悪魔の話

2018.02.22 (Thu)
10日ほど前、漫画雑誌の仕事である霊能者の方とお会いしました。
お名前は、かりにKさん、としておきます。Kさんは50代の男性で、
本業は実業家。貸ビルや飲食店経営などを手広く展開されていて、
年収はおそらく数億はあるだろうと思われます。ですから、霊能者としての活動は
完全なボランティアなんです。とにかく、興味深い霊的な事件があれば、
日本全国どこへでも出かけていきます。で、仕事が終った後、
ホテルのバーに入って、いろいろとお話をうかがいました。
その中で、自分が前から疑問に思っていたことをいくつかお尋ねしてみたんです。

「前から気になっていたんですが、日本ってキリスト教徒は少ないですよね」
「うーん、そうだね。人口の1%くらいと言われてる」
「ええ、日本人100人に一人くらいです。それでですね、
 キリスト教の悪魔って、どう思われますか?」
「それは、神の敵対者ってことだろう。キリスト教は一神教で、神は全知全能で
 この世のすべてを支配している」 「ええ、そうですね」 
「それなのに、この世から犯罪や貧困など、さまざはな悲惨がなくならないのは変だろう」
「まあ、確かに」 「このことについて、説明が2つあるんだよ。
 一つは、神がわざと試練を与えて、人間を試してるってこと。
 その人が死後、神の国に入ることができる資格があるかどうか試しているわけだ」
「ははあ、苦しいときにこそ、その人の本性、人間性が現れるってことですか」

「ちょっと違うけど、まあ、そう考えるのがわかりやすいかもしれない。
 それともう一つが、神の敵対者としての悪魔という存在だな。
 人間が誘惑に負けやすいのは、エデンの園のアダムとイヴの話に出てくるだろう」
「ああ、イヴが蛇に勧められ、神が禁じていた知恵の実を食べてしまったことですね」
「そうだ、あの蛇の正体は悪魔サマエルとも言われている。人間を誘惑し、
 悪事を働かせて魂を奪いとる」 「魂を奪われるとどうなるんです?」
「それは、永遠に地獄の炎で焼かれるという話もあれば、
 最終戦争ハルマゲドンのときに、悪魔の手下となって闘うとも言われている」
「うーん、やはり善と悪との闘いなわけですね」
「それが一神教というものだよ。光があれば必ず影があるっていう」
「じゃあ、このキリスト教徒の少ない日本にも、悪魔は存在するんですか?」
Kさんは自分のこの言葉を聞いて少し笑い、

「悪魔にとっては日本は楽だろう。キリスト教の考え方では、
 異教徒はすべて地獄に堕ちるんだよ。
 だから、日本じゃ悪魔はあまりやることがない。キリスト教が多人数に広まるのを
 邪魔してるだけでいいんだ。仏教徒や神道を信じてる日本人はすでに悪魔のものだから」 
「はああ、そういう考え方なんですね」
ここで、自分はぐっと水割りを飲み干し、一番聞きたかったことを口に出しました。
「じゃあ、Kさん。これまでにキリスト教の悪魔がからんだ事件を経験したことは
 ありますか」 「ああ、あるよ、ずいぶん前のことだし、失敗談なんだが」
「じゃあそれ、ブログに書きますんで、ぜひ話してくださいよ。お願いします」
「・・・九州のほうに、Yさんって女性がいたんだ。両親ともキリスト教徒で、
 足繁く教会のミサに通うなどして、かなり厳格に躾けられた。

 Yさんは高校を卒業して、ミッション系の大学に入学したんだが、
 そこでテニスサークルに入ったんだよ。
 それで、サークルに外部から来てた年上のコーチと親しくなった」
「よくありそうな話ですね」 「まあね、後はわかるだろう。神様ではない、
 ただの人間を愛するようになったYさんは、
 自分の気持ちにとまどいながらも流されていった」
「うーん、でも、それって普通のことですよね」
「うん。ただ、このコーチというのが、あまりたちのよくないやつだったんだな。
 Yさんと同棲するようになり、子どもができた」
「はい」 「このことがYさんの実家に知れて両親は激怒。どうやら、
 同じ会派のキリスト教の家庭に、親同士が決めてた婚約者がいたらしいんだ」

「本人が知らないところでってことですが?」 「そう」
「えー、今どきそんな話・・・」 
「まあね。でも、そういうふうにしないと日本のキリスト教社会って維持できないんだよ」
「すみません、たびたび口をはさんじゃって。その後、どうなったんですか?」
「Yさんの両親は困った。キリスト教の教えでは中絶は悪だからね。
 とにかく、男と別れさせ、Yさんには大学を辞めさせて、
 実家でひっそりと子どもを産ませたんだ」 「ははあ」
「それから、Yさんをヨーロッパの学校に入れた。
 全寮制の、なかば修道院のようなとこだよ。あと、子どもは男の子だったけど、
 Yさんの両親が養子にして、Yさんの弟として育てることになった」
「そういう形ってできるんですか」 「あれこれ手を回したんだと思う。

 それでね、両親が育てているその子に異変が起きた」 「どんなことです?」
「両親は2人とも働いていて、かなりの資産家だったから、
 シッターを雇って子どもの面倒を見させていたんだが、そのシッターがおびえる。
 子どものベビーベッドに影が現れるって言うんだ」
「どういう?」 「壁や天井に影だけが映るんだが、それがコウモリのような翼があり、
 頭には2本の角らしきものが生えてるっていう」 「・・・まさに悪魔ですね」
「そうだ。しかし両親にはそんなものが見えたことはないんで、シッターを変えた。
 でも、前のシッターとは面識がないはずなのに、同じことを言う。
 そこで私が呼ばれたんだ」 「すごい、悪魔祓いですか」
「ははは、エクソシストの修行をしたことはないし、聖書の詩句も覚えてない。
 聖水の用意もない。だから、日本の他の場合と同じようにした。

 その子のベッドの近くでご祈祷したんだよ」
「悪魔が出てきましたか?」 「いや、その場では何も起きなかった。
 子どもの様子にも特に変化はなし。かわいい普通の赤ちゃんだったな。
「じゃあ?」 「その後すぐに、ヨーロッパにいるYさんの学校から連絡が入った。
 娘さんの様子がおかしいから、すぐに来てくれないかって。
 で、両親と一緒にヨーロッパに飛んだんだよ。赤ちゃんは連れていけなかったけど」
「それで?」 「うん、そのルーマニアの学校は山深い田舎にあって、
 共同生活しながら聖書についてや、庭の手入れ、刺繍、金属細工などを習う。
 で、われわれが行ったときには、Yさんは拘束されベッドに寝かされていたんだ。
 暴れて手がつけられないからってことで。
 でね、Yさんが入っていた地下のせまい個室を見せてもらったんだが、

 その白壁に、うっすらと翼と角のあるものの姿が浮き出していた」
「うーん、それ、現地のシスターたちは何もできなかったんですか?」
「表向きは学校だし、そんな力がある人もいなかったんだろう。
 それに私も、Yさんが自分の心の中でつくり出した、罪悪感が形になったものだと、
 そのときには思ってたんだ。でね、まさかキリスト教の修道院で
 日本式の祈祷なんてできないから、どうにかしてYさんを帰国させ、
 日本の精神科の病院に入れた」 「結局、ご祈祷はしなかったんですか」
「そう、これは私の失敗だった。そのときにはキリスト教の悪魔について
 よくわかってなかったんだ。もしいるとしても、
 日本では大したこともできないだろうと思ってね」 「それで」
「Yさんは2年ほど入院して、だいぶ落ち着いた。だから両親が家に戻し、

 そこであらためて、3歳になっていた自分の子と対面したんだ」
「ああ、それはよかったじゃないですか、でも、
 自分の子どもなのに弟ってことになってるんですよね」 
「・・・それでね、私もその話を伝え聞いて喜んでいたんだが・・・
 Yさんはその子をずいぶんかわいがっていて、よく世話もしてたんだよ。
 だけど、その子が6歳になって、小学校にもうすぐ入学ってときに、
 手を引いて歩いていた橋の上から、その子を川に放り投げた」
「ええっ! どうして?」 「本物の悪魔がFさんのところに来たんだろうな・・・  
 子どもは亡くなり、Yさんは心神耗弱で罪にはならなかったが、
 精神科の病院に逆戻り、今も入院してる。もう魂は救えないだろう。
 私はこの件に関しては何もできなかったし、ずいぶん残念に思ってるんだよ」









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念の話3題

2018.02.19 (Mon)
いわゆる超能力には大きく分けて2種類あります。これについては前にも書きましたが、
サイコキネシス(念動力)とテレパシー(精神感応)です。
この違いは、物に働きかけるのがサイコキネシス、精神に働きかけるのがテレパシー。
本当は少し違うのですが、そう考えるのがわかりやすいでしょう。
例えば、手を触れないで本のページをめくったりするのがテレキネシス。
後ろを向いている人を、「ふり向け」と念じることで振り返らせるのがテレパシー。
今回は、後者のテレパシーについてのお話です。ただ、最近はテレパシーではなく、
同じような現象が「生霊」と呼ばれることが多くなってきました。
これはスピリチュアルの隆盛と関係があるんでしょう。

アパートのドアの話

これはある大都市の郊外にあったアパートに、
10年ほど前に住んでいたAさんからうかがいました。Aさんは当時20代後半で独身、
カラオケ店で働いていました。住んでいるアパートは古く、
そのぶん賃貸料は安かったそうですが、Aさんは、
早く結婚して引っ越したいとばかり考えていたそうです。アパートは2階建てで、
Aさんは2階の端部屋にいて、手すりのあるコンクリの廊下を通り、
階段を降りて外に出ていました。ある午後、出勤するために廊下を通っていると、
中程から階段寄りにあるドアの前で、ズンと頭に衝撃を受けたように感じました。
それと同時に、目の前にたくさん書かれた字のようなものが広がって見えたそうです。
「え、え?」それはすぐに治まったものの、今のは何だったろうと不思議に思いました。
目の前に見えたと思った字は、ミミズののたっくったような横書きで、

それまでAさんが1度も目にしたことがなかったものだったからです。
でも、その場所から数歩離れると、もうおかしな感じはなくなりました。
その日の深夜(というか翌日の朝方)Aさんは店から彼氏をともなってアパートに
戻りました。時間が時間だし、彼氏を連れ込むのもあまり人目よいことでもないので、
2人とも、そうっと静かに廊下を通っていましたが、
出勤のときと同じドアの前で、やはり変な現象が起きたんです。
そのドアの前を通るとパッとフラッシュが焚かれたように目がくらみ、
目の前に不思議な文字が広がる。それがAさんだけではなく、彼氏もそうだったんです。
「え、今の何だ? 目の前に変なものが見えた」 「え、あんたも?」
「光ったようにも感じたが、ここの照明ってあれだけだよな」
彼氏が指差したのは、廊下の天井にある薄黄色い電灯でした。

「うん。変なものって字みたいなもの?」 「ああ、字だと思う。んーアラブのほうの字。
 ほらイスラム教なんかで出てくるやつ」 「じゃあ同じもの見たかも」
「この部屋は?」 「そういえば外国人の夫婦と子どもが住んでる。
 国の名前はわからないけど、アラブの人だよ。でもここ最近見てないな」
彼氏だけが鉄のドアに近づいて手を触れてみました。
「う、また光った。さっきよりは弱かったけど」 「私には、光ったのは見えなかった」
その後、2人でドアをペタペタ触ってみましたが、もうその現象は起きませんでした。
彼氏が「これ、明日にでも管理人に話して中の様子を見てもらったほうがいいんじゃないか」
こう言い、Aさんは翌朝早く大家さんに電話したそうです。
で、大家さんが半信半疑ながら合鍵でドアを開けてみたところ、
中のドアに近いところでアラブ人の奥さんだけが倒れていて、まだ息がありました。

後頭部に大きな打撲の跡があり、脳内出血を起こしていたんですが、
緊急手術で一命をとりとめました。旦那さんと子どもの姿はなく、
今もって行方が知れないということです。おそらく奥さんは旦那さんに殴られたんでしょうが、
刑事事件にはなりませんでした。Aさんは、「あの奥さんが意識がない状態でも、
 神様に祈ってて、何だっけ? コーラン? あの文字みたいなのが
 私たちに伝わってきたんじゃないかしら。でも、神様に祈ったのなら、
 旦那さんはどこかで神様の罰を受けてるのかしらねえ。それも子どもがかわいそうだけど」
こんな話をしてましたね。この話が実際にあったのか、自分には何とも言えませんが、
もし事実だとしたら、Aさんと彼氏に不思議な光景を見せたのは、
アラブ人の奥さんの生霊? テレパシー? それともアラブの神様のお力なんでしょうか。
自分にはよくわかりません。

病院での話

これはある総合病院に勤めるBさんからうかがった話です。
その総合病院は救急指定になっていて、かなり重篤な患者も運び込まれ、
亡くなる人の多いところでした。そんな中でも特に激務である集中治療室に、
Bさんは配属されていました。ある夜勤の日のことです。
心臓疾患の老齢の男性が救急車で運ばれてきました。
いったんは心臓停止状態にあったのが、救命士の処置で心拍は再開していました。
急なことだったようで、救急車に同乗してきたのは、
娘さんと思われる50代の女性だけ。患者の容態を見て、
担当の医師団は顔を曇らせました。というのは、かなり心停止の時間が長く、
このまま治療しても、よくて寝たきり、植物状態になる可能性が高かったからです。
これは、命は助かっても家族にとっては大きな負担になるんです。

医師団のキャップが娘さんに「かなり呼吸機能が弱いです。どうしますか、
 人工呼吸器をつけますか?」このように聞き、
娘さんはとまどっていましたが、「ええ、取りあえず・・・」と言いかけたとき、
ベッドに寝かされていた老人が、ぎゅんと体を起こしたんです。
機械じかけのように見える不自然で異様な動作でした。そして、
両手を顔の前で開いて激しく振ったんです。「え、え?」
でも、もう一度見直すと、老人は固く目をつむってベッドに寝たきりで、
容態からいって起き上がることなんてありえません。
Bさんが「私は幻覚を見たのか?」と思っていると、
娘さんが、「父が嫌がっています。すみません、父はずっと昔から、
 コロリと逝きたいと言っていて、延命治療はいらないって言ってたんです」

このように話をし、人工呼吸器は装着しないことになりました。
それでも昇圧剤の投与などはしました。2時間ほどして、他のご家族も病院に駆けつけ、
老人の患者は朝方になって静かに息を引き取りました。
遺体の処置をし、葬儀屋さんが呼ばれて搬送されていきましたが、
娘さんは私たちに礼を述べると、「人工呼吸してもらおうと思ったんですが、
 父が急に起き上がって、いらないって手を振って訴えた・・・ように思えたものですから、
 お断りさせていただきました。でも、これで本当によかったのかはよくわかりません」
このようなことを述べて帰られたんです。それを聞いてBさんは、
「ああ、私と同じものが見えたんだな」と思ったそうです。というか、老人が
娘さんに対して訴えかけたのが、Bさんにも伝わってきたんだろうと思います。
これなんかはどうでしょう。生霊なんでしょうか、テレパシーなんでしょうか。

愛犬の知らせの話

Cさんは丸の内にある大企業に勤めていて、毎日忙しく立ち働いていました。
結婚しており、郊外の一軒家に住んでいたんですが、
なかなか子どもができず、そのかわりというか、小型の室内犬を飼っていたんですね。
ある日、その犬が夜中に吐き戻しをして、翌朝になっても調子が悪かったんです。
Cさんは大変心配したものの、重要な仕事があって会社を休むことはできず、
犬をタオルケットでくるんで出勤しました。昼には、家の近くが仕事場の旦那さんが、
戻って様子を見ることにしていたそうです。で、11時頃のことです。
コピー機を使うためにフタを開けたところ、そのガラスの中に愛犬の姿があったんです。
「え、え?」でも、見えたのは一瞬だけで、その姿はすぐに消えました。
Cさんは胸騒ぎがしたんですが、どうすることもできず、
昼休みに旦那さんからの連絡が来るのを待ちました。

そして電話があり、旦那さんが見にいくと、愛犬は亡くなっていたということです。
このケースも、難しいですよね。愛犬の姿が見えたのは、
犬が生霊になって自分が死ぬことを知らせにきたのか?
犬のテレパシーが遠くまで届いたのか? それとも、犬は死亡した後に、
幽霊になってCさんに姿を見せたのか? もちろん犬の正確な死亡時刻はわかりませんので、
どうとでも解釈できてしまうんですね。
さらに、朝から愛犬のことを心配し、気にかけていたCさんが幻覚を見ただけ、
という可能性もあります。霊などは信じない、という方なら、
この最後の解釈をされるんだろうと思います。ということで、虫の知らせ系と呼ばれる話は、
どう考えればいいのかよくわからないケースがとても多いんです。
みなさんはどのように考えられますでしょうか?








そいつの後をつける話

2018.02.17 (Sat)
主婦をしております。よろしくお願いします。
ここ半年くらいの話なんです、うちの町内。私が住んでいるのは、
丘を切り開いてできた新興住宅地で、桜ヶ丘団地って言うんです。
一昨年に分譲が終わりましたので、建っている家はみな新しいものばかりです。
そうですね、住人は40代くらいの方が多いんじゃないかと思います。
子どもが小学生になったとか、2人目の子どもができたとかをきっかけに、
賃貸から1軒家を建てたっていう。ですから、みなさんのほとんどが
ローンをかかえていらっしゃるんです。もちろん、うちもそうです。
職業はざまざまですけど、公務員、公社公団なんかの方が多い感じですね。
そうですねえ、こんなご時世ですから、主婦をされている奥さんは
全体の3分の1くらいでしょうか。

それで、不気味なことは、うちの右隣の吉村さんの家から始まったんです。
ある日の朝です。私は朝食を作る前に家の門の前を掃くことにしてるんですが、
吉村さんの家の前に子どもがいたんです。男の子で、小学校低学年に見えました。
それが、何とも気味の悪い子どもで。着ているものは白い和服だったんです。
それも浴衣よりもまだ薄いような。もう11月でしょう。ですから、第一印象はまず、
寒そうだなってことでした。それと、その子が坊主頭だったせいもあって、
ますますそう感じたのかもしれません。あとですね、肌が白かったんです。
着ている着物と同じような白さでした。うーん・・・蝋人形みたいと言えばいいですか。
それで、その子は吉村さん家の鉄製の門に手をかけて揺らしてたんですが、
ふっと姿が消えたんです。目を疑いました。「え、え?」と思っていると、
その子が吉村さんの庭に現れて・・・ええ、間の塀は低いので、

ある程度中の様子が見えるんです。その子はトントンと足踏みでもするように、
吉田さんの家の玄関の前までくると、そこでまた姿が消えちゃったんです。
思わず目をこすってしまいました。今の子はいったい何だろう?
吉村さんのご主人は30代前半で、この団地の中ではお若いほうです。
奥さんはまだ20代、3歳の女の子のお子さんが一人いて、
そのとき奥さんが2人目を妊娠していたんです。ですから、
その着物の子が吉村さんの家族ということはありませんし、
もちろん急に消えたのも不思議だし・・・でも、このことはすぐに忘れちゃったんです。
それから1ヶ月ほどした夜のことでした。救急車の音が響いて・・・
まだうちでは起きてテレビを見てましたので、外に出てみました。
野次馬みたいで恥ずかしいんですが、団地に救急車が来るのって珍しいんです。

主人と一緒に玄関を出ると、救急車は吉村さんの家の前に停まってて、
救急隊員が家の中に入っていくところだったんです。ご主人がドアを開けてました。
それで、担架で運び出されてきたのは身重の奥さんです。
頭から血を流していたし、妊娠はまだ6ヶ月でしたから、
何か事故があったのだろうと思いました。で、側についていたご主人が私たちを見つけ、
「妻が階段から落ちたんです。すみませんが、この子をちょっと頼めませんか」
って言われまして。ええ、3歳のお子さんです。もちろんそれはお引き受けしました。
うちの子は2歳の男児ですが、いつもよく遊んでいただいていたんです。
それで、走り去る救急車を見送ったとき、吉村さんの門の前に、
前に見た男の子がいたんです。同じ白い着物でしたが、頭の毛が前より伸びている
ように思いました。その子は満面に笑みを浮かべていて、

舌を伸ばしてベロンと鼻の頭を舐め、そして消えたんです。
そのときに、「ああ、この子は前に見たことがある」って思い出しました。
それで、吉村さんの奥さんですが、翌日の朝方に病院で亡くなったんです。
脳出血ということでした。私どもの携帯にご主人から連絡があったんです。
階段から転落して頭を打ったのが原因、お腹の子どもも助からなかったんです。
ええ、ご主人の落ち込みようは、ほんとに気の毒でした。
離れたところにいるご主人のご両親がすぐに来られましたけど、
葬儀一式が済むまでの間、また何度かお子さんをお預かりもしたんです。
その3歳の子に聞いてみたんですよ。「あなたのおうちに、
 白い着物を着たお兄ちゃんいない?」って。そしたら考え込んでいましたが、
急に泣きそうな顔になって「お化けがお母さんを階段から落とした」って言ったんです。

「お化け!?」でも、それ以上はいくら聞いても泣き続けるばかりで・・・
もちろんお葬式には参列しましたし、わが家でもできるだけのことはさせていただきました。
他人事とは思えませんでしたから。それからまた1ヶ月くらいして、
また吉村さんの家に救急車が来ました。これは早朝です。
ええ、亡くなったのは3歳の女の子、睡眠中の突然死でした。
朝になったら息をしていない・・・ それで、その救急車が出るときに、また見たんです。
白い着物の男の子です。ただ、最初に見たときは6歳くらいだったのが、
小学校の高学年ほどに見えましたし、髪がすっかり伸びてボサボサ頭になってました。
でも、真っ白い顔色は変わらなかったので、同じ子だと思ったんです。
前と同じです。嬉しくてたまらないという顔で、舌なめずりをしてから消えました。
このことはうちの主人にも話したんですが、首をかしげられただけでした。

吉村さんのご主人の憔悴はたいへんなものでした。そうですよね。
わずか2ヶ月で家族3人を亡くされてしまったんですから。
仕事をお辞めになって1ヶ月ほど引き込もった末に、郷里に帰るってうちにご挨拶に
来られたんです。私も主人も、なぐさめの言葉もなかなか出てきませんでした。
それで、家のほうは売られたということで、空き家になりましたが、
また見ちゃったんです。夕方、買い物の帰りに、男の子が吉村さんの家の前にいるのを。
いえ、男の子という言葉はふさわしくないかもしれません。
白い着物は同じでも、すっかり背が伸びて高校生くらいに見えました。
でも、同一人物であることはわかったんです。その子・・・そいつは、
一言「ハラ減ったああ」とつぶやくと、道に出て歩き出しました。
それで・・・私はその後をつけたんですよ。

今になって考えれば、よくあんな勇気が出たなあと思いますが、
まだ暗くはなっていませんでしたし、道には人通りもありましたから。
何かあっても助けは呼べるだろうって考えて・・・ええ、そいつが何なのか、
わかるものなら確かめたかったし、あんなことになった吉村さん一家の敵を取りたい、
そんな気もあったんです。え?どうして吉村さんの家族が亡くなったのがその子のせいだと
思ったかって?それは、だって・・・とにかく、かなりの間をおいてついていったんです。
そいつはフラフラとした歩き方で、ときどき止まって電柱にもたれたりして
具合がよくなさそうでした。団地の中の通りを1kmほど歩いて、
その間に、そいつはどんどん小さくなっていったんです。
背が縮んだんですよ。ありえないと思うでしょうが、これも間違いないです。
高校生から中学生、小学校高学年、最初に見た小学校低学年・・・

ええ、ずっとよろよろした足取りでした。そして児童公園の前に来たんです。
その児童公園は、団地といっしょにできたので、まだ新しいんです。
遊具がいくつかあり、私も子どもを連れて何度か来たことがあります。
その奥のほうに古い石碑があるんです。これは団地造成の際に見つかったもので、
高さ1mほどの苔むした碑なんですけど、撤去もできずまわりを柵で囲んで、
公園内に残されていたんです。小さくなったそいつは公園内の芝生に入っていき、
私はそこで立ち止まったんです。私が公園の中に入ると気づかれると思ったんです。
その頃には、あたりがかなり暗くなっていました。
そいつは奥の石碑の前までくると、くるっと振り向いて私のほうを見ました。
それまで1度も後ろを見てないのに、そこに私がいるのがわかってたみたいに。
そしてこう言ったんです。「お前の家にも来てほしいか」

・・・子どもの声じゃなかったです、しわがれた年寄りのような声で。
私は驚きのあまり体が硬直してしまったんですが、気がついたら叫んでいたんです。
「嫌です。来ないで下さい。やめてください!!!」って。
ええ、絶叫に近かったと思います。するとそいつは、
「そうか、じゃあ後回しにしてやる」そう言うと、また前を向き、
よろよろと崩れるように、石碑の柵の中に倒れ込んで・・・
消えたんです。私は背筋がゾクゾクし、一目散に走って逃げました。
家の前まできたときには、息が切れて倒れそうだったんです。家に入ると、
早番で帰っていた主人と娘が出てきたので、抱きついて泣きじゃくりました。
もちろん、あった出来事を話したんですが、主人が信じたかはわかりません。
公園の石碑は文字も彫られておらず、何だったか近所の人は誰も知らないみたいです。










村の禁域の話

2018.02.14 (Wed)
これ、俺が子どもの頃に住んでた田舎の村の話なんだよ。
うーん、場所は言わないほうがいいよな。過疎ったとはいえ、
まだ人が住んでるんだし。そこはな、絵に描いたような盆地なんだ。
周囲をぐるっと、数百mばかりの低い山に囲まれた土地。
だから、他の集落に行くのがすごい不便だった。どの方角へ行くにも必ず山越えになる。
それと、そんな地形のせいで鉄道も通らなかったんだよ。
盆地の中そのものは真っ平らで小さな丘もなし。だから他の集落の人間からは、
「なべ底」って呼ばれててね。なんか馬鹿にしたような響きだったのを覚えてる。
でな、盆地の中の人間が何で食ってたかっていうと、昔は養蚕だったんだ。
そう、カイコの繭から絹糸をとる仕事。だからね、桑畑があちこちにあった。
でもね、養蚕なんて今、日本じゃ職業として成り立たないだろ。

うちの田舎のカイコからは、特別にいい糸がとれるって評判だったんだが、
一人やめ、二人やめしていって、すっかり過疎地になってしまった。
今は、あの広い土地に数十人の年寄りしか住んじゃいないよ。
え、平らな土地があるなら何で米を作らなかったって?
ああ、それがな、土地に鉄分が多いんだよ。あと、何って言ったかな?
ああそうだ、確かイリジウムって珍しい金属も多く検出されるって話も聞いたことがある。
そんなだから、作物はほとんどできなくて、桑ノ木ぐらいしか生えなかった。
でな、この土のことで、ちょっと怖い話があるんだ。
戦前、もちろん俺が生まれるずっと以前のことだけど、
帝国大学の先生方が4人、そこの土壌を調べに来たらしいんだ。
そんな偉い人が村に来るのは初めてだったんで、4人は村長の家に泊められてね。

そこを拠点にして、毎日調査に出かけてたんだが、2人が血を吐いて死んだんだよ。
体中に赤いぼつぼつができて、高熱で3日ほどのたうち回って死んだ。
医者の診断は発疹チフスだったらしい。でも、村人で感染した人はいなかったんだ。
でな、もっと怖いのは、その2人が熱で苦しんでいる最中、
残りの2人が野犬に襲われて、これも死んでしまったってことなんだ。
盆地の外れの山のふもとで朝になって遺体が見つかったが、
2人とも顔面を食われててね、駐在も最初は、どっちがどっちの人だか
見分けがつかなかったらしい。そんなことで、調査団が来てから1週間もしないうちに、
全員が死んでしまったんだよ。それ以来、調査が入ったという話は聞いてない。
でな、ほぼ円形になった盆地の中央に、古い神社があるんだ。
正式な名前はいまもってわからんが、村の者は「おきだり様」って呼んでた。

小さな神社なんだが、その後ろに、かなり広い神域の森があるんだ。
これも円形に木が生えててな。でな、昔、役所が地図を作るための航空写真を
撮ったことがあったんだよ。できた白黒の写真は、長い間役場の廊下に飾られてたが、
これ、見ると笑っちゃうんだよ。目玉そのものだったからな。
丸い盆地の真ん中に、丸い森。ほら、漫画に出てくる鬼太郎の親父そのものだよな。
それで、年に1度、そこの神社のお祭りがあった。
これが、3月の雪解けのころにやるんだよ、珍しいだろ。
ふつう神社のお祭っていえば、新年にやるか、秋の収穫祭の時期にやるかだろ。
近隣の村祭りともかなり時期がずれてたんだよ。
で、どんな祭りかっていうと、昼は特別なことはしない。
ただ、大人はみんな仕事を休んで、学校もその日は臨時休校になった。

それで、各家にある神棚にお灯明をあげて日中は静かに過ごす。
祭りの本番は夜なんだよ。それも深夜。あと、誰でも参加できるわけじゃない。
その年に数えの13歳になった男の子どもだけなんだ。
それも、よそ者っていうか、他の町から来てる郵便局員とかの息子は除外されてて、
村に古くから住んでる、しかもカイコを飼ってる家の子だけが
参加することになってた。ああ、俺も参加したんだよ。
前置きが長くなってしまったが、これからそんときの話をする。
その年に集められた男の子は7人だったな。まず全員が夜の6時くらいに
親と一緒に神社に行く。神社の横にはテントが立ってて、
そこで白装束に着替えさせられるんだよ。神主が着てるのにも似てるが
ちょっと違う。背中にふた手に分かれた布がついてて、歩くたびにひらひらした。

でな、その装束だと寒いんだよ。まだ3月中だし。大人はそれを知ってて、
俺らはお神酒を飲まされたんだ。といっても日本酒じゃない。
甘い酒だったよ。ハチミツか何かから作ったようなトロリとした酒。
それを飲むとカーッと体が熱くなって、寒さを感じなくなったんだ。
これは祭りが終わるまでそうだったな。で、7人の子どもが列になり、
村の主だった大人、村長や村会議員なんかと一緒に神社のほうへと参道を進んでいく。
親はついては来られない。けど、ほとんどの男親は自分が子どもの頃に、
この祭りに参加してるはずだから、何をやるのかは当然知ってるわけだ。
でな、神社の前方には、こんな田舎なのに小さな能舞台がしつらえてあって、
その前に座って神職たちが能を演じるのを見るんだ。
この神職たちは臨時で、本来は村でカイコを飼ってる人たちなんだよ。

その能の内容がまた変わっててね。舞台に大きな繭があるんだよ。
カイコの繭ってことだが、2mちかい大きさがあった。でな、鼓の音に合わせて、
老人の面をつけた人が2人出てきて、斧と槌でその繭を割ろうとする。
だが、どうやっても割れない。困り果てていると、舞台の後ろから丸いものが出てくる。
これは銀色でね。棒の先につけられた直径30cmほどの球。黒子が操ってるんだ。
それが斜めに落ちるような形で繭にあたる。すると繭がぱっかりと割れるんだよ。
そういう仕掛けになってるんだろうな。で、割れた繭の中から人が出てくるんだが、
被っている面が異様でね。まず目がトンボみたいに大きくてツヤツヤ光ってる。
あとは鼻も口もない。着てるものは、俺らが着せられた白装束に似てるんだが、
銀色に光ってて、背中の布がもっと大きかった。その布を羽みたいになびかせて、
ひとしきり舞い踊るんだが、なんと形容していいかわからん不思議な動きだった。

で、この能が終わると社殿の前に並んで、神主が祝詞を唱えるんだ。
20分ほどだったな。この間、俺らはじっと手を合わせているだけ。
その後、大人たちはみなテントに引き上げてしまい、俺ら子ども7人が神主を先頭に、
神社の裏手の森に入っていく。雪解けの頃だから地面はビシャビシャで、
履いていた草履や装束の裾が泥だらけになったよ。その森は、ふだんは禁域なんだ。
親からは、絶対に入ってはいけないと言われてた。いや、その付近で遊ぶこともなかった。
それくらい、きつく くどく、どこの家でも戒められてたんだ。
ああ、もちろん夜だから真っ暗だったが、神主だけが松明を持ってたんだ。
でな、森のはいり口に注連縄がはってあって、あれは結界って言うんだろ。
それを神主が懐から出した小刀で切る。すると枯れ木の中に細い道が続いててね。
そこをゆっくりと進んでいくだけで、何の物音もしない。

神主の松明が燃える、ボボボボという音だけだったな。
で、20分ほど歩いて森の中央あたりに来ると、そこだけ木が生えてない場所があった。
直径10mもなかっただろうが、中央に穴があいてたんだ。地中に通じる深い穴。
石の階段がついてた。そこを神主を先頭にしてどんどんと降りていく。
この階段はけっこう長かった。そうだなあ地下で言えば3階あたりまで降りたろうか。
だんだん中が明るくなってきた。神主の松明がなくても壁の土が見えるんだ。
ぼんやりした青緑の光が満ちている地下の大きなホールに出た。
そこに、ひしゃげた金属の固まりが突き刺さってた。大きさは大型トラック以上だが、
半分ほどが土に埋もれてた。表面には象形文字のようなのがびっしり描かれてたな。
神主が立ち止まって、「ここでのことは言わざる、言わざる」と祝詞のような調子で唸り、
俺たち7人を、その金属塊の上の1ヶ所に輪になって並べた。

神主がしゃがんで下に触ると、ビーッと音がして金属の板が横にずれ、
足下に2m四方ほどの窓ができた。ガラスなんだと思ったが、それごしに、
横たわっている人物が見えたんだ。いや、人物と言ったが人間じゃない。銀色の体に大きな目、
それと蛾のような羽。能で見た仮面にそっくりだったんだよ。それはピクリとも動かず、
死んでるんだと思った。そこで神主がまた祝詞を唱え、これは養蚕に関する内容だったな。
これで終わりだ。あとは来た道を引き返すだけ。こんな祭だったんだよ。
でな、この後、俺んちは事情があって村を離れたんだが、引っ越しのときに村長がやってきて、
祭りで見たことは誰にも言うなって、くどいほど念を押された。もちろん両親からも、
事あるごとに言われてたよ。だから、本当は言っちゃいけないんだが、
金がもらえるってんでここに来て話したんだ。あ? 俺以外の6人はみな村に残ったが、
2人が白血病、3人が癌でもう亡くなってる。うん、癌で若くして死ぬ人の多い村だったんだよ。









猫目地蔵の話

2018.02.11 (Sun)
小学校の5年生のときの話だ。当時ね、俺は弟が嫌いでね。
2人兄弟で、弟は2年生だったんだよ。いや、まだ小さい頃はそうでもなかったんだが、
小学校に入ると急に生意気になったんだ。だからよくケンカしたし、
腕力じゃもちろん俺が勝つが、やつは泣いて母親のところに走っていくから、
結局、怒られるのは俺なんだよ。このあたりのことは兄弟がいる人ならわかるだろ。
あとまあ、俺は勉強ができなかったが、弟はそこそこできた。
そういうことが重なって、弟のことがすごく嫌いで、
いつも、いなくなってしまえばいいって考えてたんだよ。
まあなあ、今にして思えば、弟の服は俺のお下がりばっかだったし、
弟だけが親に目をかけられてたわけでもないんだが、当時はそうは思えなくてね。
あんなことをしなけりゃよかったって後悔している。
うん、だから、そのあんなことってのをこれから話すんだよ。

俺らの通ってた小学校は田舎道をずっと通った先にあって、朝は集団登校だったんだ。
帰りは5年生と2年生では終わる時間が違うし、俺はミニバスのクラブに入ってたから、
弟と一緒に帰ることはなかったが、小学校って、先生方の研究会なんかで、
給食食べて終わりって日が年に何回かあるんだ。でも、そういうときでも、
クラスの友だちといっしょに帰ることが多かったけどな。
んで、ある日曜日、弟と家の和室で遊んでて、床の間に飾ってた皿を壊しちゃったんだよ。
弟の足が当たったんだ。その皿は親父が大切にしてたもんだったから、
俺は青くなったが、弟のほうはぽかんとしてて、責任を感じてる様子じゃなかった。
で、居間にいる親父のところへ一緒に謝りに行こうとしたとき、
弟の靴下の先に血がにじんで畳に赤く跡を引いてたんだよ。
親父がそれを見つけて、俺が皿を割ってしまったことを話すと、弟が足をぶつけたのに、
俺だけが集中的に怒られたんだよ。ケガをしてたからか弟には何にもなし。

それで頭にきて、弟になんとか復讐してやろうと思ってた。
でな、俺は弟の弱点を知ってたんだよ。あいつ異常なくらいに幽霊とか怖がってた。
ほら、昔は夏休み中に心霊番組とかあっただろ。そういうのは絶対に見ないんだ。
もしそういう番組をやってるところに入ってきても、
耳をふさいで逃げてしまうくらい怖がりだった。だから、
それを利用してこらしめてやろうと思ったんだよ。その皿が割れた2日後、
前に話した、学校が早く終る日があったんだ。で、俺は弟に復讐するために立てた
計画どおりに、黒マジックを持って素早く学校を出た。
ああ、何をしたのかはおいおいわかるよ。で、そのことが終わると、
少し学校のほうに戻って、弟が帰ってくるのを待ったんだよ。
そしたら5分ほどして、弟が石を足で蹴りながら一人で歩いてきたんで、

「よ、一緒に帰ろうぜ」 「あ、兄ちゃん」そんとき俺は弟の手をつかんだが、
弟は俺が何かたくらんでるとか、怪しむ様子もなかったな。で、しばらく歩くと、
道の脇に、赤い幕がかけられた四角い小さなお堂が見えてきた。
田舎にはよくある、地蔵様を祀ってるお堂だよ。そのすぐ前まで来て俺は、
「お、ちょっと地蔵様を拝んでいこうぜ」 「じそうさま?」
「お前は知らないから、この前をただ通り過ぎるだけだったろうけど、
 地蔵様を拝むといいことがあるんだ」 「うん」
幕をぺらっとよせ、弟の手をつかんだままて並んで中に入った。
中には1m少しほどの赤いよだれかけの地蔵様が一つ、その両脇に、
30cmほどの地蔵様が数体あって、お供えのための台が置いてある。
「ほら、始めて見ただろ、この地蔵様」 「・・・あ、何か目が変だよ」
弟がおびえた声で言ったんで、俺はそこで口調を変えた。

「これなあ、猫目地蔵様って言うんだ。昔から言い伝えられてる呪いの地蔵様だよ」
「目が・・・猫の目」 「うん、だから猫目地蔵なんだ。これを見たやつのところに、
 夜に地蔵様がやってくる」 「あ、あ、見ちゃった。でも兄ちゃんも見ただろ」
そこで弟は俺のほうを向いて「あっ!」って言った。
そう、俺はそんとき固く目をつぶってたんだよ。「見たのはお前だけだ。
 だから今日の夜、この地蔵様がお前のところに来る」
「怖いよう」弟は幕の中から逃げ出そうとしたが、俺は手をつかんで離さなかった。
んで、さらに不気味な口調にして、「このことは誰にも話すな。もし話したら
 猫目地蔵様に命を取られる。ただ、話さなければそこまでのことはないんだ」
「怖いよ~」弟が泣き出したんで、俺がやっと握ってた手をゆるめると、
そのまま弟は走って、家まで一目散に逃げてったんだよ。

俺は大笑いしてな・・・もう何をやったかわかっただろ。
地蔵様の目のところに黒マジックで猫の目を描いて、そのまわりを黒く塗ってたんだ。
地蔵様は石が粉っぽくなるほど乾いてて、描くのは簡単だったよ。
俺はそのまま家に戻った。母親が家にいたが、弟が俺のイタズラのことを話した
様子はなかった。俺はランドセルを家に置くと、すぐに遊びに出かけたんだよ。
帰ってきたのは夕食前。弟は居間にいて、TVのアニメを見てたが、
俺が入っていってもこっちを見ようともしなかった。
ああ、まださっき猫目地蔵を見せたことを怒ってるんだなと思ったが、
俺はぜんぜん気にしなかった。今回のことは、弟に復讐し罰を与えるためだったからな。
夕飯が終わると、俺は弟と共有だった部屋に引っ込んだが、
弟はまだ居間にいた。おそらく怖いから寝るときまでずっと居間にいるんだろうと

思ったが、寝る段になって、怖いから一緒に寝かせてと親に言って、
それで俺のやったイタズラがバレるんじゃないかと、少し心配になってきた。
でも、9時頃には弟は部屋にやってきて、宿題を始めた。
で、俺が「さっきの猫目地蔵様のこと、言わなかったよな」と、机に向かってる
弟に話しかけると、泣きそうな顔でふり向いて、「兄ちゃん、地蔵様が来るとどうなるの?」
って聞いてきたから、「それはな、まず腕をとられる。それから足。
 最後には首も取られてしまうんだけど、助かる場合もある」と、
その頃の都市伝説で聞き知ってたことを言った。「さっき、誰にも言わなかったら
 助かるって言ったよね」 「ああ、お前は誰にも言わなかったようだから、
 助かる呪文を教えてやる。猫目地蔵様が近くまで来たら、
 ヤングマン、さあ立ち上がれよヤングマン、Y・M・C・A って唱えるんだ」

その頃は英語なんて小学校ではやってなかったから、弟はYMCAを必死で覚えて、
俺は笑いたくてたまらなかった。そして、10時半頃に寝たんだよ。
俺と弟は2段ベッドで、俺が上だった。いつも電気は小さいのをつけて寝てた。
で、布団に入ってすぐ俺は眠ったんだ。子どもだから、今と違って目をつむると
くてんと寝てしまうんだよ。朝まで起きることはなかったんだが、
その夜はなぜか、しばらくして目が覚めた。すると、下のほうでぶつぶつつぶやく
声が聞こえてきたんだ。「やんぐまん、さあ立ち上がれよ・・・」
俺は吹き出しそうになった。ああ、こいつ地蔵様が来てると思ってのか、
馬鹿なやつだ。で、ベッドの縁から頭を出して下をのぞいいてみた・・・
こっからは嘘だと思うだろうけど、そしたらいたんだよ、猫目地蔵様が。
俺のところからは石の丸い頭だけが見えた。

けど、全体が燃え上がるように赤い。びっくりして頭を引っ込めると、
背筋がぞっとするような声で「誰が目を描いた、言え、誰が目を描いた」
こう聞こえてきた。その後に、小さく弟の声で、「知りません。ごめんなさい。
 ヤングマン、さあ立ち上がれよ、ヤングマン、わい・えむ・しー・えー」
まさかと思ったけど、もう一度顔を出して見る勇気はなかった。
だからそのまま布団を引っ被ったんだ。目を描いたのは俺だし、
そのことが知れたらヤバイだろ。地蔵様の声は1度きりで、
下からは弟の声がいつまでも聞こえていた。「わい・えむ・しー・えー・・・」
気がついたら朝になってたんだよ。俺は下に降りて弟をゆさぶり、
「お前、昨日、地蔵様が来ただろ」って聞いたら、弟は目を開けて、
「うーん、来たけど、兄ちゃんが教えてくれた呪文を言ったら帰っていった。

 目を誰が描いたか聞かれたけど、兄ちゃんだとは答えなかったよ」
こんなふうに言ったんだ。俺は頭が重く、目がちらちらして熱っぽい感じがした。
で、下の洗面所に顔を洗いに行って鏡を見たら、
両方の目が赤くなってまぶたが腫れ上がってたんだ。俺は急いで台所に行き、
朝食を作ってった母親に目のことを訴えた・・・まあこれで話は終わり。
その日、病院に連れて行かれ、両目はどちらも雑菌が入ったんだろうって言われた。
熱が39度まで上がって、学校を数日休んだ。あと、ランドセルの中の
黒マジックがむちゃくちゃにねじくれた形で折れてたな。それから・・・
地蔵様だけど、かなり時間がたってから幕の中をのぞいたら、目はきれいになって、
マジックで描いた跡はどこにもなかった。その場で何度も謝ったし、
小遣いでお供えも買った。それ以来、弟とはまずまず仲良くなったよ。