FC2ブログ

家の鍵の話

2019.06.24 (Mon)
今晩は、じゃあ話をしていきます。これ、私が小学校6年生のときの
出来事なんです。ですから、もしかしたら子どもの空想とか、
勘違いが入っているのかもしれません。実際、そう考えないと
説明がつかない奇妙な内容なんです。あの日は秋で、
学校で全校PTAがあるため、全校が2時ころに終わったんです。
それで5時間目が授業参観で、お母さんが来てくれていました。
といっても、うちは妹が同じ小学校の4年生にいるので、
お母さんは半々に出てくれてたんです。妹が入学してきてからは
いつもそうでした。その後、PTAは全体会と学級懇談があるんですが、
その前に生徒は放課になります。帰ろうとして教室を出たとき、
お母さんが妹を連れてやってきて、

「ああ、あんた先に帰っちゃうんじゃないかと思ったけど、よかった。
 うちに誰もいなくなるから、あんたたちに家の鍵を預けてく」
お母さんはその頃、週に何日かスーパーのパートをやってましたが、
私たちが家に帰る頃には終わってて、鍵を預けられることって
あんまりなかったんです。ただ、前にあったPTAでもそうしました。
お母さんが「ここに入れておくよ」そう言って、妹のランドセルを開け、
中のジッパーがついたところに家の鍵を入れました。
普通の鍵なんですが、紫色の曲がった石のキーホルダーが
ついてました。今考えれば、それ、勾玉というものだったんですね。
それで、妹といっしょに帰ることになったんですが、
ふだんはまずしないことでした。4年生と6年生では終わる時間が

違うことが多いし、同じに終わっても、それぞれ友だちと帰るんです。
それと、私は妹ととあんまり仲がよくなかったんです。
年が近いせいだと思いますが、姉妹ケンカが多かったんです。
私から言わせれば、ケンカの原因は妹のせいがほとんどだったんですが、
それでいつも怒られるのは私のほうで。だから、あんまり妹が
好きじゃなかったんです。性格は、妹のほうが私より気が強かったです。
私はどっちかというと引っ込み思案だったのに、妹は何でもやりたがる
好奇心の強い子でした。あ、すみません、こんなこと興味ないですよね。
それで、いつもの通学路を妹と歩いてたんですが、
あんまり会話はなかったです。私たちの家は学区の外れのほうにあって、
子どもの足だと20分少しくらいかかりました。

妹が先を歩いてて、私が後をついていく形でしたが、ふっと妹が
立ち止まって横手のほうを指差し、「あ、お姉ちゃん、明かりがついてる」
と言いました。住宅街なんですが、そこだけ少し木があって、
奥に小さな神社があったんです。毎日その前を通ってましたが、
お参りしたことはなかったです。見ると、たしかに参道の向こうで、
ロウソクのような明かりがたくさん揺らめいてました。
「ね、お姉ちゃん、何かお祭りかもしれないから、見に行こうよ」
妹がそう言い、「道草になるよ」私はそう答えたんですが、
もう妹は走り出して鳥居をくぐっちゃったんです。私もついていきましたけど、
内心では面白そうだと思ってたんです。でも、短い参道の先にある社殿は、
固く扉がしまっていて、私たちの他に参拝する人もいませんでした。

「あれ、おかしいなあ。ロウソクがたくさんあるように見えたけど」
でも、何もないので、ガランガラン鈴だけ鳴らしてから道に戻ろうとしたら、
ふっと、おみくじやお守りを売る建物の陰から、白い着物を着た女の人が
出てきたんです。その人は私たちに、「今、これ落としましたよ」と言って、
指先につまんだものを見せたんです。家の鍵だと思いました。
勾玉のキーホルダーがついてましたから。「あ、スミマセン、ありがとう
 ございます」そう言って私が受け取り、お礼を言うと、
その人はにっこり笑ってまた建物の後ろに回っていったんですが・・・
「あんた、落としたんでしょ」と妹には言ったものの、
さっきはたしかにチャックのついた中に入れてたし・・・
それと、私が手にした鍵の勾玉の色がなんとなく違って見えたんです。

紫色というのは同じなんですが、微妙に色合いが違うというか。
でも、そのときは気のせいだと思いました。通学路に出て神社のほうを見ても、
もうロウソクのような光はありませんでした。それと、妹が変なことを
言ったんです。「お姉ちゃん、今の女の人、お母さんにすごく似てる
 と思わなかった?」って。「え?」でも、私には似てたとは思えませんでした。
色が白くて目が細い、あんまり特徴のない顔。それに齢もお母さんより
若いように感じたんです。だから「似てなかったよ」って一言答えただけでした。
それから10分ほどで家について、私が持ってたさっきの鍵で
玄関を開けました。はい、ふつうにすんなり開きました。
だからやっぱり家の鍵なんです。それで・・・ここからちょっと
信じられないような話になっていくんです。私が先に入って、

後ろで妹がドアを閉めるガチャンという音がしました。
まず自分たちの部屋に行ってランドセルを置き、着替えるんですが、
妹がついてこなかったんです。そのときはトイレに行ったくらいに思って
たんですけど。それから、家の鍵を持って1階の居間に行きました。
なくさないようテレビ台に置いておこうと思ったんです。やっぱり、
妹の姿はありませんでした。それで、そのとき家の中が何か変なことに
気がついたんです。その・・・うまく表現できないんですが、
家の中って、木とか壁材とかいろんなものでできてますよね。
それが全部同じように思えたんです。意味がわかりますでしょうか。
すごく精巧につくってあるんだけど、もとがダンボールとかで
それに色を塗ったような感じというか。

さわってみてもどこも同じザラッとした感じで、テレビのリモコンもそれは
同じでした。スイッチを押してもテレビはつきません。
「なんか変だ」そういう考えが頭の中に広がって、妹の名前を呼びましたが
返事はなし。玄関に走ってドアを開けようとしましたが、開かなかったんです。
どこの玄関もそうだと思いますが、中からは鍵を差し込まなくても
開きますよね。それが、釘づけされたみたいになって動かない。
それから、だんだん怖ろしいことがわかってきて・・・
裏口の戸も窓も、どれも開かなかったんです。鍵は動くんですが、
窓自体はびくともしません。それと、ベランダのガラスサッシの外は
せまい庭になってるんですが、外の景色が動かないんです。
これも、意味わかりますでしょうか。庭の草花なんかは風で動いたりしますよね。

それがずっといつまでも止まってるし、塀の外にも何も動くものはない。
「ぜったい変」とにかく妹を探そうと、名前を呼びながら家中走り回ったんです。
そしたら2階に上がったとき、「お姉ちゃん・・・」とかすかな声が聞こえ、
部屋に行ってみると、さっきは何もなかったのに、ベッドの前に妹が倒れてました。
ですがそれ、妹であって妹じゃなかったんです。すごくよくできてるんですが、
妹そっくりの人形。家の中の他のものと同じように、
もとはダンボールかなんかの。妹はもう一度「お姉ちゃん」と言うと、
そのまま動かなくなったんです。もう気が狂いそうな感じでした。
半泣きになりながらまた1階に降り、居間にある花瓶を持ちました。
それでベランダのガラスを割ろうと思ったんですが、いつもはすごく重いのに、
子どもの私が簡単に持ち上げられるほど軽くなっていました。

ベランダのサッシにぶつけても、ポコンという音がしてはね返ってくるだけ。
私は怖くて怖くて、居間の真ん中で泣き出してしまったんです。
どのくらいの時間泣いていたでしょうか。ピンポンという玄関のチャイムの
音が聞こえました。泣きながら這うようにして行ってみると、お母さんが
立っていました。お母さんは少し怒ったような顔で、「〇〇から聞いたけど、
 あんた鍵を持ったまま一人で走って帰っちゃって、玄関を閉めちゃった
 そうじゃない。それで〇〇が家に入れなくて、学校に戻って私のとこに
 来たのよ。だから学級懇談を中断して戻ってきたの」
ああ、本物のお母さんなんだと思いました。でも、ずっと泣いていて心底
疲れ切ってたので、今まで置きたことを説明する気力がありませんでした。
お母さんの後ろから、顔にニヤニヤ笑いを浮かべながら妹が出てきました。

こんな話なんです。わけがわからないと思いますので整理すると、
神社で鍵を女の人に拾ってもらったとこまでは確かなようで、
そこから私が一人で走って家に帰り、妹を閉め出した・・・お母さんは妹と
いっしょに戻ってきて、持ってたスペアの鍵で家の玄関を開けた。
そういうことになっちゃったんです。家の中のものはすべて元に戻ってて、
私が持ってきた鍵はテレビ台の上にあり、色も前と同じでした。
あと、私たちの部屋で見た妹の体は消えてしまってたんです。
その日の夜です。私と妹は2段ベッドで寝てるんですが、電気を消したとき、
妹が、「私、さっきここで死んだような気がするなあ」
そうポツリと言って、クスクス笑い出しました。このときから私は妹のことが
怖くなって、それは私が中学生になって部屋が別になるまで続いたんです。






スポンサーサイト

塀の落書きの話

2019.06.21 (Fri)
あ、どうも今晩は。スーパーのパートをやっている山脇と言います。
何から話したらいいのかなあ。うちは郊外の住宅街にあるんですけど、
その3軒隣の山田さんの家のことなんですよ。
地方都市ですから、どこの家も敷地が広くて高い塀をめぐらしてます。
山田さんのご主人は40代後半くらいでしょうね。
県の外郭団体の役員をされてるってことだったんですけど、
5ヶ月前くらいに出勤されなくなったんです。いえ、辞めたのかどうかは
わからないです。そういうとこって公務員みたいなものだから、
滅多なことではクビになったりはしないですよね。
どういう事情なのかはいまだにわからないんですが、とにかく山田さんは
ずっと家に引きこもってて、それから1ヶ月くらいして、

奥さんが、中学生と小学生の子ども2人を連れて出ていっちゃったんです。
山田さんはすぐ近くにあるコンビニからタバコや食料などを買ってたので、
たまに会うこともあったんですが、不機嫌で、こちらがあいさつしても
返事も返ってこなかったんです。それと、恰幅がいい人だったのが、
ずいぶん痩せてました。それで2ヶ月くらい前、朝に私が
パートに出ようとしたら、自宅の塀の前に山田さんがいて腕を組んで
たんです。それで、塀にはかなり大きな落書きがあったんです。
チョークみたいなもので描かれてて薄かったんですが、
私には、1mくらいのピンク色のひし形が一つと、その両脇に
半分くらいの大きさの、黄色の丸と水色の四角があるように見えました。
私が立ち止まると、それに気がついた山田さんがふり向いて、

「何だこの嫌がらせは、出ていった女房たちの絵なんか描きやがって。
 誰のしわざだ? ふん、すぐ消してやる」そう言って、家に入ってったんです。
いえ、人の姿にはまったく見えなかったんですが、あの、抽象画って
言うんでしょうか。ひし形が奥さんで、他の2つが子どもたちということなのかな
とも思いました。私はパートに行ったので、その後どうなったのか
わかりませんけど、夕方に帰ってきたときには塀の絵はなくなってました。
山田さんが消したんだろう、くらいに思いました。ですが、
翌朝、また塀に絵が出てたんですよ。前とほとんど同じに思えましたが、
少し色が濃くなってる気がしました。やはり立ち止まって見てると、
家の中から山田さんが血相を変えて金属バットを持って出てきて、
「また描きやがった、クソが、こうしてやる」叫ぶように言って、

ピンクのひし形の上の部分を叩き始めたんです。私は怖くなって、
道路の反対側に下がりました。塀は一般的なコンクリで、
全力で叩いていたのでだんだんに欠け落ちはじめ、その部分が
白くなりました。山田さんは息を切らしながら、「どうだ、
 顔をつぶしてやったぞ」そう言ってひっこんでいったんです。
夕方もそのままでした。それでまた次の朝です。塀に例の絵があったんです。
はい、場所も前と同じところで、塀の表面がはがれた上に、
ひし形の先端がきてました。色はさらに濃くなってる気がしました。
夜に誰かが来て描いてるんだろうか、そう考えて見ていると、
「あの」と後ろから声をかけられました。学生風の若い人でした。
「はい?」と返事をすると、その人はさも感心したように、

「落書きなんでしょうか、でも怖い絵ですね。すごい迫力があります。
 あ、ぼく美術学校に通ってるんですが、こんなの見たことないです。
 特にこの血を流してる女の人」って、ひし形の上の部分を指さしました。
「女の人ですか?」 「ええ、何で描いてるんだろ、チョークにしては
 はっきりしてるなあ」こんな感じで会話が噛み合わなかったんです。
その朝は山田さんは出てきませんでした。それにしても不思議な話でしょう。
もしかして私だけひし形とか図形に見えるんだろうか、
そう思ったので、夕食のときに高校生の息子に話したんです。
「ほら、山田さんの家の塀に落書きがあるでしょ。あんた見た?」
「ああ、そういえば何か描いてた気がする」 「あれ何に見えた?」
「え・・・いや、ちゃんとは見てないけど」

こんな反応だったので、この2日間のことをかいつまんで話しました。
そしたら息子は面白そうな顔をして、「じゃあ今見てくるよ」って、
箸をおいて外に出てったんです。すぐ隣なので数分で戻ってきて、
「あ、母さんの言ってたとおりひし形と丸と四角で、暗かったんで色は
 はっきりしなかった。あんな単純な形なのになんか気味悪かったな」
こう言いました。それ聞いて私は、ああ、自分の目が変なんじゃ
なかったんだ、と少し安心はしたんです。それから3日くらい、
落書きはそのままだったんですが、その次の朝に見たとき、
塀は真っ黒に塗られてたんです。はい、山田さんが塗ったんです。
後で近所の主婦の友だちに聞いたら、山田さんが一人で、
午後いっぱいかかってペンキ塗りをしていたそうで、

素人仕事らしく、あちこちムラがあって表面がでこぼこしてました。
けど、それもまったく無駄だったみたいで、翌日の朝には
またあの落書きがあったんです。その日私はパート休みなので
台所で朝食をつくってたんですが、外で大きな声で叫ぶような音が聞こえ、
出てみると、山田さんが寝巻き姿で塀を蹴りつけながら、
「クソっ! クソクソクソ、絶対離婚とかしてやらんからな」
って怒鳴ってたんです。あと、「こんな塀、なくしてやる」とかも。
それで、2日後から工事の人たちがきて、山田さん宅の塀を壊し始めました。
ただ撤去するだけで新しい塀はつくらないので、それは1、2日で終わって、
山田さんの家の庭が道路から見えるようになったんですが、
芝生の上に、クローゼットとかいろんなものが積み上げられてました。

たぶん、出ていった奥さんたちのものなんだと思います。
それから1週間ほど何ごともなかったんですが、焼肉屋で、
息子が入ってるサッカー部の大会後の打ち上げがあったんです。
私と息子が参加して、終わったのは9時を過ぎてたと思います。
私はビールをいただいたので、タクシーで帰りましたが、
家の前で降りたとき、息子が目を細めるようにして山田さん宅のほうを見て、
「母さんあれ」って屋根の高さあたりを指さしたんです。
そしたら、最初わからなかったんですが、何かが空に浮いてました。
そうですね、薄い布と言えばいいか、畳一枚くらいのひし形に見えるものが、
山田さん宅の2階の屋根付近をひらひら飛び回っているように・・・
でも、それはすぐ家の裏に回っていって出てこなかったんです。

嫌な気持ちになって自分の家に入りました。その翌朝です。
食事のしたくがあるので6時ころには起きますが、目覚めるとカーカーと
カラスの鳴く声が聞こえました。それから起き出して10分ほどすると、
救急車のサイレンがして、すぐ近くに停まったんです。
出てみると、もう何人か近所の人がいて、山田さんの家から人が担架で
運び出されるところでした。はっきりわからなかったんですが、
近所の人の話では、山田さんが庭に倒れていたのを通行人が見つけて
通報したってことだったんです。見た人の話では、
山田さんは仰向けに倒れて白目を剥いていて、生きてるようではなかった
ということでした。私がパートから帰ってくると、
山田さんが亡くなったという噂が広まっていました。

病院で医師がみたときのはすでに死亡していたみたいです。
それから、山田さんの家でごく簡単なお葬式を出しました。
喪主になってたのは、高齢の山田さんの父親でした。
お葬式はほんとうに形だけのものでしたが、いちおうご近所なので
わが家から私が出たんです。ほとんど親族だけで仕事関係の人の
姿は見ませんでした。それと、子ども2人がいました。山田さんのお子さんだと
思いましたが、奥さんの姿はなし。それで、あんあまりいいことではないと
思ったんですけど、機会をみて下の女の子に「お母さんは?」って聞いて
みたんです。そしたら、「今、顔にケガしてるの」って答えが返ってきました。
奥さんの側では相続放棄をしたみたいで、山田さんの家は実家から売りに
出されて、まだ買い手はついていません。






神社に詣でる話

2019.06.06 (Thu)
あ、じゃあ話していきます。去年のお盆のことです。俺ね、都会のほうで
就職したんですが、そのとき盆休みで実家に帰ってたんです。
そしたら、夜に中学校のときの同級生から電話がかかってきて、
「駅でお前を見かけたってやつがいたから電話した。
 他にも盆で帰省してるやつがいるから、そいつらと一緒に明日
 飲みに行かないか」って。いやー、懐かしいと思ってすぐに承知しました。
そいつとはわりに家が近くて、小学生の頃は毎日のように遊んでたんです。
でも、中学校の後は別々の高校で、話をするのが10年ぶりくらいだったんです。
他のメンツを聞いたら、山崎と東根も来るって言ってました。
その2人とも、やはり中学以来接点がありませんでした。
でね、夕方の6時に駅前の居酒屋に集合ってなったんです。

その時間に行くと3人とももう来てて、店に入って飲み放題にしました。
やっぱりね、最初のうちは話しにくいとこもあったけど、
すぐに中学時分の気持ちに戻って、大騒ぎしました。
それから2次会、カラオケと行って、俺ら全員かなり酔っぱらってました。
飲みながら各自が近況をしゃべったんですが、俺はしがない組立工、
最初電話してきた村野ってやつは電気工事会社、
山崎は大学を出て大きな会社のリーマン、けども東根だけは、あんまり自分のこと
語りたがらなかったんですよ。まあこれは、今にして思えばってことですが、
服装とか髪型もなんかヤクザみたいで、ヤバイ仕事してて
言いにくかったんでしょう。で、4人とも実家は近くだったんで、
ぶらぶら歩きながら戻ってきました。時間は12時過ぎてたなあ。

そしたら山崎が、「ここ、○○さんの近くだろ、みなでお参りしていかねえか」
って言ったんです。〇〇さんってのは、地元の地域の氏神神社で、
大きくはないけど7月にはお祭りをやって夜店が出るんです。
中学で部活に入ってからはやらなくなったけど、そんときの4人は、
小学生のときはみんなお祭りのお神輿を担いでたんです。
「ああ? でも開いてるのか?」 「いや、建物は閉まってるだろうけど、
 鳥居くぐって入ってはいけるだろ」 「んじゃ、酔い覚ましがてら行ってみっか」
こんな話になって、道を折れて神社のある通りに入ったんです。
そこは住宅街の一画なんだけど、小さな森があってね。
さすがにそんな時間だから、人も車も通りませんでした。
神社の前に来て「ん、中、けっこう明るいじゃね」と一人が言いました。

社殿の前に街灯があったんです。鳥居をくぐって中に入ると、
参道は短いんで、すぐ建物の前に出ました。右手のほうにお守りなんかを売ってる
とこがあるんですが、窓は真っ暗でしたね。神社のほうも表戸は閉まってて、
でも賽銭箱は出てたんです。東根が、「こらあ不用心じゃねえか」って言い、
村野が「ここらじゃ賽銭どろぼうなんていねえし、そもそも賽銭なんて
 ほとんど入ってねえだる」って返しました。
でね、夜中だからやめればよかったんですが、酔ってたんで、
みなで鈴を鳴らしたんです。ジャラジャラやって、最後東根が引っ張ったとき、
ヒモが切れたんですよ。ガシャーンってすごい音がして、
東根の足元に鈴が落ちてきました。それ見て俺らは、「あーあ、何やってんだよお前」
ってはやしたてました。東根は嫌な顔をしましたが、

鈴を拾い上げて段の上に起き、「すぐに切れたんだよ。
 ヒモが腐ってたんじゃねえか」そう言ってから思いっきり蹴り飛ばしたんですよ。
「バカ、やめろ、罰あたりなことすんな」 「神様なんかいねえよ」
「神主もいないしどうしようもないな。東根、お前が壊したんだから賽銭を
 多く入れとけよ」俺がそう言って、最初に財布から100円玉を出して
賽銭箱に投げ入れました。他の2人もそうして、最後に東根がばつの悪そうな顔で、
「わかったよ」と、財布から万札を出したんです。お、豪勢だなと思いましたが、
それをくしゃっと丸め、東根が賽銭箱に向けて放ると、
お札は賽銭箱の手前の空中で停まったんですよ。「え?」
俺だけじゃなくみなが見ました。だから嘘じゃないですよ。うーん、空中に
目に見えないクモの巣みたいなのがあって、それに張りついたって感じ。

「何だよこれ」東根が不思議そうな声を出し、手を伸ばしたら、
ピッピッって丸めたお札がもとに戻って、それからふわっと飛んで、
東根の額にあたりました。そんなに強くあたったとは見えなかったし、
お札ですからねえ、それなのに東根のやつ、見事に後ろにひっくり返っちゃったんです。
ゴーンと音がするくらい頭をぶつけましたが、幸いなことに下は石じゃなく土の部分で。
いや、何が起きたかそんときはよくわからなかったんですが、
みなで東根を助け起こしました。気絶とかはしてなくて、頭を振りながら起き上がり、
「なんだよなあ」って情けない声を出したんです。お札は下に落ちてて、
それ見て東根は「いらねえわ」って言いながら足でぐりぐり踏んづけて。
ああ、もったいねえって思いました。でね、わけわからないながらも、
神社を出てそれぞれ実家に戻ることにしたんです。

でね、また歩いてたら、道の3mほど先にほっと火が出たんです。やっぱり空中に。
そうですね、ロウソクの火より少し大きいくらいかなあ。
うーん、人魂とはそのときは思わなかったです。「なんだ?」俺がそう言うと、
東根が、「わかりました、ついていきます」って火に向かって返事してね。
そしたら、火は滑るようにすーっと前方に動き出し、東根がそれを追いかけて
いきました。「おい待てよ」火のスピードはどんどん速くなって東根は走り出し、
俺らも追ってくしかなかったです。「待て、どこ行くんだよ!」けど、
東根は全力疾走になり、酔ってた俺らは遅れてって。
でね、どんくらい走ったのかなあ。10分以上はあったと思います。
橋の上までくると東根は土手のほうへ曲がって、
そっからススキが繁り放題の河原に駆け下りてったんですよ。

俺らがやっと橋の上に来たときには、東根の姿は草の中で見えなかったので、
上から「おーい、戻ってこい」って叫びかけたんです。
そしたらバシャッと水音がして、東根は川の中に立ってたんです。
まあ、そこの川はもともと深くないし、夏場で水涸れしてたんですが、
それでも胸くらいまで水に浸かってました。
それと、東根が追いかけてった火ですけど、流されそうになってる
東根の顔のまわりを、蛾みたいにくるくる回ってたんですが、
急にぱっと消えたんです。ややあって東根があたりを見回し、
俺らのいる橋の上に向かって「おおい、助けてくれよう」って叫んだんです。
そっからはたいへんでしたが、なんとかみなで東根を土手の上まであげたんです。
東根だけでなく俺らもびしょぬれで、夏だからそれはいいんですが、

草で切ってあちこち傷だらけ、ヤブ蚊にも刺されたしさんざんでした。
あと、東根は川の中のガラスを刺したのか、足にもキズがありました。
とりあえずコンビニに行って消毒薬と絆創膏を買い、東根の手当をしたんです。
ひどいようなら病院に連れてくつもりでした。
そのときに東根に話を聞いたら、「いや、神社から出て道の途中で、
 子どもがいただろ」 「え、いねえよ、変な火みたいなのは出たが」
「いや、その子どもが俺についてこいって言ったんで、走ってついてった」
「どんな子どもだった?」 「顔ははっきりしねえけど、白い昔の着物着てたな」
「それで?」 「その子どもは橋の上でとまってて、俺に川に入れって言ったんだよ。
 だからそうしなくちゃいけないと思って、土手から川に入った」
「うーん、どういうことだろうな、神社に行ったことと関係あるんか」

「あ、そう言えば今 通ってきた道って、俺らがガキの頃にお神輿を担いだ
 ところだよな」 「川に入れって言われたのは、頭冷やせって意味かもしれん。
 東根、お前さっき言わなかったが、仕事何やってんだよ」
山崎がそう聞いたら、東根は困った顔をしましたが、「いやあ、じつはなあ、
 借金の取り立てやってんだ。俺は組にはまだ入ってないけど、
 その関連の会社で」って、そう答えたんです。それで俺らは納得がいったっていうか、
神社で東根の賽銭が戻ってきたのも、汚れた金だからだろうと思ったんです。
「ああ、罰があたったんだな」俺がそう言いました。
まあ、こんなことがあって、東根にはその仕事をやめるようみなで説得しました。
でね、今年の正月に、またそのときのメンバーで集まって神社にお参りに行き、
そんときは東根の投げた賽銭も戻ってはこなかったんですよ。







童子降臨

2019.06.04 (Tue)
※ 超ナンセンス話です。下ネタがお嫌いな方はスルーしてください。

土曜日、午前中に英会話スクールに行っての帰りのことです。
駅から出ると、みぞれに近いような雨が降っていたので傘を開きました。
空は暗かったんですが、20mほど歩くと急に足元が明るくなった気がしました。
前にいたカップルの女性の方ほうが「あ、ほらあれ、キレイ」と言ったので、
傘をあげてそちらを見ると、黒雲の間から光が射していました。

よく洋画で、神様が現れるなどの神々しいシーンに出てくるような光でした。
雨も晴れてきたので、傘を閉じようとしました。
そのとき頭の中に、壮年の男性と思えるバリトンの声が響いたんです。
「汝らに○○○○○○を遣わす、ただしお前は善なるものゆえ、傘を閉じるな」
この○○の部分は、はっきりと聞こえたんですが、「回転蹴り同時??」
そのときにはどういう意味かわかりませんでした。

やがて、雲からの光の道に巨大なものが見えてきました。
幼児の足先だと思いました。丸裸の幼児がだんだんに雲間から降りてきたのです。
足から腰が見え、幼児は男の子であることがわかりました。
十数階建てのビルほどの大きさがあったと思います。少しずつ幼児の
顔が見えてきましたが、驚いたことに両方の目がありませんでした。
目のあるはずの部分が顔の皮膚に覆われているのです。

それをのぞけば鼻や口はかわいいようにも見えました。
空中40mほどのところに浮揚した幼児は、バレエの白鳥の湖のように
片足をあげて前傾し、そのままゆっくりくるくると回り始めました。
「ブブブブスピー ブビブババ」という音が響きました。
これは実際に聞こえた音です。多くの人が空を見上げていましたが、
私はさっきの言葉を思い出し、傘を閉じないでいました。

「ブバババ」という音は続き、あたりに嫌な臭気が漂ってきました。
見ると、空中で幼児は、お尻から黄色い液体のようなものを噴出していました。
そこで、さっきの○○の意味がわかったんです。
頭の中の声が、「汝らに回転下痢童子を遣わす」だということが。
私は大急ぎで近くの喫茶店に入り、ガラス越しに外の様子を眺めていました。
数秒して、ところかまわず黄色い液体と半固形物が降り注ぎ始めました。

人々の怒号と悲鳴が扉を隔ててもはっきりと聞こえました。
そのとき、外では広範囲に水状便がまき散らされていたのです。
幼児は下痢を噴出しながらゆっくりゆっくりと下降し、
バス2台の上に降り立ちました。そして一声「ふぎゃあああ」と泣き、
ぱっと消滅したのです。そして雲からの光も消えました。店の外は
黄土色に染まり、まだ先ほどの神々しさの余韻が残っているかのようでした。

いろんなうんち




山に登った話

2019.06.02 (Sun)
あ、どうも、下村と言います、よろしくお願いします。
仕事は地方公務員です。ある市の教育委員会に勤務してます。
さっそく話に入らせてもらいますけど、僕、大学のときに生物学を
専攻していまして。でね、生物学って言うと、白衣を着て顕微鏡を
のぞいてるイメージを持ってる人が多いんですよね。まあそれは、
現在、分子生物学って大人気ですから。就職もいいですし、
DNAを切り貼りしたり、かっこいいイメージがあるんです。
でも、僕が学んでたのは、同じ生物学でも環境生態学って地味な
分野なんです。主に植物なんですけど、植生を調べたり、
木の病気の治療法を研究したりっていう。はい、そんなだから、
学生は分子生物学科の何十分の1しかいませんでしたね。

けど、これも就職は悪くないんです。同期生はほとんど公務員に
なってます。森林管理局とか、地元の教育委員会で少年自然の家に勤務とか。
僕もそういった仕事をしてて、自然の中にいることが多いんです。
給料は高くないけど安定してるし、子どもの相手も好きです。
だから満足してるんですけど、自然って怖い部分もあるんですよね。
いや、災害とかそういう話じゃなくて。あれは大学の3年のときですね。
夏休みに、ゼミのメンバーで山の植生調査に行ったんですよ。
といっても、単位をもらえるようなものじゃなくて、
レクリエーションをかねてのことです。参加者は僕を入れて4人で、
リーダーは元木先生っていう、当時助教授の先生でした。
はい、今もご健在ですけど、まだ助教授のままみたいですね。

この元木先生が、当時40歳を少し出たくらいでしたけど、山が大好きで、
よく講義の途中で脱線して山の話になるんですよ。
で、その先生のもとに僕ら山好きの学生が集まってたんです。
テントの張り方とか、焚き火のしかたとかいろいろ教えてもらいました。
それでね、そのときに行ったのは長野県のほうのだったんですが、
登ったのは名もない山ですよ。地図に頂上の印だけがついてる。
登山が目的じゃなく、あくまでも植生調査ですからね。それでも標高
1000mは超えてました。中央線で大月駅ってとこで降りて、
そっから徒歩で山に入っていくんです。2泊3日の予定でした。
観光地じゃないので他の登山客の姿は見なかったです。
元木先生はそのあたり毎年来てるらしくて、

地図を見なくてもずんずん進んでいくので、僕らはその後についてくのが
やっとでした。で、麓から山に登り始めるんですが、
登山路なんて立派なものじゃなく、獣道みたいな感じでしたね。
でね、やることがたくさんあるんです。まず高度計を見て、
標高100mごとに生えている植物の種類を調べて写真を撮る。
それから標本の採集です。そんな感じで少しずつ登っていくんですが、
もともと高山じゃないので、その日のうちに山頂まで到達しました。
夕暮れになってきたんでテントを張ったんです。そんな夏中にテントを張る
場所がよく見つかったなって思われるでしょうが、元木先生にしたがって
山の反対側に降りていくと、雑木林の中に、ぽっかりテントを張れるような
空間があったんです。総勢5人ですから、テントは大型のものを一張りだけ。

でね、夕食のカレーを食べて、その後は酒盛りです。
みな飲めるほうだったんで、かなりの量を飲んだんですが、それでも
寝たのは10時前だったと思います。でね、そういうめったに人の入らない
山って暗いんですよ。一歩テントの外に出るとホントの真っ暗闇です。
街灯なんてないのはもちろんだけど、近くに街がないんで空が暗いんですね。
街があると、その明かりが空に反射して夜でもぼうっと明るい。
あと、けっこう音がするんです。夏場は野生動物の活動が活発になりますから、
夜行性の生き物が木の間を飛び回ってて。でね、夏用の薄い寝袋に
入って寝てたんですが、夜中にトイレに行きたくなって目が覚めました。
たぶん2時ころじゃないかと思います。もちろんトイレなんてないから、
そのあたりの木の陰でやるんですが、真っ暗なのでペンライトをつけて、

近くに寝てた友だちを起こさないよう這ってテントを出ようとしたとき、
その友だちの顔の上で何かが動いてたんです。小さいものです。
直接照らすと友だちが起きちゃうと思って、顔からやや離れたところに
ライトを向けると、友だちの顔の上に裸の小人が乗ってたんです。
いや、これは絶対に小動物とかの見間違いじゃないです。
そうですね、身長10cmないくらいで、僕のほうに背中向けてたんですが、
かなり痩せてた肩甲骨が見えました。体つきは男。「ええっ!?」
その小人は友だちの鼻にしがみつくような格好で、後ろ向きだったから
はっきりしないですが、友だちの鼻をかじってるように見えたんです。
それで、手を伸ばして小人を払い落とそうとしたんです。
いや、そのときはとっさで、怖いとかは思わなかったです。

そしたら僕の手が届く前に、小人は友だちの顔を走り下りて、
すごい速さでテントの隅に走ってって、姿が見えなくなっちゃったんですよ。
よっぽど友だちを起こそうかと思ったんですが、
起こして「お前の顔の上に小人がいたぞ」なんて言っても信じないですよね。
だからそれはやめて、トイレに行って戻ってきました。
もう小人の姿は見あたらなかったんで、僕も寝直したんです。
それで、次に起きたら明るくなってて、先生始め他のやつらもみんな
起きてたんです。テントの外で川上を囲んでました。
あ、さっき言わなかったんですが、夜中に顔に小人が乗ってたやつのことです。
「どうしたんですか?」そう言って出ていくと、元木先生が、
「川上のやつがおかしいんだよ。どうも自分の名前もわからないみたいなんだ」

川上はぼうっとした顔で目をしょぼしょぼさせて「わからないです、
 僕、川上っていうんですか。ところで、あなたはどなたです?」
みたいなことを言って、顔を洗わせてもやっぱり抜け殻みたいな感じでした。
元木先生が腕を組んで考え込んだので、笑われるかもしれないと思ったけど、
夜中に見た小人の話をしたんですよ。そしたら先生は「うーん、それは
 関係があるかもしれんなあ。とにかく降りて川上を医者にみせないと」
それで急いでテントを撤収して山を降りたんです。
川上は目の焦点が合ってなかったですが、なんとか歩くことはできたので、
縦列の真ん中にはさんで、みなでゆっくりゆっくり降りてったんです。
その途中、元木先生があちこちずっと見回してるので、
「何か探してるんですか?」って聞いたら、「うん、もしかしたら

 山を怒らせたものがあるかもしれんから」そう言いました。
でね、15分ほど降りたところで、細い道の横に湧き水の出てる場所があって、
登ってくる途中にみんなで飲んだんです。元木先生が「あれくらいしか
 思いつかんなあ」そう言って湧き水のほうに入っていき、
僕らもついてったら、「あ、これかもしれんぞ」って地面を指さしました。
苔の上に、奇妙な形で石が並んでたんです。そうですね、一つが握りこぶしより
少し小さいくらいのが20個ほど、中には2つ重なってるのもあって、
全体が星座みたいな形になってまして・・・その中に足跡が一つついてたんです。
元木先生は「ああ、水飲むときに、これ壊したせいかもなあ」そう言ってしゃがんで、
足跡が壊した元の形を復元するみたいにして石を並べ直したんです。
そしったら、川上が「うああああっ!」て声を出したので、

そっち見ると、川上の鼻の穴から小人が出てきたんですよ。はい、前の夜に
見たやつです。人間の鼻の中にそんな10cmちかいものが入れるわけはない、
と思うかもしれませんが、僕だけじゃなく、元木先生や他のメンバーも
見てるんです。小人はすごい勢いで川上の服からずぼんへ伝わってくると、
地面に降り立ち、四つん這いになって草むらの中に消えてったんです。
僕らが呆然としてると、川上が「あれ、みんなどうしたんです、
 テントはどうなったんですか?」そんな声を上げて、名前とかを聞いてみると、
「川上にきまってるじゃないですか」って、正気に戻ってたんです。山を降りて
病院に連れてってもなんともなかったです。ただ、川上はその後1年くらい、
しょっちゅう鼻血を出してました。・・・山って、そういうことがあるんですね。
みなさんも、変な石組とか見かけたら、崩さないようにしたほうがいいですよ。