健康診断

2014.07.31 (Thu)
1ヶ月ばかり前の話です。開業医のところで健康診断を受けました。
本来なら会社の定期健康診断で、
会社に検査の車両がきて、そこで受けるんですが、
ちょうどその日、妻の親族の法事があって休んでしまったんです。
それで一人だけ、土曜の午前中に指定医の病院に行って受けることになったんです。
まあ本来、会社は休みの日ですから、
朝から受信しやすいように短パンとTシャツで出かけたんですよ。

病院の駐車場に車を入れてドアを開けたとき、
コンクリートにチャリンと音をたてて何かが落ちました。光ってました。
「ん?」と思って拾い上げると、チェーンのついたペンダントでした。
先にドクロの形をした5cm四方ほどの金属板がついてましたね。
いや、立体的なものじゃなくて、メッキした金属をドクロの形に削って、
目と鼻、歯の部分に穴を開けたものです。
見るからに安っぽく、オモチャじゃないかと思いました。

そういえば、昨夜塾に小5の息子を迎えに行っているので、
息子が落としたんだろうと考えました。で、ダッシュボードに入れたんです。
いや確かに入れたと思うんですよ・・・
病院の受付で要件を告げ、身長・体重から検査が始まりました。
・・・皆で受けるときは流れ作業なんですが、
このときは血圧などを測ったりするごとに、
看護師さんに生活習慣をあれこれ言われて閉口しました。
少しメタボ気味だし、タバコも吸ってるんです。
この後、視力・聴覚、尿検査、採血などがあり、レントゲンを撮ることになりました。

レントゲン室でそのまま撮りました。シャツ一枚でしたから。
ところがその後、心電図検査で横になっていると看護師さんがやってきて、
「レントゲン撮り直しします。◯◯さん、ペンダントつけてますか」こう言われました。
今はレントゲンもデジタル化されて、現像なしですぐ見れるんですね。
画像を見せられて「ええ?」と思いました。
はっきりと白い線で胸骨の上にペンダント状のものが写ってたんです。
さきほど・・・車から落ちたドクロのペンダントに間違いありませんでした。
「そんなバカな」さっき確かに車の中においてきたはずですし、
もちろん今、身につけているということもありません。

それで撮り直しになったんです。
午前中いっぱいかかって健康診断は終わりました。
車に戻ってさっそくダッシュボードを見たんですが、
さっきのドクロのペンダントはどこにもなかったんです。
わけがわかりませんでしたが、まあそれほど気に留めることもなかったんです。
私は胃カメラが苦手で、気持ちが悪くなってその後は家に帰って休んでいました。
息子が帰ってきたので、ドクロのペンダントの話を出してみました。
ところが、息子は知らないって言ったんです。
そういうのは趣味じゃないし、そんなお金があったらマンガ買うって。

不思議ですよねえ。車の中も隅々までもう一度探してみたんですよ。
・・・ありませんでした。
でね、夕食のときにレントゲンの話題も含めて家族に詳しく話したんです。
そしたら妻が「なんとなく覚えがあるような気がする」と言い出しました。
なんでも、妻の兄・・・私たちが結婚した直後に交通事故で亡くなられて、
この間13回忌の法要があった人なんですが、
その義兄が、昔そういうのを持ってたような気がするって。
ただ妻の記憶もあやふやで、はっきりしたことはわかりませんでした。

それでこないだ、健康診断の結果が出たんです。
血糖値やコレステロールなんかは心配したほどでもなかったんですが、
肺に影があるって言われたんです。再検査が必要だって・・・
たいしたことではないと思いますが、いちおう喫煙者ですしね。
明日病院に行く予定です。
あと、ドクロのペンダントですが、息子が家を出るときに、
私が言ったのと同じようなのが塀の前の道に落ちてたって言ったんです。
「キラキラ輝いていたけど、
 お父さんの話を聞いてなんとなく気味悪かったから拾わなかった。
 帰りにはもうなくなっていた」って。




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寿命

2014.07.29 (Tue)
昨夜のことです。終電に何とか間に合って帰ったんです。
ええ、飲み会じゃなくて残業です。フリーの編集者をやっていて校了が近い時期でした。
わりに混雑する駅を利用してるんですが、
さすがにその時間になると数も少なくなって、私の乗った車両には5人くらいでした。
もちろん座れて、うとうとしかけたんですが、
向かいの座席に座った50年配のサラリーマン風2人が、
どうも酔ってるらしく声高に話し始めたんです。
まあ、電車で寝てしまえば、夜中に目が覚めたりすることもあったので、
カバンから文庫本を出して読み始めました。

なに、売店で買った短い怪談が載っている雑本ですよ。
お恥ずかしい話ですが、そういうのけっこう好きでして。
2駅ほど過ぎまして、少し喉が渇いたんです。
私は自家製のハーブ茶をポットに入れて会社に持っていってたんですが、
それがまだ残ってたのを思い出して、取り出して飲もうとしました。
そのとき、駅でもないのに車両の中に一人の男が入ってきたんです。
年は40代後半くらいでしょうかねえ。丸刈が伸びかかって白髪が見えてました。

変な男、としか言いようがなかったんです。
着ているのはスーツで、おそらくイタリア製の新品だと思いました。
20万以上はするんじゃないですか。
それが・・・サイズは合っているものの、まったく似合ってなかったんです。
普段そういうのを着慣れてないやつにぽっと着せたという感じで。
ネクタイの結び目も何か変でしたし。
それから顔が妙に浅黒かったんです。
日焼けじゃなくて、垢やすすのようなのがこびりついているんじゃないかと思いました。

こういう言い方はよくないんでしょうが、
ホームレスの人にいきなり高額のスーツを着せたように見えたんです。
その人は、つっかえるような足取りでやってきまして、
向かい側の2人のサラリーマンの前に立ちました。革靴もすごい高級品でしたよ。
サラリーマンたちは「何だこいつ」みたいな目で男を見ました。
男はおずおずとした口調でサラリーマンたちに、
「旦那さんたち、なあ、頼みがあるんです。旦那さんらの寿命を1年くれませんか」
こう言ったんです。

サラリーマンの一人が「何だあんた、いきなり」と少し声を高くして言いましたが、
もう一人がそれを制して、男に、
「寿命ねえ。くれてやってもいいけど、何か面倒があるのか?」と聞きました。
男はますます恐縮した感じになり、
「いや、いや、ただそう言ってくれるだけでいいっス。あとはなんの面倒もねえから」
こう答えました。
すると2番めのサラリーマンが、
「なんだ、そんなことでいいのか。じゃあ1年といわず20年くれてやるよ」

男はぱっと顔を輝かせ「ああ、ありがて。感謝します、ありがてえです」と、
サラリーマンを伏し拝みそうになりました。
それを見ていたもう一人が「じゃあ、俺は30年くれてやる。どうだ太っ腹だろう」
男はますます顔を輝かせ、
「20年と30年で計は50年。あ、ありがてえ、あと30年分で上がりだ」
こう言って、2人のサラリーマンに何度も深くおじぎをして、
それから私のほうに近づいてきたんです。

ああ、少しおかしい人なんだな。でも特に面倒なことはないみたいだ。
私のところにきたら、やはり30年と言ってやろう。こう思ったんですよ。
男はゆっくり近づいてきて、さっきと同じように、
「旦那さん、寿命1年くれませんかね」こう言いました。
「いや、こっちも30年分やるよ」そう言おうと思ったんです。
そしたら急に、後頭部の毛が逆立つ感覚がありました。
上から引っぱられたように痛い。思わず座席の上を見上げると、
女が顔を下向きに宙に浮いて、私を見ていました。一昨年死んだ女房です。

女房は怒ったように見える顔で、何度も何度も首を横にふり、そして消えました。
あまりのことに呆然とし、声が出ませんでした。
怪談は読むものの、それまで霊など信じてなかったし、
当然見たことだってないんです。
「ねえ、旦那さん」もう一度男の声がして我に返りました。
もしや・・もしかしたら死んだ女房は、
何か私に警告するために出てきたんじゃないかと思いあたりました。
それで「いや、寿命はあげられない。他の人をあたってくれ」こう強く言ったんです。

男は顔を上げ、チェッと聞こえるように舌打ちして、
やや離れたところで寝ている人のほうに向かっていきました。
私はなんとなく怖くなって、席を立って隣の車両にうつったんです。
だから、その後がどうなったははわかりません。
やがて電車が終点に着き、私は降りて階段に向かおうとしましたら、
背後でズッターンという何かが倒れた音が聞こえました。
ふり向くと、電車の降り口でうつ伏せに男が倒れていました。
着ているものは、さっきのサラリーマン2人組の一人のもので、
もう一人が後から降りてきて「おい、どうした。大丈夫か」と大声で叫びました。

それで、倒れたのがさっき「寿命を30年くれてやる」
と言ったほうの人だとわかったんです。
駅員が駆け寄ってくるのが見えたので、
私は関わりにならないようその場を離れました。
そのときに、倒れた人には申しわけないんですが、
なんとも言いようのない安堵感で胸がいっぱいになっていたんですよ。
これで終わります。




蛟3

2014.07.29 (Tue)
占星術の勉強をしています。星占いとも言いますね。
僕がやっているのは、西洋の伝統的な占星術に、
独自の統計学的な要素を加えたものなんですが、
限界を感じることもありまして、
それで、ちょくちょく中国に旅行することになりました。
東洋の占星術を学んでみたいと考えたからなんです。
最初のうちは、向こうに行ってもまったくつてがなくて、
教えてくれる先生に巡り会うことすらできませんでした。完全な無駄足です。

中国って、わりとコネ社会なんですよ。
人の紹介がないと何も始まらない。ほら、華僑の人なんかもそうでしょう。
そのことに気がついて、まず日本でコネを得ることに専念したんです。
幸い僕が住んでる近くにもチャイナ・タウンがありまして、
そっからはトントン拍子ですよ。中国でも権威のある先生と関係がついて、
年に一度以上は教えていただくことになりました。
1ヶ月は滞在します。滞在費は安いですが、飛行機代がキツイです。

で、向こうではいろいろ不思議な出来事も目にしたんです。
僕がお会いするのは、伝統的な知識・技能を持った人が多かったですからね。
3年前です。先生から、風水師として有名な方を紹介されまして、
ためになるからお話を聞いてこい、と。
その方は、風水師ではあるんですが、むしろ実業家として有名で、
上海を中心に、中国飯店・・・レストランをいくつも経営しているんです。
お住まいはビルの20階で、ワンフロアがすべて住居と事務所でした。
いちおう仮名で、周さんということにしておきます。

その事務所におじゃましましたが、入り口から入って衝立状の曇りガラスがあり、
そこから横にずれたところにさらに内部のドアがあったんです。
この構造は日本でもよく目にしますよね。
外部から来た人が、ワンクッション置かないと中に入れない仕組み。
つまり何か不測の事態があった場合、時間を稼げるんです。
「ああ、やはりそういう人なんだろうな」と思いながら、
案内の女の子にしたがって中に入ると、目の前に巨大な水槽があったんです。

「あ!」と思いました。『葬経』にある「気乗風則散 界水則止」です。
「風は気を散らし、水は気を止める」という意味で、風水の基本の一つですね。
その人にとって金運のある方角に水槽を設置し、赤い魚を入れる。
赤い魚は金魚でもいいんですが、フラワーホーンというおデコの出た改良魚も有名です。
それとほら、ブルース・リーの映画で、悪党の親玉が海水魚のミノカサゴを飼ってましたが、
あれなんかもそうだと思います。
その水槽は2m☓1m☓1mほどで、これだと水量だけで2トンになります。
鉄筋のビルだと問題はないでしょうが、
一般家庭だと床の補強工事を考える必要のある大きさです。

ただ、その水槽は水は澄んでいましたが、ろ過器のようなものは見あたりませんでした。
普通は、お金が回るように、水を動かしておくものなんです。
それと隅々まで見ても魚がいる様子がありません。立ち止まっていると、
「ああ、それ気になるかね」と流暢な日本語で声をかけられました。
幢というのでしょうか、日本でいうなら暖簾のようなのが何枚もかかっていて、
それをくぐって70代と思われる白いあごひげの小柄な老人が出てきました。
周さんです。有名な方なので、写真で何度も拝見していて、
それではスーツ姿が多かったんですが、
このときは中国古来の伝統的な服装をしていました。

テーブルに座り、中国茶と点心をいただきながら小一時間ばかりお話をうかがい、
またいくつか人脈も紹介していただきました。ああ、会話はほとんど日本語です。
周さんは、戦後すぐに10年以上日本におられたということで、
僕のつたない中国語より、はるかに上手でした。
いや、ごきげんを損ねないように必死でしたよ。
・・・中国の方は、拝金主義と言われることもありますが、
ある年齢以上の人は、勉強しようという志のある若者が好きな方が多いんです。
金持ちに限りますが。ああ、すみません、話がそれてばっかりで。

その訪問の最後に、気になっていた水槽について聞いてみたんです。
周さんは「ああ、あれは金運と関係はない。むしろ、この部屋の浄化装置だ」
こう言われました。わけがわからなかったので、
「どういうことですか」と重ねて問うと、
「君には見えないかもしれないが、魚はいるんだよ。
 すべてを喰ってしまうオソロシイのが」こう言って子供のような表情で笑ったんです。
「見せてあげられるけど、今すぐは無理だな」
呼び鈴で秘書らしい女の子を呼んで、スケジュールを聞いていましたが、
「来月の10日の2時に、もう一度ここに来てごらん、時間ピッタリに」

まだ滞在予定期間内でしたし、
再訪するのはこちらもありがたかったので、即座に承知しました。
で、その当日、1時半過ぎに駐車場に入り、ビルの前に行って待っていました。
2時少し前に見送られて出てきたのはスーツ姿の男2人で、
一目で黒社会とわかりました。
えー、黒社会は日本でいう暴力団のようなもので、黒幇とも言います。
すぐに路上駐車していたベンツが寄ってきて、男らを乗せていきました。
僕がビルの受付に行くと、前に見た女の子が20階の部屋に案内してくれました。
入って水槽の前に出ましたが、前と変わっているとは見えませんでした。
「おっ、来たね」周さんの声がしました。

「ここ出てった人見た?」 「はい」
「どう見えた?」 「幇の人だと思いましたが・・・」
「そう、コワイコワイ、悪い人たち。仕事で会うけど、部屋に悪い気が溜まるよ。
 でもね、あの人たちのとこへは行きたくないしね」周さんはそう言って、
手に持った金属の棒で、水槽をコンと軽く叩いたんです。
すると、一瞬で水槽の中が赤とピンクに濁りました。
動いていなかった水が赤茶色に染まって強い勢いで回っていました。内蔵に見えました。
腸やその他の臓器がいくつもからみあって、うねうね、ぐるぐると・・・
その臓器の中に顔がありました。一つ二つ・・・たくさん。

顔だけです。腸の間に見え隠れしながら、泣いたり叫んだり、悲痛な表情の。
男も女も、子供も年寄りもありました。
「・・・これは、何ですか?」僕がやっと声を絞り出すと、
「罪業だよ、さっきの人たちのね」周さんは平然とした声で言って、
また金属棒で水槽の縁を叩きました。・・・白い蛇でした。
長さは1mくらいでしょうか。腸の間から頭を出し、しばらく一緒に回っていましたが、
それからスゴイ勢いでまわりのものを食い始めたんです。
まるで消しゴムで消すように赤い内臓がなくなっていきました。
しかもそれだけ喰っているのに、
直径10cmほどの蛇の腹はふくらんでこなかったんです。

2分もかからず水槽の中のものは消え、前のように澄んだ水が残りました。
蛇は周さんのほうに頭を向け、
まるで一礼するかのように動かして一瞬で消えたんですよ。
「ね、浄化した」周さんが言いました。「今のは・・・」
「𧈢𧏡と言うんだよ」発音が難しくてわかりませんでした。
というか字が想像できなかったんです。それが顔に現れたんでしょう。
周さんは続けて「日本では蛟というみたいだね。ミ・ズ・チ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ああ、まだ勉強が足りない」そう思ったんです、占星術とは関係ないにしても。
こんなことはまだいくつもあります。また来て話をしてもいいですよ。

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死んだ2

2014.07.27 (Sun)
某証券会社に勤めています。3ヶ月前にあったことです。
その日は仕事が遅くなって、
会社から最寄りの駅に着いたのが終電の少し前でした。
そんな時間だったので人もまばらで、
疲れて早く帰りたいということしか頭にありませんでした。
もうすぐ電車が来そうなので、ホームの白線の近くまで歩み寄って・・・
そのとき背中をドーンと押されました。
私はつんのめるようにして胸から線路に落ちたんです。
頬と両膝を強く打ったんですが、痛みを感じている暇がありませんでした。
列車到着のアナウンスが始まったんです。

飛び起きて、ホームによじ登ろうとしました。
幸い、何人かの人が駆け寄ってきて手を引っぱり上げてくれたんです。
ホームに上がって、手をつきながら後ろをふり向いたとき、
線路上に人がうつ伏せに倒れているのがちらっと見えた気がしました。
自分と同じ服を着ていたと思うんですが、
一瞬で電車が走りこんできたため、自信はないんです。
というか、その後、事故があったという話はまったくなかったので、
転落のショックで幻覚を見たんだと思いました・・・そのときは。

私はあえぎながら「背中を押された」とまわりを囲んだ人に訴ました。
すると「よかった」という顔をしていた親切な人たちは、
急に不審な表情になったんです。そしてお互いの顔を見合っていましたが、
その中の年配の一人が、
「あなたね、わたしはたまたま見ていたけど、誰も後ろに人はいなかったよ。
 一人で前に崩れるようにして落ちていった」
他の人もうなずいていました。
駅員さんが駆けつけてきて、「ケガはないですか」と聞かれました。
膝が特に痛かったのでそのことを言うと、救護室に連れていかれました。

その途中、携帯に着信があったので、出てみると彼氏からでした。
いきなり「無事か?何か変わったことなかったか」と聞かれました。
そのときはたてこんでいて長くは話せませんでしたが、
あとで部屋に帰ってゆっくり聞いたところ、
「一人で部屋でネットを見ていたら、窓を閉めてたのにカーテンが異様に膨らんだ。
 おかしいと思って近づいて開けてみたら、窓の外、4階の暗い空にお前が立ってた。
 ただ俯いているだけで、数秒で消えた。それで、気になって電話したんだ」
ということでした。彼が私の姿を見たのは、
ちょうどホームに落ちた時間だったんです。

それだけじゃなく、実家の母からも連絡がありました。
実家にいる高校生の妹が、「姉さんが死んだ」と言って、
泣きじゃくりながら居間に飛び込んできたということでした。
寝転がってメールを打っていたら、天井に私の姿が見えたんだそうです。
その表情が悲しくて、何かを訴えているみたいで、
「何かあったんだ」と直感した、ということでした。
そしてその時間も、やはり私がホームに落ちたのと同じ頃合いだったんです。
さらにです・・・仲のいい同僚からもメールが入っていて、
翌日会社で話を聞いたところ、
早めにベッドに入っていたら私が死んだ夢を見たということでした。
血まみれで体の部分が欠けたりして、ありえないほどリアルな夢だったそうです・・・

ええと、話が前後してしまいました。
駅の救護室で治療を受けましたが、膝と顔の打撲ということでした。
「救急車を呼びますか?」と言われたので、それは断ったんです。
それから警察官が来て事情を聞かれました。
そのときには、まわりの人の話で自信をなくしていましたので、
「背中を押されたような気がしたが、見ていた人はみな一人で落ちたと言っていた。
 疲れていたので、そうかもしれない」程度の話をしたんです。
警察の方は困ったような様子でしたが、
「目撃情報をあたってみます」ということでした。

それからはホームにいるときは、列車がくるギリギリまで後ろに引っ込んでいました。
1ヶ月間は特におかしなことはなかったと思います。
それで、5月のちょうど4月に線路に落ちたのと同じ日のことです。
その日は前ほど遅くはなかったけど、時間は9時を過ぎていました。
「そういえば、ちょうどひと月前の今日だったな」と、
あのときのことを思い返していました。
「背中を押されたと思ったんだけど、後で警察から連絡あって、
 目撃された人の話はみな一致していて、私の近くには人はいなかったって。
 事件性なしということで処理しますがいいですか・・・」
その日もホームのずっと後ろに引っ込んで立ってたんですが、
首筋に何かが触れました。

ツツーと爪で後ろ首を横に引っ掻くような感触でした。
反射的に後ろを向くと、植え込みに人が、私が立っていました。
全身血にまみれて、頭が半分に欠けて頭の皮が髪といっしょに垂れ下がっていました。
それでも自分であることははっきりわかりました。
絶叫しました。叫んで、叫んで叫び続けたんです。
駅員さんに揺さぶられるのも気がつきませんでした。
救護室でも平静には戻らず、今度こそ救急車で病院に運ばれることになりました。
鎮静剤を打たれたのだと思います。
一晩中半睡半醒の状態でしたが、
頭の中では血まみれの私が一言だけもらした言葉がぐるぐる回っていました。
「・・・命日」と聞こえました。

入院は2週間間に及び、彼や実家の両親、会社の上司も見舞いにきてくださいました。
その間、様々な検査や治療を受け、なんとか会社に復帰することができました。
幻覚、と皆がそう言い、私も納得するようになりました。
あれ以来、あの駅は行っていません。
やや時間がかかってしまいますが、バス通勤にしたんです。
もう駅や線路、電車もホームも何もかも嫌だったので、これでいいと思っていたんですが、
つい昨日、バスに乗る高校生の会話を耳にしてしまったんです。
それは、あの駅に幽霊が出るという噂でした。
若い女の幽霊が、急に建物近くの植え込みから顔を出す。
その姿はぐしゃぐしゃに崩れていて、
「代わって、代わって」と叫んですぐに消える、という・・・

関連記事 『死んだ』




おまけ

2014.07.27 (Sun)
*久々に2ch掲示板に書いたのでログなど。あんまり他の人と噛み合ってません。

361 自分:
素粒子だけじゃなくすべての物質が物質波を出してるんだが
マクロの物質はあまりに質量があるためわからないだけだ


362 返信:本当にあった怖い名無し
>>361
物質波を「出す」というのが誤り。
モノ自体が波である。
また、物質波の波長を決めるのは、質量ではなく運動量。

363 名前:本当にあった怖い名無し
>>359
じゃあ量子じゃなく素粒子で言うわ。
もし仮に、霊が人の認識出来る形であるとしたら、
その霊も何らかの素粒子で構成されてる。

364 自分:
>>362
それはお前らにわかりやすいように書いてるからだ



366 自分:
物質の波動性についてはトンネル効果等で証明されているが
マクロの物質ではあまりに確率が低いためそういうことは起きない


367 名前:本当にあった怖い名無し
>>363
素粒子でもいいけど、人間だって素粒子からできているし。
じゃあ、話は元に戻って、あなたが見たNHKスペシャルに出てきた数式の、
どこに霊が介在すると思ったの?
物理学は厳密だから、「俺の聞いたことないスゲー世界だから、何となくそう思う」
ではだめだよ。

ちなみにその番組が、数ヶ月前の「神の公式」というやつなら、二回とも私も見ていたから。


369 自分:
あとNHKでやってた地球意識プロジェクトの乱数の統計処理については
議論がある


370 名前:本当にあった怖い名無し
>>367
霊が存在するとは、別に確定してないけど、
"私達には見えないこの世と似た世界がある"
っていう数式上の発見はあるのではないのという話し。

371 名前:本当にあった怖い名無し
ハナカマキリとか居るけどさ、
あれは別に神が操作したとかは思えないな。
カマキリの性質として、意思する事無く、
自然と周りの色や形状に近い形で進化する遺伝子が
あるんだと思う。

だから紫の紙が沢山ある場所で、
カマキリが数百年生息したら、
多分紫の紙に似たような様態になる。

372 自分:
もし宇宙意識プロジェクトの結果が正しいのであれば
ある種の超能力の証明にはなるかもしれない
つまり多人数の興奮状態などが、物理的な力(情報を含む)を介さず
他者に伝わる可能性があるということ
ただし今のところは乱数の発生に影響を与えると言われている(という統計処理方法もある)程度


373 名前:本当にあった怖い名無し
>>370
この世と似た世界がある、なんてこと言ってたっけ?

それと、数式の解釈をあなたみたいなど素人がやらない方がいいよ。
一流の物理学者、数学者が何年もかかって、実験事実との整合性も考えて、出すものだから。

見た感じ、あなた、シュレディンガー方程式すら解けないでしょ?

374 自分:
この2つのリンクを読めば宇宙意識プロジェクトについてかなりのことがわかる
興味があれば


地球意識プロジェクト
ディーン・ラディン

375 名前:本当にあった怖い名無し
>>371
それはカマキリの進化に影響する各種パラメータの内、物質的環境に依存する度合いが高いだけで
その他のパラメータは考えなくても特に構わないと認識してるだけじゃないの?

376 名前:
メタ超心理学研究室☆

377 自分:
乱数の変化というのは、昔から超心理学の手法として用いられてきた
例えば多数の人間が意識を集中すれば、乱数に変化が起きるという実験は
かなり以前から行われている
しかし乱数に変化を見るためには、統計処理しなくてはならないが
この方法についてずっと議論があった


超心理学側が意味のないものに意味を与えるよう、恣意的な処理方法と
その解析をやっているのではないかという疑問だな
実際、乱数のようなものではなく、
現代の超精密な量りに変化を与えることはできていない


378 名前:本当にあった怖い名無し
>>373
数式上で解釈はしてないな。
ただ憶測を話してるだけで。
今後も数式で何かしようという気も無いし。
シュレディンガーももちろん解けない。
物理はせいぜい高校で張力やったぐらいだw

379 名前:本当にあった怖い名無し
>>378
お、幸あれ!

380 名前:本当にあった怖い名無し
>>379
シュレディンガーの式も、
突き詰めればパターン化した数式でしょう。
エクセルでピボット作れるかとか、それと同じ類だな。
いわば知ってるか知らないか。

理由は知らんけど、とりあえず貴方は"数式"
という言葉が素人に使われるのが嫌なんだな。
それはわかった。

ここはオカルト板なんだから、
こうではないか、ああではないか、
というのは自由だろ。2chだし

381 自分:
遺伝の話は、オカルト的な話題だと「輪廻」に深く関係している
われわれは長い年月をかけて遺伝子を変化させてきた
先祖から子孫に形質が受け継がれていくわけだが
そこに輪廻のような形で、ぽっと関わりのない魂が入り込むものだろうかという
疑問だな


382 自分:
シュレディンガー方程式なんて、高校でやる波動方程式を知ってれば
だれでもわかるだろw
あれは行列でも記述できるが、これも高校数学

383 自分:
あとまあファインマンがやったように積分の形でも書ける(厳密には少し違う)
ファインマンの経路積分は日本の朝永振一郎の超多時間理論と同値で
これで2人ともノーベル賞をもらった


384 名前:
自分海外で留学したから
シュレディンガー、波動方程式(wave equation)はやってないな。
日本の数学は進んでると思う。
中学と高校で6年のもあるかもしれんけど

385 名前:本当にあった怖い名無し
本気で実在()を信じてる人達はなんとか頑張って証明してみて欲しいなw

386 名前:本当にあった怖い名無し
でもプルーフオブヘブンを読めと言われても読まないんだろ?
結論変わらないなら最初から議論に加わらない方がいい。

387 名前:本当にあった怖い名無し
プルーフオブヘブンって実際"所謂科学者"の間で妥当性があると認められてるのかな?
もし認められてるなら読んでみようと思うけど

388 自分:
やりたきゃやればいいけど
いくら物理を使っても霊のことはわからないだろうよ
ただこの世界が直感的理解を超えていることはわかるがww


389 名前:本当にあった怖い名無し
>>387
現象は否定されていないようですが、結論には賛否両論がありますよ
wikiで十分じゃないか?

390 名前:本当にあった怖い名無し
体験談の話しをするなら、
以前キリスト教圏に居た時に、
プロテストタント系の牧師が
「本当は聖書で禁止されてるんだけどね、幽霊と話したことがある。話せるんだよ」
って言ってた人が居たな。
その言葉だけでそれ以上話さなかったが。

嘘で言うとも思わないし、ホラを吹くにしては、
メリットが無さすぎる。
普通の人と違う体験をしたことを話したかったんだと思う。

幽霊と会話が事実だとしたら、
声とかどうしてんのって話だよね。
音として空気を振動させていたのか。

391 名前:本当にあった怖い名無し
人間の世界の客観性って、人間の主観の寄せ集めでしかないわけで。
今まで築き上げた叡智を否定する必要はないけど、しょせんその程度の権威でしかないものだと
謙虚に構えないとイレギュラーが発生した時思考停止に陥って感情論で終わらせることになる。
それこそ科学への冒涜だと思う。

392 名前:本当にあった怖い名無し
なんかの型にはめようとするのは解るが、実体験無しに何の型に収めるんだよって話。

実体験したとしてもそれらは徒労。

393 自分:
つうか先端物理学者は想像力も直感力も優れているけどな
でなきゃ直感に反するようにみえる物理現象を理解できないし
発想も浮かばない
多世界解釈なんて普通は思いつかん

394 名前:
あとキリスト教は元々、魂も霊も「ある」前提で成り立っている宗教だな
ただしその頂点には全知全能の神がいて
神はすべてのことを把握してる
つまり神の許しを得ないでさまよっている霊はいないということだ
つまりこの世に霊が現れた場合
天使や悪魔が姿を変えたものか、特別に何かの事情でこの世に
現れることを神が許した場合

395 名前:本当にあった怖い名無し
期待して軽く調べてみてるけど
エベン氏は大脳皮質が「シャットダウン」したからはっきりした記憶が残るはずが無い
みたいな事を根拠にしてるみたいだけど
簡単に反駁されてるみたいじゃん

おれはサムハリス氏の論に納得したが

396 自分:
欧米の科学者や医師には、熱心なキリスト教徒もいれば無神論者もいる
神や魂があるのを認めることと、科学を推し進めることは
その個人の心の中で矛盾がなければ何も問題はない

このスレではよく、「この科学者が霊の存在を認めている」的な話が出るが
それはキリスト教の神がニューエイジ的な霊性に変わっただけで
本質的な差異はないと俺は考えている


397 返信:本当にあった怖い名無し
>>381
前世の記憶がある子どもをドキュメンタリーにした
番組は面白かったな。
成長につれて記憶が薄れていくっていうことは上書きされてるの
って思ったけど。
前世は300年ぐらい前の人物の記憶だっけか。
生まれ変わるまでの300年はどうしていたのか、それを知りたいがw

398 自分:
>>397
「輪廻」の話は難しい
なかなか物的な証拠が出ない
スピリチュアルの説明では、生まれ変わらない間は霊性を高める修行
生まれ変わってからも魂の修行

俺は個人的にはそんなのは嫌だな
できれば無に帰りたい


399 名前:本当にあった怖い名無し
>>394
キリスト教は否定的な話になってしまうけど、
他の宗教の祭日をイエスの誕生日に合わせたり。
当時のインテリ層が作った宗教だと思う。
信者同士お金の貸し借りをしてはいけない、
というのも、一部の人達が利鞘で収益を得るため。
それを含めて考えても、宗教としては素晴らしいと思うけどね。

どうして神や地獄を作ったのかは、
人が生活していくうえでの教訓、モラルコントロールの為。

400 自分:
>>399
俺は宗教の解釈の話はするが批判はしない


401 返信:本当にあった怖い名無し
>>400
宗教批判してすまんかった。
どちらかというと、自分は信じていないことを強調したかったのかもしれない。
だけど、この世には数百もの宗教団体があって、
みんな自分らの神が正しい、と言っているんだよな。
どんな宗教でも救いがある見解をするカトリックと仏教は広まってほしいわ

402 自分:
日本人的にはどうだろうな
絶対神がいて、霊の法則はすべてそこで支配管理されていると
考える人は多くないのではないか
そういうことがあまり好きではない気がする
もっと自分の理性というのを中心に思考行動してる人が多いような

403 自分:
欧米の心霊主義(スピリチュアリズム)やニューエイジ思想が起きたのもそこだ
神絶対、神中心のキリスト教に対する反発があると思う
それに対し、個人の霊性の尊重を訴えたいという部分があった
だから霊訓は「理性を信じろ」と説く

404 自分:
ただ・・・日本の場合は祖先霊崇拝の考えが強いので
輪廻がすんなり受け入れられるかはわからない
というかスピリチュアルもかなりの部分、日本的スピリチュアルに変質してきている
多くの移入文化がそうであったように





お多福

2014.07.26 (Sat)
じゃあ、話するが、他の人みたく誰かが死んだとかじゃないんだ。
体を壊しったって人は何人もいるんだけど。
だからきっと物足りないと感じる人がいるかもしれんね。
ここに来て、いろんな話を聞いて、ホント驚いてるとこだよ・・・
えー、1年前かな。会社の近くであった飲みの3次会で、
集合ビルの3階にあるカラオケ・スナックに行った。友人の知ってる店ってこと。
10人以上で飲み始めたのが、そのときは3人に減ってたけどね。
入ったときの印象はあんまり覚えてないんだ。かなり酔ってたから。
ただ、その後も行くようになったから、悪くはなかったんだろうな。
水割りを頼んで、数曲歌って帰ったんだ。

次に行ったのが、その3週間後くらいかな。
たまたま近くで接待があって、かなり気を使う場だったから、
お相手をタクシーにのせたときには心底ほっとしたね。
で、上司と別れてから、
そういえばこの辺りに入ったことのある店があったなと思い出して行ってみたんだ。
ああ、店の名前は「この花」といったな。もうなくなったけど。
ママが40代後半くらいかな。オーナーじゃないよ。
それとバイトの女の子が1人、専門学校生って言ってたが、本当かはわからん。
関心なかったんだよ・・・若いだけで、あんまりキレイな子じゃなかったから。

カウンターがあって、テーブル席が4つかな。客が混んでいるのは見たことない。
せまいんだけどなんか落ち着くんだ。
で、週に1度くらいのペースで通うようになった。
店のレイアウトも、特にテーマみたいなのはなかったな。
ほら、よくあるだろ。古い映画ポスターや南国の土産物みたいなのを飾ってるとこ。
そういうのはなくて店全体が暗い水色のトーンでね。
飾り物といえば、カウンター奥の高いところに、
「お多福」ってのか、「おかめ」って言うのかわからないが、ほっぺだけ赤くて、
全体は古そうなお面がぽつんとあるっきりで、それは少し違和感があった。

いや、一人で行ったときには、あんまりカラオケはやらなかったな。
ママと話してることが多かった。ママは何か色っぽいんだよ。
血色がよくて、肌がみずみずしいんだ。・・・最初のうちは化粧のせいだと思ったけど。
話も面白かった。なんでも実家が拝み屋をやってたってことで、
子供の頃そこで見た客の話をいろいろしてもらった。色と欲、恨みの話なんかをね。
まあ、そうだろうなあと思ったよ。
尋常ならざる手段で目的を達成しようとする輩は、やっぱ普通の人じゃないんだろうって。
あと、飾ってある「お多福」についても聞いた。
その実家で大事に祀っていたもので、元々は「アメノウズメノミコト」って神様らしい。
「多福」というくらいだから、かなりのご利益があるって言ってたな。

若い子のほうは聞いたら、こういうバイトは初めてってことで、
だから受け答えもぎこちないかった。それと、なんか顔色がさえなくて、肌荒れもしてた。
ママとは対称的でね。だから、カウンター奥で酒を作ったり、
テーブル席にものを運んだりってことが多かったな。
で、3回目に行ったとき、その子があまり顔色がよくなかったんで、
病院に行くように勧めた。土気色でただごとじゃないと思ったんだよ。
だけど、女の子は「はあ」と言ったきりで、ぼーっと立ってるだけ。
こりゃダメだなと思ってたら、案の定、次に行ったときにはいなくなってた。
ママの話では、体を壊して学校を休学し実家に帰ったってことだった。

次また新しい人を雇う予定だからって言ってたんで、楽しみにしてたんだよ。
ところがね・・・次行ったときに入ってた子をみて、がっかりもいいとこ。
なんか雰囲気が前の子に似てたんだよ。
いや、顔立ちはそこそこ整ってたし、
前の子よりファッションのセンスもよかったんだけどね。
最初のうちは張り切ってる様子で、やりとりも楽しかったんだけど、
だんだんに目がドローンと濁ってきたんだよ。
あと肌荒れもひどくて、化粧でかくせないくらい。前の子の症状とよく似てたんだ。
で、ほとんどものをしゃべらなくなっちゃうとこも同んなじ。

その子も入って2ヶ月くらいでやめちゃったんだ。
やはり体を壊したっという話だった。
ママは「困ったわね。うちはそんなに忙しくないはずなのに」とこぼしてた。
で、次の子が入ってまた2ヶ月前後で体を壊してやめる・・・
これがさらに2回くり返されてね。
つまり俺が通ってた間に、女の子は5人目になったってことだ。
まあこれが、単に都合でやめたっていうなら、
今の学生さんはそんなものか、で済むところだけど、
4人全員が体を悪くして、しかも皮膚病を患ってって言うんだからね。
やっぱり何かおかしいと思うだろ。

でね、その間、ママはどんどん血色がよくなっていったんだ。
口の横の頬のシワも消えてねえ、30代でも通用するくらいだった。
あと、カウンター奥のお多福面だな。
これは俺の気のせいなのかもしんないけど、
ママと同じように頬の色が赤くなって、前より艶々になった気がしたんだ。
もっともね、お面だから何か塗ったり、薄化粧したりしてるのかもしらんと思った。
その頃から、ママが「この店を買い取って独立したい」という話をし始めた。
前から前向きというか、上昇志向のある人だとは思ってたけど、
ここは安くない土地だし、雇われママの身分でそんなに金があるとは思えなかった。
「そうなってもどうかご贔屓に」とは言われたけど、
そろそろ河岸を変える潮時からって気もしてたんだ。

で、4ヶ月前のこと。その日、急な打ち合わせの後、
ちょっと早めに「この花」に行ったんだ。
いつもは9時スタートなんだけど、8時40分過ぎくらい。
その時間は準備をしててママは店にいるから、
常連だから入れてくれるだろうと思ってた。
ドアには、準備中も営業中の札もどっちも下がってなかった。
押してみるとドアは開く。で、入ってすぐに、中の照明が真っ赤だったんだ。
そんな色の明かりは、それまで一度も見たことがなかった。
「ママいる?」と声をかけたら、カウンターの奥に人がいた。
後ろ向きで、かがんで両手に何かを持っていた。紙か布のようなものだと思った。
1m四方くらいの油紙をくしゃくしゃにして、また開いたようなもの。

色が照明で真っ赤になっていたから、何だかわからなかった。
両肩が動いて、頭も上下してた。その紙の上端がアゴのあたりにきてたんで。
食べているように見えた。クチャクチャという音もしてたと思う。
後頭部の髪型で、ママだとわかった。
「こんな照明つけて何してるん?」とさらに声をかけたら、
ママはゆっくり、ゆっくりこっちを向いて・・・それがあのお多福の面を被ってたんだ。
いや、反射的にお面のある場所を見たら、面はそのままそこに掛ってた。
面が二つあるのか、それとも・・・
ママは、紙のようなものを口から離し、そのときに液体が口からこぼれたが。
血にしか見えなかった。ママは「いらっしゃい」といつもの声で言い、
俺は後も見ずに逃げ出したんだ。
それから一度も行ってない・・・噂では、もうないって話だ。




雑談(怪談の語り手)

2014.07.26 (Sat)
 このブログの怖い話は、何度も書いていますが一人称の語り調です。
ブログを始めた当初は、自分がネットのあちこちに書いたものを、
コピペして貼っていただけなんですが、
それでも一人称でないものはほとんどないはずです。
だんだんこのブログにしか書かなくなって、なんとなく状況設定ができてきまして、
「どこかの地下秘密クラブのようなところに、怪談好きの好事家が集まっている。
その中には不思議な能力を持った人もいるのかもしれません。
 そこへ、何か不可思議な体験、怖い体験をした人が、
人に紹介されたり、自分で噂を調べたりしてやってきて、皆の前でそれを物語る」
こういう形に落ち着いてきました。

 話の中には、たまたまなんでしょうが、前の人の話に関係のある内容や、
同一人物と思われる人が出てくる場合もあります。
もしかしたら今後は、この怪談クラブを舞台にした話があるかもしれません。
自分の世界観としては、
「この世には、常人にはうかがい知れない不思議な能力を持った人がいて、
その能力を利用し、何かの目的を持って行動している」というものです。
そういう人物に関わってしまった一般人が、
ここで奇妙な体験を物語っているのです。

 ちゃんとは調べていませんが、自分の話の語り手は、
「大学生の男子」が一番多いのではないかと思います。
理由は簡単で、時間の自由があるからですね。
それに家庭を持った社会人が、心霊スポットに行ったりするのも考えにくいですから。
女性もけっこう多いと思います。
四分の一以上は女性の語り手になっているのではないでしょうか。
これは・・・一番の理由は、書いている自分がいつも同じ語り調子だと飽きるからです。
ほぼ毎日怖い話を書いていると、どうしても目先を変えたくなってしまいます。
また「こをとろ」などのように、
必然的に語り手が女性でなくてはならないものもあります。

 中には女子中生や、女子高生が語り手になっているものもありますが、
これは、ホントにこういう話し方をするもんだろうか、
という不安が書いていて常にあります。
そういうときは、みなさんの書かれているブログを参考にさせていただいたりします。
あと、けっこう黒社会の人が出てきます。
これはまあ、こう言ってはあれなんですが、
比較的そのような実態のわかりやすい地域に住んでいるものでw
民話系のものとか、語り手がジイサンというのもそこそこあります。
バアサンというのは非常に少ないです(ないような気がします)
うーん、そのうちバアサンを語り手にして書いてみようか・・・
たぶんあんまりいいものにはならない気がしますが。

 あと、短編ホラーを書きたい、書きたいと何度も雑談で述べてるんですが、
今だに着手できず、書く書く詐欺のような状態になってしまっています。
だから、ブログで連載などをしている方を見るとすごいなと思いますね。
もっと自由になる時間があれば、と思うのですが、
案外、時間があっても書けないのかもしれません。
最初からあまりに高レベルのものを想定してしまってるのかもしれません。
もっと力を抜いて始められたらいいのですが・・・

 


2014.07.24 (Thu)
自分の会社はビルの16階にあって、その上が展望スペースになってるんです。
まあ、地方都市なんてそんなもんです。
20階くらいが最高じゃないかなあ。
会社はワンフロアをすべて占めてるんですが、
自分のデスクは西に面してまして、日没前の日差しがきついんです。
だから会社にいるときはよくブラインドを閉めにいってました。
で、あるとき気がついたんです。
5時ちょっと過ぎくらいですね。たまたま窓から下を見たとき、
隣のビル屋上で、黒い影がちらちらしてるのを見つけたんですよ。

隣は13階建てですね。その屋上が見下ろせるんですが、
床のコンクリは薄緑に塗られてて、そのまわりを同じ色の鉄柵が囲んでる。
その鉄柵のシルエットもはっきり見えるし、
給水塔が長い影を落としてるんですが、
残りの日の当たった部分を、ハイスピードのダンスをするように、
影が動き回ってたんです。最初に見たときは、
黒い子犬が走り回ってるのかと思ったくらいくっきりとしてたんです。
影は2分くらい屋上を縦横に動いたあげく、北側の手すりの前で消えました。
不思議ですよね。実際に動いているものは何もないのに、影だけがあるなんて。
それで、立ったついでに窓の下をのぞくのが習慣になってしまいました。

・・・そのビルの屋上は立入禁止になってるようで、
一度も人が出ているのを見たことはありません。
また、午前中や昼過ぎに影が動いてることもないんです。
ちょうど夕方の5時をわずかに回ったあたりで2分ほど、
毎回ほとんど同じような動きをして消える・・・ねえ、変ですよね。
もちろん太陽の出ない天気のときは影が出ることもありません。
気になってしょうがなくなりました。何か原因があるはずなんです。
でね、その時間帯に同僚をつかまえて見てもらったんです。
「どうだ、ほらあれだよ。始まった。向こうに行ってまたこっちに戻ってくる。
 見えるか?」 「見えるよ」と同僚。

「屋上には何もないのに、影だけあるなんて変だと思わないか」
「うーん、あの屋上じゃなくて、
 もっと高いとこに何か動くものがあるんじゃないか」
「でも、あれより高いってこのビルしかないだろ。
 それなのに、あそこにこのビルの影は映ってない」
「そりゃ西日だから、影は反対方向にあるんだろうな」
「じゃあ、何が映ってるんだよ」
「わからんな。でも原因があることは確かだろうな」
こんなやりとりをしました。
もっと関心を持ってくれるかと思ってたのに、
そっけない態度で少しがっかりしましたね。

で、どうしたかというと、
晴れた日の昼休みに意を決して隣のビルに見にいったんです。
ああ、物好きだと思われるのはしかたないです。
ただ・・・あの影の動きは、何度も見るにつれて、楽しげなもんじゃない、
という気がしてきたんです。
2人分の人の影が、もつれあって一つになって動いている。
その動きに切迫したものを感じたんですね。
隣のビルは1階が文具店になっていて、何度か入ったことがあります。
どう切り出したらいいか迷ったんですが、
別に変なことをたくらんでるわけでもないですから、
おかしく思われるのを承知で、ありのままを管理室で話しました。

「・・・影?ですか」初老の警備員さんが出てきて首をかしげいてましたが、
自分が身分証明証を出すと、怪しいものではないとわかったようで、
「そんなに気になるなら、いっしょに見にいってみますか。
 何かがわかるとも思えませんけど」
こう言って鍵を出し、先に立ってエレベーターに乗ったんです。
12階で降り、階段で13階に向かいました。
そこから屋上へは一枚ドアで、警備員さんは、
「ここはずっと立入禁止で、
 メンテ会社しか入ったことがないんですよ。もう何年もね」
こう言いながら開けてくれました。
出てみると、ドアのすぐ脇、給水塔の下に何体かマネキン人形が並んでたんです。

ぎょっとして「これなんですか」と聞きました。
警備員さんも不思議そうに見ていましたが、
「前にアパレルの会社が入ってて、そこで使ってたものなんだろうな。
 いや、こんなのがあるとは気づかなかった・・・」と言いました。
近寄ってさわってみましたが、年数が経ってるもののようで、
マネキンの表面はひび割れ、日に焼けてあちこち変色していました。
自分がずっと黙っていたからでしょうか。警備員さんのほうから、
「あんたね、このマネキンの影が動いたとか言い出すんじゃないだろうね。
 ・・・人形は人形だから、そんなことはありえないよ」こう言って嗤ったんです。
それから、屋上中を一緒に歩いたんですが何もなし。
上を見上げても、隣の会社のビルに旗や垂れ幕などは見あたりませんでした。

「すみませんでした。馬鹿な話につき合っていただいて」別れ際にお礼を言いました。
すると警備員さんは、なんともいえないような表情になり、
「この屋上ね、10年以上前に女の人が飛び降り自殺をしてね。
 アパレルの人だったけど、それ以来立入禁止になってるんだよ」と言ったんです。
会社のビルに戻って、5時過ぎを待ちかねて窓辺にいきました。
隣の屋上を見下ろすと、やはり黒い影がもつれるようにして動き出しました。
ただ・・・いつもと違っていたのは、
西側の手すりの前で、その影の動きを見つめている制服の男がいたことです。
背格好から、さっき昼に案内してくれた警備員さんじゃないかと思いました。
影が動きまわってる間、身じろぎもせずじっと見ていましたが、
やがて給水塔の下に消えました。

次の日の朝出社すると、たいへんな騒ぎになっていました。
昨日の深夜に、隣のビルで飛び降り自殺があったということでした。
しかも、亡くなったのはあの、自分を案内してくれた警備員さんだったんです。
課長が訳知り顔でこう言いました。隣のビルから情報を仕入れてきたんでしょう。
「深夜の2時過ぎに忘れ物をしたって戻ってきて、
 それから屋上までいって飛び降りたみたいだ。
 ほら、この下の道は人通りが多いから、まきぞえの事故を考えたんじゃないかな。
 それと不思議なのは、
 警備員が落ちた場所の近くにマネキンが一体落ちていたってことだ。
 おそらく一緒に落ちたんだろうが、石膏製の足が細かく砕けて散らばってたらしい。
 どういうことだろうな」




願い事

2014.07.24 (Thu)
退職後、ボランテイアで河原の掃除をしてます。
そこらは市で草を刈りこんでいるので、人が入り込める分ゴミも多いんです。
その日も午後から、
ゴミ袋、タモ網、金バサミなんかを持って一人で回ってました。
一日に橋から橋までの間のどちらかの側を往復するんですが、
向こうの橋げたに何か大きなものが引っかかってるのが見えました。
目が悪いのではっきり見えなかったんですが、
折れた枝が流れてきたもののように思えました。
近づいてみると、ササ竹でしたね。
短冊がたくさんついていたので、
近くの幼稚園かなんかで七夕に作ったのを流したのだろうと思いました。

でも、何か違和感があったんです。
ほら、七夕の短冊って色紙を切ってカラフルじゃないですか。
ところがそれは、短冊は白と黒が半々で他の色はなかったんです。
なんかイヤーな感じがしてね、よほどほっとこうかと思ったんです。
竹と、紙と、木綿糸などですから、
ビニールなんかと違ってそのまま自然に還るものだし。
でも、引っかかってるのは一番手前の橋げただったので、
外して流してやろうと思ったんです。
また、どっかで引っかかるのかもしれませんけども。
タモ網を竹に引っかけて、いったん岸に寄せようとしましたが、
これがけっこう重い。

先のほうが手元まできましたが、竹の根本は水に浸かったままでした。
そのとき短冊を見てみたんです。
それが・・・黒い短冊は裏表とも真っ黒で、字を書くこともきないし、
白いほうは、裏からも黒マジックの字が透けて見えたんですが、
「沢田 富雄 しね」って書かれてたんです。
15枚くらいは見たんですが、全部が全部同じ内容でした。
ただ・・・どれも筆跡は違ってたんじゃないかという気がします。
子どもの、幼児の字だと思います。
「沢田富雄」の漢字の部分は、お手本を真似て書いたような感じでしたが、
それでも一枚一枚個性がありました。「何だ、これは」と背筋が寒くなりました。

「沢田富雄」ってのは、ここらでは誰でも知ってる名前で、
県会議員で、土建会社をやってるんですよ。河原のすぐ近くに会社があります。
頭が上がらない人間が、この市には大勢います。
もっとも、同姓同名の人なのかもしれませんが。
不気味で、かかわったのを後悔したんですが、
とにかく引き上げてから、流れのある広いところに放ってやろうと思いました。
直接手で竹の先をつかんで引っぱったら、グンとすごい力で引き返されました。
いや、川に頭から落ちるところでしたよ。
タモ網を底のコンクリに突いてなんとかこらえたんです。
川はこの間からの雨で泥色に濁っていて、中は見えませんでしたが、
何かが引っぱったのは確かですよ。

私が手を離してしまったササ竹は、ふーっという感じで橋げたを離れて、
ひとりでに川の中央近くまでいって、流れ去ったんです。
・・・県会議員の沢田氏は、この3日後に亡くなりました。
まだ50代で、病気の噂も聞いたことがありませんでした。
死因は詳しく報道されませんでしたし、
あれだけの人なのに、葬儀は親族だけの密葬ということでしたから、
尋常の亡くなりかたではなかったんだと思います。
ああ、ボランティアにはその後も行ってますが、
それからは特に変なことはないですねえ。




噴水

2014.07.22 (Tue)
昨日のことです。退社後だから6時過ぎですね。
とにかく会社にいたときから頭痛がして、
マジで早退しようかと思ってたくらいなんです。
それでもなんとか時間まで我慢しで、
ズキズキする痛みをこらえながら電車に乗ってたんですが、
駅に着いてすぐ、トイレで吐いてしまいました。
それからふらふらと、東口から出た正面にある公園で休んでしまいました。
半径5mくらいの大きな噴水があって、
そのへりがコンクリートで、腰掛けることができるようになってるんです。

横座りして両手を着いた状態で、しばらく目をつむっていたら、
いくらかマシな気分になってきました。
そうっと目を開けると、斜め後ろに噴水の黒い水面が見えましたが、
その表面をきれいな青色のものが横切りました。
「ん?」と思いました。
LED1個分くらいの発光体が走ったように見えたんです。
さらにその後ろから、やはり同じくらいの大きさの赤い発光体が、
青いのを追いかけるようにして続いたんです。
どっちも水面のごく浅いところを動いているように思えました。
前にもここは来たことがあるんですが、そんなのを見たのは初めてでした。

「何かのイルミネーションが映ってるのか」と思ったんですが、
噴水の上は街路樹の枝が伸びてるだけでした。
その青い光と赤い光は、まるで追いかけっこをするように、
丸い噴水の池を、右回りにシュンシュンと回っていました。
さっきも言いましたが、半径5mの池を2秒ほどで1周してるんです。
「ああ、見えるんだね。不思議でしょう?」いきなり背後から声をかけられました。
ふり返ると、40歳くらいに見えるクールビズ姿のメガネのオッサンが立っていました。
昔の漫才師の横山やすしに少し似ていましたね。
「ええ、はい。あれ何かわかりますか?」

「わかりますよ」オッサンはあっさりとした感じで言い、
「それより、あなた頭痛しませんか、しかもかなりヒドく」こう聞いてきたんです。
「ああ、ええ、はい」
「やっぱりね。あなたね少しマズイことになってるから、治療しなきゃダメだよ」
「・・・医師の方ですか」
「違うけど、治せるよ。たぶんあんたのは病院に行っても治らないだろうね」
オッサンはポケットに手を入れて名刺を渡してよこしました。
会社員としての習慣で両手で押し頂いたんですが、そこには、
「ヒーリングサロン茂木 院長 ヒーラー 茂木長一」と書かれてありました。
サロンの住所は、すぐその近辺でした。

・・・でね、私はヒーリングとかセラピーとか、
そういうのってあんまり信じてなかったんです、なんだかうさん臭くて。
私が具合悪そうなのは見ればわかったでしょうしね。
だからそっけない応答をして、それがオッサンに伝わったんだと思います。
「ああ、こういうの信じてないっていうか、好きじゃないんでしょ。
 いいんです、いいんです。そういう人は多いから」オッサンは続けて、
「でもね、あなたマジで危ない状態なんですよ。
 ・・・頭痛は今ここで軽減してあげられます。長くはもちませんがね」
そう言って、おもむろに手を伸ばし、
両の親指で、自分のこめかみを左右からはさんだんです。

あっという間で身を避けることもできませんでした。
でね、オッサンの両方の指からピリピリした感じが伝わってきたんです。
うーん、電気というより、サロメチールってあるでしょ。あれを塗られたような感じ。
オッサンは数秒で手を離し、「どう、頭ふってみて」と言いました。
言われたとおりにしたんですが、
さっきまでヒドかった頭痛がほとんど消えてたんです。
「痛くないでしょ。でもねこれ、
 根本的な治療じゃないから30分くらしか保たないんだわ。
 それにね、副作用があるし」
「副作用って?」

私がそう聞くと、オッサンは噴水の池をアゴで指し、
「さっきの光を見てみ」と言いました。
「!?」・・・そりゃ驚いたのなんのって、
暗い水の中を女と男が追っかけっこをしてるんです。
男はスーツ姿で若いサラリーマン風、女は30代後半くらいですかねえ・・・
よくわかりませんが、身なりはかなりいいもののように思えました。
二人とも体は半分透けた感じで、着衣は乱れてるんですが、
ものすごい速さで噴水のまわりを回っているのに、
水しぶきどころか水面がまったく波立たないんですよ。

「・・・あれ、なんです?」自分が呆然とそう言うと、
オッサンは目を細めて、
「・・・生霊だね、どっちも。
 痴話喧嘩だろうが、なんでここでやってるかはわからないね。
 ここの水はそういうのを引きつける力があるのかも」
「さっきは赤や青の光に見えてたのに・・・」
「少しあなたの脳の波長を変えたんよ。
 ・・・普段なら、赤や青の光だって見えなかったろうから、
 それよりほんの一歩進ませただけだけどね」
「・・・じゃあ、この頭痛は霊関係から来てるってことなんですか?」

「そうだよ」オッサンはあっさりと肯定し、
「あなた、自分の姿を水面に映してみ」こう言ったんです。
言われたとおりに体の向きを変え、噴水の池を覗のぞきこむ形になりました。
「!?」私の背中に、ものすごく怖い顔をした女が乗って睨んでいました。
私の顔は水にはっきりとは映らないのに、女の顔はとても鮮明に見えたんです。
「あなた、その女の方、心当たりがあるでしょ」
・・・もちろんよく知った顔で、昨日の夜にホテルで、
別れ話がこじれて大ゲンカしたばかりなんです。
「あわわ、これって」私がそう言うと、
オッサンは、「生霊です。すごーく恨んでますねえ」
こう答えましたが、なんだか声の響きが面白がっている調子に聞こえました。

「どう、サロンに来たら祓ってあげるから。
 それだけじゃなく、今後の対処も相談にのってあげるよ。
 どっちかと言えば、霊関係よりそのほうが本職なんだからね」
「・・・お願いします」私はこう答え、
先に立ったオッサン・・・先生の後についていったんですよ。
少し離れてからふり向くと、さっきの生霊たちが、
相変わらずめまぐるしく追いかけっこをしていました。
ああ、サロンに行ってどんなことをしたかって?
・・・気になるでしょうね。うん、それはこの次、機会があったらお話しますよ。




小便小僧

2014.07.21 (Mon)
俺が神戸のバーで働いてたときのことだから、ちょうど10年前の話。
そのバーは雑居ビルの4階にあって、
いちおう営業は2時までってことになってたんだが、
実際は朝方まで開いてるときが多かった。
同じ水商売関係の人たちが、店じまいの後にちらっと寄ったりするんだ。
俺はずっとこの業界にいるけど、そのころはまだ駆け出しで、
飲み物の注文も、難しいのは裏に行ってカクテル辞典見なきゃ作れなかった。
今でもそんなに進歩してるわけじゃないけどね。

で、俺は実はいわゆる「見える人」なんだ。
子どもの頃から変なものが見える。
まあ・・・世間で霊とか幽霊と言われてるやつだ。
これがあるために、小中時代はだいぶ苦労したよ。
パニック起こして泣き出したりすることがよくあったから、
まわりからはかなり変な目で見られてたし、イジメを受けたこともあった。
中学校に入るときなんか、もう少しで養護学校に行かされそうになったくらいで、
その時分が一番ひどかったな。

なんとか霊というか、自分の能力とうまく付きあえるようになったのが、
高校入学のあたりだった。付きあう・・・ってのは、
何か見えても無視することだよ。その霊が目の前にいたとしても、
頭が半分欠けて脳ミソがはみ出していても、
何もいない、何も見えないふりをするってこと。
これはね、単にまわりの人に変に思われないためだけじゃなくて、
霊にも、こっちが見えてるってことを悟らせない意味もあるんだ。
霊はね「あ、こいつ見えてるんだ」ってわかると寄ってくるから。
それでますますトラブルが大きくなってしまう。

ああ、スマン、本題に入るよ。
その神戸のバーにいたとき、地下にフィリピン・パブがあったんだ。
ダンサーさんが15人くらいて、みな興行ピザで来日してた。
芸能をするために日本に来てるって建前だったんだな。
けどその翌年から、人身売買だって抗議をアメリカから受けてね。
たちまち制度が変わって、今じゃすっかり廃れちまった。
まあその全盛期の頃の話。
でね、バーの後輩の一人にやっぱり「見える」やつがいたんだ。
いやあ、これまで30数年生きてきて、
俺と同じように見えるやつに会ったのは4人だけだよ。

もっとも、俺と同じように能力を隠してる人が多いだろうからね。
実際はもっといるのかもしれん。
あああ、スマン。もうすぐ実際に見た霊の話になるから。
その後輩は俺の2個下でね、その前の店では俺が一番下っ端だったから、
自分より下のやつがいるのが嬉しくてね。
もちろんそいつが「自分は見える人です」なんて自己紹介したわけじゃなくて、
じゃあ何でわかったかっていうと、そのフィリピン・パブに関係があるんだ。
パブのほうは12時には営業終了になるんだよ。
で、ダンサーのオネエサンたちが、
集団生活してるアパートに帰るのが1時前くらいかな。
ビルの裏口から出るんで、ちょうどその時間帯をねらって、
俺とそいつでタバコ休憩に行ってたわけよ。

まあね、毎日そんなことはできないから。
客がいないか、いても数人のときだけだな。
裏口の繁みの裏でタバコを吸ってると、ぞろぞろオネエサン方が出てくる。
みな毛皮とか着てハデハデだったけど、
固定給は数万しかなかったってのは後でわかった。
で、いかにもたまたまを装って、オネエサン方にあいさつするんだ。
「お疲れ様でしたー」ってね。その後、ヤーのマイクロバスで送られていく。
いや、当時は俺20歳過ぎたばっかだったから、
もしかしたら、オネエサン方といい関係になれるかもなんて考えてたんだ・・・
まだね、世の中がよくわかってなかったんだな。

で、後輩と一緒にタバコをくわえてた最初のときのことだ。
(これね、オネエサン方が出てくるのを待って火をつけるんだ)
植え込みの上に、ぼやーっと煙みないなのが出てきた。
えーエクトプラズムって言うのかな、よくわからんけど。
霊ってのは最初はそういう白い煙状で現れて、
それからじわじわと人型に変形してくことが多いんだよ。
「あ、また始まった」と思って見てたら、どんどん人の姿になっていくんだけど、
それが小さいんだよ。・・・子どもの霊だな、3歳くらいの。
東南アジア系の顔立ちの男の子で、服は着てなかった。
俺がずっと中空を見てると、
(小さい子だから霊障があってもたいしたことないと思って)
後輩もね、俺と同じとこをにらんでるんだよ。

おや、と思って「お前これ、見えるのか」って聞いたら、
「はい、見えます」ときた。
嬉しかったね。ああ、これで大っぴらに霊について話せるやつができたって。
その子どもの霊は無表情に2mくらいの高さに浮かんでるだけだったんだが、
裏口の中からオネエサン方の声がし始めると、ニコニコし始めてね。
オネエサン方が出てくると、自分の小さいおちんちんを片手でつかんだんだ。
俺らが「お疲れさんでしたー」って頭下げて、
そこはせまい植え込みの間だったから、一人ずつ出てくるオネエサン方の3番目、
一番小柄で可愛い子が通ったときに、子どもの霊が小便をその頭に発射したんだよ。
・・・と言ってもね、それは霊の小便だから、オネエサンは濡れるわけじゃないし、
何も感じてないみたいだったな。

それで、そのオネエサンが歩き去るにつれてね、
その子どもの霊も空中を滑るようにしてついていく。じたじたと小便をかけながら。
その姿はまさにね、あの彫刻とかである小便小僧そっくりだったんだ。
・・・その子どもの霊はそのあと3回見た。
最初とまったく同じ場所から同じように出てきて、
特定のオネエサンに小便をかける。このくり返しだった。
後輩とは話はしたよ。やっぱりあれはあのオネエサンに関係がある霊なんだろう、
国で死んだ弟か、あるいは自分の子どもなのかもしれないって。
で・・・それからね、
1か月後にそのオネエサンはヤーの暴力沙汰に巻き込まれて死んだんだよ。

テレビの報道で知ったんだ。そのとき実名と年齢が出ててね。
14歳だったんだな。
小柄とはいえ、肉付きはよかったからそんなに若いとは思わなかった。
その事件の影響が直接原因になって、フィリピン・パブはつぶれ、
俺もほどなくしてそこのバーをやめてしまったんだ。
結局、子どもの霊が誰だったかも、
どうして小便をかけてるのかもわからずじまいだった。
・・・スマンねホント、わからん、わからんばっかりで。
だけどこのバーにいた間に、後輩と霊について話し合ってね、
わかったこともいろいろあるんだよ。
それについてはまた、機会をみて話しに来るつもりだけど。




公園で

2014.07.20 (Sun)
私は高卒で県警に採用され、2年前に退職しました。
それからは地域の防犯協会の役員をやっているんです。
ただこれは毎日出勤するわけじゃないので、
空いた時間にボランティアとして、
「地域見守り協力員」というのに参加しました。
小学校の登下校時にはステッカーをつけた車で通学路を流したり、
駅前にある公園などを巡回しているんです。
もちろん、もう警官ではないので、できる範囲でですけどね。

この間・・・3週間ばかり前のことです。
午後の6時過ぎですかね、この公園を見回っていたんです。
ここはかなり広く木も多いんですが、ホームレスは一人もいません。
前はアベックと、それをのぞきにくるやつらで、
やや不穏な空気もあったんですが、今はそんなこともなくなりました。
ただ、木立にまぎれて薬物関係の取り引きがあるという噂もあって、
黄昏時なんかにちょくちょく寄ってたんです。

少し暗くなりかけていましたが、もう街灯がついていました。
ひととおり歩き回ると20分程度かかるので、
トイレの前のベンチで自販機で買った缶コーヒーを飲んでいました。
すると脇の林から作業服を着た40代くらいの男が出てきまして、
手に長箒と箱型のチリトリを持っていましたので、
清掃業者なのだろうと思ったんですが、その挙動が不審だったんです。
最初にトイレの裏手のほうに行こうとしたんですが、私がいるのに気がつくと、
不自然に体の向きを変えてトイレに入っていったんです。

いやあ、長年捜査課にいましたので、そのくらいはわかります。
トイレの裏手に回って見ましたら、繁みの中には物置らしい小屋がありました。
小屋と言っても、外見はただの四角いロッカーです。
横開きの扉が2枚で、面積がたたみ2畳分くらいはありましたけどね。
おそら公園の清掃や植木の手入れなどの道具をしまってあるのだと思いました。
それで・・・妙な好奇心を起こしまして、柾の繁みの中に隠れたんですよ。
ややあって男がトイレから出て、案の定こちらに回ってきました。
小屋の前でポケットから鍵を取り出して扉を開け、
箒などを持ったままその中に入っていったんです。

「ああ、勘ぐり過ぎたか、悪い癖が出たな」と思いました。
清掃員が用具をしまうだけだったんだろうと・・・
ところがです、それからいくら待ってても物音ひとつしない。
ねえ、道具を片づけるのにそんな時間がかかるわけないじゃないですか。
しかも夏場で、夕暮れ時とはいえスチール製の物置ですから、
中はかなりの暑さになっているはずです。
それでも15分ほど待ちました。ところが出てくる気配なし。
物音もしないんです。

扉の前まで行って、ノックしてみようかと思いました。
犯罪というより、もしや暑さにあてられて倒れたりしてるかもと思ったんです。
そのとき急に扉が開いて、中から・・・長身の外国人女性が出てきました。
思わずのけぞりましたよ。あまりに意外だったもので。
大きなサングラスをかけていて、真珠のネックレスをしていたと見えましたが、
けっして下品な感じではなく、映画スターのような雰囲気でした。
呆然と見ていましたが、その人が遊歩道に歩み去ってから、
物置小屋に近寄ってみました。

ドンドンとノックしましたが、物音一つしません。
扉に手をかけると、するっと開きました。
さっきの女性は、そういえば鍵をかけていませんでした。
中に入ると、スペースの半分の壁まわりに、ぐるっと箒や金バサミが掛けられ、
熊手や鍬が立てかけられていました。
もう半分にはさらに戸がついていて、
その前は人ひとり立てるだけのすき間しかありません。
その戸にも手をかけてみたんです。
軽くカラカラと開きましたが、その裏には金庫と見紛えるほどの、
頑丈な鉄扉がありました。その正面には複雑な機械。
・・・研修で見た覚えがあります。虹彩認証装置というものではないかと思いました。

ふと思いあたってあたりを見回すと、
斜め右の天井、それと扉の下部に上向きの監視カメラがありました。
自分としたことが、うかつでした。・・・まさかカメラを壊すなんてできません。
ここまでは善意でした行為ということで説明できるでしょうが、
それをやるとこちらが犯罪者になってしまいます。
そう考えて、早々にその場を離れたんです。
でもね・・・私にも意地は残ってますから、毎日それとなく、
その物置小屋は観察してたんですよ。
・・・人が出入りするなんてことはなかったです、それ以降は。
私が見たものが幻でなれば、警戒されたんでしょうね。

こんな話なんですが、気になることがあるんですよ。
最近ここらの地域で、UFO・・・未確認飛行物体って言うらしいですね。
その目撃談が出てるんです。
夜にあの公園の上空にいるのを目撃した人が数人いるんです。
緑色の閃光を発していたといいますね。
あと、5日前、私の家の郵便受けに、
カラカラに乾いたサソリの死骸が入っていたんです。
昔のつてで前にいた署の鑑識に持っていったんですが、
中東にしか生息しない猛毒種とのことでした・・・警告なんでしょう。
それとね、昨日、県警の本部長からじきじきに会いたいという連絡が入ったんです。
何を言われるんでしょうか・・・



だんだら焼き

2014.07.18 (Fri)
*これも昔ネットに書いたものです。某まとめサイトに載るまで忘れていました。

小学校の6年生のときの話。
うちの地方では小正月の1月15日に近い土曜日の夕方に、
『だんだら焼き』というのをやる。
他のとこでは『どんど焼き』と言うことが多いだろうけど、それのなまった形だと思う。
青竹と藁を組んだやぐらを燃やして、そこで注連飾りや古くなった御札類を焼く。
当時俺は書道の塾に行ってて、そこの生徒達は正月の4日に強制的に書き初めをさせられ、
新しい年の目標を書いたのを焼くことになってた。
だんだら焼きは地区ごとに町の4ヶ所でやるんだけど、
書道塾の仲間は違う地区のやつでも、本町の神社前でやるメインのに来てたな。

その日は6時頃に飯を食って、
書き初めと家族に前から頼まれてた正月飾りを持ってでかけた。
行ってみるともう火は焚かれて、友だちもかなり集まってた。
いろいろ話をしていると、神社から神主さんが出てきて祝詞を唱え、
神社の大きな鏡餅を割った。
その後は特に儀式とかもなくて、各自が火に近づいていって燃やすものを投げ込む。
それから串に刺した餅を焼いて食べたりミカンをもらったりして解散する。
それだけなんだけど、
子どもとしては暗い中で大きな火が燃えてるというのはけっこう興奮する行事だった。

バチバチ青竹がはぜる中を、友だちと火を囲んだ人垣の中に入って、
リュックから出した飾りなんかをこわごわ投げ込んでいると、
横に藁のミノ?を着た大きな男の人が割り込んできた。
雪の降る地方なんでみんなコートやジャンバーを着てるけど、
そんな格好の人は見たことがなかったんで、あれっと思って見上げると、
男は昔風の笠をかぶってて顔が見えなかった。
わずかに見えるあごのあたりがすごい青い色で、
絵の具を塗ったような感じで気味悪かったのを覚えてる。

ただこれは今にして考えると、焚き火の照り返しでそう見えただけかもしれない。
その人は白い布袋からダルマを取り出したんで、さらにあれっと思った。
俺らの地方ではダルマはこの日に焼くと目がつぶれる、
という言い伝えがあって、焼く人はいないからだ。
その人が持ってるのは20センチくらいの大きくないダルマで、
目が両方とも入れられていない。
というか、そもそも最初から目玉を描く丸がなくて、鼻とひげ以外はつるっとしてる。
それで、普通は必勝とか合格とか書かれているとこに
何か長く書かれているけど、崩し字で読めなかった。
何となく人の名前のような気がした。

その人は無造作な感じで火の中にダルマを投げ込んだ。
するとダルマは火が移ってくると左右にゆがむ感じで動いてパチンとはじけた。
楊枝でつつく玉ようかんみたいな割れ方で、外側が丸まって見えなくなった。
中から内蔵のようなのがでろんとこぼれて、湯気を立てて焼け始めた。
不思議なんでずっと見てたら、
その人がこっちに気づいたようで体をこちらに向けて袋の中をさぐり、
白い布包みを取り出して手の上で開いて、何も言わずに差し出してきた。
ささくれてごついけど当たり前の手だった。

包みの中は四角いもろこしのような菓子で4個あった。
俺は怖かったんでヒジでつついて友だちに知らせ、
断ることもできずにその菓子を2個ずつもらった。
その人は無言のまま、後じさりするようにして帰っていった。
その後に神社の餅のかけらなんかをもらって解散だった。
友だちもミノを来た人を見て不思議がっていたけど、
さっき見たダルマのことは言わなかった。
何でと聞かれても困るけど、そのときは言ってはいけないという気がしたんだな。
友だちと別れてから、家の近くでもらったもろこしを出して田んぼの雪の中に捨てた。

それ以後、中学生になってもだんだら焼きに行ってたけど、
それらしき人を見かけることはなかった。
このことも家族にも言わないままずっと忘れてたんだけど、
この間東京に出てるそのときの友だちが、
大学のラグビー中の事故で片目を失明したという話を聞いた。
関係ないのかもしれないけど、それでこのときのことを思い出して書いてみたんだ。



霧鏡

2014.07.18 (Fri)
もう30年も昔、わたしがまだ小学生だった頃の話です。
当時家があったところはほんとうに田舎で、すぐ裏手まで山がせり出してましてね。
いや実際、大雨の後には土砂崩れを心配していたほどです。
そんなところだから山が裏庭がわりみたいなもんでした。
小学校4年生のときだったと思います。親父と裏山に入っていました。
わたしには弟がいるんですが、そのときはまだ小さかったもので、
よく親父の手伝いをさせられていました。春は山菜、秋はキノコ採りなんかです。
親父は営林署の職員でしたので、日曜日が多かったですね。

秋のキノコ採りだったと思います。
風が肌寒かったのを覚えているので、10月頃でしょうか。
その日も親父と山に入っていたんです。高さは100mもないんでしょうが、
ブナ林が渓流の上にかかる尾根の上でマイタケを採っていました。
木の間から、下のほうに浅く速い流れが切れ切れに見えていましたね。
つまり崖になった上ということです。
そんな場所だから親父も慎重で、わたしを自分のそばから離しませんでした。
9時過ぎから始めたのが昼になり、収穫が少なかったので、
握り飯を食ってから午後も続けることになりました。

林を出て、崖から渓流が見下ろせる草地に腰をおろし、
親父が背負っていたザックから水筒と飯の入った籠を取り出しました。
そのとき・・・そこそこ晴れていた空が、急に暗くなったんです。
大きな黒雲が頭上に出ていたんですね。
おかしな話で、山では天気がとても重要なので、
そんなのがあればとうに気づいていたはずです。
親父が少し顔をしかめました。雨を覚悟したのだと思いました。
雨具は持ってきていなかったので、林の中でやり過ごすことになるのか・・・

急いで握り飯を食べてしまおうと思いましたが、雨は落ちてはこず、
渓流の谷から真っ白な霧が立ち上ってきました。
それもまた信じられない早さで、わたしたちのいる場所まで上ってきたんです。
低く垂れた黒雲と、足元までひたす白い霧・・・わずか数分の出来事です。
この世のものではない場所に連れ去られてしまったという感じがしました。
親父が立ち上がり、谷のほうを見て「遅かったか」とつぶやきました。
渓流の谷の幅は数十mというところで、
その向こうはこちらよりも低い尾根になっていたんですが、
霧の間からうっすらとシルエットになって見える向こう側が、
いつの間にかこちらと同じ高さになっていたんです。

「ああ、また踏んじまったのか、油断した」と親父が、今度ははっきり声に出して言いました。
向こうの崖の上に、やはり黒く影になった人の姿が見えました。
一人は立っていて、一人は座っている、大人と子どもの姿だと思いました。
ちょうど私たちの様子を鏡に映したような具合です。
親父が右手を高く上げました。
すると向こうの崖の上の大人も、まったく同じタイミングで手を上げたんです。
「ああ、やっぱりだ。やり過ごすしかない。霧が晴れるまで動くなよ」
親父が固い声でわたしに言いました。
わたしたちがじっとそのままの姿勢でいると、向こうの影もまた動きを止めました。
そうしているうちに少しずつ、少しずつ霧が晴れてきたんです。

わたしがほっとした顔をしたんでしょう。親父は、
「まだだ、霧鏡は晴れ際がいちばん入れかわりやすいから」こう強い口調で言い、
「・・・お前、ペンか何か持ってないか」と、意外なことを聞いてきたんです。
わたしが首をふると、
「ならしかたがない。ちょっと痛いが我慢しろ。ほんの表面を傷つけるだけだから」
こう言って藪払い用の鎌を出し、
わたしの右腕をとって、二の腕の裏側に刃先をあててスーッと引いたんです。
血がにじんできましたが、ごく表層の皮だけが切れたようで、
痛みはまったくなく、くすぐったいくらいでした。
刺し傷や擦り傷など、怪我はしょっちゅうでしたので驚かなかったですが、
なぜ親父がそんなことをしたのかわかりませんでした。

それで親父の顔を見ると、親父は鎌を左手で自分の右腕にあて、
わたしの腕と同じように引いて傷をつけたんです。
そして鎌を持った左手を、大きく上げて振りました。
向こう側の崖の影もそれと同じ動作をしましたが、霧が晴れるにしたがって、
さっきまで黒ぐろしていたのが、だいぶ薄れているように見えました。
「向こうを見るな。ずっとその傷だけ見ていろ。もうすぐ終わるから」
親父がそう言ったので、わたしは、10cmほどの傷のやや深く切れたところから、
血が玉になって流れ落ちるのを見つめてたんです。

やがて・・・10分ほどたったでしょうか。
霧は完全に消え去り、同時に頭上の黒雲もなくなっていました。
「さあ、もういいから立て」親父はそう言って、
わたしの腕の傷に手ぬぐいをきつく巻いてくれました。
「今のなに?」わたしが聞くと、親父は、
「別に隠すようなことでもないから教えるが、あれはこのあたりでは霧鏡と言うんだ。
 天気の条件によって、霧にこっちの姿が映ってみえる自然現象だ」
「それで、どうして手を切ったん?」
「・・・言い伝えだとな、霧が消える間際に、
 あっちの世界とこっちの世界が入れかわってしまうことがあるんだそうだ」

「もし入れ替わってしまったらどうなるかはわからない。
 ただ・・・おまじないの一種なんだろうな。
 右の腕に線を書くか、書くものがないときには薄く傷をつけて、
 晴れるまで見つめていると無事にやり過ごせる、そう言われているんだよ」
こう、大人に言うような口調で説明されたので、
その場はなんとなく納得した気分になったんです。
もうキノコ採りはあきらめて、急いで山を下り家に戻りました。
手ぬぐいをとってみると血はもう止まっていて、一本の細く赤い線があるだけでしたね。
親父の傷も同じようなもんでした。
まあ、こんな話です。

・・・それ以後も親父と、あるいは一人で山には何度も入ってるんですが、
こんな現象には二度とお目にかかったことはありません。
ああ、そのときの傷跡ですか・・・まだありますが、
だいぶ薄らいでしまったので見えるかどうか。ほらこれです。
腕の内側の白いところだからまだわかるんでしょうねえ。
あとですね・・・実は傷は同じようなのがもう一本あったんです。
そっちのほうはとうに消えてしまいましたが、左腕の似たよう場所にです。
おそらくもっとずっと小さいときからあったのだと思います。
その頃すでに、よく注意して見ないとわからないくらいでしたから。
霧鏡で右腕に傷をつけた後で、風呂に入ったときに気がついたんです。
そちらのほうは、いつついたかはまったく記憶にないんですがね。



ダイエット

2014.07.17 (Thu)
今年のゴールデンウイークのときのことです。
友だち2人と旅行に行ったんです。もちろん女性で、A子、B子としておきます。
3年前にOA関係の専門学校を卒業したんですが、そのときの同級生なんです。
3人とも勤め先は違います。あ、はい・・・それが3人ともカレシとかいなくて。
行き先は関東で、2泊3日でした。
他の皆さんの話を聞いていると、どこへ行ったかの具体的な地名は、
ここでは言わないほうがいいみたいですが、今になって考えれば、
中にはパワースポットと言われる場所や、自殺者の多い場所もあったんです。
とにかく有名な観光地ばかり回って帰ってきたんです。
泊まりは一泊がホテルで、もう一泊は温泉旅館でした。

・・・特におかしなことはなかったはずです。
旅館でうなされるなんてことや、変なものを見たとかも。
ただ・・・旅行の最後の日の新幹線の中で、
3人で誰が一番先にカレシつくるか競争しようということになりました。
まあ、これは集ればよく出る話題ではありましたけど。
それからダイエットをして結果を報告し合おう、という話も出ました。
これがちょっと不思議で、もともと皆ダイエットは日ごろから心がけてて、
そんなに太ってるわけじゃないんです。
それが3人それぞれ別のダイエットをして、細かく連絡を取り合うことになったんです。

で、帰ってきて、カレシのほうは・・・職場があまり出会いのないところですし、
積極的に合コンなんかに出ることにして、あとダイエットはネットでいろいろ調べてみました。
結果、自分にで合いそうだったのはフルーツ断食というものでした。
土日の2日間に限定して数種類のフルーツ以外食べないというもので、
平日は少し早く起きて、電車を一駅分歩くことにしました。
こう決めて、A子、B子にメールしたら、A子はバランスボールを使ったエクササイズ中心、
B子は水ダイエットと書いてきて、これはちょっと興味をひかれました。
水飲むだけならチョー簡単ですから。
でも、詳しく聞いてみるとそれなりに様々なコツがあるようでした。

始めてみて、一駅歩くだけのことがあんなに疲れるとは思いませんでした。
早足で25分くらいです・・・高校ではバレー部だったのに、体力が相当落ちてるんですね。
これを月から金まで続けて、こまめに体重計にのっていたんですが1kgも減らなかったです。
でもまあ基礎代謝が増して効果が出るのはまだこの先、と思っていました。
土日は完全に休みでしたので、リンゴ、パイナップル、バナナなどを買い込みました。
食べるのはこれらのフルーツをマニュアルどおりに、
あとはハーブティーを飲み、ビタミンミネラルのサプリを摂るだけです。
もともとそんなに食べるほうじゃないんですし、
それにお酒も職場の会でしか飲まないので、効果があるのかなーという疑問はありましたね。

日曜の夜です。空腹感というのはまったくなかったんですけど、
お風呂上がりに体重計に乗ってみたら、なんと2kg減ってたんです。
1週間で計2.8kgです。これは、と思いました。
まだ10時だったので2人にメールしようと思って、
着替えた・・・ところで意識が消えました。
気がつくと床にうつ伏せに倒れていたんです。
頭が痛くてのろのろ起き上がると、テーブルの上にハーブティーがのっていました。
もう水分は摂る予定がなかったので、お茶の道具はかたずけてあったのに。
しかもティーカップがなぜか2つあって、一つは空、一つには少し残っていました。
空のほうも臭いをかいでみると、ハーブの香りがしたんです。

自分で用意したとしか考えられないんですけど、なんで2人分も・・・
時計を見ると12時を過ぎていました。もう寝なくちゃいけないんですが、
携帯を見ると、B子からメールが入っていました。
メールの内容は、なんと1週間で4kg減という報告でした。
これを見て、ああ自分はまだまだだ、もっと頑張らなくちゃと思いました。
急いで返信し、戸締りを確認したら、
お風呂に入っている間に、絶対に鍵をかけてあったはずなのに、
アパートの入り口の鍵が開いていて、チェーンも外れていたんです。
頭の中が疑問符でいっぱいでしたけど、鍵をかけ直してその日は寝ました。

その週の水曜日です。A子、B子と退社後に会うことにしていました。
場所はちょっとグルメなイタリアンレストランです。
6時半に集合して、サラダを中心に食べる予定でした。
時間通りに2人はやってきて・・・
A子のほうはちょっとすっきりしたかな、という程度でしたが、
B子はまさに激ヤセ、顔色も紙のように白く、目が大きくなっていました。
「あんた大丈夫なの?」と思わず言ってしまいました。
A子も「ムリしすぎなんじゃない、ちょっと」と心配げでしたが、
「ぜんぜん平気、体調はすごくいいの。10日で6kg減ったんだから」
と自慢げに答えたんです。でも大丈夫とは思えませんでした、フラフラしてましたから。

注文を済ませて、お互いのダイエット法についてあれこれ情報を交換しました。
そのときに、日曜日の夜にあったハーブティーのカップと、
部屋の鍵の話をしようとしたんですが、先にA子のほうが同じようなことを切り出したんです。
なんでも私と同じ時間に、ボールにのっかってトレーニングしている最中、
気を失ったということでした。気がつくと約2時間たっていて、
やはりテーブルの上に缶ビールが2つのっかっていたんだそうです。
缶はどっちも空で、A子の口からビールのにおいがしたので、
自分で飲んだということがわかったと言ってました。
ダイエット中なので、ビールなんて絶対飲むつもりはなかったのに、とも。
それと、やはり部屋の鍵が開いていたのだそうです・・・

私が自分の体験を話すと、A子は目を丸くして驚きました。
それからあれこれ考えを述べ合ったんですが、結論が出るはずもありませんでした。
結局、ダイエットのために心が不安定になっていたんだろう、ということで落ち着いたんです。
この間、B子は口をはさまず、黙って私たちの話を聞いていましたが、
「あんたは、そんなことなかったの?」と聞いても何も答えませんでした。
食事が終わって、前は軽くお酒を飲みに行ったりもしましたが、
この日はそれで散会になりました。
A子と2人で、B子に無理はしないようにと、忠告したんですが、
やはり何も言わずニコニコしているだけでした。
ただ帰り際に「カレシができそうだ、気に入られている」みたいな話をにおわせたんです・・・

次の土曜日、少し予定はありましたが、2回目のフルーツ断食に入りました。
前回の経験でそんなに苦しいことはないとわかっていましたので、気楽といえばそうですが、
意識をなくしたことについては気になっていました・・・
それで結果を言うと、日曜の夜、お風呂上がりにまた同じことが起きてしまったんです。
前回と違って、少しだけ意識が残っているようでした。
真っ暗な中で、うつ伏せになっているというか、平伏しているという感覚があったんです。
そこで、何かとてつもなく偉いものにお説教をされているようでした。
「お前はダメだ、ダメだ、ダメだ・・・」という意味だけが、
くり返し頭の中に入ってきたんです。
何がダメなのかもわからず、ただただ申しわけがない気持ちになって泣いてしまったんです。

我に返ると、夢?と同じ姿勢でうつ伏せになり、フローリングに涙がこぼれていました。
テーブルには今回は何もなかったんですが、
やはり厳重に閉めてあったはずの部屋の鍵は外れていたんです。
A子、B子からメールが入っていました。
A子からのには「また気を失った。落ち着いたら電話する」とあり、
B子からは「2週間で12kg減、体重は40kgを切った。カレシができた」とありました。
ややあってA子から電話が入り、気を失っている間中、何かにしかられて泣いたという体験は、
私とほとんど同じでした。
遅くなってからB子に連絡したんですが、携帯は通じず、
めったにかけない固定電話は、ずっと呼び出し音が鳴り続けるだけでした。

B子はその夜から失踪してしまいました。
携帯はお風呂の中に放り込まれ、服なんかも持ち出した様子はないのだそうです。
預金にもいっさい引き出されてない・・・
実家から出てこられたご両親からお聞きしました。
私もA子も知っている限りのことは話しましたが、役に立ったとは思えません。
警察も動いているということでしたが、いまだに見つかってないし、
手がかりもないんだそうです。




雑談(暑い)

2014.07.15 (Tue)
 しかし毎年のこととはいえ暑いですね。
この季節になると熱射病というより、エアコン病になるんです。
今、Wikiで「冷房病」というのを検索してみたら、
『冷房が強く効いたエリアに長時間いた後、外気温にさらされることを繰り返した
ときに起こる体調不良といわれているが、実際には冷房との関連ははっきりしないことが多い。
日本独自の概念であり世界では通用しない。』

・・・あまり詳しい研究はされてないんでしょうか。
自分の場合は確実に関節が痛くなります。

 数年前、寝ていて肩を脱臼したことがあります。
その日は最高気温36°くらいで、夜になっても30°から下がらず、
しょうがなくエアコンをつけて寝たら(普段はほとんどやらないです)
夜中に肩が痛くて目が覚めました。
起きると右肩が上がらず、腕が長く伸びていたので脱臼だと思って、
タクシーで救急病院に行きました。
腕をベッドから出して寝ていたこと、エアコンの風が直接あたっていたこと、
柔道をやっていたときの古傷があったこと、トレーニングを怠り筋肉量が減っていたこと
などが原因なんだと思います。
手術はしませんでしたが、完治といえるまで1年近くかかりました。

 さて、自分が怖い話のアイデアにつまったときには身近なものに目をとめて、
それをもとにして無理やりひねり出すことがあります。
エアコンをもしテーマにして考えるとすると・・・
ありがちなのは、分解掃除するとびっしり髪の毛が出てきたとかですか・・・
髪の毛は生理的な嫌悪感をもたらしますが、さすがにこれだけでは話にならないでしょう。
あとは音ですかね、今のエアコンはほとんど音は気にならないくらいですが、
これが急に女の悲鳴のような音を立て始めた・・・これもありきたりですねえ。
ああそういえば前に、エアコンではないですが、
除湿機で一つ話を書いたことがありました。ナンセンス話のほうですが、
霊は水蒸気のような成分でできていて、除湿機が吸いとるという。
除湿霊
これ、怖くはないですが、自分ではけっこう気にいってるほうですね。

 「エアコン・怖い話」で検索してみましたが、あんまりありませんね。
あったとしても、エアコンそのものが大きくテーマに関わってるわけではないようです。
一つなかなか面白いのを見つけました。
これは「意味がわかると怖い話」に属するものでしょうが。
『アパートを借りていた学生時代、夏休みということで実家に帰ることになった。
戸締まりをしっかりして帰省した。
2ヶ月という長い夏休みも終わりに近づいた頃、アパートに帰ることにした。
その日はものすごく蒸し暑かった。夜、アパートに汗だくで帰宅した。ああ涼しい』

心霊ではなく、2ヶ月間エアコンをつけっぱなしにして、電気代が・・・という話なんでしょう。

 電気代といえば、前に雑談で熱帯魚(海水魚や水草)を飼っている話をしました。
前はサンゴも飼っていたので、水槽クーラーは必須で、
150cm水槽に設置していたために非常に電気代がかかってましたが、
サンゴはすっぱりやめ、今は水面に小型扇風機をあてているだけです。
これをやると自分の水槽では水温が4°くらい下がるようです。
ただし水がばんばん蒸発して減り塩分濃度が高くなるので、毎日足し水をしています。
海水魚は、いったん飼育環境が安定するととても丈夫で、
溜め置きの水道水をバケツ半分くらい入れるだけです。

 下は同居魚の一匹「ソハールサージョンフィッシュ」
(うまく写真が撮れなかったため、ネット図鑑から画像をお借りしました)
非常に気が荒く、かつ遊泳力があり、数万円分の同居魚をイジメ倒しています。





2014.07.15 (Tue)
2週間ばかり前の土曜の午後、家でぼーっとしてたんです。
いたのは僕と弟で、居間でテレビを見てました。
自分らの部屋はあるんだけど、エアコンがついてないんで、
居間で涼んでることが最近多いんです。両親は町会の会合に出て不在でした。
玄関がガラッと開いた音がして、「おーい、いるかー」と声がしました。
・・・田舎なんで鍵とか掛けないんです。

僕は「ああ、信也おじさんの声だ」と思って玄関に走りました。
信也おじさんというのは父の弟で、
アウトドアライターという珍しい職業をしてるんです。
おもしろい人だし、スポンサーからもらったキャンプ道具とか、
釣りの獲物、珍しい昆虫なんかを持ってきてくれるんで、
いつも来るのが楽しみだったんです。出てみたら案の定、
おじさんは暑いのに長袖にポケットのいっぱいついたベストを着てて、
どっかに取材に行ってきた帰りみたいでした。

おじさんは玄関で僕の顔を見るなり、
「おいバケツか洗面器あるか、早くもってこい!」と言いました。
僕があわててバケツを持っくると、
「便所掃除用じゃないだろな」おじさんはそう言って、
クーラーボックスから20cmくらいのカニをその中に入れました。
「岸壁にカニ籠しかけてとったんだよ。味噌汁がおすすめだな。
 ところで父さん母さんはいないのか、健二はどした?」と聞いてきたんで、
「父さん母さんは、町内会の会合に出てます。あ、健二はいますから、おーい」
と、弟を呼んだんですが出てきません。

弟はおじさんが大好きで、こんなときは真っ先に来るのに変だなと思ってたら、
「いい、いい、もう戻るから。着替えてからまた出直すよ。
 ああ、それからこのカニ、逃げるからなんかでバケツ、フタしとけ。
 あと早く食べないと共食い始めるからな」
こう言い残してあわたように帰っていったんです。
バケツにとりあえず重ねた新聞紙でフタをして、まわりをテープで止めました。
それを台所に置いてから居間に戻ると、
弟が真っ白い顔をして体育座りしてたんです。

「今、おじさん来たのに何で出てこなかったんだよ」僕がそう言うと、
「・・・ホントにおじさんさった?」と聞き返してきました。
「玄関から声聞こえただろ」
「兄ちゃんしゃべってる声しか聞こえなかった」
「そんなわけないだろ。おじさんのほうが声がでかいのに。
 カニもらったんだ、見るか?」
こう誘っても黙って首をふるだけで、なんか様子がおかしかったんです。

そのうちに両親が帰ってきましたんで、
おじさんが来てカニを置いてった話をすると、
父が「信也がか?あれ、やつは今、東南アジアに出かけてるはずなんだけどな」
おじさんの携帯に連絡しましたが、通じないようでした。
それから、父と一緒にカニを見にいきました。
ところがです。バケツにテープでフタをした新聞はそのままだったのに、
中が空だったんです。
僕が入れた水道の水はそのままで、汚れてもいませんでした。

数匹いたカニは跡形もなく消えてしまっていました。
「・・・えー、逃げたのかな」
「うーん、あれだけテープでとめてすき間もなかったし、
 こんなにきれいに逃げるのは・・・」
父は少し変な顔をしたんです。
いっしょに冷蔵庫の陰なんかをさがしてみましたが、
カニの姿は見えませんでした。

夕食後に部屋に戻ると、弟が「ねえ、兄ちゃん。妖怪とか信じる?」
と聞いてきました。「いきなり何言い出すんだよ」
「昼に来た信也おじさん・・・あれ妖怪みたいなものだったんじゃないかな」
「・・・」
「兄ちゃんの声しか聞こえなかったって言ったろ。
 だけどホントは別の声が聞こえたんだよ。外国語で・・・すごく怖い声」
「何言ってんだよ、ゲームのやりすぎじゃないか」
「ホラーのゲームなんて持ってないよ。それにカニいなかったんでしょ」
「それは・・・」こんなかんじのやりとりをしたんです。

次の日曜日の朝、何の予定もなかったんで一家して遅くまで寝てるはずだったんですが、
7時過ぎころ父が部屋に来て、僕と弟を起こしたんです。
「おい、カニ逃げたの本当だったかもしれないな。今朝方、天井でガサガサ音がしてた。
 床下から何か聞こえなかったか?」
僕は首を振りましたが、半分寝ぼけた感じの弟は、
父の言葉を聞いてすごくおびえた顔をしました。
朝飯を食べてから、父が和室の押入れの上を開けて懐中電灯で天井裏を見ていました。
でも、何も見つからなかったんです。

その夜です。僕も弟も宿題を貯めていたので、珍しく2人とも机に向かっていました。
弟は真面目にやってましたが、僕は飽きてきて本棚のマンガに手をのばそうとしました。
すると、その後ろから黒い影が走り出て、もう一つの大きい本棚の後ろに入っていきました。
このときは黒い小さい影にしか見えなかったんです。
電気はつけてるし、スタンド2つもついてたのに、
何だかわからない黒いものが、すごい速さで走ったんです。
「あ、カニ」僕は叫んで、本棚をずらそうとしました。
気がついた弟が「兄ちゃん、怖いからやめてよ」と言いました。
「何が怖いんだよ」一人で本棚を斜めにずらしたんですが、
ただ綿ぼこりがたまっているだけでした。

11時頃に寝て、夢を見ました。体が動かない夢です。
あたりはぼんやりと見えるだけで、一面の緑でした。
ジャングルのようなところにいるのだと思いました。
両方の手首の骨がゴリゴリとこすれる感覚がありました。
両手を板の上に縄で縛りつけられているのが見下ろせました。
かなりの距離感があって、自分の手とは思えないのに痛みがあるんです。
目の前に四角いものがつきつけられました。
最初は何だかわかりませんでしたが、平たい大きな刃物のようでした。
不思議なことに、縛られている自分が遠くから見えたり、
そのまま縛られている感じになったりを、何回もくり返していたんです。

刃物はふらふらと目の前を上下した後、
思いっきり縛られた手の上に振り下ろされました。
ダーンという音がして目が覚めたんですが、
そのとき2段ベッドの上で弟の悲鳴が聞こえました。
何かと思って飛び起きたら、弟が上から顔を出しました。
暗くてよくわかりませんでしたが、泣いているように見えました。
電気をつけると、弟が涙で顔をびしょびしょにして、
「信也おじさんを殺しちゃった」と言いました。

話を聞くと、夢の中で台所にカニがいて、
それを包丁で叩こうとしていたんだそうです。
あちこち逃げまわるカニをなんとかつかまえて包丁で甲羅を叩いた。
するとカニが消えて、目の前に血だらけの信也おじさんが横たわっていた・・・
「夢だから怖がるな」と言いました。弟と同時に変な夢を見ていたのかと思うと、
僕も怖くなりましたが、弟に自分の夢の話はしませんでした。
親を呼ぶことはなく、なんとか寝かしつけました。

翌日、学校にいると担任の先生から、
「お父さんが迎えにくるから弟さんと帰るように」と言われました。
昇降口にいくと弟が待っていて、すぐに父の車が来ました。
乗り込むなり「信也おじさんがラオスで亡くなったという連絡が入ったんだ」
と父は言い、続けて「これから現地にいかなくちゃならならないみたいだ」
家に戻ると親戚の人が数人集まっていました。
耳に入ってきた話では、信也おじさんは現地の人に殺されたようでした。

その後、テレビでも事件のことが詳しく報道され、
独身だったおじさんの遺体を引き取りに、父と田舎の祖父がラオスに向かいました。
信也おじさんは、両手首を切り落とされ、最後に背中から心臓を刺されたんだそうです。
僕が家でおじさんにカニをもらったと思った土曜日には、
もう殺されていた後だったということもわかりました。
カニは・・・その後、音を聞いても見かけてもいません。
これで僕の話は終わりです。




山仏

2014.07.13 (Sun)
先日、孫と山に行きまして。まあ山と言っても、高さは50mもないですよ。
息子夫婦が住んでる高台の団地のほうがまだ高いかもしれません。
ただ、ちゃんと名前があるんです。「びろ山」っていう。
変な名ですが、これで地図にものってるんです。漢字でどう書くかはわかりません。
未舗装ですが車でも通れる道もありまして、
朝方はよくウオーキングのご夫婦なんかを見かけます。
その山へはね、腐葉土を取りに入ったんです。
趣味で畑をやってまして、肥料がわりに鋤きこむんです。

昨年の冬の初め、土曜日のことだったと思います。
孫が一人で自転車で遊びに来てまして・・・
息子らの家とは1kmほどしか離れてませんからね。
で、せっかく来てるんだから、手伝ってもらおうと思ったんですよ。
私も70を過ぎて、坂を一輪車押して歩くのはおっくうですし、
孫は高校2年生で、運動部もやっていて力がありますから。
午後1時頃に出かけました。
ここらはほとんど雪が降りませんから、こういうこともできるんでしょう。

道からそれた林の斜面に入って、高くつもっている枯葉を広範囲に取りのぞくと、
下から黒い土が表れてきます。これが腐葉土です。
・・・そのあたりは市の土地なんじゃないですかね。
近くに運動公園があって、その一部になってるんじゃないかと。
いや、許可は得ていません。どうせ猫車一杯分程度だし。
私の他にも、このあたりから土もらってく人はけっこういますが、
誰も許可なんて取ってないんじゃないかな。
畑を始めて4年目ですか、毎年そのあたりからいただいてくるんです。

腐葉土は熟成してるかどうかが大事なんです。黒くてボロボロした感触ならまず大丈夫。
私は米ぬかを使ってさらに発酵させ、虫を殺してから用いますけどね。
ああ、すみません。本題を続けます。
それで孫と2人でシャベルを使ってると、孫の角シャベルが土の中の物にあたって、
「ガキーン」と音を立てたんです。
そのときは、石をたたいたんだろうくらいにしか思わなかったんですが、
ショベルをあげた孫が変な顔をして、先のほうを見ていました。
「じいちゃん、これ」私に突きつけてよこしたんで、見ると、
刃のところに金色のものが付着していました。

孫が音のしたあたりを下に掘り始めました。腐葉土ですからね柔らかいんです。
すると、鮮やかな金色のものが土の中にあるのがわかりました。
「これ、でかいぞ」孫が言いました。
何だろうと思い、私も手伝って広くそのあたりの土をはがしたんです。
・・・金色の渦を巻いた丸いものがいくつも出てきました。
巻き貝みたいな形をして一つが20cmくらい、先端が上を向いています。
軍手をした手で拾い上げようとしましたが、動きません。
土を払ってみると、隣のものとつながっているようでした。
「何だろうこれ、変なの」と孫が言いました。

私はといえば、内心とても興奮していまして。
もしかしてすごい宝物を掘りあてたんじゃないかと思ったんです。
金ピカでね、尋常じゃない輝き方をしてましたから。
表面の土をとりのけていったんですが、その丸いものはいくつもつながって出てきます。
やっとかたまりの端に出たようなので、
その側面にそってシャベルを下に突きさしてみました。
はっきりとはわかりませんでしたが、
かなりの深さまでそれは地中にあるように思えましたね。
そうやって1時間以上も土を取りのけているうちに、全体が見えるようになってきました。

「じいちゃん、これもしかして・・・」孫が呆れたような声を出しました。
孫の言わんとするところは私にもわかりました。
実は私も同じことを切り出そうと考えていたところだったんです。
金ピカのものの全体は・・・大仏の頭だとしか思えませんでした。
奈良の大仏ほどの規模のものが、この山の中に埋まっていて、
私たちはその頭の上に立っていて、あの特徴のある丸まった髪・・・
あとで調べたら螺髪というそうですが、それを掘りあてたんじゃないかと思ったんです。
でもねえ、まさかですよねえ・・・

とにかく私たちの手に負える代物でないことははっきりしてました。
人を呼ぼうと思いましたが、誰に連絡したらいいかわかりません。
とりあえず警察かと考えてましたら、孫が、
「この近くに、高校の歴史の先生が住んでる。世界史なんだけど何かわかるかも」
「すぐなのか」と聞き返しましたら、
「この坂を下りて200mくらい、もう部活も終わってるから家にいるんじゃないかな」
学校で社会体験があったとき、その先生の家におじゃましたことがあるんだそうです。
その場に猫車とシャベルを置いて、息子の案内で行ってみたんですよ。

幸いに先生はご在宅で、50過ぎくらいの方でした。
ご挨拶をしてから息子が事情を説明すると、
先生は「まさか」という顔をされました。それはそうですよね。
私だって人からその話を聞いたなら、やっぱりありえないと思うでしょう。
山の土中に鎮座する巨大仏像・・・なんてね。
しかもこのあたりはそう古い歴史のある場所でもなく、
江戸時代になってから築かれた城下町です。
しかも子供の頃から住んでいて、
大仏やそれに類した言い伝えなんて聞いたこともなかったですし。

先生のミニバンに乗せていただき、さっきの場所まで戻りました。
笹をかきわけて斜面に入ると・・・目に焼きつくほどに鮮やかだった金色のかたまり、
それがさっぱりとなくなっていたんです。
いや、場所を間違えたわけじゃありません。猫車もシャベルもありましたし、
穴がそのまま残っていまして、
中には一匹、1m少しほどの動物がうつ伏せに転がっていました。
カモシカに似ているような気もしましたが、ここらにはいないはずです。
目をつぶって歯をむき出し、死んでいるように見えました。
私も孫も言葉を失い、先生はいぶかしそうにその獣を見つめているだけでしたね。

ここからは後日談です。その獣は保健所に連絡して引き取られました。
あとで確認したところ、「イノシシの突然変異ではないかと思うが、
 種としてあまりにかけ離れている部分もあり、よくわからない」との返答でした。
大仏の頭は・・・そこらをまた掘ったんですが、どこにもなかったですね。
今考えてみれば、長期間土中にあって金箔が剥がれたり腐食してないのも変ですし。
ねえ、これどう思いますか?その動物に孫と2人で化かされたんでしょうか。
すみませんね、わからないことばっかりで。
あと、腐葉土は袋に詰めて再発酵させてから畑に使いました。
そのときに虫の卵なんかもみな死ぬはずなんですが、
どういうわけかナメクジが大量発生して往生しました。まあこれは関係ないんでしょうが。




プール

2014.07.12 (Sat)
つい先週の話だよ。プールに行ったんだ。
午前中塾の夏期講習があって、家に帰って飯食ってから、
近所の三上ってやつを誘ってプールに行った。
高校のプールは小学校みたいに開放はしてないから、半ドームになった市営プール。
それで今、三上ってダチと一緒に行ったって言ったけど、
これがどうやらそうじゃなかったみたいなんだ。
ああ、意味わからないだろ。後で説明するから少し待ってくれ。

カンカン照りで、プール日和だった。
その市営プールはチャリで15分ってとこかな。
簡易ドームみたいなのの中にあって、
天井が2ヶ所大きく開いてるんだ。そこから青空が見えてたのを覚えてるよ。
これが冬になると天井が閉まって温水プールになり1年中営業してるんだ。
で、俺も三上も1年通しの券を持ってたんだよ。
さっそく着替えてプールサイドに出た。

人でごったがえしてて泳いでるやつなんかいない。
泳いでもすぐにぶつかってしまう。まあ単なる水浴びだな。
知り合いを探したが見つからないんで、
三上と追っかけっこしたりしてふざけてた。
潜っていって足首をつかんで引っぱったり、そんなことだ。
で、三上を後ろからつかまえて、背中に飛びのるような形になった。
三上が頭を下げて潜ったんで、俺もそのままの格好で頭から水に入った。

そのとき耳の中でバーンという音がした。破裂音だな。
ちょうど陸上のスタートのピストルを耳元で聞いたような感じ。
同時に目の前が青くなった・・・プールの中はたしかに青く塗装されてるんだけど、
その色じゃなくて、もっと深い青。スマン、うまく説明できない。
フワーと漂う感触があったんだよ・・・水の中だから当たり前だろ、
と思うかもしれないが、
もっとこう、魂が抜け出すとでも言ったらいいか、そんな気分だった。
やがて青い色も見えなくなって・・・目を閉じたんだと思う。

どれくらいそうしてたかわからない。
だんだんに息が苦しくなってきて、頭から水面に跳び上がった。
水も飲んでたと思う。口の中で塩素の臭いがしたから。
で、まわりを見回して驚いた。
あれほど混雑してたプールだったのに、誰一人いなかったんだ。
ガランドウで、プールサイドの職員の姿さえ見えない。
人がいないから波もほとんどなくて、ただ水面が静まってるだけ。

その上にあちこち何かが浮いてたんだ。近くのを拾い上げてみると、藁だと思った。
稲藁だな。あれが水面を覆うように束になって浮いてるんだよ。
すごい非現実感があった。俺が水に潜ってたのなんて1分もないだろ。
その間にあれだけいた客が全部水から上がって隠れるなんて、
どんな大掛かりなドッキリ・カメラだって不可能だ。
あと・・・空だよ。半ドームから見える空が、青かったはずなのに白くなって見えた。
夕暮れみたいな光のない白だった。

心細くなって、三上の名前を呼びながら、
底につま先立ってトントン走るようにしてプールから出ようとした。
横にある段に足が掛かり、
バリアフリーの金属の手すりをつかんだときに後ろを振り返った。
3mほど離れた藁に囲まれた水面近くに、人がうつ伏せで浮いていた。
なぜか白いTシャツを着ていたが、三上のように見えた。
顔は完全に水の中で、このままだと溺れてしまうと思ったんだ。

もう一度水に入って近くまで行き、体の下に両手を入れてぐるっとひっくり返した。
出てきた顔はやっぱり三上だったが、泥のようなのであちこち黒く汚れてた。
「おい、だいじょうぶか。しっかりしろよ」
こう叫んだら、三上が半ば水に漬かった状態で目を開けた。
「く・る・な」と唇が動き、声を聞いたような気がしたが、
開いた口の端から小さなタニシのようなのがのろりと出てきた・・・

バーンという破裂音。さっきと違って水の外にいたせいか、
両側から手のひらで耳を同時に叩かれたような衝撃があった。
膝の力が抜けて水の中に倒れ・・・・立ち上がったら歓声が聞こえてきたんだ。
プールはたくさんの人で溢れかえっていて、目に入った空が青かった。
さっきまでの世界に戻ったんだと思った。
ただ三上だけがいなかった。更衣室に行ってロッカーを見たが、
俺の着替えを入れた両隣は鍵がささって空になっていたし、
駐輪場にチャリもなかった。

それでも・・・このときもまだ、三上は俺を置いて先に帰ったと思ってたんだ。
そんなことをするやつじゃないから、何か事情があったのかもしれない。
こう考えて、帰りしなに三上の家に寄ったんだよ。4時過ぎくらいだった。
母親が出てきて、
前の日から父親といっしょに静岡に里帰りしてるって言われたんだ。
だから俺と一緒にプールに行けるはずはない、
誰か他の友だちと間違えてるんじゃないかって。

言われてみれば、たしかに三上を誘ったときの記憶はあいまいなんだ。
ただプールのドームに入ってからは一緒にいた・・・これは絶対に間違いないんだよ。
その日の夜だな、家に電話がかかってきて、
三上が帰省先の田舎にある農業用溜池で亡くなったという知らされたんだ。
三日後に葬式が市内の葬祭センターであった。
担任も来てたし、クラスのやつ、同じ部活だったやつらが15人くらいいた。
母親はずっと泣いていたし、気の毒でならなかった。

読経の間中ずっとプールでの出来事を考えていたが、
ますます三上と一緒にいた、という気持ちが強くなっただけだった。
すべて終わってから、俺と数人が三上の父親に呼び止められた。
特に親しかったメンバーだった。父親は気がねした様子で、
「みなさん受験準備で忙しいでしょうが、いつかぜひ息子の亡くなった現場にご案内したいと
 思ってるんです。車で数時間しかかかりませんし、
 そこで花でも供えてくだされば・・・」こう言ったんだ。



雑談(怖いもの)

2014.07.12 (Sat)
 今日も雑談で勘弁してください。
自分が見てて怖いなー苦手だなーと思うものをあげてみます。
オカルトに限りません・・・というか全部オカルトじゃないですね。

・プーチン ロシア大統領
一国の元首に対してこんなことを書いてはいけないんでしょうし、
柔道界の先輩でもあるんですが、
生きて歩いている死神を見ているような感じがしますね。
彼はKGBの第一総局出身、つまり対外活動をする諜報員だったわけですよね。
殺人訓練や対自白剤訓練なども受けているんでしょうか。
経歴が風貌によく表れていると思います。

・蛾
前も少し書きましたが、虫類の中では蛾が一番苦手です。
あと蛾の前身である毛虫も。
例えばゴキブリが嫌いというのは、単に虫に対する恐怖だけではなく、
不潔や感染症に対する恐怖なども混じってると思うんですが、
自分がこれだけ蛾が苦手なのはなんでしょうね。
家の塀や街灯にでかい蛾がとまっているのを見ると、冗談ではなく総毛立ちます。
自分は爬虫類はまったく平気で、蛇くらいなら飼ってもいいです。

・海の底が見えないところ
泳げないわけではなく、むしろ遠泳はけっこう得意なんですが、
水中メガネをつけて底が見えないとすごく不安なんですよね。
なんかでかい不気味な魚やモンスターがいきなり上がってきて、
パクっとやられるような気がするんです。
こういう妄想を持ってるのは自分だけでしょうか。
ちなみに家では海水魚を飼っています。

・免許更新のときに見せられる交通安全ビデオ
これもすごく苦手です。作り手の意図としては、
「事故を起こせばこんなに悲惨なんだから、安全運転しなければダメだよ」
ということでしょうが、完全にその通りに心理操作されてしまいます。
あれを見る度に、こういう悲劇が年に何千件とあることに思いをはせ、
背筋がなり冷たくなります。
しょせんホラーは娯楽なんだなあと思わせられてしまいますね。

・人混み
これは怖いというより苦手と言ったほうがいいでしょうか。
駅なんかで、早足で移動してる集団はそうでもないんですが、
じっとしている大勢の人というのが苦手です。
だから行列などに並んだことはないです。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンなんかも、
あの並んでる人を見るのが嫌で行かないんです。野球場とかもそうですね。
心理分析してもらえば興味深い結果が出るのかもしれません。

・チョーク
これは自分以外にも多いんじゃないでしょうか。
チョークのあの粉っぽい感触も嫌いだし、
黒板に書くときのきしみ音もとてもいやです。
ガラスをひっかくほうはそうでもないんですが、なぜなんでしょうねえ。
詳しい研究とかあるだろうと思って少し検索したら、興味深い記事が見つかりました。

ウイーン大学の研究によれば、
「最も強い不快感を呼びおこすのは、2000~4000ヘルツの周波数帯であることが分かった。
 人間の耳の穴はこの帯域を増幅する構造になっているため、特に耳障りに感じるらしい。
 また、不快な音では音の高低の変化も、不快さの原因になった。」

またアメリカの研究では、
「その音が『ニホンザルが発する警戒の叫び声に似ている』という発見あった。
 この発見により、背筋がうずくような感覚は、私たちの進化の歴史の古い時期から
 取り残されている原始的反射らしい、と考えられるようになった。」


だそうです。うーん深いですね。
さまざまな民族や文化、言語の差異を超えて人が不快を感じる音というものが共通しており、
これを「痕跡反応」と呼ぶんだそうです。

『ウラジーミル・プーチン氏』




バイト

2014.07.11 (Fri)
つい1週間前のこと。顔知ってる筋者に声かけられたんだ。
「シケたツラしてるな。原発に作業しに行くか?」って。
「いや○○さん、それだけは勘弁してくださいよ」と愛想笑いして答えたんだが、
ふだんは俺らなんかゴミのように扱うそいつが声かけてきたのは、
何かあるんだろうと思ってたら、
案の定、近くのビルのスナックに誘われて一杯奢られた。
で、バイトの話をもちかけられたんだ。
それが1日で5万ってありえねえ話で、すぐ、こりゃヤバいことだろうって思ったね。

まあ、声かけられた時点で向こうさんとの力関係からまず断れないし、
シケてるのは確かだったから金額も魅力だった。
長くくらいこむようなことでなきゃ乗るしかないと思ったね。
で、聞いた話はかなり奇妙なもんだったんだ。
○市の△川の河川敷・・・ここは今かなりブルーシートに浸食されてるんだが、
そこのホームレスを回って契約をとって来いってことだった。
「マジで原発作業員集めかよ」って思った。
よくない噂は前から耳に入ってたしな。

ところが具体的な内容はもっとキテレツで、
現ナマ200万と20cm四方くらいのコンビニ袋に入った包みを見せられた。
「これらはお前を信用して預ける。ホームレスらから10年10万で寿命を買って来い」
わけわからなかったが、筋者は続けて、
「難しいことはなんもねえ、テントに入ってゴロチャラしてるオッサンらに10万見せる。
 で、10年分の寿命をこれで買うって言ってやれ。
 ・・・まあ、信じねえだろうな。慈善事業とでも思われるならそれでもいい。
 ただし寿命買うってことは必ず話すんだぞ。フェアトレードじゃなきゃ効力がねえんだ。
 相手が承知したら、この袋の上に手を置かせて、
『私、なんの誰彼は10万円で10年の寿命を売却する』こう言わせるだけでいい。
 どうだ簡単だろ」

筋者は俺のとまどった顔を見て、さらに続けた。
「わけは聞くなよ。こっちも絵図を全部見せてもらってるわけじゃねえから答えられねえ」
「どうして組の人間にやらせないんスか」俺はそれだけ聞いてみた。
「ああ、いや若いモンはみな出払ってる。明日あちこちでいっせいにやるんだ。
 ・・・お前は大学出てるの知ってるし、できるだろうと思って前から目ぇつけてた」
そう言われて俺は承知した。筋者は最後に、
「二つだけ注意しておく、お前のためにだ。一つ目はピンハネするなってことだ。
 10年で10万、これは守れよ。それから一人につき10年以上は買うな、
 買って悪いわけじゃないが、さすがに怪しまれる。
 もう一つ、包みの中は絶対に見るなってこと。
 あと、ぶつけたり落としたりしないよう丁寧に扱え、必ず守れよ」

こう言って、現ナマの封筒とコンビニ袋をカウンターに置いた。
俺がそれを見てると、
「金を持ち逃げするとかの心配はしてねえよ。200万だから20人から買ったら打ち止め。
 明後日に港湾の事務所にその袋持ってきたらバイト料払うから」こう言ったんで、
「そうじゃなくて、ホームレスから契約とった証拠はいらないんスか。署名とか」
と聞いてみたら、
「いらねえ、いらねえ、わかるから。・・・お前が普通にやれば金は残らないだろうが、
 もし何かの事情で余ったら、それも事務所に持ってきてくれ」
連絡先を交換し、勘定を払って筋者は店を出てったんだよ。
コンビニ袋の中は、油紙のようなのでくるんだ柔らかいもんで、少し温かい気がした。

で、翌日。ホームレスらは夕方には巣に帰ってきてるだろうと思って、
いちおうYシャツ着て尋ねて回ったんだ。
そこらは七輪とか一斗缶使って煮炊きしてるやつが多くてひでえ臭いだった。
1つ目のブルーシートに入って、うさんくさく俺を見てるオッサンにワンカップを渡した。
これは俺が自前で買ったやつだ。
それから先に10万を束ねたやつをポンと前に放った。
この、先に金を見せてしまうのが大事なんだな。あとは言うこと聞かないわけがねえ。
しかも「寿命買う」なんてありえねえ、キチガイじみた話だろ。
実際、そう切り出したらキチガイを見る目に変わったわな。
だが承諾したんで、包に手を置いて「私こと◯◯は10万円で10年の寿命を売却する」
ってのをやってもらった。特に何事も起きなかったと思う。

時間は2時間もかからなかった。ホームレスは全部で50人以上もいたようだから、
最後のほうには噂を聞きつけてやってきたやつらをさばくのに大変だった。
「20人から買ったら打ち止め」こう怒鳴らなくちゃならなかったほどだよ。
ああ、最初のほうで断ったやつが一人いたっけな。
ま、話はこれで終わり。翌日事務所でバイト代をもらって終了ってわけ。
・・・わけなんだが、実は白状しちまうと包みの中を見ちまったんだよ。
どうしても好奇心が抑えられなかたんだ。
これが、鍵つきのバッグとかに入ってたんなら、壊してまで見るなんてしねえ。
ところが、それは紙でくるんでコンビニ袋に突っ込んであるだけだから、
見たって絶対にわからないだろうと思ったんだ。

夜になって帰ってきた俺のアパートで、ちょこっとだけ包みをめくってみた。
生暖かいし、なんとなく動いている感触があった。
油紙を3巻ほどはがすと、中が薄く透けて見えたんだ。
青黒い色のそれは・・・何かの肉、というか内蔵だろうと思った。
楕円形の肉塊に太い血管が何本もからみついてるようなもんだったんだ。
しかもかすかに、かすかにだが・・・脈うってるような気がした。
そこでめくるのをやめた。俺が何か金にできるようなもんじゃないってわかったからだ。
それに、これだと紙ぜんぶはがしたんじゃないから、
見たってことにはなんねえだろうと思ったし。
次の日に事務所に顔を出した。俺に声をかけてきた筋者は不在だったが、
話は通じているようで、すぐに5万払ってもらったよ。

翌日、連日の暑さにあてられて、
あちこちの公園のホームレスが熱中症で亡くなってるって話が新聞に載ってた。
2日前のバイトに関係があるんじゃないかと思ったが、気にしないようにした。
もう俺には関係のないことと考えたんだ。
ところがその日の午後、あの筋者から携帯に連絡があった。出ると、
「お前・・・たいさいを見ただろ。あの包の中のものだよ。
 ああ、いい、いい。謝らなくてもいい。それよりお前温泉にでも行けや。
 美味いものを食え。風俗が好きならそれもいいだろ。
 あれなあ、見てしまうと寿命がなあ・・・
 10年どころじゃねえから」
最後は薄笑いのような声になって、切れてしまったんだよ。




雑談(因果)

2014.07.09 (Wed)
 自分があまり書かないタイプの話に因果応報物というのがあります。
この代表的なのが『四谷怪談』ということになるでしょうか。
ある個人が強い怨みを持ち、それによって関係者が祟りを受けるというパターンですね。
なぜ書かないかというと、個人の物語になってしまうと思うからです。
『四谷怪談』であれば、
お岩や伊右衛門の生き方、死に方によって話の筋が深まっていますが、
自分はあまりそれはやりたくない。

 自分の話に出てくる人物は多くの場合名前もわからないし、
容貌・外見などもほとんど描写されません。
ただ主婦とかチンピラとか男子中学生とかの記号的な属性があるだけです。
どこにでもいる名もない市井の一人物というわけですね。
これが例えばですが、ある女性を主人公にして、
男に裏切られ、捨てられたことに対する復讐の物語みないなのになると、
多くの描写を積み重ねて、その女性の人物像を浮かび上がらせていかなくてはなりません。
そういうのを書きたいとは思わないんです。

 個人の物語はどうしても重くなります。
自分は怪談は軽みというのが大事な要素だと思っています。
もし人間を描きたいのであれば、この形よりもホラー小説、
もっと言えば純文学のような形で書けば一番いいわけです。
まあしかし、それは自分には書く時間もないし力もないです。
自分の話はある意味、世間の表面をなぞったスケッチみたいなもので、
その中からふとにじみ出てくる怖さ、というのを掬いあげたいと考えているんです。
何もやましいことはなくても、
いつ自分にふりかかってくるかもわからない恐怖、ですね。

 こう考えると『呪怨』なんかは考察の対称として面白いです。
これも初めは「伽椰子」という強烈な個性の人物が登場し、怨みを飲んで死にます。
ここまでは典型的な因果物なのですが、
それであれば伽椰子が怨みを抱いた人物がすべて死に絶えたところで話は終わるはずです。
ところがそうはならず、怨念は佐伯家に宿り、
少なくとも生前の伽椰子にはまったく無関係の人物が大勢死んでいくことになります。
これは四谷怪談とは違った点ですね。
四谷怪談の場合は、よくも悪くも仏教的な観念に裏打ちされていると思うのですが、
そういう点では『呪怨』には宗教的な要素は感じられません。

 世の中には何かわからないけれど触れてはいけないものがあって、
たまたまかかわってしまった人が、
ほとんど落ち度もないのに理不尽に悲惨な面に遭ってしまう。
信仰の喪失や、希薄な人間関係などの現代の特質が反映しているのだろうと思います。

『東海道四谷怪談』






逆さ

2014.07.09 (Wed)
えー2か月前のことです。うちの会社で幽霊騒ぎがありまして・・・
いや、お恥ずかしい。
出たのはうちの会社の中ってわけじゃないんですけどね。
ああ、意味が解らないでしょう、説明します。
うちは雑居ビルの5階に入ってる南米からの輸入雑貨の会社なんです。
で、地下に倉庫というか物置がありまして、
そこはそのビルの入居者が共同で使ってるんです。
地下の半分が駐車場になってて、残りのスペースが倉庫なんですね。
だから広いし、天井も高いんです。

よそ様と共同使用だから、
なくなってもかまわないような物しか置いてないですね。
廃ロッカーとか壊れたイスとか、不要になった事務機が多いです。
うちの場合は、輸入品を扱ってるんで箱類ですね。
外国製の段ボールですが、ガサばるんで、
畳んでひもで縛ったのをかなり入れてます。
・・・その倉庫に、夜の8時くらいに入ったんです、私が。
残業中でして、その日届いた荷を整理してました。
で、空段ボールをまとめてエレベーターで持ってったんですよ。

倉庫には電気はついてないんですが、夜でも薄明るいんです。
駐車場のほうに常に照明があって、その明かりが窓から入ってくる。
鍵はビルに入ってる会社ごとに持ってたんで、それでドアを開けて、
すぐにある電気のスイッチを押した。
ところがつかなかったんです。「あれ」と思いましたが、
見えるからまあいいと、段ボールを抱えて入ってたんですよ。
スチールの棚がいくつも並んでて、会社ごとに使える場所が決まってます。

私らのスペースに行って空いてる場所に段ボールを重ねて、やれやれと思ったとたん、
目の前にね、ドーンと女の顔が落ちてきたんです。
いや、驚いたなんてもんじゃないですよ。
しばし固まったのちに絶叫。そのまま走って・・・
なぜかエレベーターを使わなかったんです。
コンクリの非常階段を5階まで走りのぼって、会社の中に駆け込んだんですよ。
息は切れるし、足はガクガクするし、言葉はもつれるしで、
会社にはそのとき男の社員が2人残ってたんですが、
大声で見たもののことをがなり立てました。

いや・・・信用してはくれませんでしたよ。まあ、今考えれば当然ですね。
私だって彼らの立場だったらそうでしょう。いきなり幽霊なんてねえ。
それで、3人で見に行ったんです、懐中電灯を持って。
でね、映画なんかだとこういう場合、大勢で見にいくと出なかったりするでしょ。
それで私の正気が疑われて職場内で孤立していくなんてのが、
ありがちな筋書きじゃないですか。
ところがね、このときは出たんですよ、3人の目の前で。
倉庫の鍵を開けて、一番若いやつが先頭で入っていきました。
スイッチを押すと、さっきつかなかった電気がつきまして。

会社用の棚の前までいきました。それで、この上から女の顔が落ちてきた・・・
って説明したんです。
2人はしげしげと上を見てましたが、3mくらいもあるんでしょうか。
天井は駐車場から続く鉄骨がむき出しになってまして、特に変わった様子もない。
「これ、普通ですよ」「○○さん(私)の勘違いとしか思えませんがねえ」
小バカにしたような目で2人が私を見た、そのときです。
「ギガーン」というかなり大きな金属音が聞こえたと思いました。
で、3人が立ってる真ん中に上から女の頭が・・・・

「はぶじゃじゃっ!」人は驚いたときにはこんな声を出すんですね。
3人とも意味不明のことを叫びながら逃げました。
もうね、こんいうときって人のことかまってられないていうか、
むしろ押しのけたり引っぱったりして逃げるんですね。
私は・・・2回目なんで少し余裕があったというか、余裕というのも変なんですが、
ドアを出るときに後ろを振り返ってみました。
するとまだいたんですよ、女が。頭を下にして、足が上。
極彩色のTシャツに短いスカート、浅黒い肌、長く縮れた黒髪。
間違いなく日本人じゃなかったです。

すぐに社長に連絡しました。こういう点は小さい会社だから機動力があるんです。
社長は酒飲んでるからってタクシーで来まして、3人で事情を話したんです。
それは・・・妙な顔をしてましたよ。内容が内容ですから。
でも、頭ごなしに否定することもなかったんです。
私らの会社で扱ってるのは主にメキシコの民芸品で、
中には宗教関係のものもあったし、そういう面で心あたりがあったのかもしれません。
私が見た女は南米系だと思ったし、会社の輸入品に関係があっても不思議ないかも・・・
さすがに倉庫に確かめにいくことはしませんでした。
「明日、知り合いの霊能者を呼ぶよ」社長は言い、その日は解散になったんです。

翌日の昼前に来たのが、霊能者・・・というか小さいジイサンでした。
服装も普通で、和服着たり神主の格好とかそんなことはなかったです。
Yシャツに紺のカーディガン、スラックス姿で、
ホント、定年退職したそこらで庭いじりしてるようなジイサンとしか・・・
3人が呼ばれて話を聞かれましたが、霊の全身像を見たのは私だけだったので、
特にしつこく確認されました。
「幽霊のスカートはめくれてなかったかね」って。
この人何言ってるんだ、と思いました。
まさかそんなことが重要とは考えないですよね。

「記憶にないです」って言ったら、
「じゃあ髪の毛はどうだった?下に垂れ下がってたか、そうでなかったか?」
これは・・・考えてみたんですが、かなり長い髪が背中でまとまって、
下に垂れてはいなかったと思いました。そう答えると、ジイサンは嫌な顔をして、
「厄介だね」と溜息をつきました。それからこんな説明をしたんです。
「逆さ幽霊が出てるんだろうね。だが、これには2種類あるんだ。
 まあ、それを払うのが商売だからいいが、髪の毛やスカートが垂れ下がってるかどうかは
 大切なことなんだよ。垂れ下がってるなら、その霊はわれわれと同じ空間にいる。
 同等の重力を受けているってことだから。
 ところがそうでないんなら、こっちからそこへ行ってやらなくちゃならない」

その後、ジイサンの言ったものをいろいろ買ってきて、
社長を含め10人ほどで倉庫へ行きました。
あらかじめその時間は使わないように他の会社には頼んでました。
ジイサンの両足をバスタオルでくるみ、その上からロープで縛りました。
で、若いものみんなでジイサンを倉庫の天井の鉄骨からつり下げたんです。
ジイサンが四合瓶の液体を口に含み、ブッブッとあたりの空間に吹きかけました。
逆さのままクルクル回転しながらです。むろんすべてのことはわれわれで手伝いました。
ジイサンが呪文のようなのを唱えると、昨夜聞いた金属音が響いて、
ドンとジイサンの横に女が出現しました。

まわりの社員はいっせいに跳びのきましたが、
社長が逃げなかったんで離れたところから遠巻きにして見てたんです。
ジイサンは女と逆さに並んだ状態でぼそぼそ何か話してるようでした。
ただ声は聞こえてはきませんでした、口だけが動いてたんです。
小一時間もそうしてたんですが、やがて女の姿がフッと消え、ジイサンがロープを指さして、
降ろしてくれと合図しました。
床に立ったジイサンは、伸びをしたりあちこちの関節をさすったりしてましたが、
「あのね、さっきの女の髪の毛を使った人形が日本に渡ってきてるみたいだ。
 それ最近輸入したもんだろうから、回収して供養すればおさまるだろう」こう言いました。

続けて「あんたらにはどう見えたか知らんが、メキシコなんだろうね。
 外国の貧民街の空きビルみたいなとこに立って話してたんだよ。普通に足を下にして。
 いや言葉はわからないよ。でも通じるんだ。
 なんとか納得してもらったから、供養すれば大丈夫だと思う。
 お祓いの費用は高いよ。
 いくらかは知らんが、メキシコ往復のファーストクラスの航空券以上だな。
 なんせ、向こうまで行ってきたんだから」
ジイサンはこう言うと、からからと高笑いしたんですよ。




雑談(七夕)

2014.07.07 (Mon)
 今夜は七夕で、自分の仕事場はいちおう晴れてはいるんですが星は見えません。
ロマンチックな夜と言えばいいのかもしれませんが、
自分の思考・嗜好はオカルトに偏ってるので、「七夕・怖い話」で検索してみました。
結果・・・ないわけではなかったんですが、少ないですね。
笹竹、願い事の短冊、川に流す、
などのオカルト的に使えそうな小道具は揃っているので、
もっと見つかるかと思いましたが、
こういう年中行事は題材にしにくいのかもしれません。

 年中行事と書きましたが、
そういえば自分が小学校の頃に「七夕集会」というのがあって、
全校でクラスごとに笹竹に願い事の短冊をつけ、
集会では七夕の歌も歌った記憶があります。
公立学校でしたが、七夕は無宗教とみなされていたからできたのでしょうか。
七夕のルーツには中国由来の道教的な星辰信仰が多く含まれているのだと思いますが、
そういうのを気にする人はあまりいないんでしょうね。
実際、自分も短冊に願い事を書くときに、いったい誰にお願いしているのかというのが、
よくわかっていなかった気がします。
漠然とお星様に、とか考えていたんでしょうかねえ?

 日本にはたくさんの外国の祝祭が入ってきて、年中行事化してしまっています。
クリスマスやバレンタイン、最近ではハロウインなんかも盛んですが、
宗教的な行事と見なされている感じもないですよね。
あ、そういえば、小学校の同級生にお寺の息子さんがいて、
「自分のとこではクリスマスはやらない」という言葉を聞いて、
衝撃を受けた記憶がありますw
ちなみに自分の家は、3代くらい前からプロテスタントのキリスト教なんですが。

 日本で宗教的な行事としてとらえる人が多いのは、
お盆とお彼岸くらいなんでしょうかね。
その他は年中行事として、季節の風物詩的な楽しみとして定着してきている。
こういうことはイスラム国家などでは考えられないでしょうし、
日本に生まれてよかったなあと思ったりもします。
うちもキリスト教ですが、地域の神明社のお祭りにも行きますし、
よくも悪くも、宗教に対する寛容性というか懐の深さがあるのでしょう。

 最近、俳句を作られる方のブログを拝見させていただくことが多く、
こう言ってはなんですが、お年を召された作者の方でも、
作品の若々しい感性に驚かされることが多々あります。
自分もいつまで怖い話を書き続けられるわけではなし、
俳句を始めてみようか、などと考えることもあります。
で、超恥ずかしいんですが、七夕に寄せて一つ作ってみました。
客観写生とはほど遠いものになりました・・・
「 星祭 過去の言葉が 降りしきる 」

 ・・・ああ、やはり恥ずかしい。あとで削除してしまうかもしれません。
ところで俳句をやるとすれば俳号が必要なんでしょが、
さすがにBigbossmanではダメでしょうね。



お冷

2014.07.07 (Mon)
去年の夏のことです。もう少しで1年になりますね。
あんまり有名じゃないけど、
地元ではそこそこ怖いと言われている心霊スポットに行ったんです。
場所は言えませんが、トンネルです。
もう使われてなくて、車止めが設置されてるんですが、徒歩でなら入れるんです。
行ったのは自分も入れて男女4人。みんな同じ大学の同じ学部で、カップルが2組です。
夜の9時過ぎに出発して、着いたのは10時過ぎだったと思います。
自分らの他に停まってる車はないし、来てるやつもいなかったです。

一人ずつ懐中電灯を持ってトンネルの中を向こうまで行って戻ってくる、
というのをやる予定でした。
トンネルの長さは100mもないでしょう、向こう側の街灯の明かりが見えるくらいでしたから。
ただ、やはりというか現場に行ってみたら女組が怖がってしまって、
結局、カップルで行って戻ってくるということになりました。
で、結論から言うと、不可思議なことは何もなかったんです。
そりゃ、トンネル内はあちこち壁に水が垂れてて、落書きもあったし、
懐中電灯の光でそういうのが不気味なシルエットになって浮かんで、怖かったですよ。

ビデオカメラは持って行きませんでしたが、写真もかなり撮ったんです。
それをアパートに帰ってからPCに移して、じっくり見てみる予定だったんです。
11時過ぎて、帰ろうとして俺のキューブに乗り込んだんですが、
なんとなくみんな腹が空いてて、コンビニに寄って食い物を買って帰ろう、
ということになったんです。
県道を流してると、右脇のほうにドライブインとレストランの中間くらいの
コジャレた店が見えてきて、まだ明かりがついてたんです。
たぶん来たときは見過ごしていたんだと思います。

俺はバイトの給料日からすぐだったんで、けっこう金持ってたんです。
「入ってみようぜ、金ないならおごってもいい」と言って、中に車を入れました。
せまい駐車場があって看板が出ていましたが、俺らの他には車はなかったです。
・・・ほんといい感じだったんですよ、店の具合が。
高級そうなレストランなら服装もあれだから敬遠するし、
寂れたドライブインなら最初から目にもとめない。
ところがなんて言ったらいいか・・・東京にチェーンの喫茶店があるじゃないですか、
あれくらいの入りやすさ。トンネルを過ぎていったとこにちょっとした観光地があって、
そこへの行き来の客を相手にしてるんだと思いました。

で、店の戸を押して入っていくと、すぐに「いらっしゃい」って言葉がかかりました。
若いマスターが出てきて人数を聞き、4人がけのテーブルに案内されました。
マスターは背が高く、バスケかバレー選手みたいな体格でした。
メニューを見てる間にお冷が出てきたんですが、
これがスゴかったんです。何が・・・というと、まずグラスが凍ってて、
冷凍庫から出したばっかりみたいだったし、氷はクラッシュアイスなんですね。
そしてライムが一片入ってました。
暑かったし喉が乾いてたんで、一気に飲みほしましたよ。
たぶんミネラルウオーターで、砂糖を入れれば金がとれるんじゃないかと思いました。

ところが仲間内の一人、俺以外の男のやつなんですが「うわ、なにこれ!」と言って、
テーブルの下のコンクリの床に水をブーッと吐き出したんです。
・・・さすがにね、失礼なやつだと思いましたよ。
マスターがすぐに飛んできて「お客さん、大丈夫ですか?」と聞きました。
ダチは「何この水、酸っぱいじゃね。飲めないくらい」
紙ナプキンで膝のあたりを拭きながらマスターにそう言い、マスターは、
「ああ、すみません。もしかしたらライムの絞り汁が多すぎたかも・・今、取っ替えますから」
グラスを持ってカウンターの奥に引っ込んでいきました。
で、新しいグラスがすぐに来たんですが、ダチは今度は普通に飲んでました。

「いくらなんでも、吐き出すことはねえだろ」と俺が言うと、
ダチは「でもよ、信じられないくらい酸っぱかったんだぜ。ライムそのままかじるよりずっと」
かなり不機嫌になってましたね。
それから料理を注文したんですが、みなパスタ系でした、安かったですし。
味はまあまあでしたね。マズイってことはなかったですが、
お冷ほどのインパクトはありませんでした。
で、みなが食べ終わった頃にマスターがやってきて、ダチに、
「さきほどはすみませんでした。つまらないもんですが、これお詫びのしるしに」と言って、
小さな箱に入ったものをくれたんです。

「これは開店のときに配った記念品なんですが、まだあまってたんで、どうぞ」
それから「みなさん、もしかしてあのトンネルに行ってきたんじゃないですか?」
そう聞いてきたんで「そうです」と答えると、
「よくトンネル帰りのお客さんも来るんですよ。
 ・・・あそこね、子どもだましと言う人もいるけど、
 けっこうガチなところもあるんです。帰り道はどうかお気をつけて」
店を出て車に乗り込み出発すると、後部座席でダチがさっきもらった箱を開けたようでした。
「何だこれ、バカにしてる」「えーかわいいじゃない」こんなやりとりがあって、
「何入ってたんだよ」と俺が言ったら、助手席の彼女に手渡してよこしました。
見ると、蛍光イエローの10cmくらいの招き猫で、腹に黒字で「厄除」と書かれてたんです。

「おー、いいものもらったじゃね」と俺が言うと、
「こんなのくだらね」こう言って、
彼女から受け取ると車の後ろの窓をあけて放り捨てちゃったようでした。
「あー捨てたのかよ。もったいねえ」「いらねえよ、こんな子どもだまし」
「いらんなら、俺がもらって車につけてたのに」
でまあ、俺のアパートに着いて、カップルごとに別れました。
ダチはバイクで来てたんで、後ろにダチの彼女を乗せて帰っていったんです。
で、翌日です。ダチの彼女から連絡がきて、ダチがバイクで事故って大怪我したってことでした。
急いで病院に行くと、集中治療室に入っていて面会できなかったんです。
どうやら彼女を自宅に送ってから自分のアパートに戻る途中、
なんでもない道で一人でコケたようなんです。

その後ダチは手術をくり返して、退院まで8ヶ月かかりました。
まだ右足を少し引きずってます。顔とかは何でもなかったのが不幸中の幸いと言えばいいか・・・
あと、この騒動でほったらかしになってたトンネルの写真なんですが、
一段落ついてから彼女と見てみると、一枚だけ、
ダチが彼女とトンネルから出てくるところのでしたが、
その右足にの下に黒いものがうずくまってるように見えるのがあったんです。
それだけじゃなく、その黒いものから、やはり黒いつるのようなのが出てて、
ダチの右足に巻きついてたんです。・・・もちろんダチらには見せないで消去しました。
え?その喫茶店ですか。いや、あれから行ってないです。
うーんこの一連のことって、何か関係があるんですかねえ・・・




オリ

2014.07.06 (Sun)
小学校の5年生のときだったと思います。動物園で写生会というのがあったんです。
その動物園は市営で、公立の団体は無料だったのでよく利用する学校があったみたいです。
スケッチブックを抱えた友だちはみな喜んでましたけど、
私はあんまり楽しくありませんでした。
そんなに生き物は好きじゃないし、何よりも園内全体に漂う動物の臭いが苦手だったんです。
だから自分では積極的な行動は何もせず、すべてリーダー格の友だちまかせにしていました。
3人グループで園内を歩きまわり、やっとキリンをスケッチすることに決まりました。

フェンスからやや離れた芝生の上に腰かけると、
そのままでは3頭いるキリンの足しか見えません。
上を見上げながら描いていましたが、私は絵も上手ではないのでますます憂鬱になってきました。
それでもスケッチブックを膝の上に広げて頑張っていたつもりですが、
臭いにあてられて、やはり気持ちが悪くなってきました。
6月のことで、、午前中からかなり気温が高くなっていたことも影響していたかもしれません。
トイレに行こうと思いました。
吐くかもしれないし、夢中になって描いていたので友だちは誘いませんでした。

一人で絵の具の水入れを持ってそっと立ち上がり、トイレの場所を探しました。
やや離れた繁みの中にトイレは見つかり、個室に入りました。
吐き気はするものの、何も出てはきませんでした。
手を洗って戻ろうとしたら、トイレの窓から横に道があるのが見えました。
外に出てみると、生け垣の間に人ひとりがやっと通れるくらいの通路があり、
それはどこまでも長く奥まで続いていたんです。
そこは動物の臭いはせず、生け垣の常緑樹にぽつんぽつんと白い花がついていました。
ここを通って、先に何があるか確かめてみたいと思いました。

ずっと進んでいくと、直角に生け垣が曲がっているところが何ヶ所かあり、
全部でたぶん200mほど行ったあたりで、オリに突きあたりました。
それは教室4分の1くらいの広さで、金網ではなく鉄棒が組まれたものでした。
オリの向こう側は木造の建物の壁だったんです。
「こんな奥まったとこ、だれも気がつかなくて見に来ないんじゃないか」と思いました。
オリの下側には藁が敷きつめられていましたが、飼われている動物の姿がありません。
ああ、もしかしたらこれは予備のオリで、
病気になった動物を入れたりするものなのかもしれないと考えました。

そのとき後ろの建物の木戸が不意に開いて、這いずるようにして何かが出てきました。
女の人・・・でした。白い浴衣のような着物を着てたんですが、
あちこち茶色く汚れ、髪がボサボサに伸びて顔をおおっていました。
その人は四つん這いのままオリの中央まで出てきて、
そのままお腹をべたっと下につけてうずくまり、動かなくなりました。
首にヒモで何かがかけられていて、それが背中のほうに回っていました。
IDカードのようなもので、字が書かれていて・・・
角度が悪くて読みにくかったので、鉄棒をつかんで伸びをすると、
10cm四方ほどのカードに「亡者 23歳」とあるのが見えたんです。

「亡者」という意味は、そのときはわからなかったと思います。
ただ、なんとなく怖いことを表している字じゃないかという気はしました。
鉄棒をつかんでいる手に力が入り、カタンと音がしました。
それに気づいたのか、女の人が顔を上げました。
それが・・・どこかで見たことがあるような、ないような顔だったんです。
一瞬「お母さん」と思ったんですが、これも似ているといえば似ているくらいで、
もちろん母ではありませんでした。
女の人の頬や額には泥がこびりついて乾き、白くなっていました。
その人はこちらを見ると、「うううっ」とうなり声をあげました。

後ろの建物の戸は開いたままでしたが、中から何かが飛んできて、
ドサッと音をたてて向こうの地面に落ちました。
大きな肉の塊でした。赤黒いそれは生に見えました。
女の人は素早く視線を肉のほうに向け、
跳びはねるような動きで近づき、わしづかみにしてかぶりつこうとしたんです。
そのとき「あれは食べてはダメなものだ」と、どうしてか思ったんです。
自分でもなんでそう考えたのかわかりません。
とっさに「だめ!」という叫び声が口から出ました。その声が聞こえたのか、
女の人は生肉を両手でつかんだまま、とまどったように私を見たんです。

建物の戸口から男の人が2人出てきました。
どちらも作業服を着ていたと思います。一人が私を指さして何か大声で言いました。
「戻れ、まだ早い」みたいな言葉ではなかったかと記憶しています。
そして一人がオリの中からこちらに大股で近づいてき、
もう一人が走って建物の中に戻りました。
私は「ああ、怒られる」と思い、後ろを向くと、
さっきの生け垣の間の道を走って逃げ戻りました。
走っているのに、来たときよりもずっと時間がかかったような気もします。
夢中だったので、追いかけてくるものがあったかどうかはわかりませんでした。
気がつくと、トイレの脇に息をきらしてしゃがみこんでいたんです。

友だちのいるところに戻りましたが、写生会の間中ずっと、
呼び出されてしかられるんじゃないかとビクビクしていました。
まあ・・・これだけの話なんです。その後、一度もその動物園には行ってませんので、
そのオリが本当にあったものかどうか、今もあるのかはわかりません。
体調が悪い中で見た幻覚だったかもしれないです。
ただ・・・あの生肉を食べようとしていた女の人の顔は、
頭にこびりついたようになって忘れませんでした。
・・・1年1年大きくなるにつれて、だんだんに似てくるんです・・・私がです。
もしかして、あれは23歳の私だったのかもしれないと、いつしか思うようになったんです。

でも、それって変ですよね。自分が2人いたことになってしまいますから。
今・・・・22歳です。来年の春に大学を卒業する予定ですが、そうすると23歳になります。
就職は内定をいただいています。大企業といっていい製薬会社なんですが、
なんとなく不安なんです。
どなたかこの体験の意味がわかる方おられますでしょうか・・・



うさみみ

2014.07.05 (Sat)
*怪片2題とあったのを、ナンセンスと怖い話が混じってたので2つに分けました。
新しく書いたものではありません。

この間スーパーで買い物をしてたんです。そしたら若い女性がカートを押していて、
その前のところに2歳くらいの女の子が乗って、足をブラブラさせてたんです。
それが目が青く、わずかに見える髪は栗毛色で、日本人ではないようでした。
女性のほうは純日本人だと思ったんですが。
それと、この暑いのにその子は白い毛糸のぼうしをかぶっていて、
それには10cmほどのうさぎの耳がついてました。
思わず女性に向かって「まあ、こわいいですねえ」と声をかけてしまいました。
女性は一瞬とまどったような表情をしましたが、
「可愛いって、よかったねー」と子どもの首筋をくすぐりました。

子どもは笑みくずれ、帽子から額に一筋汗が流れてきて目に入ったようでした。
子どもはしきりに目をこすっていました。
それを見て「このぼうし、かわいいけどちょっと暑くないですかねえ」と、
よけいなことを言ってしまったんです。
女性は「ええ、そうですね・・・」と曖昧な表情をしました。
そのとき、子どもが顔をこすっていた手を上げ、
それにひっかかって、ウサギのぼうしがずれたんです。
あごヒモで留められていたぼうしが後ろ頭に脱げかかり、前頭が見えたんですが、
うさぎの耳の中から、つるんと何かが出てきました。

ツノ・・・だと思いました。5cmほどの大理石のような質感のツノが、
子どもの生え際のやや上に2本あったんです。巻毛の髪の中から生えているように見えました。
女性はあわててぼうしをかぶせ直しましたが、うさぎの耳とツノがずれて、
毛糸の間からツノの先が少し見えていました。
ちょっとの間があり、後ろのほうで外国語の大きな声がしました。
とても背の高い外国人の男性が私を追い越していき、
買い物カートをつかむと、くるっと後ろ向きにして、そのまま押して遠ざかっていきました。
女性も外国語で何か言いながらその後をついていきましたが、
その外国人の男性は、Tシャツ姿なのに、黒くて分厚い毛糸のぼうしを頭にのせてたんです。




童女像

2014.07.05 (Sat)
息子がまだ3歳だったときの話です。人見知りが激しく、
知らない人が近くにくるとすぐ私のスカートに隠れてしまうような子だったんですが、
この頃にはだいぶその癖もおさまってきていました。
その息子を連れて土曜日の午後にデパートに行ったんです。
今と同じく夏で、店内は肌寒さを感じるほどにエアコンが効いていました。
地下の食品売り場を出たところに休憩スペースがあったので、息子と2人でジュースを飲み、
さて帰ろうとしたら、地下街の展示スペースに、
市内の美術専門学校の卒業制作展という看板が出ていました。

少し寄って見ていこうか、という気になりました。実は私は美術系の大学を出ているんです。
息子の手を引いて、ドアのないその一角に入っていくと、
様々な大きさの作品が展示されていて、絵画よりもデザインが多かったんです。
その、技術的には稚拙ではあるものの、内に秘めた若々しいエネルギーを感じて、
いつしか自分の大学時代のいろいろなことを思い出していました。
それほど前のことではないのに、ずっと昔のことのような気がしました。
ふっと我に返ると、いつのまにか息子とつないだ手が離れていました。
あたりを見回すと息子は、隅の高いところにかけられた絵を見上げていたんです。

あまりに熱心に見つめていたので、近寄って「この絵気に入ったの?」と声をかけました。
それは半具象の作品で、皮膚のような表面を持った球がいくつも立体的に組み合わされ、
その真中に少女・・・童女の顔が浮かび上がっていました。
「ママ、この子知ってるよよ」息子が言いました。
「まあ、そうなの。どこで?」
「うーんとね、暗いところ、暗いとこでボクのとなりにずーっといたんだよ。
 なんにもお話しなかったけど、いつも泣いてた気がする」
「それ、保育園のこと?」
「・・・うーん、ボクが産まれる前、ママのお腹の中にいたときだと思うよ」
息子は記憶をさぐるように顔をしかめながら、こう答えたんです。




バットで叩く

2014.07.05 (Sat)
バットで叩く

小学校の・・・3年のときだったと思うんですけど、はっきりしません。
ただ、当時中学2年生だった兄がそう言ってるので、それで間違いはないと思います。
自分ではあんまり覚えてないんですよね。
家からそう遠くない小路でした。夕方の6時ころ、
一緒に町内会の会合に出ている母を公民館まで迎えにいったんです。
家は新興住宅地にあって道が碁盤の目のように交差し、
家も同じような外観のものが多くて、当時の私には迷路のような道でした。

特にその小路は、しばらく行くと車止めがあって小さな堰が流れていて、
人しか通れないようになっていたんです。
薄暗い中を兄と歩いていると、
その小路に入ったとたん私がひきつけを起こしたように泣き出し、
堰にかかるせまい橋の上の一点を指さし、
「そこを叩いて、バットで叩いて」と叫んだんだそうです。
それが自分ではあんまり覚えてないんですよね。
言われればなんとなくそういうことがあったかもしれない、くらいの感じで・・・

兄のズボンにしがみついて離さなかったんだそうです。先に進もうともしない。
自分で言うのもなんですけど、そんな駄々っ子みたいなことってしたことなんですよね。
だから兄も変だと思いながらも、私があまりに真剣なので、
言うことをやってやれば収まるかもと、
家まで一緒に引き返して金属バットを取ってきたんです。兄は野球部でしたから。
ふたたびその場所まで戻ると、
私が指さしているあたりをめがけて強くバットを振ったそうです。
かなり上の方で、野球みたいにじゃなく上から振り下ろすような感じで。

「これでいいか」と兄が私を向くと「もう一回、もう一回、もっと強く」と泣く。
それで何度か同じ動作をするうち「ボグアッ」と音がし、兄はとても驚いたそうです。
バットを宙に振っただけなのに、何かを強く叩いた手応えがあって、
反動でバットが戻ってきた、と言ってましたね。
すると泣いていた私が急に笑い出し、「いい、いい、これでいい」と言ったんだそうです。
そんなことをしているうちに母は別の道を通って帰ってきたために、
すれ違いになってしまったということでした。このときのことを兄はずっと覚えていて、私に、
「昔こんなことがあったけど記憶にあるか」と聞いたりしたこともありました。

それから何年もたって、兄は大学生になり家を離れて大阪で一人暮らしとなり、
私は高校生になってたんです。母はあいかわらず町内会の活動に熱心で、
公民館で地域の人と料理研究会みたいなことをやってました。
その母から家にいた私に7時過ぎに電話があり、
足りない料理の材料を届けるよう頼まれました。
公民館までは往復で15分くらいで、面倒くさかったんですが、
しかたなく言われたものを用意して出かけました。
それであの小路をほんとうに久しぶりに通ったんです。
公民館で顔見知りの方々にあいさつをし、料理を試食させていただいたりした帰り道です。

歩いていると、急に後ろから抱きつかれました。
・・・そのあたりは人通りは少なかったですが、街灯もたくさんあったし、
犯罪の話題なども聞いたことがなかったんです。
とっさに声が出ませんでした。無意識にしゃがみ込むようにしたら手が離れかけたので、
そのまま「助けて、だれか来て~」と叫びながら走りました。
まわりの様子は見えず、無我夢中でした。チラッと振り返ると黒い影が追ってきていました。
50mほども走って、堰にかかる橋を越えました。
そのとき後ろで「ボグアッ」という音がし、続いて「いええぇ」と悲鳴が上がりました。
夢中の私にも聞こえたので、どちらも相当大きな音だったんだと思います。

思わずまた振り返ると、黒いシャツを着た男の人が前のめりに倒れるところでした。
そして・・・中空にバットの先端部分が見えた・・・ように思いました。
それはしばらく空中を泳いで、消えたんです。
男の人は頭を押さえてうつ伏せに倒れたまま起きてきませんでした。
私はそれ以上たしかめることもせず、
近くの門灯がついている家の塀の中に駆け込み、助けを求めたんですよ。




お盆

2014.07.05 (Sat)
昨年のお盆のときのことです。一家で実家のある町のお寺さんに行きました。
なに、実家といっても車で1時間少しなんですが。
自分らのところでは、墓に参る前にお寺さんに寄って位牌堂でお経をあげてもらうんです。
20畳の部屋が開放され、そこで参拝者が待っていることができるようになっていました。
部屋にはエアコンもありましたが、それは使用されておらず、
かわりに大きな池に面した縁側のサッシがすべて開け放たれ、
風が通って気持ちがよかったのを覚えています。

読経が終わり大広間に戻って、私たち家族はサイダーをいただいて、
住職から実家のある町の知り合いの近況などを聞いておりました。
それから、来年3回忌となる母の法要の打ち合わせをして、
お布施をお渡しし、さておいとましようとしたときのことです。
縁側の庭木のほうから一匹の大きな足の長いヤブ蚊が、
フーンと音を立てて部屋の中に入ってきたのです。
それはふらふらと飛んで住職の顔の前を横切ろうとしました。

住職が両の手のひらを宙に出してパンと強く打ち合わせました。
そのとき私の耳に「あぎゃあっ!」という大きな悲鳴が聞こえたように感じました。
聞き覚えのある声でした。・・・末期ガンで亡くなった母が、
病院で麻酔が切れかかったときに、何度も漏らしていた悲鳴にそっくりだったんです。
「ああっ」と住職が驚いたような声を上げました。
「ああ、わたしとしたことが蚊を打ちつぶしてしまいました。今とっさに・・・
 これまでこんな殺生はしたことがなかったんですが・・・」

住職は困惑したように声を落とすと、手を洗うと言って席を外しました。
私は妻に「今、何か声が聞こえなかったか?」と聞きましたが、
妻は「いいえ、何にも」と、まったく気づいていない様子でした。
それでそのときは自分の空耳だと思ったんです。
住職が戻ってきたので、あいさつをして席を立ちました。
車に乗り込もうとしたとき、小学6年生の息子が小さな声で、
「お父さん、さっき和尚さんが蚊をつぶしたとき、死んだおばあちゃんの声がしたよね」
と、ささやいてきたんですよ。