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トラップ

2014.05.03 (Sat)
2ヶ月ばかり前のことだ。仲間4人で心霊スポットに行ったんだよ。
メンバーは俺と俺の彼女、ダチとその彼女で男2、女2だった。
行った先は俺らのとこから車で1時間くらいの別の市にある廃ホテル。
廃墟としてはレア物じゃなく、もう10年以上も放置されてるとこで、
前には放火もあったらしい。
オーナーが首を吊ったという噂もあったようだが、そういうのはたいがいデマだと思ってた。
いや、俺らは別にそんな心霊に興味あるとかじゃなくてヒマつぶし程度の感覚だった。
俺の部屋で11時過ぎまでウダウダしてて、そこで行ってみないかって話になったんだ。

酒は飲んでなかったから俺が運転することにして、懐中電灯が部屋に一本、車に一本。
あとは落書き用の缶スプレー、これが必需品だと思ったがなかった。
ただ俺の車が紫のリペイントで、それ用のタッチペンがあったのを思い出してポケットに入れた。
土曜の夜だったんで道は空いてて、その市には1時間かからず着いたが、
ホテルの場所がよくわかんなくてちょっと迷った。
だがまあ県道沿いって聞いてたから、しばらく流しているうちにそれらしい建物が見えてきた。
ちょっとした林に囲まれてて、不気味といえばそうだが怖いとまでは思わなかった。
駐車場跡に車を停め中に入ると、別にロープ張られてるわけでもなかった。

懐中電灯は男2人が持ち、俺は車に入ってたバールも持ってた。
ただ駐車場もふくめて近辺には他の車はなく、その夜の探索者は俺らだけみたいだった。
トラブル心配しないですむのはありがたい。
入り口から普通に入った中は一昔前のホテルって感じで、
布団とかテレビとかそういった備品はなんもない。
倒産して全部持ち出されたとかかもしんない。
あちこち壁は予想通りにスプレーだらけで、やっぱ俺らも用意してくりゃよかったと思った。
1階から律儀に全部屋に入りながら階段で上へ進んでった。
俺はあんまりこういうの怖いと思ったことないが、女たちはキャーキャー言ってたな。
けどこれって明るいときに見れば単に寂れてるだけなんだろ、くらいにしか感じなかった。

3階まで来て、特に焼け焦げてるとかのとこはなかったから、放火はデマだったと思った。
あとガラスとか鏡とかあちこち割られてて、その破片が危険でそっちに気をとられてた。
「4階が一番やばいって話だよな、特に階段から5番目の部屋」
事情を知ってるダチが言った。
その階も一部屋ずつ入っていったが別に下と変わりはない。
ただその5番めの部屋の風呂だけ、なぜか他と違って水が3分目くらい入っていて、
それがちょっと薄気味悪かった。
暗いとこでライトに照らされた水はなんか見てると落ち着かなくて、
このあたりが霊は水場を好むって話の出場所かもしんない。
1時間以上かけて端の部屋まで見て、これで全部だな面白かった、と戻ろうとした。

階段まで行って、来たときには気がつかなかったが、
廊下からの正面に人の頭の倍くらいのガイコツが黒っぽい壁に白スプレーで描いてあって、
ディズニーの海賊船の旗より実物っぽいくらいのやつ。
で、その横にガイコツの3倍ほどのマンガで出てくる吹き出しがついてて、
その下に何か書いてあった。
「・・・死んでほしい相手の名前をこのフキダシに書くがいい」俺が声に出して読んでみた。
「最近のなのかな。何も書かれてないね」とダチ。「バカバカしい」と言って降りようとしたとき、
「ねえ、せっかくだから誰かの名前書いていかない」とダチの彼女が言った。
「んなことで死ぬわけがないよ」
「それはそれでいいじゃん。
もしそいつがここに来て自分の名前見たりしたら嫌な気になるだろうし」
ダチの彼女が食い下がる。

俺が「んじゃ、ペン持ってきてるから書けば。気が済むまで」そう言ってタッチペンを渡した。
「そんな恨んでるやつとかいんのかよ。怖いなあ」と半笑いしながらダチ。
「恨んでるってほでもないけど、イジワルで気分の悪い会社の先輩がいるからそいつの名前書く」
ダチの彼女はスーパーの売場勤めだった。
シャッシャッと女名前を書き終えて、俺にペンを返してよこした。
あとはどこにも寄らずまっすぐ階段を下りてホテルを出、車で戻ってきただけ。
・・・こういうスポットには何度も行ってるけど、それらしいことがあったためしはなし。
音はいろいろ聞こえるが何とでも説明できるものばっかだったし、
写真にはっきり写ったものなんて一つもない。だからこのときも携帯で写真も撮んなかった。

そっから1週間後、ダチと会ったら浮かない顔をしていた。
「どうしたんだよ」って聞くと、彼女が原因不明の頭痛で会社休んでるって話を聞いた。
「あのホテルに行った翌日からなんだよ。なんか関係あるんかな」
「ねえよ」
「でもよ、壁に名前とか書いたりしたよな」
「霊とか呪いとかないって。あそうだ、その名前書いた先輩どうかなったとか言ってたか」
「ピンピンしてるって」
「だろ、頭痛はたまたまだろ。医者の言うこときくしかねえじゃん」
「まあそうだけどな」

こんな会話をしたが、この後、ダチの彼女は緊急入院することになってしまった。
脳腫瘍が疑われてるようだった。俺の彼女と見舞いに行ったが、会えたのは最初だけで
すぐに面会できない状態になった。開頭手術するっていう大事になっちまったんだ。
アパートで彼女とそのことについて話してると、
「ねえ、もう一回あのホテルに行ってみない?」と彼女が言った。
「あのガイコツのことか?関係ねえって」
「私もそうは思うけど、人を呪わばアナーキーって言葉もあるんだし、
手術の前に気になることは全部やっておいたほうがいいんじゃない」
「んー、ま、別に簡単なことだからなそりゃ。んじやペイント薄め液持って行ってみるか」

ってことで、昼訪れたホテルは簡単に見つかり、やはり陽光の下では怖いという感じはない。
あーこんな心霊スポット巡りとかくだらない、もう潮時だなと思った。
どこも寄らずに4階まで駆け上がって、突き当りの横壁を見たが、
あのガイコツの絵はどこにもない。もちろん吹き出しも、
あのとき書いたダチの彼女の先輩という女名前もない。ただただ意味もない落書きで埋められてるだけ。
3階や他の階段も、ホテル中探してもどこにも見つからなかった。
・・・ダチの彼女の手術当日には俺の彼女も病院に行ったが、
手術は成功とはいいがたい結果で、それから1月後にダチの彼女は亡くなった。
これで終わり・・・その後心霊スポット回りはやめたよ。




泥川

2014.05.01 (Thu)
俺が中学生の時分の話だよ。
その頃の中学校はどこも荒れててね。
シンナーまでいかなくてもタバコ吸うやつはけっこういた。
そういうやつらはたいがい部活やってないからすぐに帰る。
その下校時間から1時間ばかり、生徒指導の教師が学校の回りを巡回するんだよ。
つかまえられると親呼ばれるし、それなりに気を遣ったもんだった。
溜り場はあちこちにあったけど、族とかが出入りするとこは怖くて近寄れなかったし、
だんだん行動範囲がせばめられてきた。まあ半端もんだったんだな俺らは。

ダチの一人が「いい場所を見つけた」って言ってきた。
学校の近くを川が流れてるんだが、その河川敷の土手に古びたベンチがあるって話だった。
「そんな広いとこじゃすぐに見つかるだろ」と答えると、
土手のその部分だけ外側にずれていて支流のドブがある。しかもそこへ行くには、
工場の高い塀と労働者アパートとのせまい小路しか道がないらしかった。
「そりゃいいかもしんねえな」
「まあ近くだし帰りにちょっと寄ってみるか」そう話はまとまったんだ。

工場街の印象は安っぽいトタンの空色と赤錆の色だった。
デカイ建物の並ぶ入りくんだ区画を抜け、俺と2人のダチは小路までたどりついた。
季節は夏前、ちようど今頃だったと思う。
アパートは薄汚い2階建てで、隣の工場の塀とあまり変わらない高さだった。
アパートの窓は小路に向いていたがみな閉まっていて、
住人はまだ働いてる時間帯のようだった。
幅1mほどの小路に踏み込むと、足のやり場がないほどゴミが散らばっていた。
窓から投げ捨てていんだろうと思った。

「ひでえ臭いがする」ダチの一人が言った。
ゴミの臭いも混ざっているが、酸とか金属とか、よくわからないが薬品臭がキツかった。
「しょうがねえだろ。工場から離れればマシになるかもしれん」
「もうここで、だれもわからねえだろ」
ダチの一人がバッグからタバコを出してオイルライターで火をつけた。
俺ともう一人もタバコをくわえ、そうすると臭いもいくらかましになった。
跳びはねるようにしてゴミを避けながら、かなり長い小路を通り抜けると土手へ出た。

3mばかり低いとこを、ほとんど水のないドブ川が流れて本流とつながってた。
ドブ川は白く塗った金属の手すりで囲まれていて、
その手前に朽ちかけた木のベンチが2つあった。
ここへ出て、臭いはかえってひどくなったような気がした。
「こりゃダメだ、こんなとこで落ち着けるはずがねえよ」
「だな、ダメダメだ。これ吸い終わったら帰ろうぜ」
ベンチには座らず、そこらをうろうろした。
一人がドブ川に吸い殻を投げ入れたとき、こっちを見て「あれ、なんだろ」と言った。

のぞき込んで見ると、昔の黒いゴミ袋が10個ばかり川の脇の泥土の部分に積み上げられていた。
一つが大きめのバッグくらいだった。
「ただのゴミだろ。アパートのやつらが捨てたんじゃないか」
「それにしちゃいやにきちんと積み上げられてるし、今なんか動いたような気がしたんだ」
「中のゴミがずれたんだろ」俺がそう言って、
足元からコンクリのかけらを拾って一番上の袋に叩きつけた。
すると空気で膨らんでいるという印象はなかったのに、ゴミ袋がボンとはじけ、
液状の泥が飛び散った。ますます臭いがキツくなった。

「中、泥じゃねえか」袋の中の泥が破れ目から流れ落ちてきたが、その中に白いものが見えた。
眼窩のようなのがついていた。「動物の頭蓋骨じゃね?」
その骨はドブまで滑り落ちるかに見えたが、グンと頭をもたげるように宙に浮き上がった。
泥の体に白い犬かなんかの頭を持った1mくらいの・・・生き物?!
泥の中に細長い白い骨が見え隠れしていた。頭蓋骨以外にも骨格が中に入っているようだった。
「なんだよあれ!」ダチの一人が叫ぶと、
その声が聞こえたようにそれは頭をもたげ、黒々とした眼窩でこっちを見上げた。
「・・・怪物じゃねえか」俺らは次々石を投げたが、当たっても体の泥にもぐり込むだけだった。

それは俺らに興味を失ったように後ろを向くと、積まれている袋の一つを食い破った。
泥が流れ落ち、中からまた同じのようなのが出てきた。
「あの袋全部あれが入ってるのか」「もう逃げようぜ」「吐きそうだ、この臭い」
俺らが逃げ腰になって小路のほうへ戻ろうとしたとき、
小路から男が出てきた。色が浅黒く、髪の毛も黒く縮れていた。
今から考えれば、南米人とかじゃなかったかと思う。
そいつは背が低かったが筋肉質で、片手にギラギラする包丁のようなのを持ってた。
「◯☓□□△!!」そいつが日本語ではない言葉で叫び、こちらを睨みつけた。

「ヤベ、逃げられないぞ」男はずんずんこっちに近づいてくる。
「川へ逃げろ」「あれがいるぞ」「包丁で切られるよりマシだろ」
俺はそう言ってドブ川の柵を乗り越えた。下を見ると、泥の怪物は4匹に増えていた。
そいつらから3mほど離れたコンクリの側面を、一気にかけ降りるとドブの中に足を入れた。
飛び越えられる幅じゃないからしかたがない。
ズック靴にぬちゃっとじつに嫌な感触がした。
そのまま泥を跳ね飛ばしながら向こうの護岸まで走った。ダチ2人も後に続いた。
4匹の泥の生き物が最後に降りてきたダチの足元まで近づいていたが、
タッチの差でコンクリに取りついた。

3人が土手の向こうに上がると一段高くなった本流の土手があり、そこを通る歩道が見えた。
泥の怪物はコンクリを登ってはこれないようだった。
ドブ川をはさんで、さっきの男が包丁を持った手をだらんと下げ、こちらを睨みつけていた。
「逃げようぜ!」ダチがそう言ったとき、
男が2本指をくわえて「ピイイイ」と口笛を吹いた。
身を寄せるように固まっていたドブ川の中のものが、一瞬にして崩れ落ちた。
いろんな形の骨が半ば泥の中に沈んで浮いたり、突き出たりしていた。

そこまで見て、あとは後ろを向いて全力で逃げた。
土手を息せき切って走ってるうちに、車が通る橋が見えてきた。
足を洗っても風呂に入っても、しばらく体から泥の臭いがとれなかった。
2日後ダチの一人が熱を出したが、このことと関係があるかはわからない。
1週間くらいで治った。
その区画にはずっと近寄らなかったが、10年後くらいに工場は閉鎖になり、
アパートも取り壊されたはずだ。
まあこんな話。