで、
何かのお香のように思いました。でもね、そんときは気にしなかったです。
押入だから、虫除けとかの臭いだと思って。その夜ですね、
アパートの前が少し騒がしかったんです。うるさいってほどじゃないけど、
ドアを開けて廊下に出てみると、前の道路にマイクロバスが停まってて、
老人たちがぞろぞろ降りてくるとこでした。全員が男で、80歳前後に
見えましたね。それで、ちょっと驚いたのが、みな夜会服って言うんですか、
高そうな黒い服、それを着てたんですよ。ここで、住人は日中、
どっかの施設に行ってるって不動産屋の話を思い出して、その帰りだと
思いました。ジロジロ見てるのは失礼と思ったんで、

引っ込もうとしたら、バスから降りた道路の老人たちは、横一列に
並ぶようにして、全員が一斉に顔を上げて俺に深くおじぎしたんですよ。
あっけにとられたんですが、とにかくおじぎを返しました。
それから、老人たちはそれぞれ各部屋に入っていったんです。でね、俺、
いちおう隣にはあいさつしなきゃと思って、安いタオルを買ってたんです
角部屋だったので、着替えた頃を見計らって隣のドアをノックすると、
ガウンに着替えたおじいさんが出てきて、「それはわざわざ申しわけない。
 少し上がっていきませんか」みたいな話になって、普通はね、
玄関先ですませるんですが、さっきのバスのことが気にかかってたんで、
ちょっとだけ上がらせてもらいました。中は俺のとことつくりが同じ
6畳。キッチンからはみ出すようにして大型冷蔵庫があったんです。

それとね、驚いたのが、その冷蔵庫の上に、金色の大きな大黒様の
像がのってたことです。人間の3歳児くらいはありました。
俺がびっくりした顔をしてると、おじいさんは・・・村田って名前でしたが、
「ああ、あれね、驚いたでしょうけど縁起物なんです。私たちの会で
 信心してる。このアパートのどこの部屋にもありますよ」って。
これ聞いて、少し警戒しました。もしかして新興宗教かなにかで、
俺もそのうちさそわれるんじゃないかって。村田さんはその考えを
察したようで、「いやあ、これね、ほら、ピンピンコロリって言うじゃ
 ないですか。できるだけ元気でいて、苦しまず、家族の迷惑にならない
 ようコロッと亡くなるっていう信心。まあ、そういうことを願う
 会なんです。だからメンバーも後期高齢者ばかりで」

そう聞いて少し安心しました。俺はまだ30歳過ぎたばかりですからね。
誘われることはないだろうって。その後、村田さんは高級ブランデーを
出してきて、一杯だけごちそうになりました。その夜です。
12時過ぎに寝たのかな。夢を見ました。俺が寝ている布団の上に、
何か大きなものがいる。でもね、胸とかにのっかられてるわけじゃないから
苦しくはない。そのものはだんだんに明るくなってきて、金ピカに
輝き始めた。あの大黒様だと思いました。ただ、顔が村田さんによく似た
年寄りで、しわだらけ。起きようとしても体が動かない。大黒様は体が
金属でできてるロボットのような動きで、背中の袋を前に持ってくると
俺の顔にかぶせたんです。真っ暗になって、ふっと気が遠くなりました。
目が覚めるともう朝になってて、あと、ここが重要なんですけど、

寝る前に止めてたエアコンがついてたんです。たしかに消したのが、
除湿モードになってました。でね、体調が最悪になってたんです。
頭が重い、体がだるい・・・痛いとこがあるわけじゃないんですけど、
倦怠感っていうんですか、とにかくだるくて動けない。
その日はバイトの面接があったんですが、行けないで午前中ずっと
布団に横になってました。でも、このときは夢と関連があるとは
思わなかったんです。夢に出てきた大黒様は、村田さんの部屋で
見たものが頭に残ってたんだろうって。けど、この夢、それから1週間に
1度ずつ見たんです。まったく同じなんだけど、ただ大黒様の顔だけが、
みな別の老人になってて。いや、これもね、アパートの他の住人たちだとは
考えませんでした。村田さん以外の人とはほとんど会わなかったですから。

で、その夢を見た翌日は体調が最悪で。俺ね、健康だけは自信あったのに。
あと、夢を見た翌朝、何故かエアコンがついてるのも同んなじでした。
バイトもなかなか決まらず、どんどん貯金が減ってって。
そうしてるうち、夢を見ない日も具合が悪くなってきたんです。
何もやる気が起きない。動きたくない。で、無理に動くと体がよろよろで、
俺が老人になったみたいでした。病院にも行きました。検査では、
貧血の数値がやや悪いが、その他は問題ないってことで、
鉄分不足と言われたんです。ほうれん草をとりなさいとか。
まあね、食事はカップ麺やコンビニ弁当でしたから、そう言われると
思いあたる節はある。そうして2ヶ月たつと、とうとう起きれなく
なりました。で、その晩も夢を見たんです。金色の大黒様が出てきて、

俺の顔に袋をかぶぜる・・・このままじゃマズい、って思ったんです。
思い切って上半身をひねり、すると体が動いたんで袋を跳ね上げました。
そしたら、大黒様の体をした老人が、口をすぼめて俺のほうに向け、
チュウチュウ吸うような仕草をしてたんで、「やめろ!!」と
大声が出たんです。老人は驚いた表情になり、一瞬で小さく縮んで、
ひゅ~っとエアコンのほうへ飛び、吸い込まれて消えた・・・
エアコンはそのときもついてて、カタカタ異音を立ててました。
頭にきてイスに乗り、表のカバーを引きはがしたんです。何があったと
思いますか。大黒様ですよ。15cmくらいの金色の大黒様。村田さんの
部屋で見たもののミニチュアが中央にはさまってて、口をすぼめ、
穴が空いてて、そっから空気を吸い込んでるように思ったんです。

「何だこれは!?」わけがわかりませんでしたが、急に怒りがわいてきて、
大黒様をつかんで機械から外し、居間に投げました。すごい重さで、
床にあたってゴッツンという音を立てたので、もしかしたら本物の
金製だったのかもしれません。そのときにはもうわかってました。
俺の体調が悪いのはこいつのせいなんだって。何と言えばいいですかね、
俺の生気? それを、夢を見るたびにこいつが吸いとってた。
だから翌日はものすごく体調が悪い。もうここにはいられない、
そう思って、財布とスマホだけ持って外に出ました。階段を降りて
アパートを見上げると、各部屋の玄関の窓に次々明かりがついたんです。
ほぼ同時に老人たちが出てきました。廊下に立ち、そして俺のほうを見て、
にこにこと笑いながら、深々とおじぎをしたんですよ。






井戸神の話

2020.01.06 (Mon)
あ、どうも、木村と申します。じゃ、話していきますけど、
いろいろヤバイんですよ。ここんとこ2日寝てなくて。ここは
霊とか神様とか、そういうことに詳しい人が集まってるって
聞いてきたんで、もし何か解決策とかがあったら教えて下さい。
俺、都内の大学の3年です。いや、大学名はかんべんしてください。
あんまり優秀なとこじゃないです。でね、今年の夏休み、盆過ぎに
廃村探索ツアーってのをやったんです。バカみたいですよね。
でもね、もうすぐ就職活動しなくちゃなんないし、
そういうバカできるのも今のうちだって、話がまとまって。
行った先は、北関東のほうです。ネットのサイトにね、廃村地図とか
載ってて、それで見つけました。都内からだと車で2時間。

免許持ってるやつがいたから、レンタカー借りて。ついでにね、
キャンプ道具も借りたんです。バーベキューできるセット。
あとは炭とか、安い牛肉とかを買い込んで、1泊の予定で
出発しました。あ、寝る場所はね、ネットに載ってた写真を見れば、
廃村と言っても、建物は比較的新しかったんです。
ちゃんと屋根もトタンで、藁葺の農家ってわけじゃない。
だから、空いてる家のどっか部屋にでも入って、まだ8月だし、
寒いってことはないから、タオルケットでもかけて寝ようって。
実際、むしむしと暑かったです。え、許可? いや、そんなの
取ってないです。まあねえ、廃村っても土地の所有者とかいるん
だろうから、本当は取るべきだったんでしょうけど、

でも、目的を言えば許可されないと思ったし。行ったメンバーは
4人です。俺とあと同じ学部、同じ学年の友人が3人。
昼過ぎに出発して、場所はナビに入れてあったんで、すぐ着きました。
迷うことはなかったです。ただね、そこ、雰囲気が悪かったんですよ。
それはすぐわかりました。山に囲まれた小盆地で、閉鎖的な感じが強くて。
少しは調べたんです。そこが放棄されたのは昭和20年代、
戦争が終わって、これから人口が増え、高度成長期になるってときに
放棄された理由はよくわかりません。ただ、そんなに戸数はないんです。
家の数は20を切るくらい。だから、廃村って言うより廃集落のほうが
近い。不便な場所だったので、立ち退いたんだろうくらいに思ってました。
人の姿はまったく見かけなかったです。2日間で1人も。

まあでも、平日だったし、何か用があってくるようなとこじゃないし。
でね、1軒の比較的壊れてない家の前に車停めて、まずは探索しました。
中には玄関から簡単に入れて、荒らされてる様子はなかったです。
床にホコリが厚く積もってましたけど、足跡は俺ら以外のはなくて、
誰も入ってないってわかりました。そんなだから、都市部の廃墟みたく
スプレーの落書きとかもなし。居間にはちゃぶ台とかがそのまま
残ってて、カレンダーはなかったけど、日めくりが昭和26年の
8月15日でとまってましたね。中はすごく暑かったです。
それから外を回りました。庭はけっこう広く、縁側に面して
池があったけど干上がってました。あとね、井戸があったんです。
ポンプ式じゃなく、桶で汲み上げるやつだと思いますけど、

埋められてました。仲間の一人がそれ見て「ははあ、作法どおりだな」
って言いました。そいつ、民俗学のゼミを取ってて、そういうことに
けっこう詳しんです。「井戸を埋めるときは神事を行って、
 井戸神を封じなくちゃならない。まあ、それまで世話になったお礼を
 するわけだ。井戸ってのは、地下の川から水を汲んでるわけだから、
 完全に埋めるとどっかであふれてしまう。だから、最初に大きな
 岩を入れ、その後に瓦礫を入れる。あと、井戸神様が息できるよう、
 節を抜いた青竹を差しておくんだよ、ほら」そいつが指差した先に、
たしかにそれほど太くない竹の頭が見えました。あとね、井戸枠の
四方に塩が盛ってあったんです。あ、言い忘れてたけど、その井戸、
枠が貞子の映画に出てくるような丸型じゃなく、四角い形でした。

「でも変だな」って別のやつが言い、「この塩、さらさらして、
 しかも三角に盛った形が崩れてない。露天なんだから、雨も降るし、
 台風だってあっただろ。そんな昔のものがずっと残ってるのは変じゃね」
たしかにそう思いました。「うーん」でね、それから隣りあった
2軒を回ったんですが、やはりどっちも庭に井戸があり、
封じられて新しい塩がのってたんです。「こりゃあれだな、昔ここに
 住んでた人がときおり来て、塩を置いてるんだろ」 「昭和20年代から
 ずっとやってるのかねえ」 「そうとしか考えられないだろ」
まあでも、そういうこともあるだろうって。そしたらね、別の一人、
そいつ岡田って名前にしておきますが、かがみこんで青竹の頭に口を
つけ、息を吹き込んだんですよ。「あ、やめろ」 「大丈夫だよ」

そいつが言うには、詰まってる感じはなく息が通った気がするって。
ただ、古い空気でも吸い込んだのか、べっべっとしきりにツバを吐いてました。
あとね、変なことに気がついたんです。「静かだよな。フツー今どき、
 セミとか鳴いてないか」そう言われると、たしかにね、東京でも、街路樹に
セミがいてうるさく鳴いてましたからね。「ああ、気味悪いほど静かだ」
それでちょっと空気が沈んだんで、まだ早いけどバーベキューを始めたんです。
車から道具を出して、安肉とソーセージ類、野菜はタマネギだけ。
ビールも飲んで腹いっぱいになりました。途中、さっき竹に口をつけた岡田が、
「井戸神様にも捧げものしなきゃな」とか言って、長いソーセージを
持ってって、竹筒に押し込んだんですよ。「やめろよ、詰まるぞ」
そしたらやっぱ詰まって、落ちてた木の枝とかを差し込んだりしてましたが、

「ダメだな」って戻ってきました。日が落ちてもすごい暑さで、
気温はまだ30度ちかくあったと思います。「なあ、外で寝ないか。
 雨は降りそうもないし、ここにブルーシート敷いて」 「え、ヤブ蚊とか
 いるだろ」 「さっきから虫とか一匹も見てないぞ」 でね、結局そうしました。
炭火コンロをガンガン焚いて、持ってきた蚊取り線香とかも入れて。
それからずっと酒飲んで、寝たのが11時頃ですね。ええ、野外です。
とにかく暑くてタオルケットとかもかけませんでした。でね、朝方かな
夢を見たんです。俺、暗いせまい座敷みたいなとこに正座してて、
椀を持ってました。椀の中には、ミミズより少し細い黒い虫が山盛り・・・
椀を投げ出したいんだけど、なんか周囲を囲まれてるんですよ。いや、誰とは
わからないけど。でね、そいつらが無言のプレッシャーで「食え、食え」って。

逆らえなくて、しかたなく口に持ってったとき、目が覚めたんです。
今思えば、あれ喰わなくてよかった。もうすっかり明るくなってて、でも、
やっぱ鳥とかも鳴いてない。すぐ近くに2人寝てましたが、岡田の姿が見えず、
立って探したら、あの井戸の縁にもたれて寝込んでたんです。そんときは、
「あー、あんな酔っ払って」としか思わなかったんですが、
背中を揺すって起こそうとしたとき、うつ伏せになってた岡田の口の端に
黒い虫の尾が見えたんです。ええ、夢に出てきたやつとそっくりの。
「うあ!」と離れると、虫はチュルッと岡田の口に入ってって・・・
いやあ、今思えば本当に見たのか怪しい気もしますけど・・・ 「うー」と
伸びをして、岡田は普通に起きてきました。でね、みな起きて、
二日酔いで具合悪かったんで、コーヒー沸かして飲んだんです。

それからは集落を回って動画撮って帰ってきました。全部の家に入りましたが、
半分以上に井戸があって、同じように封じられてました。盛り塩も同んなじ。
「やっぱ誰かが世話してるんだろうよ」そういう結論でした。
でね、帰りの車の中で、誰言うともなく、「虫を食わせられる夢見た」って
話が出て。「あ、俺も見た」 「俺も、気味悪い黒いヒルみてえな虫が
 椀に山盛り」 「それも同じだ」 「食ったか?」 「いや、食う前に起きた」
確認すると、細部もそっくりだったんですが、見てないやつが一人いました。
岡田です。「お前らなあ、気にしすぎだぞ。昨夜だって真っ暗になったけど、
 何も出なかっただろ」そう言ってました。たしかに、夜に撮った動画にも
おかしなものは映ってなかったです。それでね、その動画、戻ってから
2日後に、俺の部屋に集まって確認したんです。

そのときに岡田も来るはずだったのが来ない。スマホは圏外で、
やつの部屋の固定電話にかけてもずっと呼び出し中で。だからその後に
みなで岡田の部屋に行ってみました。もう夜になってました。アパートの
玄関の鍵がかかってなくて、「開けるぞー」と言いながらドアを開いたら、
中の戸も開いてて、倒れてる岡田の足が見えたんです。仰向けで、
カエルのように腹がふくれ、死んでるんだと思って救急車を呼んだんです。
岡田の頭のまわりに、醤油や酢、ソースなんかの調味料の容器が空になって
散らばってて、あとね、1Lの飲料水のボトル、これが20本以上。岡田は
やっぱ死んでました。救急隊員からいろいろ事情を聞かれ、警察も後から
来たんですが、俺らの話がすべて一致してたし、その日は放免されました。
精神がおかしくなって、自分で水とかを飲み続けて死んだ。

いや、水中毒なのかはわからないです。病院でCTを撮って、胃が裂けてる
みたいだって話も出ました。結局、自殺なのか事故なのかも不明の
ままです。おかしいと思うのは、なんで水道水を飲まなかったのかってことで、
そのペットボトルはコンビニで買ってきたものなんですよ。袋も見つかった
みたいです。でね、これは俺が直接見たんだけど、やつの台所の水道の蛇口ね、
出水口に木を削ったのを詰めて、さらに針金でぐるぐる巻きになってたんです。
何でそんなに水を飲まなきゃならなかったのか、水道を塞いだのはどうしてか。
まるでわからずじまい。警察には、あの廃村巡りのことは言わなかったです。
聞かれなかったし、話しても関係ないと思われるだろうし。それから、
特に何事もなかったけど、3日前、あのときと同じ夢を見たんです、椀に入った
虫を食わされる。いや、まだ食ってはいません。それから寝てませんから。