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ガネ

2013.09.28 (Sat)
俺が小学校の中学年の頃。学級にガネってあだ名のやつがいた。
家が屑金(クズガネ)屋をやってるんでそんな名前になったんだと思う。
ひどく無口で不潔なんで友だちもいなかった。

あるとき学校の帰りに近道をして堰の土手を歩いていると、
その日学校を休んでたガネが、下の水辺で何かをやってた。
ガネは通りかかった俺に気づいて、
「おい!」といって大きなものを投げつけてきた。

石だと思ってとっさによけたが、
足下に落ちたそれは石ではなく、その堰にすむ亀だった。
しかも手や首がもがれていたようで、甲羅の穴から土手の草むらに泥と血がこぼれた。
しばらくそれに目が釘付けになったが、
ふとガネのほうを見ると、口元をくちゃくちゃと動かしながら笑っていた。


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魂の問題と『玩具修理者』

2013.09.25 (Wed)
 先ごろ、車椅子の天才物理学者として知られるホーキング博士が、
英新聞『ガーディアン』のインタビューで、
 『私は、人間の脳はその構成要素が働かなくなる時に動作を停止する
コンピューターであると見なしている。
壊れたコンピューターにとって天国も死後の世界もない。それは闇を恐れる人々による作り話である』
というコメントをして、神や魂、天国などの存在を否定しました。

 ホーキング博士はこれまで、
その学説によってカトリックの総本山であるバチカンに影響を与えてきました。
まず宇宙の始まりが、無限大の出現によって一般相対性理論の式が破綻する特異点になるという
特異点定理をロジャー・ペンローズと共同で発表しました。
特異点はあらゆる物理法則が破綻する一点であり、この説を聞いたバチカンは喜びました。
なぜならそのような宇宙の始まりには神が介在する余地がありえるからです。
しかしこの後、ホーキング博士は宇宙の時空について無境界仮説を提出しました。
これは宇宙には始まりも終わりもなく、球の表面上の一点のようなものだとする説です。
これだと神による天地創造の入り込む隙はありません。
そうして上記のようなコメントを出すに至ったのです。

 これはオカルト好きにはちょっと困った話ではあります。
幽霊話がウケる要素の一つとして、死は終わりではないという魂の不滅、
意識の死後存続の可能性というものがあるのではないかと自分は考えています。
しかし人間の心が脳の機能の一つとして存在し、魂や霊などというものは幻想であって、
肉体の死とともにすべてが終焉するとすれば、オカルトの介在する余地がなくなってしまいそうです。
このあたりのことをテーマとして扱っているのが、
第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した小林泰三の『玩具修理者』です。

 (ネタバレ注意)玩具修理者は子どもたちの間には知られた存在で、
何でも直してくれます。単純な機械から複雑なゲームソフト、はては死んだ猫まで、
全部をバラバラに分解してから「ようぐそとほうとふ」の呪文とともに一瞬で直すのです。
そこに生物と無生物の区別はありません。
心のあるものとないものには何の境もないかのようです。
つまりこの話は玩具修理者という超自然的な存在を扱っていながら、
オカルトに対するアンチテーゼとしての内容を含んでいるのです。
そしてそれが独特の恐怖感を生んでいます。
あとこの話は映画化されていますが、本来短編のものを長時間の映像にするのは
やはり厳しいという印象でした。

『玩具修理者』



2つの度合い

2013.09.16 (Mon)
自分が怖い話を書くにあたって考えていることが二つあります。
一つ目は、「実話怪談⇔ホラー小説」という度合いです。
話を思いついたら、できるだけ実話っぽくするのか、
あるいはフィクション感を強めるのか、
内容によってある程度決めてから書き始めます。
自分ルールとしてすべての話を体験談風の一人称で書くようにしてはいますが、
これを決めることで文体も変わってきます。
自分の話全体としては、やや小説よりなんじゃないかという気がします。

もう一つは「謎を投げ出す」のところでも書きましたが、
話にどのくらいの謎を残すかということ。
オカルトですからどれも不可思議・不条理な話には違いがないんですが、
例えば『お盆のスイカ』の話は、スイカから内蔵が出てくる理由が、
戦時中の空襲によるものであることが話の中でわかります。
それに対して『ヒヨコ売り』の話は、なぜヒヨコが爆発し父親が亡くなったのか、
読んでもまったくわかりません。考える手がかりが入っていないので当然ですね。
なかなか難しいのですが、この度合いについても筋を考える段階で塩梅しています。

『Spiritism session』






お盆のスイカ

2013.09.12 (Thu)
今から十年くらい前、お盆に家族で東北の実家へ帰省したときの話。
そのころ両親はまだ健在で、俺の妹の一家といっしょに
スイカ栽培農家をやってた。年間を通じてではないが、
雇い人を何人か入れてけっこう大規模だった。
俺は女房と小学生の息子と娘を連れて車で里帰りして、
着いてすぐ座敷でビールを飲んでた。
実家は典型的な古い農家の作りで、井戸もあった。

エアコンはつけてないが、縁側の戸を全部開け放っていれば
風が通ってけっこう涼しかった。ばあちゃん(俺の母親)が、
その井戸で今年のスイカを冷やしてるからと言ったんで、
息子が「取ってくるよ」と言って庭に出て行った。
そしてでかいスイカを抱えて入ってくるのが見えたんで女房に、
「あいつ一人じゃ危ないからお前いって切り分けてこいよ」と言った。

それで二人で台所でスイカを切ろうとする声がしてたんだが、突然、
「うわわわっ」「きゃー何これ」という悲鳴が重なって聞こえた。
俺が「何やってんだ」と言いながらいってのぞいてみたら、
息子は床に尻餅をついてへたりこんでいるし、
女房は包丁を持ったまま壁まで後ずさって震えてる。
「何だ、どうしたんだ」と聞くと、女房が、
「・・・スイカ、スイカを切ったらちょうが飛び出してきた・・・」と答える。

俺がまな板の上を見ると、二つに割られた、
よく熟れたただのスイカがあるだけなんだ。
「チョウチョが入ってるなんてありえないだろ」とスイカを手にとってみながら言うと、
息子が「お父さん、チョウチョじゃなくて内臓の腸だよ。
スイカを切ったらでろーっとこぼれてきたんだ」
俺「んな、馬鹿な」と言って女房のほうを見ると、
顔を上下させて息子の言葉を肯定している。

そのとき親父が台所に入ってきて、
「ああ、それ、そのスイカは手違いだ。今べつのを用意するから」と言って、
そのスイカを新聞紙でくるんで納戸のほうに持って行った。
俺は女房らを落ち着かせて座敷に戻ると、しばらくして親父が戻ってきて、
「スマンかった。何かの間違いで食べられないスイカが混じってた」
俺が怪訝な顔をしていると親父は、
「子供らが怖がるから、夜、酒飲むときに話してやるよ」

で、こっからは親父の話。
「お前がこの家にいた頃は、まだ米を作ってたから知らなかったのは
しょうがない。 わざわざ言うまでもないと思ってたし、
あの田んぼをつぶしてスイカ栽培に変えたんだが、
スイカは農協の指導もあって初めの年からよくできて、収入も米作よりよかった。
それで土地を買って畑の面積を増やしていったんだよ。

次の年、家族用のスイカを何個か残して出荷して、
食べようとして割ったら、中から人の歯が出てきたんだ。
一本二本じゃなくて、上の歯、下の歯まるごとで、アゴの骨もついてた。
それを見たときは今日のお前たちみたいに腰を抜かしたが、
歯はすぐに消えてなくなって普通のスイカに戻ったものの、
見間違いじゃないと思った。

それでいろいろ調べたんだが、
割ると中から人の体の一部のように見えるものが出てくるのは、
下郷に通じる砂利の道をつぶして畑にした一画から、
獲れたものだけってことがわかった。・・・お前も思い当たることがあるだろ、
小学校の社会の勉強でやってたじゃないか。

戦争中に下郷の娘らが勤労奉仕に出てくる途中、
アメリカさんの機銃掃射でバラバラにされた場所だよな。
このことがわかるまで三年かかった。
どうして、そこにスイカの作付けするのをやめなかったかって?
いや、やめようとしたんだ。で、小さいお社でも建てようかと。

そうしたら夢に出てくるんだよ、もんぺをはいた血まみれの娘さんたちが。
今なら中学生の年頃だろう。
それでスイカを植えるのはやめないでくれって言うんだ。
そこで獲れたスイカは◯◯寺に奉納して供養してもらってほしい、
って頼んでくるんだな。そうすれば少しずつ成仏できますって。

それからはその区画で獲れたスイカは納戸に集めておいて、
お盆の前日にお寺に持っていく。このことは住職にも話をしてある。
いやスマンかった、子供らはそうとう驚いただろう。
ひどい間違いがあったんだよ。お前から何とかうまく話してやってくれ」

*この話と前の話は前に2チャンネルに書いて忘れていたのを思い出して載せました。





白い箱

2013.09.12 (Thu)
首都圏のあるホテルのスカイラウンジでの話。
俺は近くに勤め先の支社がある関係でよくこのホテルを利用する。
といっても月に多くても4~5回のもんだけど、
寝る前にそこのバーで一杯やるのが楽しみだった。
くの字型に大きなガラス窓が続いていて、その一辺のほうからは
港の景色が見えると言えば、わかる人がいるかもしれない。

それで何度か通ううちにあることに気づいた。
俺がそのホテルのバーに行くたびに必ず同じ人物がいる。
その人は70代くらいに見えるじいさんで、
昔風のベストのついたスーツを着てジンリッキーとか飲んでる。
これだけならまあ御常連さんということだろうけど、奇妙な動作をしている。
そのじいさんは港に面しない方の窓際の同じ席にいつもいるんだが、
テーブルの上に店のものとは見えない白い箱が置いてある。
じいさんは座ったまま窓の方を向いて両手の人差し指を目の前で合わせ、
白い箱に向けて指先を引き下ろすような仕草をする。
10分に一度くらいの感じでそれをやってる。
俺が行ったときは毎回だったから、もしかしたら毎日やってるのかもしれない。

気になったんでカウンターのバーテンの一人に話を向けると、
「毎日こられています。この地区では有名な方で、引退した社長さんですよ」
という答え。あの仕草についても訊いてみたんだが、
「さあ、何かの健康法でしょうか」と要領を得ない。
たしかに指先にはかなりの力が込められているのが遠目にもわかるから、
実際そうなのかもしれない。じいさんは11時を過ぎると箱を布に包んでしまい、
がっくりとした感じで杖をついて帰って行く。

その日も出張でホテルを利用した。
バーに行くとやっぱりじいさんは同じ席にいて、ときおりあの仕草をする。
そのとき俺は、じいさんの動きは窓の外の景色と、
何か関係があるんじゃないかと思った。
じいさんの席の正面にはこれもけっこう有名な高層ビルがあって、
この時間でもたくさん明かりがついてる。
俺のいるカウンターからは角度がずれてよくはわからないが、
その高層ビルをなぞって指を動かしているようにも見えた。

ついこの間またそのバーに行ったが、思ったとおり同じ席にじいさんはいた。
怪しまれない程度に様子をうかがっていると、
指先にはすごい力がかかっているようで痩せた体が小刻みに震えているのがわかる。
と、これまでにはないことに指先を引き下ろしたあとで、
ポンと手を叩いて顔を下に向けた。そして、
顔を上げたときには気持ちが悪いほどの満面の笑みを浮かべている。
そのまま箱をかたづけ杖をとって歩き出した。早い時間だがもう帰るらしい。

カウンターの脇を通るところでじいさんは俺の席の横に来てバーテンに向かい、
「この方のお勘定はわたしにつけておいてください」と言った。
俺が驚いているとじいさんは「いやあ、お祝いです。どんどん飲んでください」
と声をかけ、俺が「それじゃ悪いですよ・・・何のお祝い・ですか?」と尋ねると、
「いや、いや、気にしないで。これでやっと引退できます。
 わたしの退職祝いと思ってください」と、陽気な声で答えると俺のほうに顔を近づけ、
小声で「わたしの動き見てたでしょう。知ってますよ」とつけ加えた。

じいさんは帽子とコートをとって帰っていき、
俺はわけがわからないながらも年代物のスコッチなどを注文してかなり酔うまで飲み、
次の朝二日酔い気味で支社に顔を出したとき、
夕べじいさんが指でなぞっていた高層ビルから飛び降り自殺が、
それも同時に2人あったという話を聞かされた。





異形コレクションについて

2013.09.10 (Tue)
 『異形コレクション』は井上雅彦(漫画家でない)が監修するホラーアンソロジーのシリーズで、
廣済堂から最初に出て、その後光文社に移ったんだったと思います。
全部読んでるはずですが片っ端から忘れていってるので、
今、題名一覧を見ても内容を思い出せないのが多いです。
まあそれでも印象に残っているのをあげてみます。

3変身『福助旅館』倉阪鬼一郎 5水妖『貯水槽』村田基 6屍者の行進『死にマル』岡本賢一
9グランドホテル『新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け』田中啓文
11トロピカル『オヤジノウミ』田中啓文 14世紀末サーカス『安住氏への手紙』菊地秀行
19夢魔『げろめさん』田中哲弥 22恐怖症『荒墟』朝松健
23キネマ・キネマ『3D 』町井登志夫 30蒐集者『DECO-CHIN 』中島らも
『愛書家倶楽部』北原尚彦 32魔地図『わたしのまちのかわいいねこすぽっと』多岐亡羊 
33オバケヤシキ『ロコ、思うままに』大槻ケンヂ 34アート偏愛(フィリア)『黙の家』折原一
36進化論『ランチュウの誕生』牧野修 38心霊理論『私設博物館資料目録』井上雅彦 
『憑霊』福澤徹三 41京都宵『朱雀の池』小林泰三

といったあたりでしょうか。まだまだ感銘を受けた作品はあるはずなんですが。
それから平山夢明氏の作は後に独立してとりあげたいと考えてます。
 こうしてあげてみると自分はホラーというより奇譚が好きなんだとあらためて思います。
このシリーズは井上氏の歴史に残る仕事だと思います。


ヒヨコ売り

2013.09.09 (Mon)
小学校6年生のときの話。
その日は地元の神明社の縁日で、7月第3週の土曜日。
昼間は山車が出るし夕方からは神社の参道沿いにずらっと夜店が並ぶ。
小学生は学校から子供だけでいく場合は、
8時になったら帰るように言われてたけど、中学生と違って、
先生方の見回りなんかないから守らないやつがたくさんいた。

俺も当然、8時過ぎても友だち3人とあちこち見て回っていたら、
隣のクラスの委員長をしてるやつが、元気ない様子で、
とぼとぼ人混みの中を歩いてるのを見つけた。
そいつはスポーツもできる活発なやつだったんでかなり意外な感じがした。

それで普段はあまり話したことがなかったけど、
近寄って声をかけたらほっとした様子で、
「よう。・・・お前ら『しめんをまもるあかのとり』って何だか知ってるか」
って聞いてきた。「何だそれ?」
「全然わかんね」俺らはほとんど考えもせずそう返したが、
そいつがあんまり真剣な目をしてたんでちょっと黙った。

「これ銀行の横の小路にいたヒヨコ売りに言われたんだよ」
「ヒヨコって鳥のヒヨコのことか?」
「さっき銀行の横通ったけどそんなのいなかったぜ」
そいつの話によれば、8時になったんで、
一緒にきた隣のクラスのやつらと別れて歩いていたら、
銀行の横のせまい小路から赤い光がもれているのが見えて、
いってみたらヒヨコ売りが店を出していたんだそうだ。

屋根もついてない屋台に大きな平箱を2つ並べてあり、
中にいろんな色のついたヒヨコがひしめいていた。金魚すくいは珍しくないけど、
そんなのはこれまで見たことなかったんで近寄っていった。
お客さんは他に誰もいなくて、裸電球の下で麦わら帽のじいさんが、
箱の前にしゃがんでいた。「これ一匹いくらですか」と聞いてみたら、
「あんたは選ばれてきたんだから金はとらんよ。ほうら」と言って、
蛍光ピンクの一匹を手のひらにのせてよこした。

生き物らしい温かみを感じたんだけど、
そのヒヨコはすぐにくたっとなって頸を手のひらにつけた。
すると急にふわふわの羽毛が風船みたいにふくらんできて、
大人の顔くらいになってパンとはじけた。風船と違うのは、
血の塊や内臓やら皮膚の断片があたり一面にちらばったことだった。
「うわっ」と叫んで手を引っ込めたが、
気持ち悪い管みたいなのがたくさんこびりついてた。

じいさんは平気な顔で「ああ、あんたじゃ飼えなかったんだな。
まあ千人に一人だからねえ」そう低い声で言った。
続けて「飼えなかったんだからやっぱりお代はもらうよ。
 そうだなあ・・・あんたのお父さんの命だな」
気持ちが悪くて逃げて帰ろうと思ったけど、
聞き捨てにできない話だったんで後ずさりしながら、
「お父さんの命って、父さんが死ぬってことですか」と聞いた。

「そうだよ。ヒヨコがあんたを受け入れなかったのは、
 こっちのせいじゃないから。・・・払いたくないか、
 だったら『しめんをまもるあかのとり』を明日中に神社にお供えすればいい」
じいさんがそう言ったとたん、箱の中のヒヨコがいっせいに鳴き始めた。
しかしマンガにあるような「ピヨ、ピヨ」という音ではなく、
「ギョー、ギョー」という不気味な声だったそうだ。たまらなくなって、
その場を逃げ出した。手の汚れは缶ジュースを買って洗い流したという。

「変な話だなあ」「銀行の横の小路ってすぐだろ。みんなで行ってみようぜ」
で5人で行ってみたが、駐車場で銀行の人たちが子どもに風船をくばってたくらいで、
小路には何もない。電線もひかれてないし店があった様子はなかった。
「ほんとにここか。どっかと勘違いしてるんじゃない?
 裏に回ってみようか」と言ったけど、
「もういいよ、アリガト。でも、『しめんをまもるあかのとり』
 ってホントに知ってる人いない?」俺らはだれも答えられなかった。

そいつは帰っていき、俺らまでなんだか変な気がしてきて、
それから30分くらいで家に戻った。
2日後、農協の職員だったそいつの父親が籾殻にうずまって窒息死した。
そいつは1週間くらい休んで数日だけ出てきた。
俺らがお祭りのときの話をしようと休み時間にいってみても、
廊下にも出てこず教室の中で首を振るだけだった。
その後母親の実家がある近くの町に転校していった。





雪だるま

2013.09.08 (Sun)
会社の後輩の山野部という20代のやつから聞いた話。
こいつは去年の12月に急性肺炎で2週間ほど会社を休んだんだけど、
そのときの詳しい話を聞かせてもらった。

その日は初雪が降ってから3日目くらいで、
朝寒くてフトンから出られず早朝の日課だったタクの散歩を休んでしまった。
(タクというのは山野部が飼ってる雑種の小型犬)
それで会社が終わって家に帰った8時過ぎ頃にリードを引いて散歩に出かけた。
住宅街を抜けてスポーツ公園を通り、出たのと逆方向の住宅街から家に帰るというコースで、
ゆっくり歩いても30分程度。
もう5分もあれば家に着くというところで、タクがうなり声を上げ始めた。
小さなビルとビルの1mないくらいのすき間に入っていこうとした。

何があるのかと見れば、ポリバケツや側溝があってあまり清潔とはいえないそのすき間の少し奥に、
人の背丈よりちょっと高い雪だるまが作られていた。
「へー、よく雪を集めたな」と思った。
この3日、雪は深夜から朝方にかけて少ししか降らなかったためにほとんど積もらず、
今も道路に雪はないし、軒などにちょこちょこと残ってる程度だったからだ。

雪だるまはたて長のだ円に丸い頭をのせた形で顔は作られていない。
ただ胴体の片側に木の棒がさしてあって、その先に子ども用と思われる青い手袋がついていた。
タクは思い切りリードを引っぱってそっちへいこうとしては、
また飛びすさって離れるという行動をくり返した。
早く家に戻りたかったので「タク、だめ!」と言いながら無理に引きずったときに、
「かわって」というはっきりした子どもの声を聞いた。
あたりを見回したが、道に車通りはあるものの子どもの姿などどこにもない。
空耳かなと、そのときはあまり深くは考えなかったそうだ。

次の朝「タクがいなくなった」という母親の声で起こされた。
庭の犬小屋を見ると、丈夫な革編みのリードが途中からぶっつりと切れてた。
近所に気兼ねしながらも「タク、タク」と呼んだが姿を現さない。
前に首輪が外れたときはどこにも行かず庭をうろうろしてただけだったが・・・
そのうち出勤の時間になってしまったので、
会社から帰っても戻らないなら探してみようと考えながら家を出た。

その日はサービス残業をこなさなくてはならず家に着いたのが9時過ぎ。
まだタクは戻らないということだったので、
もしかしたら車に轢かれたか、ここらではあまり聞いたことがないけど保健所の野犬狩りにあったか、
雑種の老犬なので盗まれるとはちょっと考えにくい・・・
ダメかもしれないと思いながらいつもの散歩コースを回ってみることにした。
スポーツ公園ではグラウンド内に入ってみたりもしたがやはり見つからない。
「まあ無理だよな」とあきらめかけていたとき、20mほど先の歩道の上に犬の姿があった。
タク・・・に見えた。

小走りに近づいていくとやっぱりタクだ。こちらを向いて口に何かをくわえていた。
青い子ども用の手袋だ。「タク、こっち」と名前を呼びながら近づいていくと、
5mくらいまでにきたとき、くるっと後ろを向いて走り出した。
それを小走りになって追いかけると、きのう雪だるまがあった街路に出た。
そのビルのすき間がある前でタクが立ち止まってこっちを見ていた。
「世話をやかせるなよ。こっちは運動不足だ」と思いながら歩いていくと、
そのすき間から子どものような二本の手が出て、タクを抱えて引きずり込んだ。
「えっ!」走ってすき間までいって中をのぞくと、雪だるまもタクの姿もなく、
あちこちグチャぐちゃにつぶれた8歳くらいの男の子が側溝に突っ伏していた。
右手を不自然な形で上にのばし、血まみれの手に青い手袋を握っていた。

「こっから記憶がないんです」と山野部は言った。
「もしもし、もしもし聞こえますか!」という大声がした。
目を開けると救急車が横付けされ、
「名前を言ってみてください」救急隊員が耳元で呼びかけていた。
「発見されたときには12時を過ぎていたようです。
ダウンジャケットどころか下着までぜんぶ脱いでしまって、
そのビルのすき間に立ってたみたいなんです。両側のビルに足をかけて踏ん張って。
しかも手には先に青い手袋をさした木の枝を持って。人が見れば完全な変態ですよね。
よく先に警察に通報されなかったと思います。
2時間ほどあの季節に裸でいたために低体温症になって、重い肺炎も引き起こしてしまったんです。
タクはいました。というか自分のまわりで吠えていてくれたために発見されたようなんですよ。
あと、その子どもの青い手袋なんですが、救急車で運ばれたどさくさでどっかにいってしまいました。
・・・あのあと何回かその道は通ってるんですが、ビルのすき間は絶対に見ません。
またあれを見つけてしまうと今度は・・・」最後は言葉を濁した。


ハゲんなよ

2013.09.07 (Sat)
『記憶の固執』サルバドール・ダリ

俺は古本屋巡りが趣味で、このあいだの日曜日の午後に何軒か回って歩いたんだ。
んで最後に入ったとこで、ちょっと厚めの考古学の本を手にとった。
これたしか前に持ってたよな、高校くらいのときに興味があって買ったんだっけ・・・
パラパラとめくってみると、黄色のラインマーカーで線が引かれてるところがあり、
変色しているが何だか見覚えがある気がした。
あれこれもしかして、10年前に俺が大学に受かって家を出るときに本を整理して売ったやつかな。

少し書き込みのあるページもあり、やっぱり自分の字のように思えた。
懐かしさがこみあげてきた。
しかしすごい偶然だよな、自分が売った古本を10年後に見つける確率ってどれくらいのもんかな。
そんなことを考えながらなおもページを繰ってると、
裏表紙の内側のところに「2013,5,12ハゲんなよ」と黒のサインペンで今日の日付が書かれてた。
ん?ハゲ・・・
それを見たとたん、俺はものすごく重要なことを瞬時に思い出した。

行かなくちゃならないところができた。行かないと命にかかわる。でもどうやって・・・
そのとき頭の後ろを平手で軽くポーンと叩かれたような衝撃があって、
俺は立ったまま開いていた本に鼻をぶつけ、そこからずぶずぶと沈んでいった。
プールの底のような青く揺らめく空間を落ち込みながら、
俺は冷静にポケットからハンカチを取り出し鼻にあてた。
もうあの日の記憶をほとんど取り戻していた。
沈んでいる感覚があったのに、俺はイルカが水面に飛び出すように、頭からにゅぼっと床の上に出た。
その部屋には青黒い煙が充満していた。

ベッドの上の布団が寝タバコの火でいぶっているんだ。なんとか消さないと酸欠で死ぬ。
俺はまず部屋の窓を二つ全開にし、煙を出している掛け布団を丸めると下に落として足で強く踏んづけた。
ドシドシ踏んづけていると煙が弱まってきた。それから俺は布団を持って階下に降りると、
水の溜まった風呂桶に投げ込んで足で沈めた。これで大丈夫だろう。
この日は両親と妹は出かけていて、家には男子高校生以外だれもいないのはわかっていた。
次に「うーん」とうなっているTシャツ、パンツ姿の高校生を強く揺さぶって起こした。
たんに寝てるだけじゃなくて煙も吸ってるらしくなかなか目を覚まさなかった。
どうせ大丈夫なことはわかってるんで、けっこう強くパシパシと頬を叩いたらやっと目をあけた。

俺はその耳元で「火事だ!」と声をあげた。
高校生はビクッと飛び起きたが「あいてて」と頭を抱えて体を折った。
「コラ、しゃんとしろ。火事だぞ、お前の寝タバコのせいで」そう言うと、
高校生のえり首をつかまえて引きずり起こし、窓辺に連れていって空気を吸わせた。体重が軽い。
高校生は窓の外にちょっと吐いてからゼイゼイ言っていたが、俺を見て「あんた誰?」と聞いてきた。
「まずは礼を言えよ。命の恩人だぞ」俺はそう言うと、高校生に顔を近づけて、
「じつは俺は10年後のお前で、命を助けに来た。信じるか信じないかはあなたしだいです」と、
ちょっと芝居がかって言った。
「嘘だろー」とつぶやいている高校生の俺を尻目に、
俺は本棚から考古学の本、勉強机の引き出しから黒ペンを取り出した。どこに何があるかはわかってた。

「時間がないかもしれないんだ。この裏表紙のところに『2013,5,12』と書け。
これを書くのが重要みたいだ。いいから質問するな。
えーとそれから、10年後の俺へのメッセージを簡単に書け。たしか未来の俺はそう言ってたはずだ」
ここまで言って「ああっ!!」と思いあたることがあった。
高校生がなんとかペンを持って書いてる後ろへ、
「お前はこれを書けば、たぶんすぐに俺が来たことを忘れるはずだ。布団のことは両親に正直に言え。
いいか、すんでのところで起きて火を消し、風呂に沈めたのはお前自身だからな。
すごく怒られるから覚悟しとけよ。それからタバコはやめろ・・・と言ってもやめないんだけどな。
髪を大事にしろ!」

書き終わったようなので本を閉じ本棚に戻すと、その手が透けてきていた。
俺が「じゃあな」と言うまもなく、来たところをもう一度通って、
気がついたら本を手に持って古本屋にいた。たいした時間はたってない感じがした。
本の中の「ハゲんなよ」の意味がわかった。10年後の俺への高校生の俺からのメッセージだったのだ。
そういえばメッセージといっても現実離れしてるんで、第一印象で「ハゲんなよ」と書いた気がする。
古本屋を出るときにガラスに映った俺の頭は額から頭頂部まで見事に禿げ上がっていた。
・・・ところで俺が、向こうで「髪をしっかり手入れしろ、将来ハゲるぞ」
とでも何かに書き残していたらどうなったんだろうか?!

 これはいちおう多元宇宙、時間旅行、親殺しのパラドクスといったものを意識して書いてみました。
あまり自信ないので、もしつじつまが合わないところがあれば教えて下さい。



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鬼の面

2013.09.07 (Sat)
私は銀行でテラーをしていますが、不思議な出来事があったので投稿します。
私が勤務している支店では「こども絵画展」を主催したり、
ほかにも近辺のカルチャースクール様の作品を店内に展示させていただいたりなど、
地域のみなさまとの親睦を深めるための企画があります。
先月は節分に合わせて学区の幼稚園の年長組の子どもさんたちが作った鬼の面を、
待合ロビーの壁に全部で40面ほど、3段にわけてはり出しました。

鬼の面といっても園児さんが作ったものですから、
最初から面の型に切り抜かれており目の部分の穴もあいていて、
それにクレヨンでまゆ毛を描いたり色をぬったり毛糸の髪をつけたりしたものです。
中に一面だけとても特色のある作品がありました。

ほとんどは地の色が一色程度なのに、
その面は深緑とこげ茶、黒が厚く何度も塗り重ねられて立体感が出ていました。
しかも本来の目の穴の上のまゆにあたる部分に、
真っ赤な目と黄色の縦長の瞳が描かれていたのです。
それを手にしたとき、背筋がぞくぞくするような、
何ともいえない感じがしたのを覚えています。
他の行員もその面を見て強い印象を受けたようで、
「これすごいな」「幼稚園児が作ったとは思えない。鬼気迫るようだ」
「もしかしたら将来は岡本太郎のようになるんじゃないか」
などと感想を述べあっておりました。

この面は二十日ほど展示されていましたが、その間にさまざまなことがありました。
ロビーの長イスでこの面の正面近くに座ったお客様は、
面が目に入るとハッとしたような顔になります。
それから立ち上がって面のほうに近づいていきそうになりますが、途中でやめ、
離れた場所に席をかえてしまわれるのです。

ほとんどの方が同じような反応で、これは掲示してから3日目くらいに気づきました。
さして広くもないロビーですから席をかえても目には入るのですが、
その面の前の長イス3つで、そこだけ縦に人が座っていない状態が続きました。
また小さい子どもさんは、同年代の子が作ったものであるせいか、
すぐに展示に興味をひかれるものの、
その面を見てしまうとくしゃっと顔がゆがみ、かといって泣き出すわけでもなく、
どんなにはしゃいでいた子でもひじょうに大人しくなってしまうのです。

いつもの月にくらべてロビーで具合が悪くなってしまったお客様も多かったと思います。
それと、これは関係がないかもしれませんが、
面を展示していた期間中、私も含めて業務上のミスが多く、
支店長からの訓示めいたことまでありました。
展示から10日くらいたって、他の面はなんでもないのですが、
その面だけ彩色が溶けたようになり、目の縁や口の端からしずくとなって垂れ下がり、
床を汚すようになりました。これだけクレヨンでないのかもしれません。
そしてこれも偶然と思いたいのですが、週2回派遣で来られている、
60代の清掃員の方が急にお亡くなりになったのです。

この面は何かがおかしい。そう気づいているのは私だけではないようでした。
窓口に出ている数人は絶対にその面の不気味さと、
よくない出来事の関連を感じ取っていたと思います。
でも昼休みや退社時などにも、だれもそのことを口に出す人はいませんでした。

私もそうでした。なぜだか、話題にしてはいけない、
言葉に出してはいけないという気が強くしたのです。
あと3日で展示が終わるという日でした。
その日私はロビーに一番近い窓口にいたのですが、
横の入口から黒いスーツを着た、普通の男性より頭ひとつ半くらい高い、
ひじょうに長身のお客様が入ってこられました。
50代くらいだと思いましたが顔にはしわがほとんどなく、
体格に比して小さくやや薄くなった頭をオールバックになでつけておられました。

そのお客様は整理番号札を取りもせず、あのお面のほうに近づいていかれました。
長身のため、掲示してある面とその方の顔がほとんど同じ高さになっていました。
お客様はつぶやくように、「おお息子、ここにいたのか」こう言われました。
小さな声でしたが、お客様が面の前に立ったときから注意していた私には聞こえました。
そして両手で赤ちゃんを抱きとめるような仕草をすると、そのまま出ていかれました。
あまり不思議だったので、手が空いたときにロビーに回ってみました。
するとあの面の、色や造作には違いはありませんでしたが、
見るものをかき乱すような不吉な感じは消え去っていて、
ただの子どもが作ったお面としか思えなくなっていました。

展示期間が終了して幼稚園の先生がお面を取りに来られとき、
好奇心に負けてこのお面の話を出してしまいました。
先生はだまって話を聞いていましたが、
「これを作った子は、今児童相談所にいます」とだけ答えられました。
言ってから、ああいけないという顔をされ、
雰囲気が気まずくなって、お茶でもといったのを断って帰っていかれました。
これでお話は終わりですが、
いつも年金を引き出しにこられる顔見知りの女性のお客様から、
「あの化け物いなくなったんだね、よかったね」と帰りがけに言われました。
あのお面のことだと思います。

『オフィーリア』ジョン・エヴァレット・ミレイ







耳の中のガイコツ

2013.09.05 (Thu)
大学生だったときの話。
その日学食に行ったら、あんまり学校に来ない研究室の2コ上の先輩と久々に顔を合わせた。
定食を取って同じテーブルに着いたら「珍しいものを見せてやる」と言われた。
先輩はジャンパーの内ポケットからティッシュを出すと包んでいたものをテーブルの上に転がした。
それは白っぽい小石のようで「何すかコレ」と手にとってみた。
大きさは米粒くらい。くるっと裏返してみるとガイコツの顔があった。
ものすごく精巧にできていて、1ミリもない歯がずらっと並んでいる。

「へー、すごいよくできてますね」と言うと、
「だろ、この大きさでアゴも動くようになってるんだぜ。それよりどうやって手に入れたと思う」
「・・・さあ」
「じつは昨日耳そうじをしてたら、奥に何かが引っかかってる感触があって、
耳かきで30分くらいかけて掘り出してもらったのがこれなんだよ」
先輩は同棲してるんで彼女に取ってもらったんだろう。
「掘り出すとか発掘みたいすね。ヒザ枕だったんすか?」
先輩はそれには答えず「知り合いのアラブ人にアクセサリーに加工してもらおうと思ってる」
その日はこれで別れた。耳の中から出てきたというのは冗談だと思って、すぐにこのことは忘れた。

1週間くらいして、また学食で並んでいるときに後ろから背中をビタンと叩かれ、
振り向いてみたらその先輩だった。先輩は、
「こないだのガイコツな、アラブ人に銀細工の指輪にしてもらおうと持ってったら断られた」
最初、何のことかわからなかったが、
「あああれ、何でですか」
「知らん。とにかく見た瞬間いやーな顔をして、ワタシダメネとか言ってどっかいっちまった。
それ以来姿見せねえんだ」
「何ですかね。ヤバイこととかあるのかな」
「でもよ、ずっと俺の耳の中にあったとしたら、これまで何ともなかったんだぜ」
「耳って、ホントすか」
「本当だよ。で、今ちゃんとした細工の店に出して指輪にしてもらうとこだ」
こんな会話をした。

さらに2週間くらいして、たいへんな事態になった。先輩の彼女が殺されたんだ。
先輩は高校の同期で社会人になってるその彼女のアパートに同棲してたんだが、
会社を無断欠勤したために見にきた同僚によって、ベッドの上で死んでいるところを発見された。
これは地元ではかなり大きなニュースになって、新聞には喉を切られて亡くなったと書かれていた。
先輩は行方不明で、重要参考人になっているということだった。
研究室はもちろん大学全体がこの話でもちきり。

報道社につてがある同輩の一人が詳しいことを聞いてきて、
彼女は寝ているところを歯で喉を食い破られ、さらに頸動脈を噛み切られて失血死したらしい。
また体のあちこちに歯型が残っていたが、
動物ではなく人間の歯によって傷をうけた可能性が高いようだとも言っていた。
俺には先輩が犯人だとはとうてい信じられなかった。
あまり学業熱心じゃなく単位もきちんとは取っていなかったが、
そんな暴力的なことをする人じゃなかった。
これは俺だけじゃなく、先輩を知る人はみんなそう言ってた。
しかも卒業したら彼女と結婚する予定だったんだ。

俺はこの頃、あるショッピングセンターでエレベーターボーイのバイトをしてた。
今は遅くまでやってる店も多いが、
そこは売り場部分は7時に閉店して10・11階の飲食店街のみの営業になる。
俺は警備会社から雇われていて、店員の女の人とバトンタッチし、
7時半から11時半までそのエレベーターで1階と飲食店街だけを往復する。
客は多くないし、これはけっこう実入りがよかった。
その日、下で待機しているとマウンテンパーカーのフードをかぶった人が乗ってきた。
「いらっしゃいませ」と言って上に行くボタンを押すと
「そのままこっちを見ないで話を聞いてくれ」とその人が言った。先輩の声だった。

驚きで固まっていると、
「ここカメラついてるだろ。録音まではしてないだろうから上と往復しながら話をきいてくれ、すぐすむ。
・・・この間、耳から出てきたというガイコツを見せただろ。あれ恐ろしいものだった。
いや、こんなこと言っちゃいけないか。俺の弟だったんだよ」
ここまで聞いて、ああ先輩はおかしくなってるんだなと思った。
しかし先輩は俺の気持ちを察してるかのように、
「信じなくてもいい。お前がこのバイトしてるのを思い出して、今ここに持ってきてる。
頼みがあるんだ。俺は手配されてて近づけないから、これを◯◯市の◇◇寺の住職に渡してくれ。
俺の実家のあるところなんだ」
そう言って、俺の制服のブレザーのポケットに横から何かを入れてよこした。

エレベーターが下に降り着いて先輩は出て行ったが、ドアが閉まる前に、
「変なことを頼んでもうしわけない。殺したのは俺じゃない・・・と思う」そう言い残していった。
「ちょっと待って下さい」と追いかければよかったと今にして思うが、そのときはできなかった。
一人になってポケットに入れられたものを出すと、
前に学食で見せられたガイコツだった。華奢な指輪に加工されていた。

アパートに戻って、さてどうすればいいのか。先輩が言っていた市は他県でしかもかなり遠い。
俺は当時免許を持ってなかったし、電車の便もよくないらしい。
あれこれ考えたが、バイトは俺と交替でやってるやつに代わってもらうことにして、
行ってみようと思った。
指輪はじっくり観察してみたが、どうやら女性もののようで俺の指には合わない。
ガイコツは磨かれてクリアを塗られたみたいで、前に見たときより光沢が出てた。
髑髏というありがちなデザインなのに下品な感じはまったくしなかった。
トランプのケースに入れ、机の引き出しにしまって寝た。

じつはこの話は何度かしたことがあって、そうするとこの部分は夢なんだろうと言われる。
しかしとうてい夢とは思えない現実感があった。
夜中に目が覚めて、反射的にベッド脇の時計を見ると午前2時半すぎ。
すぐ近くからかすかに赤ん坊の泣き声が聞こえた。
それも「ひぐっ、ひぐっ」というひきつけでも起こしてるような声。
体は動いたので起き上がって明かりをつけようとしたとき、
ベッドの下からそれが這い出してきた。 

裸の赤ん坊で、暗くてよくわからないがまだらな影が体にあった。
下向きになって這っているそのおしりの部分から、
ものすごく細くて弱々しい人形のような足がもう一組つき出ていた。
赤ん坊は震えながら、ベッドの上から俺がのぞき込んでいるのを知ってるかのように、
くるりと反転して上を向いた。顔は大人の顔、先輩の顔にとてもよく似ていた。
しかし表情はゆがんでいて、暗い中でもものすごく邪悪なものであることはわかった。
何かをわめいたような気もするが、よく覚えていない。気がついたら朝になっていた。

ベッドの下には何もなく、何かがいた跡もない。
指輪を確かめようと引き出しを開けると、
指輪はあったがプラスチックのトランプケースが縦に割れていた。
それをショルダーバッグに入れ、朝一で銀行から金をおろし駅で時刻表を買って電車に乗った。
列車を乗り継いで、先輩の言っていた市に着いたときには午後5時を過ぎていた。
そこからタクシーで寺に向かった。
さいわい住職は寺にいた。思っていたよりずっと若かった。
俺が玄関先で先輩の名前を出すと、顔をくもらせて座敷に通してくれた。

「事件のことは新聞で見ましたが、△△さん(先輩の名)が関わってるとは思いませんでした。
耳から出てきたガイコツですか・・・私の父、先代の住職からこれに関する話は引き継いでいます。
その指輪はあずかりましょう」俺は指輪を出して渡した。
住職は直接手では触れずに袱紗のようなものに包み込んだ。
「詳しい話が知りたいでしょうが、あなたはこれ以上関わってはいけません。
この地方に古くから祟る双子の因縁なんです。
もう何人もこのために亡くなっているんです。・・・私の父もです。
△△さんはしばらくこちらに帰ってないので父がまだ生きてると思ってたのかもしれませんね。
指輪は供養しますが、自分にどれくらいのことができるか」住職は力なく言った。
俺が「先輩はどうなるんですか」と叫ぶように聞くと、
「残念ですが私にできることがあるとは思えません。それに警察もこちらを張っているのでしょう。
△△さんが立ち寄れば身柄を拘束されてしまうでしょうし」
礼を言って寺を後にするほかはなかった。

1週間後くらいにあの寺からはるかに離れた県で、
先輩が盗難車に排気ガスを引き込んで自殺しているのが発見された。遺書はなかった。
同棲していたアパートから血のついた先輩の衣服が発見されたこと、
その他のさまざまな状況証拠から、彼女を殺した犯人は先輩ということで被疑者死亡の状態で送検された。
ただ事情通の同輩によれば、被害者に残された歯型は先輩の歯型とほとんど一致したが、
歯科の治療跡や抜けた部分など一致していないところもあったそうだ。