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消失点の話

2020.07.09 (Thu)
※ ナンセンス話です。

こんばんは。僕、島田ともうしまして、東北のほうの県の
ある市の市役所で勤務してます。建設部に採用されて7年目です。
それで、去年からですね、同じ建築部の中の別の課から、
防雪対策室というところに回りまして。道路除排雪計画を立てたり、
防雪施設の整備、除雪業者との折衝が主な仕事なんですが、
最近は、高齢者の方の雪かき援助なんかもやってます。はい、
過疎化が進んで、雪で困ってる家庭がとても多いんです。
で、人から仕事を聞かれて、防雪対策室ですって答えると、
「ああ、じゃあ夏場はヒマそうだね」って羨ましがられることが
多いんですよね。ですけど、時間があれば他の部署の
手伝いをしますし、けっしてヒマなわけじゃないんですよ。

それと、うちの市では、管内にある消失点の管理も対策室の仕事に
なってるんです。え、消失点って何かって? はい、これから
その話をしていくんですが、僕自身、この仕事につくまで、
そういうものがあるとは知りませんでした。何というか、
一般の市民には情報が伝えられてないんですね。ええ、情報公開の
対象外になってるんです。・・・日本全国で、年間の行方不明者が
どれくらいいるかご存知ですか。平成29年度の場合、
8万4850人でした。これはあくまで警察に届けが出された
人数ですから、一人暮らしで通報する家族がいない場合など、
実数はもっと多いはずです。で、このうち、
お年寄りの認知症にかかわる行方不明が1万5761人。

そこまで多いという印象ではないですよね。やはり一番は若い人の
家出です。でね、全行方不明者の95%近くが発見されてます。
日本の警察は優秀なんですね。これがアメリカだと、見つからない率が
ものすごく高いんです。あ、スミマセン、消失点防護施設の話でした。
各自治体に、これが設置されるようになったのは平成10年前後からです。
その頃から、監視カメラが街のあちこちに設置されるように
なったでしょう。で、行方不明者が出るとその映像を見て
足取りを追う。そのうちにね、どうも人間が消失してしまうスポットが
街の中にあるんじゃないかってわかってきまして。はい、すぐ前の
カメラで確認された人が、次にあるカメラには写ってない。
これ、一本道での話なんです。政府で内々に調査が始まりまして、

人がなぜか消えてしまう点の存在が判明した。その対策は
試行錯誤の連続だったようです。専門家対策会議がひそかに設けられ、
国民には伏せておくことも決まりました。専門家の中には、
神道、仏教、キリスト教の宗教者もいたということです。
でね、ここからは僕も詳細はわからないんですが、消失点を
保護するための施設を置くことが決まったんです。外見は電力会社の
小ぶりな変電施設に見えます。けど、電線やコイル類はすべてダミーで、
電力は施設内の照明くらいにしか使われてません。
よくそんなの、秘密裏に街中につくれたなと思われるでしょうが、
消失点って、ある場所がだいたい決まってるんです。まず多いのが
4つ辻の手前。交差点に入る前の道路脇ってことです。

それと、橋に入る手前の場所。そういうとこは土地も国、県、市の
所有になってるので、保護施設を置くのはそれほど難しくはないんです。
はい、僕らの市には2ヶ所あって、どちらも橋の近くです。
みなさん、見たことないですか。川の土手の斜面をならして、
コンクリの4m四方くらいの四角い建物が建ってるのを。大きなコイルが
立ち並び、全体を鉄柵で囲ってる場所。で、僕らのとこでは、年に2回、
管理保全作業を行ってました。やるのは深夜です。市役所側からは
防雪対策室長と課員4名。それと、地元で一番大きい神社から
宮司さんと禰宜さんが来られます。神道が最も効果的みたいなんです。
作業車を近くに停め、僕らは活性炭入りの防臭マスクをつけますが、
神職の方はそのままです。それから、課員が冷凍ボックスを

車から出します。4人で持ちますが、そこまで重いわけではありません。
室長が先頭に立ち、柵内に入って施設の頑丈な鉄扉の2重ロックを
解除します。最初に入るのは宮司さんで、このときからすでに
祝詞を唱えてますね。そして禰宜さん、われわれ・・・
中はすごい臭いで、肉が溶けた腐敗臭です。僕らはマスクしてますから
なんとかしのげますが、神職の方はよく平気だといつも思います。
中はすべてコンクリ打ちっぱなしで、機械もテーブル類もありません。
天井に照明が一つ。周囲の壁には、枯れた杉の葉を束ねて人型に
組んだもの、そうですね、大きさは30cmくらいの。それが数十個、
フックに吊るされてるんです。これらも後で取り替えるんですが、
それより正面の壁。巨大な雄鹿の頭がドロドロに溶けてあるんです。

臭いのもとはそれです。体はなく、頭だけ。ほら、外国映画で
ハンターの人が剥製を飾ってる、あんな感じですけど、剥製ではなく
立派に枝分かれした角の鹿の頭を切ったもの。目玉なんかはすでに
流れ落ちて、垂れた腐敗液が乾いて毛皮はガサガサです。保護施設は
密閉されてるので、ウジなどが涌いてないのが救いですね。
それを取り外し、冷凍ボックスの、切ったばかりの頭とすげ替える。
新しい頭も血抜きされています。作業時間はそれほどかかりませんが、
なんとも気味が悪いですよ。まあ、深夜ですし、危険手当も含めて
けっこうな手当は出るんですけど。で、宮司さんが20分ほど
祝詞を唱え、祓えをして終わりです。これを2ヶ所で行います。
こんな職務があるんですよ。ほら、最初のほうで、

うちの市は高齢者が多いって言いましたよね。ですから、捜索願いも
ちょくちょく出るんですが、交通事故や水死した方はいても、
消失点関係の行方不明は出てないんです。その周囲には、
たくさん監視カメラが設置されてますしね。え? 消失点とは何か、
僕に聞かれてもわかりません。どうして鹿の頭を供えるのかも。
おそらく室長も知らないんじゃないかと思います。
・・・ここからは僕自身の話になります。最近、彼女ができたんです。
僕はもうすぐ30歳なんですが、なかなか女性と縁がなくて。
これは、僕の職場と、趣味が登山というせいもあるかもしれません。
山ガールなんて言葉もありますけど、ハードな山登りをやってる
若い子なんてほとんどいないですから。今の彼女とも、

婚活の合コンで知り合ったんです。それから順調にデートを重ねまして、
10日ばかり前、日曜日にハイキングに誘ったんです。彼女は山はまったく
知らないので、県内の一般的なハイキングコースです。初心者でも
簡単に歩ける。で、早朝に車で出発してコースに入り、彼女がつくって
くれたお弁当を食べました。いい天気で、天候が変わる気配もなく、
ちょっと遊び心を出しちゃったんです。下りは別ルートをとろうって。
その道も同じ登山口に下りるのはいっしょですが、やや急勾配で
スリルがあるんです。いやでも、転ぶようなことはないと思いました。
彼女はキャーキャー言いながら駆け下り、楽しんでる様子でした。
地図にそのルートはないので、他のハイカーは見ませんでしたね。
でね、ルートの半ばまできたとき、横のヤブの中に保護施設があったんです。

他の市のものですが、僕らの市のとほとんどつくりはいっしょで、
こんなとこまで管理してるんだな、すごいなと思いました。
山の中ですからね、夜中に鹿の頭を取り替えるのはさぞ気味が悪いだろうと
考えて。柵に近づいたら腐敗臭がしたんです。え、臭いが漏れることは
ないのに。そう考えて正面に回ると、扉が半開きになってったんです。
事故だ!と思いました。通報装置がついてるはずですが、それが
働いてないのかも。中は真っ暗で見えませんでしたが、気配がしたんです。
何か大きなものが動き回ってるような。鉄柵には壊れた箇所はありません。
それで、すぐスマホでその地元の市に連絡しました。はい、
担当者に回って事態がわかったようで、後で、その日のうちに
なんとか対処したという連絡が来たんです。すごく感謝されましたよ。

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あかし旅館の話

2020.07.06 (Mon)
今晩は。団体職員をしている沢木ともうします。さっそく話を聞いて
いただきたいと思いますが、これ、僕の夢の話なんです、
つい一昨日見た。夢って、どんなに怖くて奇妙でも怪談には
ならないって言いますよね。だから、ここを紹介されたときも、
ほんとうに来て話をしてもいいかどうか迷ったんです。
ただ・・・あまりに不思議な夢で、その夢の中で1ヶ月近くが
経過してるんです。それも時間が飛んでるとかじゃなく、
一晩の夢なのに、実際にひと月が過ぎたように思えました。
それと、ものすごくリアルだったことです。見ている間はまったく
夢だとは思えませんでした。あと、昨日の夜のことです。
夢の内容とリンクするような出来事があったんです。

え、いいから話しなさいって? わかりました、じゃあ。
一昨日の夜です。仕事から戻って夕食を食べ、TVを見てたんです。
妻はそのとき家のパソコンでネットをやってました。あ、家族は
僕と妻の2人だけです。結婚4年目で、妻も働いてて、
まだ子どもはいません。そろそろ作ろうかって話し合ってたところで。
で、妻が急に声を上げたんです、「当たってる~」って。
妻はネットの懸賞に応募するのが趣味なんです。でも、そういうのって、
1度でも応募すると当たり外れに関係なく、ずっと宣伝のメールが
来るんですよね。「今度は何 当たったの?」と聞いたら、
うれしそうな声で「ペアで温泉の一泊旅行!」 「お!」と思いました。
そんな高額賞品はさすがに当たったことがなかったからです。

「どこの温泉?」 「えーとね、奈良県の山のほうみたい」
うち、住所が大阪なんです、だから奈良県なら近場と言えます。
「期日はいつ?」 「来月、ゴールデンウイークの期間中ならいつでも
 いいって」 「ふーん」 「ねえ、せっかくだから行きましょうよ」
僕の仕事はその期間まるまる休めますし、たまった年次休暇を
加えることもできます。ですから、乗り気になりました。
「何ていう温泉なの?」 「あかし旅館って書いてる。宿の画像も
 出てるけど、素敵、ほら」パソコンを覗いてみると、いかにも山の温泉
という素朴な建物で、周囲は火山地形。ほら、何とか地獄というのが
全国にありますよね、草木が生えず湯花で白くなった。
「へええ、奈良にこんな温泉あったっけ。お湯がよさそうだな」

「たぶん源泉かけ流しね。あ、公共交通機関はなくて、自家用車で
 おいでくださいって書いてるけど大丈夫?」 「奈良までならせいぜい
 3時間だろ、問題ないよ」こんな会話をしたんです。で、その日は
12時過ぎに寝たんですが、翌朝、同じベッドに寝てた妻が
起きなかったんです。息をしてませんでした。救急車を呼んだんですが、
病院ですぐ死亡が確認されたんです。突然死症候群と言われました。
寝ている間に心臓に血栓ができ、それが脳に流れていって・・・
もう茫然自失でした。妻がいない生活なんて考えられませんでしたから。
それでも、親族や社の上司、同僚の力を借りて、通夜、葬式、火葬を
済ませました。それで最初に言ったとおり、これ全部夢なんですけど、
何日も時間が経過してるとしか思えなかったです。

ええ、葬式などでの出来事も詳細に覚えてますよ。それで、妻の死から
1週間が過ぎ、どうにか仕事に復帰したんです。みなから口々に
なぐさめられました。それでね、温泉の話なんかすっかり頭から
消えてたんですが、家のパソコンをチェックしてると、
そのあかし温泉から連絡のメールが来てたんです。宿泊予定の
日時をお知らせ下さいって。温泉なんかに行く気にはならなかったし、
ペアご招待なのが妻がいなくなちゃったしで、宿に直接断りの
電話を入れたんです。ええ、電話番号は書いてありました。
そしたら宿の人が出たので、かいつまんで事情を話すと、
「それはご愁傷さまでした。ですが、ペアではなく、貴方様お一人でも
 かまいませんよ。どうでしょう、来月までまだ日時がありますし、

 ゴールデンウイーク中を一人で過ごされるのもお寂しいでしょう。
 お来しいただければ、精一杯のもてなしをさせていただきます」って。
これを聞いて、確かにそうだなあとも思ったんです。社にいるから
どうにか気がまぎれてるけど、一人になると妻のことを思い出す
だろうなあって考えました。1泊のことだし、気分転換にもなるかと思い、
申し出を受けることにしたんです。で、翌月、約束した期日に
車で奈良に向かいました。「わかりにくい場所ですが、住所を
 ナビにいれていただければ大丈夫です」こう言われていたので、
そのとおりにすると、車は市街地から山間部に入り、どこをどう通ったか
よくわからないながら、山の中の荒涼とした地形の中に建つ一軒宿の
前に出たんです。古びた木造りの玄関を入ると、

女将さんはじめ、従業員総出で出迎えられました。妻が亡くなった
話が伝わっていて、ていねいにお悔やみの言葉もいただいたんです。
ゴールデンウイーク期間中なのに、駐車場には僕の車しかなく、
他の宿泊客はいないみたいでした。その夜は内風呂に入りましたが、
硫黄泉で湯質はすばらしいと思いました。宿の人の話では、
もちろん循環などではなく、加温、加水もしていないということで。
それと、料理もよかったです。山菜と川魚を中心にした素朴な
ものでしたけど、美味しかったです。でも、宿がよければそれだけに、
妻と来たかったなあという思いもこみ上げてきて・・・
で、翌朝です。もう一度内風呂に入ろうとしたら、女将さんから
露天風呂を勧められたんです、宿から歩いて5分くらいのところにある。

「そこは源泉に近くてちょっと熱いかもしれませんが、湯質は内風呂と
 また違うんです。あ、それと、その奥にももう一つ露天がありますが、
 そっちには行かないでください。火山性ガスが出てて危険なので」
こう言われました。散歩がてらぶらぶら歩いていくと、小屋のような
脱衣所があり、かなり広い岩風呂が湯気を立てていました。
地元の人らしい年配の方が一人入ってました。僕が入ると、
その人が「どっから来たね?」と聞いてきて、会話がはずみました。
そのとき、奥にあるもう一つの露天風呂の話も出たんです。
「なんでもガスで危険だそうで」 「ガス? そんなことはねえよ。
 あそこもいい風呂だし、俺はときどき入ってる。事故が起きたなんて
 こともない。ただ・・・宿のやつらがそう言ったのは、

 あそこは死人も入りにくるからだろうな」 「え、死人!」
「そう、今年出た死人。入りに来た人の近親者だ。まあ、
 このことを知ってるやつは少ないし、宿のほうでも噂が広まると
 困るからだろうな」これ、どう思いますか。その人には妻が亡くなった
話はしていません。興味を惹かれたというか、もしかしたら妻と
会えるかもなんて考えてしまったんです。それで、行ってみることに
しました。いや、入ろうとは考えませんでしたよ。危険な感じが
あればすぐ引き返せるように、ただちょっと遠くから見るだけ。
で、小径をさらに上っていくと、周囲からの湯気が霧のように
濃くなり、前と同じような脱衣小屋が見えてきました。
その脇の湯船は、最初の露天風呂の倍も広い。

ああ、こんないい風呂なのに使わないのはもったいないな。
そう思いました。戻ろうとしたとき、湯船の湯気が風に流され、
中に立っている人の姿が見えました。女性で、もちろん裸です。
あ、いけないと、早々に退散しようとしたんですが・・・その後姿、
妻にそっくりだったんです。でもまさか、そんなはずは。
動けずにいると、その女性は腰から下が湯に浸かったまま、ゆっくりと
こちらを振り向き・・・やはり妻だと思いました。「ああ、〇〇か!」
思わずそう呼びかけていました。でも、風がやんでまた湯気が
立ち込め、何も見えなくなったんです。立ち尽くしていると、
しばらくして湯気が消えたときには、人の姿はどこにもありませんでした。
そこでね、起こされたんですよ。起こしたのは妻です。

ベッドの上で顔を見たときは驚きましたよ。「お前、生きてたのか!?」
「何、寝ぼけてるのよ。あたり前でしょ。今日早出って言ってたじゃない。
 遅くなるわよ」・・・何もかも夢だったんです。期日は妻が死ぬ
前日に戻っていました。このときの安堵感、どう説明してもみなさんには
伝わらないでしょうね。思わず妻を抱きしめてしまいましたよ。
でね、会社から戻ったその晩のことです。
パソコンを見てた妻が「あ、ダメだ、外れちゃった」って言いました。
「何が?」 「温泉のペア招待券に応募してたの。まあでも、
 競争率高いだろうし」 はい、もうおわかりだと思います。
あのあかし旅館です。画像を見ると、夢のとおりそのまんまでした。それで、
「外れてよかったんだよ」と言ったら、妻はきょとんとしてましたね。

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ある空手部の崩壊の話

2020.07.03 (Fri)
あ、どうもこんばんわ。横山って言います。仕事はフリー
アルバイターって言うと聞こえはいいけど、ただのプー太郎です。
今から話すのは、6年前ですね。俺がある大学の2回生で、
空手部に所属してたときのことです。どこの大学かは言わなくても
いいですよね。あんま有名なとこじゃないけど、何かの迷惑が
かかるかもしれないから。でね、そこの大学はどっちかというと
ゆるい気風だったんだけど、空手部は体育会系で厳しかったんです、
先輩後輩の上下関係が。ほら、よく言うじゃないですか、
4回生は神、3回生は天皇、2回生が一般人で、1年は奴隷って。
まさにあのまんまでしたね。もっとも、
4回生は就職活動でめったに部には顔出さないんですが。

で、俺もやっと奴隷を終了して一般人になれた矢先、4月の
上旬のことでした。俺と、同じ2回生の近野ってやつが
3年の先輩から、心霊スポットに行かないかって誘われたんです。
いや、誘われたっていうか、絶対断れないんで、命令されたって
言ったほうが正しいですね。最初、心霊スポットて言われたときは
イヤーな気がしました。いやいや、幽霊が怖いからとかじゃ
ないです。そんなのいないと思ってましたから。それより
心配だったのは、先輩方から悪ふざけを仕掛けられることです。
前にもあったんですよ。1回生のとき、心霊スポットと
言われる地下道に入らされて、外からロケット花火を連発で
撃ち込まれたことが。一発が俺の脇の下で爆発して、

そこ、今でも火傷の跡が残ってるんです。でね、話を聞いてみると、
大学のある市の郊外に廃墟になった雑居ビルがあって、
そこ1階がダンススタジオだったんです。2階はエステとか
マッサージとかの店舗が入ってた。それが、この話の4年前、
ゲリラ豪雨の被害に遭ったんです。1階が水浸しになって、
借りてる店舗はみな廃業。ビルのオーナーは破産したっていう噂で、
泥まみれのまま放置されたんですね。入り口の鍵が壊れてるから
入り放題。外壁も中もスプレーの落書きだらけっていう
典型的な廃墟でした。行くのは次の土曜の夜2時。そのあたりの
時間だと、警察も巡回してこないって言ってました。
メンバーは3回生の先輩が3人、俺と、さっき名前をあげた

近野ってやつ。まったく乗り気じゃなかったです。俺、次の
日曜にバイトが入ってたんで。でね、先輩の一人が、さんざん
幽霊話をした最後に、真顔になって「お前ら、靴だけはスニーカー
 じゃなく、頑丈なヒールのやつ履いてこい」って言ったんです。
なんでも、俺らの大学の別の部のやつが、前にそこに行って、
ガラス片を踏んで足を大ケガしたみたいなんです。
で、土曜日はそのメンバーで雀荘に行って、12時までマージャン
やってました。それから景気づけに近野の部屋で酒飲んだんですが、
俺は運転手って言われてたんで飲まなかったです。
2時ちょっと過ぎに廃墟の前に来ました。車は、部で共有してる
10年落ちの軽でした。いちおう全員、懐中電灯は持ってました。

廃墟のビルの前は国道なんですが、その時間だから車通りは
まったくなくて、ぽつんぽつんと街灯があるだけで、中は真っ暗。
先輩たちがニヤニヤし始めたんで、ああ来たなと思ったら、
案の定、一人が「お前と近野、一人ずつ順番に中に入れ。
 スタジオの壁は大きな鏡になってるって話だから、そこに自分を
 映して、これで写真撮ってこいや」って言われて、フラッシュつきの
デジカメを渡されたんです。あーあ、やっぱそんなことか、
バカバカしいと思いましたよ。で、最初に近野が入ったんですが、
10分たっても出てこないんです。1階だし、そんな時間かかる
わけないのに。「お前、様子見てこい」そう言われて、
ビルの中に入っていきました。受付や事務の部屋があって、

更衣室、シャワー室があり、その奥がかなり広い板張りのスタジオでした。
「おーい、近野、どした? いるか」そう叫びながら懐中電灯で照らして
スタジオに入ってくと、床の真ん中に近野が座り込んでたんです。
「何やってんだよ。先輩方が怒ってるぞ」そしたら近野は、
壁の方を指差して「足、足、足・・・」って震え声で言うんです。
「え、足?」照らしてみたら、その壁が全面鏡になってたんです。
あっちこちが割れ落ちてるようでした。「何もないぞ」
そう言うと、近野は持ってたデジカメのフラッシュを鏡に向かって
光らせたんですよ。ほんの一瞬だけだったんですが、はっきり見たんです。
鏡の中に足、足、足、そのときはよくわからなかったけど、
後で思い返してみると、膝から下の足が何本も何本も映ってたんです。

「わああ」俺は叫び、それでも何とか近野の手を引っ張って起き上がらせ、
そのまま2人で走って外に出たんです。先輩方はさすがに心配そうな
顔をしてましたが、俺と近野が鏡にたくさん足が映ってたことを言うと、
「バカかよ!」とさんざんに怒られました。けど、確かめに行こうとは
しなかったです。シラケた感じになって、その場はお開き。
と言っても、俺が先輩方それぞれを車で部屋に送り届けたんですけど。
でね、この話、まだ続きがあるんです。次の日曜ね、俺、バイトって
言ったでしょ。学習塾なんです。いや、俺が講師なんかできるわけ
ないじゃないですか、雑用係です。プリント印刷したり、
ダイレクトメールを発送したりとかの。中高生を対象にした大規模な
とこで、ビルの2階分がまるまるその塾でした。

で、その日は作業が少なくて受付にいたんです。そしたら、
授業が終わった中学生の女子生徒が俺のそばにきて「あの・・・」って。
「どしましたか」聞くと、もじもじした様子でしたが、
「うち、父が神社の宮司をやってるんです。そのせいか私、
 ときどき変なものが見えて・・・ 足、気をつけたほうがいいです。
 これ、うちの神社のお守りですから、持っててください」
そう言って、自分のバッグについてるお守り袋を外して、
俺に押しつけるようにして帰っていったんです。どういうことか
聞くヒマもありませんでした。でもほら、あの廃スタジオで見たのが
たくさんの足だったでしょう。何か関係があるのかもしれない
と思って、ズボンのポケットに入れといたんです。

その翌週からですね、始まったのは。何がって言うと、足のケガです。
月曜日、俺らをスタジオに連れてった先輩のうちの一人が、
練習中に足首を複雑骨折したんです。まあね、空手だからケガは
つきものなんだけど、現場見てました。先輩、ただね、上げた足を
下に降ろしただけだったんです。それが足首が変なほうに曲がって
そのまま板の間に倒れ、大声で泣き叫んだんです。
「いでえああああ いでええ」って。火曜日、もう一人の先輩が
大腿骨骨折。ここでね、ヤバイってわかりました。それでね、
俺と近野で、あの塾の中学生の女の子の神社に行ったんです。
お守り袋に名前書いてましたから。そこでわけを話して、
ご報謝料は少なかったけど、2人でお祓いを受けたんです。

翌日、3人目の先輩が膝の靭帯損傷。それも何でもない場面でです。
その先輩たちはみな大会のレギュラーでしたから、監督は棄権も
考えたようでしたが、代替のメンバーで出て1回戦で惨敗しました。
ホントは優勝候補だったんですけど。俺と近野は、お祓いのおかげか
何もありませんでしたね。まあ、こんな話なんです。
それにしても不思議なのは、あの廃スタジオね、少し調べたんだけど、
ゲリラ豪雨のときに死んだりケガした人っていなかったんです。
ひどい洪水だったみたいだけど、市全体でも死傷者はゼロ。
どういうことなんでしょうか。あの足、もしかしてダンスやってた
人たちの気が固まったものとか? けど、何で先輩たちがケガ
しなくちゃいけなかったのか、不思議ですよねえ。






基地局アンテナの話

2020.06.30 (Tue)
こんばんわ、よろしくお願いします。宇田ともうしまして、
地方公務員をしております。さっそく話を始めさせていただきます。
これ、僕が小6のときのことです。ですから、今から15年
以上前のことになりますね。当時、〇〇市の賃貸マンションに
住んでました。家族は両親と、小4の妹です。
それで、賃貸マンションだからせまいですよね。僕の部屋は
妹と共有で2段ベッドで寝てました。それがすごく嫌だったんです。
まあ小学生と言っても男女ですし。ですから、何度となく両親に、
「自分だけの部屋がほしい。もっと広い家に引っ越そうよ」って
訴えてたんです。それが効いたのか、あるとき父親が、
「そうだなあ、そろそろ郊外に建売でも買うか。

 けどそうすると、お前転校しなくちゃなんなくなるぞ」
こう言ったんです。「やった!」と思いました。引っ越すと今の
仲間とは遊べなくなるけど、中学生になれば部活に入るだろうし、
そこで新しい友だちもできると思いました。ええ僕、小4から
ずっとスポ少で野球やってたんです。で、父親の言葉どおり、
中学からは新しい家に住むことになったんですが、これから話すのは
マンションでの最後の年のことです。夏休み中だったと思います。
夕食のとき、母が父に「ねえ、マンション自治会のちらしで、
 今度屋上に携帯電話の基地局アンテナができるって出てたけど、
 大丈夫かしら。ほら、電磁波の影響がどうこうなんて話もあるから」
こんなことを言ったんです。父は笑って「WHOの調査で、
 
 電磁波が人体に与える影響はないって発表されてるぞ。それに、
 このマンションに住むのもあと半年くらいだし」と答え、
母は「そうよね。自治会費が少し安くなるかもしれないけど、
 私たちには関係ないわね」こんな会話があったんです。
その次の日曜です。僕は午前中野球の練習に行き、戻って一人で
昼飯を食べ、留守番をしてたんです。はい、そのとき両親は、
新体操を習ってる妹を練習場所に連れてって、いなかったんです。
1時間くらいして玄関のドアチャイムが鳴ったんで、
インターホンに出てみると「お兄ちゃん、あたし」妹だったんです。
このときちょっと変だとは思いましたよ。両親は鍵を持ってるから、
ふつうに開けて入ってくるはずだから。「お前、どしたん?」

「お父さんとお母さんが買い物するって言ったから、先に帰ってきた。
 見たいTVがあるから」まあそういうこともあると思って開けました。
そのときは普段と変わりない妹だと思ったんですけど・・・
着てた服も朝と同じだったし。妹はリビングでTVを見始め、
僕は部屋でマンガ読んでました。そしたら、またドアチャイムの音が
聞こえ、妹が出た様子でした。すぐ、「お兄ちゃん、来て~」と呼ばれ、
行ってみると、玄関に青い作業服、作業帽の人が2人立ってて、
妹が壁にぴったりくっついてたんで、僕が「父母は今、いないんです。
 あと少しで戻ると思います」そう言ったら、一人が、
「あ、そうですか。工事会社の者です。これから屋上のアンテナ工事を
 します。ここまで音はしないと思いますが、危険ですから

 屋上へは出ないでください」そう言って、パンフレットのようなのを
置いてったんです。ドアが閉まってから妹に「お客さんに失礼だろ、
 何やってんだ」と少しきつめに言うと、なぜか半泣きになってて、
「あの人たち、トカゲだったよ。人間じゃなかった」って。
バカバカしいと思ってそれ以上はとり合わず部屋に戻ったんです。
あ、言い忘れてましたけど、そのマンションは12階建てで、
僕らのとこは10階だったんです。たしかに、工事のような音は
まったくしませんでした。それからまた1時間くらいたって、
玄関が開いた音がし、行ってみると両親が帰ってきたんですが・・・
父が「お土産があるぞ」とか言った後ろから、妹が出てきたんです。
「あれ!?」と思いました。一人でテレビ見てたはずなのに。

もし両親を迎えに出たのなら、ドアの音がするんで必ずわかるはずです。
それで妹に「お前、さっき1回戻ってきたよな」そう聞いたんですが、
首を振るだけだったんです。わけわからないながらも、両親に工事の
人が来たことを話し、パンフレットを渡しました。
それからですね、おかしなことが続くようになったのは。
最初は・・・、あ。そうだ。その2日後です。滅多にないことに
夜中にトイレに行きたくなりました。そんとき、2段ベッドの上に
妹がいなかったんです。「あいつもトイレか」くらいに思って
トイレに行く途中、リビングで音がしてました。引き戸を開けてみると、
暗い中に妹が一人パジャマのまま座ってTVを見てたんです。
まあ夏休み中なので、翌日早起きする必要はないんですが、

時間は夜中の3時過ぎだったと思います。それでね、TVの液晶画面に
大きく不気味なトカゲ人間が映ってたんです。SF映画か何かだろうと
思いました。その光で妹の顔が青と緑のまだらになってて不気味でしたよ。
「こんな時間に見てると怒られるぞ。どうしても見たかったら部屋ので
 見ろよ」こう言いました。僕らの部屋にも小さいTVがあったんです。
妹は立ち上がり、「もう寝る」とひとこと言ってTVを消し、
ロボットみたいな動きで部屋に帰ったんです。僕がトイレから戻ると、
もう妹はベッドに入ってて、呼んでも起きませんでした。
次の日ね、そのことを妹に言ったら「知らない、起きてない」って。
新聞で番組表を見たんですが、妹が見てた番組が何だったかは
わかりませんでした。たぶんBSだったろうと思うんですが。

それから1ヶ月以上間が開いて、学校が始まり、季節は秋になってました。
僕は野球部を引退しててヒマでしたね。で、何曜だったかは
覚えてませんが、夜中、ビンビンビンというような音がして
目が覚めたんです。そうですね、ギターの低いほうの弦を強く弾くような、
頭が痛くなるような音でした。「何だ?」と思って起き上がると、
ベッドの上から「来たあ!」という妹の声が聞こえ、ドンと上から
床に飛び降りたんです。そんなことしたことないのでびっくりしました。
「来た、来た、来たああ」叫びながら妹は部屋を出、玄関が開く音が
聞こえました。「あ、待て、どこ行くんだ」あわてて追いかけました。
妹はマンションの外廊下を走り、エレベーターには目もくれず、
非常階段を上っていったんです。「待てったら、どうした」

10階ですから、すぐに屋上への扉につきあたります。屋上は
共有スペースで、普段出てもいいことになってるんですが、夜は
鍵がかかってるはずなのに、そのドアが開いてて妹は闇の中に
走り出していったんです。屋上はかなり広く、給水塔や
BSのアンテナなどがあるんですが、妹は新しくできた右隅の
基地局アンテナへまっすぐ走ってったんです。アンテナの前には
人が5、6人いました。みな妹と同じくらいの年の女の子。はい、
都会で夜は明るいので顔が見えて、中にはマンションの近くの部屋の
妹の友だちの子もいたと思います。どういうことかわかりませんでした。
妹は、その子たちがアンテナを囲んで立ってる半円に加わって
全員が片手を上ました。そしたら、アンテナが緑に光りだしたんです。

ブンブンブンブン、またあの音がして、僕は頭が割れるように痛くて
その場に倒れてしまったんです。マンションの上の空に、緑の大きな光が
浮かんで見えました。それはだんだんに近づいてきて・・・そこで気を
失ってしまいました。気がついたら、部屋の自分のベッドにいました。
もちろん前の晩のことを妹に聞いても「知らない」と言うだけ。
僕の夢ということになっちゃったんです。屋上には行ってみましたよ。
アンテナは光ったりしてませんでしたが、よく見ると2本の筒の部分に、
変な記号のようなものが彫られてました。これでほとんど話は終わりです。
翌年度、僕の家族は埼玉県の一軒家に引っ越し、自分の部屋ができて
おかしなことはなくなりました。それでね、今度、妹の結婚が
決まったんですが、相手の人、宇宙開発機構に勤めてるんですよね・・・

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落とし穴の話

2020.06.18 (Thu)
あ、ども、こんばんは。俺、道村といって、都内の大学の6回生です。
いや、大学に6年もいるって言うと変に思うかもしれないスが、
苦学生なんスよ。親からの学費は期待できないんで、バイト
ばっかしの生活で。それでも、いつも金なくてピーピーなんスけど。
でね、これ、2週間ばかり前に起きたことなんス。
俺の身の上にってわけじゃなく、ダチの話だけど。
どうにもね、解釈がつかないんス。でほら、ここはそういう
ヘンテコな話をすれば、いろいろ説明してくれるし、おまけに金も
もらえるって聞いてやってきたんス。順を追って話していくけど、
俺、あんまり説明するの得意じゃないんで、そこんとこよろしく。
まずね、大学の後輩に進藤ってやつがいるんス。

そいつはアパートの2階の部屋に住んでるんスが、これが今どき
ありえないようなボロアパートで。住所とかは言わなくてもいいスよね。
まあ家賃が3万って言えば想像つくと思うス。一間で、日に焼けて
黒くなった畳、キッチンにはゴキブリが出放題で、便所は共同、
風呂はなし。そのアパート、1、2階合わせて12部屋あるんスけど、
今住んでるのは進藤と、あともう一人だけ。中年のアル中のおっさんで
生活保護らしいス。進藤は2階の角部屋で、そのおっさんは
反対側の角部屋。顔を合わせることはまずないって言ってました。
どうもそのおっさん、小便をバケツかなんかに溜めてるみたいで、
便所にもほとんど来ないらしいス。あとね、1階には半年前まで
ずらっとガイジンが住んでたらしいけど、なんか犯罪に

関わってたみたいで、あるとき一斉にいなくなったって。
その進藤も、バイトするために生きてるようなやつで、部屋では寝るだけ、
飯は外食だから、あんなとこでもやってけるんでしょうね。
でね、その進藤に久々に大学で会ったら、妙なことを言い出したんス。
「道村さん、幽霊っていると思うスか」って。もちろん、
「そんなもんはいねえよ!」って即答したっス。ねえ、この世に
幽霊なんているわえないっしょ。そんなんは甘えですよ、甘え。
世の中はシビアなんだから。金が月にいくら入ってきて、生活費が
いくらかかるか。収入のほうが多ければ何とか生きていける。
霊なんて不確実なものが介在する余地はどこにもないんスよ。あ、
言い忘れてたけど、俺、大学の専攻は数学の統計なんス。

あ、スンマセン、なかなか話が進まないスね。事情聞いてやるから
その代わりって学食で飯をおごらせたんス。そしたら、「毎晩、2時過ぎ
 になるとアパートのまわりを歩き回るやつがいる」って。
「そりゃ通行人だろ」と応じて、あれと思ったんス。
俺、進藤のアパートには何度か行ってるんスが、高い板塀に
囲まれてるんス。ペラペラの黒い板なんだけど、2mくらいの高さで
アパートを一周ぐるっと。何であんなもの作ったのかわかんないけど、
あれだと1階の窓から日が差さないス。あ、でも、何か犯罪やるには
都合がいいのかも。「塀の内側なんか」 「そうです」
「うーん、その、今お前の他にもう一人住んでるっていうアル中の
 おっさんじゃないのか」 「いや、おっさんはあんなに速く歩けないス」

「速く?」 「はい、俺のアパート、塀と建物の間が1m半くらい
 あるんスけど、そこ、雑草が生えないよう、細かい砂利が敷いてあるんス。
 だから通ればジャリジャリいう。その音が速いんス。おっさんは外出るとき
 杖ついてヨタヨタしてるから」 「ふーん、まとめると、夜中の2時過ぎに
 アパートの塀の内を早足で通るやつがいるってことか」
「はい、決まってだいたい3周くらいします」 「意味わからねえな、
 けど生きた人間だろ、間違いなく。あ、そうだ、お前んとこの窓から
 下見えるじゃないか。懐中電灯とかで照らしてみればいいだけだろ」
「それ、やってみたっス。ジャリジャリする音が部屋の窓の下に来たとき、
 借りてきた大型懐中電灯で」 「したら?」 「誰もいなかったんス。
 そんときだけ音が止まって、10分くらいして電灯消して引っ込んだら
 
 またジャリジャリって。何度かやったんス」 「うーん、じゃあ狸とかか」
「いや、まさか。でね、一昨日、夕方に板使って砂利をきれいにならした
 んス。誰か通ればわかるように。そしたら、やっぱ夜中にジャリジャリいって、
 朝見たら乱れてたんスよ」 「・・・外に出て追いかけてみたんか」
「さすがにそれは怖くて」こういう話になったんス。で、俺もね、
興味持って、その日の夜進藤の部屋に泊まり込んでみたんス。廊下を通ると
抜けて落ちそうなボロアパート。便所は臭くて、もちろん部屋にはエアコンなんて
ついてないス。やつの部屋で酒飲んでダベってると2時になり、そしたら、
たしかにジャリジャリって音が聞こえる。そんな時間だし、外は車通りは
なかったス。「ほんとだ、音するな」んで、ちょうど窓の真下にきたとき、
ガラッと開けて「誰だコラ」って怒鳴ってみたス。返事はなし。

ジャリジャリジャリジャリ。それで、「おい、進藤、外出るぞ。玄関から出て、
 お前右に回れ、俺は反対に行く」やってみたんス。外だと、部屋よりも
ジャリジャリ音が大きく聞こえて移動してる。「コラ、誰だあ」叫びながら
塀の内を回ってくと、裏手のところで進藤と鉢合わせしたんスよ。
人一人しか通れない幅なんで、取り逃がすことはないんス。
「えー、不思議だ」 「やっぱ幽霊スか」 「違う!!」それでどうしたか
っていうと、進藤の部屋の窓の下に落とし穴掘ることにしたんス。
俺、もう引退したけど少林寺拳法部に入ってて、そこの後輩何人か呼んできて。
いや、そのアパート、大家は滅多に顔出さないみたいだし、高い塀があるんで
作業は問題なかったス。5cmくらいの砂利の層をはがして、むき出しになった
土をどんどんスコップで掘る。土は柔らかくて掘るのは難儀じゃなかったけど、

せまいんで土運び出すのが大変だったス。穴は人の身長くらい。
上にブルーシートを切ったのをかけ、杭で四隅を固定して、上からパラパラ
砂利をかける。多少周囲からは低くなったけど、夜ならまずわからない
落とし穴ができたんス。で、俺の他にもう一人、栄田っていう後輩も
泊まらせて、計3人で夜中を待ったんス。進藤は懐中電灯とカメラを
持って部屋に待機、落とし穴に何者かが落ちたら上から照らして写真を撮る。
俺と栄田は、前にやったみたいにそいつを前後からはさみうちにする。
完璧な計画っスよね。んで2時になって、ジャリジャリジャリ。
今回は音を立てないよう栄田とそっと玄関を出て、反対方向に走りました。
ジャリジャリ、ジャリジャリ、ズザザザザザ。最後のは落とし穴に
落ちた音だと思ったス。穴が凹んでるように見えたけど、

暗くてはっきりしない。「照らせ!」と上に叫ぶと、暗くしてた部屋から
パッと明かりがついたス。向こうから栄田が走ってくる。2人で両側から
穴の縁に立ち、上からの明かりで見たものは・・・何だったと思うスか。
穴の中にしゃがんで土にもたれ込んでる進藤だったんス。目をつぶってました。
え、じゃあ上から照らしてるやつは誰だ?? と見上げると、
「うわあああ~」と大きな声を上げて進藤が足から飛び降りてきたんス。
で、ぴったりと穴に落ち、中でへたり込んでたもう一人のやつと
重なったんス。「????」わけわかんないスよ。とにかく気を失ってる
進藤を引っ張り上げましたが、正気に戻らないんで救急車呼びました。
でね、病院であれこれ処置されて、やっと目を開けたんスが、
両足を捻挫してたんス。それ以外に大きなケガはなし。

医者は、俺らが暴行したんじゃないかって疑ったみたいスが、進藤本人が、
自分で穴に落ちたのを助けてもらったって言ったんで、
なんとか大事にはならなかったス。そんときは歩けなかったんで、
3日入院したけど、捻挫は比較的早く治ったんス。
まあ、こういう話なんスよ。ねえ、幽霊じゃないとは思うけど、
進藤が2人に分かれて、また一つになったのはどうしてなのか。
本人は、落とし穴が完成して、その後のことは覚えてないって言うんス。
それとね、やつが部屋に戻ったら、やっぱまた2時過ぎに
ジャリジャリ誰かが通るって・・・ いやいや、もうコリゴリっスよ。
だから、知り合い中に広くカンパを募って、進藤を引っ越させようって
考えてるんス。ここの人たちなら、これ、どういうことかわかるっスか?

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