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写真を撮る話

2019.10.06 (Sun)
あ、どうも、よろしくお願いします。俺、武藤といって、エクセル計算の
専門学校に通ってます。この間から、奇妙な出来事が続いてて、
なんか嫌なことが身に迫ってる気がするんです。
それで友だちに片っ端から相談したら、一人のやつに霊能者を紹介され、
その人に会って話したら、ここに行くように言われたんです。
そういう不可解な事件を専門に研究してる人が集まってるって。
さっそく話を始めます。3週間前の火曜のことです。
俺、アパートから学校まで電車で通ってるんです。その日もいつもの
駅で電車待ってました。授業は2コマ目、11時半からだったんで、
通勤ラッシュの時間帯を外れて、駅にはパラパラとしか人は
いませんでした。電車が入るってアナウンスがあって、

そのときに俺の前のほうにいた女の人、たぶん会社員だと思います。
その人がふらふらした足取りで線路に近づいてって、「あ、危ねえ」
って思ったとき、急にふり返って、俺と目が合いました。
若い人でした。たぶん20代の後半から30代くらい。
で、その人、電車が走り込んでくるとまた前を見て、
思いっきりジャンプしてホームから飛んだんです。
「うわ、自殺だ」って思いました。それまでも何度か、自殺のために
電車が遅れたのには遭遇してるんですが、実際に現場を見たのは
初めてでした。いや、大きく跳ね飛ばされたとかじゃなく
姿は見えなかったんで、すぐに電車の下に巻き込まれたんだと思います。
電車は急ブレーキをかけて、いつもの停車位置のだいぶ前で停まったんで、

俺、前のほうに見に行ったんですよ。いやあ、今考えれば悪趣味だった
って自分でも思いますけど、俺だけじゃなかったんですよ。
電車を待ってた客のかなりの人数が俺と一緒に移動してたし。
でね、電車の前に来たら、運転席のガラス窓の下のほうにヒビが
入ってたんです。電車の車輪のとこも見ましたけど、
人の姿はなかったです。で、俺、持ってたスマホで、その割れた窓の
写真を撮ったんです。・・・弁解するわけじゃないけど、
俺だけじゃなかったんですよ。わざわざその場所まで移動してきて、
写真撮ってたのは俺の他に何人もいました。だから、
どうして俺だけがこんな目に合うのかわからないんです。
で、遅れて学校に行って、授業の合間に会ったやつにその画像見せました。

けど、なんまりウケなかったんです。まあそうですよね、
死体が見えるとか血がついてるわけじゃなく、ただ割れた窓が
写ってるだけだし。だから、学校が終わってバイトに行く前に
その画像は削除したんです。これ、間違いなく消したはずなのに・・・
次の日の朝です。俺、スマホを目覚ましがわりに使ってるんです。
アラーム機能で音楽鳴るようにして。で、寝たままつかんで見て
ギョッとしました。前日の電車の写真が縦長になって
待ち受け画面になってたんです。ありえないですよね。
自分で設定しなきゃそうなるはずがないし、その画像消したんだから。
でね、縦長になってるって言ったでしょ。
けど、比率がおかしくなってるわけじゃなくて、画面の下のほうに

ブドウの房みたいに黒い丸いものがいくつも重なって写ってて。
もとの写真にはそんなのなかったし、起き上がってよく見てみたら、
人の頭なんじゃないかと思いました。何人もの頭が逆光で黒くなって
重なって写ってる。けど、俺はあのときホームの先端まで出てて、
前に人が立つスペースなんてなかった。気味悪いじゃないですか。
だからね、それもすぐ消したんです。その後、特に何も起きず1週間が
過ぎました。俺ね、夜にチェーンの居酒屋でバイトしてるんです。
その日は遅番で、片づけまで終わって店を出たのが夜中の2時半くらい
でした。原付で通ってたんです。車通りがなくなって黄信号の点滅だけに
なった道路を走ってたら、後から大音響の音楽が聞こえてきて、
400ccの大型スクーターがすごいスピードで追い越してったんです。

そのときは、ちらっとしか見えなかったけど、2人乗りで後は女。
2人ともノーヘルだと思いました。で、そのスクーター、
前の交差点をほとんど速度を落とさず左折して、俺が交差点まで
近づいたときに、曲がってったほうの道からドガッシャンって
派手な音がしたんです。「ああ、やりやがった」って思いました。
俺は本来そっちには行かないんだけど、さすがにほっておけないじゃ
ないですか。横道に入ると、30mほど先でスクーターが道の脇の
ガードレールに突っ込んで倒れてました。近寄ってくと、
女のほうが目を開けたまま仰向けに倒れて痙攣してたんです。
頭の下に血が広がって、もうすでに水たまりみたくなってました。
運転してた男のほうは、ガードレールの上に体が乗っかってて、

顔は街路樹の下の植え込みに突っ込んで表情とかわからなかったけど、
ピクリとも動きませんでした。スマホを出して警察に通報しました。
そしたら、申し訳ないが話を聞きたいからその場にいてくれって言われて。
そこはビル街だったから、かなり大きな音がしたけど、
野次馬とかは出てこなかったです。警察を待ってる間、救護とかは
しませんでした。後続車が来る様子はなかったし、下手に素人が動かすのは
よくないと思ったんで。ただ、もしかして俺が疑われるんじゃないか
とは考えました。それで、少し離れたとこから現場の写真を撮ったんです。
警察と救急車は5分くらいで来て、救急隊員は2人に呼びかけたり
してましたが答えず、テキパキと救急車に乗せて搬送していきました。
俺は警察に事情を聞かれて、起きたことをそのまま答えたんです。

2人乗りのスクーターが曲がってってすごい音がしたんで、
見たら事故ってたって。スピードを出してた話もしました。そんときに
警官が俺の原付も見てたんで、ああやっぱ疑われてるんだと思ったけど、
別に傷とかついてないし。それで、写真撮ったって話もしたら、
見せてくれって言われました。それから、この画像は消さないで、後日
もっと詳しい話を聞くときに持ってきてくれって言われ、免許証を確認されて
放免されたんです。俺としては人助けしたつもりだったけど、
やっぱこうなるんだなあって思いました。翌日、警察から連絡があって
わざわざ警察署まで行って話をしました。事故の目撃者っていうていねいな
あつかいでしたよ。まあ、向こうもプロだから、事故車が勝手に転んだんだって
わかったんでしょう。このとき、スクーターの2人はどっちも亡くなったって

知らされたんです。それと、俺が撮った現場の画像をコピーさせてくれ
って言われました。そんときはその画像もなんともなかったんですが・・・
部屋に戻ってきて、嫌な画像だから削除しようとしたら、
何か変なんですよ。現場には誰もいなかったのに、倒れてる女の前に
たくさん黒い影がある。前の電車のときと同じです。ただ、電車のは頭だけ
だったのが、立ってる人の全身が写ってて10人近くいました。
それと、その中に黒くない人が一人だけいたんです。女でした。
黒い人の集団から頭だけ出てて俺のほうを見てたんですが、
その顔・・・あの電車に飛び込んだ人だと思ったんです。そりゃあ
あのとき見たのは一瞬だけだったから、違うかもしれないけど・・・
「何だよこれ」完全にブルっちゃってすぐ削除したんです。

また次の朝です。スマホのアラームが鳴って・・・もうわかりますよね。
待ち受け画面がその画像になってたんですよ。
黒い人がいるのは同じで、電車に飛び込んだ女がいるのも同じなんだけど、
その他に、顔がわかる人が2人増えてたんです。若い男女で、
俺はちゃんと見てなかったけど、スクーターの2人じゃないかと
思いました。3人とも真っ白い顔の無表情で、ただ黒い人垣の中から
頭を出して俺を見つめてる。当然すぐ削除したんですけど、翌朝になったら
また待ち受け画面に出てるんです。これ、どうすればいいんですか。
俺、呪われたかなんかしたんですかね。え、スマホはここに預けていけって、
で、俺はお祓いを受けろって・・・やっぱそうなんですね。
わかりました、何とかよろしくお願いします。






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偉い木像の話

2019.10.02 (Wed)
あ、今晩は、また来てしまいました。引退した骨董屋です。
つい最近、新しい話があったのでご報告をしようと思いまして。
私が昔、少し世話をしたことのある後輩の骨董屋から話が持ち込まれて
きました。「この間、ちょっと変わった木像を買い取ったんですが、
 値打ちがよくわからない。それと、なんだか不気味なところもある。
 先輩がそういったことに詳しいのはよく知ってるので、
 鑑定してもらえないか」こういうことだったので、
二つ返事で引き受けました。まあ、その後輩もね、なかなかの目利き
なんですよ。簡単にまがい物、いわくつきの物をつかまされるような
人間じゃない。それが、よくわからないって言うんだから
興味を持ちましてね。2日後、私の家に後輩がやってきました。

ケースから出したのは、20cmに満たないような小さな木彫りの像。
もっと大きいものだと思ってたので、ちよっと意外でした。
仏像・・・のようでもありますが、何の仏なのかわからない。
彫刻刀で木目が浮き出るように、正座姿が荒々しく彫られていて、
像の頭は髪の毛が火炎のように盛り上がり、顔は憤怒の形相。
でも、不動明王にしてはちょっとおかしい。木の黒ずみ具合などから、
古いものであることはわかりました。おそらく江戸中期以前。
まあ、私に鑑定できるのはそのくらいでしたので、後輩に、
その像が手に入ったいきさつを聞いてみました。1週間ばかり前、
70歳を過ぎた老人が店に売りに来たということです。
自分は分家だが、その像は本家で長く家宝にしていたもので、

宮本武蔵が彫ったという伝えがあると言っていたそうです。
さすがにまさかと思いますよね。宮本武蔵は江戸初期の剣術家ですが、
画家、細工師としての顔も持っています。ただ、その生涯は伝説に
いろどられていて、どこまでが史実なのかはっきりしません。
生まれた土地がどこなのかもよくわからないんです。
たしかに、武蔵作の水墨画や馬の鞍などがありますが、
木彫で明らかな武蔵の作品というのは残ってないんです。
ですから、比較のしようもありません。「その爺さんはどう言ってたの?」
重ねて後輩に聞くと、「爺さんの本家は九州の田舎の名主を務めた
 古い家柄だったが、その家に宮本武蔵が泊まったときに、礼として
 残していったものという話でした。それから長く家宝として

 大切にしていた。でもね、その本家、昭和の初期に絶えてしまったと
 言うんです。地震のときに山津波が起きて屋敷がのみ込まれ、
 使用人ともども全滅した。どうしようもないので屋敷は掘り返さず、
 遺体のない状態で葬式を出した。でね、屋敷の瓦屋根の上部だけが
 かろうじて土から出ていて、その突端に、普段は床の間に飾っていたはずの
 この像が、ちょこんと乗っかってたのが見つかったということでした」
「妙な話だねえ、まさか像が一人で逃げ出したってわけでもないだろうが」
「それでね、分家筋の代表だった爺さんが譲り受けたんですが、
 もう爺さん、齢で長くはないだろうから、価値のわかる人に
 保管してほしいってことで、店に持ってきたみたいなんです」
「うーん、お前さんはこの像、どう思うんだ」 「宮本武蔵はさすがに

 眉唾でしょうけど、力を感じさせる彫りで、名品と言っていいと思います。    
 ただね、見つめていると、なんというか背筋がぞくぞくする感じが
 するんですよ。それで、こういうことにお詳しい先輩に見ていただこうと
 思って」 「話はまあわかった。どのくらいのことが鑑定できるか
 何とも言えんが、調べてはみるよ」ということで、その像を預かりました。
私は引退してもう店はないので、2階の仏間の箪笥の上にあげておいたんです。
それから、奇妙な出来事が連続して起こりました。像が来て2日後ですね。
ほら、私は家内を早くに亡くしてるでしょう。毎朝、仏壇にお線香と
お水をあげにいくんです。そのとき、箪笥の上の像を見たら、
その前に何か小さい黒いものがある。「え?」と思ってみると、
それが動いたんです。全体が墨の色でしたが、昔の装束、

衣冠束帯をつけた5cmくらいの人物だったんです。烏帽子も被ってました。
その小さい人物は、像に向かって平伏し、何度もお辞儀をくり返してましたが、
それが終わると、ふわっと浮かんで空中を泳ぎ、部屋の窓に向かっていきました。
窓は閉めてたんですが、カーテンはしてなかったです。
で、ガラスにあたったと見る間に、すっと通り抜けて空に消えてったんです。
いや、不思議でしたけど、怖いとは思わなかったです。
そのくらいの経験なら何度もしてますからね。むしろ、これからどうなるのか、
興味津々でした。でね、翌朝も似たようなことが起きたんです。
ただ、像の前に平伏してる人数が増えてました。5人はいたと思います。
やはり真っ黒な影の人物が並んで正座し、頭を擦りつけるような深いお辞儀を
何度もしてから、窓に向かって飛び立って消える。

どういうことなのかはさっぱりわかりませんでしたが、「ああ、この像は
 偉いんだな」とは思いました。それから、日に日に小さい人の
 人数が増えていき、最終的には20人ほどになりました。
で、お辞儀が終わると全員が立ち上がり「わーっ」と ときの声のようなのを
あげてから消えたんです。それでいったんは収まったんですが、
また3日くらいして、やはり朝、仏間に行くと、今度は像の前に蛇がいたんです。
といっても本物じゃなくて、おもちゃの蛇です。ほら、昔の玩具で
竹を短く切ったのをつないで、カクカク曲がるようにした蛇って
あるじゃないですか。あれがトグロを巻いてました。でね、やっぱり
像に向かって何度も頭を下げてたんです。私が一歩そちらに近づくと、
蛇はふり向いてこちらを見、箪笥の下に落ちて部屋の隅に向かって消えたんです。

うーん、よくわからないですが、黒い小人や竹蛇は、像に何かをお願いしに
来てるんじゃないかと思いました。でも、像そのものはそれほど悪いものだとは
感じなかったんですが・・・ また3日ほどたって、その日、像の前にいたのは
不気味なものでした。高さ10cmくらいの寒天です。四角くてぐにゃぐにゃした。
しかも色がどす赤い血の色で、よく見ると寒天の内部に目玉が一つ
浮かんでたんです。「うわ、気味が悪い」と思いました。そのとき、
頭の中に声が響いてきたんです。「何とぞ何とぞお願いいたす。つきましては、
 チロを贄として差し上げ申そう」おそらく赤い寒天の言葉です。
そして寒天はゴムのような体を2つに折り曲げるようにしてお辞儀をし、
どろっと溶けたんです。走って近寄ってみましたが、液体などはこぼれて
ませんでした。寒天が言ったことの意味は、このときはわからなかったんですが・・・

翌日、隣家の奥さんとたまたま玄関先でお会いしたとき、ひどく憔悴してたので
理由を聞くと、飼っていた室内犬のチワワが昨晩急に亡くなったということでした。
まだ4歳で寿命ではないし、病気でもなかったのに、姿が見えなくなって
さがしたら、カーテンの陰で内蔵を吐き出して死んでいた。
そのときに聞いた犬の名前が「チロ」。あっと思いました。
昨日、贄と言ってたのはこのことだったのか。犬とはいえ、そうやって
簡単に死なせてしまうのはただごとではないですよね。ですから、
その像は悪いものだと判断しました。後輩を呼んであったことを話し、
像は、私が懇意にしているお祓い専門の神社でお焚き上げしてもらうことに
したんです。そこでもね、像は燃やされるのにかなり抵抗したようですが、
詳しいことは聞いてないです。まあ、こんな話ですよ。

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虹の神様の話

2019.09.29 (Sun)
あ、どうも今晩は。私は永沢と申しまして、電力関連会社の海外事業部に
勤務しております。さっそく話を始めますが、もしかしたら本当に
あったこととは信じてもらえないかもしれません。
なんというか、全体がファンタジー小説みたいな内容ですから。
それに、怖いかといえば、それほど怖いというわけでもない。
でも、実際にあったことなんです。あ、スミマセン、前置きはこれくらいに
しておきます。私ね、子どもの頃、喘息だったんです。
今思えば、アトピーからきてるものだったんでしょうけど、
当時の医者はよくわかってなくて。いったん咳が始まると、
ほんとに死ぬんじゃないかと思うくらい苦しい。東京で生まれたので、
父親は空気が悪いからだろうって言って、小学生のときは

ずっとマスクをつけさせられてたんです。今でこそ、マスク姿は
珍しくないけど、当時は恥ずかしかったですよ。それでも、
大きな発作は年に何回か程度でしたけど。あ、ここからの話は、
詳しい地名などはふせさせていただきます。迷惑がかかるかもしれませんから。
ええと、小学校2年のときからかな、なるべく東京から離れたほうが
いいだろうってことで、夏休みはほぼずっと、沖縄のある島に
長期滞在してたんです。いや、うちは特に裕福なほうではなかったです。
父は普通の会社員でしたし。父の兄、私にとっては伯父さんにあたる人が、
当時沖縄に住んでまして、そこに行ってたんです。
その人、会社員だったんですが、趣味のスキューバダイビングが高じて、
脱サラで家族ともども沖縄に移住してしまったんです。

向こうで、ダイビングと釣りのショップを開き、ダイビングのインストラクター
も始めました。父とは似てなくて、背が高く筋骨隆々でした。
まだ存命で、今でもその面影は残ってます。
沖縄での生活は楽しかったですよ。海はきれいだし、暑いといっても
私には東京のほうがむし暑く感じられました。ただ、この沖縄滞在は、
小学4年生、10歳のときに終わってしまったんです。
そのいきさつも不思議で。伯父さんの家族は、奥さんと娘さんが一人。
娘さんは私より2つ年上の小学6年生でした。名前を岬さんと言ったんですが、
もう亡くなってしまってるんです。奥さんは優しかったんですけど、
岬さんはすごく性格がきつくて、私からすればこわいお姉さんって感じでした。
学校の宿題は全部向こうに持ってってましたから、

それを教えてもらうときなんか特にね。でもほら、お互いに一人っ子だから、
毎年私が来るのを楽しみにしてくれてたそうです。あ、スミマセン、
話がなかなか前に進まなくて。その日は8月の終わりに近く、
もうすぐ夏休みが終わって東京に戻らなくちゃならない時期でした。
伯父さんのモーターボートで、岬さんと2人、無人島に連れてってもらったんです。
伯父さんは新たなダイビングスポットを開発するつもりだったんでしょう。
島に着くとすぐアクアラングをつけて潜っちゃって。
私と岬さんはずっと磯で遊んでました。いや、危険なことはなかったです。
ずっとサンゴ礁が続く遠浅で、膝くらいの深さのところに
色とりどりの魚がいました。2人でそれらをすくったりしてたんですが、
ケンカしちゃったんです。原因が何だったかとかは覚えてないです。

それで別行動になりまして、私が海沿いの岩場を歩いてると、波打ち際に
丸い青いものが浮かんでたんです。そのときは生き物だとは思わなかったですね。
人工物のような青さでしたから。フリスビーか何かじゃないかって。
けど、下りていくと、かなり大きいものだってわかりました。
直径が1mくらいでタライのように漂ってる。手で触れるとこまで近づきました。
青い表面が水から出てたんで、指で触ってみると柔らかかったんです。
うーん、何というか、ごく細かい青い砂を大きなお盆に敷きつめた感じで、
なぞったとおりに白く跡がついたんです。面白かったんで、
自分の名前なんかを書いてみました。そのときはピクリとも動かなかったん
ですけど。背後で「あっ!」という岬さんの声が聞こえました。
続けて「ダメ! それ神様だよ」驚いてふり向くと、岬さんがすごい勢いで

走ってきて、私のシャツの背中をつかんで引っぱったんです。
そのとき、その丸いものがギラッと輝き、一瞬で鏡面に変わったんです。
私と岬さんの顔がはっきり映りました。同時に、鏡のまわりから何本も
触手が水面上に出てきました。蛸の足のようなのではなく、
クラゲのヒレに近い形でした。それは触手をウネウネと動かし、
ギラギラ光る鏡面のまま、すっと波打ち際を離れ、10mほど沖に出て
海に潜っていったんです。「今の何?」私が聞くと、岬さんは、
「ヌージヌウカミ、虹の神様って意味。前にも見たけど、お父さんから
 さわっちゃいけないものだって言われた」こんな答えが返ってきました。
そのうちに伯父さんが海から上がってきたので、持ってきた弁当を食べて
帰ったんですが、私も岬さんもその話はしなかったです。

いや、あれが生き物だとは思えませんでした。鏡みたいに光る生物なんて
いないですよね。当時はネットなんてなかったんで、図鑑で調べてみたけど、
もちろん載ってなかったです。でね、ずっと後年になって、この神様とは
再会することになるんです。翌年から、沖縄には行けなくなりました。
伯父さんが店を畳んで本土に戻ったからです。店をやめた理由は、岬さんが
亡くなったため。小児性白血病という病気で、中学生になったばかりでした。
ここから話は一気に飛びます。私は工科大学を出て、最初に話したように
電力関連会社に就職したんです。入社して3年目くらいから海外事業部に
配属になり、それからはずっと東南アジアを中心に海外出張をしてます。
で、2004年のことです。この年に起きた大きな出来事というと、
マグニチュード9.3と言われたスマトラ島沖地震です。

あのとき、私はタイのビーチのリゾートマンションの配線工事を
担当してました。朝、出勤の途中でした。あの地震と、
その後の津波に遭遇したんです。海が高く高くビルのように盛り上がって、
あっという間に波にのまれました。いや、あれほどの津波が来るとは、
地震の後、誰も考えてませんでしたよ。
タイでの死者は5000人以上、有名ビーチを直撃したので、
その中には外国からの観光客も多く含まれてました。
私はすぐに気を失って、どのくらい時間がたったか・・・
ふっと気がつくと、瓦礫が積み重なった上に
仰向けに寝てたんです。体はまったく動きませんでした。
瓦礫の下1mまで海水がきてて、ぼんやりとそこに目を向けていると、

泥色の水から、青いものが浮き上がってきたんです。
何かはわかりませんでしたが、前にこれ、見たことがある。
そのとき、その青色に字が浮き上がったんです。
私の名前でした。あ、これ、自分で書いたものだ・・・あの日、沖縄の島で。
それから急に光りだして、青色が鏡に変わりました。
最初は灰色の空を映してるだけだったんですが、
人が2人浮かんできました。子どもの頃の私と岬さんです。やがてそれは、
私たちの姿を映したまま沈んでいったんです。救助されたのは
まる1日後です。その間に、いろいろなことを思い出しましたよ。
虹の神様という言葉もね。神様が助けてくれた?
・・・そうなのかもしれませんが、違うような気がするんです。

現地の病院で、体が動かないのはひどい貧血状態になってるからだって
わかったんです。どこにも大きな傷はないのに、体内のかなりの血液が
失われてるって。いやまあね、極限状態で幻覚を見たんだろうと
言われれば反論できませんし、貧血になったのも説明は
つかないこともないでしょう。まあ、こんな話なんです。これも後になって、
岬さんの墓参りで伯父さんと会ったときにこの話はしました。
伯父さんは首を振り、「あれはよくないものだと言われてる。
 海で見つけても誰も近づかない」って。
それからは一度も見てませんね、海にもできるだけ行かない
ようにしてます。だって海はつながってるし、
またいつどこで出会うかわかりませんから。






自殺者が見える話

2019.09.26 (Thu)
今回は、自分のところに日々集まってくる怪異体験談の中から、
「霊が見える」ことについての話をご紹介したいと思います。
ところで、霊などが見えることを「霊能力」と言ったりしますが、
これは生まれつきのものなんでしょうか。人間の肉体に「霊を見る」
ための感覚器のようなものがあるとしたら、それは遺伝子解析で
わかるはずです。現在、目や髪の色を決める遺伝子、知能や
運動神経に関係した遺伝子などが、どんどん見つかってますよね。
それとも、霊が見えるかどうかは遺伝子とは関係なく、「魂」に
よることなんでしょうか。あと、修業によって見えるようになるとも
言いますし、逆に齢を重ねると見えなくなるという話もあります。
また、頭を打ったのがきっかけで見えるようになったケースも・・・

市立病院勤務 看護師Gさんの話
この方は、今は珍しくなくなった男性看護師をされています。
知人の紹介で、東京都内の喫茶店でお話をうかがいました。
「そうですね、自分が「見える」と気がついたのは、看護大学に
 入学してからです、高校卒業後ってことですね」
「それまではまったく見えなかった?」 「いえ、たぶんそうじゃないと
 思うんです。見る機会がなかった、あるいは見てもそれが
 霊だとは気がつかなかったんだと思います」 「どういうこと?」
「高校まではチャリ通だったのが、看護大学に通うには電車通学を
 しなきゃいけないので、駅を利用しますよね」 「それが?」
「駅のホームって、飛び込み自殺がありますよね」 「ああ」
「その人たちが見えるんです」 「うーん、自殺者だから見えるって

 ことですか」 「そうだと思います。自然死やふつうの事故死で
 亡くなった人を見たことは1度もありません。ほら、僕は大きな病院の
 入院病棟に勤務してますから、ひと月に何人もの患者さんが亡くなって、
 中には臨終に立ち会う場合もあります。そういった患者さんの中には、
 小さいお子さんを遺してたり、やり残した仕事があって、
 最後まで死になくない、生きたいって言われる方もおられるんですが、
 霊になって現れたことはありません」 「この世への未練は関係ないと?」
「そうじゃないかと思います」 「どんなふうに見えるんです?」
「山手線の○○駅ってありますでしょ。自殺者が多いって話題になる」
「ああ、自分もたまたま現場に遭遇したことがあります」
「あそこの○番ホームだと、今は50体くらいの霊がいますね」

「どこに見えるんですか?」 「それがね、ホームの突端のところ、
 線路の上3mくらいの空中に、みなさん整然と並んでおられて」
「うーん、鉄道自殺だと、大きく跳ね飛ばされたり、あるいは車輪の
 下に巻き込まれたりと、亡くなる場所というか、位置が違うと思うんですが」
「そういうこととは関係なく、同じ場所に浮かんでるんです。
 最初は怖かったんですが、毎日見てればだんだん慣れてきますよね。
 それで、よく観察してみたんです。そしたら、みなさん、
 同じ方角を向いてるんですよ」 「ほう」 「西ですね」
「それは興味深い話ですね。仏教では西方浄土って言いますけど、関係が
 あるんでしょうか?」 「わからないですが、東京だとお寺とほとんど
 関係のない生活をしてる人が多いですよね」 「その霊たちはどんな

 様子なんです? 飛び込み自殺だと、体が細切れになるって話もありますが」
「いや、みなさんケガ一つしてないです。ちゃんと服も着てます。
 たぶん、その自殺当日の服装なんだと思います。男性のサラリーマンに
 見える方が多いですね。40代後半から50代前半くらいの。
 リストラとか、そうじゃなくても人生に疲れてくる年代なんでしょうか。
 女の人もいますけど、少ないです」 「その人たちは動かないんですか?」
「まったく動かないです。宙空に貼りついたようになってますね。
 これははっきりはわからないんですが、移動できないんだろうと思います。
 あと、霊どうしで話をしたりもしません」 「不思議ですね、何のために
 そこにいるんでしょう?」 「わからないですが、ネットでいろいろ調べた
 ところでは、一種の罰と書いてあるホームページがありましたね」

「罰?」 「はい、何でも自殺は霊の世界の法則で禁じられているため、
 浄化されるっていうのか、別の世界へ旅立つのか、そのあたりは僕には
 わかりませんが、その時期が極端に遅くなるんだって出てました」
「ああ、そういうことを書いてるスピリチュアル系のサイトはありますね。
 霊の顔の表情とかはどうです」 「徹底した無表情です。苦しんでるとか、
 涙を流してるとか、そういうことはありません」
「なるほどねえ、ただ自殺の罪が赦されるのを待ってるってことなのかな。
 先ほど、50体くらいの霊が見えるって言われましたが、
 いなくなってることもあるんですか」 「僕がその駅を利用するように
 なってから6年くらいたつんですが、その場所から消えた霊が
 4体あると思います。まあでも、新たな自殺者のほうが多いので、

 増えるいっぽうなんですけど」 「ははあ、その消えた霊は古いからって
 ことなんでしょうか?」 「わかりません。そのあたりは調べれば
 わかるのかもしれませんが、やってないです」 「いや、貴重なお話ですねえ。
 あ、そうだ、Gさん以外にそれらの霊が見えるって人に会われたことは?」
「そういう人はいると思います。朝、僕と同じ時間の電車に乗る年配の女性が、
 霊たちがいるほうを見てることが多いんです。
 たぶん見えてるんじゃないかと」 「話をしたことはないんですね」
「はい。ことがことですから、違ってたら大変だし。あとね、一度だけ、
 袈裟を着たお坊さんが、霊の集団に向かって拝んでるのを見たこともあります」
「ははあ」 「それとね、電車の運転士にも見える人がいるのかもしれません。
 ほら、山手線の電車って前面の窓が大きいのが多いでしょう。

 たまに、顔をしかめながら霊の集団に突っ込んでいく運転士さんが見える
 こともあるんです」 「うわ、それは嫌でしょうね。いや、どうも、
 本日はありがとうございました。鉄道以外で自殺者の霊を見たことは
 ないんですよね」 「それが・・・じつは、僕が勤務してる病院にも
 一体だけいるんです」 「それも自殺者?」 「おそらくそうだと思いますが、
 はっきりはしません、昔は病院での自殺は多かったって聞きます。末期癌を
 告知された人が、高階の窓から飛び降りるなどのことがあったみたいですが、
 今は病院内でというのはまず聞かないです。告知や余命宣告には気を遣いますし、
 心療内科や精神科の先生が医療チームに加わってます。警備員も常駐してるし、
 何よりも、病院の窓は一定範囲にしか開かなくなりました」
「じゃあ、だいぶ古い自殺者ってことですね」 「ええ」

「どこに見えるんです?」 「診療棟の2階の窓の外です」 「かなりの高さの
 とこにいるんですね。どうしてそこなんでしょう?」
「これは推測ですが、その霊がいる窓の内側は呼吸器内科の診察室に
 なってるんです。改築前も同じだったそうですが、たぶんそこで
 病名の宣告か、余命の告知を受けた人なんじゃないかと」
「ははあ」 「その霊、駅で見てる霊たちとは違って動けるんです。
 ときどき、窓に近寄ってぴったりガラスに顔をくっつけてることがあります」
「うーん」 「その霊が窓に近づいてるのは、決まって、今は内科部長になってる
 Y先生の診察のときなんです。僕ね、1回だけ、建物の中からその霊の顔を
 見たことがあるんですけど、ものすごい形相でY先生の背中を睨んでました。
 事情はわかりませんが、怨霊とかになっているのかもしれません」 

キャプチャ


 

透明なモノの話

2019.09.23 (Mon)
あれは僕が小学校5年生のときです。あ、話を始める前に、
うちの家族を紹介しておいたほうがいいですよね。
父と母と僕、1歳になった弟です。その2年前まではおばあちゃん、
父の母親がいたんだけど、病気で亡くなってました。
おじいちゃんは、僕がまだ幼稚園の頃に亡くなったはずです。
それでこの話、そのおばあちゃんのことと関係があるんですが、
いまだにどういう意味だったのかよくわからないんです。だから、
ここのみなさんがもし何かわかるのなら、ぜひ教えてほしいと思って。
話の始まりは弟なんです。当時1歳だからもう歩けるんだけど、
まだよくしゃべれなませんでした。うちは祖父が建てた一軒家で、
そこにそのまま住んでたんですが、部屋数もけっこうありましたね。

それで、その弟が、母親が目を離すとすぐに、1階の一番奥にある
仏間に入っていくんです、襖2枚の引き戸なんだけど、それを自分で開けて。
そこは元おばあちゃんの部屋で、おばあちゃんはそこで亡くなったんです。
朝、起きてこなくて、母が見にいったらもう冷たくなってたっていう。
はい、その前日まで表の草とりとかしてたので、ピンピンコロリってことです。
両親とも、亡くなるならおばあちゃんみたいにしたいって言ってましたね。
で、そのときは部屋は誰も使ってなくて、仏壇にはおじいちゃんと
おばあちゃんの遺影が仲よく並んでたのを覚えてます。
え、仏壇の扉? いつも開いてたと思います。朝に母親がお水をお供えし
お線香をあげて、それからずっと。でね、母親が料理とかしてて、
弟の姿が見えないと、僕に探してきてって言いつけまして。

またおばあちゃんの部屋だろうと思って見にいくと、やっぱりいて、
部屋の真ん中に座ってるんです。おばあちゃんの使ってたタンスとかは
もう片づけてたので、仏壇以外に何もない部屋なんですよ。
今考えれば、赤ちゃんの興味を引くものなんてないと思うんだけど、
弟は仏壇に背を向ける格好で、部屋の隅を見てたんです。
いつもすごい上機嫌でした。にこにこ笑いながらじっと何もないところを
見てて、僕が抱き上げてつれてこうとすると嫌がったんです。
不思議でしょう。仏壇のほうを見てるならわからなくもないけど。
それでね、「ここに何かあるの」とか言いながら、弟の視線の先の空間に
手をかざしてみたことがあるんです。けど、当然ながら何もない・・・
ただ、1回だけそのあたりの空気が冷たい感じが

したことはありました。まあ、気のせいだろうと思ってましたけど。
でね、僕に抱っこされて部屋から出るとき、弟はいつも見てた部屋の隅に
向かって手を振ってたんです。最近、実話怪談とかを読むようになったんですけど、
赤ちゃんのときって、大人に見えないものが見えたりすることが
あるみたいなんですよね・・・ それで、僕が夏休み中のことだったと思います。
弟は1歳半を過ぎて、片言だけど少ししゃべれるようになってました。
その日の夕食前です。7時くらいかな。母親がちょっと目を離したすきに
やっぱり弟がいなくなって、「またおばあちゃんの部屋だから見てきて」
って母親に言われました。行ってみると、部屋の襖は少し開いてて、
けど、そんな時間だから中は真っ暗で、さすがにいないだろと思ったんです。
暗いとこは怖がってましたし。いちおう入って電気のひもを引っぱると、

部屋の隅に弟がいたんです。すごく不自然な姿でした。
足は畳についてるのに体は斜めになってて、まるで見えない大きな
ボールとかがあって、それにもたれてるような格好だったんです。
「え!?」弟はうっとりした顔で目を閉じてましたが、眠ってないのは
わかりました。「どういうこと?」そう言いながら近づいて弟を抱き上げたとき、
弟がもたれていた空間にぼよんとした感触を感じたんです。うまく説明
できないけど、パンパンにふくらましたゴム風船を押したような感じ。
「わっ」びっくりして弟を抱えたまま後ろに退がると、
弟が目を開けて「うーっ」とうなったんです。
それから、むちゃくちゃに手足を振り回して暴れ出しました。
顔を引っかかれて手を離しそうになったとき、後ろの仏壇のほうで

カタンという音がしたんです。弟を抱えたまま体ごとふり向くと、
おばあちゃんの遺影が下の畳に落ちてました。暴れてた弟の体から急に力が
抜けてくたっとなったんで、小走りで居間に戻り、テレビを見てた父に
今起きたことを話したんですよ。父は、何をバカなみたいな顔をしてましたが、
機嫌がよくなってる弟を抱き上げると、仏間を見にいったんです。
僕がおそるおそる後をついてくと、電気がついたままの部屋に入って、
「何もないぞ、けど、写真は落ちてるな。これでびっくりしたんだろ、
 もうすぐ6年生なのに怖がりだな」そう言っておばあちゃんの写真を
もとに戻し、部屋の電気を消しました。それから居間に戻ったんですが、
父に抱かれながら、弟が誰もいない暗い仏間の中に向かって
やっぱりバイバイをしたんです。

それで次の日、父が仕事に出た後に、母にその話をしました。
母は真面目に聞いてくれて「うーん、何か変なものがいるとは思えないけど、
 あの部屋はチャッカマンとかもあるし、入れないようにしようか」
それで、僕と弟を連れて近くのホムセンに行き、店員さんに話をして、
襖にはさんで開かなくする金具を買ったんです。それだと弟は
手が届かないから開けられない。母親は、さっき言ったように毎朝、
仏壇にお供えをするのは続けてましたけども。それからしばらくは何事も
起きませんでした。不思議なことに、金具がついてから、
弟は仏間に行こうとしなくなったんです。ただ・・・一度だけ、
母がこんなことを言ってました。「仏壇のお水がすごく減る。
 夏だからかもしれないけど、茶碗半分も蒸発するものかな。

 おばあちゃん、もしかしてのどが渇いてるのかな」って。
それから10日くらいして、夏休みがもうすぐ終わるってときです。
僕は宿題を溜めてしまってたので、12時頃までそれやってました。
僕の部屋は2階にあるんだけど、トイレに降りてきたときに、
パン、パンという下敷きで机を叩くような音が、かすかに聞こえたんです。
廊下の突きあたりの仏間のほうからです。気味が悪かったけど
こわごわ近づいていくと、襖の引き戸がパンという音がするたびに
少しふくらんだんです。部屋の中から何かが戸にあたってるんだと
思いました。そのとき僕の頭の中に、大きな柔らかいボールが
仏間の中を飛んでるイメージが浮かんできたんです。
もちろん開けて確かめたりはしないで、自分の部屋に戻りました。

夏休みが終わってからですね。あるとき、夕食中に弟が食べたものを
吐いたんです。具合が悪そうで、でも、はかっても熱はなかったので、
明日の朝になっても調子悪ければ病院に連れていこうってことで、
1階にある両親の寝室に寝かせました。その夜の2時過ぎです。
階下が騒がしくて目を覚ましたんです。両親が何か大声を出してる。
寝ぼけながらも階段を降りていくと、2人が仏間の前にいて、
必死で戸を開けようとしてたんです。「どうしたの!?」
という僕の問いに答えず、父は両手で襖を外して中に走り込み、
電気をつけたんです。あのいつもの部屋の隅で、弟がうつ伏せに浮いてました。
いえ、うっすら水色の透明な直径1mくらいのボールがあって、
弟がその上に乗ってたんです。両親は駆け寄ろうしたんですが、

どういうわけか部屋の隅に行けない。僕も近くまでいくとボヨンと
撥ねつけられたんです。透明な壁みたいなのがあって、そこだけ遮られてる
っていうか。そうしてるうち、弟の体が顔からボールにめり込み始めたんです。
微生物が他の小さい微生物をとり込むみたいに。「あ、あ、あ」母が声を上げ、
弟の体が半分までボールの中に沈んだとき、奥のところにもう一つ何かが
浮き出てきたんです。・・・おばあちゃんでした。おばあちゃんは白黒で、
生きてたとき座ってお茶を飲んでるときのポーズで顔をかがめ、ボールに口を
つけて吸い始めました・・・どのくらい時間がたったか。いつのまにか
ボールとおばあちゃんの姿のどっちも消え、弟がうつ伏せに倒れてました。
父が踏み込むと中に入れ、抱き上げることができたんですよ。あれから4年たって、
弟は5歳になりましたが、当然というか、当時のことは何も覚えてません。