スポンサーサイト

--.--.-- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

変な話(公園)

2016.07.02 (Sat)
まだ20代の頃ですね。当時は出身地の県にいて、
警備員のアルバイトしてたんです。
いや大手じゃなく、その県のしかも県北だけでやってる会社です。
そのときにあった話ですね。最初半年はビルの施設警備でしたけど、
その後に公園の夜間警備に回されまして。昼夜逆転の生活になったけど、
これはありがたかったです。一つは人目がないことで、ほら、
ビル警備だと社員の人の目をつねに気にしてなくちゃなんないでしょ。
それに来客対応なんかもあるし。あと夜間だとバイト料がいいんです。
あーラッキーだなと思いました。仕事は、横田さんという50代のベテランの人と
2人組でやるんです。仕事先は○○平和記念公園。
あのあたりでは一番大きいんです。それと自分の部屋からも近かったんで。

ええ、会社に顔を出す必要はなく直行、直帰でOKでした。
会社からは、仕事内容は横田さんに聞けって言われて。
どんな人か心配だったんですが、柔和な人でしたよ。それに柔道3段ってことで、
体が大きく頼りがいもありましたね。あんなことになってしまって残念です。
勤務は夜の8時から朝6時までです。公園の正門のところに
駐車管理センターがあって、夜間はそこが警備員詰所になるんです。
初日は7時40分に顔を出せって言われて、行ったら横田さんが待っていました。
巡回は2時間おきで、あと緊急事態への対応。
まあでも、緊急事態なんてなかったんですけどね。それで、
その日の最初の巡回のときに、横田さんから巡回の経路とコツを教わりました。
うーん例えば、その公園は8時で立入禁止になるんですが、

柵に囲われてるわけじゃないので、アベックなんかが入り込むことが
あるんです。そんな人たちに帰ってもらう、やんわりした言い方とか。
あとアベックをねらってくる、いわゆるのぞきへの厳しい対応の仕方とか。
でも、巡回は2人組でやる決まりでしたので、
ほとんどの場合は横田さんがそういう対応をしてましたね。
だから楽だったですよ。詰所で座ってラジオ聞いててもいいんですから。
ただね、最初に横田さんの話を聞いたときは面食らいました。
ちょっとおいそれとは信じられない内容が含まれてましたからね。
「この公園なあ。俺はもう8年担当してるんだが、楽な仕事だよ。
 ただな、注意しなくちゃなんないことが3つだけある。それ覚えておいてくれ。
 俺もいつ配置換えがあるかわかんねえしな」

それで巡回中にその3つのことを聞いたんです。
「一つ目はな、ほらそこのトイレ。男子のほうはチェックは必要だが、
 女子のほうは見る必要がねえ」 「え、いいんですか」
「見たことにすればいいんだよ。会社のほうでも了承してることだ。
 俺らの警備が入る前に、女子トイレの後ろに覚醒剤の売人が入っててな。
 嫌な事件があったんだよ。それからいろいろおかしなことが起きてなあ」
「ははあ、でも一般の利用者も入るんでしょう」
「昼は大丈夫なんだ。ただ、さっき話したアベックなんかが
 たまにあのトイレに入って、青い顔をして詰所に駆け込んでくることがある」
「ははあ」 「そういうときはなだめすかして帰ってもらうんだが、これ見ろや」
そう言って横田さんは制服の胸ポケットからボールペン抜いたんです。

「これな、特別な仕掛けがしてあって、ポッチ押すとお清めした塩が出るんだよ。
 それをトイレでな何か見たって人の背中にサッサッっと振りかけてやるんだ。
 気づかれないないようにな」 「厄払いってことですか」
「まあそうだ。悪い噂が立たないようにするためのアフターサービス」
またしばらく歩いて、「あの林の中の小道があるだろ。あそこなあ、狸が出るんだ」
「狸!?ですか」 「ああ、どうやら何家族かいるらしい。
 別に珍しいことじゃねえ、東京だって、ヌートリアが
 繁殖してる公園があるっていうじゃないか」 「ああ、聞いたことあります」
「でな、狸は化かすんだよ」 「きれいな女の人に化けてとか?」
「いや、そうじゃないが、突然街灯が全部消えたり・・・まあそう見えるだけなんだが。
 あと、ふっと気がついたら藪の中に座り込んでいたり」

「うわ、横田さんは化かされたことあるんですか?」 
「あるある。恥ずかしい話だが、ここに来た最初の頃に何回か な。でも対処法がある」 
「それは?」横田さんは今度はポケットから百円ライターを出し、
「小道に入る最初に、これでカチカチ火を出すんだ。
 やっぱ畜生だから火が怖いんだろう。これだけで悪さはしてこねえよ」
「ははあ」このあたり、半信半疑というより疑のほうが大きかったんですけどね。
で、公園の中央に来まして、そこにかなり大きな噴水の池があるんです。
「あの池な。あれが一番危ないらしい。らしい、ってのは、
 俺も何か見たわけじゃなく、前任者からの申し送りなんだ。雨模様の夜に、
 あの池からバシャバシャ音が聞こえるようなら、絶対に覗いちゃいけないって」
「もし覗くとどうなるんですか?」 「命をとられるそうだよ」

こんな感じで説明されたんですけど、これ横田さんが冗談を言ってるんだろうか、
よくわからなかったんです。実際、半年間は何事もなかったですから。
ああ、狸の姿は何度か見ましたよ。でも悪さはしてきませんでした。
でね、一冬過ぎて春になったあたりです。夕方に会社から呼び出しがあって、
そこで横田さんが亡くなったことを聞かされたんです。
買い物中のスーパーで脳梗塞で倒れたって。病院に搬送されてすぐ死亡確認。
これショックでしたよ。前日までなんともなかったんですから。
横田さんは一人暮らしで、急いで息子さんがこっちに向かうそうで、
葬式には会社の上司ともに自分も参席させてもらいました。
でね、その日の夜から新人とペアを組んで警備にあたりました。
横田さんから説明された3つの注意事項ってのも説明したんですよ。

まあこっちが信じてないせいもあったでしょうが、新人も、
そんなことあるわけねえって顔をしてましたね。これ、無理もないです。
でもね、自分はタバコ吸わないんですが、百円ライターのカチカチは
やってました。でね、1ヶ月ばかり過ぎた雨の夜のことです。
12時の巡回をカッパ来て回ってましたが、あの中央部の池に近づいたとき、
水面は一段低くなって見えないんですが、けっこう大きな水音がしてたんです。
バシャン、バシャンって。もしや横田さんが言ってたのはこれかって思いました。
で、新人君に「近づくなよ」って言って離れようとしたんですが、
「いやあ、泳いでるのは狸とかでしょう。もしかしたら侵入者かも」
そう言って、池の縁まで行っちゃったんです。止めようもなかった。
「ああああっ!」新人君が大きな悲鳴を上げ、すぐに走り戻ってきました。

「何だった? 何を見た」 「警備員です。たぶん俺らと同じ制服を着た
 体の大きい人。その人がバタフライ・・・じゃないな。ウナギみたいな泳ぎ方で、
 噴水台の向こうに消えていったんです。あれ、生きた人じゃないですよ」
これ聞いて、もしかしたら亡くなった横田さんじゃないかって思ったんです。
もう水音は聞こえなくなってたんで、よっぽど見にいこうかと思ったんですが
やめておきました。明るくなってからの巡回で調べようと思ってたんです。
でね、その次の巡回時間になる前に、新人君が急に胸が痛いって言い出して。
立ってられない状態だったんで、救急車呼んだんですけど、
病院で緊急手術中に亡くなっちゃったんです。心筋梗塞でした。これで俺、
ぶるっちゃって仕事辞めちゃったんです。その後こっちに出てきまして、
あの公園の警備がどうなったかわかりません。知りたくないですよ。

へねjっしsかおあ



 
 

スポンサーサイト

金の蛇の話

2016.06.27 (Mon)
今晩は。では、よろしくお願いします。
これ全部、私のいとこから聞いた話なんです。ですからすべて本当かどうかは
わかりません。でも、こんな変な内容の嘘をつくわけもないですし。
3年前ですね。母の父が80歳代で亡くなりました。
それで、いきなりお金の話になってしまうんですけど、
母の実家はその地方で町長を出したほどの旧家だったのに、調べたら
遺産は多くはかったんです。田舎ですから土地は二束三文だし、
銀行預金や証券などが、想定したよりもずっと少なくて。
母は3人きょうだいの末娘でした。長男、次男、母です。
ただ、次男は早くに交通事故でな亡くなっていまして、相続者は2人。
それで、母はその相続を放棄していまいました。

というのは、結婚して以来、実家とはずっと絶縁状態でしたから。
はい、私の父との結婚に反対されたんです。で、駆け落ち同然に家を飛び出して、
それ以来、盆正月にも帰ることはありませんでした。
それでも、実の父母ですので葬儀だけは顔だけ出しました。
ええ、長男、私からみて伯父さんとも折り合いが悪かったんです。
ですから、たとえわずかな額でも遺産をもらうわけにはいかないってことです。
これは母の立場を考えれば当然だし、私も惜しい気持ちなどなかったです。
で、その伯父さんですね。県の関連団体の職員をしてましたが、
父親が死ぬと、まだ50代半ばでしたが、あっさり早期退職してしまいました。
退職金の割増で、定年まで勤めるのとあまり変わらない額が出たようです。
家族は娘さんが一人だけ、奥さんは10年ほど前に病気で亡くなっています。

娘さん、私からみていとこは、とうに結婚してて子どもが2人。
実家にわりに近いところに住んでいます。伯父さんはかなりの広さの実家で、
一人で生活してたんですが、お酒をたくさん飲んでいたようで、
半年前ですね、自宅で血を吐いて倒れ、自力で救急車を呼んだものの、
その日のうちに静脈瘤で亡くなってしまったんです。
・・・すみません、長々と親戚の話をしてしまいまして。
いちおうの関係はおわかりになったでしょうか。
その娘さんしか遺産を相続する人がいないということです。実家のほうは、
処分をどうするか迷っていたようでしたが、築120年の旧家だったため、
町で保存の話が出て、維持費も出してくれることになったんです。
でも、人が住まない家ってすぐ傷んでしまうでしょう。

それで、いとこが月に2度ほど掃除に行ってたんです。
午後から半日かけて隅々まで掃除し、一泊して翌朝帰るんです。
で、その日も居間に布団を敷いて休んでおりました。旧家ですから居間には
囲炉裏が切ってあって、その横で一人で。
12月でしたが、保存が決まってから囲炉裏に火は入れていませんでした。
少しうとうととしたところで、布団の胸の上に違和感があったんです。
冷たいものがあごのあたりに触れている感じがし、
無意識に手で触るとつるりとした感触。「え!」それで目が覚めました。
おそるおそる目を開けると、胸元に金色のものがありました。
実家は電気は通っていて、スモールライトだけつけてたのが、
そのわずかな光で金色に輝いて、しかも動いていた。

思わず手で布団を持ち上げて上半身を起こしたところ、
それはころんと囲炉裏の中まで転がり落ち、ならした灰を崩しながら
蛇が鎌首をもたげるような仕草をしたのだそうです。
立ち上がって電気をつけました。上から見下ろすとやはり蛇。
長さは60cmほどで、蛇と異なるのはウロコ状の模様がないこと。
あと、全体の太さが同じくらいで、つまり寸胴の棒状ってことです。
それと、目や口があるようには見えなかったそうです。
ですから金色のミミズと言ったほうが正確かもしれません。
ただ全体の動きは蛇そっくりだったということでした。
そのものは体をくねらせて灰を振り落とし、囲炉裏から這い出ると、

鎌首をもたげてクイ、クイと動かしました。それがまるで、
「ついてこい」と言っているように思えたんだそうです。
そして体を伸ばして部屋の隅をしゅるしゅると這い、
木の戸に潜り込むようにして消えました。いとこが戸を開けると、
もし幻覚などだったらそこで消えてしまうんでしょうが、
金色の蛇は廊下の上にいて、やはり首を動かしてから進み始めました。
ついていくと、廊下を渡りきり、ふだん伯父さんが寝室にしていた
納戸の障子の前でまた消えました。はい、納戸の中で蛇は待っていて、
奥の畳から外れた板の上で、くるくるとトグロを巻き始めたそうです。
60cmほどの長さですので、そんなに大きなトグロになりませんでしたが、
見ていると、20cmほどの高さになった蛇の体が、

どろどろ溶け始めて、なんと仏像に変わったんだそうです。
ええ、よく仏壇の中に飾られているようなお釈迦様の坐像です。
驚いていると、坐像はゆっくりと沈むようにして板の中に消えていきました。
怖いという気はしなかったんですが、ただただ不思議だったそうです。
まだ夜明けまではだいぶ間があるので、布団に戻って休みました。
そして明るくなって一番に、納戸のその板を調べてみると、
上から軽く叩いただけで、中が空洞になっているような音がしました。
それで夕方にご主人を呼び、バールで板をはがしてみると・・・
なんと中には、昨晩見た金の仏像。それに金のおりんと燭台などなど。
それと束ねられた紙幣・・・仏像は純金で仏具は18金。
現金も合わせると、総計3000万以上もあったそうなんです。

これ、どういうことかわかりますか。相続税対策ですよね。
そこに隠したのは母の父だと思います。おそらく伯父さんへの相続のために。
これは想像でしかないんですが、たぶん祖父は母が相続放棄するだろうと
考えてたんじゃないでしょうか。それで、息子が相続税で困らないよう、
現金の一部を仏具に変えて隠していた。
ええ、仏具は税控除の対象になりますから。
え? 伯父さんもそこにあることは知っていたんだと思います。
金相場を見ながら現金に戻すタイミングを図っていたんじゃないでしょうか。
もしかしたら紙幣には伯父さんのお金もまざっていたのかも。
いずれにしても、さきほど話したように母は相続放棄していたので、
うちに一銭も入るわけじゃありません。

「もったいなかったと思う?」と母に聞いたんですが、
「いいや、どんな額でも相続を受けるつもりはなかったよ」という返事でした。
きっと結婚するときに嫌なことがいっぱいあったんだと思います。
まあこんな話なんです。あ、それと、金の蛇は何で出てきたと思いますか。
私のいとこ、かわいい孫に遺産のありかを知らせたかったんでしょうか。
私はそうとしか思ってませんでしたが、これも母に聞くと、
「そうかなあ。私は違うと思う。仏像はいくら税金対策で造られたとしても、
 魂入れの開眼供養をしているでしょう。それが世俗の垢にまみれた
 札束といっしょくたにされてるのが嫌だったんじゃないかねえ」
こんなことを言っていました。これが正しいか、私にはわかりませんが、
なるほど、そんなこともあるのかなあとは思いました。







6/24

2016.06.25 (Sat)
これ昨日あったことです。みなさん、昨日は何の日かごぞんじですか?
ああ、さすがですね。UFOの日です。いちおう説明すると、1947年のこの日、
まあアメリカの話なんで時差はあるんですけど、実業家ケネス・アーノルドが、
自家用飛行機で移動中にワシントン州レーニヤ山上空で、
機の横に強い光を目撃します。一直線に並んだ9機の飛行物体が、
ものすごい速度で飛び去っていったんです。自分の機より何倍も速かったので、
ジェット機かと思ったものの、相手は平べったい円盤状で、
主翼も尾翼もなくジェットエンジンの音も聞こえなかったんです。
アーノルドはこの物体を「空飛ぶ円盤(Flying Saucer) 」と名づけました。
ソーサーというのはカップの受け皿のことですよね。
アーノルドが新聞記者にこの話をしたため、マスコミはこの事件を大きく報道し、

直後の6月30日には、アメリカFBIの長官が調査プロジェクトを立ち上げます。
この当時、宇宙人の乗り物説はメインではありませんでした。
ナチスドイツが大戦中に円盤型飛行機を開発していたという話もあり、
他の国の新型実験機じゃないかという懸念が大きかったんです。
・・・ああ、すみません。大筋と関係のない話をしてしまいましたが、
僕は大学でUFO研究サークルを主催してるんです。うーん、これね、
聞いた人はみんな笑うんです。なに浮世離れした活動をしてるんだって。
でもね、僕はUFOってあると思ってます。日本じゃ信じる人は少ないけど、
アメリカは全然違うんですよ。ある調査では、全国民の6割が信じてるってあるし、
目撃者もすごく多いんです。・・・ああ、すみませんね。
それで昨日、UFOの日を記念して、観測会を実施したんです。

もちろん昼からです。あのね、夜って誤認が多いんです。
雲や霧がスクリーンになって、車のライトや街の明かりを反射しますし、
星も見えます。金星の誤認ってとても多いんです。
あとは飛行機のライトや人工衛星。でね、UFO研究サークルのメンバー、
僕を入れて4人だけなんですが、もちろん全員男です。いや、モテないですよ。
まるで女っ気のないやつばっかりで。午後の2時ころから、
大学の裏手にある山に集合しました。そこはちょっとした散歩コースになってて、
100mほどの頂上の草を刈ってあるんです。そこにカメラ、ビデオ、
望遠鏡を持ち込みました。一人が東西南北の一面を担当して、
観察すること2時間。はい、4例目撃しました。画像もあります。
ただねこれ、文字どおりの未確認飛行物体で、今お見せしますけど、

人工物かどうかもわからない黒っぽい点です。
でも、鳥じゃないってのはわかるでしょ。こういうのってけっこう多いんです。
ある程度時間をとれば、誰でも見つけることができます。
ただ、現代人はのんびり空を見てることってまずないから。
この画像は全部パソコンで拡大してみましたよ。うーん、やっぱわからないです。
もしかしたらビニールとか、洋凧の切れたのかもしれません。
昨日は風が強かったんで上空の気流に乗ってたのかもしれないです。
それでね、その場で、望遠鏡を覗いてたやつがこんなことを言い出したんです。
「ほら、あっちの山あるだろ。あの上から2番目の鉄塔の下に
 コンクリ製の小屋があって、壁に字が書いてあるみたいだ」暇でしたからね、
もう一度望遠鏡セットさせて、みなでのぞいてみたんです。

そしたら確かに、草に埋もれた壁に黒っぽい字で何か書いてあったんですが、
それがUFOって読める気がしたんです。「UFO・・・だよな」
「行って確認してみないか。あれ、そんなに距離ないぞ。車ならすぐだ」
ちょうどみな長袖長ズボンの虫よけになる格好してたんで、
行ってみることにしました。いったん山を降りて車で15分くらいで
向こうのふもとに着きましたが、登り口がわからなかったんです。
「でもよ、鉄塔があるんだから必ず整備用の道があるはずだ」山自体は、
僕らが登ったのよりちょっと高いくらい。それで近くに「氷」ってのれんが出てる、
昔風の雑貨屋があったんで入って聞いてみました。そしたら、
何度か呼ぶと、かなりの歳に見えるしわくちゃの婆さんが出てきまして、
「ああ、この突きあたりの道を右に行くと車で入れる道があるんじゃないかの。

 通るのは工事の人くらいだし、もしかしたら通行止めかもしらんが。
 山の名前? そんものはねえな。山というほど高くもないし」
お礼にみなで一本ずつ飲み物を買い、言われたとおり行ってみると、
砂利でしたが確かに車が入れる道があったんです。高圧電線の下になってました。
「ああ、これを目印にすればよかったんだな」15分ほどで上から2ま番目の
鉄塔に通じる横道らしいところに出たんです。
胸くらいの雑草をかきわけて進んでいくと、鉄塔の真下に出ました。
そこに、そうですね。車一台入るかどうかくらいのコンクリ製の小屋があったんです。
「こりゃ、たぶん工具とか部品を入れてあるんじゃないか」
「字があったのは向こう側だろ」斜面を落ちないように回りこんでみると、
そっちの壁に濃い緑の字で「U.F.O.ランドラ」ってありました。

「ランドラ? 何のことだ? 子どものイタズラみたいな字だな」
近寄っていったメンバーの一人が大声を上げました。「この字、点描になってる!」
どういうことかというと、一字が人の頭の倍くらいでしたが、
それがちょうどテントウ虫ほどの点の集まりでできていたんです。
「うわ、気味悪いな」 「これ剥がれてくるぜ」一人が木の枝でこすると、
確かにポロポロ下に落ちてきました。「うーむ、イタズラにしては凝ってる」
「これ、柔らかいな。ゴムみたいだ」 「素手で触って大丈夫か」
「ああああっ!」また別の一人が叫び声を上げ、「どうした?」
「お前ら腕時計してるか?」 「してねえよ。どしたんだよ?」
「これ見ろ?」そいつの時計はアナログの安いやつだったんですが、針が全部
グルングルン回ってたんです。ものすごい速さで。

「ありえねえ」 「磁力か?」 「それにしたって・・・」
そいつが鉄塔から離れて車まで戻ると、針の回転は止まりましたが、
時計自体が動かなくなってしまいました。
「スゲエ、これUFOの目撃情報にある展開だぞ。時計が壊れるってのは」
「もしかして基地なのかもしれんな」 「小屋の中、見てみようぜ」
ですが、小屋は正面に超頑丈な鉄扉があるのみで窓はなし。
鉄扉も鍵がかかっててビクともしませんでした。「だよな」
「でもよ、こんなのプレハブのほうが安上がりじゃないか」こんなことを言い合い、
一人が平たい山笹の葉を下のわずかな隙間から差し込んでみたんです。
「おあ、ちぎれた」しゃがんで差し込んでたので後ろにひっくり返り、
手に残ったちぎれた葉は、草の色とは違うベトベトした緑の液体がついてました。

「うえー、気味悪い」 「薬みたいな臭いがするな」それで小屋はあきらめ、
近くの草やヤブの斜面をみなで調べました。ほら、UFOに関係ある場所って、
着陸した跡が丸く残ってたりするでしょ。けど、不自然なものはありませんでした。
「変は変だけどやっぱりイタズラかなあ」 「もう戻ろう」
車をUターンさせるのが大変でしたが、そろそろと降りていくと、
一本道を婆さんが歩いて登ってきたんです。ええ、さっきの雑貨屋のです。
助手席に乗ってた僕が窓を開け、「どうも」ってあいさつしたんですが、
婆さんはこっちに目を向けることなく通り過ぎていきました。
「愛想わるいな」 「よくこんな道、あの歳で登れるよな」
「なんだよ、下にはいてるのは銀ラメのズボンか」
「もしかしてさっきの小屋の様子を見に行ったんじゃねw」

「まさか」 「いやいや、あの婆さん、実は姿を変えた宇宙人だったとか」
「そういうパターンだと、さっき俺らが飲んだジュースもあぶないw」
「そういえば変な味がしたなw」まあ、このあたりは冗談だったんですけど。
この後は特に何事もなく、夜にも少しUFOの観察をやり、それぞれ家に戻ったんですよ。
僕は歩きだったので、帰り道にもあの山のほうを見たんですが、
ただ真っ暗なだけで上空にも何も見えませんでした。ええ、これだけなら
なんてことない話ですが、この腕見てもらえますか。今朝になったら
内側に浮きだしてたんです。緑のブツブツでFって読めるでしょう。こんな皮膚病って
ありますか、医者に行ったら最初、「イレズミですか?」って言われました。
いや医者も見たことのない症状だって。他のやつらも同じです。UとOのやつ、
あと変な記号のやつ。僕は来週入院することになりました。今のところ痛くはないですが。







ゾロ目の話

2016.06.21 (Tue)
*これ、いちおう取材した話なんです。だから実話怪談と言っていいわけですが、
ただ・・・たいがいの実話というのは、類型的というか、
どっかで聞いたようなのが多いんですよね。本当らしいけど、
いまいち話としての展開に欠けるのものがほとんどです。
例えば、急に仏壇がガタガタ鳴って、その直後に親戚が亡くなったという電話が
かかってきたとか。ですから、せっかくご好意で話していただいたのに、
お蔵入りさせてしまったものはたくさんあります。
ですが、ごくたまに、そうですね、20話に一つくらいの割で、
なんとも評価のしようがない不可思議な内容の話があります。
まあねえ、自分が怖い話を収集してるのを知って、
作った話を聞かせてくださってるのかもしれません。

そこは疑うとキリがないんですけど、今日はそんな話です。
これ、ある市のタウン誌の取材で、
2年ほど前に地元の和太鼓グループを取材に行き、
その後の打ち上げ、居酒屋でやった飲み会で聞かせてもらった話です。
話してくれたのは、Yさんという当時20歳くらいの女性でした。
「怖い話ですか? 私、霊感もないし幽霊なんて見たことはないから。
 でも、ちょっと変なことなら、ないわけじゃないけど・・・」
「へええ、いや、どんなことでもいいです。ぜひ聞かせてください」
「これ、私が中1のときです。私は当時、一軒家に父母と高1の姉の4人暮らしで。
 で、前日の夜からちょっと熱っぽかったんですよ。それが朝になっても具合悪くて、
 熱計ったら37°少しあったんです。

 無理して学校へ行けば行けそうだったけど、テスト期間が終わったばっかだったし、
 母に話したら、休みなさいって。医者に行くか聞かれたけど、
 そこまでたいしたことなかったから、売薬飲んで寝てることにして」
「家にお一人だったってことですか」
「そう。父母は共働きだったし、姉は学校行くし。それで、薬飲んでベッドにいたら
 ことんと寝ちゃって、起きたら12時半過ぎてて、風邪は治った感じがしたんです。
 お腹空いたので、キッチンで冷蔵庫から冷凍食品出して、レンジで温めて食べて。
 もうなんともなかったけど、休んだんだから居間でテレビ見てるわけにもいかないし、
 それで、姉の部屋に寄って何か読む本探したんです。
 そしたら、面白そうな本はなかったけど、漫画雑誌がけっこうあったんです。
 本当にあった怖い話とか、恐怖体験とかそれ系の」

「ははあ、お姉さんはそういう趣味なわけですね。今日来てないんですか?
 あ、太鼓はやらない。それは残念」
「で、2時近くから寝たまま読み始めて。短い話がいくつも入ってる雑誌でした。
 私はあんまりそういうの読まなかったんですけど、怖いなー、
 でもこんなの嘘だよなーって思いながら。ああいう本って作り話なんですか?」
「いや、マンガ雑誌の場合、特に(本当にあった)って入ってるのは、
 読者の投稿を元にして描かれてるはずですよ。たくさん編集部に送られてくる
 中から、まず編集者さんが選んで、さらに作者さんが選んで」
「ああ、そうなんですか。ああいうのって、
 作り話だってわかった瞬間に興ざめしちゃいますよね」
「ええ、そうおっしゃる方が多いです」

「それで、雑誌に没頭してて、何気なくベッドの横のデジタル時計を見たんです。
 そしたら時間が3:33になってました。そういうのどう思いますか」
「うーん、よく言われるのは、実は時計は無意識で何度も見てるんだけど、 
 3:16とかだと記憶に残らずに、見たことそのものを忘れてしまうって説です」
「ああ・・・なるほどね、わかるけど、デジタル時計は高い台の上にあるから、
 半身起こして伸び上がらないと見れないんです。朝、
 自分で止めちゃわないように、わざとそうしてるんですよ」
「まあ、何か意味がある場合もあるのかもですけど」
「それで、また何話かお話を読んで、2冊目に入って、ふと時計を見たら4:44
 これはどういうことですか?」 「うーんと、人間には体内時計というのがあって、
 3:33が頭にあるために、それから4:44まで数えちゃうって説もあります」

「体内時計ですか・・・ それで、そのときに、ああもしかして、
 次、5:55を見るのかなあって考えて」 「それが意識するってことです」
「また漫画に戻って、そしたらその内容がちょうどそのときの私と同じだったんです」
「同じっていうと?」 「風邪を引いた女の子が誰もいない家の自分の部屋で本を
 読んでるって話でした。ただ、主人公は小学生みたいだったし、
 読んでるのも小公女とかそういうのだったけど」
「はい、それでどうなりました?」 「その子が玄関のチャイムが鳴るのが聞こえて、
 パジャマのまま起きていくと、玄関にその子の両親と弟が立ってて・・・
 その子に、今何時だ?ってそろって聞いたんです」
「変な話ですねえ。その子以外の家族は一緒に外出してたってことですか?」
「たぶんそうだと思います。で、その子が居間に入って時計を見たら5:55」

「はああ」 「で、その子が玄関に走り出て5時55分だよって言うと、
 3人はくちゃっと一つにくっついて体がどんどん溶け出し、
 どろどろの固まりになって。幼児の弟の顔だけ真ん中に浮き出てきて、
 5時55分だねってうれしそうに言ってニヤーッと笑う・・・」
「えー、それいくら怪談でもちょっとひどい。全然脈絡がないじゃないですか」
「そうですよね。私も変な話だなあと思ったんだけど、絵がかなり怖くて」
「漫画の場合は作画は重要ですからね」 「怖いので胸の上でいったん本を閉じて、
 そしたら横でカチッって音がしたんです。ああ、これ今、5:55になったんだ。
 って思ったんです。何でかわかんないけど、時計を見たら絶対怖いことが起きる、
 そう考えちゃって、時計見ないようにうーんと我慢してたんです」
「まあ、怖い話読んでると、妄想というか変なことが気になり出すもんですよね」

「そのときに現実に家のチャイムが鳴ったんです。
 家族3人はみんな玄関の鍵持ってるから、お客さんだ出なきゃいけないとは思うものの、
 怖くて出られなかったんです」 「わかる気がします、それで?」
「布団をかぶったまま動かないでいたら、チャイムはそれ1回きりで、
 ノックとかもなかったのでだんだん落ち着いてきて。
 一番早く帰ってくるのは母なんで、早くこないかと思いながらもう一度本を開いたら、
 さっき話した5:55の話が見つからなかったんです。
 胸の上の布団に開いたままにしてたので、絶対その本の中にある話なのに」
「変ですねえ。漫画の作者名とか覚えてますか?」
「私はあんまり詳しくないし、そのときも注意して見てなくて」
「じゃあ他の本は?」 「それにも載ってなかったんですよ」

「うーん、じゃあ全体が夢ってことじゃないですか。お昼にも薬飲んだんでしょう」
「そうですけど・・・ で、そのうちに玄関が開く音がして、
 それから階段の下で、○○いる? 具合どう?って母の声がしたんです。
 ああよかった、帰ってきたんだって思ってベッドから起き、
 そのときに気になってた時計を見たんです。そしたら・・・」
「そしたら?」 「5:54でした」 「え? じゃあさっき5:55と思ったのは
 もっと前だったわけですね」 「そういうことなんでしょうね。それで、
 私は下に降りてって、母にもう治ったって言ったんです。母はあらよかったわね、
 って答えて、そのときまだ開いてた玄関の戸から男の子が顔を出して、
 絶対見ちゃダメだよ、って言ったんです。その顔が漫画に出てきた子とそっくりで」
「お母さんも見たんですか?」 「ええ、今のどこの子?って外まで見に行きました」

「どう考えても変な話ですねえ? 今まで聞いたことがないし解釈のしようがないです」
「私だってわけわかんないですけど、絶対見ちゃダメっていうのは、
 5:55のことじゃないかと思ったんです。
 それ見るとたぶんよくないことが起きるって。
 だから部屋の目覚ましもデジタルじゃないのに変えました」
「うーん、ますます意味わからないです。その時計だけ見ちゃダメってことじゃ
 ないんでしょう。スマホだって時刻表示はデジタルだし、街頭にも時計はありますよね」
「だから、今でも意識して見ないようにしてます」 こんな話だったんです。
わけわかんないし、全部Yさんの夢って考えるのがやっぱ一番いいんでしょうけど、
男の子はお母さんも見てるってことですしねえ。これ、自分の経験だと、
作り話だとしたら複雑すぎますから。そう思われませんか?





 

梦幻茶房

2016.06.10 (Fri)
バブル華やかなりし時代の話だよ。1990年の手前。
おれはその頃、ある不動産会社の買付部門にいたんだ。
いや、お察しのようなヤクザ絡みの会社じゃなかったが、買付けってのは当時、
要は地上げと同義語みたいなもんだった。
Fラン大学を出て就職し、3年目のことだったな。
そんなだからよ、アコギな真似をしてたくさん人の恨みも買った。
あんな時代はもうこねえだろうな。俺の給料が手取り30万で始まったのが、
3年目で60万までに増えてた。会社は俺より10ばかり年上の若い社長が
仕切ってたが、信じられねえような金回りだったよ。
でな、そういう仕事をしてると、だんだんに澱みが溜まってくるんだ。
出方は人によっていろいろだが、俺の場合は汗だった。

すげえ汗っかきになったんだよ。気温とかまるで関係なし。
首筋、脇の下からだらだら汗が流れ落ちて、数時間でシャツがびしょびしょだ。
いやあ、エアコン18度に設定しても同んなじ。
だからしかたなく、日に3回はワイシャツとっかえてた。
これは、その汗が黒いせいもあった。なんでかしらないが、
ススみてえな汗が出たんだよ。ハンカチで額を拭けば薄黒くなってる。
もちろん医者には行ったさ。けど検査の結果におかしな数値は出ねえ。
皮膚科で診てもらってもとくに問題なし。
医者の目の前でガーゼで汗を拭いて見せても、首をかしげるばかりで、
「実害はないんでしょう」ときた。たしかにめまいや頭痛ってわけじゃないから、
仕事に大きな支障はなかったんだが・・・

それで、あるとき会社の洗面所で顔洗ってたら、
ばったり社長が入ってきたんだよ。でな、黒い水が溜まったシンクを見て、
「ああ、お前、抱え込んでるなあ。それな、医者に行っても治らんから。
 ここに行ってみな。スッと悪いものが溶けてく。
 代金は会社持ちにするよう連絡しといてやる」こう言われて、
一枚の名刺を渡されたんだよ。そこには「梦幻茶房」という店の名と住所。
代表者名とか電話番号は書いてなかった。
住所は武蔵野のほうだったが、今はもうねえよ。
車で行ってみたんだが、建物はつぶされて植物園みてえなのになってたな。
で、次の休みの日に行ってみたんだ。そしたら白壁の家があってな、
「梦幻茶房」という小さな木の看板が出てた。

なんというか、白壁のアフリカの砂漠にでもありそうな建物だったな。
変わってると思ったのは、ガラスが一切使われてなかったことだ。
窓はあったが、木の両開きのやつだったんだよ。呼び鈴を押すと、
青紫のエプロンをかけた30代くらいの女性が出てきたな。あとでわかったんだが、
その人が女主人だった。中国語らしき名前を言われたが覚えてねえ。
で、俺の顔を見て「○○さんですね。社長様から伺っています。どうぞ」
流暢な日本語で中に案内された。それが床は乾いた土になっていて、
中国っぽい感じはまるでせず、やっぱりアフリカを思わせる調度が並んでた。
「ここは何をするんですか?」今考えれば間抜けた質問だが、
女主人は笑って「茶房ですから、お茶を飲んでいただきます」こう答えた。
あとな、そのときは11月だったが、中がすごく暑かったんだよ。

40度近くあったんじゃねえかな。俺が黒い汗をだらだら流しているのを見て、
女主人は、「3番房に入って着替えていてください」って言った。
奥へ続くドアを開けて、そこに長い廊下があったんだよ。
そうだなあ、両側に10部屋ずつで、全部で20ほどのドアがあった。
どのドアにも番号札がついてて、俺は手前の3番って書いてるところに入った。
中はサウナまではいかねえが、相当な暑さで、それもそのはず、
レンガを積んだかまどにガンガン火が焚かれていたんだ。そこに銅製らしき、
高さ80cmほどの蓋つき容器がのせられ、グラグラ煮え立った湯気を蓋の穴から
吹いてた。部屋自体は3畳ほどの広さで、白布のかかったテーブルに椅子が一つ。
あと、かまどの脇に脱衣かごがあり、中に白いガウンが入ってた。
それで、下着だけになってガウンをはおり、椅子にかけて待ってたら、

ややあって、女主人が手に籐製のザルみたいなのを持って入ってきた。
ザルの中には、乾いた丸い植物が入ってて、中国の花茶に近いものだと思った。
女主人は「聞いてますよ。黒い汗がでるんですよね」そう言って、
金バサミで銅製容器の蓋を開け、その大きな塊を5つ6つ中に落とし込んだ。
「しばらく待っててください」女主人は出ていき、俺は窓もない部屋で、
それから1時間以上蒸されてたんだよ。いや、信じられないほどの汗が出た。
ガウンが絞れるくらいになり、白かったのが薄墨のような色に変わって、
「ああ、これはやっぱ、サウナの一種なんだ」って思ったくらいだ。
テーブルの上の白布にも汗がぼたぼた落ち、頭がもうろうとなってきた。
でな、待っているあいだ中、なぜか俺の仕事、地上げのときにやった色んなことが、
思い出されてきたんだ。無慈悲な仕打ちとか、心ない言葉とかだな。

でな、それ思い返してるうちにダラダラ涙まで出てきたんだよ。汗より黒い涙が
テーブルに落ち、いたたまれない気分になったときに、女主人が入ってきた。
青みがった小さなガラスのグラスに、薄緑の液体が入っていたな。
女主人はかまどの火に灰をかけ、そしたら部屋の温度が少し下がった。
そして俺の前に「冷茶です。どうぞ」とグラスを置いた。
もう脱水に近かったから、一気に飲んだよ。そしたら体全体がスーッと冷えた。
そして全身がガクガクと震えだしたんだよ。お茶の味? ああ、お茶というか、
ミントみたいな味がした気がする。あんまり覚えていないが。
震えがおさまってから、「気分がすっとしました。
 ここってサウナ療法みたいなとこなんすか?」って聞いてみたんだよ。
女主人は「ええ、まあ」と言葉を濁し、続けて「釜の中をご覧になりますか?」

立って近寄ると、女主人はまた金バサミで銅釜の蓋を開け、
俺はそれを上からのぞき込む形になった。そしたら、8分目まで入ったお湯の中で、
さっきの花茶のようなものが揺れていた。それらは大きく開いてくっつき合い、
まだポコポコ沸いているお湯の中でゆっくりと回転していた。
いや、何かの植物なのは間違いなかったが、
その中に人の表情が浮かんで見えたんだ。
見覚えがある気がした。俺が地上げした農家の婆さんとかの顔だと思った。
「ふつうは、この釜の中はお客様にお見せすることはないんですが、
 社長様からそうするように言いつかっておりまして」
女主人がこんなことを言ったんだよ。「お着替えを」と言って女主人は出ていき、
俺が着替えて最初の部屋にもどると誰もいなかった。

俺はせいせいした気分で車を運転して部屋に戻ったんだよ。
あれ以来、黒い汗はまったくかかなくなった。これはあの茶房のせいだけじゃなく、
俺が会社を辞めたことも大いに関係してると思う。
辞表を書いて翌朝すぐ上司に提出したんだ。上司は驚いてたが、
社長に取り次いで、俺は社長室に呼ばれた。社長は、「あの茶房行ってきたか。
 辞めるのはいい決断だよ。もう物件はすべて売りに出して、
 俺もこの商売とはおさらばするつもりだ。
 こんなことが長く続くはずはねえから」そう言って笑い、3年勤務ではありえない
退職金をはずんでくれたんだよ。それで最後に「あんな黒い汗かくやつは、
 この手の商売には向いてない。今後は苦しいこともあるだろうが、
 地道に頑張んな」ってつけ加えた。ま、こういう話だ。