幽霊川柳

2015.03.30 (Mon)
今夜は送別会にお呼ばれ(明日も)したので軽い内容で。
死者の霊を表す「幽霊」という言葉は、『曽我物語』などにも出てきますので、
古くからあったのは間違いないでしょうが、
江戸時代以前には同じような意味を表す言葉としては、
「亡魂」のほうをよく見る気がしますね。
幽霊の言葉が広く使われるようになったのは江戸時代からで、
芝居や読本などの影響が大きいんでしょう。
そのころにつくられた古川柳をいくつか紹介します。

最も有名なのは「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」でしょうか。
ことわざとされることもありますが、元は俳句のようです。
江戸中期あたりの武士、国学者である横井也有(やゆう)の『鶉衣』という俳文集に、
(これは有名ではありませんが、飄逸味縦横のひじょうに優れたものです)
「化物の 正体見たり 枯尾花」という句があり、
これの「化物」の部分が「幽霊」に転じて広く知られるようになったようです。

意味は解説するまでもないでしょうが、
「幽霊かと思って驚いたが、正体は枯れススキだった」ということで、
完全な幽霊否定派の内容です。
まあ、人間の心の内にある「怖い怖い」という思いが、幽霊を自らつくってしまう。
「幽霊=人間の持つ闇、孤立などに対する根源的な恐怖」説と言っていいかもしれません。
これ式の説話も昔からあります。夜遅く怖い怖いと思いながら道を歩いていると、
白いものが足元に走り寄ってきたので提灯を放り出して逃げたが、
あとで自分の飼い犬だとわかって臆病者と馬鹿にされたなど。
一方では猿神(ヒヒ)退治などの話があり、
他方ではそうした話も併録されているのが、古典作品の奥深いところです。

「幽霊は 皆俗名で あらわれる」(『誹風柳多留』)
この意味はわかるような、わからないような。
表面的な意味はわかりますよね。
幽霊は普通、俗名である「お岩」などと呼ばれ、自分でも名乗ったりもする。
しかし死者であるなら○○居士、信女という戒名に変わってるはずだろう、
という皮肉なのだと思います。
まあ、もし成仏してるのなら幽霊になることはないわけで、
したがって戒名で名乗ることはない、というのは当然のように思えます。
お岩さんの場合は戸板にくくりつけられて川に流された(『東海道四谷怪談』)ので、
葬式はしておらず、引導を渡されてないわけですが。
もしかしたら当時の仏教に対する苦言も含まれているのかもしれません。

「幽霊の 留守は冥土に 足ばかり」
これはややわかりにくいかもしれません。幽霊は冥土が本拠地であって、
この世には外出して現れるわけですが、
なぜかこの世での幽霊は足がないことになっている。
そのため、冥土には外出中の幽霊の足だけが残っているという意味ですね。
知的なギャグなのでしょうが、幽霊画で広まった足のない幽霊像が、
よく考えれば理屈に合わないものである、とも言いたいのかも。

余談になりますが、古川柳というのは当時の風俗や流行りものと、
密接に関連していて、その風俗が失われた今となっては、
何が言いたいのか意味がつかめなくなってしまったものも多いのです。
例えばこれはどうでしょう。 「引導に 退屈をする 古着買い」
まだ、少し考えればわかるレベルのものです。
意味は、「葬式に、故人の衣服を買いに来ていた古着屋も参席し、
引導を渡すためのお経に退屈をしている」ということで、
現代でも遺品整理、廃棄などの職業もありますし、理解はできます。

「幽霊に なれば平家も 白いなり」
これはわかりやすい。源氏の白旗、平家の赤旗ということです。
江戸時代は死に装束(経帷子)で現れる幽霊が多かったわけです。
最近この幽霊観は変化してきて、死の瞬間に着ていたものや、
故人が好んでいた衣服などに目撃例は変わってきています。
また、平家の幽霊の話は『船弁慶』『耳成芳一』などいろいろありますね。
幽霊になっても不思議でないだろうと、
平家の恨みの念の深さに共感していた民衆が多かったのでしょう。

「幽霊の 手持ち無沙汰や 枯れ柳」
これも皮肉っぽいですね。幽霊は枯れ柳の下に出ることが多いとされていて、
枯れ柳は垂れ下がって不気味な上に、幽霊が出るという評判になれば、
ますます通る人が少なくなる。
で、幽霊はやることがなくて手持ち無沙汰である。
何で人が大勢いるところに出ないのか。

「梅の木の 化け損なひと 時平いひ」
これはわかりますでしょうか。
ここまで見てきたのは一般化された幽霊の川柳でしたが、
これは特定個人の幽霊・・・と言ってはいけないのでしょう、御霊です。
時平は藤原時平で、菅原道真を左遷させた張本人です。
こういう有名人の霊をあつかったものはいろいろとあります。
では、ここらへんで。

『柳下幽霊図』 呉春








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わかる

2015.03.29 (Sun)
きっかけは、大昔のことなんですけどね。
昭和30年代、今からするともう50年も前のことになります。
わたしが中1のときですね。家が近所の柴くんって子の家に、
他の友達2人と遊びに行ってたんです。柴くんも含めて、全員同じ小学校出身でした。
中学校では、柴くんは特殊学級に入ってました。
今は特別支援学級っていうみたいですね。
でもね、勉強ができなかったわけじゃないんですよ。
まあ、よくはないけど、それでもペーパーテストだと小学校のときは、
どの教科も50点~60点はとってました。
これより悪い同級生も何人もいたんです。
じゃあ何で特殊学級かっていうと、まず一つは場面緘黙。

これはある特定の場面になると声を出さなくなるってことで、
大勢の前でってケースがほとんどです。
普段はそれなりにしゃべってるのに、授業で指名されたりすると一言も話さず、
いつまでも突っ立っている。柴くんもそうでした。
もう一つ、予定と異なる出来事が起きるとパニックを起こして固まる。
ほら、学校だと急に校時変更になるときがあるじゃないですか。
例えば台風で6時間目カットとか、急に視察のお客さんが来たので、
1校時と5校時を入れ換えとか。
柴くんは、その日の朝に1日の予定をプリントを見て確認してくるので、
忘れ物などは絶対しないんですが、予定変更があると動けないんです。
椅子に座ったまま、目を閉じてぷるぷる震えて。

そんな理由で、親も承知して中学校から特殊学級になったわけです。
でも、放課後にはよく遊びに行ってました。
彼の家はお金持ちで、いろんなオモチャがあったんです。
今みたいにテレビゲームなんてないころですから、ラジコンなどですね。
それで、小学校のときから柴くんには特殊な能力があることはわかってました。
数に関するものです。一つは、碁石のような小さい同じくらいの大きさのもの、
あれを碁笥から片手でも両手でも、柴くんがつかみ出して、
37などと答えるとぴったり当たります。これは重さでわかるわけじゃないんです。
彼が握らなくても、わたしらが適当にすくってバッと畳の上にばらまく。
そうすると、一目見ただけで124などと答えることができました。
数えるわけじゃなく、一瞬で見て取るんです。不思議でしょう。

サヴァン症候群って言うみたいですね。
自閉症やその他の発達障害の子に多いんですが、
ある特定の能力が常人をはるかに超えてるんです。柴くんのような、
数に関する能力がよく知られてますけど、音楽や絵などでもあるみたいです。
・・・私らはね、当時柴くんを特別視はしてませんでした。
昔から知ってる仲間しかまわりにいないと、けっこうしゃべるんですよ。
その日はです、遊びに行ったうちの相原という子が、
「万年カレンダー」という本を持ってきてまして。
ずっと未来まで続いているカレンダーなんですよ。
柴くんはこれも得意なんです。そのときは1962年でしたけど、私らが本を見て、
「1980年○月14日」と聞くと、「□曜日」と間髪入れず答えが返ってくる。

それだけでもすごいんですが、この逆がもっとすごい。
逆というのは、「1976年、□月の3回目の水曜日」という聞き方をすると、
「17日」と返ってくるということです。
柴くんの場合は、これができるのは西暦で質問した場合だけでした。
昭和○年という聞き方をすると答えられず、パニックを起こしそうになる。
不思議ですけど、そういうメカニズムだったんでしょうね。
みな口々に質問しましたがすべて正解で、やや飽きてきたときに、
最上という子が冗談で「相原の死ぬ日は何曜日?」と聞いたんです。
そしたら、これもすぐ「火曜日」と帰ってきました。
驚いて柴くんの顔を見るといたって真面目で、彼は冗談など言わなかったんです。
「えーわかるのか、じゃあその日は何日?」

「2015年の3月10日」やはり答えは一瞬で、
柴くんがにこりともしないので、少し気味が悪くなりました。
この話はやめなきゃと思ったんです。みなもそういう気持ちだったらしく、
相原が「2015年というと俺はえー65歳ってことか。けっこう長生きするんだな」
こう冗談めかして言いました。それで終わりにするつもりだったんでしょうが、
柴くんは「死ぬのは生きてるのとあんまりかわらないよ」こう言って、
立って窓の外を見たんです。その部屋は通りに面した2階でしたが、
柴くんは「17人いる」って言ったんです。
わたしらも見てみると、歩いてる人が数人いるだけでした。
柴くんは続けて、「生きた人が4人、死んだ人が13人、
 どっちもそんなに変わらない」こうね、歌うような感じで言ったんです。

その柴くんは、不幸なことに、
中2の夏休みに国道でトラックに跳ねられて亡くなったんです。
そのお葬式のときには、近所でしたので私も相原も最上も参加したんですが、
後で「柴くんは自分が死ぬ日の年月日も知ってたんだろうか」
なんて話をしたもんです。これは謎でしたね。
この一連のことは、わたしら3人の間では深く記憶に残っていまして、
同窓会などで会うたびに、「相原の亡くなる日」の話が出たんです。
相原は会社にちょっと勤めただけで、その後は実業家というか、
飲食店経営をやってました。「柴くんの言ってたことが本当だとしても、
 逆に考えれば65歳までは死なないということだから、
 思い切って仕事に打ち込める」こんな調子でしたよ。

それで、今月の10日です。相原が亡くなったんですよ。
まさに予言というか、柴くんの計算というか、それとぴったりでした。
ええ、最近はあまり付き合いはなかったんですが、お葬式には参列しました。
そのときに奥さんに聞いたんですが、
「2015年の3月10日に俺は死ぬかもしれない」と、
ここ何年かずっと言ってて、今年に入ってからは「万が一に」ということで、
遺言やら事業の整理のようなことをしてたようなんです。
健康診断もひんぱんに受けてたんですが、
血圧が少し高いくらいで大きな異常はない。
10日の日には家に独立してる息子さんや娘さん、孫たちを呼んで、
居間でワインなどを飲んでたんだそうです。

その日の夜の10時を過ぎて、
相原には特におかしな様子も見られなかったということでした。
日付が変わるまであと2時間を切り、柴くんの予言のことは家族も知ってましたけど、
もうだいじょうぶだろうって思ってた矢先のことだそうです。
相原は急に、眩しそうに目をぱちぱちしばたき始めたんですが、
「あっ!」と叫んでソファから立ち上がり、「来たのか、柴。俺を迎えに!」
こう叫んで、ドーンと前のめりに倒れたということでした。
いびきをかいて意識がなく、救急車を呼びましたが、
病院に到着したときにはもう、いけなくなっていたそうです。
・・・この話を聞きましてね、最上と顔を見合わせました。ねえ、どうしても、
あのとき柴くんに死期を尋ねたのが、わたしたちだったらって考えてしまいますよ。

サヴァン症候群の画家 スティーブン・ウィルトシャーの作品

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2015.03.28 (Sat)
* ナンセンス話です

始まりは1ヶ月ほど前です。
バイトから10時前に自分のアパートの部屋へ帰ったとき、
ドアノブを握ると指にザラッとした感触があったんですよ。
ああ、はい詳しく言います。アパートは外の鉄の階段を上がって、
やはり外のコンクリの廊下にドアが4つ並んだ形の2階です。
下4つ、2階が4つの計8部屋ってことですね。
バイトは・・・それも関係あるんですか? コンビニです。
その日のシフトは9時まででした。
でね、普通の鉄のドアノブなんだけど、握った感触が変だったんで、
よく見たら、根元のところに髪の毛が一本巻きついてたんですよ。
長い毛で、3重くらいに巻いてました。

でもね、そんときは別に気にすることもなかったんです。
風で飛んできたやつがたまたま絡まったんだろうって。
誰でもそう思うんじゃないですか。これでも神経質なほうなんで、
鍵の先でこじったら、とれてどっかに飛んでいっちゃいましたよ。
・・・今から考えると、これが始まりだったんだろうと思います。
その日から、髪の毛が部屋に侵入してくるようになったんです。
どれも長い、20cmをこえる黒い毛でした。
自分はほら、ごらんのような短い茶髪でしょ。間違えようがないです。
怖い話ですか? うーん、あんまり読まないですけど、嫌いではないですよ。
部屋に髪の毛が落ちてる話はよくあるって? ええ、自分も似たの読んだことがあります。
でもね、あれっていつの間にか気がついたら落ちてるって話でしょ。

自分の場合はちょっと様子が違ってて、外から侵入してくるんです。
気がついたらある、ってのとは違います。
どういうことかというと、まずね、玄関のたたきで見つけるようになったんです。
ドアの下の隙間から入ってくるとしか考えられません。
2日後、10本くらいを見つけたんです。からんで束にはなってなくて、
一本、一本、長く伸びた状態で同じように内部の方を向いてたんです。
これ見つけたときはさすがに気味悪かったです。
誰かが俺の留守の間に、一本ずつ差し込んだって考えると。
まあでも、まだそんな深刻なわけでもなくて。もしかしたらアパートの住人が、
自分で散髪した髪を廊下から外に捨てたのかもしれない。
それが風に押し戻され、たまたま俺の部屋に・・・とか。

その毛はホウキとチリトリでゴミ袋に捨てましたよ。
ところがね、髪の毛は毎日たたきで見つかったんです。しかも量が増えてた。
2日目20本、3日目30本って感じ。
30本あるとね、散らばってても一目でわかりますよ。
これはさすがに嫌がらせを考えました。でも、心あたりがないんです。
俺は女っ気とかまったくなくて、モテるほうじゃないんです。
髪の長い女の知り合いもいませんでしたから。
とにかく見つけたら捨ててました。ゴミ袋に捨てるのが気味悪くなったんで、
そのまま下まで持ってって、外の地面に。
でね、その後、攻撃っていえばいいか、玄関一方向からじゃなくなったんです。
玄関とは反対側の窓にも髪の毛がいっぱいついてたんですよ。

俺はコインランドリーを利用してるけど、
1週間に一度、下着類は自分で洗うんです。
そんときね、天気がいいんで早く乾くように窓開けたら、
風とともに髪の毛が部屋に入ってきて、うわ、と思って外に顔を出したら、
そこはすりガラスなんですけど、クモの巣が張った上に髪の毛が何本も何本も・・・
でもねえ、2階の窓ですよ。サッシの下の部分まで地面から3m近いですし、
俺の部屋を目がけて髪の毛を投げつけるなんて不可能です。
長い棒とか使って工夫したらできなくもないでしょうけど、そこまでしてねえ。
それだけじゃなく、部屋につくりつけのエアコンの室外機、
あれにもたくさんの髪の毛がこびりついてまして。
ためしにエアコン動かしてみたら、異音がしたんですよ。

すりガラスについてるのは払い落としましたけど、
エアコンまで手が届かなかったんです。だから窓から乗り出しホウキを使って、
掃えるところは掃いましたけど、内部にだいぶ入り込んでるみたいで・・・
大家さんに事情を話してエアコンの清掃の人に来てもらうことになったんですが、
髪の毛が詰まってるって言うと、「なんで?」って訳を聞かれて困りましたよ。
だって俺のせいじゃないんですから。
でね、玄関だけじゃなく、そっちの窓も毎日掃除するようになりました。
でも、いくら掃除しても部屋のあちこちで見つかるようになったんですよ。
霊能者ですか? うーん、でも知り合いとかいないし、
必ずしも例の仕業とも言えないじゃないですか。
髪の毛は消えてなくなるわけじゃなくて、現実にあるんですから。

ただね、霊能者っていうか、そういう能力がある人が近くにいたんですよ。
同じアパートの2階の端に住んでる女の人。
いや、その人も髪は長いですけど染めてるし・・・水商売の人だと思います。
遅く帰ってきて昼間はずっと寝てるんで、あんまり顔を合わせないんですが、
あいさつくらいはします。その日はたまたま、
夜8時ころ俺が玄関の髪の毛を捨てに行ったとき、部屋から出てくるのと会ったんです。
「あんた、何やってんの?」って聞かれたので、
簡単に事情を説明したら、少し考え込むような顔をしてましたが、
「それちょっとヤバイかも、髪の毛の攻撃は水平方向だけじゃないから」
続けて「でもね、こういうことはよくあるし、あたしでも祓えるかも」
こう言ったんです。「夜中3時過ぎに帰ってくるから、そんときまで起きてて」って。

でね、ネットしながら待ってたんです。3時を20分くらいまわって、
来ないのかと思ってたら、ドアがノックされて、
開けたらそのネエサンが、手に円筒形の筒を持てったんです。
お酒の臭いがしました。部屋は片付けてたんで中に入ってもらって。
そしたらコートも脱がず部屋の真ん中に座って、筒を開けたんです。
中には・・・マネキンの頭っていうか、カツラの台って言えばいいでしょうか。
目も鼻もない卵形の発泡スチロールの人の頭があったんです。
「めんどくさいから、パッパやるよ」ネエサンはそう言って、頭をテーブルの上に置き、
紙袋から榊の枝を取り出したんです。でね、立ち上がって、
何か唱えながら枝を振り始めました。
「かしこみ、かしこみ」という部分はわかったんで、神社の呪文だと思いました。

そしたらです、髪の毛が天井の隙間から降ってきたんです。
それだけじゃなく、フローリングの床の目地の間からも・・・
髪の毛は部屋の中央の例の頭のところにどんどん集まっていって、
ツルハゲだった頭に生えるようにくっついていきました。
天井裏と床下に、人ひとり分くらいも溜まってたんですね。
ネエサンは鋭い声で短く「正体を出しなさい」って叫びました。
そしたらです、のっぺらぼうだった頭の顔がでこぼこしはじめて・・・
目を閉じた女の人の顔になったんですよ。
「この顔、見覚えある?」って聞かれたので、「ないです」って答えました。
そしたらネエサンは「じゃ、浮遊霊だろ」そう言って、
紙袋から釘抜きつきのハンマーを取り出しました。

で、「帰るところへ帰れ!」って叫びながら、釘抜きのほうを頭に振りおろしました。
「ブギャ」って音がしましたが、発泡スチロールが割れる音じゃなく、
人の声のように聞こえたんです。
まとまっていた髪の毛は床にこぼれて散らばりました。
「この髪の毛、全部集めて□□駅から行く○○神社に持っていき、
 事情を話して供養してもらいなさい。あと、厄除けのお札を6枚いただいてきて、
 部屋の四方と天井、床に貼っとくこと。ま、1か月過ぎればだいじょうぶだから」
俺が礼を言うと「神社で育ったからこんなのは軽いけど、
 お礼したいんなら▽▽ってシャンパンでも買ってきて。それにしても、
 あんたみたいな人に憑く霊ってのも物好きだね」って言って出ていきました。
・・・シャンパンは買いましたけど、目の玉が飛び出るほど高かったですよ。









首あり

2015.03.27 (Fri)
これ、高校の卒業式の後の話なんだ。今から4年前。
大学とか受験するやつらはまだ卒業祝いどころじゃないんだが、
俺らはとうに就職が決まって、もう車の免許もとっちゃったやつもいたんだ。
そういう仲間男女5人でカラオケに行って、まあ酒も多少入ってた。
皆あんまし金持ってなかったから、このあとどうしようって相談して、
肝試しに行くことにしたんだ。
今から考えれば、典型的なDQNの行動だよな。
で、行った先が地元にある屏風山っていうところだ。
ここは山全体がちょっとした散歩コースになってて、
早朝とかウオーキングの年寄を見かけることも多いよ。山っていっても、
標高360mって立札が一番高いとこに立てられてるくらいのもん。

でな、お札所っていうか、巡礼所を模したつくりになってるんだ。
あちこちに地蔵があって、その後ろに木札が立てられてる。
1番から33番まであるんだ。それを順繰りにお参りすることができる。
やってる人もいるみたいで、地蔵様の足元のコンクリに、
お供えがあったり、10円玉が積み上げられたりしてる。
免許持ってるやつが家からワゴン車借りてきて、それに全員で乗って、
屏風山の登り口の斜面まで行った。
そこに車を置いて全員で登ってったんだよ。
いや、あんまり怖いとは思わなかったね。
俺らの高校からは近くて、部活でランニングとかもしてたしね。
街灯もあるから、車載用の懐中電灯一本しかなくて足元は見えるし。

それに女2人連れてたからな。怖がってる様子なんて見せられないだろ。
登り口のところに1番から3番まで地蔵が3体並んでて、
あとは20mおきに一つって感じだな。
時間は11時を過ぎてたから、もちろん俺ら以外には誰もいなかったよ。
だからギャアギャア大きな声をたて、携帯で写真を撮りながら進んだ。
ここって実は何人か自殺者が出てるんだよ。
コンビニで売ってる○○心霊地図って本にはそう書いてて、
俺らの県では一級の心霊スポットってことになってるんだ。
そういう話を出したら盛り上がったよ。
道の脇はほとんどが松林で、そいう話をすれば、
いかにも首を吊るのに適してる枝が横に張り出したりしてるんだよ。

道は芝生になった休屋のある場所を通って山の奥に入っていき、
23、24番の札所にまできた。
ここの2体の地蔵のうちの一つが首なしなんだ。
文字どおり、赤いよだれかけを残してその上の首がない。
古いもんだから、誰かがわざと壊したわけじゃなく、
自然にそうなったんじゃないかと思う。あたりにも首は落ちてなかった。
女たちはさすがに気味悪がってたが、
塩野ってやつが「こんなの平気だから」そう言って、地蔵の後ろに回った。
何をするのかと思ってたら、1m30ほどの地蔵の胴を抱くようにして、
自分の頭を地蔵の首の上にのせたんだよ。
「やめなよー」って声も上がったし、俺もさすがに趣味が悪いと思った。

けど、塩野は平気な顔で「懐中電灯を貸してくれ」って言う。
何をするのかと思ったら、地蔵の胴に回した両手で懐中電灯を持って、
自分の顔を下から照らしたんだ。
そうすると影が強調されて不気味な顔になるだろ。
女たちがキャーキャー騒ぎ始めると、塩野は「写真撮ってくれ」って言う。
それで携帯のカメラで何枚か写真撮ったんだ。
その後、33番目の地蔵まではいかず、途中で引き返した。
そうしないと車を置いたとことずっと離れたとこに出ちゃうからな。
いやあ、山の中では特におかしなことはなかったと思うよ。
その後は近くのファミレスに寄ったんだ。
そこで注文を待ってる間、皆が山で撮った写真を見せ合ったんだが・・・

不思議なことに、塩野がふざけて地蔵の上に自分の頭をのせた画像が見つからない。
撮ったのは俺と、もう一人岸脇ってやつだったけど、
どっちにも画像が保存されてなかったんだよ。
「変だな」「間違いなく撮った」・・・しかしないものはない。
女たちは「霊障なんじゃない」とか言ってたが、
他の写真をよく見ても変なものは写ってないし、あんまり怖い気もしなかったんだ。
不思議だしありえないことだけど、なんかのミスなんだろうって感じで。
この日はその後もいろいろあって、結局家に帰ったのは朝になってからだったが、
そこは本題には関係ないんで省かせてもらう。
・・・話は2年後に飛ぶ。俺らの成人式と同窓会があった年だ。
どっちにも塩野は来てなかった。

地元で就職したとこを3ケ月前にやめ、家に引きこもってるってことだった。
俺は他の都市に出てたんで、最近はまったく連絡取ってなかった。
中学校が同じだった北脇とは同窓会で一緒になり、機嫌よく飲んでたんだよ。
したらメールが来たんで、会場でのぞいてみた。
塩野からで、メッセージ欄にはわけのわからない文字化けみたいな字が並んでて、
添付された画像をひらいて驚いた。
あの屏風山の24番地蔵の画像で、地蔵の上に塩野の頭がのってたんだ。
その顔が、携帯の小さい画面で見てもわかるくらい両目が真っ赤になって飛び出してて、
しかも目ん玉が左右別の方向を向いてたんだ。
口の端からよだれを垂らしてるようにも見えた。
立ち上がると、北脇も携帯持ったまま俺のほうに近づいてきた。

俺と同じ画像がそこにあったんだ。
2人で会場から出て、塩野に連絡を取ろうとしたが、番号が変わってるのか通じない。
塩野の番号を知っていそうな地元のやつに聞いても、
完全に引きこもってるらしく、誰も知らなかったんだ。
5人で屏風山へ行ったときのことはすぐに思い出したが、
それにしても、これがあのときの画像だというのはありえない。
撮ったのは俺と北脇で、塩野本人がその画像を持ってることはありえないんだよ。
だから・・・イタズラだろうって結論になった。
塩野が別のときに出かけて、誰かに撮ってもらったやつなんだろうって。
それしか考えられないだろ。家に行ってみようかって話も出たが、
せっかくの同窓会だし、行くことはしなかったよ。

翌日は日曜で、実家で朝遅くまで寝てたら、11時ころに北脇から電話が来た。
「塩野からの画像が変化してる」って言うもんで、
見てみたら・・・それが、地蔵の顔に変わってたんだよ。
おだやかに微笑んでる地蔵さんで、石のザラザラした質感もわかるほど。
構図は前の夜に見たのとまったく同じだと思った。
後ろのほうにちゃんと24番っていう立札も見える。な、わけがわかんないだろ。
それで北脇と相談して、高校のときの名簿を元に塩野の家の固定電話にかけたんだよ。
ずっと話し中だった。・・・これは数日後にわかったんだが、
その成人式の夜に塩野は首を吊ったんだよ。あの屏風山の前で。
葬式もやらなかったし、あれから何があったのかはわからない。
知りたくないし関わりたくなかった。画像は地蔵のままだったが、しばらくして消したよ。







禁煙コンサルタント

2015.03.26 (Thu)
*ナンセンス話です

ケース1

うちの会社は業界誌をつくっててね。何の業界かは言わないでおくよ。
でね、ここ1年ばかり会社内を全面禁煙にするかどうかの話が出てたんだ。
俺? 俺はタバコ吸ってたんだけどね。
まあ、そういう話が出たとしても、どうせ不可能だろうとたかをくくってた。
というのは、うちの副社長がまず吸うんだよ。
それにこういう業界だから、来客も吸う人が多いし
それに常務と編集長も喫煙者。だからせいぜいが分煙だろうって思ってたんだ。
したらね、非喫煙者の社長はけっこう本気らしく、
外部から禁煙コンサルタントってのを招いてきた。
若いのかそうでないのか、歳のよくわからないのっぺりした顔の陰気なやつでね。
いつも略礼服にも見える黒いスーツ着てた。

そいつが初めに提案したのはまあ常識的な線で、医者の禁煙外来に通って、
もし禁煙に成功した場合は医療費を半額補助する制度の導入。
これはどこでもやってるだろ。
ただなあ、外回りの営業は一歩会社の外に出ればどっかで吸うだろうし、
編集部のほうは、校了の時期は会社に1週間近く泊まり込みなんだよ。
その間わずかな仮眠をとるだけだし、タバコ吸うのは眠気覚ましにもなる。
残業代が出ない代わりに、忙しい時期でなきゃ出勤時間も自由なんだ。
そんな具合で、もともと禁煙には向かない職種なんだよ。
案の定、禁煙外来にかかったのは30人ほどの社員のうちで2名だけだった。
それから、次は分煙所をつくって建物の中を禁煙にした。
分煙所たってね、会社のビルの裏の植え込みの陰だよ。

そこにアーケードみたいな布製の屋根をかけて、水の入ったバケツを置いただけ。
これは不評もいいとこだったが、社長から言われたんでどうしようもない。
ないけど、せっかく原稿書きがノッてきたところで、
中断して1階まで降りて外に出なきゃなんないわけだからね。
副社長もしかたなく来てたんだけど、いつも文句たらたらで、
「そのうち社長に分煙撤回させるから」って言ってた。
ところが、その副社長が入院してね。病名は教えてもらえなかったが、
どうやら肺癌だったみたいなんだ。
あれよあれよと1か月ばかりで亡くなってしまった。
まあねえ、副社長は会社にいる間だけで1日2箱は吸ってたからね。
家で吸う分もいれれば、3箱か4箱・・・肺癌になるのも無理はない。

でね、病気は嫌だとは思ったけど、それでもまさか自分はって考えるだろ。
ほとんどのやつは吸うのをやめなかった。そしたらね、
コンサルタントのやつが、分煙所のところに変な黒い石を置いたんだ。
禁煙に効果のある鉱物と言ってたけど、どうみても材質が御影石、
つまり墓石みたいな感じだった。むろん墓石ほどの大きさじゃなかったけど。
それから何があったかっていうと、出たんだよ。
何がって? そりゃ副社長の幽霊。昼3時過ぎから8時ころまでだな。
タバコ吸ってると、ふーっと横に白っぽい影が立つんだ。
死んだ副社長なんだよ。どっから伸びてるのかしらないが、
鼻に酸素の管をつけてね。咳き込みながらうらめしそうにというか、
うらやましそうに、じっとこっちがタバコ吸ってるのを見てから消える。

こりゃたまらんだろ。だからその分煙所は誰も利用しないようになって、
ぶらぶら会社を離れて、歩きながら吸ってから帰ってくるんだ。
したらね、今度は会社の入り口のところに副社長が立って、
こっに顔を近づけてクンクン鼻を鳴らしてから消える。
ニコチンの臭いを嗅いでたんだろう。裏口でも表のほうでも同じだったよ。
これにはまいったっていうか、さすがに考えた。
肺癌とかで死ぬのが怖いってのもあるけど、それよりも、
たかがタバコにそこまで執念を燃やしているのが、なんか憐れになってきてね。
ああ、自分も外から見ればこんな感じなんだろうかって。
それから禁煙外来に通うやつが急に増えて、会社の禁煙化はあっという間に進んだんだ。
副社長の幽霊はコンサルタントが石を撤去したら出なくなったよ。

ケース2

アプリ開発の100人規模の会社に勤めてます。この仕事って発想が命なんですよ。
だから一人一人のデスクは仕切りのあるブースに分かれてて、
服装も自由だし、音楽を聴きながらでも、
たて続けにコーヒーを飲みながら仕事してもいいんです。
要はどれだけアイデアを出して売れる商品を開発できるかの勝負ですから。
でもね、さすがにタバコの煙があちこちからあがってるのはまずいだろうってんで、
会社のほうで禁煙コンサルタントの人を雇ったんです。
これが、しわひとつない顔なんだけど髪は白髪交じりで、
よく年齢のわからないような人だったんです。
いつも黒いスーツを着てて、暗く沈んだ感じのしゃべりかたをするんで、
陰で密かに、死神ってあだ名がつけられたくらいです。

この人の提案が、指定の禁煙外来に通院して、
もし成功したら、医療費を半額補助するってもので、
これはけっこう利用者がいまして、禁煙者はかなり減ったんですよ。
それでも、どうしてもやめられない、
あるいはやめる気がないって人のために分煙所がつくられました。
会社のビルの屋上の一画です。それまでは屋上には出られないようになってたけど、
入り口のドアに鍵をかけないようにし、
鉄柵で畳2畳分ほどの仕切りをつくってそこに水の入ったバケツを置きました。
これなら気兼ねなくタバコが吸えるんで、
最初のうちはよかったと思ってたんですが・・・
自分らの仕事は、しょっちゅう中座しても誰からも何も言われないですし。

ところがね、そこでタバコを吸うと不味いんです。
おいしく感じられないってことですよ。
それだけじゃないんです。なぜかその場所にいくと鼻血が出る。
自分だけじゃなくて、そういう人は何人もいたんですよ。
あるときなんかは、3人がその分煙所で鼻血を出し、
ティッシュを詰めたまま並んでタバコを吸ってるっていう、
ギャグみたいな場面もありました。
でね、だんだん残った喫煙者も数を減らしていったんです。
もう、最後のほうには5人くらいしか残らなくて。ええ、それには自分も入ってました。
あるときですね、そのうちの一人とそこでタバコを吸ってだべってたら、
そいつの喋りが急におかしくなったんです。舌がもつれてきて。

何だ、どうしたんだ?と思っていると、そいつは「あ、あ、あ、あ」と言いながら、
空の一方向を指さすようにしてドーンと後ろに倒れ、
コンクリの床で強く頭を打ちました。
抱き起しましたが、大きないびきをかいて意識が戻らない。
それで動かさないようにして応援の人を呼びに行き、
救急車に連絡してもらったんです。
ええ、その人はその日のうちに亡くなりましたよ。いわゆる脳卒中ってやつですね。
救急隊員が到着するのを待って、その人のそばについていたんですが、
さっき倒れるときに空を指さしたのを思い出して、そっちの方角を見ると、
5つほど離れたビルの屋上に大きなパラボラ型のアンテナがあって、
先端がこちらの分煙所のほうを向いてたんです。

えー、いつからそうなってたのか気がつきませんでした。
でね、その巨大なアンテナのかたわらに人影があるのが見えました。
遠いのではっきるとはわかりませんでしたが、
黒いスーツを着て、あの禁煙コンサルタントの人に、
背格好が似ている気がしたんですよ。
鼻血が出たのも、脳卒中を起こしたのもそのアンテナのせい?
うーん、そうも考えないことはなかったんですが。
普通そこまでしますか? 強力な電磁波とかを使って喫煙者を攻撃する・・・
さすがにありえないですよねえ。








割れる焼ける

2015.03.25 (Wed)
1年近く前のことになります。妻が妊娠しまして。
結婚4年目のことで、自分としてはすごくうれしかったんです。
それで、自分の両親には電話で知らせただけですが、
車で2時間ほど離れた妻の実家には報告のために訪問しに行ったんです。
もちろん、とても喜んでくれたんですが・・・ その帰り道です。
妻が「ちょっと寄って行ってほしいところがあるの」って言い出しました。
「どこへ?」と聞くと、実家のある市の外れにあるお寺で、
安産の御利益があらたかだということでした。
「さっき姉さんに聞いたの」 「会ってきたのか」
この妻の姉というのは、妻とは10歳近く年が離れているんですがまだ独身で、
大学を途中でやめて以来、ずっと広い実家の二階の一室に一人でこもっていたんです。

自分たちの結婚式にも出席されませんでしたし、
私は姿を見たこと自体1回しかないんです。
結婚前に妻の実家にあいさつに行ったとき、
私の顔を見ようとしたのか、そっと降りてきてドアの陰からこちらを覗ってました。
おそらく精神的な病気だと思いますが、人前に出ることがなかったんです。
ただ、妻とは会うことができるらしく、そのときも妻が二階に行っていたのでしょう。
私は道が不案内なので妻の指示どおりに運転したんですが、
妻も実際に行ったことはないらしく、何度も道に迷ってるうち雨が降ってきました。
もうあきらめて帰ろうかとしたとき、道の右手に舗装されてない細い道が見え、
その先の林の中に昔風の瓦屋根が見えたんです。
入っていくと、お寺と形容するにはあまりに小さいお堂のような建物でした。

人は誰もいないようでしたが、入り口の扉は開いてました。
雨が強くなったので、車を出て傘をさして入っていきました。
やはりお堂なんでしょう。賽銭箱とろうそく立てがあり、
その奥に頭の丸い木の像があるだけでした。ろうそくの煙によるものか、
全体が黒くすすけていて目鼻立ちもよくわからなかったです。
信仰はされているらしく、いくつか立っているろうそくの燃え残りは新しく見えました。
「うーん、これ仏様の像というより、お坊さんなのかもしれないな」
「暗くなってきたから、早く拝んで帰りましょう」ということで、
お賽銭を多めに投げ入れ、妻と2人で手を合わせました。
もちろん願ったのは妻の安産と子どもの五体満足です。
私が手を合わせるのをやめ目を開けても、妻はまだお祈りを続けていました。

私はなんとはなく木像の顔をながめてました。急に足元がぐらっとする感覚があり、
像の顔がゆがんだ気がしました。そして、真っ黒い顔が縦に真っ二つに割れたんです。
「えっ」と思う間もなくその中から別の顔が出てきたんです。
それは煤で汚れてはおらず、目を閉じた若い女性の顔に見えましたが、
それも一瞬で割れ、また割れ、また割れ、また割れ・・・
最後には男か女かもわからない赤ちゃんの顔になって大きく口を開けました。
ふと気がつくと妻が私の袖を引っぱっていました。
「どうしたの。ぼんやりして」仏像の顔は元の真っ黒に戻っていたんです。
幻覚だったんだろうか・・・そうとしか考えられないので、
妻には見たもののことを言うのはやめ、そのかわりに、
「今、地震がなかったか。なんか揺れた気がしたけど」こう聞いたんです。

「えっ、何も感じなかったわよ」そう言われました。続けて、
「迷ったけどお参りできてよかった。なんだかすっきりした気がする」
・・・妻の妊娠期間はまずまず順調でした。
つねに眠いと言っていて、夜早くベッドに入るようになり、
朝の寝起きが悪くなったくらいです。
ところがお腹のふくらみが目立ち始めたころから、
「おかしな夢を見る」と言い始めたんです。どんな夢かというと、
暗い所に素っ裸で仰向けに寝ていて、それをなぜか真上から自分で見下ろしている。
そのうちにどんどんお腹が上に向けてせり出してきて、
ぱっくりと割れる。で、その下にはまたお腹があって・・・という繰り返しの夢です。
これを妻から聞いたとき、あのお堂のことが思い出されたんです。

妻には病院の主治医に相談するようにすすめましたが、
「精神的なもので、あまり気にする必要はないです」と言われてきたようでした。
それ以外は、パートの仕事は少し減らしましたが、
病院の母親学級などにも積極的に参加していました。
だからそう心配することはないだろうと思っていたんです。
妊娠8か月を過ぎたある日のことです。
その日は予定外に早く4時過ぎころに仕事が終わり、
妻はパートのある日でしたので、自分で鍵をあけてマンションに入りました。
リビングのドアを開けると、妻が大の字になって寝ていました。
起こそうか、それとも何かかけてやろうかと思ったんですが、
外へ向かうサッシのカーテンの向こうに、大きな黒い影があるのに気がつきました。

何だろう、と思ってカーテンを開けると、
真っ黒な人が立っていました。焼け焦げた人です。髪はなく、目も鼻も焼け爛れ、
黒いボロのようになって垂れ下がっていました。
「うわーっ」大声をあげて飛び離れました。
そのとき、寝ていた妻が「熱い、熱い、焼ける、焼ける、焼ける」
うわごとのように言いました。妻を抱き起して窓の外のものを見ました。
焼け焦げが大きく口を開けていて、その中も真っ黒でした。
口は顔ほども大きくなり、その中から白い、きれいな肌がのぞいたんです。
赤ちゃんの顔でした。妻が「えっ、えっ、夢を見てた」と言って起き上がり、
その瞬間にベランダのものは消えたんです。わけがわからないでいる妻を、
とにかく部屋の外、マンションのロビーへと連れ出しました。

ソファに座って、あの窓の外の焼けたもののことを言おうか迷っていたとき、
私の携帯に着信が入りました。妻の実家からで、内容は・・・
妻の姉が、実家の広い庭で焼身自殺をしたというものだったんです。
灯油を頭からかぶって自分で火をつけ、すぐに発見されたんですが、
手のほどこしようのない状態だったそうです。
こっからは後日談になります。
警察の検証で姉の部屋から遺書らしき紙が見つかりましたが、
それには「スミマセン」という走り書きと、
庭の一隅の場所を示す内容が書かれてあり、そこの石の下を掘ってみると、
ビニール製のバッグが出てきて、中には焼け焦げた乳児の骨が入っていたんです。
DNA鑑定はできませんでしたが、男の子であることはわかったようでした。

あまりに遺骸が損傷し時間もたっているため、乳児の死因は特定できず、
妻の実家のほうで議員など手を回したので、バッグの件は表沙汰にはなりませんでした。
でも、そういう事情のためお葬式もあげることはできなかったんです。
・・・何がどうなっているのか推測することはできますが、
それをここで話すのはやめておきます。どうなることでもありませんし。
あと話す内容は3つだけです。
一つはあの妻といっしょにお参りしたお堂のことですが、
○○上人様という昔の偉いお坊さんを記念するためのもので、
特に安産に御利益があるとか、そういった評判は地域ではなかったんです。
ただ・・・お堂から裏手に入った川原には、
水子供養のための地蔵がいくつかあったようです。

もう一つは、ベランダであの焼け焦げたものを見たと思ったときに、
妻が「割れる、熱い」と言っていた夢の内容、それを後で聞いてみたんですが、
妻は悲しそうな顔をするだけで、頑として答えようとはしませんでした。
まあこれは、私も追及したりする気もありませんし。
最後に、妻は、あんなことがあったものの無事出産し、
男の子でした。まず順調に育っていますよ。







犬跳び

2015.03.24 (Tue)
金もらえるって聞いて来たんだが、こういうとこで話をすんのは苦手なんだよな。
どう喋ればいいんだ。最近あったことからか、それとも昔のこと?
そうか、じゃあ順を追って話すよ。
ただ、断っておくが、そんなに怖い話じゃねえからな。
ガキの頃、四国の某県に住んでたんだ。あんまり裕福な家庭じゃなくって、
ごみごみした川沿いの土地だった。近くをドブ川というにはやや広い川が流れてて、
家のすぐ前に、人と自転車しか通れない木造の古い橋があったんだ。
名前なんて最初からないんだけど、
そのあたりのやつらは「犬跳びの橋」って呼んでた。
どうしてこういう名がついたかっていうと、犬が身投げするんだよ、その橋から。
まあなあ、そんなことありえねえと思うだろうが、実際にこの目で4、5回は見てる。

ああ、身投げする瞬間を見たわけじゃなく、倒れて死んでいる犬だよ。
水に飛び込んだなら、犬は泳げるだろ。
そうじゃなく、俺の家に近いほうの側の岸、黄土色の大きな石があってな。
そこに頭を打ちつけて死んでたんだ。橋自体は10m以上はあるから、
犬がわざと下に岩のあるその場所を選んで頭から飛び降りてるってわけだ。
な、普通じゃ考えられないだろ。高さは5mってとこだろうけど、
犬は敏捷な動物だから、下の土と草の場所に落ちればそんなケガはしないだろ。
それに欄干は大人なら腰の高さ、子どもの胸以上もあった。
だから誤って落ちるとかありえないんだよ。
ところが俺が見たやつはどれも、頭が割れて石を血に染めて目を開けたままのびてる。
新聞配達やってたから、俺が朝一で発見することが多かったんだよ。

で、家に知らせて保険所に電話をかけてもらう。・・・もしかしたら、
別の場所に飛び降りて、そのまま逃げてった犬もいるのかもしんねえけどな。
あと、ここに来る前にネトカフェに寄って少し調べてきたんだ。
したら、外国、イギリスにもそういう犬の自殺する橋があるみたいだな。
向こうは川に飛び込むみたいだったけど。飛び降りる犬種まで決まってるらしくて、
ゴールデンレトリバーって言ったっけか。それもまた不思議なことだと思ったね。
スコットランドのドッグリープ(dog reap)訳せばそのまま犬跳びだ。
でな、ある夏休みの日のことだ。夕方外に出たら、
お遍路さんが橋の欄干にもたれて下を見てた。
お遍路さんは珍しくはないけど、俺の住んでた地域にはまず来ないんだ。
それで家に戻って母親に話したら、麦茶持っていきなさいって言われて。

コップの冷えた麦茶を手渡したら、お遍路さんは礼を言ってから、
「あの黄色い石、昔からずっとここにあるの?」って尋ねてきた。
そうだと答えると、「何か変わったことがないかい」
年に数回、こっから犬が飛び降りて頭打って死ぬって話したら、
「・・・人が飛び降りることは?」 あきれた顔でさらに聞く。
ないと答えて、逆にどうしてあの石が気になったか問い返すと、
「いやね、おじさんには字が浮き出して見えるんだよ。 学校で習ったかな。
『如』って一文字大きく浮かんでるようにね。女へんに口って書く」
こんな話をしたんだ。けど、それ以上のことはわからなかったし、
俺がいくら目をこらしても、字が見えるということはなかったんだ。

それから2年くらいして、上流のほうで集中豪雨があった。
川の水が怖いぐらいに増水してね。家のすぐ近くだから気が気じゃなかった。
幸いに水は堤防を越して上がってくることはなく、橋も壊れなかった。
俺は実はその期間、新聞の取次所に泊まり込んで、家族も避難してたんだけどね。
3日して家に戻ったが、そんときには水は嘘のようにひいてて、
両岸がすっかり泥をかぶってた。ススキなんかもみな埋まったようになっててね。
でな、あの石が動いてたんだ。うーん、水の勢いで転がったっていうより、
石の下の土が崩れたんだろう。数mくらい橋のほうに近づいてきてたんだ。
元の石のあったところは、普通なら泥で埋まってるか、
水が溜まってるはずなんだろうが、そこがぽっかり2mばかり穴になっててね。
覗きこんでも底が見えない、地獄まで続くような真っ黒で深い穴だよ。

この記憶は強く印象に残ってる。
それから数年して、俺が高校卒業して大阪に就職で出るまでには、
川岸はコンクリで護岸されてね。黄土色の石はどこへいったかもわからないし、
大水のとき以来、犬が跳び降りるってこともなくなったんだよ。
さらに10年ほどたって、俺が30前くらいのときだ。
女ができてね。デートを重ねたら、
何かの新興宗教に入ってるってことがだんだんにわかってきた。
俺はそういうの、あんまりいい印象持ってなかったんだよ。天国とか魂とか仏様とか、
あるかないかわからないのをダシにして、金をむしり取られるだけのもんだって。
だけど、熱心に誘われるようになって、断りきれずその団体の例大祭ってのに、
いっしょに出かけてみたんだよ。

ああ、団体は今もあるし、ますます隆盛してるみたいだね。
そんときもすでに立派な施設が建っててね。だが感心はしなかった。
これもみな信者から搾り取ったお布施のたまものなんだろうって。
詳しいことはわからんが、でかい観音像が庭園にあったから、仏教系なんだと思う。
で、説法と御祈祷みたいなのが終わって、女と庭を散策してたんだ。
したら、その一画でね、なんとあの橋の下の石と再会したんだ。
立派な台座がしつらえてあって、その上に乗ってるのがあの黄土色の石。
これは子どものときからほぼ毎日見てたから間違いはないよ。
欠けたようなとこもなく、大きさも形もまったくそのまま。
ただし、石だけが祀られてたわけじゃない。
そのさらに上に光沢のある白い石でできた犬の像が載ってたんだ。

いや、狛犬ってことじゃない。
あれはどっちかといえば、巻いたタテガミのある獅子だろう。
そうじゃなくて、耳のぴんと立った和犬だな。柴犬だろう。
不思議に思って女に聞いてみたが、何なのかは知らなかった。
最初に見たのは後ろ側だったんで、ぐるっと前に回ってみた。
そしたら、犬の腹の下のところにお経の文句のようなのが彫られてあったんだ。
『如是畜生発菩提心』って。これも難しかったがネットで調べてみた。
「八犬伝」っていう本に出てくる役行者の呪文らしいな。
犬のような畜生でも、悟りをひらいて仏になれるって意味のようだ。
うん、話はこれで終わりだ。訳がわからないし、怖くもなくてスマンけどな。
ああ? その女とはうまくいかず、結局別れることになったよ。








床下を歩く

2015.03.23 (Mon)
3か月ばかり前のことです。町内会の会合で公民館に行きました。
普段は仕事にかまけて、こういうのはすべて女房にまかせっきりだったんですが、
この日は女房が同窓会で出る予定でして、代わりに私が出席したんです。
むろんご近所の顔見知りの方も多いので、嫌ということはなかったんですが。
定例会ということで、たいした議題はありませんでした。
ゴミ収集所の清掃当番の確認や、春の町内一斉ボランティアなんかの話。
会は30分ほどで終って、その後に懇親会があるんですね。
会費は2000円の実費。参加者はその他に漬物なんかを持ち寄ります。
私も女房にうち作った寒天をもたされまして。それでね、議題の最後に、
小学校から依頼された町内の危険個所のリストアップがあったんです。
まあ、思い思い危険そうな場所をあげていくだけなんですけど。

ここの町内は幹線道路はありますけど、川筋ではないしため池などもないので、
危険な場所ってほとんどないんです。案の定、交差点のことしか出てきませんでしたよ。
で、司会の副会長さんが「他にないでしょうか」って聞いたときに、
一人の人が「林田のスーパー奥の空き家はどうだろう。
 中学生なんかのた溜まり場になったりしないかな」って言いました。
そこは知ってます。確かに空き家で、築数十年はたってるでしょうけど、
つくりもしっかりしてて、破損した部分は外からは見えないんですよね。
ガラスも割れてないし、不法侵入があるとも思えませんでした。
副会長さんも私と同じように思ったらしく、
「リストには加えますが、管理に落ち度があるということはないようなので、
特に所有者に連絡したりする必要はないでしょう」

こうおっしゃったんです。その後、飲み会が始まりまして、
私は隣に座ってた、家の裏の通りに住んでる高見さんって方と話してました。
で、30分ほどして話題が尽きかけたときに、高見さんが、
「そういえばさっき、林田の空き家の件が出てましたよね。 
 私は別にあそこの家とはなんの関係もないし、変な話だと思われるでしょうし、
 自分でもなぜだかわからないんですが、
 ごくたまにあそこの家の夢を見ることがあるんですよ」
「はああ、どんな夢でしょう」
「それがね、私があの家の門の中、ぼうぼうの庭に立ってて、
 玄関から家の中に入っていくんです。いや、鍵で戸を開けるわけじゃありせん。
 夢だからでしょうけど、スーッとね通りぬけるみたいに。

 それで、仏間に立ってるんです。大きな仏壇があって、鴨居に遺影のある。
 いや、むろん入ったことがあるわけじゃなし、夢の中での私の想像なんでしょが。
 でね、その部屋の中央の黄ばんだ畳に立っていると、
 急にガクンという感じで両足が沈むんです。畳に足がめり込むと言えばいいでしょうか。
 そして部屋の中をそのまま歩き回るんです。そうですね、
 身長が50cm以上縮んだ状態で。小さい子供の目線になってるわけです。
 まるで畳が水面みたいって言えばわかってもらえるでしょうか。
 ただグルグル部屋を回ってるだけでね、夢の中なのに時間が長く感じられるんです」
おかしな夢もあるものだなあ、って思いました。だってね、夢っていうのは普通は、
自分の生活にどこか関係のあるものを見るもんでしょう。
ここまで聞いたとき、「奇妙な話があるもんだ」と声をかけられました。

座を移動していた御井さんっていう、町会の監査役をやってる人です。
「今、何気なく聞いてて驚いた。じつは自分もそれとほとんど同じ夢を見るんだ。
 年に一度あるくらいだけどね。
 仏間で畳に足が沈んで、そのまま部屋の中を歩いてる。同んなじだよ。
 ああ、その後目が覚めたときに足が痛くないか」これは高見さんに言った言葉です。
「ある、ありますよ。両足首が痛むんです。くるぶしの少し上あたり。
 すぐに治まるんですけど、けっこうな痛さで、痛風かと思って病院にも行きましたよ」
「それも同じだ」・・・ねえ、不思議でしょう。
同じ町内とはいえ、普段顔を合わせてるわけでもない人同じ内容の夢を見る。
目覚めた後に足が痛くなるのも同じ。
それも一度も入ったことのない、関係ない空き家ですよ。

あまり不思議なので、女房が帰ってきてから話したんです。
そしたら女房のやつ、どう言ったと思います。ああ、よくわかりますね。
「自分も同じ夢を見る、1年に1度という頻度も同じくらいだし、
 やっぱり両足首が痛くなる」ってね。
さらにつけ加えて、「仏壇の部屋を歩き回ってるときに、かすかに小さく、
 子どもの鳴き声が聞こえている。男か女かわからないけど、赤ちゃんじゃない。 
 ある程度大きくなった子ども。
 歩いているうちにその声が入り込んでくる感じで、
 すごく悲しくなる」どう解釈すればいいかわかりませんでした。
夢を見るのはきまって春3月で、聞かなかったんですけど、もしかしたら、
御井さん、高見さんも同じ時期だったのかもしれません。

あとですね、じつは私は婿養子でして、女房はもちろん、
高見さん、御井さんは子どものころからずっとこの地区にいる人です。
それも関係があるのかなと思ったりもしました。
で、ですね。今月に入って、12日のことなんですが、
寝ていた女房が大声をあげてまして、私はまだ起きてたので急いで寝室に入ると、
女房がベッドに足をのばして起きてて、
「あの夢を見た。歩いている最中に足を引っ張られた。痛い」って。
見ると両足首のくるぶしの上に、赤い線がぐるっとついてたんです。
痛みが治まるまで1時間はかかりましたよ。
・・・こっからは聞いた話です。
ちょうどこの日、林田の空き家に高校生3人が侵入したんです。

物取りでも、肝試しでもなく、中でタバコ吸ったり酒飲んだりしたかったみたいです。
まだ外は寒いですからね。で、ガムテープを貼ってベランダのガラス戸を割り、
懐中電灯を持って家の中に入って行った。
まあ、そこで何があったのかはわかりませんが、
3人がほうほうの体で逃げ出してきたときには、3人とも両足首、
たぶん妻と同じ所じゃないかと思いますが、そこが傷ついて血を流してた。
一人なんかは左足が皮一枚でつながった状態で、
病院で緊急手術をしましたが、骨も神経も切れているため、
ついても動かないだろうということでした。傷害事件として警察の捜査になったんです。
空き家の所有者は若い夫婦で、遠く離れた県にいてすぐには来られない。
了解をとって町会さんが立ち会って中を調べました。

でね、夢に出てくる仏間、畳の部屋があったそうなんです。
畳はぶすぶすに腐ってて、高校生らが踏み抜いた穴があちこちに空いてたそうです。
高校生らは人の姿は見てない。でもね、警察は事故とは見なかったようで。
そりゃそうですよね。畳を踏み抜いたくらいで足が切断されるわけはない。
何者かが床下に潜んでいて、高校生らの足に鉈かなんかで切りつけた、
そう考えるしかない状況だったようです。それで畳と床板をはがして、その下を調べました。
そしたら・・・足を切断した生徒が空けた穴の下あたりに、6歳くらいの男の子の、
古ぼけた革靴が一足そろった状態で発見され、高校生の血が大量にかかってました。
中には靴の持ち主だろうと思われる子どもの、両足首から下の骨が入ってたんだそうです。
骨は古いもので、20年以上はたっているらしいです。
床下の土には、人が潜んでいた痕跡はまるでなかったそうですよ。








ボールおじさん

2015.03.23 (Mon)
*ナンセンス話ですが、ファンタジーっぽいです。

小学校低学年のときのことだと思うけど、記憶がはっきりしない。
そもそもずっと忘れてたことなんだが、最近になって思い出した。
だからね、今から話すことは子ども時代の幻想かもしれないよ。
話を聞いても、とうてい信じられないだろうから。
3年生・・・くらいだったか。休みの日だった。
小学校の校庭に一人で遊びに行ったら、高学年がいるだけで、
遊べるような友だちはだれも来てなかった。
しかたなく戻ってきて、家の近くの小公園でブランコに乗ってた。
そこはほら、団地と一緒に造成された、母親と幼児が過ごすようなところで、
買い物の時間帯のせいかだれもいなかった。
ツマンナイというか、子ども心にもうら寂しいと感じるような春の夕暮れ。

足元を見ながらゆっくりブランコを漕いでて顔を上げると、
ベンチに大人の男の人が座ってたんだ。「あれ、いつ来たのかな」と思った。
たしかさっきまで誰もいなかったはずなのに。・・・その人の顔はほとんど覚えてない。
わかるのは、ただ黒い服を着てたのと、そんな年よりじゃなかったってことだけ。
「おじいさん」じゃなく、「おじさん」で記憶してるから。
その人はこっちが顔を上げたのに気がついたのか、
ベンチの横に置いてた、これも真っ黒な四角いカバンを開け、
中からボールを3個取り出した。それを座ったまま宙に投げては取るということを始めた。
お手玉というより、ジャグリングといったほうがいい鮮やかさだった。
使ってるボールは、テニスボールよりやや小さいくらいで、
一つは灰色の毛玉のようなの、一つは真っ赤なつるつるしたもの、一つは青。

それがジャングルジムの天辺より高くまで上がって、また落ちてくる。
つねに3個が、高さの違いこそあれ同時に空中にあるという鮮やかさで、
これは子どもなら興味をひかれるだろう。
じっと見ていると、おじさんはふと手を止めてボールを膝の上に置き、
こっちに向かって手招きしたんだ。
まあ、今ほど変質者がどうとか騒がれてないころだったんで、
怪しみもせずに近寄っていった。するとおじさんは、
ベンチの横からカバンをのけ、そこに座るように指で示した。
俺が腰かけると、おじさんは膝に置いてたボールの一つを俺に手渡してよこした。
そのときに「強く握らないで」みたいなことを言ったと思う。
そっと手のひらでつつむように持つと、ふわふわで少し暖かかった。

それだけじゃなく、手に鼓動を感じたんだよ。どくんどくんって心臓の音。
思わずおじさんの顔を見ると、おじさんは俺の手からボールを取り上げ、
カバンを開けたんだ。中には、ほぼ同じ大きさのボールが、
そうだなあ、20個くらいは入ってたと思う。
黒い柔らかそうな布が半円形にへっこんで、そこにボールの半分が埋まる形で並んでた。
その空いている部分に、お手玉に使った3個の玉を戻し、
それでカバンの穴は全部埋まった。
上のほう10個くらいはいろんな材質と色のボールで、
正確に数えたわけじゃないが、残り5個が赤、5個が青って感じだったね。
おじさんは「カバンの中はもう一杯だけど、ボクのためにボールを一つ作ってあげよう。
 走るものが好きかい、それとも飛ぶものがいい?」

こんな風に聞いてきたんだ。意味が分からなかったけど、大人に人に聞かれたので、
あわてて「走るもの」って答えた。するとおじさんは、
自分の人差し指をべろんと舐めて頭の上にかざした。
そのとき見えた舌が墨汁みたいに真っ黒だと思った。
「おお、いるいる、近くにいるな」そう言って、指を戻して鋭く指笛を吹いたんだ。
「ちょっと待ってて、今くるから」言い終わらないうちに、
生垣の下をくぐって白っぽい猫がやってきて、おじさんの前まできてちょこんと座った。
そこらはノラ猫の多いとこだったけど、猫を呼べるなんてすごい、と思った。
でも、本当にすごいのはそれからだったね。
おじさんは「おお、よしよし」と言いながら猫の頭を片手でさわり、
猫は目を閉じてなすがままにされてる。おじさんはもう一方の手も出し、
猫の頭を包んで粘土でもこねるように・・・

そしたら、猫がどんど縮んでくように見えた。半分になり、そのまた半分になって、
1分もたたないうちに短い白い毛のボールになったんだよ。
手品・・・それとも魔法、そのときどんな風に考えたんだろうね。
とにかく不思議だった。おじさんはその白いボールを片手に持ったまま、
「もうカバンに入るとこないな。一つ逃がしてやろう。ボク、この赤青の玉以外で、
 どのボールが好きだい?」よく見ると、中に1個光沢のある網目模様の、
毛玉じゃないボールがあったんで、「これ」って指さした。
「ああ、いいよ」おじさんはそのボールを取り上げ、両手のひらで包んで・・・
すると指の間からひょっと長いものが飛び出した。蛇のしっぽだった。
いつの間にはおじさんの手にあまる長い蛇が出現してて、
「さあ行け」そう言って地面に落としたんだ。

蛇は素早い動きでベンチの下の草むらにもぐり、そのまましゅーっと消えていった。
それを見ても怖いとは思わなかったね。むしろ驚異の念にうたれてたっていうか。
「このボールはもともと動物だったの?」そう聞いたら、
「うん、生き物だった」 「じゃあ、赤いのと青いのは?」
「赤はまだ燃えている魂、青は冷えた魂」こんな答えが返ってきたけど、
そんときは意味がわからなかったね。まあ、今もわかるわけじゃないけど。
動物ボールのいちばん最後に、人間の髪の毛を丸めたような黒いのがあったんで、
「これは?」って聞いたら、おじさんはにっこり笑って「まりこちゃん」って答えた。
そのとき初めて、ゾーッと怖くなったんだ。
「人間もボールになるの?」 「そう、他の生き物と違いはないよ」
「僕も?」 「じゃあ、なでてあげようか」

おじさんが頭に手をのばしてきたんで、思わず立ち上がった。
おじさんはまた笑って「冗談だよ。ボクはまだボールになる準備ができてないだろう」
そうい言っておじさんも立ち上がり、
「さて戻ろうか、もうこの町にはこないだろう。でも、ボクとはまた会うかもねえ」
カバンをしめて小脇に抱え、公園から出ていったんだよ。
端って家に戻り、夕食の支度をしていた母親に、見たことを全部話した。
でもね、猫が毛玉になったことや、ウロコのボールが蛇に変わったことなんて、
信じてもらえるはずがない。母親は、「手品を見せてくれたんだと思うけど、
 知らない人と話をしたりしちゃだめよ。このあたりは、
 だいぶ前だけど小さい女の子が一人行方不明になってるんだから」
・・・母親にその子の名前を聞いたんだ。

そしたら、「うーんよく覚えてないけど、まり子ちゃんって言ったかしら」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
で、それから30年以上過ぎて、とっくにその町から離れ、大きな市で就職して、
結婚もした。上の娘はもう小学生なんだが、
そこの小学校で、娘より一つ上の学年の女の子が行方不明になってるんだよ。
テレビでも報道を始めたから知ってるだろう。大騒ぎになった。
それでね、PTAでパトロールを始めたんだよ。
ほら、ステッカー貼った車で、登下校時にパトロールするってやつ。
妻が郊外指導部の役員になってるけど、車の運転はできないし女だからね、
何かあったときにまずいだろう。それで、
週いちで俺がもう一人の父兄と組んで、見回りをしてるんだ。

行方不明事件の後だから訳を話して年休をとっても、むしろ会社も奨励してくれてる。
昨日の夕方だよ。3時頃だな。俺がハンドルを握って、ゆっくり通学路を流してた。
学校から少し離れた児童公園をとおりかかったときに、
ベンチに座ってる人の後ろ姿が見えた。
黒い服、ベンチの背もたれではっきりしなかったが、
かたわらに黒いカバンが立てかけてあるようにも。
そのときだよ、自分が小学生のときの体験、ボールおじさんを思い出したのは。
連れの父兄に「あそこ、ベンチに座ってる黒い服の人いますよね?」
「え、どこ? あのベンチだよね。えー誰もいないんじゃない」
こんな答えが返ってきたんだ。車を降りて確めることはしなかったよ。
そうすればよかったかな。








沼 2

2015.03.21 (Sat)
去年の5月の連休のときの話です。2人の友達と一緒に釣りに行ったんです。
3人とも中学校に入学して柔道部に入ったばっかりで、
先輩がたが他県に遠征に行くってことで、
1年生は連続して3日休みになったんですね。
その3日目、いいかげんゲームにも飽きて、外に遊びに出ようって話になって。
釣竿はオモチャ屋で数百円の雑魚しか釣れない竹竿と仕掛けを買いました。
餌は糸ミミズ。本当は子供だけで釣りに行くのはダメみたいだったんですけど、
誰も気にしませんでした。場所は、友達のうち椎名ってやつが、
小学生の頃、父親に連れられて学区の外れにある三日月沼に行って、
たくさんフナが釣れたことがあるから、そこにしようって。
昼過ぎ1時頃から、自転車になんとか竿を積んで、椎名の案内で出かけました。

新興住宅地の中の川沿いの道を40分ほど走りました。
その間、椎名は「おっかしいなあ」と言いながら、
ずっと河川敷のほうを探していましたが、その沼を見つけられなかったんです。
俺が「別にそこの川に下りて釣ったっていいじゃん」って言ったら、
「でもよ、そこの川、底までコンクリになってるから、魚がいそうもない。
 それにあの沼だとでかい魚が釣れるんだよ」あきらめきれない声で答えました。
そのうち住宅地が途切れて、ちょっとした丘に突きあたりました。
「ここ登って、上から探してみようぜ」 「けっこう高くね」
「柔道のトレーニングになるじゃん」ってことで、
石段の下に自転車を置いて上って行きました。
高さは50mくらいもあったでしょうか。

上は芝生になっていて、休屋とベンチがあるだけでした。反対側を見下ろすと、
林が広がっていて、その中を広い道路が通っていました。
で、その先に、大きく落ち窪んだ地形が見えました。
沼なんだろうと思いましたが、
かなりの深さで、下に水があるかはわかりませんでした。
「あれだろうな」 「距離は1kmもないんじゃないか」
「とりあえず、あの広い道路に出ようぜ」こんな会話をし、
下に降りて自転車に乗り、丘のふもとをぐるっと回っていきました。
そしたらやっぱり、反対側に幅広の道路があったんですが、
車がまったく通ってませんでした。「これ、工事中なんじゃないか」
「別に通行止めとかしてないから、いいんじゃねーの」

両側が松林の広い道路をスピードを出して走っていくと、
一度曲がっただけで道路が切られたように途切れ、
その先は高い鉄の柵になってました。あの鉄条網っていうんですか、
トゲのついた針金が巻かれた、2m以上もある鉄柵がずっと両側に続いてたんです。
どうやら丘の上から見た窪みをぐるっと取り巻いているようでした。
道路の正面部分には大きな錠のついた扉があり、
その上部に「雨水調整池」と書かれた白いボードがくくりつけられていました。
「これどういう意味だ?」 「洪水になりそうなときに川の水を流すんじゃないか」
「でも川から離れてるじゃん」 「ちょっと入れそうもないな。あきらめるか」
「横の道、上りになってるから、沼がどうなってるか見えるかも」
「ここまで来たんだし、行ってみるか」

途切れた道路の両横に、舗装されてない細い道があって、
上ってるほうへ行くと、鉄柵の中の窪みがのぞけそうでした。
かなり急で、3人とも変速つきの自転車だったんですがキツかったです。
息を切らしながら進んでいくと、
高くなるにつれて窪みがのぞけるようになってきました。
学校のグランドを4つ足したくらいに地面が大きくえぐれてて、
底のほうに水があるのがわかりました。で、その水が緑色をしてたんです。
蛍光グリーンっていうのかな。底のほうから光ってるような薄い緑色。
水がたまってる部分はグランド一面くらいの広さがありました。
「うえー、なんだよあの色」 「あれじゃあ魚なんていないよな。
 何かの廃液とかかな」水辺には工事の作業小屋みたいなのが建ってました。

「これ釣り無理だから戻ろうぜ。川の上流のほうへ行こう」
俺らが帰りかけたとき、小屋から人が10人以上出てきました。
遠くてよくわかりませんでしたが、同じ作業服を着てるように見えました。
その人たちは水辺にある機械に寄って行き、するとゴンゴンゴンという音とともに、
機械が動き始めました。沼の緑の水面がバチャバチャ跳ね始めました。
「何だろあれ」 「もう少し見ていこう」
ズズズズと水面が波打って、小屋のある岸に近づいてくるように見えたんです。
「あれ、網を引いてるんじゃないか」 「だな、中に何か入ってる」
水面から大きな魚のような影が跳び上がり、それはほとんど人くらいの大きさでした。
「スゲエ」 網が上がってくると、作業員たちは膝まで水に入って、
2人で一匹、頭が大きくしっぽが細い、ナマズのような魚をすくいあげ始めました。

ぬるぬるしてつかみにくそうでしたが、魚は水から出るとすぐにくたっとなって、
暴れたりはしなかったんです。魚は次々に小屋に運ばれていきました。
「ここ、養殖場かなんかなのかな」 見たこともない光景に夢中になっていると、
不意に後ろから「君たち、ここで何してるの」って声をかけられ、
ビクンとして振り向きました。警官が立ってて市原って友達の肩に手を置いてたんです。
「ここね、危険だから早く帰りなさい」警官はマスクをしていて、
そのせいかもしれないけど、金属をこするような声でした。
「はい、すみません」 「釣りにきて、いい場所さがしてたんです」
「釣りだって?」警官はそれを聞くと笑うような声を出しました。
そのとき、見間違いかもしれませんが、白いマスクの布が、
沼と同じ緑色に染まったように見えたんですよ。

自転車で坂を降りながら後ろを振り返ると、警官がずっとこっちを見ていました。
ポツ、ポツ雨が落ちてきて、だんだん激しくなり、
もう釣りどころじゃないと思いました。全速力で自転車をこいで住宅地まで戻り、
コンビニに入りました。店員さんがタオルを貸してくれました。
10分ほどそこにいると小降りになってきたので、
飲み物とか買ってお礼を言って出ました。雨はほとんど止んでましたが、
もう釣りをする気にはなりませんでした。
その途中で、市原が「あの沼の魚、あれオタマジャクシだった」って言い出したので、
「バカ言うな、あんなデカいオタマいるわけないだろ」
「でもよ、何匹か足があったと思った」 
「んなわけない、どんなカエルになるんだよ」こんな話をしました。

家のほうまで来ると、市原が「俺、寒気がする」って言って、
一人で帰って行ったので、そのまま解散になりました。
俺は家に戻って、まだ頭が濡れてたんでバスタオルで拭くと、
白いタオルが、うすーくですが緑色になったんです。
それから部屋のパソコンのグーグルアースで、さっきの沼の場所を調べたんですが、
広い道路までは見つかったんですが、その先の沼のあるはずのところが、
白く塗りつぶされてて見られなかったんです。
夕食のとき、家族に沼の話を出したんですが、だれも知ってませんでした。
夜になって携帯にメールがきたので、見てみると市原からでした。
「緑の小便が出た 俺、オタマジャクシになる」とだけあったので、
驚いて返信したんですが不通でした。家の電話からかけても、ずっと呼び出し中。

そのうち椎名から携帯に電話が来て、
話したら市原から俺と同じ内容のメールが届いたってことでした。
その日は夜中まで連絡をしようとしたんですが、つながらなかったんです。
翌日、部活に行くと、監督から市原が入院したということを聞かされました。
ずっと遠くの大きな市の病院で、見舞いに行くこともできませんでした。
ええ、はい、まだ入院中なんです。あれからずっと。
学校が始まってあの沼の話をしても、
誰も知ってるやつはいなかったです。先生がたも。
それで、夏休みにもう一度、椎名といっしょに行ってみたんです。
あの広い道路はありましたよ。でも、その先は埋め立てられてしまったのか、
赤土が盛られてブルドーザーが入ってました。

関連記事 『沼』







概念について

2015.03.20 (Fri)
この項は考えがまとまらないまま書いているため、
おそらく途中でグダグダになることが予想されます。
抽象的かつわけのわからない話があまり好みでない方は、パスされることをお勧めします。
「概念」ということについての話です。さて、「概念」をウエブ辞書で引いてみますと、
「ある事物の概括的で大まかな意味内容」となっていました。
これだと、ある事柄についてのだいたいの意味ということみたいですね。

もしリンゴだとすると、その概念は、
「木になる赤い果物で食用になる」こんなところになるでしょうか。
こう書けば「リンゴには黄色や青もある」という人もいるでしょう。
そういうふうに詳しく書けば書くほど、
実際のリンゴという存在に近づいていきますね。

なぜ「概念」ということを持ち出したかというと、
前にネットの掲示板で「幽霊という概念があるのだから、幽霊は実在する」
こんなことをいう人がいたからです。
それに対し、自分は違うんじゃないかと思ったので、
「じゃあ一つ目小僧という概念があるから、一つ目小僧は実在するのか」
と反論しました。まあ別に、一つ目小僧でなくて龍とかでもいいわけですけども。
ネットの掲示板ですので、その場で何か結論が出るわけもなく、
うやむやになってしまったんですが、
このときに自分は、概念はあっても実体はないものというものも、
この世にはあると考えていたわけです。

例えば・・・そうですね。「愛」という概念があります。
では実体としての愛、というのはこの世にあるでしょうか。
これは「ある」と答えられる人が多いと思います。自分もあると思いますが、
では、そう答えた人に愛とはなんなのか聞いてみると、
けっこうバラバラな答えが返ってくるんじゃないかと思います。
少なくとも「リンゴ」のように簡単にはいかないでしょう。
こういうのは抽象的な概念、と言えばいいでしょうか。
「希望」とか「ユートピア」なども抽象的な概念にはいるでしょう。

ここで思い出されるのが、
プラトンのイデア論のうちの洞窟の比喩という章です。
われわれは洞窟の中にいて、手足を縛られ壁に向かって座らされている。
背後では火が燃えていて、その前の通路を、
人々が手にいろんなものを持って通り過ぎていく。
われわれは直接そのものを見ることはできず、
壁に映った影を見ているだけ。この運ばれていくものが実体なのに、
われわれはその影を実体と思い込んでいるというわけです。

なるほど「愛」というような抽象的なものであれば、
この説明は納得できる気がします。
それぞれの人は影を見ているわけですが、見え方は角度によって違うでしょうし、
炎の燃え方によっても違ってくる。
だからいろいろな考えが出てくることになります。

実はこの世には、「実体がある」と思われていものの中にも、
つきつめて考えるとわからなくなってしまうものはけっこうあります。
身近なところでは、数学で使われる「点」とか「線分」などです。
「点」は空間の中のある位置を示すもので、一切の体積、面積、長さをもたない、
とされます。ところが実際に図形などを書くために点を打つ場合、
どうしても大きさ、面積ができてしまいます。

いくら細いシャーペンを使ったとしても、拡大してみればわかりますよね。
コンピュータで書いたとしても、ドットの大きさというのはあります。
ついでに「線分」というのは両端のある直線的な長さのことですが、
幅は持ちません。しかし実際に書けば幅は絶対にできてしまうわけです。
こう考えれば、われわれは数学で実際には書くことのできない、
点、線という概念を使っているということになりそうです。

余談ですが、物理学では素粒子を点と考えて扱ってきました。
質量や電荷などを持つものの、大きさは考慮しないということです。
計算上は内外の区別を持たず、
空間的な大きさのない点粒子として扱われてきました。
これで理論上は十分だったのですが、素粒子が実はひものようなもので、
それが振動していろんな特徴を生んでいると考える、
超弦(ひも)理論というものが生まれてきました。
ただしあくまでこれは理論の段階で、
実際にそんなひも構造が実在するという実験、観測は今のところはありません。

さてさて、話が込み入ったほうに行ってしまったので、
少し現実に引き戻しましょう。
「クトゥルー神話」というのがあって、オカルトフアンにはよく知られていますが、
これはH・P・ラブクラフトという作家が考え出した超自然的な神話、
つまり創作です。好きな人はそこに出てくる邪神のイメージ、概念を持っています。
クトゥルーであればタコのような外観を持った巨大な海棲生物という具合です。

このようなものは、実体はなく(あるいは実体は活字上の描写)
概念だけがある、と考えてもよいと思われます。
「ドラえもん」とかもそうですね。この概念としては、
「青い丸い耳のない猫のロボット」とか「藤子不二雄によるマンガに登場する猫型ロボット」
といった概念を言う人が多いでしょう。 では、幽霊はどうでしょうか。

「幽霊は、人間がその歴史上において、
死後の世界や死者がこの世に残した思いなどについて考え、
また、それらが絵画や芝居、創作文芸などによって共通化された概念であり実体はない」
こう言い切ってしまうことはたやすいのですが、言い切ることはできないと思われます。
なぜなら幽霊には目撃者がいるからです。
(一つ目小僧とかにもいるのかもしれませんが)
「空飛ぶピンクの豚は実在する、なぜなら自分が見たからだ」
もしこう言ったとしても、これは信じてはもらえないでしょう。
「空飛ぶピンクの豚を見た」という人は非常に少ないからです。

それに対し、幽霊の目撃者、心霊現象の体験者は、
たくさんの数が日々生まれ、動画なども投稿サイトに次々に出てきます。
幽霊の概念は当然ありますが、その微妙な部分は人によって違うでしょう。
では実体は・・・と話は最初に戻ってしまうわけです ww
ただし、リンゴはスーパーに行けば手に取って確めることはできますが、
幽霊はそうはいきませんね。







2015.03.19 (Thu)
始まりはネットの某掲示板からなんだ。霊視スレってのがあるんだよ。
そこには何人か常駐してコテつけてる霊視鑑定士ってのがいてな。
ああ、コテってのは固定ハンドルという意味で、
掲示板上で使う仮の名みたいなもんだ。そこに相談者がやってきて、
「埼玉県、女、32歳、最近疲れやすく夢見が悪いので見てください」とか書き込む。
するとその時間にスレにいた鑑定士が回答をするって形になってるんだ。
いや、いや、信じちゃいなかったよ。
霊視なんてもんがあるはずはないし、相談者のほうも、
それを知ってて、お遊びで適当なことを書いてるんだろうって。
なんでそう思うかっていうと、何度か相談をしたことがあるんだ。
いや、スレを盛り上げるためのお遊びだよ。

だから男なのに女って書くし、住んでる県もデタラメ。
相談内容もその場で適当に考えた嘘だよ。・・・そんなんだから、
鑑定は当然当たらないし、それどころかこっちの嘘も見抜けやしない。
でもな、当たってないとか、こっちが嘘書いたってバラすのは反則だ。
そんなことしたら、せっかくの遊び場が壊れてしまって続かないからな。
でな、こないだも女のふりをして、「週末の夜になると金縛りにあうようになり、
 病院に行きましたが検査しても何でもないと言われました」って相談を書いたんだ。
したら、「しゃむ」っていうコテの鑑定士が出てきて、
「鳥が憑きかけています。怨みを買った人に心あたりがあれば謝罪をおすすめします」
こんな回答をもらったんだよ。それ見て「あー何か気味悪いな」とは思ったけど、
どうせ適当だろうと気にはしなかったんだよ。

その「しゃむ」ってコテは、いつも常駐してる鑑定士のじゃないし、
俺の相談に答えた1回だけで、それ以後はスレに出てこなかったし。
どっかの通りすがりのやつが、デタラメに答えたんだろうと思った。
怨み? うーん、それは俺は金融業なんで、心あたりはないことはないっていうか、
仕事の関係だからあったとしてもどの話なのかわからない。
私生活じゃあ全くなかったね。それから3日くらい何も起きなくて、
そのことはもう忘れかけてたんだが、日中、外回りに出たときに、
一息つこうと駅前の噴水のベンチに腰かけて、缶コーヒーを飲んだんだ。
したら、母親に連れられた5歳くらいの男の子が脇を通りかかったとき、
俺のほうを指さして、「ねえ、ねえ、あの人の頭に黒い鳥がとまってる」
って言ったんだ。思わず頭をさわったが、鳥なんているわけはない。

母親は俺のほうを見、それから子どもの顔を見て、
「そんなこと言っちゃダメでしょ」みたいにたしなめ、手を引っぱって過ぎて行った。
・・・こんときも、まあね、子どもの話だし、気にすることもなかったけどな。
ところその夜、マンションに戻って、発泡酒飲んで寝ようとしたとき、
頭のここ、後頭部の右側の一点に鋭い痛みを感じたんだ。
普通の頭痛とかとちょっと違ってた。
一か所だけ、指先くらいの部分がそれこそキリでもねじ込まれるように痛んだんだ。
持ってたテレビのリモコンを放り出してしまうくらいの痛みだった。
最初は傷だと思ったくらいだったが、さわっても血は出てない。
それからベッドの前でしゃがみ込んで動けないほどの痛みが続いたんだ。
治まったのが約1時間後。

治ってみると嘘みたいな感じで、浴室で鏡を見ても、頭を洗ってもなんともなかった。
だから、もう1回くるようなら医者に行こうと思って、その日は寝た。
翌日だよ。そんときは仕事で戸別訪問した住宅街を歩いてた。
したら路地奥のゴミ置き場前の地面にカラスがいて、
俺が通りかかるとこっち見て大声で鳴いた。
カラスが人間に向かって鳴くなんて珍しいな、と思ってたら、
急に飛び上がって、俺のほうに向かってきた・・・んだが、
思わず頭をすくめた俺の前で、弾かれたように地面に落ちたんだ。
しばらくもがくような動きをしてたが、体勢を立て直して別方向に飛んで行った。
「変なことがあるもんだなあ」と思いながら仕事を終えて部屋に戻ったら、
前日とほぼ同じ時間に頭痛が始まった。

同じ個所で「んーんー」ってうなり声が出るほど痛い。
この痛みは俺じゃなきゃわかんねえよ。なにしろ苦し紛れに自分の右手を、
がっぷり肉がそげるまで噛んでたのに、
頭のほうが痛くて気がつきもしなかったんだ。
痛みは前の日同様小1時間で治まったが、
床のじゅうたんが手から出た血でぐしょぐしょに汚れてた。
それで、頭のほうは嵐が過ぎたみたいにピッとも痛くない。
まあ手のほうは包帯巻いたら血は止まったんで、
その傷も合わせて翌日医者に行ったんだよ。手のほうは数針縫っただけで、
頭のほうはその場でできる検査をいろいろ受けたが原因は不明。
CTスキャンを予約することになって、その日は痛み止めをもらって帰ったんだ。

過去2日とも、痛みが始まったのは夜の10時ころだったから、
その時間になるのが怖くてしかたなかったよ。
でな・・・やっぱり痛みはきた。医者にもらった薬に期待をかけてたんだが、全く効かない。
何かを噛んだりしないよう、タオルを咥えて、
体を丸めて必死で耐えようとした。でも何回も発作みたいにして立ち上がって・・・
そんときに居間のサッシに自分の姿が映って見えた。
したら頭の上に鳥・・・かなり大きい黒い鳥が後ろ向きにとまって、
俺の後頭部をつついてるように見えたんだ。
一瞬のことだったし、地獄の苦しみの中でのことだから、
自分でもホントに見たのかは怪しいけどな。・・・1時間が過ぎ、痛みは嘘みたいに消え、
さっき鳥を見たなあと考えて、あの掲示板のことを思い出したんだ。

ずっと見てなかったスレを開いたら、「しゃむ」って鑑定士から、
俺あての伝言があったんだよ。「今すぐ、郷里の墓にいきなさい」って。
続けて仕事休むのも何だったんだが、このままじゃ死んじまうと思って翌日、
朝早くに発って郷里に戻った。両親ともずっと前に死んじまってて、2人が入ってる墓だ。
2年に1度くらい、盆に墓参りするくらいしかしてなかった。
先祖代々の墓じゃあねえんだよ。俺の両親だけ入ってる山の斜面の小さな墓。
親父とおふくろは駆け落ちだったから、親戚からどっちも縁切りされてたんだ。
死んでからも許されなくて、山の斜面のわずかな土地をもらって建てた。
下に車を停めて石段を登ってくと、囲いもなにもないのっぺりした墓石が見えてきた・・・
が、後ろのほうに何か黒いもんがあった。鳥だよ。カラスじゃない。
九官鳥ってやつじゃないかと思ったんだが、真っ黒い鳥。

それが逆さまになって吊るされてたんだ。墓石の上部に釘を打ち込み、
そっから釣糸で足を縛って頭を下にして吊るされた鳥。
でな、最初は生きてたんじゃないかと思うんだよ。
暴れたように羽根があたりに散ってたし、片方の足は折れてた。
クチバシも痛んでて、ちょうど頭の辺の墓石にひっかき傷がいくつもできてたんだ。
気味悪かったが釘から外すと、新鮮というか昨日今日に死んだような感じだった。
腐ってもいなかったってこと。それを車のトランクに入れ、近くのホームセンターに走った。
釘抜きを買うためだよ。そんで戻って、苦労して釘を抜いたが、
その部分の墓石がぼこっと欠けてしまった。でな、部屋に戻って10時を待った・・・
痛みはこなかったよ。それ以後、頭はなんともなしだ。掲示板のスレには、
「しゃむ」あてに礼を書き込んどいたが、音沙汰なしだったね。







洒落怖の好きな話

2015.03.18 (Wed)
今夜もネタがなくw 反則気味ではありますが、
2ちゃんねる掲示板のオカルト板で有名な、
「洒落にならないほど怖い話を集めてみない」
に投稿された中で自分の好きな話について書いてみます。
自分もこのブログを立ち上げる前は、ここに投稿することが多かったんです。
有名な話には「八尺様」「くねくね」などがありますが、
一番好きなのは「ヒサルキ(幼稚園編)」と言われるやつです。
「ヒサルキ」の場合は派生した話がたくさんあって、何が何だかわからない状態ですが、
これは不気味だと思います。引用させてもらいます。

114 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/02/13 13:06
最近、保育園で保母さんをやってる友達に聞いた話。

その子が行ってる保育園ってお寺がやってるとこで、
すぐ近くにお墓があったりする。お墓に子供が入っていたずらしないように、
周りに柵がしてあるんだけど、
柵の杭の尖った先っちょに、
虫やトカゲなんかが串刺しになってることが良くあるらしい。
園児のイタズラかもしれないけど、お寺も兼ねてる保育園だから、
けっこう人の出入りは多くて、広場で小学生なんかがしょっちゅう遊んでるから、
誰がやってるのかわからない。

まぁ鳥のせいかもしれないし~って感じで、誰もたいして気にはしてなかった。
ところがある日、その柵にモグラが刺さっていた。
さすがに哺乳類はグロいんで、
すぐに園長先生(=寺のお坊さん)が片づけてくれた。
で、しばらくすると、今度はネコが突き刺さってた。
これはさすがに酷か ったんで、保母さんやお坊さんが集まって、
誰の仕業か?どうしたらいいのか?って話をした。

でも、犯人はわからないし、再発防止の名案も出なかった。
結局、どーするんだろうね~ってムードでダラダラと時が過ぎて、
ある日、ウサギが突き刺さってた。保育園で飼っていたウサギだった。
これは、友達が見つけたらしい。
早朝に、お坊さんがお墓の掃除に行った時には無かったのに。
その日は、たまたま友達より早く来ていた子供がいたんで、
その子に何か見た?って聞いてみた。
その子は一言「ヒサルキだよ。」って言った。
「ヒサルキってなあに?」と聞いても上手く説明できないみたいだった。
あとで、ほかの子にヒサルキの事を聞いてみた。みんな知っていた。

でも、誰もヒサルキがどんなモノなのか説明できなかった。
子供達は、ウサギが死んだのを、あまりかわいそうだと思っていないようだった。
何となく、しょうがない、みたいな感じで醒めていた。
変だと思ったのは、ヒサルキのことは、園児の親も知らなかったこと。
子供がそんな言葉を使っているところも、誰一人覚えていなかった。
テレビや本のキャラでもなかった。
すると、保母さんの一人が、昔そんな名前の絵を見たことがある、と言い出した。
子供が描いた絵は返してあげるので保育園には残っていない。
ただ、絵を描いた子がその保母さんの近所の子だったので名前を覚えていた。
「その子に聞いたら・・・」と友達が言うと、
その保母さんは「引っ越した。」と答えた。

そして、「その引っ越しが変だったんで、覚えてる。」とも言った。
なんでも挨拶もなく、急に引っ越していったらしい。
さらに不思議だったのは、引っ越す時にチラッと見たらしいんだけど、
その絵を描いた子が両目に眼帯をして車の中に座っていたんだって。
それで、どこへ行ったのかはわからずじまい。
それからニワトリが串刺しになったのが最後で、ヒサルキ騒動は終了。
結局、犯人もヒサルキの正体もわからずじまい。
前みたいに虫なんかは突き刺さってるみたいだけど。終わりです。
昼休みに急いで書いたから、文章荒れてる?洒落になってるし。スマソ。
で、誰か『ヒサルキ』って知ってます?


引用してみると長くはないですね。
怪談としてこのくらいがちょうどいいなあという感じがします。
これは今にして思うと「解決しない謎」系の話で、
この投稿者自身も「ヒサルキ」が何なのか、わからないままに書いている設定なのが、
読む側の「謎を考えたい、解いてみたい」
という気持ちを刺激するんじゃないかと思います。
「その絵を描いた子が両目に眼帯をして車の中に座っていたんだって。」
という伝聞の描写が出てくるんですが、
このあたりも、かかわったものが不幸になることが予感されて、禍々しくていいです。
これを読んで、話の中に謎を残すことで出てくる余韻、
ということを考えるようになりました。

次は有名どころでは「地下の井戸」なんかも好きです。
これはまとめサイトへのリンクを貼っておきます。
『地下の井戸』

かなり長いですし、前半のみかじめ料の取り立てについての部分は、
話の筋とあまり関係がないので、
「もっと短くできる」という感想を言う人も多いんですが、
自分的には、これがないと話が「単に怖いものを見た」というだけになって、
平板な印象を与えるんじゃないかと思います。

「裏S区」
『裏S区』

これは「読みにくい」という感想がけっこうあり、
確かに自分も読みにくいと思うんですが、そこがかえっていい味というか、
巧まざる不気味さを醸し出している気がします。
構成を工夫したりすると、この怖さは出ないんじゃないでしょうか。
差別ということがテーマになっている話でもあり、
なかなかこういうのは書けないなあ、と思います。

「ヒギョウさま」
『ヒギョウさま』

これはあまり投票の上位にきている話ではないんですが、
自分は「上手いなあ」と思いました。
まあ養鶏場で実際にこんなことがあるはずはないので、
難しいテーマなのですが、話の中では思わず納得させられてしまいます。
ところで、これらを投稿された方々は今はどうしているんでしょうね。








こちけさま

2015.03.17 (Tue)
中学校1年生でしたね。田舎だったんで、
学校の裏にロープリフトを張ったスキー場があったんです。
山の斜面の草を刈って、農機をばらしたエンジンでロープを回すやつです。
両手でつかまってると、上まで引っぱりあげられるんです。
学校の保護者会でやってるやつで、もちろん無料でした。
その日は、学校が先生方の会で早く終わったのと、
天気がよくてなかなか暗くならなそうだからってんで、仲のいい友達と2人で行きました。
スキーはそこの山小屋に冬中ずっと昔はいてたのを置いてあるんです。
2時から5時くらいまで滑ったんですが、
油断しててゴーグル持ってかなかったんで、雪目になっちゃったんです。
目のまわりが赤くなって、シクシク痛み、それと猛烈にかゆいんですよ。

でも、かくと悪化して病院にいかなくちゃならないんで、
ガマンしいしい帰ってきました。
紫外線で目の表面が焼かれたってことなんですってね。
久しぶりの太陽が斜面に当たって、照り返しが強かったですから。
いっしょに行った友達はならなかったんで、運が悪かったんだろうと思います。
で、目をしばたかせながら帰ってくるとき、
変なものが見えたんですよ。うーん、そのときははっきりした姿を見たわけじゃなくて、
ただ、影になった暗がりの部分に何かいるような気がしたんです。
大きさは2~3歳の子どもくらいですね。
それくらいの子どもって、体に比較して頭が大きいでしょう。
4頭身とか5頭身っていうやつです。

ところが、見えたのはもっといびつで3頭身くらいしかないと思いました。
そいつの黒い影が、ちょこまかって、影の部分から出てくるんです。
「あれ、今なんかいたな」と思って、目を凝らそうとするんだけど、痛くてできない。
でも、陰になった部分を通るたび、何かが走り出してくる気がする。
友達にそのことを話したら「えー、なんもいないぞ」って言われました。
それで、雪目になったために見える錯覚なんだろうと思いました。
家に着くころには日も暮れてきて、影自体なくなって、
そうすると見えることもなかったんです。
家に入って、爺ちゃんに「目が痛い」って言いました。
するとテレビで相撲を見ていた爺ちゃんは、こっちを見ないで、
「かくなよ、かけば病院に行かなくちゃならなくなるから。

 ぬるま湯で目を洗って、薬箱の目薬さしとけば明日まで治る。
 明日は吹雪に戻るみたいだから、もうまぶしいことはないだろう」って言いました。
それで、言われたとおり台所で目を洗いながら、
「来るとき変なものが見えた」って言ったんです。
爺ちゃんは相撲に夢中だったので、生返事でした。
目薬をさしているうち相撲が終わったんで、
ひいきの横綱が負けて呆けた顔をしている爺ちゃんに、
「目が痛くなってから、暗がりの中から子どもみたいなのが走り出てくるのが見えた」
ってもう一度言ったんです。
すると爺ちゃんは、なんだか面白そうな顔になって、
「ほうほう、それは『こちけさま』じゃないか」って答えました。

「こちけさまって?」
「爺ちゃんも子どものときに見たことがある。
 このあたりでは雪目になると見えるもんだったが、道路もよくなって、
 もういないのかと思ってた。ほうほう、懐かしいな」
「へえ、あれ本当にいるもんなんだ。それで、こちけさまって何?」
「なんだかはわからんよ。えーほら、鬼太郎のマンガなんかに出てくるやつ。
 あれの仲間かもしれんな」
「・・・妖怪ってこと? でも、そういうのって想像上のもんでしょう」
「いんや、お前の学校の教科書にも載ったと思うがなあ。
 昔々、ふるーい時代から、人間と共存してるもんだ。
 悪さをしたって話は聞いたことがない。今は、向こうが人間に遠慮してるんだろう」

「どういう姿をしてるかわかるの?」
「だから、教科書に載ってるとおりだよ。
 もしかしたら、昔の人は誰でもちゃんと見えてたのかもしれない。
 ひじょうによく似せて造ってる」
「わけわかんないな。何の教科書に載ってるの? 理科?」
「社会だろう。爺ちゃんも昔、小さいころに見たことがあるぞ。
 あれは、やっぱりお前と同じで雪目になったときだったな。
 しかし、雪目はむしろ大人になって山仕事に行ったときのほうが多かったが、
 そんときには見なかったから、子どもにしか見えないのかもしれん。
 明日吹雪なのが残念だな。もし晴れてたらスゴイもんが見られたかもしれんのにな」
「スゴイものって?」 「だから、こちけさまたちだ」

こんなやりとりをしてるうちに、両親が帰ってきたので夕食を食べ、
目のことを口実にして勉強しないで早く寝たんです。
目には濡れタオルを上からあててました。
翌朝、カーテンの隙間から日差しがさしてきて目が覚めました。
どうやら天気予報は当たらなかったみたいです。
目はもう痛くなかったですが、かゆみはまだ残ってました。
時間は6時前だったんですが、昨夜早く寝たんで起き出しました。
下に降りていくと、爺ちゃんがストーブをつけてましたが、こっちを見て、
「どうだ、目は治ったか?」って聞いてきたので、
「痛みはないし、涙も出なくなったけど、まだかゆい」って答えたら、
「そうか、かくなよ。たぶん今日中には治るだろ。

 それと、天気がよくなったんで、面白いものを作っておいたぞ」
こう言って、変なものを見せてよこました。
それは横長のボール紙に細い切れ目をやはり横長に入れたもので、
両端に15cmほどのひもがそれぞれついていました。
「こうやって目につけて、頭の後ろでひもを結ぶんだ」
「へえ、なんかかっこいい気もするな。何に使うもの?」
「こちけさま、が見えるかもしれん。天気予報は外れたし、
 朝は日差しもそう強くないから、目のほうは大丈夫だろう」
爺ちゃんはそう言って、裏口から外に出るように言いました。
それでヤッケをひっかけて、長ぐつで爺ちゃんの後に続いたんです。
夜の間に雪はほとんど降らなかったようでした。

固くしまった雪を踏んで裏庭に出ると、田んぼに積もった雪に、
ところどころにある杉の木がくっきり影を落としてました。
目が少し痛んだので爺ちゃんに言うと、
「さっきのメガネをつけて田んぼ見てみろ」
それで、ひもを結んで、細長い隙間から田んぼを見てみたんです。
何か小さいものが杉の影から走り出、短い手足で半ば雪を泳ぐようにして、
ちょこちょこと別の影に入っていきました。あちこちにいるみたいでした。
「見えるか?」爺ちゃんが聞いたので、
「昨日よりはっきり見える。あ、こっち向いた。
 わかった、確かに社会の本に出てるやつだ。目が、今俺がつけてるのに似てるね」
「そうか、さっき試してみたが、やはり爺ちゃんにはもう見えん。

 しかし、いるってことは何となく感じる」こう言いました。
しばらく、こちけさまたちを見てたんですが、
そろそろ両親が起きてくる時間になったので家に戻りました。
「このメガネをつければ、また見えるのかな」
「いや、たぶんダメだろう。雪目になったときじゃないと無理かもしれん。
 爺ちゃんもそうだったしな」
確かにそれ以後、はっきりした姿は見てないんです。
わざと雪目になるわけにもいかないですしね。
でも、冬になると存在を感じることはありますよ。ああ、今走ったんじゃないかってね。
・・・「こちけさま」が何かもうおわかりでしょう。
そう、これのことです。








幽霊は物理的か

2015.03.16 (Mon)
・・・ということで、前にも似たようなことを、
「幽霊は何ができるのか」という項で書いています。
ネタ不足のため、やや内容が重複していますが、
あれを書いたのはだいぶ前ですので、少しは考えが固まってきました。
本題は、「幽霊は物理的だと面白いか」というのを縮めたものです。
自分が怖い話を書く上で、自分なりのこだわり、というかルールを設定しています。
そのうちの一つが、できるだけ幽霊には物理的な行動をとらせない、
というものです。ただし、それほど厳密に扱っているわけではありませんが。
あと、幽霊ではなく、妖怪、宇宙人、悪魔などによる怪異、
あるいは呪い、魔法などの話の場合はまた別です。

まず物理的な行動というのはどういうものかというと、
例えば「心霊スポットに行って笑い声を聞いた」というのは、
幽霊の物理的な行動でしょうか。音というのは空気の振動、
つまり音波という波が発生したということですよね。
そう考えれば、物理現象であるわけですが、これはもしかしたら登場人物が、
「笑い声を聞いた」と思っただけかもしれません。
それ以外の人も一緒に聞いている、という場合でも、
全員が一斉に「聞いた」と思ったのかもしれません。
ですから、これは自分では「あり」としています。

次に、これもよく聞く話ですが、
心霊スポットに車で行ったら「車に手形がついていた」という場合はどうでしょう。
「手形がつく」ということは、
幽霊の手のひらから皮脂などが出ていてそれが付着した、
または幽霊の手によって、ホコリなどが拭い取られたということになるでしょう。
どちらにしても、車に手形が残っているということは、
物理現象が起きてしまったという証拠で、後で見たら消えていたとしない限り、
「手形がついているのを見たと思った」は通用しないですよね。
ですから、「幽霊に物理的な行動をとらせない」というルールにしたがって、
自分はできるだけそういうシチュエーションは書かないようにしています。

理由は・・・そうですね。幽霊に物理的な行動がとれるとなると、
話が何でもありになってしまって、底浅くなってしまう気がするからです。
例えば「幽霊が首を絞めてきた」「幽霊がバットで殴ってきた」
「幽霊が拳銃で撃ってきた」これだとギャグになってしまうんじゃないでしょうか。
それと、幽霊にそういう行動ができるのなら、逆もまた可かもしれないです。
物理には作用反作用の法則もありますし。
つまり「幽霊を平手打ちする」「幽霊を投げ縄でつかまえる」とか。
まあ、そういう世界観になってしまうのを、
避けるための制約といってよいかもしれません。
自分の話では、たくさんの方が亡くなっているのですが、
自殺したり、衰弱死したり、事故だったりで、
直接幽霊に殺された、というような話はほとんどないはずです。

そのほうが話に深みが出る気がします。
部屋に幽霊が訪れてきて、登場人物と向かい合ってお茶を飲んだ。
この場合、お茶が減っていれば物理的な作用ですが、
幽霊が飲んだとするより、幽霊が飲んだと思っていたが、
実は主人公が無意識のうちに自分で流しに捨てていた、としたほうが、
なんだか怖い感じがしませんか。
さらに言えば、幽霊などというものは主人公のまったくの想像で、
実は少しずつ狂気の淵に落ちていっている、というふうに読むこともできるのです。
 
ある人が幽霊にとり憑かれた、幽霊が見えと言っている。
しかし他の人には、それが本当に霊によるのか、
それとも徐々に表出してくる登場人物の精神病理なのか、厳密な区別はできません。
このあたりが現代怪談の不気味さではあります。
まあしかし、その手の話だけではバリエーションが限られてきますし、
読まれる方のフラストレーションも溜まるかと思います。
そこで、どこかに「これはやはり心霊現象として考えないと説明がつかない」
という部分を仕掛けておくとよいでしょう。
理詰めでも、心霊オカルトとしても解釈できそうだけど、
ある部分があるために、オカルト解釈のほうが勝ってしまう・・・
そういう話を書くように心がけているのです。

『飽食のセイレーン』ギュスターヴ・アドルフ・モッサ







貸す

2015.03.15 (Sun)
小学生のときです。6年生の1学期間ですね。
すごく変なことがあったのを、最近あることがあって思い出しました。
始まりは4月、新学年になってすぐでした。
登校の途中、信号待ちをしてたところ、突然後ろから声をかけられたんです。
「やあ」って。振り返ると、ネクタイをしたサラリーマン風の人で、
そこそこ若かったと思います。その人は私に向かって、やや腰をかがめ気味にして、
「ああ、君が新しい貸主さんだね。・・・貸してください」って言ったんです。
「えっ? 何をですか」当然こう聞きますよね。
そしたらその人はすっと背を伸ばして、
「気にしなくてもいいよ。少しでも会話をしたら交渉成立だから」
そう言ってそっぽを向き、信号が変わると足を速めて追い越していっちゃったんです。

変だなあ、とは思いましたよ、もちろん。
学校でも、知らない人と話をしちゃいけないって言われてましたから。
でも、別になんの害もなかったし、たいしたことないだろうと思って、
すぐ忘れちゃったんです。で、午前中は特に何事もなかったと思うんですが、
給食の時間から始まっちゃいました。ええ、不運がです。
当時の担任の方針で、欠席者がいる場合、
その人のゼリーなんかがもらえることになってたんです。
ただし希望者が多かった場合はじゃんけんになります。
その日はブルーベリーヨーグルトで、「いただきます」をしてから、
担任が「ほしい人出てきて」って呼びかけ、
4人の男子が出ていって、じゃんけん。これは負けました。

まあ、確率1/4ですから、外れるのに不思議はないんですが。
その後です。自分の席に戻ろうとしたとき、
腰のあたりを軽くひっかけただけなのに、
給食をトレイごとひっくり返しちゃったんですよ。
・・・ご飯とおかず類はまだ残りがありましたけど、
自分のヨーグルトは見事に逆さになって中身がこぼれ、食べられなかったんですよ。
これをきっかけに、午後は悲惨の極致でした。
5時間目の算数の時間には、前日にちゃんとやったはずの宿題が、
なぜかノートにはさまってない。提出できず放課後に残されて、
やりおえたと思って立ったとき、
あれほどさがしたはずのノートの、次のページにはさまってるのを見つけたとか。

6時間目の図工では、学校のまわりの風景をかいた絵の色ぬりをしてたんですが、
パレットを絵の上に落してしまって、あわてて拾い上げようとした瞬間にコケて、
そのパレットの上に倒れこんで、服が絵具だらけになるとか・・・
それでもね、ああ、今日は運が悪いなあ、と思うだけで、
朝の出来事と何か関係があるとは思わなかったんです。
ただね、子供心にも、これは普通じゃないぞ、とは感じていて、
用心しいしい家に帰ったんです。翌日になると、元の日常に戻たっというか、
運が悪いなって感じることはなかったんです。その日のことは忘れました。
でね、1か月くらいたって、また朝の登校時です。
同じ信号のところで声をかけられたんです。
「○○ ○○君」って。これは僕のフルネームです。

「あ、ハイ」と言いながら後ろを向くと、
全体的に金ピカな印象のオバサンが立ってました。
髪が金色に染めてあって、金のネックレスと、
あと、手にたくさん金の指輪をしてたのを覚えてますね。そのオバサンは、
「ああ、1回で返事してくれてよかった。じゃあ、すみませんがお借りします」って、
両手で僕を拝むような格好で言ったんですよ。
そのときに、前にも同じようなことがあったのを思い出しました。
でも何と答えればいいかわからないでいるうち、
やっぱりオバサンはスタスタ行ってしまったんです。
もうおわかりでしょう。その日は一日中さんざんな目に合いました。
精神的にはズタボロになって家に戻ったんですが、ケガがなかったのがせめてもの救いで。

同じようなことが、だいたい1か月おきに、もう2回ありました。
全部、朝に同じ交差点の場所でです。「貸してください」って言う人と、
話をしちゃいけないってのも何となくわかったんですが、
前の時から間隔があいてるんで、名前を呼ばれたり、
「あ、ちょっと、ちょっと」って言われると、とっさに何か受け答えしちゃうんです。
でね、その度に理不尽としか言いようのない不運が襲ってくるんですね。
でも、不運なのは1日だけだし、身体的なことには及ばなかったので、
今にして考えれば、法則みたいなのがあったのかもしれません。
ああ、あとその後もう一回、同じ場所で背中から「ちょっといいですか」
って呼ばれたことがあったんですが、
そのときはさすがに事態が飲み込めてましたから、無視して返事しませんでした。

で、それでこの奇妙なことは終わったんです。
結局、男2人女2人の計4人分、つまり4日間、不運な日があったってことになります。
いや、特に人に相談するとかなかったですね。
偶然と言われればそれまでだし、実際、偶然かもしれませんでしたからね。
あと何事もなかったので、このことはいつの間にか記憶から消えてました。
それから8年の年月がたって、僕は今、大学生で別の県に出てるんですが、
今年の1月に成人式があって地元に帰ってたんです。
式は昼からで、会場に向かおうと徒歩で実家を出て、
あの交差点で信号待ちしてたときに、「○○さんですね。お久しぶりです」
って後ろから女性の声がしました。
振り返ると、4人の人が横に並んでニコニコ微笑んでたんです。

初めは知らない人だと思ったんですが、その中央の声をかけてきたおばあさんが、
きんきらした服装で、しかも金のネックレスや指輪に見覚えがあったんで、
ふっと、一気に小学校のときの記憶がよみがえってきたんです。
サラリーマン風の男の人が、
「おぼえてらっしゃいますか、あの時のこと。いや、ほんとうに助かりました。
 あなたに運を少し分けてもらったおかげで、今でも会社は続いてます。
 ありがとうございました。今日は借りたものをお返ししに来たんです。
 □□スーパー前の宝くじ売り場で、今年の年末に宝くじ10枚を買ってください」
こう一気に早口に言いました。いや、なんと答えていいかわからなかったです。
黙ってたら、もう一人の女の人が、「それと、一人あなたを恨んでる人がいますから、
 お気をつけて」こう言ったんです。

そのとき信号が変わったんで、歩き出しましたが、
その人たちは歩道にならんだままで、
いっせいにこちらに向かって深々とお辞儀をしたんですよ。
まあ、こんな話です。え、宝くじですか。もちろん言われたとおり、
地元に戻って□□スーパーの前の売り場で買おうと思ってます。
4億円といいたいところですが、子供の頃の不運は、
今にして考えると他愛ないことでしたし、10万円でも当たれば満足ですよ。
ただ・・・最近ですね、送信者のわからないメールが来るんですよ。
内容は「お前のせいで お前のせいで お前のせいで・・・」の繰り返し、
着信拒否にしてますけど、これは警察に連絡したほうがいいでしょうか。
みなさんはどう思われますか?








アルチン爺

2015.03.14 (Sat)
*バカ話です

スーパーの裏方のバイトしてるんです。
ええ、閉店後の商品の補充と値札の付け替え、商品整理と荷下しですね。
閉店が11時で深夜業務になりますから、時給は1000円超えますけど、
力仕事でキツイはキツイです。
始めてから2ケ月になりましたが、この間とんでもないことがあったんです。
その日は、いつもはシフトの関係でもう帰ってるはずの店長が顔出してて、
主任の前橋さんと何か話してたんです。
内容はわからなかったんですが、前橋さんは顔を曇らせてました。
それをいっしょに見ていた高橋さんって先輩が、
「こりゃ今日、店にアルチン爺さん、来たんじゃないか」
って言ったんで、「それ何?」って小声で聞きました。

「ああ、後で話してやるから、やることやっちまおうぜ」
高橋さんと、担当している商品の棚を見回り商品の補充をしていきました。
箱で運ぶので、1つ20kgから30kgあります。
このバイトになってだいぶ腕力がつきました。
で、30分ほどした頃、鮮魚売り場のほうで「うわわわわ」 「始まった」
って声が聞こえました。何事かと思って見にいったら、
冷凍ケースに入ってる魚・・・それらのいくつかが宙に浮いてたんです。
ええ、多くは発泡スチロールトレイに入ったままですが、
むき出しのイカやらサバやらも、浮き上がってました。
でね、それらは横長の冷凍ケース前の通路の中央部に、
どんどん集まってきてるんです。もちろん空飛んでですよ。

うーん、どう言ったらいいですかね。
ふらふらした感じはまったくなくて、
磁石で吸いつけられるみたいにヒュンと飛んでいきました。
止めようがないですよ。店長だって腕組みしたまま見てるだけでしたからね。
でね、その鮮魚類は重なりくっつき合って、
だんだんに細長い形になっていったんです。
人間の姿ですよ。そうですね、2m近くある大柄な人で、
片方の手は解凍のサンマのパックが2つつながってて、
頭の大部分はタラの切り身と、あと白子が上のほう、脳みその位置に乗っかって、
顔の前面にはサザエの2個入りハックがひっついて・・・
あれは両眼のつもりなんでしょうかね。

その人の形ができるまで、2分くらいのもんでした、あっという間だったです。
でね、パックの魚人間は完成したのか、もう浮き上がってくる商品はなく、
自分の足でゆっくり歩いて、店長のほうに行ったんです。
店長は微動だにせず、腕組みしたまま。
魚人間は声こそ上げませんでしたが、店長の前までくると、
両手を高々と上げて、地団太を踏むような動作をし、
そのままバラバラと崩れ落ちたんです。店長は心なしかホッとした顔になり、
「やれやれ、今回は魚か。まあ大した量じゃない。全部廃棄に回してくれ。
 あとこのことは絶対に他言しないで」こう言い残して帰っていったんです。
片付けは俺も手伝いましたよ。持ち上げてみるとただの生魚で、
動いたり宙に浮いたりするってことはなかったです。

その後、緊張した状態で早朝まで仕事しました。
でね、終わった後、着替えてると高橋さんが来たんで、
「あれ何だったんですか? 魚パックが空飛んで、しかも人の形になりましたよね。
 魔法ですか? アル中爺さんとか言ってましたが、どういうことです?」
好奇心が抑えきれず、質問責めにしてしまいました。
「うん、またあっるかもしれないし、話してやるから俺の車に乗れ」
それで、駐車場の高橋さんの愛車の中でこんな話を聞いたんです。
「アルチン爺ってのは、俺は2年勤めてるうちで昼間1回だけ見たことあるが、
 黒い喪服みたいな上下スーツを着た、ちっこい爺さんなんだ。
 年はよくわからねえが、70歳以下ってことはねえと思う。
 今夜あったようなことが起きたのは2年で4回目だから、半年に一度の割だな」

「どういう人なんです?」
「それがわからねえ。ただ店の中に入ってきて、丹念に商品を点検するみたく、
 店の中を一回りして帰っていく、それだけなんだよ」
「近所の人とかですか?」
「うん、俺がくる前、ここが開店して以来そういうことはあったみたいで、
 爺さんの帰った後をつけさせたこともあるみたいだけど、
 市営住宅の裏の林の神社のあたりで見失ったってことだった。
 探偵とか雇ったって話も聞いたが、結果がどうなったかはわからん」
「その爺さんがきたから、あれが起きたってことなんですよね」
「それは間違いない。ただしこれまでは、お菓子売り場や缶詰類、
 野菜売り場でのことで、魚は今回が初めてだと思う。なかなか壮絶だったな」

「やっぱ、商品が人の形になって動いた?」
「そうだ。缶詰人間は今にして思えば、こっけいな感じだったな」
「爺さんが店に来たとき、警備員がひっくくっちゃえばいいんじゃないですか?」
「・・・何もおかしなことはしてないんだぞ。
 変事は爺さんが帰った閉店後に起きるわけだし、因果関係が証明できねえ」
「それはそうでしょうけど、理由は特になくても、
 入店お断りはできるんじゃないですか。爺さんは何も買わないんでしょ」
「うん、実はな、話では爺さんをつかまえて事務所に連れ込んだことも、
 店の前で入店を阻止しようとしたこともあるみたいなんだよ。
 だけど爺さんは、事務所の中ですっと消えたり、
 いつの間にか店内に入ってたり・・・」

「何者なんでしょう?」
「わからねえ、神様じゃないかって人もいるけど。貧相だしな。
 貧乏神なのかもしれんが。店的にはそれほど損になってるわけじゃない。
 お客の前であれが起きるわけじゃないから、変な噂にも今のとこなってないし。
 まあ、知ってる人はいるだろうけど、フツーは聞いても信じないよな」
「たしかに、人間一人の形になる分くらいの食材だったら、
 毎日それ以上廃棄に回してるわけですしね」
「そう、金銭的な実害はないようなもんだし、ケガした人も出てない。
 ある意味、仕事に緊張感を生んでるのかもしれんな」
「もしかしたら、会社のほうで爺さんに頼んでやってもらってるとか?」
「・・・いくらなんでも、それはないだろ」

「最後一つだけ聞いていいですか。アルチン爺って言ってましたよね。
 どういう意味なんですか」
「ああ、それは野菜置場であれが起きたときから、その名がついたんだ。
 俺は聞いたこともなかったが、500年くらい前の西洋の画家で、
 魚とか野菜、花なんかを寄せ集めて人の顔を描いた人がいるんだそうだ。
 そいつの名前がアルチンボルド。それからとってつけアダ名みたいなもんだな」
「へえ、俺も今初めて聞きました。もっとも絵とか興味ないから、
 モナリザくらいしか知らないですけど」
「それは画家じゃなくて絵のモデルだろ。家にネット回線来てるんだろ。
 アルチンボルドで検索してみな。変な絵が出てくるから」
・・・半年後にまた起きるんでしょうかね。けっこう楽しみですよ。

『ウェルトゥムヌスに扮するルドルフ2世』ジュゼッペ・アルチンボルド

 





タクシーの話

2015.03.13 (Fri)
事故予知

自分はけっこう仕事で旅行しますが、自分の車を使うことはあまりありません。
ほとんどが公共交通機関で、タクシーにも乗ります。
長距離かつ話好きそうな運転手さんだった場合は、
「なんか怖い話とか知ってますか?」などと聞くこともあるんですが、
それなりの怪談が聞ける割合は、10回に1回程度のものですね。
これもそんな中の一つです。
場所は岡山県です。駅に着いたときはバスのない時間でしたので、
目的地までタクシーで行くしかなく、乗り場でたまたま当たったのが個人タクシー。
自分のボストンバッグを見て、「ご旅行ですか」って話しかけてきた、
初老の運転手さんとあれこれ話した後、
「ところで、なんか怖い話とか知ってますか」そうい聞いてみたんです。

ま、驚いたんだと思いますけど、運転手さんは少し黙ってから、
「そうね、幽霊のお客さんを乗せて、いつのまにか消えてたなんてことはないですね。
 あの、シートがぐっしょり濡れてたとかいう話。
 なんというかね、うまく説明できないんだけど、
 幽霊の出方として、そういうのはすごく派手だと思うんですよね。
 私はこの世に、不思議なことはあるけど、
 そういう目立つ、派手派手しい形では起きないって感じます」
「じゃあ、どんな形で」
「うーん例えばね。ある国道を通ってたとして、
 事故がその先で起きてるって、わかるときがあるんです」
「へえ」思わず身を乗り出しました。

「これは条件が合えば、まず外れることはなくわかりますよ。
 どんな条件かというのは今言いますけど、
 自分でも不思議だなーって思います。これに気がついたのは、
 タクシー会社に入社して2年目くらいからです」
 「それ、どうやってわかるんですか」
「それがね、きゅっと視界がせまくなる感じがするんですよ。
 うまく言えないんだけど、
 フロントガラスから見える前の景色が小さくなるっていうか。
 そうね、望遠鏡を反対側から覗くと物が小さく見えるでしょ。
 あそこまで極端じゃないけど、ま、雰囲気としては近いですね」
「うーん、目に何か起きるんでしょうか」

「いや、目だけじゃなくてね。今はオートマですけど、
 昔、マニュアルだった頃には、自分の動作の一つ一つがゆっくりに感じられるんです。
 実際に、ゆっくりなわけはないですよ。
 毎日同じことを何回となく繰り返してるんですから。
 ああ、またスローモーションのモードに入ってるな、って思います。
 でね、そうなったときは、とにかくあたりに気を配り、
 慎重に慎重に運転するんです。スピードも落とし気味にして。
 それで、10分も行くと前に事故車やパトカーが見えてきて・・・」
「どんなときにもなるんですか」
「いえ、真っ直ぐな道の先で事故が起きたときだけです。
 つまり事故が起きた瞬間にその道を通ってるってことですね」
 
 それと軽い接触程度ではならないみたいですね。必ずどっちかの車は大破してる」
「うーん、他の運転手さんもそういうことを感じたりしてるもんでしょうか」
「いやいや、どうやら私だけみたいですよ。
 昔の仲間でそういう話をするやつはいませんでしたね。
 飲み会なんかがあれば、奇妙な体験をしたやつは話しますけど、
 そういう話題が出たことはなかったね」
「不思議ですし、何かの役に立ちそうですよね。
 これは、亡くなったり怪我した人の気が、
 道路を通して伝わってくるってことなんでしょうか」
「私も初めはそう思ってたけど、今は違うんじゃないかって考えてます。
 どちらかというと、壊れた車の気なんじゃないかなあって」

幽霊車

これは別のときに聞いた話で、場所は四国です。
「幽霊の話? いや、ないわけじゃないけど。別に話してもいいけどね。
 あの幽霊とか言われてるものって実体はないんだと思うよ」
「どうしてですか」
「だってねえ、車も幽霊になるんだよ。でも、車って生き物じゃないでしょ」
「まあ、そうですね」
「見たことがあるのは2回だけだよ。1回は深夜の国道の陸橋の上でね。
 そこは1車線なんだけど、中央分離帯があって、
 対向車線にはみ出せないようになってるとこ。
 夜だし辺鄙な場所だから、他の車がいるのに気がつかないわけはないんだよ。
 ところがそこ通ってて、はっとしたら真正面から突進してくる車があったんだよ」

「逆走ってことですか」
「そう、でかいパジェロだったはず。車種もはっきりわかったし、
 本物の車と寸分違わない。それどころか、
 こっちのライトが向こうのガラスに映ってるのも見えたくらい。
 そんときの距離は100mなかったね。橋の上だから横に逃げ場はない。
 うわーって思いながらブレーキを踏んだ。もちろん間に合わなくて、
 ぶつかったと思った瞬間。そのパジェロが消えたっていうか、通り抜けてったっていうか」
「それは怖いですよね」「ああ、もう寿命が縮んだよ」 「運転してる人の姿も見ましたか?」
「うん、それがさっき言った通り、こっちのライトがあたってはっきり見えなかった。
 ただね、向こうのミラーのとこに,
お守りのようなのがぶら下がってたことは覚えてる。そこだけ見えたんだよ」

「あと1回ってのは?」
 「うん、こんときはね、ちょっとヤバそうな風体の2人組のお客さんを、
 港まで乗せたときなんだ。港湾道路から外れて、埠頭まで行ってくれって言われた。
 深夜だったんで、怪しいと思うだろ」 「ドラマみたいですね」
「だから、埠頭の倉庫前で、その人を下して料金もらったときはほっとしたもんだ。
 チップまでくれたんだよ。で、戻ろうとしてると、
 道でもない船着き場のところを白い車が猛スピードで走ってきたんだ。
 あっという間のことで、車種もわからなかったよ。車は減速なしで海に飛び込んだ」
 「それで?」 「当然、車を停めて下りてみたんだけど、
 不思議なことにそこの海には変化がないんだよ。
 そういえば音もしなかったし、波しぶきがあがったのも見えなかった。

 それによ、車ってそんな急に沈んでしまうもんじゃないだろ。
 あちこちに空気が入ってるから、ゆっくりゆっくり沈んでく。
 今は水没時に窓を割るハンマーとかも売ってるだろ。
 泳げる人なら脱出できるくらいなんだ」
 「震災の津波の後に、そういう話も出てましたよね」
「だからね、幻の車を見たんだろうって。ただね、見たのは私だけじゃなくて、
 さっき下りた2人組も、岸壁の突端まで出て、私と同じ海面を見てたんだよ。
 ああ、あの2人にも見えたんだろうって。
 なんか雰囲気が悪いんで、呼び止められる前に、早々に車に乗り込んで帰ってきた。
 もちろん警察には連絡したよ。後で事情聴取もあって時間をとられた。
 けど、やっぱり飛び込んだ車はなかったんだよ。そんときにはね」
 
 
 
 

 

聞いた話

2015.03.12 (Thu)
自分の書いてる話は90%以上創作なんですが、今日は趣向を変えて、
人から聞いた話を書いてみることにします。
ただし実際に人から聞いたのは間違いないものの、
現実にあったことなのかは保証しかねます。

キノコ

ある30代の女性から聞いた話です。この人はフリーの編集者で、独身です。
だんだんにキャリアを重ねて収入が増えてきたので、
転居をすることにしました。
埼玉から都内へ賃貸ワンルームマンションを移ったわけです。
引っ越しの祝いに、同年代の女性を3人呼び、ワインと生ハムで軽パーティをしました。
その友人のうちの一人が、普段から霊についてうんちくのある人で、
いわゆる霊能体質だったんだそうです。
編集者の女性は、霊体験もなく、そもそも霊など信じてなかったそうですが、
ワインのグラスを重ねるうち、ふとイタズラ心を起こして、
霊感友人に、「この部屋、何か感じるものある?」って聞いてみました。
友人は「いや、なんもないと思うけど、ちょっと待って」

そうい言って目をつむり、立ち上がって四方に向きを変えましたが、
目を開けると一言「キノコが見えた」と言いました。
「えー、キノコ!」皆は笑い出しましたが、霊感友人は真顔で、
「なんか白いキノコの茎がないやつが縦に3つ生えている様子が浮かんできた。
 いいものかも、悪いものかもわからない。
 人じゃないし、たぶん害はないと思うけど、
 もし部屋でキノコとか見つけたら知らせて」
でも、そのマンションは中古といっても築10年以内だし、
下見をしたときに、キッチンの戸棚やバスルームを見て、
湿気ったり黴たりしていないのは確認済みでした。
それに霊がもしあるのだとしても、キノコに何ができるのかという気もあったそうです。

それから2年経過し、特に何事もなく。その女性はフリーから、
大手出版社の社員になり、有名な雑誌の編集部に入ってました。
その夏、エアコンから異音がするようになりました。
それも室内も音は響きますが、
それよりベランダにある室外機のほうが音がひどく、
冷気も弱くなってきたため、業者に修理を頼んだんだそうです。
その修理に立ち会うため、平日の午前ですが、部屋にいました。
若い人が2人来て、さっそく修理が始まったんですが、
すぐに「あれっ」「なんだこれ、ちょっと来てください」って声がしました。
ベランダに出てみると、室外機の外面が外されていて、
修理の人が右端の隙間を指さしてました。

見るとそこに、綿ボコリに覆われた15cmくらいの細長いものが縦にはまっていて、
その上に、種類のわからない茎のない3cmばかりの白いキノコが、
上下3つ生えてたんだそうです。
修理の人がキノコの生えたホコリだらけの棒を工具でこじると、
それは簡単に外れてベランダの床に落ちたんですが、
骨、だったんです。もちろん人間のではなくて、おそらく猫の前足。
骨はすっかり乾いていて、切断部分は刃物で切ったように平らだったそうです。
まあこれだけの話なんですが、動物の骨なら犯罪性もないでしょうし、
骨は修理の人たちに頼んで捨ててもらったということでした。
その女性は「猫の声を聞いたとか、夢を見たことは一度もない。動物好きじゃないし。
 ただ、料理なんかで何度か手をケガしたことはあるけど、
 それは私が下手なせいで、単なる偶然だと思う」そう言ってました。

赤い色

これも霊能のある人が出てくる話で、業界の仲間ではなく、
自分の高校時代の友人です。大学は別々だったんですが、
帰省のときの飲み会でこの話を聞きました。
この友人は3年前、まだ若くして心臓病の手術中に亡くなっています。
友人が小学生時代、地域の伝統行事の獅子舞だか鹿踊りだかをやらされたそうです。
夏休みが踊りの練習でつぶされるので嫌だったって言ってました。
体にえんじ色の風呂敷のような布をまとい、
木を彫ったかしらを被って、一人一体で並んで踊るものだったそうです。
練習中は特に何事もなかったんですが、
夏祭りの当日、演台に出てお囃子に合わせて踊っていると、
世話役の一人が観客席の前列で立ち上がったのが見えた。

被り物の口から外が覗けるようになってるんですね。
その人は祭りの法被を着て、その下に白いさらしを巻いてたんですが、
被り物の口を通してみたとき、
さらしと下穿きにべっとりと赤い色がついていたそうです。
血だとは思わなかった、と言ってましたね。
それよりもずっと鮮やかな赤だったそうです。
そのときは「ペンキでもつけたんだろうか」
くらいにしか思わなかったそうですが、
踊りが終わって汗だらけになってる楽屋へ、
その人がジュースを持ってきてくれたときには、
赤い色はまったく見えなくなっていました。

・・・普通の人なら、単なる見間違いと思うんでしょうが、
友人はこの手のことを何度も経験していたので、
ためしにもう一度、被り物をつけてみたそうです。
すると、その口から見ると、やっぱり世話役の人の胸から腹にかけて、
べったりと赤い色がついている。
友人の話だと、赤というのは一番よくない色で、
人の恨みみたいなものを表しているということでした。
赤からオレンジ、黄色はあまりよくなくて、青系はセーフ。
聞いたとき、なんか信号機みたいだなと考えて、印象に残ってるんですね。
その世話役の人は、学校の購買に文具を搬入している業者の社長で、
まだ40代だったんですが、夏休みが終わるころに入院して、

それから1か月くらいして内臓の病気で他界したそうです。
これを聞いたとき、地元の友人らは「俺らに何か見えるか」とか、
半分冷やかし気味に聞いたんですが、
「特に何も感じないよ」って言ってたと思います。
その友人らの訃報は聞いてませんので、
あの中ではそいつが一番早く亡くなった、ということになるわけです。
自分のことというのは、わからないものなんでしょうか。








骨団子

2015.03.12 (Thu)
今、仕事してないんですよ。人員整理にかかったとかじゃなく、むしろ逆です。
ヘッドハンティングにあいましてね、同業他社に移籍することになったんです。
それで、ほとぼりを冷ましながら休養してるとこです。
でね、この間、妻の親戚の法事に出かけまして。
私、一人だけです。妻は仕事が忙しかったですし、
それよりも、女が行っても役に立たないって言いましてね。
基本、男しか出られないそうなんです。いや、正直ウザいなあと思いました。
通夜から葬式、火葬まで1週間近く泊りがけなわけですからね。
で、行きたくないって言ったら妻から烈火のごとくに怒られましたよ。
そんなにヒマそうにして、毎日ネットばっかりやってるのになによ って。
どうしようもないので出かけました。

それは遠い親戚とはいえ人が亡くなってるわけだし、
妻が行くにしても私も当然いっしょってことになりますから。
亡くなった方は男性で、まだ50代ってことでした。
死因? それがよくわからないんです。妻も教えてもられなかったそうで、
ただ急な病気でってことだけでした。特に入院とかしてたわけじゃないようですよ。
え? 自殺ですか。うーん、それも考えなかったわけじゃない。
通夜はともかく、葬式も親戚ばっかりで、外部の人は来てなかったですから。
どうやら故人は一人暮らしで、家族はなかったようです。
密葬ってことでもなかったですけど、だって仕事してりゃ普通、
同僚や上司が来るもんじゃないですか。ところがそういうのも一切なしで。
行った先は辺鄙な田舎の県の町です。

鉄道は通ってましたけど、店なんかも駅前にちょこっとしかなかったです。
私の宿泊先ですか。妻の本家というお宅に滞在させていただきました。
広いお屋敷で、映画の『八つ墓村』ってあったでしょう。
あれに出てくる屋敷を何分の一かにしたような感じで、
その一室で寝起きしてました。ええ、向こうに着いたその日がお通夜でしたね。
菩提寺の、本堂じゃなかったですけど、一室にご遺体を安置して、
その前で飲み食いして夜を明かすんです。これがね、妻の親戚の男だけ十数人。
女衆もいましたけど、料理なんかを持ち寄って宴の支度をこしらえたら、
みな帰っちゃったんです。ああ、妻が言ってた「女は役に立たない」
ってのはこれのことかって思いました。でね、坊主が枕経をあげて引っ込んでから、
すぐ宴になりました。

私の結婚式に来ていただいて顔を見知ってる人も数人いたので、
その人たちと杯をやりとりしてたんです。
そしたら、30分ほどして、一人のジイさんが立ち上がりまして、
「○○(これは亡くなった方の名前です)はよう生きた。そしてよう死んだ。
 見事な人生であった」みたいなことを言いだしたんです。
酔っぱらってるのかなと思ったんですが、
それほどお銚の数も出てないし、真顔でした。
すぐ続いて、妻の従弟の人が「そのとおり」と大声で合づちを打ちました。
「あれほど見事な人生はないな。心残りなんて一つもないはずだ。
 まさによく生きて、よく死んだ。人の手本になる生涯だった」
こう叫ぶように言うと、みなが「そうだ、そうだ」と声をそろえて唱和したんです。

ねえ、さすがに変だと思うでしょ。
でも、何かその地方に伝わる独特の作法かと思って、
黙って見てたんです。主席者が一人ずつ立ち上がって「○○は死んだ、確かに死んだ」
「心残りはないよな、ああいうふうに生きれば」
「いい死に方だった。俺もあやかりたい」こんなことを口々に言い始めたんです。
そうですね、聞いていると、まるでその人が死んだことを確認している、
というか、確かに死んだんだぞって言い聞かせてる感じでもありました。
いや、私はやりませんでしたよ。なんというか、部外者のようなもんですから。
ひととおりこの儀式?が済むと、最初に立った長老格の老人がまた立ち上がり、
個人の棺に歩み寄っていきました。ええ、白木造りで、
顔が覗けるフタがついてるやつです。そのフタを開けて上から屈みこむと、

さっきよりいっそうの大声を出して、
「○○、お前は死んだんだぞ。心得違いをするなよ。
 死んだもんは死んだままでいとけ」こう怒鳴りつけるような勢いで言ったんです。
それから次々に人が立ち上がって、同じような内容のことを言いました。
でね、これも呆然と見ていたんですが、
妻の従弟に脇をつつかれ「あんたもやれ」って言われたんです。
・・・やりましたよ。見よう見まねでね、断れるような雰囲気じゃなかったです。
他の人のように声を張り上げたりはできませんでしたけど。
全員が終わると、一座にほっとしたような空気が流れました。
それを察してか、たしなめるように例の長老のジイさんが、
「まだ、まだ油断すんな。葬式が終わるまでは油断ならん」

出席者の顔をねめまわしながら、そう言ったんです。
でも、こっからは普通の通夜みたくなりまして、世間話も出ました。
5時ころ、少し明るくなってきたところでお開きになり、
迎えに来た女衆の車で、本家のお屋敷に帰って寝たんです。
2日後が葬式でした。これも同じ寺の本堂でやったんですが、
女衆も出ていましたが、基本的に参会者は親戚だけだったんです。
異様な緊張感がありましたよ。これは坊主も同じでした。
喪主のあいさつなどもなく、ただ長い長い経を坊主3人で読んで、
一人ひとりご焼香するだけでした。時間はそれでも2時間近くなりましたね。
で、全部が済むと、緊張していた皆の顔に笑顔が戻りまして、
「いや、よかった、骨団子を食ったって聞いたときはどうなることかと思ったが」

こんな声が聞こえてきたんです。私は長時間正座して、足がしびれてましたので、
外の庭に出てのびをしてました。
ちょうどそこへ妻の従弟が出てきましたんで、声をひそめて、
「さっき葬式が終わったときに、骨団子がどうとかって聞こえたけど、何のこと?」
って聞いてみたんです。
従弟はイタズラを見つかった子供のような表情をちらと見せましたが、
「俺が言ったって広めないでくれよ」こうことわってから、
「骨団子ってのは、俺らの一族に伝わるまじないみたいなもんなんだ。
 亡くなった○○は不遇でね。もしかしたら親戚一同を恨んで、
 骨団子を食ったかもしれない。それで通夜の席であんなことをしたんだよ。
 不思議だと思ったろうが、またあることかもしれないしな」

「うーん、で、骨団子というのは?」さらにしつこく聞くと、
従弟は顔をしかめ、「それは言えない、さすがに勘弁してくれ。
 ・・・俺が子供のときにも、実は骨団子を食らって死んだって人がいたんだが、
 そんときは葬式の前後に親戚中で七人、死人が出た」こう答えたんです。
その地域では葬式の後が火葬ということで、
火葬場には葬式に顔を見せなかった親族以外の人も来て、
なごやかに、というのも変ですが、晴れ晴れした感じで終わったんです。
遺骨の灰の台車が引き出されてきましたが、
火葬の火力が強かったのか、ほとんど骨は残ってませんでした。
形だけ灰を骨壺に入れながら、あの長老が、
「よしよし成仏した」こう言ってました。

『骨団子』








幽霊を攻撃する

2015.03.11 (Wed)
これは海外のドッキリカメラを見れば、何人かに一人の割合で、
幽霊(の恰好をした演技者)を攻撃しようとする人がいます。
日本のこの手の番組は、昔はともかく、
現在は騙される人も、あらかじめ台本のある演技者であることが多いので、
あまり参考にはなりません。
生存を脅かすものに対する危機回避の手段として、
逃げる、という反応になるのか、積極的な危険の排除、つまり攻撃になるか、
これは個人差があるようです。
この個人差は、別に危機においてだけではなく、
日頃どう行動するかというその人の処世の方向ともかかわっているんでしょう。



これは有名なやつですが、最後の女の人はパニック状態でね
自分から女の子に近づいていっています。スタッフが出てこなかったら、
ふっとばされていたかもしれませんね。
あと、掃除のカートを押したオバサンは絵になるというか、
ホラー映画の1シーンに出てきてもいいような感じがします。



ホテルの廊下よりさらに逃げ場のないエレベーター内の空間では、
危機回避のために攻撃性をむき出しにする人も多いでしょう。
最後のはやらせと思いたいですが、
マジで前蹴りと踏みつけを入れられたのだとしたら気の毒です。



これは、やらせというよりギャグなのでしょうが、
オチが楽しいので好きです。

やはり、幽霊(的な白い服、黒髪で顔のはっきり見えない女性)に出会うと、
それが親和的な存在と考える人はほとんどいないようです。
この恐怖が、映画などからの影響か、
それとも本能的なものであるかはちょっとわかりません。
広い開放的な場所より、より閉鎖的な状況のほうが、逃げ場がないため、
恐怖を感じる度合いが強いようです。
幽霊から離れようとするか、逆に近づいていくかは人によるようですね。

自分は幽霊もの(scary candid)に限らず、
海外のドッキリカメラが好きでよく見ますが、気に入ってるのは、
「just for laughs」というカナダで作ってるやつで、
ユーモアのセンスがなかなかいいです。
興味のある方はyoutubeで検索してみてください。






叔父さんの話2

2015.03.10 (Tue)
今回は、俺が子供の頃、叔父さんと山に行ったときの話をすします。
登山じゃなく、渓流釣りがメインだったけど、
キノコ採りや山菜採りもやった。小学校高学年の頃が一番多かったです。
叔父さんはどうしてかずっと独身なので、
自分の息子みたいにして可愛がってもらいました。

九字

そんときは確か秋のキノコ採りだったと思いますけど。行った先は秩父のほうでした。
叔父さんの車に乗せてもらって、オートキャンプ場をベースに林に入っていきました。
登山道から外れた山の中腹、
やっと踏み跡がわかる程度の道を叔父さんの後についていくと、
なんとなく視線を感じたんです。後ろから誰かに見られてるみたいな。
振り返っても何もないんです。でも、道を曲がってしばらくは視線を意識しないけど、
直線に出ると見られてるような気がしてしかたがなかったんです。
でも、街にいるときに、そんなに人の視線に敏感なほうでもなかったですし、
笑われるのを承知で叔父さんに言うと、
叔父さんは、「うーん、そうか? 何かいるかな」
こう言って、右手の人差し指を口にくわえて唾で濡らし、それを高く頭上に立てたんです。

「何やってるの?」って尋ねたら、
「ああ、これか。テレビでやってる鬼太郎の妖怪アンテナみたいなもんだ。
 鬼太郎の場合は髪の毛だけど、指を唾で湿すと、わかりやすいんだよ」
こう言って、しばらく指の向きを変えたりしてましたけど、
「ああ、いるいる。でも、たいしたもんじゃない。
 こういう山ならどこにでもいるやつだよ。
 鹿とか野生動物がいるのと変わらない。気にしなくていい」
それでも気になったので「どんなやつなの?」って聞いたら、
「じゃあ、ちょっとかわいそうだけど、九字切りをやってみせるか」
「くじきり、って?」
叔父さんはちょっと真顔になって、こんなふうに説明してくれました。

「呪文みたいなものなんだ。これは密教からきてるのかな。
 正式には『 臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前 』という呪文を、
 両手で1字ごとに違う印を作りながら唱えるんだけど、それは難しいし時間がかかる。
 それに肝心なのは、これだと高級な魔物にしか通じないってことだ。
 それよりも『四縦五横』ってののほうが、程度の低い妖怪には効くんだ。
 あそこの藪に隠れて、こっちを覗ってるみたいだから、
 今やってみせる。要領を覚えておくんだよ」
右手の指をくっつけて手刀を作り、藪の方角に向けて気合を込め、
前面の空中に縦に4本、それに重なるようにして横に5本、
線を引くように空中を切ったんです。
すると、藪の中から何かがぴょーんと跳び上がりました。

サッカーボールくらいの頭に大きな一つ目、
その下は巨大な一本足で両手は短かったです。
それはびょんびょん跳ねて、崖から藪の斜面に落ちていきました。 
叔父さんは笑って「やっぱり一つ目か。このあたりの山には多いんだよ。
 あいつ目が一つしかないだろ。だから目が2つある人間を怖がって、
 悪さは自分からはしてこない。さらに四縦五横をやったからね。
 これを空中に書くと格子窓がたくさんできるだろ。
 それを籠目(かごめ)とも言って、やつから見れば目が10も20もある怪物に見える。
 昔から笊(ざる)や籠を魔除けに使うのは、あちこちにあるんだ。
 だからああやって跳び上がるほど驚いて逃げてった」
「こっちが驚いた。あんなのが本当にいるんだ!」

「いやあ、普通の人には見えないんだが、
 ○○はちょっとばかし素質があるんで実体化して見えたんだろ。
 たぶん亡くなった姉さんから受け継いだもんだろうね」
「あの空を切るのは、どういう順番でもいいの?」
「本来の密教だと順番はあるけど、目がたくさんあるように見えればいいんだから、
 そう気にしなくていい。野犬をにらみつけるくらいの気合は必要だよ」
こんなふうに言ってました。
そうですね、この後、山には何度も入りましたが、見たことはないです。
気配を感じたことはありますけど。
悪いものじゃないとわかったんので、四縦五横もやったことはありませんよ。
なんだか可哀そうな気もして。

呼名

これも子供の頃に叔父さんと山へ行ったときの話ですよ。
そんときは春で、渓流釣りでした。キャンプの道具を背負って、
川を遡っていったんです。まだ少し寒かったけど、天気がよかったのを覚えてます。
河原を歩いてると、叔父さんが、
「うーん、妙な気を感じるなあ」って言い出したんです。
一つ目の妖怪の後のことでしたので、これもその手のことだとピーンときて、
「また、一本だたらとかいうやつかな?」って聞きました。そしたら、叔父さんは、
「あれより気が強いな。もう少し強いやつかもしれん」って言い出しました。
「どうしてわかるの?」
「まだ聞こえないかもしれないけど、名前を呼んでる気がするんだ」
「誰の?」叔父さんは、あごをしゃくって俺のほうを指したんです。

「いいかい、もし名前を呼ぶ声を聴いても、ぜったいに返事しちゃいけないよ」
「どうして?」
「取り込まれる可能性があるんだ。名前ってのはまじないがかかりやすいんだよ。
 だから昔の人は本名をあんまり人に明かさないようにして、
 たくさん呼び名を持ってたんだ」 「どういうこと?」
「うん、そうだなあ。例えば、坂本竜馬だとすれば、竜馬というのは通称なんだ。
 本当の名前は諱(いみな)と言って呼ぶのを避けられてた。
 叔父さんも詳しくは知らないけど、確か直柔(なおなり)って言ったんじゃなかったっけ。
 その他に、ある程度 位のある武士だと役の名前、
 越前守とか左衛門丞(さえもんのじょう)そんなので呼ばれることが多かった。
 まあこれは、呪いをかけられるからではなかったけどね」 「ふーん」

「だから、今からもし名前を呼ぶ声が聞こえたとしても、返事をしちゃいけないよ」
「もし、返事をしちゃうとどうなるん?」
「取られてしまうかもしれないよ。そして山の中の荒れ果てたお社とか祠に連れてかれて」
「うわ!」それを聞くとすごく怖くなってきたんです。
「でも、どうして僕の名前知ってるのかな?」
「それは・・・」叔父さんは僕の後ろに回り、「ああ、やっぱり」って言いました。
続けて「これ新しいリュックだろ。後ろにでかでかと名前が書いてある。
 お父さんが書いてくれたんだろうけど、山じゃこういうのはあんまりよくない。
 妖怪が名前覚えちゃうからね」
「こないだの四縦五横は効かないの?」
「いや、効くとは思うけど、ちょっと虚をついてやらないとね」

「虚?」 「うん、妖怪のあてが外れて呆然としたところにかけるんだよ」
それから叔父さんは、ひそひそ話の声になって、
「今から名前を助春って呼ぶから、返事しろよ」こう言いました。
助春ってのは俺の本名と響きは似てるんだけど、違うんです。
叔父さんはわざとらしく「助春、もう1時間で淵に出るぞ」こう大声で言ったんで、
俺もわざとらしく「ハイ」ってでっかく返事したんです。
何度も呼ばれては返事する、というのをくり返しながら進んでいくと、
大きな滝に出ました。
「助春、これは回らなくちゃいかんな」 「ハイ、おじさん」
そして叔父さんは大岩の横の土になったところを登り始めました。
俺も後に続いて、真ん中へんまできたときです。

大岩の陰から「ス・ケ・ハ・ル」って呼ぶ声が聞こえたんです。
叔父さんが小声で「返事しろ」って言ったので、「ハーイ」って大声で叫びました。
すると、しゅーしゅーと音を立てて、岩の陰から大きな蛇が出てきたんです。
頭には藻みたいな毛がいっぱい生えた、大人の腿くらいの太さの蛇でした。
しっぽのほうは岩の陰になってて、どのくらいの長さかわからなかったです。
すでに上に立ってた叔父さんが、蛇の頭に向かって四縦五横を素早く切りました。
それを見たのか、蛇はぐらっと傾き、
体をよじってなんとか体勢を立て直そうとしましたが、
そのまま滝つぼにどぶんと落ちて流されていったんですよ。
叔父さんは「ハハハ」と笑って、「あの蛇もリュックに書いてあった名前と混乱しただろう。
 だからよく効いた」こう言いましたよ。

関連記事 『叔父さんの話』

『九字 四縦五横』


『一本だたら』







叔父さんの話

2015.03.09 (Mon)

俺の叔父さんの話です。亡くなった母の弟なんですが、霊能があるんです。
もちろんプロの霊能者ってことじゃなくて、仕事はヘリの操縦士です。
といっても、自分で空を飛ぶわけじゃなく、リモコンヘリです。
ほら、農薬を散布したり、カメラを積んで空中撮影したりするやつです。
母は4年前に病気で亡くなったんですが、それ以後もちょくちょく遊びに来て、
奇妙なものを持ってきてくれたり、不思議な話を聞かせてくれたりします。

逆木

叔父さんが、山へ仕事で行ってて、その帰りに家に寄りました。
「ほら、いいもの見つけたから、おみやげ」こう言ってくれたのが、
何の変哲もない15cmほどの木の枝でした。
木の皮がむけ、つるっと白く表面が光ってて、
生木と枯枝の中間って感じで軽かったです。「これ、何ですか?」って聞くと、
「ただの小枝みたいだけど、けっこう珍しいもんだ。
 猿が首を吊った枝の先のほうをちょっと折って持ってきた」
「えー、猿が首を吊るって、そんなことあるんですか?」
「嘘だよ」・・・まあ、こんなノリの人です。
「でも、珍しいのは本当さ。よく神社のご神木になる種類の木なんだけど、
 これは大木の脇の地面から一枝だけ上下逆さまに生えててね。珍しいし実際役に立つ」

「どんなふうにですか?」
「うん、いろんなことに使えるけど、例えば酒の味を良くするとか。
 日本酒、家に置いてる?」こう聞かれたんで、
「ふだん、俺も父も日本酒は飲まないんですが、料理酒ならあります」
「じゃあ、それでいいから、コップも2つ持ってきて」
透明プラスチック入りの安い料理酒を持ってくると、叔父さんはコップに注いで、
「まず最初に味見してみなよ」
もちろん料理酒ですから、美味いということはなかったです。
そしたら、木の枝をマドラーがわりにして、30秒くらいかきまぜ、
「これでいいだろ。飲んでみなよ、だまされたと思って」
そしたら、ほんとうにおいしくなってたんですよ。

一口含んだだけで違いがわかりました。
「うわ、これスゴイですね。売り出したら大儲けなんじゃないですか」
「いや、売り出すほどないし、それにこういうのって、
 あれこれ分析されるとよくないんだ」
「あれに似てますよね。ほら、車のガソリンタンクに入れると燃費がよくなる金属とか」
「あーでも、それは磁石とかだろうし、インチキも多いだろ。これとは違うよ」
「何の酒にでも効くんですか?」
「試したことはないけど、醸造酒だけじゃないかな。日本酒や洋酒ならワイン。
 焼酎とかウイスキーはほとんど効果ないんじゃないか」
こんなやりとりをしまして。
その小枝は3か月ほど家にあって、ずっと効果が続いてました。

親父は焼酎党だったんですが、日本酒を飲むようになりまして。
安い紙パックのお酒でも、かきまぜると匂いからして違ってきました。
いえ、今はないんです。あるとき、マンションのベランダの窓を開けてたら、
カラスとは違う小さい黒い鳥が入ってきて、
テーブルの上にあったのを咥えて持ってっちゃったんです。
うーん、たぶんこの小枝をねらってたんだと思いますよ。
楊枝立てに、スプーンや小さいフルーツのフォークと一緒にさしてたのが、
さっと、これだけを咥えていきましたからね。
さあねえ、巣でも作るのに使うんでしょうか。
叔父さんが来たときにそのことを話したら、
「ああ、その鳥も知ってるんだな。あの枝がいいもんだってこと」こう笑ってましたよ。

蛇石

うちの親父がJRを退職して、けっこうな額の退職金を手にし、
悠々自適の生活を始めました。まだ年金の支給が60歳からだった頃です。
暇をもてあまして、盆栽とか集め始めたんですが、
さらに石を買ってくるようになったんです。置物の石です。
川石に模様が浮き出たやつとか、水晶の結晶がくっついたやつとか、
そういうのを床の間に並べて磨いたりしてました。
その中に蛇石ってのもあったんです。
専門的なことはわからないんですが、緑色の石に白く蛇の形が浮き出したやつ。
蛇は、見ると目鼻や口もありましたから、
たぶん天然の模様を人工的に加工したものなんじゃないかと思います。
けっこう高かったはずです。

叔父さんがある日曜に来て、親父といっしょにそれらの石を見てたんです。
親父は自慢気でしたが、叔父さんは、
「石はねえ、イワナガ姫って知ってるかなあ。古事記に出てくる長寿の神様なんだけど、
 中には寿命に関係あるものがあるんですよ。
 たいがいは大丈夫だとは思いますが」
こんなふうに言って、蛇石を見ると、
「うーん、これ日本のものじゃないですね。輸入品かなあ。
 あんまりいいものじゃないんで、戻せたら戻したほうがいいです」
親父は気に入ってたので不満そうでしたね。そしたら叔父さんが、
「じゃあ、よくないっていう証拠を見せますよ。○○君電気消して」
俺に部屋の電燈を消させて、自分は窓のカーテンを引いたんです。

秋の午後のことでしたけど、部屋の中が薄暗くなりました。
叔父さんは蛇石を台座ごとテーブルに載せ、
その前に座って目を閉じました。そしてしばらく集中したあと、
口をすぼめてぽっと息を吐いたんです。
そしたら、口から薄く七色に輝く塊が出てきました。
それは湯気みたいな感じで、握りこぶしくらいでしたが、
虹の色だってことはわかりましたよ。シャボン玉みたいに蛇石の上に漂っていき、
まわりを衛星みたいに回ってたんですが、蛇の口のところにくると、
すっと消えたんです。まるで蛇が口を開けて飲み込んだみたいでしたが、
実際は石の蛇なんで、そう見えただけだと思います。
叔父さんはそれを感じたのか、目を開いて立ち上がり電気をつけました。

「今の見ましたか?」そう聞いて、父が、
「見た、見た、どうなってるんだ?」
「うん、ちょっとだけ生気を出してみたんです。そうね、寿命にすれば3日分くらい。
 ああ、でもすぐ回復するのでご心配なく。
 この蛇、それ食べちゃったでしょう。やっぱし置いとくのは危険ですね。
 普通の人は少しずつ寿命を取られちゃう。その分、石はつやつやになって」
親父はびっくりしましてね、さっそく返品しようとしましたが、
取引した会社と連宅がつかなかったんです。
電話で叔父さんに相談したら、「転売するのはダメだよね。壊せば一番いいだろうけど、
 それは手間がかかる。県内の一番大きい神社に奉納するのがいいんじゃないかな。
 宮司さんが年配の人なら、そういうのは慣れてるから」こんなアドバイスでした。

関連記事 『叔父さんの話2』

『蛇石』







隠れる

2015.03.08 (Sun)
どっから説明すればいいかよくわからないんですが。すごく入り組んだ話なんです。
とにかく近いとこから時間を逆にして話していきます。
昨日の土曜日、ネットをやろうと思ってパソコンに向かったんです。
うちはスマホ買ってもらえないけど、その分、自分の部屋でネットができるんです。
でね、パソコンを開いたら、メモ帳のアイコンがあったんですよ。
このノートパソコンは父のお下がりで、僕しか使ってないのに、
見覚えのないメモがデスクトップに保存されてたってことです。
「変だなあ」と思いながら開いてみました。
そしたらこんな内容が書かれてあったんです。
『○○通りのローソンの近くの橋のらんかんのぎぼしの下に貼ってあるお札を
 8日の午後3時を過ぎたら2枚はがす 必ず 必ず 必ず 必ず 必ず 中山から伝言』

わけがわかりませんでした。だって中山というやつに心当たりがなかったんです。
クラスにも、サッカー少年団にもそんな名字のやつはいなかったと思いました。
でも、気になる内容ですよね。「○○通りのローソンの近くの橋」というのは。
家の近所の人しか通れない橋なんです。
「ぎぼし」というのがよくわからなかったので、検索してみました。
これ「擬宝珠」って書いて、橋の欄干に取り付けてある、
タマネギのような飾りのことなんですね。それだったらわかります。その橋は木造で、
先がとがった飾りがついてて、よく通るときになでたりしていましたから。
「お札をはがす」というのはどういうことかわかりませんでしたが、
「必ず」という文字が5回くり返されているので大事なことなんだろうと考え、
行ってみることにしました。時間は3時を少し回ってましたし。

自転車だと5分もかかりません。旧道に架かった古い橋なんです。
そのときも、土曜日というせいもあってか、ほとんど通ってる人はいませんでした。
で、擬宝珠って4つあるんです。橋のこっち側に2つ、通った先にも2つ。
順番に回ってみました。そしたら、向こう側の両方の擬宝珠の丸くくびれた下のほうに、
細長い紙が貼られてあったんです。かがんで見ると、
墨で呪文のようなのが書かれてましたが、読めませんでした。
とにかくはがそうとしたんですが、かなりしっかり貼りついていて上手くいきませんでした。
それで、いったん家に戻り、ぞうきんを湿らせたのを持ってもう一度橋に行きました。
それで濡らして、しばらくすると端のほうが浮いてきたので、
べりっという感じではがしました。そのとき、変な感じがしたんです。
ほら、何かを思い出そうとして思い出せないときってありますよね。あんな感じです。

で、もう一方もはがしたんですが、それで思い出したんです。
何を? って、中山ってやつのことです。5年生で同じクラスで、ミニバスやってるやつ。
ええ、さっきは心当たりがないって言いましたが、ホントに記憶になかったんです。
それがお札を2枚ともはがした瞬間に、急に思い出したってことです。
それと、金曜日の夕方に中山に会ってるってこともです。
あれは5時過ぎくらいでした。スポ少の帰り、この橋を通りかかったとき、
中山が橋のたもとにいたんです。顔は知ってたので「よう」とか言いました。
中山はこっちを見て「あ、ちょっと待って。頼みがあるんだ」と言って僕を呼び止め、
「今、お札貼ってるんだ」って言いました。
見ると確かに手に細い紙を持ってたんです。「お札って何?」僕が聞くと、
「じいちゃんに言われたんだ。ここの丸いやつの下に貼ってこいって」そう答えました。

「何のためにそんなことするん?」
「詳しくは知らないけど、今晩何か悪いものが家に来るってじいちゃんは言ってた。
 それがこの橋を通るんで、俺の家がどこだかわからないようにするためのお札なんだよ」
意味がまったくわかりませんでしたが、中山がまだ言いたいことがある感じだったので、
チューブ糊でもう一枚を貼るのを見てました。
中山は「悪いけど、明日の午後の3時過ぎたら、このお札2枚ともはがしてくれないか。
 その時間だと、もう悪いやつはあきらめて帰ってるはずだって」
「いいけど、自分ではがすのはダメなん?」
「誰もはがす人がいなかったら、俺がはがしにくるけど、悪いやつに見られるかもしれない」
「明日の午後は特に予定ないし、簡単なことだからいいよ」そう言うと、
中山はほっとしたような顔になって、

「ここ同級生か誰か通りかかったら頼もうと待ってたんだ。お前が来てくれてよかった。
 信用できるからな。あと、もう一つ。家に戻ったらメモに、
「明日の3時に橋の欄干のぎぼしの下のお札をはがす って書いておいてくれ」
「そんなの忘れないけどな。ところで・・・ぎぼしって何?」
「この丸いやつのことだよ。もともとはお地蔵様が手に乗せてる玉なんだ。
 それと必ずメモしてくれ。パソコンとかにでもいい。何でかっていうと、
 あと1時間もすれば、この町・・・というか、世界中の人が俺の一家の存在を忘れてしまう。
 最初から、この世にいなかったことになるんだ。
 そうじゃないと悪いやつに見つけられてしまうから」
「見つかったらどうなるの?」
「わからないけど、死ぬんじゃないかな。俺の一家全員」

こういうやりとりをしたことを思い出したんです。
はがしたお札は川に捨てるように言われたと思ったので、橋の中央から投げ捨てました。
お札はひらひらと舞って、少なくなった水の中に落ちました。
家に戻って部屋に入ろうとしたとき、母が、
「あ、あんた帰ったの。ちょうどよかった、中山くんから電話だよ」と言いました。
出てみると中山の声で「お札はがしてくれたんだな。助かった。
 もう少ししたら、自分ではがしに行こうかと思ってたとこだよ」
「あれ、本当だったんだな。お札はがすまでお前のことを完全に忘れてたぞ。
 それで悪いやつは行ってしまったん?」
「いや、悪いやつは、自分の仕事を果たせなかったから、もうすぐ死んでしまうらしい。
 あの橋を通れなかったから、あのあたりで死ぬんじゃないかな」

こんなことを言い、
「そうだ、明日、日曜でスポ少ないよな。いっしょにあの橋まで見に行ってみないか」
こう続けたんです。「すげえ、面白そうだな。あの橋で死んでるんか?」
「はっきりしないけど、たぶんあのあたり。そうだな9時に待合わせしないか」
それで、今日の9時前に橋まで行ってみたんです。
そしたら中山はもう来てて、橋の真ん中に立ってました。
僕に気づくと、手を振って、「おい、やっぱり死んでるぞ。川の中だ」と言いました。
駆け寄って見下ろすと、橋げたのとこに、40cmくらいの生き物がひっかかってました。
うつぶせになっていて、黄色っぽいカエルみたいでした。
「ザマミロ、死んじまった」中山がそう言って、持っていた大き目の石をぶつけました。
石はその生き物の肩のあたりにあたって、一瞬ぐるんと裏返って腹のほうが見えました。

そしたら、ちらっと見えた腹には、ごわごわした黒い毛が生えてたんです。
「うわ、気味悪いな。なんだよあれ。図鑑でも見たことない生物だよな」
「この世の生き物じゃないんだよ」
・・・こんな感じだったんですよ。
その生き物ですか、怖かったけど興味もあったので、
昼過ぎにもう一回一人で見にいったんです。
そのときには、もう沈んでしまったのか、見つけることができませんでした。








幽霊を捕獲する

2015.03.07 (Sat)
自分はオカルト分野の中ではUMA(未確認動物)が最も好きなんですが、
なかなかこの分野は話題がありません。いや、毎年のようにどこかの海岸に不気味な、
種の同定のしかねる生物遺体が流れ着いたという報告はあるんですが、
「専門機関による分析が待たれる」という決まり文句を残して、
情報が途絶えるということが繰り返されて・・・w
これは目撃証言や写真でも同じようなもんです。
まあ、もともと期待してはいないんですが・・・
自分がもし数億の金を手に入れることができれば(宝くじは買ってます)
大型漁船を購入して、世界のUMA目撃談がある海に出かけ、
巨大な針にマグロをつけてトローリングとかしてみたいと思ってます。
見事、首長竜や巨大海蛇がかかるでしょうか。

幽霊がいるかいないかの議論で、
「いない」の側は俗にいう悪魔の証明を強いられます。
世界にいくらあるかわからない心霊現象を、
すべて検証して説明することはできないからです。
もしできたとしても、その後も次々に心霊目撃談や写真、動画は現れてきますし、
これはきりがない。「いない」ことを原理的に証明すればいい、
と思われるかもしれませんが、
もし「いない」のなら、そこに原理はないわけですよね。

これに対し、「いる」側の証明はそれほど難しくないように思われます。
実物を一体捕獲すればいいわけですね。
捕獲し、いつでも見れるようにしておく。
そうすれば世間は幽霊があるものとして認めるでしょう。
もし霊能というものがあって、万人に見えるわけではないとしても、
たとえば100人に一人でも見えるのなら、
まず幽霊は実在ということに・・・なるでしょうか?

ここはけっこう難しいところですね。
幽霊談義ではよく「霊能者を事前の接触なしに有意な人数集めて、同じ場所、
心霊スポットなどを見てもらう。もし見えたものがあれば、
やはり互いに接触できない状態で証言をしてもらって、その結果をつきあわせる。」
という検証方法が提案されます。
確かに、証言を比較して同じものが見えているようであれば、
幽霊がいるという可能性は高まります。

しかし全員がもしバラバラの証言だったとしても、
幽霊はいないということにはならないでしょう。
なぜなら、全員がニセモノの霊能者かもしれないし、
もしかしたら幽霊はたくさんいて、
その中から霊能者の波長と合うものしか見えない、
という仕組みになってるのかもしれません。

写真やビデオでも同じことができそうですね。
やはり心霊スポットに大勢の人に事前に検証したカメラや、
ビデオカメラを持って入ってもらい、あちこちでカシャカシャ撮ってもらう。
1枚だけ撮れたとしてもスゴイはスゴイですが、
もし同じと思われるものが複数写っていれば、
それだけ信憑性が増すのではないでしょうか。
しかし、時間をおいて同じようなものが撮れた例はないわけではないですが、
同時に別の撮影者が同じものを写したという話は、
これまでほとんどないのです。

さて、話かわって、この間、御嶽山の噴火があり、多くの犠牲者が出てしまいました。
ご冥福をお祈りいたします。
このブログでたびたび登場する、自分が敬愛する西丸震哉氏は、
この御嶽山の賽の河原で、多数の人魂が乱舞するという光景を何度も目撃し、
著書に記載しています。それによると、
人魂はひじょうに薄い光で、大きさはコブシ大程度。
それが何百も空中を飛び回るのだそうです。

『近くへやって来たのを狙って捕虫網をサッと振ると一匹確かに入った、
と思ったら網の底から平気で抜け行ってしまった。
そこでテントの中から飯ごうを出して来て、
これで飛んで来るつの正面から進路はばんだ。
おどろいたことにやつは飯ごうの底を平気で抜けて行った。
まるで底が抜けているみたいに、
一瞬もやつの邪魔をしなかったようだ。
いささかヤケを起こして素手でたたきつけてみたら、手ごたえは全くないが、
やつは手のひらは抜け損なってはね返って行った。
手でつかもうとしても指の間が少しでもすいていれば、
スーッと洩れてしまうので全く始末の悪いものだ。(山とお化けと自然界)』

このような観察を経て、西丸氏は、
「人魂は無生物は通り抜けても、生物を抜けることはできない」と結論づけます。
そして、はんごうにイースト菌のような微生物を全面に塗りつければ、
人魂を捕獲できるのではないかと考察します。
まあ、人魂と幽霊がどのような関係にあるのか、という議論もあると考えられますが、
それはおいといて、この話は面白いなあと思います。
塗りつけるのは、単なる有機物(つまり毛皮とか木の皮とか)ではダメで、
あくまでも生命を持ったものでなくてはならないようです。
もしこの話が本当ならばw 少なくとも人魂は捕獲できる可能性があるかもしれません。
林などでは難しいでしょうが、上部の閉じた「さし網」のようなものを作って
表面に生物膜を張り、大勢で操作して、
捕獲作戦を展開するということができるかもしれませんw

最後に、前に書いたパソコンの不具合は回復せず、
新しいのを買うはめになってしまいました(泣)

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ウッドベース・マン

2015.03.06 (Fri)
小学校のときの話ですね。僕が4年生で、弟はまだ幼稚園だったと思います。
記憶があいまいなんですが、季節は秋だったと思います。
僕は弟と手をつないで、川原の土手を歩いてたんです。
そのとき、道の両側に枯れかけたススキがぼうぼうと生えていたと思うんです。
夕暮れでしたね。2人で公園ででも遊んだ帰りだったのか、
それとも弟を幼稚園まで迎えに行ったときのことか。
当時はそういうことがよくあった気がするんです。
その土手の道は今でもありますよ。
道路を通ってくるより近いんです。車も危なくないということで、
親もそのほうがいいって言ってましたし。
ただ、今はね、下の川原にホームレスのブルーシートの小屋がいくつもできて・・・

2人で歩いていると、ススキの切れ間から、土手から川原に続く斜面が見えたんです。
その部分はコンクリート護岸がされてて、ススキは生えないんですよ。
100mほど向こうのところに、奇妙なシルエットが見えました。
人が立ってて、その横に何か人ほどの大きなものがあるんです。
「兄ちゃん、あれなんだろう」と弟が聞きましたが、よくわかりませんでした。
それで、答えないまま進んでいくと、人の横のものの姿がだんだんにはっきりしてきて、
ひょうたん型をしてるのが見て取れました。僕は「ははあ」と思い、
「あれはウッドベースって言うんだよ」と教えました。
ダブルベース、コントラバスのことですね。小学校の吹奏楽で見たことがあったんです。
「きっと家だとうるさいから、ここで練習してるんだと思うよ」
でも、まだ離れているせいか音は聞こえてきませんでした。

近づいていきながら、優しそうな人だったら見せてもらおうかと思いました。
ところがだんだん距離が縮まるにつれ、「変だな」と思ったんです。
たしかに人のそばにあるものは、ウッドベースくらいの大きさと形なんですが、
見えている後ろがわに毛が生えてるみたいだったんです。
黒い太目の毛ですね。犬とかの動物が濡れて、毛が逆立ってるような感じでした。
それがすごく君が悪く見えたんです。
「あの楽器って、毛が生えてるの?」弟が聞いてきたので、
「さあ、違うかもしれないな」って答えました。
20mほどまで迫ると、学期だけじゃなく横の人のほうも変なことに気がつきました。
なんて言えばいいんでしょうね。マネキンとも違うし、
フカフカした質感で、空気人形とでも言えばいいか。

生きている人間じゃないんです。細長いビニール袋を組み合わせて人の形をつくり、
空気を入れたみたいな。
「しかして、見ないほうがいいものかな」そのときふっと思いました。
でも、目を離すことができませんでした。クチャクチャという音がしていたからです。
急に、毛の生えたウッドベースがぐるんと回って向きが反対になりました。
それにつれて、ビニール人間も振り回されるようにして倒れ、
やっぱり軽いものだってことがわかったんです。
こっちを向いたウッドベースはやはり毛が密生してて、ただし裏側と違って、
中央より下に穴がありました。
コンクリートブロックぐらいの大きさで、中は真っ黒だったんです。
穴の中にビニール人間の両方の足が入ってました。

クチャクチャという音はそこから出てたんです。
「あれ、生き物みたいだね。おもちゃの人間を食べてる」弟がそう言いました。
僕は弟とつないでいた手に力を込めて、行き過ぎようとしました。
真横に来たとき、もうビニール人間は腰のあたりまで飲み込まれてて、
子どもの落書きみたいな顔の部分から「ひょ~~」という音を出したんです。
それを聞いたのをきかっけに、僕は弟の手を握ったまま走り出しました。
なかば弟を引きずるようにして、橋のあるところまで駆けたんですよ。
そこまできて弟のほうを見ると、顔を真っ赤にして息をきらしてました。
振り向くと、ウッドベースもビニール人形もススキの陰になっていました。
そこから、普通の道のほうに出て遠回りして帰ったんです。
家では父親が帰ってて、夕食のしたくができていました。

それを食べながら、土手で見た不思議なものの話をしたんですが、
両親は首をかしげるだけでした。
次の日の夜です。僕は弟と2人で部屋にいました。
2人部屋だったんです。自分のベッドで漫画を見ていた弟が、
「ドンデデン、ドンデデンデン」って太い声で歌みたいなのを歌いだしました。
僕は宿題をしていたので、弟に「うるさいな、やめろよ」って言いました。
弟は少し黙りましたが、またすぐに「ドンデデデ、デデンドン」って・・・
「やめろって言ったよな。それに何だよその歌でもない変なやつ」
こう強めに言ったら、「きのう土手で聞いたでしょ。あの何とかいう楽器の音」
こんな返事をしたんで、「音なんて聞こえなかっただろ!
 気味悪いものを思い出させるな」怒ってしまいました。

すると弟は「ひょ~~」って声を出して漫画を放り出しました。
あのビニール人間が食べられてるときの音とそっくりでした。
「この! やめろって言ったのが・・・」
机から立ち上がってベッドに近づくと、ただ事でないのがわかりました。
弟は両手を中に浮かせ、何かをつかむような指の形を残したまま、
両目をかっと見開いて、口から泡を吹いていたんです。
揺さぶっても固まったままでした。「母さーん」叫びながら下へ降りて親に知らせました。
弟はそのまま救急車で運ばれたんですが、
病院に着いてすぐ死んでしまったんです。原因不明の心臓麻痺ということでした。
それ以来あの土手の道は通らなかったし、変なものも見てません。
今でもウッドベースというのは苦手です。







2015.03.05 (Thu)


学生時代のことだけど、同じサークルのダチ3人と飲みにいったんだ。
居酒屋からカラオケへ回ったが、
そんなグデグデに酔ってるってことはなかったはず。
時間もまだ終電前だったし。で、駅へ向かってぶらぶら歩いてる途中、
ダチの中の一人が舗道で急に立ち止まった。
んで、「えーなんですか? 聞こえません」って大きな声で怒鳴ったんだ。
「おま、何やってる?」って見たら、両方の手のひらをメガホンみたく右耳にあてて、
少ししゃがんだようになって「えー?、聞こえません」ってまたでかい声出した。
そんときは何かの冗談、ふざけてるんだと思ったけどな。
だから、「いいから、くだらねえことやってねえで行くぞ」
「電車、間に合わなくなってしまうぞ」こんなふうに口々に言った。

そしたらそいつは雨あがりでまだ濡れてる舗道に横になって、
右耳を上に向けて「はー、聞こえました。はい、了解しました!」
こう叫ぶとぴょんと飛び起きたんだ。で、ガードレールを乗り越えて、
ダッシュして車道を向こうへ横断した。いや、時間が時間だから車は通ってなかったけど。
「おい、待てよ」何をするのか見てたら、
向こうの舗道をコート来たサラリーマンらしき人が通りかかったんだよ。
で、その人に体当たりするみたいにして、突き飛ばした。
ちょうど自販機が4つ5つ並んでるとこで、
サラリーマンは不意をつかれた形になって、自販機にドンとぶつかって、
その下にへたり込んだんだ。「あ、やべえ」こう思って、
俺ら全員で車道を走って横切った。

向こうに着いたときには、そいつはサラリーマンの横の自販機に手をかけて、
サラリーマンに向けて倒そうとしてたんだ。ところが重いせいで倒れない。
一人がそいつを羽交い絞めにして、俺がサラリーマンの手を引っ張って立たせ、
そいつから離れたとこまで連れてった。
「申しわけありません」って連呼しながらな。
そうしてるうちに暴れたやつは静かになり、羽交い絞めされたまま体の力が抜けてた。
俺らは「おケガありませんか?」「すいませんでした」って、
とにかくサラリーマンに対して平謝りした。
サラリーマンはコートは汚れてたけど、ケガはなかったみたいだったが、
警察呼ばれてもしかたないと思ってたら、
「何ですかあんたたち、酔ってるの? ほどほどにしなさいよ」

こうオカマみたいな口調で言って、立ち去ろうとしたんだ。
ラッキーって思った。警察呼ばれりゃ、ケガはなくても問題になるし。
そのサラリーマンは40代くらいで、顔とかはオカマって感じはしなかったけどな。
その人が歩き去るのを、俺ともう一人のやつが「すみませんでした」って、
頭を下げて見送ったんだよ。それから暴れたやつのとこへいったら、
もう一人のやつに襟首つかまれたまま、目を半眼にしてうつらうつらしてる。
それを見てカーッときて、ひっぱたいたんだよ。
そしたら「痛え? 何するんだ?」って目を開けたから、
「お前今、大暴れして知らない人を転ばせて、その上に自販機倒そうとしたんだぞ」
説明したら、黙り込んだ。それから、
「ああっ! そういえばそうだ。俺、何であんなことしたんだろ?」

こんな調子だったんで、こっちもバカ負けして、
たまたま通りかかったタクシーをつかまえて、そいつを乗せて帰したんだよ。
で、それから2日してそいつと大学で会ったんで、そのときの話をしたら、
「後になって思い出した。俺、見ず知らずの人をケガさせようとしたんだよな。
 お前らが止めてくれたから大事にならなかったけど・・・」
ここで少し言いよどんで、「でもよ、俺、後悔してる感じがあるんだよ。
 いや、あのときなんで、サラリーマンの顔とか踏んつなけなかったのかって」
こんなことを言ったんで、それ以後そいつとつき合わないようにしたんだ。
でな、2年後。俺らはもう大学卒業してたんだが、新聞テレビで、
介護士が老人を何人も虐待して、中にはそれが原因で亡くなった人もいるって報道された。
顔写真も出てたけど、それが、あんときのサラリーマンだと思ったんだよ。
虐待が始まったのが、ちょうどその2年前ってことだった。



中1のとき。ちょうどコックリさんが流行って、禁止されたばっかりのことだった。
でもやってたんだよ。放課後の空き教室とかでちょっと。
道具は紙に「あいうえお」書いたやつを作ってあれば、あとは10円玉一枚でできるし。
でも、信じてるってわけでもなかったな。
みんなが自分らの意思で10円玉を動かしてるんだと思ってた。
だってよ、期待通りっていうか、いかにもガキが考えそうな内容しか出てこなかったし。
で、ある日、放課後の部活が終わった後、
理科室で男だけ4人でこっくりさんをやったんだよ。
まあ暗いと思うだろうが、俺ら生物部だったしな。
たしかに明るくてモテるやつはいなかった。
さいしょにこっくりさんを呼び出して、名前を尋ねたんだ。

したら、いつもならツルツル動くはずの10円玉が固まってしまって、
のりで紙にくっつけたように動かなくなった。
でな、仲間の一人が手を話して急に床に寝転がったんだ。
それで片方の耳に両手をあててパラボラアンテナみたくして、
「はい? なんですか? 聞こえません。はい? もっと大きな声で・・・
 ああ、はいはい、了解しましたー」って言ったんだ。
ふざけてるかとも思ったが、ふだんはそういうノリのやつじゃないんだ。
りょんと飛び上がるようにして立ち上がり、
「うわー」と叫びながら理科室の外に飛び出していった。
もちろん追いかけたよ。そいつは階段を駆け下り、
内ズックを履き替えもしないで外に出てったんで、俺らも後を追った。

したら、グランドに行って中に入り込み、
陸上の幅跳びの練習してた男の生徒に飛び蹴りをかましたんだ。
でも高さが足りなくて腰のあたりに当たり、たいしたダメージはなさそうだった。
そいつはびっくりした顔をしてたが、仲間がなおもつかみかかってくるんで、
もみ合いになった。そこへ俺らが追いついて、なんとか引きはがしたんだ。
ちょうど教師が見てないとこだったんで、
俺らは「すまん、すまん」とか言いながら、そいつを抱えて校舎へ連れてったんだ。
そいつはそのときにはもうほとんど普通に戻ってて、
「あれ、俺なんで外に出たんだ」とか言ってたよ。
飛び蹴りをうけた陸上部のやつは、その4月に別の小学校から来たやつで、
体がでかかった。だからあのままケンカになれば、仲間のほうが圧倒的にやられたと思う。

で、その後は特に何もなかったというか、
3学期になると陸上部のやつは、ずっと離れた大都市の学校に転校して行ったんだよ。
後になって、仲間のやつに「あのとき何であんなことをしたんだ?」って聞いたら、
「こっくりさんをやってたら、耳元で声が聞こえたんだ。
 幼稚園児がそろって歌ってるような声で、歌詞がよく聞き取れなかった。
 そのうちに倒れてしまって、そしたら内容が理解できたんだ。
 ○○をこの世の外に出しなさい、みたいな意味のことを言ってた。
 そっから先はお前らも知ってるとおりだ」○○ってのが陸上部のやつだよ。
それからずーっと何もなくて、俺らは全員別の高校へ行って10年以上過ぎた。
それで、こないだ通り魔の事件があっただろ。あの犯人の名前、聞き覚えがあるなと思って、
あれこれ考えたら、その中学のときの陸上部のやつだったんだよ。

同姓同名だったし、写真を見ても間違いないって気がした。
・・・まあ、ここまでなら偶然で片づけられるかもしれないが・・・
被害者の一人の女性が、生物部のときに、
こっくりさんやって外へ飛び出してったやつの奥さんだったんだ。
これはちゃんと確かめてるから間違いない。
なあ、前の人のと似てる不可思議な話だろ。「この世の外へ出す」って言ったんだよ。
もし、あんときそうなってれば、この事件は起きなかっただろうけど、
あいつだって少年院とか精神病院とかに行くだろうし、
そうすれば亡くなった奥さんと、おそらく結婚してないんじやないかと思うんだ。
それともそうじゃないのかな。あと、子どものコーラスみたいなのって何なんだろ?
だって神様とかなら、自分でこの世を自由にできるだろうし、ねえ?








ナンセンス話の反応

2015.03.04 (Wed)
昔は怖い話も、ナンセンス話も某巨大掲示板に書いていたのですが、
最近は怖い話はこのブログに載せるので、ナンセンス話しか投稿しなくなりました。
それもできるだけ「まとめサイト」に転載されにくい内容のものをです。
この話もそういう類だったんですが、案に相違して転載されてしまいました。
(差別用語が出てきます)

はーすっぽん

昨日の夜、夢を見たんだよ。自分の布団に寝てて、枕元に女が立ってる夢。
だからほんとうは見えないはずなのに女の姿が見えたんだ。
そいつは40くらいで、ひっつめ髪に小さい眼鏡をかけて醜かった。
で、しかも驚いたことに、ふんどし一丁の裸だったんだ。
手にすっぽんを持ってたんだよ。・・・すっぽんといってもカメの一種じゃなくて、
あのトイレの詰まりを直すための棒の先に吸盤がついたやつ。
あれを俺の頭頂部に当てて「すっぽん、すっぽん、はーすっぽん」って言いながら、
何度も何度も俺の頭をそれで引っぱるんだ。俺はハゲてるからやりやすいんだよ。
そういう夢を朝に目が覚める直前まで見てたんだ。
女はもちろん知らない顔だよ。

変な夢見たなあと思いながら会社に行って、6時頃に帰ってきたら、
客が来てるみたいだった。居間に行ってあいさつしようと思ったら、
服は着てたけど朝夢で見たのとまったく同じ女だったんだ。
女は俺の母親と話していたが、俺の顔を見ると立ち上がって、
「こういうものがあるからよくないんです」そういうと、
仏壇のほうに行って、相撲とるみたいにして仏壇に組み合い、
「ふん、仏壇返し」そういって本当に仏壇をひっくり返したんだよ。
俺と母親が呆然としてると、女は俺の前に来て、
「あれ、ないと思ってるんだろ。今、車から取ってくるからな」
そういって走り出ていった。

「母さん、なにあいつ」って聞いてたら、
「ほーら」便所すっぽんを持ってまた入っきて、「若ハゲにはすっぽん」
そう叫んで、俺の頭にすっぽんしようとしたんだよ。
でも、こっちは立ってるし背が高いからうまくできない。
「あんた何なんですか、人の家の仏壇にこんなことして。しかもハゲとか失礼だろ」
こう怒ったら「ふん、また夢でやってやるからな」そういい残して逃げてったんだ。
母親に聞いたら「お前が来るまで保険の話をしてたから保険屋さんだと思ってたんだけどね」
ということだった。しかたなく仏壇を立てて、散らばった灰をかたづけたりしたんだ。
警察に連絡すればいいのかな。
もしまた夢に出てきたらどうすればいいんだろう。

これは「恐怖体験」というまとめサイトに転載されて、
そこでいくつかコメントがついていたので、引用させてもらいます。

1. 恐怖…体験…?
2. 初対面のセールスの人を家に上げちゃうお母さんが怖い
3. もう、こういうの、マジいいから…
4. いや、怖いぞこれ
5. 見事に基地外 俺は好き
6. 楽しい。 違うバージョンも作ってほしい。
7. 最近レベル低いのが多すぎ
8. 愛されてロングセラー
9. 今年一番笑った。ありがとうございました。
10. 日常とかいう漫画のノリ

見てのとおり、ウケたりウケなかったりしているのがよくわかると思います。
1の人は、怖い話だと思って期待してみたらこの内容だったので、
まとめサイトの方針を疑ってる感じですね。
3の人は、実話だと思って読んだら、完全な創作だったので嘆いてるようです。
7の人はどうなんでしょうね。怖い話と思って読まれたのか、
ちょっとよくわからないです。
5、6、9の人には趣旨をわかっていただけたようです。
もちろん趣旨は、読む人にキチガイじみた読後感を持っていただくこと。
最後の10で出てくる『日常』というのは、
あらゐけいいちさんの不条理ギャグマンガだと思いますが、
たしかに雰囲気が近いかもしれません。

話の組み立ては、自分の怖い話の場合とそんなに変わらないです。
まず、最初夢に出てくる「すっぽん女」は、主人公と何の因縁もないように見えます。
実際はあるのに主人公が覚えてないだけかもしれませんが。
見ず知らずの人のハゲた頭を、便所すっぽん(ラバーカップ)
という意表をつく道具でなぶるのはなぜか、そこがまずよくわかりません。
さらに、夢だけならもともと不条理な部分が多いものですが、
その女は現実のほうへも侵入してくる。

しかも、始めは普通にふるまっていたのが、主人公を見ると正体を現して、
仏壇をひっくり返すという非常識な行動に出る。
さらに主人公に向かって、また夢に出ることを宣言します。
ここにおいて、最初の夢はただの夢ではなく、
夢と現実を自在に出入りする魔物?の仕業であったことがわかるわけで、
いっそう不条理感が高まるようになっています。







坂田さんのタタタ

2015.03.03 (Tue)
大学時代バンドやってたんですよ、俺はキーボードで。
子どものころピアノ習ってましたんで。ジャンルはレゲエを中心に軽い、明るい曲です。
仲間はギターとベース、ボーカル兼パーカッション。
ドラムは外注だったんです。たいていはギターから始めるんで、
ドラムやる人って少ないんです。ほら、楽器買っても置ける家は限られてるし、
家で鳴らせば近所から苦情が来るしで。今は電子ドラムもいいのができて、
ヘッドホンつけて練習もできますけど。
この坂田さんというのが、他の大学の6年目なのに、まだ卒論までほど遠いって人で w
あちこちのバンドから頼まれて、かけ持ちでドラム叩いてたんです。
ヒゲ面で、見た目はレゲエにふさわしかったですけど、
メタルからフュージョンまで何でもこなしてました。

ええ、どんな曲も一回合わせれば十分でしたよ。センスがいいっていうか、
完全コピーじゃなくても、曲調に合わせたドラミングができたんです。
でね、その年、俺らは学祭に向けて練習してまして、
だいたいいい感じになってきたんで、坂田さんを呼んで最終合わせをしようと、
貸しスタジオに来てもらったんです。これが始めていく場所で、ベースのやつが、
「安くて近いとこ見つけた」って言って予約したんです。
そろって行ってみると、確かに大学からは近かったんですが、
なんか陰気なたたずまいのところでした。
こういう貸しスタジオって、初めて入ると必ずといっていいほど、
「霊がいる」って言い出すやつがいるんですよ。
俺らが借りたのは10畳の部屋で、平日の昼で1時間1000円でした。

安いでしょ。頭割りすれば坂田さんを抜かしても一人250円です。
コード類をセットしてると、案の定ベースのやつが、
「うわ、あの壁の染み人に見えね?」と言い出しました。防音壁の壁は白っぽい色で、
そこの一面に人が立ってるようにも見える染みが浮き出てたんです。
「ねえよ、そんなもん」 「あとで坂田さんが来たら聞いてみりゃいい」
坂田さんは家が新興宗教の宗家という話で、見える人って噂もあったんです。
それから思い思いチューニングとかしてると、
10分ほど遅れて坂田さんがやってきたんです。
あいさつして、ベースのやつが「あの染み、人みたいに見えるんスが、どうスか?」
って坂田さんに聞いたら、「そうね、まだわからんけど、何かあってもべつに大丈夫だから」
こう言いました。

でね、1曲目、2曲目と進んで、さすが坂田さんはセンスよく合わせてくれました。
3曲目に入ったときです。俺らは素人なんで、曲が始まると余裕なくて、
自分の手元に集中してしまうんですよ。だから回りの様子はあんまり見えない。
その曲の途中で、坂田さんがドガンと大きな音を出した。
こういうスタジオだと、ドラムの音は強烈に響くんですが、
それまで坂田さんは俺らのことを気遣って、軽めの音を出しててくれたんです。
「ちょっとストップ!」坂田さんが音に続いて怒鳴ったんで、
俺らはみな手を止めました。「壁見てみろや」坂田さんが静かに言いました。
あの染みのことだと思ってみると、それが・・・薄黒いような色でしたが、
それと同じ色のもやがぼんやりかかって、壁から抜け出してる途中のようにも見えたんです。
でもね、タバコ吸うやつはいないし、そもそも禁煙だし、煙が出るはずはない。

坂田さんは目を閉じて「うん、ここ、演奏中に死んだやつがいるな。ギターだな」
そう言いました。それを聞いたせいかもしれないですが、なんとなく染みの形が、
ギター抱えた形にも見えたんです。染みの上のもやは少しずつ溶けて、
部屋の空気に混じっていってるみたいでした。
「お前らの学祭いつだっけ?」坂田さんが聞いたんで、「今月の22日です」って答えました。
「じゃ、あと10日もねえな。それまで俺が預かっといてやろう」
坂田さんは言って、目を閉じたまま複雑なリズムを小さく叩き始めたんです。
うーん、16ビートよりもっと複雑な基本リズムとタムの単調な連打の繰り返しでした。
再現しろって言われてもできないですよ。
そしたら、そのもやが動き出して、ゆっくりゆっくり坂田さんのほうへ近づいていきました。
やがて、背中におぶさるような形になり、坂田さんが叩き終えると消えたんです。

「えっ、今のは?」 「坂田さんに入ったように見えたけど、大丈夫すか?」
俺らが口々に聞きくと、坂田さんはにやっと笑って、
「こういうの慣れてるから。こいつ演奏し足りないみたいだから、
 しばらく俺が一緒にいてやる。お前らのコンサートで成仏するようにするよ」
そう言ったんです。・・・うーんまあ、信じないわけにはいかなかったですよ。
壁の染みが前より薄くなってましたから。
でね、こういうことがあったんで、2時間の予定が3時間になりましたけど、
それからは特に何事もなく、練習は終わったんです。
コンサートの当日になりました。
俺らは他のバンドに混じって3曲やるんです。
坂田さんは俺らの前と後のバンドにも、ドラムで加わってました。

いよいよ俺たちがステージに出たとき、坂田さんはドラム台から降りてきて、
「最後の曲でやるから、ギターのやつは場所開けろよ」って言いました。
何のことかそんときはわからなかったです。
夢中で1曲目を終えたら、けっこう受けてる反応でした。
2曲目でメンバーを紹介して、最後がレゲエのスタンダードのちょっとしんみりした曲。
その途中で、坂田さんのソロがあるんですが、リハとは違った構成で、
前にあのスタジオで聞いたパターンがちょっと混じったんです。
はっとして坂田さんのほうを見ると、頭の上に黒いもやが出ていました。
それはだんだんに形がまとまってきて床に降り、
ぼんやりとですが、ギターを引いている人の形になりました。
うーん、お客さんには見えてたんですかね。たぶんわからなかったんじゃないかと思います。

その影はギターのやつの横へ滑るように動き、
ギターのやつはぎょっとしたように少し脇へどけました。
幽霊の楽器の音は聞こえませんでしたけど、
俺らはそいつも入れて6人のメンバーになって演奏を終えたんです。
曲のしめは坂田さんのシンバルクラッシュで、俺らが礼をして頭を上げると、
影の幽霊も深々と礼をしてて、そしてそのまま消えたんですよ。
・・・後になって坂田さんに尋ねると、「あああれ、俺が取り込んでる間に少し話したけど、
 悪いもんじゃなかった。もちっと演奏したくて、それが心残りだったみたいだな。
 もうあっちの世界へ行ったから」
俺らが、「すごいっスね!」 「演奏してましたよ」 
「大学辞めても、霊能者としてやっていけるんじゃないスか」とか驚きの声を上げたら、

「バカ言うんじゃないよ。俺はドラム叩いてただけだ。
 そういうのが嫌で、実家から逃げ出してきたんだからな。
 だけどよ、俺がちょっと変わったパターンを叩くと、頭痛のあるやつが治ったり、
 ちょっとした雨ならやむこともあるんだぜ」
こんな答えが返ってきました。
で、就職活動が始まる前にバンドは解散しまして、俺はそれ以来、
本格的な演奏はしてないですね。前の仲間と集まろうって話もあるんですが、みな忙しくて。
坂田さんは、結局大学は辞めて、プロのジャズドラマーになりました。
けっこう名前も出たんですが・・・東南アジアに演奏旅行に出たとき、
現地で行方不明になっちゃいました。うーん、死んではいないって気がします。
向こうの精霊とかといっしょになって音楽やってるんじゃないですかね。








三角鏡中国で出土?

2015.03.02 (Mon)
*今日は新聞を見て朝から驚愕、怖い話は書けませんでした。
 なるべく専門的な記述はさけますが、この項は興味のない方はスルーしてください。

『邪馬台国の女王・卑弥呼がもらったとも言われ、
製作地を巡り論争が続く謎の鏡・三角縁神獣鏡。
これと同じ型式の鏡が中国河南省の洛陽市で見つかったとする論文が、
地元の研究誌に掲載された。
論文を書いたのは河南省在住のコレクターで研究者でもある王趁意さん。
王さんは鏡について「2009年ごろ、当時、洛陽最大の骨董市で、
市郊外の白馬寺付近の農民から譲り受けた」と説明する。
正確な出土地点はわからないという。

鏡は直径18・3センチ。厚さ0・5センチ。三角縁神獣鏡としてはやや小ぶりで、
内側に西王母(せいおうぼ)と東王父という神仙や霊獣、
外側にノコギリの刃のような鋸歯文と二重の波状の模様を巡らせる。
鏡が見つかった洛陽市は中国の三国時代に魏の都があった場所。
歴史書「魏志倭人伝」は、239年に魏の皇帝が倭(日本)
を治める邪馬台国の女王・卑弥呼に、「銅鏡百枚」を与えたと記している。
日本では、100枚の鏡は三角縁神獣鏡とみる意見が多かったが、
肝心の中国から1枚も出土していないため、疑問が呈されてきた。
今回の発見はこの論争だけでなく、
邪馬台国の所在地論争にも影響を与える可能性が大きい。

明治大の大塚初重名誉教授は「写真を見ただけだが、三角縁神獣鏡に間違いない。
まだ1面だけなので、同種の鏡がさらに見つかるかどうか
注意深く見守っていく必要がある」と話している。(朝日新聞 塚本和人)』

朝日新聞DiGITAL

長く引用してしまいましたが、簡単に説明すると「三角縁神獣鏡」というのは、
古墳時代の近畿地方を中心に列島各地で発見される銅鏡で、「魏志倭人伝」
(三国志 魏書 東夷伝 倭人の条)に、魏の皇帝が倭国の女王卑弥呼に贈ったと記される、
100枚の鏡の候補の一つと言われるものです。

ご存知のように、卑弥呼が都する邪馬台国はどこか、という議論は、
九州説、畿内説を中心として長く論争が続けられてきました。
畿内説では、この鏡を卑弥呼が贈られたもの、と見ることが多いですが、
ひとつ前の世代の「画文帯神獣鏡」を卑弥呼の鏡とする説もあります。
九州説では、この批判として、三角縁鏡は国内では500枚以上も出土するのに、
中国大陸では一枚も見られない、これは国産品である、という反論をしてきました。

ですから、中国でどう見ても三角縁鏡としか思えないものが発見された、
というニュースは、古代史フアンには心が騒ぐものなんですね。
ちなみに「三角縁」というのは、鏡の縁の断面が三角になっているということで、
中国の鏡には見られない特徴です。
「神獣」とは、東王父、西王母などの道教の神(神仙)と想像上の獣を文様として
配しているということで、今回発見されたのは
「三角縁 銘帯 四神四獣鏡」と分類される種類であると見てとることができます。
「銘帯」とは、その鏡の説明、宣伝文のようなもので、中国語で記されています。
4人の神と4匹の神獣の文様が鋳出されています。

さて、自分の所感を述べると、まず思うのは、
これは現状は出土品としては扱えないということです。
「骨董市で買った」という記述は、考古学に関心のあるものであれば、
「危ういなあ」と感じるのではないでしょうか。
このような文物は、密封された古墳から地層の状況とともに出土しないかぎり、
さまざまな疑念がつきまといます。

日本でも、市場で発見された文物は考古学者はなかなかとりあげようとしません。
それがもしや、戦前・戦中に大陸から持ち込まれたものあるかもしれないし、
コレクターが中国から買ったものであるかもしれないのです。
贋物の懼れさえあります。ですから、どうしても取り扱いには慎重になります。
この鏡については、売ったとされる農夫から発見場所を聞いて、
詳しい調査が期待されますが、あちこち遺跡だらけで、
しかもその記録保存が追いついていない中国のことですので、どうなるかはわかりません。

18.3cmという直径は三角鏡としては小さいほうです。
日本で発見されるものは23cm内外のものが多く、
これは魏代の1尺に近い数値です。
日本では3、4世紀頃の鏡は、呪具、葬具として扱われてきましたが、
中国では化粧などに使う日用品であったため、18cmよりも小さいものが普通です。
とはいえ、18cm程度の三角鏡も日本で発見されています。
この鏡は櫛歯文帯(櫛の歯のような縦線が並んだ部分)
という部分が省略されているようです。面径を小さくするためかはわかりません。
三角鏡の考古学的な形式分類でいえば、わりに新しいタイプのように見えます。

この中国の三角鏡の銘文ははっきりしており、
もしかしたらその部分だけ鋳型を彫り直してるかもしれません。
自分の読むところ、
「吾作明竟真大好 上有聖人東王父西王母 師子辟邪口銜巨 位至公宜子孫壽」
(違ってたらすみません)という神仙的な吉祥句が見られます。簡単に訳すと、
この鏡を持っていると、高い地位まで昇進し子孫に恵まれるというような内容です。

このような道教色の強い鏡が、
古墳時代初期の日本で好まれていたということについて、
さまざまな解釈があります。
例えば邪馬台国の卑弥呼は「鬼道に仕え、よく衆を惑わす」
という魏志倭人伝の記述の、「鬼道」とは古代道教であったとするもの。
一般的に卑弥呼はシャーマン的であったと考えられることが多く、
神がかり的な預言をしていたとする説が多かったのですが、
例えば遼東の公孫氏などを通じて、
古代の道教が入っていたと考えられないこともないでしょう。

また、東王父、西王母という男女2神が並び立っている様子は、
当時の倭国の「ヒメ・ヒコ制」を表しているとするむきもあります。
祭祀を司るヒメ(姫 女性の祭祀王)と政治(軍事や農事)を司るヒコ(彦 男性王)が、
共同して国を治めていたとするものです。
三角鏡の出土は、古墳の棺の内外で見られることが多く、
葬具(葬式に使用する副葬品)として使用されていたのは間違いのないところで、
中には完成品が故意に割られている場合もあります。
どこかから(おそらくヤマト王権から)各地に配布されていたのでしょう。