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祠(ほこら)の話

2021.02.12 (Fri)
bigbossmanです。今回はひさびさに、霊能力者のKさんとお会いした
ときの話です。ご存知の方も多いと思いますが、Kさんは50代後半、
本業は実業家で、貸しビルや高級飲食店を手広く所有されています。
そのほとんどは経営を人に任せてて、本人はボランティアで
全国を飛び回り、霊障事件の解決にあたられてるんです。以前は
神戸のほうにご自宅があったので、ときどきお会いしてたんですが、
去年、石垣島に転居され、ご一緒する機会が少なくなりました。
これはつい1週間前、本土に出てこられたKさんと、ホテルのバーで
飲んだときのものです。「ところでbigbossman、祠ってあるだろ、
 あれ、どういうものなんだ」 「祠ですか、うーん、語源は、
 もともとは神倉(ほくら)って言ったみたいですね。

 弥生時代の遺跡で、厳重な環濠に囲まれた中に、小さな高床式の
 建物が見つかったりしてます。人が住める大きさじゃなく、
 種もみの倉庫ではないかという説が有力で、そんなのが祠の
 源流なのかもしれません」 「ふうん、じゃあ、神道のものなのか」 
「それが、そうとも言いにくいんです」 「どうして?」 
「神社の場合、御祭神がはっきりしてます。天照大神とか大国主とか」
「ああ、そうだな」 「けど、祠は、何が祀られてるかよくわからないんです。
 神道の神社なら、どんな小さなものでも、かけ持ちで担当する神職がいて
 お世話をしてますが、祠の場合は、その近くの家の人が世話してたり
 します。ですから、もし世話してたお年寄が亡くなったり、
 転居した場合、祠は放置され、そのまま朽ちていくことも」

「なるほどな。中にはどんなものが祀られてるんだ」 「それはいろいろで、
 その地の人が尊いと思ったものです」 「え、どういうこと?」
「うーん、例えば、山の中で人の顔が浮き出して見える石を拾って
 持ち帰ってきた。で、それを近所の人に見せたら、祀らなきゃいかんと
 言われて祠を作ったとか、あとはそうですね、白蛇の抜け殻とか、
 洪水のときに流れついた仏像とか」 「仏像?」 「はい、庶民の間では、
 神仏は習合してましたから」 「そうか」 「だから、ひと口では
 言えないんですよ」 「で、もし祠が祀られなくなったらどうなる」
「それは、その祠がどれだけ信仰を集めてたかによると思います。
 例えばある一家だけで祀られてたようなのは、放置されてもまず何も
 起きません。けど、たくさんの人の信心を集めてた場合、

 捨て置かれるようになると祟りが発生したりします」 「それは何となく
 わかる気がするな。人々の信仰心そのものが実体を持つということだろ」
「そうです。あと、めったにはないんですが、その祠に祀られてたのが
 強力な呪だった場合、やはり祟りが起きたりしますね」 「つまり、
 祟りを鎮めるために 地域みなでお祀りしてた」 「そうです・・・Kさん、
 何か祠にまるわる事件に関わってられたんですね。話を聞かせてください」
「うん、そのつもりで聞いたんだ。けど、発端はずいぶん昔、今から
 28年前のことだ」 「というと1993年あたり」 「そうだ、
 あの頃はちょっとしたオカルトブームだった」 「わかりますよ。
 テレビでもけっこうオカルトな番組をやってましたが、1995年の
 地下鉄サリン事件で、みなパッタリと消えちゃいましたよね」

「うん、その少し前の話、3人の男子大学生がいて、オカルト研究会所属」
「はい」 「その子たちが、ある廃村に1泊でビデオ撮影に行った。
 学祭で流すつもりだったそうだ」 「なるほど、その廃村の場所は」
「それは言えんが、東北の〇〇県だよ」 「で」 「林業が盛んなころは、
 かなり栄えてた村だが、廃村になって15年ほどたってた」 「はい」
「大学生たちは夏休みに車で行き、小さいテントを張って泊まったんだ。
 日中は廃村の中を撮影してまわり、生活感のある家の内部なんかを
 撮ってな、夜はライトを使って、改葬で放棄された墓地なんかも」
「で」 「テントを張ったのは村外れで、そこに奇妙な祠があった」
「どんな」 「それが、一つ一つは小さいが高さのある祠が、
 4つ四角に向き合う形で建ってた」 「向き合う?」

「そう、つまり四角形の対角線にそれぞれ祠があって、全部が内側を
 向いてる」 「珍しいですね。その祠は真ん中にある何かを封印
 してた?」 「そうだ」 「中は確かめたんですか」 「ああ、その
 大学生らは怖いもの知らずで、わざわざ扉を開けてみたが、
 すべて空だったらしい」 「罰当たりですねえ」 「うん、さらに
 もっと罰当たりなことに、テントを張ったのがその中心の場所」
「うわ」 「当然、何かが起きたと思うだろ」 「はい」
「大学生らは焚火をしてな、その回りで持ってきた酒を飲んだ。
 寝たのは12時過ぎだったらしい。夏だから寝袋もいらず ごろ寝」
「で」 「その日、日中はいいお天気だったのに、彼らがテントに
 入ってから雨が降り出した。土砂降りなら車に戻るが、

 そこまでの雨でもない」 「で」 「だいたい2時ころ、全員が
 寝入ってると、突然突風が吹きテントが飛ばされたんだ」
「ははあ、で」 「起き上がると、自分たちの頭上に何かが飛んでる」
「何が?」 「それが、4つの火の玉だったそうだ。円を描きながら、
 まるで互いに追いかけっこするようにぐるぐる」 「それ、
 焚火の火が風に乗ったんじゃ」 「いや、焚火は寝る前に消した。
 それに火の玉と言っても、青白い光だったそうだ」 「うーん」
「何かの電気的な現象かとも思ったそうだが、怖くなって車に入り、
 そのまま大学のある地元まで逃げてきたそうだ」 「で」
「でもな、その後、彼らには特に何が起きたというわけでもなかった」
「え、じゃあKさんが依頼を受けたのはいつです?」

「その8年後のことだ。3人はそれぞれ就職し、時期は違うが結婚して、
 同じ頃に最初の子が生まれた、3人とも女の子だった」 「で」
「この3人をABCとしようか。ABはもう亡くなってるが、その日が、
 2人とも自分の娘の4歳の誕生日だった」 「え?」
「もちろん日は違うが同じ年。Aは交通事故、Bは突然の病死」
「うーん、じゃあCは?」 「このCから俺が依頼を受けたんだよ」
「ああ」 「大学時代の友人仲間で、まだ親しく交流があった2人が
 急に亡くなったわけだ、そりゃ怖いと思うだろ」 「ですね」
「で、俺はCと会って、いろいろ話を聞いたが、そんな中で、
 この廃村の祠の話が出てきたんだよ。本人は半分忘れてたけどな」
「うーん、Kさん、調査に行ったんですね。その祠、8年後にも

 残ってたんですか」 「ああ、かなり朽ち果ててたが、倒れたりは
 してなかった」 「どんな調査を?」 「祠自体は中身がないんだから、
 それが衞ってる中心地にレーダー調査を入れた」 「地中レーダーですか、
 さすがですね」 「知り合いにその手の会社をやってるやつがいたから。
 結果は、そう深くないところに金属のものが埋まってると出た」
「掘ったんですね」 「ああ、重機を頼んで」 「わくわくしますね、
 何が出てきたんですか」 「金銅製の坐像、かなり傷んでたが、
 地蔵菩薩だった。頭を下にして逆さの形で」 「で」
「中が空洞になってて、調べてみたら4体分の子どもの骨が出てきたんだ。
 性別ははっきりしないが、女の子っぽい。年齢は3、4歳。
 大学の先生に見てもらったら、江戸後期だろうということだった」

「うーん、すると、江戸時代に、何らかの理由で子ども4人が亡くなり、
 遺体を地蔵像の内部に入れて逆さの形で埋められ、その周囲に祠を
 建てた!? よくわかりませんね。あ、その子たちの死因は判明したん
 ですか」 「はっきりはしてないが、骨に刃物のすり跡があって、
 肉を削いだんじゃないかという話だった」 「う」 「その地方は
 江戸時代、ひどい飢饉が続いてたから」 「うう」 「この骨が
 障りをなしてるのだろうと考えて浄霊をしたよ。それが功を奏したか
 わからんが、Cは娘さんの4歳の誕生日には死なず、娘さんともども
 健在だ」 「なるほどねえ」 「だが、事件はまだ解決してない」
「え、どうして」 「埋められた子どもは4体、大学生は3人、
 1体がどこかをさまよってる。それをずっと追い続けてるんだよ」

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鑑みる話

2021.02.01 (Mon)
bigbossmanです。「鑑(かんが)みる」という言葉があります。
今は まず使われることはなくなりましたが、「手本に照らして
考える、他とくらべあわせて考える」といった意味です。
この語、本来は「かがみる」だったのが転訛したんですね。
さて、みなさんの家に鏡は何面ありますでしょうか。手鏡や
スタンドミラーの類を合わせれば、かなりの数になると思います。
現代では鏡は貴重品というわけではなく、ふだんの手入れなども
あまり されておられないかもしれません。ガラスの鏡が
本格的に日本に導入されたのは明治になってからで、
それ以前は金属鏡でした。ですから、しっかり手入れをしてないと、
錆びたり曇ったりしてしまいます。使わないときは、

布をかけたり箱にしまっておいたものです。で、これには、
劣化を防ぐ以外の意味もあったと言われます。どういうことかというと、
別々の鏡同士で空間がつながってしまうことがあるんだそうです。
でも、ちょっと信じられませんよね。物理法則に反しています。
ですから、ただの迷信かと思っていたんですが、先月、知人の
紹介で「鏡師」を名のる方とお会いしたんです。40代はじめと
みえる女性の方でした。先祖は、金属鏡の研磨師をされていたそう
ですが、それだけでなく、鏡を使った呪詛も行っていた。
ね、がぜん興味がわいてきますよね。そんなことが本当に
できるのか。それで、知人に段取りをつけてもらって、
大阪のある料亭でお話をうかがったんです。

「占星術をやっているbigbossmanと申します。鏡師をされているそうで」
「はい」 「どのようなお仕事なんですか」 「うちは代々、江戸時代まで
 鏡を研磨する仕事をしていたそうです。今ではもうその仕事は
 なくなってしまいましたが、それに付随した、鏡を用いた まじもの
 の法は残っておりまして、ときたま使うことがあります」
「まじもの、ですか。これは呪詛と考えてもいいんでしょうか」
「はい」 「どのような形で鏡を使われるんでしょうか」
「それを申しあげる前に、私が行っているまじもの は、すべて
 女性からのご依頼しか受けません」 「え、どうしてでしょうか」
「わかりませんが、そのような決まりなのです」 「ははあ」
「それと、依頼者の女性が、男性から非道な仕打ちをされたときだけ」

「うーん、江戸時代なんかは女性の立場は弱かったでしょうから、
 そういうケースが多かったのかもしれません。それで鏡を使った
 呪詛が生み出されたということでしょうか」 「おそらくそうだと
 思いますが、現代でも女性の立場は弱いものです」
「・・・具体的な事例を聞かせていただけますか」 「はい。Aさん
 という方がおりまして、40代の主婦の方でした。その方には、
 大学時代に知り合って結婚した夫がいて、商社に勤めてられ
 ましたが、東南アジアの某国に長期で単身赴任することになりました。
 ご夫婦には子どもができず、Aさんは東京のマンションで一人
 生活していたんですが・・・急に夫が帰国し、離婚の話を切り出され
 たんです」 「え、どうして」 「夫が現地の女性と関係を持った

 ためです」 「ああ」 「それだけではなく、その女性は妊娠しており、
 夫は、自分の子を生んでくれる女性と結婚したいと」
「・・・身勝手な話ですね。でも、その手のことはよくあるとも聞きます。
 現地の女性に、なにがしかの手切れ金を渡して帰国することが多い
 ようですが」 「そうですね、そう考えれば、その夫は真面目なのかも
 しれません。でも、別れてくれと言われた妻はたまったものでは
 ありませんね」 「うーん、浮気は浮気として、帰ってきてくれたほうが
 いいんでしょうか。仕事のほうはどうなったんです。そんなことを
 したら商社のほうへの聞こえが悪いでしょうに」 「夫は、会社を
 辞める決意をしていました。現地のほうで起業したんです。
 川エビの養殖と聞きました」 「うーん、向こうに骨を埋める
 
 つもりだったのか」 「夫はAさんに、慰謝料は払えないが、
 そのかわり、今住んでいる東京のマンションをやると言ったそうです」 
「それ、Aさんはどうしたんですか」 「夫の言葉があまりにショックで、
 言われるままに承知してしまったんです。おっとりした方でしたし」 
「うーん、で」 「その広いマンションに一人残され
 思いつめたんでしょう。カミソリで自殺未遂をされたんです」 「で」
「命は助かり、実家のご両親はまだ健在で、そちらに引き取られたんですが、
 生活が落ち着くと、恨みの気持ちがわきあがってきたんです」
「で」 「実家の家柄は古く、お父上が私の父を知っておりまして、
 そのつてで、私のところに呪詛の依頼が来たんです」
「どうされました」 「お話を伺って、まずは呪詛の対象を明らかに
 
 しなくてはと考えました」 「どういうことですか」 「Aさんがより
 恨んでるのは元夫なのか、それとも現地人の女性なのかということです」
「ああ」 「Aさんと話をして、対象が決まりました。それで、私の家に
 伝わっている中から選んで、赤い箱の銅の手鏡をお貸ししたんです」
「いくつもあるということですか」 「はい、呪詛する相手や場合によって
 お貸しする鏡は違います」 「それから」 「Aさんに東京のマンションに
 戻っていただき、儀式をいたしました」 「どんな」 「その内容は
 明らかにはできません」 「そうでしょうね、で」 「その後に手鏡を 
 のぞくと、粗末な感じのバスルームが見えました。その東南アジアの国の、
 夫が女性と住んでいる家とつながったんです」 「すごい、それで」
「現地とは時差はほとんどないので、夜には元夫が女性といっしょに

 入浴している姿も見えました。そのとき、Aさんは初めてその女性の
 顔を見たんです。まだ若い、10代の後半くらいの目が大きな子でしたね」
「で」 「ここからはAさんに気張ってもらわなくてはなりません。
 まず、動物を手ずから殺めていただきました」 「動物?」 
「はい、それで、人相が変わるよう、動物の血を作法どおりに顔に
 塗っていただいたんです。呪詛しているのがAさんだとわからないように」 
「うーん」  「1日のうち4時間ほど、その姿で手鏡をのぞいて
 もらいました。そうして自分の恨みをぶつけていただく」 
「それ、向こうからAさんの姿が見えるわけですか」 「見えることもあり、
 見えなくても気だけは確実に伝わります」 「で」 「それを、呪詛が完遂する
 まで一月ほど続けたんです。動物は数匹殺めなくてはなりませんでしたが」

「どうなったんですか」 「元夫とその女性の仲が少しずつ壊れだしました」
「ああ」 「まあ、日本人の40代男性と現地人の10代の子ですからね。
 それに、元夫が始めた事業も上手くいってなかったようです」
「金の切れ目が縁の切れ目ということですかね。で、元夫とその女性の
 どっちが亡くなったんですか」 「いえ、どちらも亡くなってはいません、
 今のところは」 「え、どういうことです」 「その女性が、元夫の
 ところから出ていったんです」 「それだけ?」 「いえ、生後4ヶ月の
 男の子を川エビの養殖池に放りこんで」 「う」 「これが私のところに
 伝わっている法です」 「・・・正直、おそろしいです」 
「他にご質問はありますでしょうか」 「現在も呪詛の依頼をお受けに
 なってる?」 「はい、ただいま お貸し出ししている鏡は4面です」 「うう」

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村の古社の話

2021.01.29 (Fri)
あ、どうもおばんです。私、山本ともうしまして、今年で
75歳になります。それで、これからお話するのは、私が
9歳のとき、65年も前のことなんですよ。ええと、昭和の
ちょうど30年のことですね。住んでたのは、場所は言わないで
おきますが、東北某県の山村です。はい、今はその村は
ありません。町村合併で市の一部になりましたが、その市自体が
過疎化が進んでます。もと村だったところは市の区になりました。
私は就職でそこを離れてしまいましたけど、まだ人は
いくらか住んでるようです。それで、この話は、
そこの山裾にあった神社のことが中心になります。ただ、とても
信じがたいような内容なので、あまり人に語ったことはありません。

当時はね、まだ林業が盛んな時代で、村は米作はわずかで、
ほとんどの住人が林業で暮らしてました。営林署の出張所もあって、
戦後の復興期が始まってて景気もよかったです。あんな山奥に
遊郭まであったんですから・・・ で、村にはお寺が一つと
神社が2つありました。お寺のほうは、村人のほとんどが檀家。
神社は、一つは神明社で、平地にあって参詣者も多かったです。
もう一つのほうは、山裾の沢の源流に近いところで、
その近くに温泉が湧いてたので、営林署の出張作業員がついでに
お参りしたりしてましたが、村人で近づく者は少なかったんです。
神職も常駐してはおらず、草刈りや修繕、祭事などは、
大きいほうの神社の神主が兼務していたと思います。

で、その神社、御祭神は、いちおうは武甕槌命と大毘古命と
いうことになっていましたが、村では、じっさいはそうではないと
思ってる者が多かったんです。ああ、すみません、前置きばかり
長くなってしまって。それでね、村の子どもらは、大人から
そっちの神社にはあまり近づくな、と言われてたんです。
理由はおいおいお話していきます。でもね、当時の子どもは
小さい時分から働かされてましたし、今の子とは違って怖いもの
知らずで、大人の言うことを聞かず、どこでも行ったもんです。
その年、私もガキ大将に連れられて、そこの神社に初めて
遊びに行きました。鳥居はなかったと思います。社殿は、
一間社と言うんですか、2m四方と小さく、屋根も板葺きで、

作業小屋みたいな外見でした。それで、温泉があるって
言いましたよね。そこは露天風呂で、料金などもなかったので、
子どもらだけで入ることもあったんです。夏場は、さんざんチャンバラ
ごっこなどで汗をかき、裸になって温泉にドボン。冬は雪が多くて
近づけなかったです。温泉も埋まってたでしょう。で、あれは秋口、
10月でした。そのときも竹次という6年のガキ大将がみなを
連れて、その神社の近くに来てました。山のあけびを取り、
栗を拾って焼いて食べる。さすがに焚火は、大人に知られれば
拳固が飛びましたけど、竹次はいっつもマッチを持ってまして、
枯葉、枯枝を集めて火をつけ、栗を放り込み、私らは回りを囲んで
あたってました。もうだいぶ寒くなってきてたんです。

神社からは20mは離れた場所で、火が移るとも思いませんでした。
で、焼き上がった栗を枝に刺して食べてると、たまたま神社のほうを
見てたやつが「あっ!」と言って、そちらを指差し、後ろに下がって
尻もちをついたんです。「あ、どした?」指差した先を見て
仰天しましたよ。大男が社殿の裏に立ってたんです。
そうですね、社殿の高さが2m以上ありますでしょう。それでも
男の腰のあたりまで。つまり4mもの背丈があったことになります。
大男はどんどんと地面を踏み鳴らすようにして、私らのほうに
近づいて来ました。上半身は裸で、肌の色は赤黒く、顔は
お寺にある仁王様に似てると思いました。頭の天辺に髷のようなのを
結ってたと思います。下半身は、腰に熊の毛皮を巻いて素足。

それでね、不思議なことに誰も逃げ出さなかったんです。私よりも
小さい子もいたのに。今から考えると、怖くて足がすくんだと言うより、
その威厳に打たれたという感じだったと思います。大男は
大股で焚火に近づき、すぐそばまで来ると、ゆっくりした動作で
まずは自分の顔を指差したんです。まるでこの顔を覚えておけと
いうように。それから、その指先を上に向け、腕を伸ばして
天を差しました。そしてふっと消えたんです。同時に、かなり
勢いよく燃えてた焚火もぱたりと消えました。「わああ」
子どもの一人が叫び声を上げ、それで我に返ったように竹次が
「逃げろ!」と怒鳴り、みな走って、転がるように山を下りました。
で、その途中、大粒の雨が降ってきたんです。

痛いくらいに叩きつけてくる土砂降りです。台風が来ていたようなので、
その影響でしょう。雨の勢いが強くて前も見えず、ひとかたまりに
なって走り、集落の入り口で散り散りになって別れましたが、
そのとき竹次が「見たことは親に言うな」と怒鳴るのが聞こえました。
ずぶ濡れになって家に入り体をふいていると、外仕事ができなくなった
親も帰ってきました。それで、雨は土砂降りのまま3日3晩続いたんです。
翌日、小学校はあったものの午前で放課、その後の2日は臨時休校でした。
それくらい激しい雨だったんです。で、やっと雨が上がった日、
学校に行って休み時間に集まり、竹次を中心にあの日見たもののことを
話し合ったんです。竹次は、そのころ紙芝居でやってた妖怪だろうと
言いましたが、私はそうは思いませんでした。

あれは神様だ、そう考えていた子は多いと思います。なんというか、
顔は怖かったですが、全体の雰囲気が悪いものとは思えなかったからです。
でね、その日は、あの雨が嘘だったように雲ひとつない秋晴れで、
空は高く青く済んでいましたね。先生から、天候がいつ変わるか
わからんから真っ直ぐ家に帰れ、沢が増水してるから絶対に近づくな、
そう言われて、やはり午前で学校が終わりました。それで、
寄り道せず1年生の弟の手を引いて家に戻ったんです。
家はその頃の典型的な田舎家で、藁葺の平屋建て。その屋根の上方に
何か赤いものが浮いてたんです。「!?」近づくにつれ、それは
あの神社で見た大男だってわかりました。弟が平然としてるので。
そっちを指差して「お前、あれ見えるか」と聞いたら、

「いや、何も見えんが」と。大男は藁屋根の数m上に直立し、
腕組みをしながら静かに浮かび、私らに目を向けることはありません
でした。家に入ると作業員をしてた親父も母親もいて、濡れて滑るため
山に入れなかったようでした。ここでね、ずいぶん迷ったんです。
あの神社に行ってたことを言うと、親父に怒られるかもしれない。
ですけど、これは言わなくちゃならんことだとも思えまして。
覚悟を決めて最初からのことを話しました。親父は意外にも
静かに私の話を聞いてましたが。「今もそれは屋根の上におるのか」
と言い、私がうなずくと外に出ていきました。で、すぐに戻ってくると、
「俺には見えんかったが、お前の言うことを信じる」そう言って、
急いで荷物支度をし、家族全員で村役場のほうに向かったんです。

で、役場の前に来ると、驚いたことに私らの他にも数家族が
来てたんですよ。その中には、神社で大男を見た子もいたので
話をすると、やはり自分の家の上に大男が浮いてたと言いました。
その数時間後、鉄砲水が起きたんです。今でいう土石流ですね。
裏が沢だった私の家は土砂に埋まってしまいました。死者は村全体で
10数人。その中には竹次とその家族も入っていたんです。
これは、後になってわかったことですが、その神社、日本神話の
神が御祭神となったのは近世になってからで、もともとはその地の
蝦夷(えみし)の頭を祀ったものだったそうです。私が見たのはそれだった
のかもしれません。土石流で神社も流されてしまいましたが、
有志が寄進し、整地して建て替え、新しい社殿になったんです。






トーテムの話

2021.01.12 (Tue)
あ、どうも、僕、加茂って言います。仕事は、ある地方の公団の
職員です。今回の話は仕事とはまったく関係ないんですけど。
じつはですね、趣味と実益をかねてユーチューバーを
やってるんです。といっても、実益のほうはまったくダメで、
もう半年くらいやってるんですが、登録者数は3ケタ台なんです。
これは内容もだけど、更新頻度が少ないせいもあると思います。
1ヶ月によくて2回ですから。でも、土日しか自由な時間が
ないんで、しょうがないんです。あ、チャンネルは
「パワースポット」巡りみたいなテーマで。ここのみなさんなら
ご存知でしょうけど、パワースポットと心霊スポットって
同じようなもんだと思ってる人が多いんですよね。

でも、僕から言わせればぜんぜん違います。心霊スポットは基本的に
怪奇現象、幽霊が出たりするところでしょ。パワースポットは
そうじゃなく、そこへ行くと心が洗われる感じがして、実際に
体に力がみなぎってくるような場所。心霊スポットが負だとしたら、
パワースポットは正なんです。それと、心霊スポットは野外もあるけど、
ほとんどが廃墟じゃないですか。でも、そこに潜入するのは違法な
場合が多いですよね。日本は不動産の登記がしっかりしてて、
所有者不明の建物ってまずないし、建造物侵入罪って法律もあります。
これね、親告罪じゃないんですよ。誰でも通報できるし、
入った時点で犯罪が成立します。仕事柄、違法なことはできませんから。
その点、パワースポットはほとんどが、立入禁止でも撮影禁止でもない

自然の中ですし、神社仏閣の場合も、事情を説明して
ちゃんと許可を取ります。断られることはあんまりないです、
向こうも宣伝になりますし。あ、スミマセン、関係のない話を長々と。
それで、去年の7月中旬のことです。土日かけて1泊で、ある山の
パワースポットに行ったんです。どこの山か名前は出しませんが、
ソロモン王の秘宝が隠されてるとか、モーセの十戒のアークが
あるとか、100体以上のミイラが発見されたとか、そういう
噂のある場所です。わかりますよね。車で行きました。土曜日は
撮影にはもってこいの天気で、いい絵が撮れたと思いました。
あとね、僕ら、体力に自信はないので、登山しなくてもいいのが
よかったです。あそこはリフトで山頂近くまで行けますからね。

それで今、僕らって言いましたけど、一人でやってるんじゃなくて、同じ
職場の三村ってやつと2人でだったんです。最初は僕一人でしたが、
機材とか運ぶの大変だし、もう一人いれば何かと楽ですよね。で、
僕のほうから誘ったら、三村も乗り気で。もともとスピリチュアル系に
興味があったみたいです。これまで、いっしょに7ヶ所回ってます。
それでね、三村、じつは四国出身なんですよ。それもその山の
麓にある市の。だから土地勘があるだろうって思ったんですけど・・・
そこへ行くの、あんまり乗り気じゃないみたいでした。三村は
一人暮らしなんですが、なんでも、母親がその四国の町に嫁ぎ、
旦那さん、つまり三村の父親が若くして亡くなった時点で、
追い出されるようにして出てきた。だから、四国のその県にはあまり

いい感情を持ってないみたいで。ですから、山に行くだけで、
それ以外の場所には寄らないって約束で出かけたんです・・・
はい、さっき言ったように、僕が持ってるハイエースで行きました。
できるだけお金は使いたくないから、車中泊ができる仕様に改造してます。
幸い、あのあたりって道の駅が多いんですよね。ですから、
そのうちのどっかの駐車場に泊まるつもりだったんです。
で、1日目の撮影が終わり、7時半頃、ある道の駅に入りました。
そこの食堂で飯を食い車に戻ると、さすがに駐車場はガラガラになって
ました。道の駅の人には車中泊の許可は取りましたよ。ご自由にどうぞ、
って言われました。ほとんどの車がなくなったのは10時過ぎ。
けっこう蒸し暑い夜で、車の窓は開けて網戸をセットし、

シートはリクライニングにし、ビール飲んで三村とダベってました。
youtubeの人気番組とか、あと仕事の上司のこととかいろいろです。
で、そのとき、四国の三村の実家の話もちらっと出たんですが、
やはり話したくない感じで、「うちの母親は力を見込まれて嫁に
 もらわれたんだが、親父が死んだことで、それがかえってマズくなった」
みたいなことを言い、それで口を閉じてしまったんです。
12時過ぎ、フルフラットにして寝ました。暑いのでタオルケットも
かけませんでした。それで、隣にいる三村に揺り起こされたんです。
スマホを見ると夜中の3時20分。「どしたんだ」と聞くと、
「車の外に何かいる」 「え?」 で、耳を澄ますと、たしかに
何かを引きずるような音が聞こえたんです、ズリズリって。

ほら、あたりは静まり返ってるし、窓全開で網戸だから聞こえるんです。
でも、そのときは僕らに何か危害を加えるとかは考えなかったです。
車中泊は慣れてるし、夜中に人が近くを通ることも ないわけじゃないから。
ズリズリという音はしばらく続き、僕が「見てこようか」と体を起こすと、
三村は「やめろ、アレだったら殺される」って。「殺す・・・おだやかじゃ
 ないな。アレって何だよ?」そんとき、三村の腕に触れたんですが、
すごいブルブルふるえてて、こりゃ冗談ではないって思いました。
「どうすればいんだ」 「とにかくやり過ごそう。アレかどうかは、
 もうすぐわかるから」 その音はどうやら、車の周囲を回ってる
ようでした。でね、運転席の前方で「ガツーン」と大きな金属音がして、
そのときです。道の駅のある集落のほうから、いっせいに犬の

遠吠えが聞こえたんです。ワオーン、ワオーン、ウオオオーンって。
「ああ、やっぱりアレだ」三村がおびえた声を出しました。遠吠えが
おさまると、あとは静寂。車の回りの音も消えたんです。「やっぱ見てくる」
そう言って車外に出ました。駐車場はぐるっと街灯があるので
そこそこ明るく、車のまわりを回っても何もない・・・遠くにも
人影はない・・・そう思ってフロントグリルのほうに出ると、
3mほど前に白いものがあったんです。「え、何?」そのとき
三村が車から出てきて、懐中電灯でそれを照らしました。何だったと
思いますか。動物の頭蓋骨です。それが地面から1m半ほどの
高さにありました。杭みたいなのの上にのっけられてたんです。
かなり太い杭は鉄製で、アスファルトに食い込んでました。

ああ、さっきのガツーンという音はこれか。三村のほうをふり向くと、
立ちつくしたまま、「それ、トーテムみたいなもんだよ。骨は犬の頭だ」
と言ったんです。それからは何を聞いても答えず黙り込んだままで、
6時ころに雨が降り出し、土砂降りに近くなったので、その日の
撮影はあきらめ、朝イチで戻ったんです。それで、アパートの前で
三村を降ろしたとき、「スマンかったな、嫌がってたのに無理に四国に
 誘って」そう言いましたが、三村は黙って部屋に入ってったんです。
でね、月曜日は出勤してきましたけど、昼休みに「もうyoutubeの
 手伝いはやめる。身を守らなきゃならなくなった」こんなことを
言い、それ以上はやはり聞き出せませんでした。あの杭の上の
犬の頭蓋骨は何なのか・・・わからないですけど、僕なりに

考えてみたことはあります。ほら、四国って犬神の伝説がありますよね。
犬神筋の家というのがあって、それを使役して栄えている。三村の母親が
嫁いだのはそういう家なんじゃないかって。ただ、どうして三村が実家の
近くに戻ってきたのがわかったのか。向こうで会ったのは、観光客をのぞけば、
道の駅の職員だけなんですよ。それで、それから三村とは昼飯に行かなくなり、
話すこともなくなりました。でね、1ヶ月後、突然逮捕されたんです。
容疑は、動物愛護管理法違反。youtubeじゃなく、もっとマイナーな動画
投稿サイトに、犬を虐待してる動画を載せたんですね。子犬に熱湯をかけて
何匹も殺す。で、これは噂なんですが、三村の部屋を捜査したら、
きれいに磨かれた犬の頭蓋骨がたくさん出てきたんだそうです。
よくわかりませんが、おそらく身を守るためのものなんだと思います・・・

キャプチャsssde




花の話 2題

2021.01.09 (Sat)
ヨルガオ
坂上ともうします、よろしくお願いします。去年の春のことです。
夫が会社の帰りに、どういうわけか鉢植えの苗を買ってきたんです。
今から考えると、まずこれが不思議で。結婚して以来これまで、
園芸や植物に興味を示したことなんてなかった人なんです。
ですから「どうしてこれ買ってきたの」って聞きましたら、
「いやあ、駅に降りて、商店街の花屋が店じまいをするとこでな、
 この鉢をしまおうとしてたから、何の花ですかって聞いたら
 ヨルガオ。夜に咲く花って面白そうだから買ってみた」
こんな答えが帰ってきたんです。値段は数百円。買ったのは
べつにいいんですが、うちには庭はないんです。いちおう戸建てで
ブロック塀を回してますが、人が通るのが精一杯の敷地です。

夫にそのことを言うと、「ベランダに出しておけばいいだろ。
 あそこは日あたりがいいし、朝に水やりするだけで手間は
 かからないって、花屋の店員が言ってた」それで、そのとおりに
してたら、だんだんに大きくなってツルを伸ばし始めたので、
1階の軒までビニールヒモを張ったら、それを伝っていったんです。
花は7月ころから咲き始めました。私も植物はあまりくわしくないので、
不思議な感覚でした。他の花とは違って、夕方の4時ころから
開き始め、朝まで咲いてからしぼむ。それと花の一つ一つが
大きいんです。15cmはあって、子どもの顔みたいにも思えました。
ですから、夜に見るとちょっと気味悪い感じもしてたんです。それで
8月ですね。息子が夏休みに入って、ママ友が何人かうちに来て

だべってました。そしたら、そのうちの一人がベランダを見て、
「あれ、ヨルガオでしょ。うーん、私の実家のほうでは、
 ヨルガオを土植えするのはいいんだけど、鉢やプランターで育てるのは
 あんまりよくないってされてるの」こんなことを言ったんです。
「えー、どうして?」 「わかんない、たぶん迷信かなんかだと思うから
 気にしないで」そのときはそれで終わりました。で、もうすぐ9月に
なるという頃でした。その日、私は高校の同窓会があって、それでも
9時ころには帰ったんですが、けっこうお酒を飲んでました。
夜中にのどが乾いて起き出し、キッチンに行ったんです。冷蔵庫から
麦茶を出しているとき、ふとベランダのほうに目をやると、レースの
カーテン越しに、大きなヨルガオの花がいくつも開いてましたが・・・

その向こうに何かがいるような気がしたんです。え、庭に人が
入ってきてる? そこは近すぎて怖かったので、居間のほうのサッシから
外を覗いてみたら・・・青白い何かが宙に浮いてたんです。
幼稚園児くらいの大きさで、ぼうっと中から青く光るものでした。
「え、何これ」そうですね、私の目線よりは下だったので、120cm
くらいの高さでしょうか。白い着物のようなのを着てたと思います。
体は地面と水平になってましたが、羽のようなものはなく、羽ばたく
動きもしてませんでした。顔は横から見たのではっきりしませんが、
子どものように思えました。でも、男か女かもわからない。
それが、ヨルガオの花の一つに鼻先を近づけ、何かを話しかけている
ように見えました。そこで急に怖くなったんです。

悲鳴は上げませんでしたが、寝室に走って夫を起こし、寝ぼけてる
夫の手を引いてキッチンにつれてきたんです。「そんなのいるわけ
 ないだろ」そう言って夫はカーテンを一気に開けました。
そしたら・・・何もいなかったんです。道路の街灯の光がさしている
だけでした。「え、私の見間違いだったのか」そう思うしかないですよね。
夫はサッシを開け、ベランダに出て「ああ、ヨルガオの花、全部
 しぼんじゃってる。もう終わりなんだな」そう言いました。
ええ、翌朝から、くしゃっとなった花弁がぼつぼつと下に落ちてきました。
これだけの話なんです。その後、うちに悪いことが起きたりという
こともありません。ですから、やっぱり私の勘違いなんだと思いますが、
気になったもので、こうしてお話しに来たんです。

キャプチャddd

ヒガンバナ
岩間と言います、よろしくお願いします。これ、私が子どもの頃、
小学校3年のときだったと思います。地元の菩提寺に、両親と
行ったんです。いえ、法事などではなく、当時の住職に話があった
んですね。うちの父は檀家総代の一人で、両親の他にも、
檀家の主だった人が何人もいっしょでした。一同はお寺の広間で
住職を囲んで、みな深刻そうに話し込んでました。
もちろん子どもの私は加わることはなく、外で遊んでなさいと
言われて、境内に出されてたんです。夏休み中で、あちこちで
うるさいくらいセミが鳴いてたのを覚えてますよ。
まあ田舎だったんですけど、そのお寺は古く由緒あるところで、
境内もかなり広かったです。墓所に通じる道もあったんですが、

墓のほうは怖いので行きませんでした。それで、お寺の裏は
ちょっとした山になってるんです。山に入ればセミだけじゃなく
カブトなんかもいるかと思って、そっちに向かいました。
そしたら、ひょろっと茎が伸びた赤い花が一本道の脇に咲いてました。
初めて見たんですが、ヒガンバナでした。あれ、奇妙な形を
してますよね。花弁なのかガクなのかわからないですけど、
細い尖った形で八方に伸びてて。きれいと言えばきれいですが、
なにか怖いような感じもします。で、その道を進むごとに、
あっちに3本、こっちに5本という具合に同じ花が増えてきてました。
特に花壇になってるわけじゃなく、野生のものだと思いました。
ここから、記憶がかなりあやふやなんです。

ふと気がついたら、一面ヒガンバナだらけの中にいたんです。
しかも道もなくなってる。後ろを見ても、お寺の建物は見えず、
空には雲ひとつなく、真っ青な色をしてました。
「え、え、ここどこ?」パニックになって走りました。ヒガンバナを
踏み分け、踏みつけてかなり走っても、やはり景色は同じで
どこまでも真っ赤だったんです。息が切れ、べそをかいてうずくまると、
「坊や、お寺から来たの?」という女の人の声がしました。
そっちを見ると、花の中に白い着物の女の人が後ろ向きでしゃがんで
たんです。「ああ、この人に帰る道を聞こう」そう思って、
「お寺はどっちですか」と言いました。そしたら、その人は
後ろ向きのまま立ち上がり、「あのお寺はもうありません」

つぶやくように言いながら、ゆっくりとふり向きました。
乱れた長い髪で、その下の顔は着ている着物と同じくらい白く・・・
体で色があるのは首のまわりぐるりと、丸く赤い跡がついたんです。
ほんとうに怖いと、声が出ないんですよね。私が後じさると、女の人は
小さな声で「死んだのよ」と言い、そこでまた記憶がとぎれて、
・・・気がつくと、私は裏山へ向かう道に座り込んで、
一本だけのヒガンバナをじっと見つめていたんです。それからすぐ、
お寺の住職の交代があったんです。世襲で住職をやっているお寺なので
本来そういうことはないはずなんですが、不祥事があったんですね。
宗派の本山から、新しい住職が派遣されてきました。
これは私が大人になってわかったことですが、

当時40代の住職には愛人がいて、その人が自殺して噂が町に
広まったんですね。で、檀家のほうでも黙っていることができず、
寺に押しかけて住職を詰問した。ええ、その住職は
入り婿でしたから、離婚され、それから1ヶ月くらいして、
山に入って首を吊ったということです。それでね、私があの
ヒガンバナの野で見たのは、その住職の愛人だった女性なんじゃ
ないかと思うんです。もう古い話ですし、その方がどうやって
亡くなったかはわからないんですが、やっぱり首を吊ったんじゃ
ないかと。まあ、子どものときの幻覚だったのかもしれませんが、
今でもね、ヒガンバナが咲いているのを見ると、あのときのことを
思い出すんです。だから、苦手なんですよ。




 

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