解体工事2

2017.10.16 (Mon)
えっと一昨年のことなんだ。ある建物の解体工事を請け負った。
それがな、話が来たのが、うちの県の参議院議員の事務所からでな。
だから、これ聞いたときは驚いたよ。
え、何でかって? そりゃ国会議員ともなれば、
縁故でつながりのある建設会社なんていくらもあるだろ。
それが何でわざわざうちみたいな小さいとこに頼むのか、
やっぱ不思議に思うじゃない。それに、
うちは従業員は少ないし機材もそろってるってわけじゃない。
だから大きな建物の解体は最初から無理なんだ。
けどよ、ざっと話を聞いたところ、
壊すのは、たいした床面積もねえ蔵が一棟ってことだったんだ。

それによ、予算はこっちで好きに決めていいみたいなことも言われて、
こりゃおいしい話だって思うじゃない。
で、工事に入る前に現場の下見に行ったのよ。
向こうから来たのは、その議員の秘書だったが、
これがすげえ細身で顔色が真っ白だったのを覚えてる。
場所は山に近いほうで、あたりにはほとんど建物のないとこだった。
まず驚いたのが、その200坪の土地が厳重なフェンスをめぐらされてること。
それがただのフェンスじゃないんだよ。
高さが2m以上あって上に鉄条網までついてたんだ。
秘書は大きな錠前を鍵を2つ使って開けて、俺らはフェンスの中に入った。
ああ、もちろん蔵は外側からも見えたよ。でなあ、これもまた異様な建物でな。

床面積は30坪、だから広大な敷地の真ん中に蔵がぽつんと建ってるってこと。
なあ、不思議な土地の使い方だろ。それと、蔵の高さが異様に高かった。
民家の2階建てよりもまだ高い。それと、
屋根の上に煙突みたいなのが出てたことだ。
だってよ、蔵ってのは宝物を火事から守るためにあるんだから、
火気は厳禁だろ。それが煙突って変な話じゃないか。
でな、その秘書がこれも何個も鍵を使って3重の蔵の扉を開けて中に入った。
そしたら2階建てでもなんでもねえガランとした空間で、
天井がずっと上に見えた。中のものは運び込まれて残ってなかったが、
蔵の床の真中に四角い柱が一本立ってたんだ。で、材質はひと目でわかって、
コンクリ製の50cm四方の柱、そんなのがある蔵なんて聞いたことがねえだろ。

そう。外から煙突に見えたのは、その柱が屋根から突き出てるものだったんだよ。
で、秘書の話では、外のフェンスは全部撤去。蔵も完全に解体するが、
その真ん中のコンクリの柱だけは残してほしいってことだった。
これも変な話だが、別に難しい注文でもねえ。いや、蔵の解体って楽なんだよ。
解体工事で最も大変なのは廃材の分別なんだ。ガラスはガラス、
断熱材は断熱材、金属は金属ってきちんと仕分けしなくちゃなんない。
それもリサイクルできるのとそうでないものに分けてだ。ところが蔵の場合、
窓はないし、壁はしっくい、屋根は瓦で、
断熱材はもちろん、木材や金属はほとんど使われちゃいねえ。
な、楽な仕事だと思うだろ。俺も初めはそう考えてたんだが・・・
でな、現場から戻るときに、その秘書のやつがもう一つ注文をつけた。

「土台が残ってもかまいませんので、蔵の下の土は掘らないでください。
 最後に整地する必要もありませんから。それと、この真ん中の柱には、
 絶対に重機などをぶつけたりしないでください。なんとかよろしくお願いします」
で、見積もりを出してすぐ工事に入った。
いちおう足場を組んで養生シートを張ったが、
隣近所はいないも同然で、1週間以内には片づくはずだった。
ところが作業員の一人が大ケガをしたんだよ。
自分で自分の右足首にシャベルをうち込んで、アキレス腱が切れ骨が折れた。
俺はそんとき現場にはいなかったが、もちろん病院には何度も見舞いに行った。
これは手術が終わってだいぶ落ち着いてから聞いた話だ。
「あの蔵の下に何か埋まってます。家・・・じゃないかって思うんですが」

「何バカなことを言ってるんだ。どうしてそう思ったんだよ」
「いや、あの柱ね、どう考えても変でしょ。じつは・・・
 どこまで埋まってるかと思って、休憩中にまわりを少し掘ってみたんですよ」
「バカ野郎!! 土はちょっともさわるなって言ってあっただろ」
「・・・すいません。でも、不思議じゃないですか。
 なんであんな柱があるのか気になってしかたなくて」  「・・・それで?」 
「そしたら1mも掘らないうちに屋根瓦にあたったんです」
「そりゃ、たまたま埋まってたんだろ」 
「でもそこらずっとが屋根瓦だったんですよ。それもそんなに古くない・・・」
「ありえねえよ。鉄筋コンクリの建物ならともかく、瓦屋根ったら木造家屋だろ。
 それが土の下に埋まってたとして、土の重みですぐつぶれてしまう」

「いや、そうですよねえ・・・で、土を埋め戻そうとしたときに、
 どういう具合か力加減がおかしくなっちゃって、
 思いっきりシャベルで自分の足をぶっ刺しちまって」まあこんな会話をした。
そいつは全治4ヶ月ってことだったが、今は復帰してる。
考えられねえケガだよな。自分の足にシャベルを刺す?
そんなのは高校出たてのアルバイトでもやらねえよ。
ましてやつは10年選手のベテランなんだし、何から何までおかしな話だ。
もちろん土の中に家が埋まってるなんてことはありえねえ。
あのあたりで土砂崩れがあったなんて話も聞いたことがねえしな。
だいいち平地にどうやって家を埋める?
けどな、そっから先いろいろおかしなことがあったんだよ。

解体は終わって、広い敷地の中に四角い柱だけがぽつんと残ってる状態で、
あの秘書を呼んで確認をしてもらったんだが、
約束した時間に行ってみると、柱のまわりにカラスが落ちて死んでたんだよ。
それも4羽も。いや、広い敷地でそこだけなんだよ。まるでその柱が煙突で、
毒の煙が出てるんじゃないかって思ったくらいだ。
うん、実際、中は空洞だったのかもしれないが、そのへんはわからない。
でな、秘書のやつはカラスの死骸を足で蹴りながら、
「おう、いい、いい。これはすごい。20年経ってもこれほどのものか」
正確には覚えちゃいねえが、こんな内容のことを言った。
地鎮祭はやらない契約だったんでこれですべて終わりなんだが、
俺はちょっと興味を持って秘書に聞いてみたんだ。

「この土地、これからどう使うんです?」そしたら秘書のやつは笑って、
「ああ、アパートを建てる予定です」こう言った。続けて、
「そのほうの工事は御社にはお願いすることはできません。申しわけない」って。
でもな、それも釈然としなかったんだよな。国会議員がアパート建てるかね。
てっきり事務所か何かになると思ってたから、これは意外だったな。
それから2ヶ月ほどして、県内の大きい業者が入ってあの土地で工事が始まった。
それでできたのが、アパートっていうかシニア マンションなんだよ。
そう、老人向けの集合住宅だ。完全バリアフリーのつくりで、
住むのは一定年齢以上で、資産条件を満たした高齢者のみ。
うん、そういうのには国からいろんな補助が出るし、税の優遇もあるんだ。
近くの医療機関と連携してて看護師も常駐してる。

あのあたりはあまり店はないが、ひんぱんに街の中心までバスが出てるらしい。
そのへんは国会議員の力なんだろうな。
評判? それがなあ・・・いいと言えばいいか、悪いと言えばいいか・・・
微妙なんだよなあ。うん、入居者がよく死ぬんだ。
それまで元気だった老人が、あのマンションに入ったとたん
コロッと病気で亡くなる。去年だけで何回葬式を出したんだか・・・
けども、部屋に空きが出ればすぐに入居者が埋まる。
自分の親をあそこに入れたいって子どもらが多いみたいなんだな。
ああ、あの蔵にあった柱な。わざわざああやって残したんだから、
マンションの建物の一部として組み込まれてるんだと思う。
なんのためにそんなことをしたのかはわからないけども。

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やつしの話

2017.10.14 (Sat)
実家が海の近くにあってね、そこに高校までいたんだ。
ああ、漁師じゃないよ。親父は町役場に勤めてた。
最終的には助役までいったんだよ。まあでも、じいさんは町長だったから、
親父の代で格落ちしたってことだな。俺? 俺は次男だったし、
あんな田舎にいるのはまっぴらだったから、こうして都会に出てきて
自由にやってるんだ。兄貴が町役場にいるよ。
でな、その町長だったじいさんに、子どもだったころに、
しょっちゅう「やつし には気をつけろ」って言われてたんだよ。
うーん、何だろうな。妖怪といえばいいのかもしれないが、
ちょっと違う気もする。なんというか、
あの町の古くからの住人だけが持ってる業みたいなもんじゃないかと思う。

遠い昔に何かがあって、それが原因で代々嫌がらせされてるっていうか。
いや、その何かってのはわからないよ。じいさんはとうに死んじまったし、
もしかしたら、兄貴は親父から聞いてるかもしれないけどな。
別に知りたいわけじゃなかったし、とっくに町を離れてたから、
俺には関係ないことだと思ってたんだよ。うん、やつし ってのは、
「姿をやつす」ってところからきてる。要は人に化けて出てくるってことだな。
それでいろいろ悪さをするわけだ。命までとられる・・ってことも、
ときにはあったみたいだ。俺の中学の同級生で、
やつし にあったやつを知ってるから、
今からその話をするよ。そいつが小学4年生だったとき、
そいつの中学生の兄貴といっしょに泳ぎに行ったんだ。

海のそばだったから、6月になれば子どもは海でガンガン泳いだよ。
だからみんな泳ぎは達者なんだけど、そいつはあんまり上手くなかったんだな。
それで兄貴が特訓してやろうってことで、海に連れ出してたらしい。
で、まずは足のつかない深さに慣れさせるために、
そいつに浮き輪をつけさせて、兄貴が引っぱってどんどん沖に出ていった。
んで、岸から50m以上離れたところにきて、
兄貴が「浮き輪はずせ」って言って、そいつが「兄ちゃん怖いよ」って答えた。
そしたら兄貴は、そいつの前でガボッと水に潜って、
もう一度出てきたときには真っ黒な顔になってたんだよ。
うん、そいつの話だと墨をぬったような黒さで、
目だけがらんらんと輝いてたってな。

で、いきなり口を開けて浮き輪にかぶりついたんだ。
当然、浮き輪は破れて一気に空気が抜け、そいつはアップアップし出した。
もがきながら見ると、黒い顔のやつが大口開けて歯をむき出して笑ってそうだ。
それで、海水を飲んでもうダメだってときに、
後ろからガッと髪の毛をつかまれた。
そう、つかんだのが本物の兄貴だったんだよ。
そいつの兄貴は「お前、何やってるんだ!」って怒鳴り、
それから頭をねじってそいつの体をあお向けにしたまま、
うまいこと泳いで足の立つところまで引っぱっていったんだな。
で、後から兄貴に聞いたところじゃ、浮き輪をつけてバシャバシャやってたのが、
急に止まって、その場でゆっくり回りはじめた。

それでいきなり自分で自分の浮き輪を噛み破って、
そのままストンと海に沈んで溺れだしたってことだった。
10mほど離れて後ろをついてった兄貴は驚いて、
髪をつかんで引っぱりあげた・・・
だからそいつの兄貴には、まったく やつし が見えてなかったってことだな。
うん、この話なんかは、下手すれば命をとられてたかもしれない。
まあ、やつし ってのはそういうもんなんだよ。
だけどな、気をつけろって言われても、
どうやって気をつけたらいいかわからないだろ。
だって知ってるやつに化けてくるんだから、
いちいち相手に、「あんた本物か」って聞くわけにもいかないだろ。

んでな、俺の話に戻る。あれは大学を出て3年目くらいのときだ。
俺は電力関係の会社に就職して、彼女のマンションで同棲してたんだよ。
けど、いっしょに暮らし始めたら、
お互いに嫌なところばかりが鼻につくようになってな。
毎日のようにケンカしてたんだよ。で、その日も真夜中に近い時間に大ゲンカして、
俺がそのマンションから飛び出したんだ。
で、もう別れるしかないなと思ってたんだが、
外で一服してるうちに少し彼女のことが心配になってきた。
うん、精神が不安定なとこのあるやつだったし、
死ぬの死なないの、みたいな言葉もケンカの中で出てたからな。
で、まさかのことがあっちゃいけないと思って、様子を見に戻ったんだ。

合鍵は持ってたから、エレベーターで8階の部屋まで戻って鍵を開けた。
チェーンはかかってなかったから、そのまま部屋に入って見回したがいない。
んで、カーテンが開いてたんでベランダを見たら、
彼女がぼうっとした感じで立ってたんだよ。それで近づいていったら、
コンクリの手すりを乗りこえるような動作をしたんだ。
俺は「おい、待て、やめろ」そう叫んでサッシを開け、
飛びつくようにして彼女の腰をつかんだんだよ。
したら、空中で彼女は体を曲げてこっちを見たんだが、
その顔が真っ黒だったんだよ。目と、大口を開けた歯だけが白く光ってて、
前に話した同級生の言ってたのと同じだったんだ。
俺は「あっ!」と思って手を離そうとしたが、

そいつが俺の服を強く握ってて離れない。
んで、そいつはぐるんと手すりから外に落ちて、
俺も引きずられて腰のあたりまで空中に出てしまったんだ。「ああ、落ちる」
そう思ったときに、「○○、あんた、何やってるのよ!!」って声がして、
後ろから本物の彼女が来て、俺の足の片方を持って、
ベランダのほうに引き戻してくれたんだよ。
うん、俺が最初に彼女だと思ってたのが、
やつし だったんだよな。本物の彼女は風呂上がりの格好で、
ちょうど出てきたところで、ベランダでジタバタしている
俺に気がついたってことだった。え、やつし はどうなったかって? 
それが、空中で消えたとしか言いようがない。

もちろん朝になって調べたけど、マンションの下には何も落ちてなかった。
うん、これが俺の やつし 体験だ。ああ、彼女には俺しか見えてなかったし、
やつし の話はしなかったよ。だって信じてもらえないと思ったからね。
だから彼女は、ケンカが原因で俺が飛びおりようとしたと思ったんだな。
そっから態度が少し優しくなって、同棲はもう1年くらい続いた。
まあ、結局は別れちゃったけどな。
あれからもう20年ちかくたったけど、その後は やつし にはあってない。
うーん、見るのは一生で1回だけなのかもしれないけど、
そのあたりのことははっきりとはわからないよ。まあこんな話なんだ。
実家のほうでは、まだ やつし の被害を受けてるやつがいるのかもしれないけど、
話が伝わってこないんで、これもわからないなあ。








秘密

2017.10.13 (Fri)
中学校3年のときの話だよ。俺は中高一貫校に行ってて、だから受験もなくて、
部活は引退してたから、毎日放課後は仲間と遊び暮らしてたんだ。
でな、その日、同じクラスのやつが2人俺んちに来たんだよ。親は留守だった。
一人は松井っていう部活のときの仲間で、もう一人は滋賀っていうやつだった。
この滋賀は夏休み後に転校して来たんだよ。
だから友だちもいなくて寂しいだろうってんで、その頃たまに誘ってたんだ。
で、3人で俺の部屋に入ったけど、やることはゲームしかねえ。
あとはマンガ読んだりとか、勝手にバラバラにしてたな。
今のガキだってそんなもんだろ。そのうち1時間くらいたって、
なんだか腹が減ってきたんだよ。それで2人に、
ポテチとジュース買いにコンビニ行かないかって誘ったんだ。

そしたら松井は行くって言ったけど、
滋賀は「ゲーム、今、いいとこだから」って
コントローラー離さなかったんだよ。それで2人でコンビニ行ったわけ。
ああそれで、俺んちはその頃、犬飼ってたんだよ。トイプードル。
おとなしいけど人懐っこいやつで、名前はジョンっていった。
で、俺もそれなりにかわいがってたんだ。そいつが部屋の中にいたけど、
滋賀と残して、コンビニに行ってきたんだ。
そしたら家に入った階段のところで、
ジョンがギャンギャン鳴く声が聞こえてきてな。
そんな声出すことはなかったんで、小走りに部屋に入ったら、
滋賀が小さな犬の上に馬乗りになって、両手で首絞めてたんだ。

「あ、おい何してる! やめろ!」俺はあわてて滋賀の背中に飛びつき、
後ろから手をつかんでジョンから引き離したんだ。
「何だよ! 何やってるんだ、ジョンが噛んだのか?」滋賀にそう聞いたら、
やつは息をはずませながら、
「今よう、この犬しゃべったんだ。それも俺の大事な秘密を」
こんなことを言い出した。でも、犬がしゃべるわけないだろ。
それで、滋賀はゲームのやりすぎで錯乱したんだと思うことにした。
で、その場は白けた感じになって、遊ぶのをやめて解散したんだよ。
ああ、ジョンは大事なかった。2時間くらいは喉のあたりを気にしてたけど、
夜になった頃には普通に戻ってたな。ああもちろん、
ジョンがしゃべったりすることはなかったよ。

これがあって、俺も松井も、滋賀とは遊ばなくなったんだ。
そうすると学校に友だちはいないから、いつも一人でいるようになった。
それから1ヶ月くらいたって、
俺が一人で帰ってたら道の前のほうに滋賀がいて、
横の塀を向いてなんか大声を出してたんだ。
「こら、しゃべるな。俺らの秘密をなんでしゃべるんだよ!!」って。
それでジョンのときのことを思い出したんだが、滋賀の目線の先の塀の上に、
ノラ猫が一匹いたんだよ。猫に向かって怒鳴ってるとしか見えなかった。
そうしてるうちに、滋賀は塀に走り寄って猫のしっぽをつかもうとし、
猫は向こう側に飛び降りて逃げってたんだよ。
それで「ああ、こいつはやっぱ危ないやつなんだな」って思って、

俺はその場から離れて道を変えた。動物が話をするわけはねえし、
だいいち、滋賀の秘密ってのがあるとして、
犬や猫がそんなことを知ってるはずもねえしな。
それから10日くらいして、滋賀は学校に来なくなった。
不登校になったんだよ。やっぱ精神を病んでたんだな、
くらいにしか思わなかったけど。
で、さらに2ヶ月ほどたって、次の年に入ったころ、
友だちから滋賀の噂を聞いたんだよ。あいつ猫殺しをしてるみたいだって。
そいつは滋賀の家族が入ってる市営住宅の近くに住んでたんだが、
日曜日に、滋賀が団地と団地の間のせまい通路で、
高価そうな金網のワナで猫をとってるのを見たんだ。

で、金網に入った猫を布袋に移して、猫が暴れるのもかまわず、
袋ごと何度も団地の壁に何度も叩きつけ、だんだん袋が赤く染まっていって・・・
それ以外にも、これは殺してるとこを直接見たわけじゃないけど、
そいつの家のまわりで猫のむごたらしい死体をよく見かけるようになり、
これもやっぱ、滋賀がやってるんだろうと思うって言ってたな。
え、滋賀の家族? いや、わかんねえけど、
両親はそろってたと思う。でも、市営住宅に入ってるんだから、
たいした仕事はしてなかっただろ。
でな、3月になって、もうすぐ中学は卒業ってときに事件は起きたんだ。
ホームルームで帰りの会をしてるときに、突然滋賀が入ってきて、
担任を押しのけて、教壇の前でしゃべりはじめたんだよ。

泣くようなかすれた声だったけど、何を言ってるかはわかった。
「俺と家族の秘密を知ってる犬猫がこの町でも100匹をこえた。
 秘密を知ってる犬猫が100匹をこせば人間にもばれてしまう。
 そうすればまた転校だ。こんなのは俺はもう嫌だ」
だいたいこんな内容だったな。で、滋賀はスタスタ窓のほうに近寄っていき、
サッシを開けてベランダに出ると、
あっさり手すりを乗りこえて飛び降りたんだよ。
ああ、担任もとめる隙がなかった。すぐに下でゴッツンみたいな音がしてな・・・
教室は3階だったけど、滋賀はプールの飛び込みみたいに頭から落ちたから、
助からなかった。ほぼ即死に近かったみたいだ。
それで学校中大混乱になって、警察や救急車も来たんだよ。

それで、その夜のことだよ。
夕食のときに俺が学校であったことを話したんだよ。
そのときにはソファの上にジョンもいた。
母親は他の保護者から電話がきたみたいで滋賀の自殺のことを知ってたけど、
父親のほうはかなり驚いてたな。
俺は「お前も悩みがあったら一人で困ってないで誰かに相談するんだぞ」
みたいなことを言われて、夕食を済ませて自分の部屋に行った。
んで、ベッドに寝転んでマンガを読もうとした。
したら、いつのまにかジョンが部屋に入ってて、
ベッドの俺の足元によっこらせと登ってきた。
いつものことだから、そのままにしてマンガを読み続けたら不意に、

「死んだのか、あんな秘密を持ってりゃ当然だな」こんな声が聞こえた。
なんかアニメの声優がやってるようなかわいらしい声だった。
「えっ!」思わずマンガ本をとり落としてそっち見たら、
きょとんとした顔でジョンがいるだけだったんだよ。
「え? え? 今しゃべったのお前か?」
けど、ジョンは舌を出して、甘えたそうな顔をしてるだけでな・・・
ああ、それからは1度もジョンがしゃべるのを聞いたことはねえよ。
だから俺の聞き間違いだったと思うしかないんだが・・・
ジョンはそれから10年以上生きて死んだよ。でなあ、やっぱ気になるだろ。
滋賀の言ってた秘密ってやつ。もし、もし本当にそういうのがあったんだとしたら、
いったいどんなことだったんだろうな・・・って。








ドブ川の向こう

2017.10.09 (Mon)
もう何十年も前のことだけど、俺は鉄鋼業の盛んな街にいたのよ。高校2年だった。
地元の高校までは市街地を通るとチャリで30分もかかったから、
いつも近道をして、道中のかなりの部分、土手を通ってたのよ。
そこの土手は親からは通るなって言われてて、何でかっていうと、
危険だからってことじゃなく、土手の下の3mほどのドブ川の向こうは、
「よくない人」が住んでるからってことだった。
何が「よくない」のかははっきりとはわからなかったが、
そのドブ川の向こうは真っ黒くすすけた壁のアパートが並び立っていて、
住んでいるやつらがビンボーだってことはわかった。

で、ある夏の日の放課後のことだよ。5時前くらいにそこを通ってたら、
俺の高校で1,2を争う美人の女子生徒が、自転車で前を走ってたんだよ。
これは驚いたね。俺が高校に通ってた2年間で、そいつがその土手を
通るのをはじめて見たから。同じクラスじゃなかったんで、
声もかけられなくて黙って後をついていったら、
急にドブ川の向こうのアパートの窓という窓から、
川向うの住人が一斉に顔を出したのよ。
そいつらはみな五分刈りで、やっぱりすすけたような黒い顔をしてた。

んで、女子生徒がちょうどアパートの横にかかったとき、
全員が窓から手を出して、ひらひら振るような、招くような動きをしたのよ。
そしたら急に、女子生徒の自転車が不安定になって、
ふらふらと走って道から外れ、土手を転げ落ちていった。
するとアパートの窓窓から、どっと笑い声が起こった。
あ、助けなきゃと俺が思う間もなく、アパートからわらわらと半裸の男たちが出てきて、
泥だらけになった女子生徒を自転車ごと、
ものすごい手際のよさでドブ川から引き上げた。

で、そいつらがとまっている俺のほうを見て、嫌な手振りをして叫び声を上げたんで、
俺は怖くなって、スピードを上げて帰ったんよ。
その女子生徒は翌日から学校を休んでいたらしかったが、
1週間くらい後の放課後、親に連れられて学校に来たのをたまたま見た。
口から鼻にかけて、顔の下半分が包帯でぐるぐる巻きになってた。
親は高級外車に乗ってて金持ちなんだと思った。その子はその後、
学校を辞めたみたいで、2度と登校してくることはなかったな。

それから4年ぐらいたって、俺は別の町で就職したが、
その日は仕事休みで久しぶりに里帰りしてた。で、俺のチャリがサビサビになって
まだ実家にあったから、なんだか懐かしくなって通学路だった土手を通ってみた。
それであのアパートのあるあたりまで来たとき、
ああ、そういえば高校のときに、このあたりで女子生徒が自転車で川に落ちたよなあ、
って思い出してると、アパートの一棟の2階の窓が開いて、
くしゃくしゃの髪の女が顔を出した。その女は俺に気づき、
指差して「ギャハハハハハハ」と大口を開けて笑った。
上の歯がほとんどなかった。で、かなり人相が変わってたけど、
それは、高校のときにドブ川に落ちたあの女子生徒だったんだよ。










島の神社

2017.10.08 (Sun)
今年の5月のことだよ。連休の期間に、会社の同期4人で釣りに行ったんだ。
場所は・・・瀬戸内の某所。場所は言わないでおくよ。
ありゃ、行っちゃいけねえところだと思うからだ。
・・・ネットで釣宿をさがして予約を入れた。そこは宿のオヤジが小型の釣り船を
持ってて、客を乗せて沖へ出せるようになってたんだ。2泊3日の予定だった。
宿には金曜の夜に着いた。磯臭い漁港の、なんてことはねえ民宿だったよ。
それでその日はみなで酒飲んで寝て、翌日、早くからオヤジの船に乗った。
アジやメバルをねらって朝の8時から昼ころまで釣ったんだが、
釣果はぼちぼちもいいところだった。一番多いやつで3匹とかそんな感じ。
これにはオヤジも恐縮した様子でな。
「冷たい海流が次入ってきてるのかもしれねえ。昨日まではもちっと釣れてたんだが、

 これじゃあちょっとらちがあかねえな。昼食ったら島につけるから、
 そこで磯釣りしたほうがいいかもしれない」こう提案してきた。
「島でもいいよ。なんて名前の島?」 「いや、小さな島で無人島だよ。
 そこの船着き場で釣ればいいし」それで、飯食ってから40分ほど船を走らせて、
その島に着いたってわけ。そうだなあ、周囲4kmくらいで、
中央に低い山があって、家はもちろん一件もねえ。
ただ、船がつけられるような桟橋が長くのびてた。オヤジは、
「この桟橋から、向こうの護岸までのところで釣るといい。今日だったら。
 船に乗ってるよりなんぼかは釣れるだろう」
100mもないような山のほうを見ると、木々の間に赤いものが見えたんで、
「あれは何だい?」って聞いた。「ああ、荒れ果ててるけど神社があるんだ。

 30年ばかり前には、この島にも住んでたやつがいたからな。
 5時にはここにむかえにくるから」そう言い残して戻ってたんだよ。
で、4人がめいめい場所を決めて釣り始めたんだが、これが入れ食いで、
持ってったクーラーボックスがたちまちいっぱいになった。
みなほくほく顔でな。「これはいいとこみつけた。また秋にでもこようぜ」
そんな話も出た。そのときには、あんな目に遭うとは誰も思ってなかった。
夢中になって釣っていると、「もう5時なるぜ。そろそろオヤジがむかえにくる」
仲間の一人がそう言った。ところが、待てど暮らせどオヤジの船がやってこない。
「こねえな、5時半過ぎた。あのオヤジ、俺らをここに置いたことを忘れて
酒でも喰らってるんじゃないか」 「そんなわけねえ。俺らは泊り客だぞ」
そんなことを言ってるうちに、いくら日の長い時期といっても、

だんだんに暗くなってきたんだよ。「オヤジ、本当にこねえ。これマズくないか」
「朝まで釣ってろってか」 「寒くはないから、それはできるけど、
 風呂に入って酒が飲みてえ」 「スマホで連絡取ってみろよ」
「それがさっきからやってるんだが、オヤジも宿も出ねえ。
 それどころかどっこも圏外になってる」 「ありゃ、俺のもだ」
でな、もちろん街灯なんてない無人島だし、
そのうちに手の先も見えなくなってきたんだよ。
「こりゃもう、釣りも無理だ」 「どうすんだ、ここで寝るのか?」
「あれ、おい、雨が降ってきた」
「あ、かなり激しいな。ずぶ濡れになれば、この季節でも低体温症になりかねんぞ」
「どうする? 林の木の下に入るか?」

「まだ明るいうちに、あの鳥居のとこまで行ってみねえか。
 神社があるなら、軒先を借りれるんじゃ」 「多少登りになってるが、
 距離は200mくらいだろ、行ってみよう」 「その間に船、来たらどうする」
「俺たちがいなかったら待つか探しにくるだろ」 「ぷぷぷ。たまらん」
ってことで、俺たちは竿をたたみ、荷物をまとめて神社をめざしたんだ。
幸いなことに、獣道ていどだが道がついてて藪こぎする必要はなかった。
神社は見えてた印象よりもだいぶ近くにあって、時間にして10分ほどで着いた。
鳥居は、もとは赤かったんだろうが、すっかり塗りが剥げてて、
その後ろにある社殿は、つぶれてこそいなかったものの荒れ放題に荒れてた。
「軒下に入ろう」 「大丈夫かよ、崩れてくるんじゃないか」
「表戸を開けてみるぜ、おっ開くぞ」で、俺らが中に入ったときには、

雨雲のせいで暗さが増し、ザーザー雨が神社の屋根を叩いてた。
中の広さは8畳間くらいだったな。
「なにもねえみたいだな。誰か懐中電灯とか持ってるやついるか」
「ライターしかねえ。今、つけてみる」 「あ、この砂みたいなのはホコリか」
「端のほう雨漏りしてるんじゃねえか」 ライターはすぐ消えて、
あとは各自が持ってるスマホの明かりだけになった。
「明るくなるまでじっとしてるしかねえのか」 「さすがにそのうち来るだろ」
「あんのクソオヤジ、ぶん殴ってやりてえ」
「ま、宿代はタダにしてもらわなきゃ済まんな」 
こんな話してると、とつぜんスマホが鳴った。俺のだけじゃなく全員の。
「あ、もしもし」出て見ると、「・・・ヒ ト リ モ ラ イ マ ス」そう聞こえた。

男か女かもわからないひび割れた声だった。「え、え?」
それだけで通話は切れた。「あ、今の電話なんだった?」 
「一人もらいますっって言ったぞ」 「俺のもだ」 「同じ」
そしたら残った一人が「俺は、あなた もらいます って聞こえた・・・」こう言ったんだよ。
「ええ?」そのとき、わずかに開けてた神社の表戸から強い光が入って、
すぐドーンと音がした。「雷か。勘弁してくれよ」 「近いな」
そんときかすかに「おーい、いるんか、おーい」という声が外でして、
「ああ、やっぱりここかあ」雨合羽を来た釣宿のオヤジが入り口に立ってたんだよ。
「お、オヤジか、何やってたんだよ!」 「ああ、スマン、すまねえ、そこまで来てたんだが、
 急にエンジンの調子が悪くなって遅れた。スマン。
 ひでえ雨だが、船つけてあるから乗ってくれ」で、俺らはオヤジに口々に文句言いながら、

桟橋まで戻って船に乗ったんだ。その間にも雷の音は何度も響いてた。
でな、俺が振り返ったときにちょうど稲妻が光って、そしたら神社の前に、
何か大きな黒い獣みたいなのがうずくまってるように見えた・・・
俺らは全員ずぶ濡れで、オヤジがタオルをよこし、船室に入ってなんとか人心地がついた。
「まさか雨になるとは思わんかった、予報は見てたんだが、スマンな」こう言うオヤジを、
俺らはさらに散々ののしって、ここまでの料金をタダにさせ、
さらに晩飯もサービスさせるように交渉したんだよ。
で、船宿に戻り、風呂に入って全員に酒が回ると、みな機嫌がよくなってきた。
ま、魚自体はバカスカ釣れたわけだしな。「さっき、神社にいたときにかかってきた携帯、
 ありゃなんだったんだ?」一人が言い出して、全員が着信履歴を見たが、
誰のにも残ってなかったんだよ。これには首をかしげるばかりだったな。

でな、その次の日は快晴で、早朝からまた船で釣りに出たんだよ。
「オヤジ、エンジンいい調子だな」 「いや昨日はほんとにすまないことで」
オヤジはすっかり低姿勢になってた。で、魚のほうは誰も一匹も釣れず。
「こりゃ昨日の今日で潮がよくないみてえだ。昨日の島にまた行ってみるか。
 上陸はしねえよ。あのあたりの岩陰に入る。海から昨日の神社も見えるから」
オヤジがそう言って、船を走らせて島の下に入った。
たしかに鳥居と神社の屋根のあたりまでが見えた。
「この島ってなんで人がいなくなったん?」 
「そりゃ過疎のせいさ、まあもともと数十人しか住んでなかったけどな。
 あの神社は島の氏神みたいなもんで、それでも10年くらい前までは、
 船で来て世話をしてる神主がいたんだが、死んじまってなあ」

そこで昼まで釣ったら、入れ食いになった。もう腕が利かなくなるくらいだった。
「この島のまわりは魚が濃いんだなあ」興奮してそんなことを言ってると、
目の端で人が飛んだように見えた。「ええ?!」
かなり高い船の手すりを乗り越えて、竿を持ったまま海に落ちたんだ。
けども、トプンとも水音はしなかったと思った。「おい、落ちたぞ!!!」
オヤジがすぐ船を停めて、俺らは海面をのぞき込んだ。どこにも姿が見えない。
ライフベストをつけてたから必ず浮いてなけりゃおかしいのに。波の上を目で追ってると、
落ちたと思われるあたりから急に黒い大きなものが顔を出し、すぐまた沈んだ。
落ちたやつかもしれないし、イルカとかにも見えたが何だかわからない。
オヤジは保安庁と漁協に連絡し、それから何日も捜索が行われたが見つからなかった。
ああ、そうだよ。・・・落ちたのは「あなたもらいます」って言われたやつだ。