白と黒

2017.10.21 (Sat)
これ・・・臨死体験の話なんです。でもほら、臨死体験って、
本なんかに載ってるのだと、川を渡ろうとするものが多いじゃないですか。
ええ、三途の川って言うんでしたっけか。そのどっちかの岸で、
とっくに亡くなったお祖母ちゃんとかが「こっちに来なさい」って呼びかけてくる。
それで、行こうかどうか迷っているうちに目が覚めたとかなんとか・・・
ところが、私が体験したのは、それとはぜんぜん違ったものだったんです。
それを今からお話したいと思います。

あれは大学2年のときでした。深夜の2時ころ、皿洗いのバイトが終わって、
ミニバイクで部屋に戻ろうとする途中、信号で停まっているところを、
ミニバンに追突されたんです。突然後ろに強い衝撃を感じて、
気がついたら宙を飛んでました。それもたぶん、
頭が下側になってたんじゃないかと思います。
よく、そういうときは自分のそれまでの人生で起きたことが次々に出てくる、
って言いますけど、私の場合はそれはなかったです。

ただ、宙を舞ってる時間がものすごく長く感じられて、
なかなか下に落ちていかないような気はしてました。それから、
目の前が真っ暗になって・・・そして、また宙に浮かんでいる自分に気がついたんです。
ええ、そういうのを体外離脱現象っていうって、後になって聞きました。
それで、下のほうに自分が倒れているのが見えたんです。
バイクから数m離れた道路にうつぶせの状態で。
バイクはひしゃげて大破し、私の手足は不自然にねじまがって、
頭の部分からどんどん道路に血が広がっていってるところでした。

ええ、深夜だったんですが、はっきり見えたんです。
ぶつかったミニバンの人は車外に出て、倒れている私の近くにきて
携帯電話をかけていました。警察と救急車を呼んでたんです。私は・・・
そうですね、体の痛みはまったく感じていませんでしたし、気持ちも平静というか、
あ~あ、大変なことになっちゃった、バイトのお給料が入らないし、
大学の単位落としちゃうかも、どうしようって、
何か他人ごとみたいな感じでそれを見てたんです。

そしたら、いつの間にか私の倒れている体の近くに、変なものが来てたんです。
うーん、説明するのが難しいんですが、もし似ているものをあげるとしたら、
ガマガエルでしょうか。大きさは私の頭の3倍くらいはありました。
小さめの犬くらいって言えばいいでしょうか。
ただ、全体の印象がそんな感じというだけで、手足はカエルよりずっと多かったですし、
顔はその、お寺にあるおシャカ様の仏像に似ているような気がしました。
ええ、上のかなり高いところから見下ろしてるのに、
それの体の前についてた顔がわかったんです。そのあたりは不思議ですが。

あと、それは色が真っ白だったんですよ。体全体が漂白したような白。
ああ、変なものがいるなあ、と思いました。もしかしたら死神なのかも。
私はもう死ぬんだろうか、それにしても、
マンガとかでみる死神とはぜんぜん違うなあ・・・
そしたら、別のものが体の反対側のほうにもう一匹いるのに気がつきました。
そっちのほうは黒い色だったので、ぱっと見わからなかったんです。
ええ、白と黒という色の違いをのぞけば、ほとんど同んなじ形でしたね。

それで、両方がくぱーという感じで同時に口を開けて、そしたどっちも、
口の中からロープの束みたいなものが出てきたんです。
うーん、言葉でうまく表すのが難しいです。一本が直径1cmくらいのヒモ。
でもヒモというか、生き物のミミズみたいに思えましたが、
それが何十本もからまりあって一つの太いロープのようになってて・・・
ただ、やっぱり色が違ってました。白いガマから出てきたのは白くて、
黒いガマから出てきたのは、ちょっと赤黒い感じで・・・

状況がうまく伝わってますでしょうか。2匹のガマが私の体をはさんで、
口からロープのかたまりを吐き、それがちょうど、うつ伏せに倒れてる背中の上で、
しばらくうねうねとしていましたが、やがて白いロープと黒いロープの先が、
ガッと結びついて、綱引きみたいに引っぱり合っているように見えました。
ええ、両方のガマの体に力が入ってるのがわかったし、
ロープがどっちかに引かれるたびに、負けそうになってるガマが、
グラっとよろけたりしてましたから。

私はそれを見下ろしながら、ああ、どっちが勝つんだろうなって思って・・・
ええ、不思議なものを見てるなあ、というくらいの気持ちでした。
どのくらい引っぱりあいが続いたのか。すごい長い時間に思えたけど、
救急車が来るまでに5分くらいしかかかってないはずなので、
たぶんほんの数分だったんだと思います。グン、グンと引っぱるたびに
両方のガマの体が揺れて、ついに黒いガマのほうがコテンとひっくり返りました。
そしたら両方の口から伸びてたロープの束がするすると引っ込んで、
白いガマが私の体の上に乗ってきたんです。

ああ、白の勝ちなんだなと思いましたが、そのとき黒いガマのほうが、
ひっくり返ったまま顔だけ上げて、宙にいる私のほうをきっと見すえたんですよ。
そして、「次はこちらが必ずとる」って言った・・・というか、
そういう内容が私の頭の中に直接響いてきた気がしました。
そのとき救急車のサイレンの音が聞こえはじめ、宙に浮いている私はシュン、
という感じで倒れている体のほうに引っぱり込まれて、
その後は何もわからなくなってしまったんです・・・

それで、次に意識が戻ったのは4日後だそうです。
私は病院のベッドにいて、両親が私が気がついたのを見て涙を流してました。
硬膜下出血の緊急手術をして、医師にはいつ気がつくかわかりません、
数日なのか、1ヶ月以上になるかも、って言われてたそうなんです。
それからは砂袋で頭を固定され、1ヶ月近くベッドで上を見たまま過ごしました。
あと、頭の他に全身を打撲し、左の手首は骨折もしてたので、
入院期間は半年近くになったんです。

はい、長い間寝ていて体が固まってしまったので、リハビリはしましたが、
脳のほうは幸い大きな後遺症もなくて、今は普通に生活しています。
ただ・・・あの事故からもう4年がたったんですが、年に2回くらい夢を見るんです。
ええ、あのとき負けた黒いガマ、ガマと言っても正面から見ると、
顔は仏像のように立派なんですが、それが私の胸の上にまっすぐに乗ってて、
口を開けてロープに束のような舌を出し、私のあごをペロペロなめながら、
「次はこっちがもらうからね」みたいな念を送ってくる夢です。

どういうことなんでしょうか。あの事故のとき、白いガマのほうが勝ったから、
私は助かったんでしょうか。そうだとしても「次」ってどういうことでしょう。
だって、人はだれでも年をとって最後には死にますよね。
それが「次」っていうのは、もしかしてまた事故とかがあるんでしょうか。
そう考えると不安になるんです。それで、事故とかにあわないように気をつけて、
とにかく慎重に毎日を送ってるんです。こんな話なんですが、
もし何かわかることがあれば教えていただきたいと思って。










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狐狗狸さんの話

2017.10.19 (Thu)
私が中学校3年のときの話です。美術部に入ってたんですよ。
ええ、運動は苦手だったし、それでも何か部活動をやってないと
内申書で不利になるかと思って。はい、絵なんて全然得意じゃなかったです。
だから学校祭に作品を出したこともないんです。
3年生の部員は11人いたんですけど、私と同じように
あんまり活動に熱心でない子がもう2人いて、部活の時間は美術室を抜け出して、
その子たちとおしゃべりしてることが多かったんですよ。

そのときもやっぱり空いていた教室に入り込んで、
芸能人の話とか男の子の噂なんかをしてたんだけど、
真由って子がコックリさんをやろうって言い出しました。
いえ、特に流行ってたわけじゃないし、学校で禁止されてるってこともなかったです。
それで、コックリさんは前にもその子たちと何回かやったことがあって、
スケッチブックの1ページに、鳥居とあいうえおの50音を書いたのがありました。
でも、それまでにやったときは、あんまり上手くいかなかったんです。
10円玉が途中で動かなくなってしまうことがしょっちゅうだったし、
質問をしても答えが意味不明だったり・・・

今にして思えば、「カッコイイ3組の○○君の好きな人は誰ですか?」
みたいな質問ばっかしてたので、3人でけんせいし合って
上手くいかなかったんじゃないかって思いますけど。
「えーコックリさん? いいけど、たぶん前と同じでちゃんと答えてくれないよ」
私がそう言うと、真由は「今まではやり方が間違ってたみたい。
 私、ネットで見たんだけど、コックリさんって漢字で「狐狗狸」って書くんだって。
 これ、キツネと犬とタヌキって意味なんだけど、その3匹は本当は仲が悪くて、
 だからお互いに足を引っぱり合って上手くいかないみたい」

「へえ、じゃあどうすればいいの?」遥香って子が聞くと、
真由が「3人でやるのが一番よくて、そのときに一人ずつちゃんと役割を決めないと
 いけないみたい」 「役割ってどういうこと?」
「一人が犬、一人がキツネ、一人がタヌキってそれぞれ決めるの。
 そうすれば決めないでやるよりずっとスムーズに進むんだってよ」
「わかった、じゃああたし犬」 「あたしキツネでいいや」
「えー、残りタヌキだけじゃないかよ。やだけど、まあいい、やろやろ」

こんな感じで、私がタヌキになっちゃったんです。
真由は続けて「じゃ、ちゃんと誰が何だかわかるように、
 手の甲にマジックで書こう」って言い出し、バッグからネームペンを出して、
自分に犬、遥香にキツネ、私にタヌキって書きました。
それで机を2つくっつけてスケッチブックを中央に置き、
10円玉を出して、3人で「コックリさん、コックリさん、どうぞおいでください」
ってお願いをしました。で、いっせいに10円玉の上に人差し指を置いたとき、
なんか電気がビリっと走った感覚があったんです。

でもほんのちょっとだけだったので、そのまま気にせず、
「おいでになりましたのなら、はい へお進みください」
そしたら力も何も入れてないのに10円玉はシューッとすべって、
はい のところに行きました。「あ、これなんか、今までと違う」
「うん、ホントすごくスムーズに動いた」 「本物が来てるのかも」
とてもワクワクしながら、次の質問をしました。
「あなたはどなたですか?」そしたら、10円玉がものすごく速く動き出し、
「た・へ・る・も・の 」って字をなぞったと思いました。

「えー、たへる?」 「違うんじゃない、食べ物ってことじゃないかな」
「すごい速かったから腕いたい」 こんなことを言い合ってると、
また10円玉が猛スピードで動き出しました。
質問をしてないので、私はまったく力入れてなかったのに。
「あ、これちょっと」 「きゃ、引っぱられる」それで、
バランスを崩してこけそうになったので、10円玉から指を離そうとしたけど、
接着剤でくっつけだみたいに取れなかったんです。他の子も指は離しませんでした。

あまり速くてどう動いたか、そのときはわからなかったです。
「あ、あ、あ」 そのとき、窓の外がビカッと光り、
すぐドーンとすごい音がしました。10円玉から、
最初に感じた電気みたいのが強くなってビリビリ伝わってきて・・・
そっから目の前が暗くなって、記憶が飛んじゃってるんです。
「こら~、お前たち何やってるんだあ~~~」男の先生の声がして、
気がついたら、目の前に遥香のお尻がありました・・・

ええ、私は遥香のスカートを齧ってて、スカートはボロボロだったんです。
私たち3人は、コックリさんを置いた机のまわりで輪になって四つんばいで、
それぞれ前の子のスカートを噛みちぎってたんですよ。すごく恥ずかしかったです。
3人とも正気に戻ってたので、保健室に連れていかれ、
そして親を呼ばれました。家では両親にも怒られたし、もうさんざんでしたよ。
後で先生に聞いたところ、空き教室の中で犬がケンカしてるような音がするので、
見にいってみたら、私たちがすごい速さで、
ぐるぐる机のまわりを回ってたってことでした。

あと、雷が落ちたってこともなかったそうです。
それから、これも3人で集まったときに話したんですが、
質問してないのに10円玉が動き出したとき、みんなで見たことを総合すると、
「た・れ・か・ら・た・へ・る」だったんじゃないかって話になったんです。
うーん、わからないですけど、
もしかしたら「誰から食べる」だったのかもしれません。

話はだいたいこれで終わりですけど、ほら、
手にネームペンでタヌキって書いたじゃないですか。それがマジックはすぐ落ちたけど、
その下がイレズミみたいになって、タヌキって字が茶色く残り、
いつまでも消えなかったんです。他の2人も同じです。
恥ずかしいので、3人とも包帯をまいて隠していました。消えたのは翌年のお正月、
受験もあるので神社に初詣に行ったときでした。それも他の子も同じで。









ニューヨークの叔母の話

2017.10.11 (Wed)
これ、長い年月にわたる、しかも聞いていてあまり気持ちのいい内容じゃないんですが、
よろしいでしょうか。はい、じゃ話させていただきます。
まず、ニューヨーク在住の叔母のことですが、私の母の妹なんです。
叔母が若い頃、大学2年のときにアメリカに留学しました。1年間の予定だったんですが、
そのときに向こうで猟奇殺人事件にまき込まれてしまって。
事件は解決したんですが、それには叔母の力が大きかったようなんです。
叔母は特殊能力に目覚めてしまい、そのまま日本には帰らずにアメリカで霊媒、
向こうではミーディアムというみたいですが、それを職業にしているんです。
大物の政財界人や映画スターなんかの依頼が多くて、多大な収入があるみたいです。
私も1度だけアメリカに行って叔母の家を訪問したことがあるんですが。
ものすごい豪邸でしたよ。独身で、そこに一人で住んでるんです。

はい、私が叔母と直接会ったのは6回くらいで、子どものころが多かったんですけど、
ニューヨークからの国際電話がたまーに来るんです。
それも私が人生でピンチに陥っているときに。ええ、そのお話をするつもりです。
1回目は、私が高校2年生のときでした。そのころ私はバレーボール部に入っていて、
毎日8時過ぎまで練習がありました。それで、右足のヒザがカクカクするようになって。
家の近くの整形外科に行ったら、まあ疲労だろうから少し練習を休んで様子をみなさい、
って言われました。でも、休んでやらだんだん痛みが強くなってきて・・・
そのあたりで叔母から電話がかかってきたんです。
「あなた今、右膝が痛いんじゃない? 
 大きい病院に行ってちゃんと検査してもらったら?」そんな内容でした。
それで大学病院に行ったら、すぐに入院になっちゃったんです。

なんでもヒザのところの動脈が詰まって、内部に壊死が広がってるということでした。
最悪の場合、足の切断もありえる、もうバレーボールをするのは無理だって言われて、
私は絶望して、毎日泣き暮らしていたんです。そしたらまた、
叔母から電話がきて、私が電話口で涙ながらに病状を伝えたら、叔母は、
「・・・わかったわ。じゃあ今から鶏を送るから、毎晩9時には寝るようにしなさい」
こんなふうに言われまして。鶏?どういうことだろうと思いましたが、
その晩から夢を見るようになったんです。
私は病院のベッドに寝ていて、なんだか顔のまわりが騒がしい。
はい、ベッドの上、顔の両脇にオスの鶏が1羽ずついたんです。
鶏は「コッコッコ」と鳴きながら、だんだん足のほうに下がってきて、
クチバシで私の右ヒザを突っつきはじめ、

そして真っ白いミミズのようなのを引っぱり出すんです。
2羽が協力して何匹も何匹も・・・ええ、夢の中ですし、痛くはなかったですが、
なんとなくむず痒い感じはありました。その夢は4日間続いたと覚えてます。
だんだんに夢の中で、引っぱり出されるミミズの数が少なくなっていって。
4日めの夢では、鶏たちがいくら突っついてもミミズは出てこず、
鶏は不満げな声を上げて、飛び立っていきました。
それから足の手術の日が決まって、術前の検査をしたらなんと、
すべての数値が改善していて、CTでも壊死した部分がほとんどなくなっていたんです。
これには医師たちもびっくりしてましたっけ。
それで叔母に連絡してお礼を言ったら、「よかったじゃない。
 あの鶏たちよく働いたようね」って平然としたこたえが返ってきて。

そんな感じで、恩着せがましかったり、偉そうなところはちっともなかったんです。
はい、それで2回目はちょうど10年後、私が結婚して4年目のときでした。
そのとき長男が2歳になっていて、私は家で子育てに専念してたんですが、
何だか肩こりがひどくなって、背中に重いものが乗っている感じがつねにあったんです。
気持ちもイライラするようになって、夫と何度かひどいケンカをしたり・・・
これじゃダメだ、心療内科にでも行こうか、そう思っていた矢先にまた、
叔母から電話がかかてきました。
「あなた、ちょっとよくないことになっているみたいね。
 前身が映るような大きな鏡、家にある? なければ買いなさい。あと金魚鉢と金魚」
こんなことを言われました。わけがわからないまま準備したら、
叔母から奇妙な手順を詳しく教えられたんです。

「一人だけの夜に、ロウソクの明かりだけにして、鏡の前でイスに座って。
 手には金魚の入った金魚鉢を持って、じっと鏡を見てなさい。
 あと、カナヅチかなにかも必要ね。そしてもし、
 金魚になにか異変あったら、カナヅチで鏡の中のものを強く叩くの。
 もちろん鏡は割れるだろうから、ケガしないように気をつけて」
それ以上の詳しいことは教えてもらえなかったんです。
けっこう準備がたいへんでしたが、高校のときのことで叔母を信用してましたので、
夫が出張でいない晩にそのとおり実行したんですよ。
はい、鏡に映ってるのは金魚鉢をかかえた私。そのまましばらく何事もなくて、
そろそろやめようかと思い始めたころ、
だんだんに持っている金魚鉢が熱くなってきました。

お湯が沸騰するときみたいに、金魚鉢の中で細かい泡が立ち始め、
それにつれて金魚が暴れるように泳ぎ出して、ビョンと鉢から飛び出しました。
私はあわてて、金魚を拾い上げようとしましたが、そのとき、
鏡の中の私の肩の上に、ぼうっと女の姿が浮かんでいることに気づいたんです。
見たことのない知らない女でしたが、ものすごい険悪な目つきで私をにらんでたんです。
それで叔母から言われてたことを思い出し、とにかく夢中で、
下に置いてあったカナヅチでにらんでいる女のいる部分を叩きつけました。
そしたら「キャアッ」というような悲鳴が鏡の中から聞こえて、
鏡はバラバラになって崩れ落ちたんです。
はい、後でわかったことですが、その女、夫の浮気相手だったんです。
じつはそのとき、夫は出張ではなくて、その女と一泊旅行に出てたんです。

それで女と旅館にいるとき、とつぜんに女の額が割れて血が吹き出し・・・
はい、私はうかつにも夫の浮気にはまったく気がついてませんでした。
体調が悪かったのは、その女の生霊がわたしのとこに来てたからなんですね。
ええ、すったもんだありましたが、私は夫のことが許せなかったので、
裁判に訴えて離婚し、シングルマザーになったんです。
このことを叔母に伝えると、「・・・まあねえ、人生いいことばっかりじゃないから。
 ま、気を落とさないで頑張って」みたいに軽く言われまして。
これで叔母に助けていただいたのは2回めでしたし、
とにかく感謝を伝えました。それから私は、子どもを実家に見てもらいながら、
働く先をさがして、なんとかまた10年がたったんです。

それで、子どもはこの春に小学校を卒業して、今は元気に中学に通っています。
私のほうは、今年に入ってからまた体調が悪くなってしまいまして。
病院に行ったら、最悪の診断結果が出ました。
ええ、膵臓がんで、病状が進行してるために手術はできないって。
でも、絶望はしませんでした。私には叔母がついてて、
今度もきっとたすけてくれるだろうって思ってたんです。ところが、
いつまでも叔母からの連絡はなくて、それでこちらから電話して窮状を訴えました。
そしたら叔母は、「病気のことはわかってました。まだ子どもは中学生だし、
 あなたもここで死ぬことはできないでしょう。でも、
 今回のことはちょっと大変。あなたの病気を治すためには、
 身代わりになって亡くなる人がどうしても必要。

 手順もかなり複雑になるし、あなたそれできる?」
こんなふうに言われたんです。ええ、これはずいぶん悩みました。
だって人の死がかかってるんですから。前のときの金魚は結局死んじゃったけど、
それどころの話じゃないですよね。そんなときでした、
別れた夫からアプローチがあったんです。浮気相手とも別れて、
私とよりを戻したがってるみたいな話で・・・
ええ、私のほうは夫にはもう未練はないので、身代わりになってもらおうと決めました。
いいとか悪いとか、もうしかたがないんです。
叔母が言ったように、かなりの準備が必要なので、
今あれこれと取りそろえているところです。もちろん罪悪感がないわけじゃないです。
だからこうやって、ここに話しに来たんですよ・・・

blaのコピー







霊が見える話

2017.10.04 (Wed)
じゃあ話していきます。これ、信じてもらえるかどうかわかんないですけど、
俺、霊が見えるときがあるんですよ。いや、いつもってわけじゃなくて、
体調がいいときとか、あと何かに夢中になってワクワクしてるときとか、
そういう場合、うっすらとですけど、この世のものではないものが見えて。
え、それがどうして霊ってわかるのかって。
ええ、それがね、後になってから関係者の話を聞いて、
ああやっぱり幽霊だったんだなって納得することがけっこうあるんです。
例えばこんな場合ですね。

俺、草野球のチームに次入ってるんです。いや、会社のとかじゃなくて、
いきつけの居酒屋があるんですが、そこのマスターが昔、
実業団で野球やってた人で、チームに入らないかって誘われて。
俺ですか? 俺も野球はやってましたけど、中学までです。
だからチームの中ではそんなに上手なほうじゃないんです。
でね、この間の日曜に試合をしたんです。
相手は居酒屋がある飲み屋街の別のチームでした。試合は勝ちましたよ。
9対2だったかな。うちのチームは経験者ばっかなんでけっこう強いんです。

都の大会でもたいがい4回戦ぐらいまで勝ち上がるんです。
ああ、霊の話ですよね、すいません。
そんときの相手チームに一人だけすごい選手がいて、こっちがとられた2点てのが、
その人のホームランだったんです。ソロホームランが2本。
フォームもびたっと決まってて、これは素人じゃないってひと目でわかりました、
その人は、守備はショートを守ってて、これも上手だったんだけど、
1回だけ、なんでもない平凡なフライを落としたんです。
そんときでした、霊が見えたのは。

ええ、こっちが攻撃だから俺はベンチで応援してたんですが、
その人が捕球態勢に入ったとき、体の後ろから
何か白いものが二つひらひらって出てきて、顔にぐるって巻きついたんです。
そしたらその人は、目測を失ったみたいに2,3歩後退し、
その足元にボールがぽとっと落ちてラッキーなヒットになりました。
そんときね、ああ、今のは霊だなって思ったんです。
ええ、もちろん根拠はありますよ。その試合が終わってから、
両チームで、ビアホールで打ち上げをやったんです。

けど、その人は仕事の都合があったみたいで参加してなくて、
俺、飲みながらマスターにその人のこと聞いてみたんです。
「すごいホームランでしたね。あの人ってやっぱ元プロなんすか?」って。
そしたらマスターは、「ああ、ドラフト外の練習生だったけど、いい素質してた。
 1軍のゲームにも何試合か出てるんだよ」
「その後どうなったんです? 怪我しちゃったとか?」

「それがなあ、事件起こしちゃったんだよ。女とホテルに入って
 2人でクスリやったらしくて、量を間違えたかしらんが女だけ死んじゃった。
 もちろん殺人とかじゃあないし、ちゃんと救急車も呼んだんだけど、
 プロじゃクスリ関係はご法度だからね。それで馘になってなあ。
 もったいないっちゃもったいない。クスリなんかに手を出さなきゃ、
 レギュラーに定着して、3割ねらえたかもしれなかったんだが.」

ああ、じゃあやっぱりさっきのは幽霊で、その女の霊なんだと思いました。
でもね、不思議なのは何でバッテイングのときには出てこないで、
守備のときに出てきたのかってこと。もしかしたら、
打撃のときはキャッチャーや審判がすぐ近くにいるんで
出てこられないのかもしれないですね。
それと、女の霊がその人を恨んでるのかどうかもよくわかんないです。
ええ、今にして思えばその人の後ろから抱きついて、目隠しして
ふざけてるようにも思えましたから。まあ、こんなのが人に憑いている霊なんですよ。

あ、はい、場所に憑いてる霊ってのもあります。これは地縛霊って言うのかな。
通勤の途中で見かけるんです。○○町の交差点で信号待ちしてると、
子ども用自転車に乗った男の子を見るんですよ。ええ、いつもってわけじゃないです。
2年前に実際にそこで車に轢かれて死んだ4歳の子がいて、
その事故を報道した新聞についてた顔写真とそっくりですから、
やっぱその子の幽霊としか考えられないでしょ。
うーん見えるのは1週間に1回くらいですね。

だからそういう日は、今日は体調がいいみたいだから仕事がんばろうって思います。
男の子ですか? それが、自転車で同じとこをぐるぐる回りながら、
「死んだよ~、死んだよ~」って言ってるだけです。
ためしに手をふってみたこともあるんですよ。でも全然こっちが見えてないみたいで。
え、今度は頭をなでてみたらどうかって?ああ、そうですね、やってみようかな。
どうなるんでしょうね、手がすり抜けちゃいますかね?
霊に触るってのは今まで考えたことがなかったです。やってみての結果を
また報告しにまた来ます。どうなるんだろう、なんだかワクワクするなあ。








末路

2017.10.02 (Mon)
えー僕ですね、恥ずかしい話ですが、今年の春まで ある新興宗教に入信してまして。
いや、もうやめてます・・・というか、その教団、壊滅しちゃったんですよ。
はい、そのときの事情というか、いきさつをお話しようと思って来たんです。
そこはキリスト教系だったんですけど、今考えれば、
他にもいろんなのが混じってましたね。インド仏教とか、古神道とか、
太陽崇拝みたいなのも。要はデタラメだったってことです。どうして入信した当時に、
おかしいって気づかなかったんだろうと思いますよ。あ、僕は幹部とかじゃないけど、
教祖様の運転手をやってたんです。車はベントレーでした。
だからね、いろんな出来事を近くで見聞きすことができたんです。
そんだけ馬鹿だったんでしょうね。でね、教祖様は50歳すぎの男性で、
イギリス人とのハーフで、かなり体格が良かったんです。見た目も若々しいし、

声も堂々としてました。だから信者は多かったんですよ。
ええ、東京を中心に布教活動してたんですが、総数4000人はいました。
ただね、教団の本部がしょぼかったんです。でもこれ、しかたないですよね。
東京の土地はバブル後も目の玉が飛び出るほど高いし、
賃貸だって、ある程度大きい建物だと月、数百万しますから。
だから、近県に土地を買って教会兼教団本部を建てようってことになって。
で、不動産屋を雇っていろいろ探したんですが、
○○県で、かなり敷地の広い物件が見つかったんです。家屋つきの土地でしたけど。
そこは地元で伯爵屋敷って呼ばれてまして、なんでも大正の末まで、
当時の伯爵が住んでたというお屋敷です。そうですね、部屋数は20以上あったし、
古いわりにしっかりしてて、手入れもよかったんです。

けどね、それをそのまま使うわけにもいかないから、取り壊して更地にしたんです。
ええ、教祖様は工事の最中に何度も足を運びましたよ。
だから運転手だった僕もいっしょに行ってるんです。
でね、屋敷のまわりを囲んでた、立派な日本庭園も同時につぶしてしまいました。
で、何回目かに解体作業を見に行ったとき、横手の竹やぶの中で、
小さなお堂が見つかったんです。1m四方よりちょっと大きいくらいの。
うーん、神道のものに見えましたね。まわりが赤く塗られてたんで、
お稲荷さんかもしれません。キツネの像とかはなかったですけど。
工事の現場監督が教祖様のとこにやってきて、このお堂どうしましょうって聞いて、
そしたら教祖様は一言、「つぶしてしまえばいいよ」って。監督が、
「それでもお祀りしてたものだから、いちおう神主を呼んで・・・」って言ったら、

教祖様はカラカラと笑って、「いまここに私の教会が建つんだぞ。
 こんなさびれた社なんぞ、わたしの神のご威光でたちまちにかき消えてしまうわ」
こんなことをおっしゃって、そのままお堂は重機でつぶされちゃったんですよ。
そんときは何もなかったけど、僕は内心、まずいんじゃないかな、とは思ってました。
でね、更地にしてすぐ、教会、本部、宿舎などを建てたんですけど、
これがコンクリ造りで、あちこちに金箔を貼った、見た目はたしかに豪勢だけど、
なんとなく下品な感じのする建物だったんです。
ま、これは新興宗教にはありがちなことかもしれませんけど。
で、4ヶ月近くかかって完成しまして、主だった信者を集めて、
教会建立記念のミサを大々的にやることになったんです。
ええ、礼拝堂は千人以上入れる造りでしたから。当日はオーケストラも呼んだんです。

賛美歌を皆で歌って、それから教祖様の説教が始まったんですけど・・・
教祖様が第一声を発したとき、パーンと音がして高いとこに並んでいるステンドグラスの、
真ん中のが割れたんです。教祖様は少しも動じず、
「ああ、神がこの快挙を祝福してくださってる。今のは神のみしるしだ」って。
ええ、教祖様はそういうアクシデントをうまく利用されるんです。
で、だんだん説教が進んでいって、信者が陶然としはじめたとき、
大きなシャンデリアがドカーンとばかりに落ちてきまして。
ええ、教祖様が説教してる演壇のすぐ前です。あれ、直撃を食らったら死んでましたよ。
こんときはさすがに、教祖様も目を白黒させてました。
広範囲にガラス片が散乱してて、説教は中止にせざるをえなかったんです。
教祖様は激おこで、内装の工事をした会社に損害賠償させるって言ってました。

で、こんときからですよ。悪いことが次々と起こっていったのは。
教祖様は独身でしたけど、おそばに若い女の信者が2人ついて、
身の回りの世話をしてました。おそらく体の関係もあったと思います。
でね、まずその一人がおかしくなっちゃったんです。日に日に目つきがキツくなっていって、
夜中に四つん這いで宿舎の中を走り回るようになったんです。
でね、女の信者でそれを止めようとしたら、あたりかまわず噛みついて、
ケガ人がたくさん出ました。夜中に救急車が来てたいへんでしたよ。
はい、その娘はそのまま精神病棟に入院して、今も入ったきりです。
でね、最初のミサがシャンデリアの件でつぶれちゃったでしょう。
仕切り直しで、二度目のミサをやることになりまして。
で、そのときも礼拝堂が満員になるだけの信者が集まってました。

教祖様のありがたい説教がはじまって佳境にはいったとき、
もう一人残ってたおそばつきの女の娘が、
それまでは教祖様の汗を拭いたりしてたんですが、
ふいっと出ていってしまって。しばらくしたら手にフライパンを持って入ってきたんです。
いや、ほとんどの信者は教祖様の説教に聞きほれてて気がつかなかったじゃないかな。
で、ガーンって金属音がしたんです。そっち見ると、その娘がフライパンを振りかぶってて、
その前に幹部の一人が頭を押さえてうずくまってたんです。
頭が割れて血が盛大に流れてましたね。それからガーン、ガーンって、
その娘は幹部たちの頭を次々に殴っていって、
4人目まできたときにさすがに取り押さえられました。
でね、結局その日もミサは最後までいかなかったんです。

そっからは怒涛のような流れでした。
まず、教会の側壁に大きなひび割れができました。一晩のうちにです。
そのひび割れは高い屋根のほうまで続いてて、
集団生活してる信者が集まって騒いでいる眼の前で、ひび割れがガッと上に伸び、
教会の屋根についてた十字架の下に入って、十字架が地面に落下したんです。
これってさすがに不吉というか、なんかあるんじゃないかって思いますよね。
でね、その夕方です。宿舎には集団生活している男女の信者が400人くらいいるんですが、
そこでひどい食中毒が発生したんです。信者の食事は全部、本部の給食室で作ってましたけど、
あちこちで嘔吐する人がいるわ、腹を押さえて転げ回ってる人はいるわ。
ええ、救急車が10台以上来ました。これ、集団食中毒ってことで、
テレビでも報道されてしまいましてね・・・

幸い亡くなった人はいなかったけど、教団の信用はガタ落ちですよ。
この事件で東京にいる信者も、目が覚めた人が多かったんでしょう。
どんどん教団に入ってくるお金が目減りしはじめました。
なんでも信者の吐瀉物からは、これまでに検出されたことのない菌が出たそうです。
それでも教祖様は、ミサの3回めをやるって強がってましたね。
ええ、それが最後で次はなかったんです。
やはり教祖様が説教を始めたときですよ。一言二言しゃべったら、
教祖様はふらっと演壇から降りてしまわれ、いきなり 「わしは罰あたりじゃ!」
って大き声で叫んだんです。そしたら教祖様の額からたらたら赤い血が流れてきて、
見ると額の両端から何かが生えてきたんです。・・・角でした。
鬼みたいな黄色っぽい角がずんずんと生えてきて、

遠くにいる信者からもわかったと思いますよ。角は1mくらいまで伸びましたんで。
でね、角は伸びきるとまた引っ込んでいって、そのころには教祖様の顔面は血だらけ、
角が完全に埋没すると同時に、教祖様はドターンと後ろに倒れたんです。
それでまた救急車を呼ぶはめになりました。これで教団はもうおしまいですよ。
教祖様は夜中に病院を抜け出して、警察にも連絡して行方を探したんですが、
朝になって、ほらあの、工事のときに取り壊したお堂のあった場所、
その前に土下座するような格好で座り込んだまま死んでたんです。
ええ、跡継ぎなんていなかったし、いてもこれだけ評判が落ちれば、
どうにもならかなったでしょうね。教団はつぶれてしまいました。
僕は運転手の仕事もなくなり、実家に戻ったんです。今は職探ししてます。
いや、もう宗教はこりごりですよ。ええ、ニセモノの宗教はね。