デッドマンの話

2018.06.18 (Mon)
※ 地震のため短い話です。

NPO法人の役員をしている沢芝さんの話。
つい1週間前のことですよ。午後の3時ころ、電車に乗ってたんです。
平日でしたけど、その日は仕事がなくて、買い物に出た帰りでした。
そんな時間帯でしたから、電車もまったく混んでなくてね。
私が乗ってた車両の乗客は10人もいなかったと思います。
私もゆっくり座って雑誌を読んでたんです。そしたら、車内放送のスピーカーから
雑音が聞こえてきたんです。ブツン、ブツンみたいな音です。
電車はそのとき、郊外の住宅地を走ってたんですが、
ギギッという音がしてゆっくり停車してしまったんです。

いや、駅でもなんでもないところでです。あれ、事故かなんかだろうかって
思ったんですが、車内放送はなかったんです。
で、停車して5分くらいして、私を含めた乗客たちも不安になってきて、
連れのいる人は「どうしたのかしら・・・」とか話を始めて。
そしたら、またブツンという音がして、車内放送が入ったんですが、
アナウンスじゃなかったんです。最初に「うがああああっ」という男のうめき声。
それから少し沈黙があって、同じ声で名前が連呼されだしたんです。
「カミカワハルカ、カミカワハルカ、カミカワハルカ」って。

すると、乗客の中の、20代後半くらいのケバい化粧をした女性が立ち上がって、
「あ、何これ、あたしの名前呼んでる」って叫んだんです。
「カミカワハルカ、カミカワハルカ、カミカワハルカ、
 カミカワハルカあああああああ おまえも来いいいいいい!」
これで放送は途切れました。名前を呼ばれた女の人はカンカンに怒ってましたね。
「何よ、事と次第によっちゃ、この会社訴えてやるから」こんなことも言ってたんです。
で、それから何の連絡もないまま、40分間、電車は停まったままでした。

さすがにしびれを切らした男性客らが運転席に向かったんですが、
中には入れなかったみたいですね。・・・このことは翌日の新聞・テレビに出たので
ご存知だと思いますけど、運転手が心臓かなにかの発作で急死してたんです。
ええ、その電車はワンマンで、車掌はいなかったんです。
電車ってのは、デッドマンブレーキというのがついてるんだそうですね。
一定時間、何の操作もなかったら緊急自動停止するシステム。

それが働いたんで、駅でもないところでずっと停まってたわけです。
まあ、私は特に用事があったわけでもないので、よかったんですけど、
急いでる人にとっちゃ災難でしたよね。それでね、さらにその翌日のニュースです。
あの電車が停まった地点の一つ前の駅で、飛び込み自殺があったみたいなんです。
もちろんニュースで名前は出ないので、女性ということしかわかりませんでしたが、
それ、もしかしたら「カミカワハルカ」って人なんじゃないかってちょっと考えまして。
いや、違うんならそれでいいんですけども。







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あるファミレスの話

2018.06.18 (Mon)
フリーのイラストレーターをしている根本さんの話。
3年ほど前、まだ学生だったころですね。あるチェーン店のファミレスで
バイトしてたんです。最初は調理補助、まあ皿洗いなんですけど、
それで入って、1年ほど続けたらレジ係に昇格したんです。
レジ係はずっと立ちづめだけど、皿洗いよりは楽でした。
やっぱ、洗剤を使ってると手荒れするんですよね。でね、調理場を出て、
店内をずっと見ていられる位置にいたんで、奇妙なことに気がついたんです。
毎月の5のつく日です。ええ、5日、15日、25日の3日ですね。
店に変なものが来るんですよ。いや、変なものとしか言いようがないんで・・・
まず最初に気がついたのは、ある月の5日の日でした。
店の窓際の奥のほうのテーブルで、時間は夜の9時ころでしたね。

その席にいたのは、両親と、中学生と小学校高学年にみえる男の子2人。
ちょうど4人がけのテーブルに座ってたんですけど、ちらっと目線をやったとき、
なんか妙な気がしたんです。「あれ?」と思ってもう一度見直すと、
まだ料理が運ばれてないテーブルの上に、頭がのってたんです。
「え、え?」じいさんの頭でした。最初は、生きた人間だと思ったんです。
そのじいさんがイスに座らないで、しゃがんでテーブルの上にアゴをのせてるって。
でも、そんなことをする意味がわからないですよね。
まさかそのじいさんだけ家族の中で虐待されてるわけじゃないだろうし。
それとね、じいさんのいる場所って窓の前なんです。
で、窓とテーブルはギリギリにくっついてる。
だから、どうやってもそこに人が入れるはずはないんです。

いや、そのときは怖いとは思いませんでした。幽霊とか、そういうものが
いるはずはないと思ってましたから。だから、次に考えたのは、
その家族が、何かの事情でロウ人形みたいなのの頭をテーブルの上に置いてる
ってこと。そういうことだってないわけでもないですよね。
例えば、映画とかお芝居の小道具かなんか。そう考えてたら、
うつ向いて、ハゲた頭頂部を見せていたじいさんの頭が、
ぐうっと持ち上がって、顔がこっちを見たんです。「!?」
ええ、生きた人間にしかみえませんでした。それで、じいさんの表情なんですが、
なんとも邪悪というか、絶対にそばに寄りたくないようなイヤーな顔で。
でね、しばらくして料理が運ばれてきたんですけど、ウエイトレスがじいさんの
頭の上にドンとステーキの皿を置いて・・・

ええ、じいさんの頭とステーキの皿が重なったってことです。
料理を運んできたウエイトレスは何も気がついてないみたいだったし、
その家族もね、じいさんの頭なんかまるでないようにして、料理をばくばく食い始めて。
で、そのときにやっと、「これって、俺だけにみえてるんじゃね」
って気がついたんです。「もしかして幽霊かなんかか?」
それでもね、怖くはなかったですよ。だって、店内は明るくて、
お客さんもたくさん入ってましたから。でね、確かめてやろうと思って、
少しの間レジから抜け出して、調理場のほうへ戻ってきたウエイトレスに、
「今、料理運んだテーブルの上に、何か変なものがのってなかった?」って、
聞いてみたんです。でも、ウエイトレスは、
「えー、気がつきませんでした」って言うだけだったんです。

あ、俺ですか。霊感があるって言われたことはないです。
だからね、何で俺だけに見えたのか、それは今もって不思議ですよ。
でね、仕事をこなしながらも、そのテーブルを注意して見てたんです。
そしたら、家族4人がだいたい料理を食い終わったあたりで、
じいさんの頭がふうっと宙に浮いたんです。そしたらやっぱり体はなくて。
じいさんの頭は4人家族の上をわりと速い動きで漂ってましたが、
中学生の子の後ろに行くと、前歯をむき出して、その子の首筋に歯をたてたんです。
いや、その子はぜんぜん気がついてないみたいでした。
それで、1分もたたないうち、じいさんの頭はふっと消えたんです。
で、その日はそれ以降、2度と現れることはなかったです。
不思議には思いましたよ。疲れてるせいで幻覚を見たのかって。

でも、あんなにはっきりした幻覚ってのもねえ。で、翌日以降は何もなかったんです。
だから、気にしないようにして、だんだん忘れていきました。
でね、15日の日です。時間も同じ9時ころ、ふっと気がついたら、
そのテーブルにまた頭があったんです。ああ、5のつく日にそれが出てくるってのは、
もっと後になってわかったんですけど。そのテーブルには、
サラリーマンらしい4人組が、つまみをとってビールを飲んでまして。
それで・・・テーブルの上にあった頭は、こないだ見たじいさんより、
なんか若くなってるように思えたんです。そうですね、最初が70代だとしたら、
2回目は50代ってところでしょうか。でも、同一人物だってことはわかりましたよ。
その後は、この間と同んなじです。4人の飲み食いがだいたい終わったあたりで、
その頭が宙に浮きあがり、中の一人の首筋に歯をたてて消える・・・

でね、その4人は、俺のところに会計に来たんです。そしたら、頭に歯をたてられた
サラリーマンは、首を回しながら、「なんか肩がこるなあ」とか言ってて。
後ろを向いたときに、首筋が赤くなってたんですよ。ね、奇妙な話でしょう。
でもね、絶対に幻覚じゃないって自信もあったんで、仕事が終わったときに、
思い切って店長室に行って、見たことを店長に話したんです。
最初は、店長は「何を馬鹿なことを」って顔で聞いてたんですけど、
俺ほら、美術学校に行ってたでしょ。で、似顔絵は得意なんです。
それで、メモ用紙にサッサッと、70代と50代の頭の顔を書いて見せたんです。
そしたら、急に店長の顔色が変わりまして。「ああ、これもしか・・・」
何か心あたりがあるみたいだったんですけど、
それが誰なのか、俺には教えてはもらえませんでしたね。

で、店長はね、翌日から、そのテーブルの下に薄く塩をまいたんです。
お客さんにはわからないくらいうっすらと。それで、10日後の25日の日ですね。
やはり9時ころ、気がついたらそこのテーブルの上に顔がのってました。
ええ、やっぱり若返ってましたよ。30代に見えるくらいに。
もちろん同じ人物だと思いました。それで、すごい怒ってたんです。
ええ、前までは邪悪な顔って言いましたけど、そのときは明らかに激怒した顔で、
四方八方店の中をねめまわしてたんです。で、そのテーブルはたまたま
空いてて、お客さんはいなかったんです。俺、怖くなってきて、
店長に知らせに行きました。「またあのテーブルに顔が来てます」
そしたら、店長は意を決したように、塩をひとつかみ持って、
そのテーブルに近づいてって。俺はそれ、離れたレジから見てたんですけど。

店長は、他のお客さんに気づかれないよう、塩をテーブルの上に置いて、
手のひらで伸ばし始めたんです。で、その手が顔にかかりそうになったとき、
顔はぐんと天井近くまで浮き上がって、そっから急降下して、
店長の首筋に頭突きするようにぶちあたったんです。
顔はそこでパッっと消えて、店長が前のめりにテーブルに突っ伏しました。
でも、何事もなかったように立ち上がって、俺のほうにもどってきて、
「どうだ、顔は消えたか?」って聞いてきたんで、「はい」って答えました。
いや、店長に頭突きをかましたことは言いませんでしたよ。
うーん、店長本人が気味悪いだろうと思ったんで。それから、
その日の終わりころ、店長が具合悪いって言い出し早く帰って、
翌日から体調不良ってことで、ずっと店に出てこなくなったんです。

ええ、もちろん、あのことと関係があるんだろうって思ってましたよ。
俺も、バイト辞めようかなって考えたんですけど、なんとなく踏ん切りがつかずに
ズルズルと続けてて。で、翌月の5日のことです。時間はやっぱ9時。
そのテーブルには、近くにある看護学校の若い女性たちが座ってたんですが、
その真ん中にダルマみたいなものが出現しました。ダルマってのは・・・
下が店長の顔なんです。うつ向いて目をつぶって涙を流してました。
その上に、店長の頭にガッと噛みついた10歳くらいの男の子の顔。
満面に笑みを浮かべて、楽しそうに店長の頭をかじってたんです。
ええ、そうです。店長が亡くなったという知らせは、翌日に届きました。
その後は・・・どうなったかわかりません。その日のうちにバイト辞めたんで。
二度とそのファミレスには足を踏み入れてないんですよね。







歯の話

2018.06.15 (Fri)
出版社に勤める30代の独身女性、Sさんの話。
2週間ほど前、最寄りの駅から、自転車で賃貸マンションへ帰ったときの
ことです。自転車置場に自転車を入れ、鍵をかけて玄関に向かおうとしたとき、
マンションの壁に近い植え込みの前に黒いものが落ちてきて、
ズドーンというすごい音がしたんです。私は驚いて数歩後ろに下がったんですが、
見ると、アスファルトの上に、うつ伏せに倒れた人の頭があって、
私のほうに何か小さいものが転がってきたんです。
それは、私の前でぴんと跳ね上がって足にあたりました。
人の・・・歯に見えました。歯茎ごと2本つながった歯。「いやーっ」思わず悲鳴を上げて、
蹴っちゃったんです。何でそんなことをしたのか自分でもわかりませんけど、
歯は飛んで、近くの格子になった蓋の間から、側溝の中に落ちたんです。

ドーンという音、あるいは私の悲鳴が聞こえたからなのか、
マンションから守衛さんが出てきて、「こりゃ大変だ」とつぶやきました。
それから救急に電話をかけ、だんだんにマンションから人が出てきて、
倒れている人を遠巻きに囲みはじめました。「飛び降りだ」という声が聞こえてきました。
私は怖くなって、自分の部屋に戻ろうとしたんですが、守衛さんが近づいてきて、
「警察にも電話したから、あなた、事情を聞かれると思う。
 落ちるところ見てたんだからね」こんなふうに言われました。
それで、いったん部屋に戻って着替えてから、1階のロビーで待機してたんです。
そのうちに救急と警察のサイレンが聞こえてきて、
1時間後くらいに警察の人が来て事情聴取されたんです。
見たことをそのまま話しました。ただ・・・

気が動転していたせいか、あの歯のことは言わずじまいだったんです。
聴取はすぐに終わって、その日は少しお酒を飲んですぐに寝たんですが、
しばらくの間、外は騒がしい様子でした。朝になって、
出勤のために自転車置場に向かいました。飛び降りの現場にはブルーシートがかかり、
回りがテープで囲まれていました。見張りなのか、若い警察官が前に一人立ってました。
そのとき、昨夜の記憶がよみがえってきて、おそるおそる、
あの歯を蹴り飛ばした側溝をのぞいてみたんです。そしたら、枯草やゴミに混じって、
底のところに白いものがちらっと見えたんです。すぐに、のぞいたことを後悔しました。
それで、立ってた警察官のそばに行って、歯のことを話しました。
警察官はしゃがんで側溝をのぞき込み、「どこですか?よくわからないんですが」
と言ったので、もう一度見ると、さっき確かに見たはずの白いものはなくなってたんです。

「すみません、見間違いかもしれません」そう答え、
警察官が側溝のフタを外そうとしているところを、自転車に乗って駅へ向かいました。
会社で仕事をして、午前中は何もなかったんですが、昼休みを過ぎたあたりから、
右下の奥歯が強烈に痛みはじめたんです。会社には医務室があるので、
行って痛み止めの薬をもらいましたが、まったく治まる気配はなく、
私が顔をしかめてるのを見た先輩が、「今日はいいから、医者に行ってこい」
こう言ってくださったので、ネットで探して会社の近くにある歯科医院に行きました。
予約ではないのでだいぶ待たせられましたが、その間にも歯はずきずき痛みました。
やっと診察の番になって、担当は若い女医さんでしたが、私が痛みを訴えてる箇所を診て、
「おかしいですね、虫歯じゃないし、歯周病とも思えませんね」
ということで、レントゲンを撮ったんです。

それから、女医さんが診察台の私に、かなり困惑した様子でレントゲン写真を見せ、
「これ、わかりますか。あなたの歯の下、歯茎の中に別に歯らしきものが
 あるように見えるんです、それも2本。
 ・・・親知らずなら、そういうこともないわけじゃないですけど、
 この箇所にあるのははじめてのケースです」確かに、そんなふうに見えました。
女医さんの話では、これは切開手術するしかないだろうけど、
ここではできないから、大きな大学病院に紹介状を書くということでした。
私が痛みを訴えると、強い痛み止めを処方されました。それを飲んで、
しばらく待合室にいると、だんだんに痛みが治まってきたんです。
それで、会社に戻って仕事の残りを片づけ、その日は早めに帰宅したんです。
マンションに戻ると、朝にあったブルーシートはなくなって、テープだけが残ってました。

夜は、歯が痛みだすことはなかったです。
それから、飛び降りのことですけど、マンションの住人の噂では、
亡くなったのはこのマンションには住んでいない女性で、11階の部屋を尋ねてきて、
ベランダから飛び降りたということでした。
その部屋に住んでるのは、30代の男性のカメラマンで、警察では、
事件、事故、自殺とも決めかねて、捜査を継続してるという話だったんです。
でも、ベランダの手すりはかなり高いので、事故だけはないだろうと思いました。
それから2日後です。会社は朝から年休をとって、紹介された大学病院に行きました。
そこには、あの歯科医院で撮ったレントゲンが送られてきていて、
大学病院の歯科医師はそれを見ながら、「これねえ、ありえないことですよ」そう言って、
もう一度そこで、歯科用のCTを撮ることになったんです。

それで、すぐに結果は出たんですが、歯茎の中には何もなかったんです。
大学病院の医師は、「あのレントゲン写真はミステリーですよ。ありえないですけど、
 何かの具合で撮影ミスが起きたとしか考えられません。まだ、痛いですか?」
こう聞いてきたんですが、あの夜から痛むことはなかったんです。
ひとまずほっとしました。歯茎の切開手術なんて、考えただけでも嫌ですから。
診察が終わって、まだ3時過ぎだったので、会社に出ることも考えましたが、
せっかく1日年休をとったんだからと思って、マンションに戻ることにしました。
それで、マンションのホールでエレベーターを待っていると、
横に、大柄な男性が並びました。長髪で髭も生やした人でした。
いっしょにエレベーターに乗り、私は自分の部屋の8階のボタンを押し、
その人は11階を押しました。そのとき、ふっと、もしかしてこの人、

飛び降りがあった部屋の住人のカメラマンじゃないかって思ったんです。
今、警察の任意捜査から帰ってきたところなのかもしれないって。
そう考えると、同じエレベーターの中にいるのが怖くなりました。
それで、エレベーターの横の壁に寄ったんですが、その人は目をつぶって
ただ立ってるだけでした。そのとき、口の中に違和感を感じたんです。
強い痛みと、歯が浮くような感じ。思わず手で口を押さえたんですが、
その指の間から何かがこぼれて下に落ちました。歯です・・・歯茎がこびりついた、
あの自殺があった夜に見たのとそっくりの2本の歯。「あっ!」
歯は男性のほうに転がっていって、足もとのあたりで消えたんです。
私が声を出したので、男性は目を開けて、ジロリと私を見ました。
そのときちょうど8階に着いたので、

よろめくようにしてエレベータを出て、自分の部屋に戻ったんです。
部屋に入ってすぐ、浴室の鏡で口の中を見ました。
私の歯はすべてそろっていて、痛みも消えていました。
ただ、口の中でドブの臭いがするようで気持ち悪く、何度も何度もうがいをしたんです。
それから夜の9時近くになって、外でサイレンの音が聞こえてきました。
私の部屋のチャイムが鳴って、インターホンに出ると、
隣の部屋の同年代の女性でした。アパレル関係の仕事で、けっこう親しくしてたんです。
ドアを開けると、「ねえねえ、また飛び降りがあったんだって。
 落ちたのは同じ場所みたい。見に行かない?」こう聞いてきたので、
「行かない、絶対に行かない!!」大声を上げてしまいました。
ええ、もうおわかりだろうと思いますが、飛び降りたのはエレベーターの男性、

やはりあの人が、最初の飛び降りがあった部屋の住人のカメラマンだったんです。
私にかかわりのあることはこれだけです。
カメラマンの場合は、その人一人しか部屋にいなかったので、
自殺ということで決着しました。その前の女性の後を追ったんだろうってことで。
女性のほうは、まだ決着がついてないみたいです。
でも、私に起きた一連のことを考えれば、想像はつきますよね。
あのカメラマンが、おそらく女性をベランダから落としたんですよ。
それで、あの歯です。うまく言えないんですけど、
私が恨みの仲介役みたいなものに、たまたまなってしまったのかもしれません。
もちろん、このことは警察には話してません。言ったって信じてもらえるような
ことじゃないですから・・・これで終わります。 







グレートヒェンの話

2018.06.11 (Mon)
※ ホラー小説的な話です。

今晩は、よろしくお願いします。話を始めさせていただきます。
私が18歳のとき、母に癌が見つかりました。転移があったため手術はできず、
母は、それから3年間がんばりましたが、最後は地元のホスピスで
亡くなりました。まだ40代でした。亡くなる1日前まで意識があったんです。
すでに自分の死を悟っていたみたいで、すでに社会人になっていた兄の
手を握って、父や私のことを「頼むよ、頼んだよ」とくり返していました。
それから、涙でぐグシャグシャになっている私に、
こんな意外なことを言ったんです。「庭にある小屋の奥の棚に、
 鎖をかけた木の箱がある。その中に人形が入ってて、
 名前はグレートヒェン。お前が結婚したら、その人形を出して、新婚の家の
 いつも見えるところに飾りなさい。グレートヒェンは、

 私がヨーロッパで手に入れたもの。このことを忘れないで。
 いい、グレートヒェンを怖がらないで、信じなさい。
 そうすれば、必ず災厄を引き受けてくれるから・・・
 私は・・・信じきれなかったから」そのときは母が何を言ってるのか、
まったくわかりませんでした。うわ言なのだろうかとも考えましたが、
母の意識はしっかりしていたんです。それと、母は若いころ、音大を出てから
弦楽器の奏者を目指して、ウイーンに留学していたことも聞いていました。
でも、どうして死の間際になって、その人形にこだわるのか、
災厄を引き受けるとは、どういうことなのか・・・
母が亡くなって、私たち一家は悲しみの中で葬儀の準備をしました。
それがひととおり済んでから、庭の小屋に行ってみました。

そしたら、確かに棚の高いところに、80cmほどの縦長の木の箱があって、
太い鎖がぐるぐる巻きになっていたんです。
この2年後、私が23歳のときに、ごく平凡な結婚をしました。
夫は会社員で、当時勤めていた会社で知り合ったんです。
夫は、私に主婦になるよう求め、私は退職して、アパートを借りて暮らすことに
なりました。そのときに、母の遺言を思い出したんです。
いえ、思い出したというか、ずっと覚えてはいたんですが、
なんだか現実味のない話だと思ってたんです。結婚式の2日前、
小屋に行って木箱を降ろしました。それほど重くはなかったです。
鎖を外し、難渋しながら打ちつけられていた釘を抜いて、
出てきたのは、箱にぴったり収まるほどの西洋人形でした。

「これが、グレートヒェン??」
ビスクドールのようなものではなく、すべて陶器製の全身像で、
それほど高価なものとは思えませんでした。田舎風の服を着て、
金髪をかきあげている若い女性の人形。
「たしか母は、この人形を信じてって言ってた。
 信じるって、どういうことなんだろう」紙に包まれて下向きになっていた
顔を前に向けて、私は思わず息をのみました。白い顔の、
片方の目がつぶれていたんです。いえ、穴があいているとか、
その部分だけ欠けているということではないんです。
最初から・・・片目が潰れたように作られたとしか・・・
ええ、その部分だけゴツゴツと、陶器の元になった粘土が

盛りあがっているのがわかりました。そして、残った片目を大きく見開いていて・・・
「怖い」と思いました。どうして母は、こんなものを飾れと言ったのか、
「信じろ」とはどういうことなのか、まるで理解できませんでした。
でも、母の遺言です。夫に話をして、グレートヒェンはアパートのキッチンにある
食器棚の上に置きました。目のことを夫に話したんですが、
夫は「へえ、ほんとだ。最初から片目で作られてるなんて珍しいね。
 何か向こうのおとぎ話かなんかに、そういうのがあるんじゃないの」
この程度の反応でした。さきほど話したように、私は専業主婦をしてましたから、 
グレートヒェンはいつでも見える位置にあったんですが、
母にはすまないと思いながら、なかなかそっちを見ることが
できませんでした。やっぱり、怖かったんです。

それから、特に何事もなく、結婚生活は幸せに過ぎていきました。
2年後に男の子が生まれ、あれよあれよという間に、幼稚園に入る年になりました。
その頃には、アパートから広いマンションに移ってましたが、
グレートヒェンは居間のクローゼットの上に置かれていました。
ママ友ができ、お互いの子どもの誕生日には、家を訪問し合ったり
もしたんです。そのあるとき、私の部屋を訪れたママ友の一人が、
グレートヒェンを目にとめ、前に行ってしげしげと眺めながら、
こんなことを言ったんです。
「変に思わないでね。このお人形、不思議な力を持ってる。
 たぶん、遠い遠い場所で、最初に作られたときに込められた力」
そのとき私は、「それって、いい力?、それとも悪い力?」

こう聞いてみたんです。ママ友は小首をかしげてましたが、
「うーん、わからない。この人形をどう見るかによって違ってくるかもしれない。
 それと、たぶんだけど、その力は1回使われてる」
「どういうこと?」 「ごめんなさい、それ以上はわからないの」
こんなやりとりがあったんです。また1年後、息子は幼稚園の年長組になり、
私は2人目の子を妊娠して3ヶ月目でした。
もう少ししたら買い物に出ようか、そう思いながら、ぼんやりと午後のテレビを
見ていたんです。リモコンを手にとったとき、ふっと気配を感じました。
うまく言えません・・・ただ、何かが起こっていて、
どうしてもそちらを見ずにはいられない気配としか・・・
私は首を回してグレートヒェンのいる場所を見ました。

そうしたら、髪をかきあげた形の人形の両手が動いてたんです。
何か、私にはわからない西洋のサインのようなものを両手でつくって、
またほどいてをくり返してて・・・ どうしてあんなことをしてしまったのか、
わかりません。反射的にというか、やっぱり怖かったのか。だって、陶器の
人形の手が動くなんて、ありえないじゃないですか。私は、持っていたテレビの
リモコンをグレートヒェンに向かって投げつけていました。
リモコンはサインを作っている右腕にあたり、チンという乾いた音を立てて、
腕は折れて下に落ちました。「あ、あ・・・」
そのとき、携帯に着信があったんです。出ると、幼稚園の先生からで、
息子が遊具で遊んでいて大きなケガをした。
これから病院に搬送するということだったんです。

名前の出た病院にタクシーで行きました。病院では、泣き暴れる息子を、
医師たちが懸命に押さえつけていました。
右の腕がありえない角度に折れ曲がっていました。回旋塔という遊具の
中心部分に息子の手がはさみ込まれ、そのまま何度も
回ってしまったということでした。やがて夫が駆けつけてきました。
医師の話では、息子の手はヒジを中心に粉砕骨折しており、
切断するしかないということだったんです・・・
2ヶ月入院し、息子の右腕はなくなってしまいました。
痛みがなくなったので、本人はわりと平気そうにしてましたが、
息子に一生の障害を残してしまった私たち夫婦の悲しみは大きかったです。

最後に、グレートヒェンのことですが、私が家に戻って見ると、
折れて下に落ちていたはずの片腕が、元に戻っていたんです。
そのかわりにというか、片目だけだったのが、もう一方の目もつぶれてました。
私は、グレートヒェンを持ち上げて床に叩きつけようかと思ったんですが、
母の「信じなさい。そうすれば、必ず災厄を引き受けてくれる」
この言葉を思い出し、それは思いとどまったんです。
そのかわりに、前にグレートヒェンが入れられていたのと同じような、
頑丈な木箱を用意し、鎖でぐるぐる巻きにして、
押入れの天袋から、屋根裏の奥に片づけたんです。
ええ、今でもそこにいるはずです。この後、どうなるのかわかりません。
・・・これで終わります。






怪片4題

2018.06.08 (Fri)
裏返る
デザイナーをしている元木さんの体験。小学校1年のときです。
雨降りの日で、傘をさして歩いてたのは間違いないです。赤い傘です。
たぶんお母さんといっしょだったと思うけど、そのあたりは記憶があいまいで。
一人だったかもしれません。あと、新しいピンクの長靴もはいてました。
子どもだったから、水たまりがあると、どんどん踏み込んでって。
それで、大きな水たまりがあったんですよ。傘をさした私の全身が
映るくらい大きな。そこにずんずん入ってって、傘をさしてる姿が、
大きくはっきり映ったんですよね。そのときに、水面がぐにゃんとゆがんで、
ほんの短い時間で、自分の体が下に沈んで、しかもひっくり返る感覚がありました。
「え?」と思ったときには、普通に戻ってたんですが・・・
それから、街中にある看板が一切読めなくなってしまったんです。

あの、鏡文字ってわかりますよね。字を鏡に写した文字。
すべてのものがそれに変わってしまってたんです。小学校1年でしたから、
ひらがなや簡単な漢字を習いますよね。それが全部読めなくなっちゃったんです。
教科書も、家にある絵本も、何もかもが鏡文字。
ええ、親が心配して病院に連れていきましたけど、珍しい症例だということで、
地域の大学病院から、東京の研究機関まで、あちこち受診させられました。
でも、結局治らなくて、字は一から全部おぼえ直すことになったんです。
まあ、小1だからまだよかったんですけど。それから、中高では美術の、
特にデザインの才能があるって言われて、美大に進んで今の仕事についたんです。
これ、どう思われますか? やっぱりあのとき、水たまりに映った私と
入れ替わっちゃったんでしょうか。まあ、そうだとしても不満はないんですけどね。

目の神社
JRを定年退職した西村さんの話。定年退職して1年。毎日が日曜日で、
悠々自適の生活をしてたんですが、さすがにね運動不足を痛感するようになりまして。
一念発起して、ウォーキングを始めたんです。女房が早くに病気で亡くなってるんで、
一人暮らしですよ。で、毎日4時半に起きて、5時には家を出ます。
始めてみたら、ウォーキングしてる方ってけっこういるんですね。
私よりかなり年配のご夫婦で歩いてる方や、私のような独り者の男性。
そういう方々と自然に知り合いになりまして、あいさるするのが日課になりました。
でね、ウォーキングをやり出してから1年ほどたったときですね。
私が歩くのは、だいたい往復で1時間で、コースもいくつかありまして。
その日は、市の運動公園へのコースをとったんです。ゆっくり歩いていくと、
脇道から、ウォーキングされてる人が何人も出てこられて、

それが、すべて男性で、見たことがない人ばかりでした。そのときは、
今朝はウォーキングの人が多いなくらいで、特に気にも留めなかったんですが・・・
野球場をぐるっと回って、さあ戻ろうかというときに、赤い鳥居が見えたんです。
「あれ?」と思いました。だって、何度も通ってる道なのに、そんな神社、
記憶になかったですから。鳥居の中をのぞき込むと、参道の奥にたくさん人が
集まってるのが見えました。「何かお祭りでもやってるんだろうか」そう思って、
私も入っていきました。そしたら、大きくはない社殿の前に、年配の男性ばかり
20人ほどが立ってたんです。特にお祭りらしい様子はなかったです。
その人たちは、トレーニングウェアを着たり、水筒を肩から下げたりしてて、
私と同じウォーキングの途中に見えました。「この人たち、何でここにいるんだろう?」
そのとき、妙なことに気がつきました。全員、右の目に眼帯をしてたんです。

「?? ここはもしかして、眼病に効験のある神社か何かなのか?」
そう考えたとき、社殿の回り廊下の後ろから、白装束の神職が2人出てきまして、
閉まってた社殿の扉を、両側から開いたんです。「え?」そしたら、
中に、巨大な・・・幅2m以上ある目があったんです。いや、本物の目じゃなくて、
木彫か何かだと思いましたよ。そしたら、社殿にいた人たちが、そちらに向き直り、
いっせいに柏手を打って、お辞儀をしたんです。私もつられて、同じ動作をしました。
それで社殿の扉は閉められ、いた人たちは三々五々帰っていきました。
それだけの話なんですが・・・翌朝、その神社にもう一回行こうとしても、
どうやっても見つけることができなかったんです。野球場を過ぎたとこは、
ずっとフェンスが続いているばかりで・・・ね、変な話でしょう。それと、
あれ以来、右目の底のほうが痛いんです。ええ、病院に行こうと思ってます。

道路をにらむ
道路公団に勤めている三島さんの体験。あのほら、事故多発地点ってあるじゃないですか。
年に何件も、同じ場所で交通事故が起きる場所。僕は、そういうところの対策をたてる
仕事をしてるんです。でね、事故が頻繁に起きる場所ってのは、たいがい、
何かしらの理由があるんです。例えば、見た目よりもカーブの角度がきついとか、
ゆるい下りになってて、スピードが出やすいとか。でも、ときどき、
死亡事故が多発してるのに、これといった理由が判明しない場所もあるんです。
その、県道にあるカーブもそうでした。見晴らしが悪いわけじゃないし、
角度も急ではない。それなのに、去年だけで5件の事故があり、
7人の人が亡くなってる場所。そこへ、上司と2人で出かけて、
あれこれ調べたんですが、どうやっても事故が起きる理由がわからない。そしたら、
上司が、「これはダメだ、峰さんを呼ぼう」こう言いまして。

峰さん、っていうのは、大きな声では言えないんですが、僕らが協力していただいてる
修験者の方です。年齢は70代でしょうね。いや、気のいいおじいさんという見た目です。
連絡したら、すぐに来てくださりまして。服装もズボンにポロシャツの普段着です。
ただ、長い望遠鏡を持ってこられます。それを、事故多発地点に設置して、
四方八方を覗くんです。でね、30分ほどして、ずっと向こうにある小高い丘を
指さして、「ああ、わかりました。あそこですよ」って言ったんです。
それから、上司といっしょに、僕が運転する車に乗っていただいて、
その山を目指したんです。1時間ほどかかって山の登り口に着き、
そこを車で入っていくと、中腹に、大きな寺院がありました。でも、それ、
ちゃんとした宗派のものじゃなくて、ある新興宗教が建てたものだったんです。
しかも、その団体はつぶれてしまったらしく、荒れ放題でした。

ええ、立入禁止だと思うんですが、管理する人もいなかったし、
峰さんを先頭に、僕たちはどんどん施設の中に入っていきまして。そしたら、
草ぼうぼうになった前庭に、巨大な観音像が立ってたんです。そうですね、
高さ10m近かったと思います。峰さんは、それを見て「ああ、あれだ、あの目が
 道路をにらんでる。祀る者がいなくなった恨みの目でな」たしかに、
そのうつろな視線の先に、事故多発地点があったんですよ。でね、原因がわかれば
あとは対策をするだけ。国会議員を通して施設の所有者に掛け合って、
その観音像だけは撤去してもらったんです。そしたら、それ以後は、
事故ゼロです。軽い接触事故すらありませんよ。まあ、こういう話です。
そうですか、興味深いですか。峰さんにやっていただいた仕事の中には、
もっと不可思議なものもあります。いつか機会があればお話しますよ。

きつね面
農業を引退した松崎さんの話。子どもの頃ね、俺は分家だったから、
盆正月は本家に集まったもんだ。昔は多産だったから、子どもらだけでもたくさんいて、
久しぶりにイトコや甥、姪に会うのが楽しみでね。でね、これは俺が中1のお盆の
ときのことだったと思うが、5歳くらいの女の子の手を引いてたんだ。
いや、その子も親戚で、名前は美代子って言ったはず。
ただね、何で俺がその子を連れてたかは覚えてない。とにかく、
お祭りの中にいたんだよ。たくさん屋台が出てて、人であふれてた。
で、そんとき。俺は珍しく小遣いを持ってたから、美代子に、
「何か欲しいものがあれば、買ってやるよ」って言ったんだが、
美代子は首を横に振るばかりで。でね、ある屋台の前に来たとき、美代子が、
指さして「あれ、ほしい」って言い出して。

ほら、昔よくあったお面屋だ、アトムの面とかがある。でも、美代子が
指さしたのは、古臭いきつねの面で、こんなのが欲しいなんて、ちょっと変わった子だと、
そのときは思った。安いものなんで買ってやったら、美代子は頭の上にか被って
大喜び。それで、俺が面を顔の上まで引き下げてやったんだよ。
そしたら、浴衣を着ていた美代子の体が、銀白の毛をした本物のきつねに変わって、
するんと藪のほうに逃げてってしまったんだよ。いくら呼んでも探しても見つからない。
これは困った、小さい子を迷子にして怒られると思って本家に戻ったら、
家中がバタバタしていて、母親に「どうした?」って聞いたら、昨日の夜から
熱を出してた美代子ちゃんが死んでしまったって言うんだ。でな、医者が帰ってから、
顔に布をかけて寝かされてる美代子を見に行ったら、
小さな布団のすそのほうに、カランときつねの面が落ちてたんだよ。