ゆっくりな世界

2016.05.31 (Tue)
今日は科学ニュースからです。怖い話を書く気でいたんですが、
科学ニュースを見てましたら、自分がこのブログで裏テーマにしている
「恐怖」と関係がある、興味深い項目を見つけたので。
昔から、危機的な状況にあるときには「時間がゆっくり過ぎていく」感じがする、
と言われてきました。危険な状況というのは、
たいがいが恐怖を感じる状況でもあるわけですね。
例えば、車に乗っていてカーブを曲がりきれずスピンしてしまったときとか。

ただ、厳密に同じかはわかりませんが、これは事故などの場合だけでなく、
スポーツでも聞く話です。古いことになりますが、
読売巨人軍の名監督だった川上哲治氏が現役で絶好調だったときに、
「ボールが止まって見える」と言ったのは有名な話ですね。
また、短距離走の世界的な選手が、わずか10秒前後の走ってる時間が、
普通に過ごしている10秒よりも長く感じられる、
と述べているテレビ番組を見たことがあります。つまり、
極度に集中している場合に、時間が長く伸びて感じられるということのようです。

これ、客観的な時間の長さが伸びるはずはありませんので、
ゆっくり感じられるということは、外部から入力される視覚情報
(もしかしたら聴覚なども?)を脳が処理する速度が速くなっているのではないか、
という仮説が持たれていました。たびたび『ジョジョの奇妙な冒険』
を持ちだして恐縮なのですが、あのpart3のスターダストクルセイダースで、
「ザ・ワールド」という時間を数秒間止めることができるスタンドが
出てきてましたが、これは最強に近いですよね。
相手が止まってる間に、自分だけ動けるわけですから。

これに対し、主人公の操るスタンド「スタープラチナ」は、
きわめて正確かつ素早い動きができることが特徴でした。
作品中では、戦いによってその能力にさらに磨きがかかり、
最後には敵と同じく時間を止めることができるようになっていましたね。
ただし、実際の人間の場合、手足などの動きを速くするのは限度がありますが、
脳内の処理速度は速くできますので、意識の中だけで、
時間が長く感じられるようになるのだと思います。

『交通事故など「危ない!」と感じた瞬間には、
周囲の風景がスローモーションに見える
――そんな現象が本当に起こるとする研究成果を千葉大学が発表した。
危険を感じた時は視覚の処理能力が通常よりも高まり、
事態がスローモーションのように感じることを確認したという。

視覚の処理能力を測る実験:危険や安全の印象を与えるカラーの画像を
24枚用意し、それぞれ1秒間表示した後、10~60ミリ秒の範囲で、
モノクロ画像に切り替える実験を行った。危険な画像の場合は、
モノクロに見えるのに必要な時間が短くなった。これにより、危険な状況では、
通常より早く視覚情報を処理できる可能性が分かったという。

また、0.4~1.6秒の範囲で各画像を表示し、
1秒間の長さを感じるのにかかる時間も測定。危険な画像が見えている時間は、
実際より長く感じることを確認した。2つの実験から、
危険な状況では物事がスローモーションに見えることを証明したという。』

(ITmedia) クリックで拡大できます


まあ、心理学的な実験ですから、つねにぴったり同じ結果になるということは
ないでしょうが、追試しても全体の傾向は大きく変わらないんじゃないか、
という気がします。しかし、この手の実験は難しいですよね。
実際に被験者を危険な目に合わせることはできませんから。
この場合も、被験者の頭の中には、どうしても「今は写真を見ているのだ」
という状況把握が根底にあるでしょうから、本物の危機状況の場合は、
もっとはっきりした結果が出るのかもしれません。

たしか外国でもう少しハードな実験をしてたような、と調べてみたらありました。
アメリカのベイラー医科大学というところの実験ですが、
被験者を45m!の高さ(ビルの10数階ですよね)から落とし、
安全なネット上に着地させるようにする。このとき落ちる経路に、
ランダムな数字を表示する掲示板をセットし、読み取れるかどうかを調べる。
しかしこれ、やった人は勇気がありますよねえ。

この結果としては、被験者の全員が掲示板の数字は読み取れませんでした。
しかし、やはり全員が、落ちている間は時間の長さが伸びているように
感じたんですね。まあこれはそうでしょう。「目」そのものの機能が、
突然向上するということはありませんから。
同じカメラを使っているので、その性能に違いはないわけです。
実験者は結論として、落下中の記憶力が劇的に向上したのだと考えました。
そしてあらゆる状況を詳細に記憶する。
これもまた、脳内の処理速度の問題なわけです。

なぜこういうことが起きるのか、仮説の段階でしかありませんが、
危機的な状況や、極度の集中力が必要な状況において、
脳は他の比較的不必要な情報を遮断し、その分の力を振り向けるのではないか、
というものがあります。これもなかなか実験では確かめるのが難しいことですが、
いずれは、脳内の血流の動きやシナプスの発火などを、
脳生理学的に確認することができるかもしれません。

さてさて、自分は怖い話の中で恐怖の瞬間をたくさん書いていますので、
こういう実験結果は活かしたいなと思うのですが、
どうすれば効果的でしょうかね。
単純に、怖い瞬間を字数を増やして長く書く、
ということでもない気がしますし、なかなか難しそうです。







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2016.05.30 (Mon)
何の気なしに、軽い気持ちでだったんです。あの、1週間ほど前に、
大学のサークルの仲間とドライブに行って、その途中で廃墟に寄って。
ああ、すみません。テニスのサークルです。
日曜日に郊外のフリーのテニスコートまで行って、
ただ汗を流して帰ってくるはずだったんですけど、私の彼が・・・
「このあたりに宗教施設の廃墟があるって聞いたから、ちょっと寄ってみよ」
って言い出して。ええ・・・私も反対はしなかったんです。
まさかこんなことになるなんて思ってもみませんでしたから。
テニスコートから車で20分くらい山に入ったところでした。
玄関先まで車で行けたんです。・・・すみません。行ったのは4人です。
私と彼、友人とその彼の男女2人ずつ、レンタカーで。

すごい豪華な建物でしたけど、もう10年以上はたってたと思います。
彼は「レア物らしい」って言ってたけど、そのとおり、落書きなんてなくて、
そのかわり床が一面コケに覆われてました。時間は3時近くだったと思います。
正面横のサッシが割れてて、簡単に入れましたが、
コケがじとっと湿ってて、テニスシューズが汚れそうで嫌だなって思ったんです。
そのときにやめていれば。でも、みながどんどん入っていくんで、
一人残るのも怖いからついてって、玄関ホールから右手の
礼拝堂みたいなとこに入りました。そしたら外でザーッて音がして、
雨が降ってきたんです。急に中も暗くなって。え?仏教か神道か、
そういうの私わかんないんです。たぶんキリスト教じゃないと思います。
十字架のようなのはなかったですから。

それで、「こりゃ運転時間かかりそうだから、2階はやめとこう」って、
運転してきた男子メンバーが言って、その礼拝堂を一周したら帰ろうって。
背もたれのついた席が50以上はあったと思います。
中央が通路になってて、進んでいくと正面の祭壇に出ました。
大きな、左右に出っぱりのついた長方形の石があり・・・
はい、写真撮ったので持ってきてます。え、石棺? 古墳とかのですか?
そういうのも私よくわからなくて・・・重そうな蓋がのってて、
でも片側にずれて隙間がかなり空いてたんです。そしたら、
男子2人が開けてみようって言い出して。無理そうに見えたんだけど、
私たちを下がらせ、男2人で隙間にパイプ椅子を入れてグンてやったら、
5cm以上の厚さの石蓋が、ガコンってずれて向こう側に落ちたんです。

そのときにピカッて礼拝堂の中が光り、すぐガガーンって雷が鳴ったんです。
「ありゃ、この音だと近いな」彼が言いました。私たちがおそるおそる石の中を
のぞき込むと、中は乾いてて空だと思ったんですが、もう一人の女子が「キャー」
って隅のほうを指差しました。蛇がいたんです。10cmないくらいの小さい蛇。
丸まってて死んでるのかと思いましたが、赤黒の模様は鮮やかでした。
「んー、蛇だ。日本のじゃないな」彼が手にしていたパイプ椅子でつっつくと、
まったく動かなかった蛇が頭をもたげてパイプにからみついたんです。
「うわ、うわ!」彼が叫んで、イスを石の側面に叩きつけると、
そのときまたビカッと光って・・・私は思わず息を飲んだんですけど、
そのときに彼の顔の真ん中に、横に緑っぽい線が走ったように見えたんです。
ええと、たぶんここ、大事なとこだと思うんですが、

ちょうど眉間から鼻の下くらいの太さでした。蛇は潰れて下に落ちたみたいでしたが、
私は怖くて見なかったんです。「車に戻ろう」男子メンバーが言い、
また玄関ホールまで行ったら、外は土砂降りになってました。
車まで20mくらいだったんですが、かなり濡れました。
それから東京に戻ったんですけど、都内近くまできたら雨はあがって、
まだだいぶ明るかったんです。テニスシューズの底がコケの色に染まって、
女子2人は文句言ってたんですが、廃墟そのものは面白かったと思ってました。
その夜ですね。私は自宅通学なので家に帰ってました。
8時頃まで、その日のメンバーとメールをやりとりして、
試験が近かったので少し勉強したんです。けど、ぜんぜん頭に入らず、
なぜかあの廃墟で雷が光ったときの彼の顔が頭に浮かんできて・・・

それで11時過ぎですね。彼からメールが来たんです。
見ると、ただ「うお うおうおうおうおうおうおうおうおおおおお」とだけなってて、
何ふざけてるんだろうと思いました。それと添付ファイルがついてて、
画像だったんですが、彼が自撮りした顔で・・・ 
彼はアパート暮らしだったんですけど、そこのベッドで上むいてる顔でした。
それも今、持ってきてます。これです、ほら、両目を強く閉じて、
顔が真っ青に見えますよね。それと画面いっぱいの横に、
緑っぽい黒の線が鼻の上までかぶさってて・・・これ、廃墟で光ったときに見たのと
同んなじだと思います。それで、漢数字の「一」に見えないですか。
そのときにすごく胸騒ぎがしました。メールはこっちから返信しても
反応がなくて。それで、たまたまなんですけど、

彼と同じアパートに、廃墟に行ったのとは別の人なんですけど、
同じサークルのメンバーの男の子の下級生がいまして、その子に連絡して、
様子見てきてって頼んだんです。そしたら10分くらいで返信があり、
部屋の鍵が開いてて、彼がベッドの上で息してないって言うんです。
救急車呼んだって。ええ、亡くなってました。急性心不全だったそうです。
それから私はもうパニックになって・・・お葬式は彼の地元でやったんですが、
電車で廃墟に行った他の2人と出席しました。あ、それから、
このとき、彼からメールが来たのは私だけだったんです。
メールと画像を2人に見せました。それで2日後、2人から連絡があって、
私に「とにかく自撮りしてみて」って言うんです。・・・彼のさっきの写真、
あれ自撮りですよね。ですから怖く感じて理由聞いても、
「とにかくやってみて」って言うばかり。

それで、立った状態で手を伸ばして取ってみたです。そしたら・・・
これがその写真です。私の顔の上に、彼と同じ色、同じ太さに思える
数字が浮かんでるでしょう。これ、どうみても「四」ですよね。
こんなふうに写るわけはないんです。すぐに画像を送ったら、
「やっぱり」ってその子の画像が返ってきたんですけど、顔の上に「三」が。
はい、彼女は自撮りしたわけじゃないんですけど、
たまたま彼女の彼と並んで写した写真に、彼女に「三」彼に「二」って、
顔の上にかぶさってたんだそうです。それからは彼女も彼も何度写しても同じ・・・
あわてて、私ももう一回撮ってみました。やっぱり四って出るんです。
それからファミレスに3人集まっていろいろ話しました。試してわかったのは、
携帯でなくデジカメでも、どんな条件で写してもその数字が出るってことです。

これ、どうしたってあの廃墟と関係があると思いますよね。
それで、明日大学の講義を休んで、3人で花とか買ってあの廃墟に謝りに行こうって。
ええ、翌日8時に迎えに来るって約束して、12時近くに2人と別れました。
家に戻っても怖くて眠れず、そうしてるうち3時ころにメールが入ったんです。
彼女からです。彼からメールが入って、内容は「うおうお・・・」
私の彼のときと同じです、画像も・・・ 私には来ていませんでした。
見たくなかったんですが、それもここに持ってきてます。
はい、やっぱり顔の上に二の数字が。これ見たとき、死んだんだって思いました。
深夜でしたがタクシーを使って彼女と落ち合い、彼の自宅に行きました。
寝静まってましたが、何度もインターホンを押し、
家の人に出てもらって、彼の様子を見てもらったんですが・・・

彼の両親には、具合が悪いって彼女にメールが来たって話しました。
後で、顔の数字のことも話して画像も見てもらいましたら、妙な顔をしてました。
それは信じられないような話ですからね。でも、私も彼女も、
目の前で写真を撮ってみせたんです。そしたらわかってもらえたようでした。
あと、私と彼女の両親にも話したんです。こっちも、
理解してもらうには時間がかかったんですけど、2人亡くなってますし、
何より私と彼女の顔の上に三と四がはっきり写るんですから、
ありえないことが起こってるってことはなんとか。
私の彼が亡くなって二人目が亡くなるまで、間が5日ありました。
ええ明日、私と彼女、それぞれの両親、それから頼んで来ていただくお坊さんと、
あの廃墟に行きます。その前に、ここでアドバイスをいただけたらと思って。







顔のあるもの

2016.05.29 (Sun)
今日は怪談論・・・なのかなあ、どれかに分類するとすればそうでしょうが、
たぶんあっちこっちに飛ぶ、まとまりない話になると思います。
「顔のあるものには命が宿るから、買うときにはよく考えなさい」
という言葉を耳にすることがあります。とはいえ、雛人形や五月人形を始め、
みなさんの中で、家の中に人形やヌイグルミがまったくない、
という方はおられないのではないでしょうか。

ああいうものは、買うときはいいですが、
処分するときに困る場合が多いですよね。
うちの母親は「木目込み人形作り」というのを趣味でやっていて、
亡くなった後に数十体が残されて、処分に大変困りました。
結局、少なくない金額を支払って人形供養をしてもらったんです。
プロの怪談作家の先生方の作品でも、
人形やヌイグルミにまつわる怪異はよくみかけられますね。

さて、世界の宗教を見渡すと偶像崇拝を禁じているものがあります。
もっとも厳しいのがイスラム教でしょうか。
これは、630年の預言者ムハンマドのマッカ(メッカ)侵攻のときに、
カアバ神殿に祭られる数百体の神像・聖像を自ら叩き壊した事績を
重視しているためです。ですから、偶像崇拝の禁止は徹底しています。
下の画像は、ムハンマドの誕生の場面ですが、左側の天使の顔は描かれていますが、
中央の赤子のムハンマドの顔には白いベール?のようなのがかかっています。
基本的に、こういう表現のしかたしか許されないんですね。



ですから、イスラム国以外でムハンマドの風刺画などが新聞に掲載されると、
大きな問題になり、絵の作者の暗殺指令が出されたりするわけです。
偶像を描くのが禁止されたため、イスラムの宗教的な情熱は、
もっぱら「カリグラフィー」に向けられました。
これはイスラム書道(Islamic Calligraphy)とか、アラビア書道とも言います。
下図のようなものですが、これはちゃんと意味のある文章(クルアーン=
コーランの一節が多い)がデザイン化されたもので、イスラムのモスクの中は、
これでびっちり装飾されている場合が多いのです。

『Islamic Calligraphy』


あと、キリスト教では偶像崇拝は基本的には禁止なのですが、
「聖画像」(キリストやマリアの像 Icon)は偶像ではないと考えられるものの、
カトリックとプロテスタントではこれも違いがあります。
特にプロテスタントはさまざまな宗派に分かれていますので、
多様な考え方があります。自分が住んでいたことのある、
アメリカの田舎町のプロテスタント教会は、十字架があることをのぞけば、
外観はほぼ普通の民家でしたし、中も装飾や偶像らしきものはなし。
そこで信者の代表であり、身分的には一般信徒と差異のない牧師さんが、
(カトリックでは人々を導く聖職者である神父さん)
日曜日には、信者の前で聖書の一節を引いて説教をしていました。

余談ですが、自分はアメリカのテレビ説教師(伝道師 Televangelists)
のスピーチを、たまにyoutubeで見ることがあります。
自分はキリスト教徒というわけではないんですけど、なんで見るかというと、
彼らの英語はたいへんわかりやすく、話もゆっくりなので、
錆びついてきたヒアリングのおさらいをするのにちょうどいいんですね。

さて、アメリカ映画には、有名な『チャッキー』シリーズをはじめ、
人形が命を持って暴れるような作品がありますね。これは本来、
キリスト教の考え方とは相容れないものですので、そういうのを出すときには、
アメリカホラー映画の三種の神器を使います。これ、何かというと、
1つ目が、『ハリー・ポッター』に見られるような西洋魔術、魔法。
2つ目は、アメリカ先住民の呪法・・・(ここでまた余談ですが、
アメリカ先住民をインディアンと呼ぶのは差別用語にあたるようです。
かといって、ネイテイブ・アメリカンといっても怒られる場合もあり、
大変難しいんです。自分は実際に向こうで怒られた経験があります)

3つ目は、アフリカ由来のブードゥーです。それらを出すことで、
「これはキリスト教のらち外にある娯楽映画だよ」みたいな意味を持つようです。
ちなみにチャッキーは、本来の商品名は「グッドガイ人形」だったと思いますが、
「アディ デュイ デンベラー」という怪しげなブードゥーの呪文で、
「湖畔の絞殺魔 チャールズ・レイ」の魂が人形に乗り移っているものです。
早く人間に乗り換えないと、体がだんだんに人形と同化してしまう
という設定になってましたね。ブードゥ-では有名な人形の呪いがありますが、
あのあたりから発想が出ているのでしょう。

悪魔が出てくる映画『エクソシスト』なんかは、キリスト教の神との戦いを描いて、
どうしても宗教的な意味を持ってしまうものですので、
上記のとはまた違います。そういう映画で、悪魔が勝利を得てしまう内容にすると、
やはり社会的な批判を受けてしまうことになります。
映画『エンゼル・ハート』の原作『堕ちる天使』などは、廃刊運動まで起きています。

さてさて、仏教寺院だとまずどこでもご本尊の仏像がありますし、
偶像崇拝と言われることはあまりありませんね。ブッダのころの
原初仏教とはまた違ったものになっているのだと思われます。
特に日本の場合、仏像とともに仏教が伝来してきたので、
このあたりはしかたのないところかもしれません。

神道だとどうなんでしょう。あまり考えたことはないのですが、
神様の画像はないわけではないものの、それがご神体とされることはないですよね。
普通は、山や岩、滝や木などの自然物や、鏡、石、剣などがご神体となります。
積極的に偶像崇拝を否定してる感じもないですが、
やはり八百万の神・・・あらゆるものに神が宿るという考え方からすれば、
絵姿や像をつくる意味はあまりないのかもしれません。
このあたりお詳しい方がおられれば、ご教示願いたいところです。







レゴ

2016.05.28 (Sat)
今年5歳になる幼稚園児の息子と、それと夫の父、義父ってことですね。
その2人に関する話なんです。ただ、自分でも信じられないような内容なので・・・
え、ここではそういう話ばっかりだって・・・ そうですか、じゃあ。
まずですね、3週間前に、一人暮らししてた義父が緊急入院しまして。
ええ、自分で救急車を呼んだんです。私たち夫婦には言わなかったんですが、
数日、高熱が続いていたみたいです。病名は肺炎でした。
医師の話では、おそらく誤嚥下によるものだろうということでした。
食事も自炊してたんです。私たち夫婦と同じ市内に住んでいたんですが、
義父のほうで、どうしても同居は嫌だって。はい、
義母はずっと以前に亡くなってるんです。義父がまだ30代のころ、20代後半で。
義父はですね、若い頃はテキ屋をしてたんです。

ご存知ですよね。お祭りなどのときに屋台を出す、映画の「虎さん」みたいな。
ですから長く旅暮らしをしていまして。ただですね、
主人が私と結婚した50代のころに、テキ屋はやめまして、
それから工務店に入って現場作業をずっと。そうですね、息子が結婚するからやめた、
というのはあると思います。本人は、もう体が続かないからと言ってはいましたが。
それで、若いころのテキ屋時代はずいぶん荒っぽい生活だったらしくて、
全身に刺青が入ってるんです。私は絵柄などはよくわかりませんけど。
これね、入院先の病院でも驚かれたほどのものだったんです。
「こんな見事なのは初めて見ました」って。齢は68歳でしたから、
まだそんなでもなかったんですけど、飲酒量がすごかったですし、
病院では「かなり重篤な状態」と言われたんです。

ですから、私が介護につかなくてはならなくなりまして。
主婦でしたので問題は息子のことだけでした。幼稚園への送り迎えをしてたんです。
でも、それに関しては、幸い「あずかり保育制度」のある私立のところでしたので、
事情を話して、それに加えていただくことにしたんです。
ええほら、幼稚園ですから基本は2時ころまでですよね。
それが、そこは特別に6時半までのあずかり保育教室があったんです。
今は働いている奥さんも多いですからね。そういう方たちのためのものです。
ただ、幼稚園としては時間外ですから、自由遊びがほとんどのようでした。
私が6時過ぎに幼稚園に息子を迎えにいき、その頃には夫が帰宅していますので、
家に戻って夫に息子を預け、病院にとんぼ返りするんです。
ええ、夫と息子と一緒に病院に来ることもありましたよ。

ですが、入院以来、義父は意識はぼんやりとあるものの、ずっと酸素吸入して、
栄養補給も点滴がほとんど。息子の顔もよくわかってはいないようでした。
はい、義父は、私には無愛想でしたが、息子はとても可愛がってくれてたんです。
と言っても、抱き上げたりするというより、
物を買ってくれることが多かったですね。齢をとっても、やはり昔かたぎの、
こういう言葉がふさわしいかわかりませんが、強面の人だったんです。
そんな状態で1週間が過ぎ、幼稚園に迎えにいった帰りの車の中で、
息子が、「家にあるレゴ、幼稚園に持ってってもいい?」と聞いてきました。
「どうして?」と聞くと、「ぼく、自由時間はずっと幼稚園のレゴで遊んでるんだけど、
 他の子がじゃまして壊したりするんだ。大事なものを作ってるのに」
「うーん、じゃあ、明日の朝幼稚園の先生に聞いてみるね」

翌朝、息子を送ったときに、担任の先生にその話を出してみました。
そしたら、「あずかり保育のときは遅番でくる別の先生が担当なんですが、
 そういえばほとんどレゴをやってて、手がかからないって言ってましたね。
 うーん、私の一存では決めかねますので、園長先生に」
それで、家にあるレゴを持ってってもいいことになったんです。
そしたら、夜に家で自分のレゴを出していた息子がむずかりまして、
「これだと色が足りない」って泣き出したんです。ええ、息子は小さいときから
レゴが好きで、かなりの量があったんですけど。
「何を作ってるの?」と聞きましたら、「わからない」って・・・
ともかく、その日の帰りにおもちゃの専門店に寄って、バラ売りのレゴを選ばせました。
そしたら、赤と黒のブロックを大量に袋に入れました。

それから、私は言い方がよくわからないんですが、赤のポツ一つだけの、
細長いレゴもふた握りほど選んだんです。
義父のほうは、病状は深刻でした。熱は薬でむりやり下げていたんですが、
肺の炎症はおさまらず、心臓にも負担がかかって、
「これはこの後のことをお考えになられておいたほうが」みたいに言われました。
その日、息子を迎えにいくと、あずかり保育の先生から、
「ちょっとお話が」と言われました。息子を車に乗せたままの立ち話でしたが、
息子が他の子らと遊ぼうとしないということでした。
すごい真剣な顔でずっとレゴに向かっていて、おやつにも手を出さない。
他の子が近寄ってくると威嚇するようなそぶりをし、「さわるな」と強く言う。
息子は体が大きいほうで、それで外の子も近寄っていかなくなった。

こんな内容だったんです。幼稚園では友だちが多いほうだと思っていたのに、
この間の話もあって心配でした。それで、「どんなものをつくってるか、
 見ていってもいいでしょうか」こう聞いてみたんです。そしたら「どうぞ」って。
息子のレゴ作品?は教室のすみに置かれていましたが、かなり大きなものでした。
畳の四分の一ほどの四角な形で、赤と黒のブロックだけでできていました。
それが幼稚園児がやったとも思えないほど精巧に組み合わせられていて、
片側からもう一方へと高くなっていました。ええ、山とそのふもとという具合です。
「これ、何なんでしょう」幼稚園の先生に聞きましたが、首をかしげ、
「本人に何度も聞いたんですが、わからないと言うばかりで」こう答えられました。
車に戻って息子に、「今、先生から聞いたけど、レゴばっかりやってて、
 他の子と遊ばないんでしょう」と言いましたら、

「ぼくだって遊びたいけど、あれができるまでそうしちゃだめなんだ。
 でも、もうすぐ終わるよ。あ、そうだ、またレゴ買いに連れてって。あと一つだけ」
・・・私としても当時は義父のことで頭がいっぱいでしたから、
とりあえず言うことを聞いてやろうと、翌日またおもちゃ屋へ行きました。
そしたら息子は、人の頭になる部分ですね、あの目鼻のついた。
それを一つだけ買ったんです。それから2日後、義父の容体が急変しまして、
心臓のほうがかなり弱って危ない状態になったんです。
「親戚の方を集めたほうが」と看護師さんに言われて、夫の会社に連絡し、
あまり多くはなかったんですが、近くの親戚にも知らせまして、
まだ午後の4時だったんですが、息子を迎えに幼稚園に行ったんです。
事情を話して、あずかり保育の教室に入っていくと、

息子がこちらを振り向いて「お母さん!できたよ」と言いました。
息子の前には、あの赤黒の山がありましたが、その山の上に、
ひとつポツの細いレゴがたくさん植えられていたんです。息子は満面の笑みで、
その頂上に人型の人形を座らせ、「これ、おじいちゃん」と言いました。
それから、私の見ている前で全部をぐしゃぐしゃに壊してしまったんです。
車の中で「あれ、どうして完成したのに壊しちゃったの?」と聞きましたら、
「つくれって言った人たちが、もういいからって」 「誰がつくれって言ったの?」
「おじいちゃんみたいに体に絵が書いてある人たち」ぞくっとしました。
これは刺青のことを言っているのか・・・病院に戻ると夫がすでに来ていました。
担当医の先生が心電図を指して、「危篤状態です」と言いました。
その日来られた親戚は、義父の従兄弟という方一人だけ。

みなで義父に呼びかけましたが、顔は真っ白でもう助からないと思いました。
意識のない祖父に息子が「おじいちゃん、できたよ、できたよ」と言い続けていました。
しばらくして医師が心電図を私たちに示し、目に光をあてて、
「○時○分 死亡確認 お亡くなりになりました」こうおっしゃってから、
酸素マスクや点滴を外しました。そのとき義父の口元から赤いものがこぼれ、
ガーゼで拾い上げた看護師さんが困惑した顔をしました。「何ですか?」と聞きましたら
見せてよこしたんですが、それは赤い細いレゴ、息子が買ったのと同じものだったんです。
夫は覚悟をしていたようで、テキパキと葬儀社とのやりとりをこなしていました。
息子が眠そうな顔をしていたので、いったん家で寝せようと思いました。車に乗せると、
「ぼくあれ、何かわかったよ。あのつくってたやつ」 「何だったの?」 
「じごく」そう一言だけ言って、ことりと寝入ってしまったんです。








倫理学的思考実験

2016.05.27 (Fri)
前に「哲学的思考実験」という項を書きまして、
今回はその続きのようなものですが、問題はずっと深刻です。
自分は倫理学は難しいなあと、いつも思います。はたして正解はあるんだろうか、
と考えさせられてしまうようなテーマがいろいろあるんですね。
例えば、死刑の問題などがそうです。現在、死刑は先進国の多くでは廃止されていて、
今だに実施している日本には批判がありますよね。

ですが、日本国民にアンケートをとってみれば、
死刑容認の立場をとる人が多いのも事実です。
(内閣府世論調では、死刑制度容認が80%超)
これは日本の歴史によって形成された価値観による合意とも言えるでしょうから、
簡単に他国の風潮に従うものではない、という議論もあります。

あるいは避妊、堕胎、同性愛などの問題。これは長い間、
キリスト教の神による禁止事項であったため、カトリック国では厳しく制限されて
きましたが、現状に合わない面もいろいろ出てきているようです。
他国にも、やはり歴史的な宗教文化の影響はあるのです。
イスラム国家の死刑で、石打ちの刑などというのもありますね。
これも残酷だ、野蛮だという議論があるものの、しかし、
ムハンマドがイスラムを始めて、すでに1500年もの歴史を積み重ねていて、
その間、多くの人が信じて行ってきたクアルーンの定めなのです。他文化、
他宗教の人間が安易に否定できるのかというと、やはり難しい面があります。

倫理学とは、Wikiによれば、「行動の規範となる物事の道徳的な評価を
理解しようとする哲学の研究領域の一つ」となっています。
しかし、この定義もわかりにくいですよね。じゃあ道徳って何?
と言いたくなってしまいます。倫理学は長い間、
哲学、あるいは法哲学の一部として研究されてきたのですが、
いくら考察を重ねてもスッパリと割り切ることのできない問題が存在します。
今日ご紹介するのは、倫理学的な思考実験のうち「トロッコ問題」と
俗に言われるものです。有名なのでご存じの方も多いでしょう。

①『何人かが乗っているトロッコが暴走を始めた。Aさんはたまたま、
トロッコの軌道を切り替えられる位置に乗っている。まもなく前方に、
分岐点が見え始め、トロッコはそのまま進めば5人の人間を跳ね飛ばして
確実に死に至らしめる。もし軌道を切り変えると、先にはBさんが一人いて、
やはり確実に死んでしまう。このときAさんが軌道を変えるのは許されるか?』

こういう問題です。このときに「その5人の中に知り合いがいるかどうかで、
違ってくるだろう」などと言うのは思考実験のルールに反しています。
また、Aさんの行為が罪に問われるかどうかは、この際考えません。
これに対する回答として、いくつかの立場があります。
・5人が犠牲になるより1人で済むほうがいいのは当然だから、
Aさんは軌道を変えるべきだ。(功利主義的な立場)
・ある目的のために、他者の命を犠牲にするのは悪であるから、
Aさんは何もするべきではない。(義務論的な立場)
・その5人は死すべき運命にあったのだから、Aさんは何もすべきではない。
(運命論的な立場) あとは、Aさんの決断は法に触れないのだから、
他人がどうこう言うべきでない、とか

まあ、実際にそんな限界状況になれば、考えることもできず、
とっさの行動もできずというケースが多いような気がしますが、
それはそれとして、これ、みなさんはどうお考えになるでしょうか?
各国で、5000人以上が回答したアンケートによれば、
80%以上の人がAさんが軌道を切り替えるのは許される、と答えています。
この傾向は、その回答者の育った文化や、学歴にはあまり左右されないようです。
また、回答した人で、自分の判断を論理的に正当化できた人は、
3割程度であったとする調査もあります。つまり「なんとなく」
許されるんじゃないか、と思った人が多いということでしょう。

では次の問題、②『AさんとBさんが線路のホームにいる。Aさんは痩せていて、
Bさんは太っている。そこへ5人が乗っているトロッコが暴走してきて、
そのままでは乗っている人は全員死ぬ。ここでAさんは、Bさんを線路に突き落とせば、
それが障害となってトロッコは止まると考えた。
ではこのとき、AさんがBさんを突き落とすのは許されるか』

もちろん思考実験ですので、Aさんが自ら飛び降りてもトロッコは止まらないし、
Bさんを落とすとトロッコは確実に止まります。これによって、
Aさんが殺人罪に問われることはありません。

さて、結果はだいたい予想がつくと思いますが、アンケート結果は、
許されると回答した人は11%しかいませんでした。
どうしてこういう結果になるのでしょう。単純化して考えれば、
1人を犠牲にすることによって5人を助けることができるという点は同じです。
違いがあるのは、Aさんの行為として、軌道切り変えのレバーを引くか、
Bさんを突き落とすかということですよね。

①は許されて、②は許されないとする判断基準は何なのでしょうか?
一つの解答として、②の直接Bさんを死に追いやる行為をする場合、
他の場合とは違う脳の分野が働いている、という研究があります。
他者を直接害する、殺すといった行為に強く拒絶反応をしめす部分です。
人間の脳が、これはよくないことだと警告を発しているとも言えるかもしれません。
ちなみに、人間ではなく大型犬を突き落とす場合だと、
多くの人が許容されると回答しています。

あと、類似問題として、「臓器くじ」というのもあって、
③『完全に公平なくじで一人の人間を殺し、その臓器を5人の人間に分け与える。
生体からの臓器移植をしないとその5人は必ず死に、移植すれば必ず助かる。
他に5人を救う方法はない。』
 みなさんはこのような社会制度を容認できますか。
上の2つの問題と違うのは、回答者もくじにあたって殺される可能性があること、
逆に将来、臓器移植を受けて命が助かる可能性もあること。くじは公平で、
たまたま交通事故やその他の事故で亡くなる確率と、あまり変わりません。

さてさて、これも難しいですよね。アンケートを取れば、
許されないと答える人が多いのではないでしょうか。何の罪もない人間を、
故意に殺すのはやはり罪であると考える人が多そうですし、
病気になったのはその人の運命だから、という考え方もあるでしょう。
ここで冒頭に書いた死刑の話に戻りまして、では、これがくじではなく、
死刑囚からならば臓器を取ることは許されるのでしょうか。
実際にそれをやっていると噂される国も、地球上にはありますよね。

この議論は、前に少し書いた「ヒトの受精卵を用いた研究」とも関連があります。
日本でも「ヒトの受精卵操作、臨床利用除き必要に迫られる基礎研究にのみ容認」
というニュースが、今年5月15日に政府生命倫理専門調査会から発表されました。
上記したように、倫理学の議論・判断は難しいのですが、
しかし、今後ますます必要とされる場面が増えてくると思われます。
関連記事 『哲学的思考実験』  関連記事 『あなたはパーフェクト?』







蔦の家

2016.05.26 (Thu)
Kさん(会社員 女性 22歳)の話

去年の秋です。その日、彼とデートして、駅から自宅まで送ってもらって
帰るところでした。時間は、あっそうだ、少し門限すぎてましたから、
10時20分くらいですね。その道を通るのは久々だったんです。
私は車で通勤してて、ふだんあんまり電車は利用しないので。
いえ、広くはないけどバスも通る道ですし、
その時間でも人通りもそこそこありました。で、例の家の前も通ったんです。
「うわー、なにこれ、不気味だな」彼が言いました。
「あー空き家みたいなの、ここ。もう人が住まなくなって5、6年にも
 なるかしら」並んだ一般住宅の中で、その家だけ、
壁も窓も庭も、どこもかしこも蔦で覆われていたんです。
蔦はその家の低い生垣の上まできてて、道路に先が侵食し始めていました。

「こんなになるもんなんだな。でも、門から玄関までの通路には蔦はきてないな。
 そこだけは誰かが切り払ったりしてるんだな」
「不動産屋じゃないかしら。それにしても気味悪いわよねえ。
 完全にお化け屋敷。でも、前はここまでじゃなかった気がする」
「蔦って、冬には枯れるっていうか、落葉するんだよな。
 暗くてよくわかんないけど、少し赤くなってきてるんじゃないか」
「これ全部紅葉したら、それはそれで怖いわよね」
少し立ち止まって、こんな話をしたと思います。
「ん? 何か動いてる」彼が1階と2階の中間あたりの壁を指さしました。
「おどかさないでよ」見るとたしかに、動いてるものがありましたが、
私には蔦の中に何かいるように思えたんです。

ええ、つまり、壁と蔦の間にもぐり込んでるってことです。そう言うと、
「だなあ。でもよ、猫とか犬があんなとこに入るわけがないよな。
 蔦のほうに足を向けてれば、壁は登れるかもしらんが」
モコ、モコ、モコと、蔦がその部分だけ高くなって、ゆっくりと上から下に、
何かが移動してるみたいでした。彼はあたりを見回して、それから街路樹の根元から、
コンクリのかけらを拾ったんです。「危ないよ。どこが窓かもわからないし」
「軽くだよ、軽く。気になるじゃんか」距離は5、6mほどのものだったと思います。
彼は下手投げの要領で、蔦のふくらみに向けてコンクリを放り、
すぐ近くにあたりました。そしたら、「んぎゃああああっ」って叫び声がしたんです。
私たちは息を飲み、ややあって彼が「・・・猫だよな」って言いました。
でも、私には赤ちゃんの泣き声に聞こえたんです。そのとき蔦は平らに戻ってました。

Mさん(飲食業 男性 54歳)の話

ああ、あそこの蔦の家の話だ。うちは、その右隣なんだよ。
いろいろ迷惑しててね。あそこはだいぶ前に前の住人が売ってしまって、
不動産屋の管理になってるんだ。だから、そこには何度も苦情を言ってたんだが・・・
にしてもね、あの家はなんかあるよ、間違いなく。
あのね、これじつは内緒の話なんだが。あることがあって、
不動産屋に苦情を言ったら、迷惑料として月5万円もらえるようになったんだ。
それ、法外だろ。向こうはたぶん口止め料の意味も含めてると思うんだ。
そうにおわせるようなこと言ってたからね。
だから、ここで話すのもあんまりよくはないんだよ。
うん、あんたらが謝礼を出すって言うからしゃべるんだけど、内緒にしといてくれよ。
あの蔦がね、うちに侵食してきたんだ。

あの家の垣根と、うちの塀は隣り合ってるんだが、まずそっから。
でもな、それはそんなでもないんだ。これも不思議だよ。
ツルの先がひょっ、ひょっと塀にかかるだけで、そのツルには葉がつかない。
それにツルはうちの塀の上にくると、くるんと丸まって元の方に戻ってく。
まるで蔦に意志があって、自分で入っちゃいけないってわかってるみたいに。
だから、うちの女房が伸びてくる先っぽをちょこちょこ切る程度だった。
それに、あれだけ生い茂ってるんだから、虫もわくだろうと思うだろうが、
それはないんだな。むしろ虫のほうで蔦を避けてる感じで、
うちの庭にきたチョウなんかも、そっちには入っていかないんだよ。
それでな、あることってのは、うちの4畳半の和室が、隣に面してて、
そこ、死んだ婆さんが使ってた部屋だけど、今は空いてるんだ。

だから女房もたまにしか掃除しない。で、去年の夏前だな。
その4畳半の畳の間から、蔦のツルが上に伸びてるのを見つけたんだ。
でもよ、これも変な話だろ。植物ってのは、光合成をするから、
光があたらないとこには入ってこないはずじゃないか。
それに根っこじゃないんだから、地面を掘って進む力なんてもないはずだ。
まあな、タネだけが換気したときに飛んできたのかもしらんけど。
で、女房がその先っぽを引っ張ったら、ズルーっと長く出てきて、
小さな葉が畳の上に散らばった。うわ、床下まで蔦でいっぱいなのか、
女房がそう考えてたら、出てきたツルがゴムみたいにまた下に戻ってった。
あきれた女房がも一度強く引っ張ったら、床下で「おぎゃーっ」て、
赤ん坊の声がしたんだそうだ。まあ、床下で赤ん坊が生きてるわけはないんだが。

Oさん(会社員 男性 32歳)の話

はい、その家を所有・管理してるのはうちの会社です。で、担当が自分。
ただ、会社としては、あの物件は売る気はないみたいで、ホームページにも、
パンフレットにも載せてません。だからお客さんを案内なんてしてないですし、
うーん、塩漬けというのともちょっと違いますね。
ほっといて地価が上がるようなとこじゃないんです。
だからね、毎年の維持管理費がムダ金として出てってるわけで。
それで、自分があの家に関して何をやるかっていうと、
ご存知のとおりの蔦でしょ。年に数回行って、
門から玄関までの蔦を取り払います。鎌を持ってってザックザック切り、
袋詰めしてバンに積んで捨てる。それが、他の部分は触るなって言われてるんです。
何でかは教えてもらえません。ああ、そうです、冬場は蔦は枯れます。

ですから、そんときに薬剤まいておけば、次の年は生えてこないんじゃないかと
思うんですが、あまり庭仕事は詳しくないんで。
ええ、庭は冬場には露わになりますよ。それがね、樽が何個も置いてあるんです。
漬物樽の大きいやつで、直径80cm、高さ1mくらい。上に石の重しが乗っかってます。
それもただの石じゃなく、文字が彫り込んであるんです。
遠目で見るだけなんで、何と書いてるかはわかりません。
それに近づくのは厳禁なんです。「お前の葬式出したくないからな」
とまで社長には言われてたんです。いや、冗談言うような人じゃないですから。
毒物・・・なんでしょうかね。よくわからないです。
で、玄関までの道をつけた後は、中に入って現状の確認をします。
そこで強く言われてるのが、蔦を家の中に侵入させるなってこと。

ええ、窓なんかは木の板で塞いでるんです。それから換気扇や、
外から中に入れるような穴も全部。でね、これ信じてもらえるかわかりませんけど、
家の中じゅう御札だらけなんですよ。元の住人じゃなく、うちの会社でやったことです。
全部で数百枚はあります。2階屋なんですが、一部屋に20枚は貼りますね。
床から壁から畳まで。御札は全部同じで、ひひらぎ様のものってことで、
これね、正式には「比比羅木之其花麻豆美神」という植物の神様らしいです。
正月早々に、社長に御札の束をごそっと渡され、自分が貼りかえに行くんです。
それで、今年の正月も行きまして、2階で御札を貼り替えてました。
これやるのもう4年目ですので、要領はつかんでて、最初に貼るときに、
はがしやすい糊を使うんですよ。そうすると翌年が楽です。
あ、家の中は電気きてません。窓塞いでほぼ真っ暗な中を床に電気ランタンを置いて。

それで、1階を終えて、あとは2階のふた部屋ってとこまできて、
気が楽になりました。あの家の中にいると息がつまる感じがするんです。
はがしては貼りを繰り返してると、窓を塞いだ板ごしにガリガリって音がしたんです。
ええ、外は蔦の葉は枯れても、からまり合ったツルはそのまま残ってます。
かなり太い木の幹みたいになった部分もあるんです。
そっから音が聞こえてきて。でも、気にしないようにして、
窓の板に貼った御札を一枚はがしました。そのとき、バーンと板が外れて下に落ちたんです。
ありえないですよ。家が傷むのを気にせず柱に釘づけしてますから。
で、窓の外のツルの上のもの見ちゃったんです。裸の緑の赤ん坊でした。
ええ、黒に近い緑。男か女かはわかりません。顔がドロドロに溶けてました。
あのときは、われながら素早かったです。落ちた板を持ち上げて、

その赤ん坊が見えないようにし、片手で押さえて御札を数枚貼りました。
それから部屋の中を向いて板を背中で押さえ、
携帯で会社に連絡して応援を頼んだんです。詳しい事情は言わなかったんですが、
15分くらいで社長がじきじきに来まして、
5寸釘で板をガチガチに打ち付けました。それから残ってる御札を全部その板に貼って、
社長はいったん戻って、新しい御札を一束持ってきました。
それで、一人でいる間にも、窓の外でガサゴソ音は聞こえてたんです。
心底怖かったですよ。後で社長に「説明できないことは聞くなよ」って言われ、
それで終わりだったんです。・・・何でこんな職業上の秘密をお話したかっていうと、
もうすぐあの家にいかなきゃいけない時期にきてるんです。
でも、嫌で嫌で、怖くてもう辞めようかと思ってるところなんです。

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太陽からの嵐

2016.05.25 (Wed)
今日は久々に科学ニュースから。ただし自分は苦手な方面の話なので、
間違ってる部分もあるかもしれません。

『私たちを含む生命体が地球に誕生したのは時に「奇跡のようだ」と語られます。
しかしNASAの新たな研究によると、「巨大な太陽嵐」が古代地球を温め、
生命体を誕生させた可能性があるそうなんです。
 太陽から巨大な炎が吹き出す現象の「太陽フレア」はよく知られていますが、
その中でも特に巨大で膨大な電磁波や粒子線、粒子が吹き出した時の現象を
「太陽嵐」と呼びます。さらに、文明誕生後のあらゆる太陽嵐の、
さらに10倍近く強い現象を「スーパーフレア」と呼ぶことがあります。
 
そして、天文学者はハッブルやケプラー宇宙望遠鏡にて恒星の
さまざまな段階を観測。その結果、
生命が誕生したとされる40億年前には、太陽の明るさは2/3程度で、
70%のエネルギーしか発していなかったことがわかります。
また必然的に、地球ももっと冷めた惑星でした。さらに地磁気も弱く、
一方太陽からはスーパーフレアに匹敵する太陽嵐が定期的に降り注いでいました。
 
そしてこのスーパーフレアの粒子が地球の極から大気に侵入し、
大気中の窒素分子を破壊。そして窒素原子が酸素原子と結びつき、
亜酸化窒素ができたというのです。亜酸化窒素は大気中で温暖化現象を発生させ、
地表の大気温度が上昇。さらに他の分子間の結合も促進され、
DNAやRNAといった生命の誕生に欠かせない物質も、
同時に生成されたと考えられています。』
(sorae.jp)

これはまあ、証明された内容ではなく、過去の大きな太陽嵐によって、
冷えていた地球が暖められ、高分子化合物を生成して、
生命が誕生する条件が整えられた可能性がある、という話なんですね。
かつては、落雷の影響で生命を構成する基礎的物質ができた、
などという説もありましたが、それを太陽フレアがとって代わったようなものです。
ここでいう太陽フレアというのは、太陽で発生している爆発現象のことで、
各種の電磁波を宇宙に放出します。

これが起きる原因は、はっきりわかってはいないのですが、
太陽上における磁気活動と関係があると見られています。
太陽の黒点も磁気活動によるものなので、太陽フレアと黒点は関連している、
と考えられることが多いようです。この太陽フレアの大きいものを太陽嵐といい、
もちろん人類の歴史上、何度も観測されています。

さて、このニュースで興味深いと思うのは、これまでSFやオカルトでは、
太陽嵐、太陽フレアは悪者扱いされることが多かったのです。
地球滅亡の原因の一つとなるのが定番でした。
映画の『ノウイング』なんかがそうでしたね。
それが実は、地球の生命誕生に役立っていたという内容は、
自分なんかは、面白いなあと思いますね。

太陽嵐が怖いのは、小惑星が地球に向かってくるという終末映画、
『アルマゲドン』などと違って、発生の予測が難しいからです。
あくまでも、ある程度までしかできません。
小惑星や隕石であれば、かなり前から到達時期や軌道がわかるのに対し、
太陽フレアは起きてから地球に到達するまで、
光の速度で8分間ほどしかありません。ですから、
対策を立てる時間がないし、防御する手段もほとんどないんですね。

ただ、これまで人類の歴史上で、太陽フレアによる大被害があったか、
というと、そうでもないんです。
というのは、一つは、太陽フレアは太陽の全面で起きるわけではなく、
局所的なものですので、電磁波の放出には方向性があります。
つまり、地球を直撃する可能性はかなり低いのです。
ただし、2012年7月23日の大規模な太陽嵐は、NASAによれば、
太陽風は地球の軌道上を通っており、発生が1週間前にずれていた場合には、
地球に直撃するおそれがあったのだそうです。

それと、実際に太陽嵐が襲ってきても、
大部分の影響は地球の磁場が防いでくれると思われます。
ニュースにあるように、太古の地球は地磁気が弱かったために、
太陽フレアが影響を与えることができたのでしょう。
現在の地球は、地球磁場、大気、オゾン層と、
何層もの自己防御機構?を持っているのです。

では、人工的に太陽フレアのようなものを起こせたらどうでしょう。
そういう兵器は実際に考えられていて、
「高高度核爆発」というのがそれです。高層大気圏における核爆発による
強力な電磁パルス(EMP)を攻撃手段として利用するわけです。
これは一般的には、非破壊、非致死性兵器と分類されます。
人間に直接被害を与えるのではなく、電子機器に影響を与えるわけですから。
現代社会は昔と違って、生活の隅々にまで電子機器が入り込んでいますし、
各種兵器ももちろん、ほぼ電子制御なわけですね。

ですから、一瞬で相手の国の社会、軍隊を無力化することができます。
しかし人的被害は多大でしょう。まず、交通機関が止まるわけですから、
事故などが多発しますし、病院の生命維持に必要な機器も停止し、
電気はもちろん、ガス、水道などのインフラにも大きな影響を与え、
万単位の死者が出ることは十分に予想されます。

しかもこれ、ヨーロッパなど国が密集した場所では、
ターゲットを絞るのは難しいですが、島国の日本に対しては、
比較的容易に実行できるのです。こう考えると、
自然災害は怖いですが、人間が引き起こすこともまた怖ろしい。

さてさて、最後に、今日の話題と関係ありそうなSF作品をご紹介します。
大御所アーサー・C・クラークの『太陽からの風』
地球ー月間のヨットレースの話ですが、宇宙空間に巨大な帆を張り、
太陽光の圧力によって走ります。ここで利用するのは通常の太陽光ですが、
受けて1分後には時速2km、宇宙空間は摩擦はほとんどなく、
太陽から無限に力を受け続けるため、1日後には時速3000kmにもなります。
ここでもし太陽フレアが起きれば、ヨットは甚大な影響を受けることでしょう。
宇宙空間には防御するものがありませんから。

フレドリック・ブラウンの『ヴァヴェリ地球を征服す』
太陽系外の獅子座からやってきた「電気を食べる宇宙生物」が上空に居座ったため、
地球上から電気がなくなってしまというお話。
1960年代が舞台で、当時は今ほど電気製品があふれていた
わけではないのですが、地球上は大混乱となり人口も激減します。
なにか上の「高高度核爆発」と被害の状況が似ていますね。
人類はやがて、アコースティック楽器や演劇を楽しみ、本を読むなど、
ヴァヴェリと共存して、電気のない生活に適応していく・・・・
現在のスマホ社会に、ヴァヴェリがやってきたらどうなるんでしょうね。
関連記事 『天体衝突の恐怖』
関連記事 『人間の行為、機械の行為』

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実際に怖い話を書いてみる

2016.05.24 (Tue)
えー今日はやや緊張気味でこの項を書いてます。
というのは、この時間までまったくネタを考えてないからで、
実況に近い状態の、ぶっつけ本番なわけです。
こういうときはまずシチュエーションを決めてしまいます。
何がいいでしょうか・・・なるべく調べなくても済む身近なもので・・・
そうだ、風呂、これでいきましょう。

ということで、風呂に関する怖い話をひととおり思い出してみます。
よくあるのは、目をつぶって髪を洗っているときに、
背中に手を回してリンスを取ろうとしたら、乾いた髪を握ってしまった・・・とか。
なぜ思い出すかというと、一つには人の話のマネにならないようにするためで、
もう一つは、風呂場での怖さにはどんなのがあるか再確認してみるんです。
何が怖いんでしょうねえ、うーん、ありきたりですが、時間もないので、
タイルのカビってことにしましょうか。これでお話を書きます。

カビ

ある会社の会計士をしています。この仕事、短期の出張が多いんです。
長くてひと月程度ですね。各支店を回って監査の対策をしたり、
経理業務の効率化をアドバイスしたり。
ですから、私のような女性って珍しいんですよね。
出張の間は、もちろんホテル暮らしなんて贅沢はできませんから、
短期契約で敷・礼金なしの、俗にいうマンスリーマンションです。
昔は壁が薄いとかいろいろいわれてましたが、今はだいぶよくなってます。
それで、そこは3月の初旬に入ったんですが、2週間の予定でした。
一部屋に簡単なキッチンと、バス・トイレ。家具付きですが、
どれもまだ新しく、清掃業者を入れてるのでキレイなものでした。
お風呂も、最初に見たときには何でもなかったと思ったんですが・・・

入居して2日目のことです。お風呂に入っていました。私はかなり長湯なほうで、
1時間は入ります。体を洗って、湯船に浸かっていたときのことです。
頭を蛇口と反対側の浴槽にもたせかけていたんですが、ちょうど顔のすぐ横の、
薄いブルーに白い目地のタイルが薄暗くなって見えたんです。
頭の影だと思ったんですが、指を伸ばしても影はできません。
おや、と触ってみましたらベトッとした感触。指先を見ると、
数mmほどの短い毛のようなのがたくさんついていました。
ええ、指先にヒゲが生えたみたいに。気持ち悪いと思い、
浴槽から出て手先を洗いました。それからあらためてタイルを見ると、
私が頭をもたせかけてた真横が、直径20cmばかりの円形に黒ずんでました。
「えー」と思いましたよ。入ったときはまったく気がつかなかったんです。

近づいてよく見ると、そこだけ全面に短いヒゲが生えたようになってて、
カビだ、と思いました。いったん上がってキッチンペーパーを取ってきて拭くと、
ひと拭きで取れたものの、紙がかなり黒ずみました。嫌だなあと、
タイルの他の場所も見たんですが、何でもなかったんです。そこだけ。
これ不思議ですよね。お風呂には最初の日も入ったので、
もしかしたら私の髪がそこに触れて、人の脂でカビが生えたのかなあ、
なんてことも考えたんです。でも、たった1日くらいのことでねえ。
それで、業者が清掃のときに拭き忘れたのかな、ってそう思うことにしました。
翌日、遅く帰ってきてお風呂に入る前に、タイル全体を確認しました。
何でもなかったので、昨日のはたまたまだったんだろう、
と考えることにしました。ところが、やはり湯船に浸かっていて横を見ると、

細かいカビが同じ場所にびっしり。「キャー」と叫んで、
まだ頭も体も洗ってなかったんですが、出てしまいました。それにしても、
私が入って数分のうちにカビが生えるなんてありえないですよね。
服を着ると、近くのコンビニに行って消毒液を買ってきました。
テイッシュをほとんど一箱空にしてそこのタイルを熱湯で拭いたら、
やっぱり細かなヒゲ・・・他の場所はやはりなんともなかったんです。
怖くなってきましたが、何か化学的な理由があるんだろうとも思いました。
それで次の日は、早めに社を出てドラックストアで「カビキラー」を買い、
丹念にタイル掃除をしたんです。そのときはカビは生えていませんでした。
それでも、その日お風呂に入るときには警戒して、いつもと反対、
蛇口のある側に頭が来るようにしたんです。

ええ、それでお湯に浸かりながら、タイルのその部分を見ていました。
1分、2分とカビは生えてきませんでした。「あたり前だよね」
なんとなく安心しましたら、ふっと眠気・・・ちょっと違うかもしれません。
私は経験ないですけど、首をしめられて気が遠くなるような・・・
そんな感覚があったんです。頭がゆらゆらと揺れてる感覚がかすかにあり、
ブクッと、口がお湯の中に沈んで気がつきました。「えええ!?」
立ち上がろうとしたとき、タイルに頬をこすりつけました。
ザラッ、「えっ、えっ!?」私は入ったときと体の向きが反対になってて、
あのカビのタイルに顔をこすりつけてしまったんです。
湯船を飛び出して鏡を見ると、右の頬にヒゲのようなカビがたくさんついてました。
「いやー」タオルで拭き取り、すぐゴミに捨てました。

それから、おそるおそる浴室の中を見たんですが、
やはりその部分だけタイルが黒くなっていて、私の頬でこすれたところも、
みるみるうちに同じカビで覆われていったんです。
しかもそのカビ全体の形が、うつ伏せになって浴槽の縁に頭の先をもたせかけてる、
短髪の人の頭に見えてきたんです。「これはダメ、こんなとこにはいられない」
そう考えましたが、あと10日程度のことですし、
支店に部屋を代えてくれと言うのはためらわれました。
それでネットで探して、バスで15分程度の健康ランドに行くことにしたんです。
部屋では寝るだけ。食事もすべて外食にしました。
その間、お風呂のドアはずっと閉めたままでした。残りの出張期間が過ぎ、
部屋を出る日に、不動産業者立ち合いで部屋の確認をしました。

そのとき不動産屋の方が、しばらくぶりでお風呂のドアを開けました。
「おや、お湯が残ってますね」不動産屋の方が言い、「えー、流したはずですけど」
そう答えてのぞいたら、あのカビの部分に人の後頭部がありました。
やはり短髪の男性で、体は見えなかったです。「いやー、頭、人の頭!」
「え、何です? どうかしましたか?」私が後ずさりしながら指差しても、
業者の方には見えてないようでした。「そこに人の頭が」 「ええ、どこですか?」
そうしてるうちに頭はぐるんと裏返り、真っ白になった両目で、
にやっと笑って消えた・・・そう思いました。「ああ、ここだけなんか
カビが生えてますね。清掃業者に言っときます」不動産屋の方はそう言いました。
今は自分の部屋に戻ってるんですが、カビのことが気になりまして、
お風呂は1時間以上掃除してから入るんです。人にはおかしく思われるかもしれません。

と、だいたい15分くらいで書き上げました。
これ主人公は女性ですが、お風呂の話なので、男だとあんまり
読む気はしないですよね。そういうことも考えて登場人物は決めてるんです。
この部屋はひんぱんに居住者が代わるタイプなので、
すぐ前でなくても、数代前に何かがあったのかもしれません。
自宅の風呂では難しい話なので、主人公は短期出張を繰り返す職種、
ということにしまして、最初はそのあたりの説明。

あと怖さの点に関しては、カビの生理的な恐怖を取り入れることにしまして、
短い毛のようなカビって気持ち悪いですよね。
さらにすぐ取れて、自分の体にくっついてくるようだとなおさら。
風呂場は清潔になるところなのに、汚れてしまうのは嫌です。
あと、そのカビが、風呂に浮いている人の頭にシンクロするような形で書き進め、
知らないうちに自分の体が逆を向いているシーンなども入れました。
どうでしょう、怖くなったでしょうか?







空間の怪談

2016.05.23 (Mon)
今日は怪談論です。ネット小説だと「異世界」というのが流行ってるようですが、
異界、異世界、異空間、他世界、亜空間、異次元・・・いろんな言葉があって、
定義がはっきりしませんよね。ですので、本項ではいちおう
「空間」ということにしぼって書いていきたいと思いますが、
なかなかそうもいかないかもしれません。

空間に関する怖い話で、よくあるのが「本来あるはずのない空間に入る」
というものです。それと、建築の迷信的なこと、
日本だと4階、西洋だと13階が忌避されて設置されないというのを
組み合わせたホラー短編が思い浮かびます。
ウィリアム・テンの『13階』や、フランク・グルーバーの『13階の女』が
有名です。ウィリアム・テンのほうは、いつもながらのとぼけた味わいでしたが、
グルーバーのほうは、ありえない内容を、なかなかシリアスに書いてました。
どちらの話も、最後は悲劇的な結末で終わります。

このどっちかを翻案したとされるのが、水木しげる先生の漫画『だるま』で、
塔のような建物のないはずの4階を、だるまに手足が生えたような妖怪?
たちが借りにきて、そんな階はないのに家賃が入ってくるので、
所有者は喜んで貸すものの、さまざまに奇妙なことが起こり始めて・・・
というお話でした。

あと、少し前、ネットでエレベーターの怖い話が広まりましたが、
これも空間に関連したもので、
『1.10階以上あるエレベーターに一人で乗る。
 2.エレベーターに乗ったまま、4階、2階、6階、2階、10階と移動する。
   この間に誰かが乗ってきたら失敗。
 3.10階にきたら、降りずに5階を押す。
 4.5階に着いたら若い女の人が乗ってくる。乗ってこなければ失敗。
 5.乗ってきたら、1階を押す。
 6.エレベーターはなぜか1階に降りず、10階に上がっていく。
   途中で降りるこれが最後のチャンス。
 7.10階に着いてしまったら、そこは別の世界。』


こんな内容だったと思います。かなり盛り上がって、
実際にやるところを実況するスレもできましたし、
youtubeにまだ動画もあると思います。この意味なく階を移動するところが、
呪術めいた手順でワクワク感があるんですね。
「ひとりかくれんぼ」というのもそうでしたが、
意味不明な面倒くさい方法ほど、何か起こりそうな気がするものです。

あとそうですね、ありがちなのは、
夜中に忘れ物を取りに教室へ行き、さて帰ろうと階段を降りるが、
いくら降りても1階に着かず、そのまま行方不明になってしまう。
3階建ての建物のはずが、なぜか4階に続く階段がある。
4階に行ってしまうと戻れなくなる。というような階段に関連した話。

これの元ネタというわけでもないんでしょうが、
マーガニスタ・ラスキというよくわからない作家の『塔』という話があります。
(わりと最近『ヴィクトリア朝の寝椅子』という本が出たようです。)
新婚旅行途中でふと見つけた、奇妙な形の塔に一人で入ると、
下に降りるはずの階段がいつまでも途切れないで続いていく・・・
たぶん地獄まで。悪魔主義をにおわせる描写がなかなか不気味でした。
単純なアイデアだと思うんですが、ホラー小説の場合は、
書き方の工夫で怖くすることができるんですね。

それから、隠し部屋的な話も空間の怪談に含まれるでしょうか。
『ジョジョの奇妙な冒険』Part6 ストーンオーシャンで、
ピアノやパソコンも備えた「幽霊部屋」というのが出てきてましたね。
幽霊がいる部屋ではなく、部屋そのものが幽霊。
だからどこにでも出現できます。このアイデアを借用して、
例えば、建物の間取り図にはないし建坪的にも不可能なのに、
なぜかときおり入ってしまう不思議な部屋、なんて話もできそうです。

こうして見てくると、空間の怪談の怖さは、
「実際の世界に戻れない恐怖」を描いているものが多いようです。
ちょっとした好奇心から、おかしいとは思いながらも踏み込んだ空間で、
もう元には戻れないかもしれないという主人公のあせり、
エレベーターの話もそうですが、途中でやめればよかったという後悔、
そんなのが主題となるようです。

さてさて、最後に、怪談とは直接関係はないのですが、
幾何学的な遊びとして「不可能図形」というのがあります。
これは目の錯覚を利用したものが多いのですが、
視覚によって3次元の投影図として解釈されるような2次元の図形、
というのが定義のようです。下に例をあげておきます。
ご存知とは思いますが、版画家のマウリッツ・エッシャーは、
このテーマでいくつも作品を描いていますね。
関連記事 『時空ものについて』

「ペンローズの三角形」と「ブリヴェット(悪魔のフォーク)」


マウリッツ・エッシャー『滝』







長顔の話

2016.05.22 (Sun)
* 鏡怪談を書いてみました。

まず初めに断っておきますけど、この話、俺の勘違いかもしれないんです。
勘違いっていうか、幻覚とか白昼夢とか。
ただ、そうだとしてもつじつまの合わない部分があるんです。
そのあたりがどうなってるか、教えていただきたいと思って。
つい先週のことです。俺ね、○○大の3年で、サッカー部なんです。
いや、部活は趣味みたいなもんで、正式な部だけど、
サークルより練習量は少ないかもしれません。リーグとかに入れないほど弱いんです。
練習も週に2回だし、地元の高校にも負けるんですよ。
でね、金曜日部室で着替えてたら、2年生の後輩が3人、
心霊スポットに行くって話で盛り上がってたんです。
俺、幽霊とかそういうのってまったく信じてなかったんです。

だからこう声かけまして。「お前ら、マジで幽霊とか信じてるのか?」
したら、「いやあ、ないとは思うんですけど、何かそういうのワクワクしませんか」
「しねえよ。それに男だけで行ってもしかたねえだろ」
「うーん、まあそうですけど、やることないもんで」
「で、どこに行くわけ?」 「あの国道○号線沿いにある廃ホテル」
「ああ、知ってる。火事になったとこだろ」
「そうです。でも、燃えたのは一部だけで、普通に建ってますから」
「入れるのか」 「行ったやつらの話だと、鍵とかかかってないって」
「ヒマだなあ」 「先輩も行きませんか。俺、車出すんですが、もう一人乗れます」
こんな話になって、俺も行くことにしたんです。
時間は6時過ぎでも、まだけっこう明るかったですね。

その車の中で、廃ホテルの2階トイレにある鏡の話が出まして。
「あの階の2部屋が燃えてるんです。で、火元の部屋の隣がトイレなんですが、
 そこの洗面所の、入って2番目の鏡を見ると、顔が長く伸びるんだそうです」
「はは、それなあ、火事の熱でガラスが変形してるとかだろ」
「たぶんそうだと思いますけど」 「全然怖くねえな、死んだ人とかいるのか?」
「わかりませんけど、いないんじゃないかな」 「ふん」
ホテルまでは車で30分ほどかかって、だいぶ暗くなってきました。
「お前ら、懐中電灯とか用意してるのか?」 「2本持ってきてます」
いわゆるラブホテルなんで、駐車場から簡単に入れたんですよ・・・けど・・・
まず1階を見まわって、開いてる部屋も鍵かかった部屋もありました。
2階に上がると、廊下の天井の一部が確かに黒く焦げてて、

火が出たという2部屋は入れないほどの惨状でした。トイレに入ってみると、
タイルが少し黒くなってる程度。鏡はどれも割れたりせず、
変形もしてないように見えましたね。「2番目って言ったよな、これだな。
 暗くてよく見えんな。ちょっと横から照らしてくれ。違うって、
 鏡だけ照らしたってしょうがねえだろ。俺の顔と鏡を同時に照らすんだよ」
で、のぞいてみたら、鏡に異常があるとは思えませんでしたけど、
たしかに顎のあたりが少し伸びてるように見えた・・・と思ったんです。
「やっぱガラスが溶けてんだろうな、うわあああああ」
俺が振り返ると、横にいた後輩の顔が伸びてたんです。3人が3人とも。
それも普通の顔の3倍以上になって、あごがベルトの辺まできてたんです。
「うわわわわああああああっ」そこで意識が途切れちゃいまして。

次、気がついたとき、後輩の車の後部席にいました。「あれ、どした、どうなった?」
「あ、先輩、気がつきましたか。これから病院に向かいますから」
「俺、ホテルのトイレで倒れたのか」 「いえ、トイレまで行ってません」
「え?」 「先輩、駐車場に入るなりすぐ頭いてえって言ってうずくまって、
 そのままくたって崩れたんです」 「嘘だろ、だって2階のトイレに入ったじゃねえ」
「入ってません」前の2人もうなずきました。「・・・・じゃ、夢見てたのか??」
わけわからないってこのことですよね。頭を振ってみたら痛くもなんともなくて、
「いや、病院いい、保険証持ってきてないし、なんともないから」
「でも先輩、今日練習中に転んでましたよね」 「大丈夫、なんともないって」
それにしても、駐車場までで、ホテルの建物にも入ってないというのは、
信じられない思いでした。「お前ら、俺、怖がってると思ってるんだろ」

「いや、思ってないですよ」 「・・・そか、しかしこれリベンジしなくちゃならんな。
 そうだなあ、明日、俺、午後は講義ないから、一人でここに来てみる。
 でだな、その2番目の鏡にマジックでなんか書いとくわ」
「一人でですか」 「じゃないとお前ら、俺が怖がって具合悪いふりして
 中に入らなかったとか噂流すだろ」 「そんな、しませんよ」
「冗談だよ。けどなあ、確かめてみたいことがあるんだ」
俺が見たと思ったホテルの内部ね、それがどうなってるか確認したかったんですよ。
これが全く違ったものなら、やっぱ夢だったって納得できるでしょ。
この日は、後輩にアパート前まで送ってもらったんです。
翌朝起きても頭も体も特に具合の悪いとこはなし。
でね、午後の2時過ぎに、俺車ないから、バイクで廃ホテルに向かいました。

いやあ、中は誰もいませんでしたよ。落書きもほとんどなし。
やっぱ駐車場から入って1階を回りました。それでね、中の様子は俺が見たと思ったのと、
まったく同じだったんです。・・・前に来てるのを忘れてるんじゃないかって?
いや、いやいや、それはないです。ホントに初めてなんですよ。
なのに記憶にある、入れる部屋、鍵のかかった部屋、これも同じだと思いました。
2階にあがっても、焼け焦げの様子もそのとおりで・・・
ここでね、もしかしたら後輩たちが何かの事情で俺をだましてるんじゃないか、
って思ったんですよ。本当は中に入ってて、あのトイレまで行ってるのに、
あいつらが口裏を合わせて、俺が入る前に倒れたってことにした・・・
でもねえ、そうする意味ってなんかあるんですかねえ。
変な話だよなあ、って考えながらトイレに入ったんです。

2番目の鏡の前に立ちました。まだ3時前で、その日は晴れてましたからね。
ラブホテルで窓が少ないとは言っても、トイレは明るかったです。
映った顔は、昨日見たとおり、ほんのちょっとだけ鼻の下あたりからあごまでが
伸びてるように見えました。「うーん、同じだよなあ」
でね、ガラスにさわってみようと右手を出したんです。そしたら、
普通は鏡の中の俺も、こっちに向かって指を突き出しますよね。
ところが、鏡の中の俺は両手で自分のあごをつかむと、
下に向かってぐわっと引っ張ったんです。そしたら、鏡の中俺の顔が、
ぐによーんと伸びて。「わああああああああっ」見たのはそこまでで、
走って走って、階段を何段もとばして駆け下り、
ゼイゼイ息を切らしながらホテルの外まで出たんです。

バイクに飛び乗って、そこでヘルメット被るときに、あごを触ってみました。
そしたら何ともなかったんです。とにかくね、少しでもそのホテルから離れたくて、
かなり飛ばして街中まで走りました。警察がいなくてよかった。
でね、アパートに戻って風呂場で鏡見ました。
はい、顔はなんでもなかったんですが、しばらく見てると、
鼻の下がむずむずしてきて、ホテルの鏡で見た自分の顔を伸ばすシーンが
よみがえってきたんです。気がつくと、両手で左右のあごからこめかみのあたりを
つかんでました。鏡の中の俺がじゃなく、実際の俺がってことですが、
区別つかないですよねえ。後ろに倒れるようにして鏡から離れて、
そこにタオル被せました。それ以来、鏡、ただのガラスでもそうですけど、
見るのが怖くなったんです。ねえこれ、どういうことなんでしょう。説明つきますか?






天井裏の話

2016.05.21 (Sat)
ある公社に勤めてる者です。よろしくお願いします。
いやね、公社の上の方から、ここで話をして対処法があれば聞いてくるように、
って言われているんです。事態が大きく動いたのはここ2週間くらいなんですが、
おかしなことは今の社宅に住むようになった昨年からあったんですよ。
ええ、わたしは全国を股にかけた転勤族でして、だいたい3、4年で
引っ越しをします。家族は妻と、まだ小学生の子ども2人ですから、
それはたいへんですよ。でね、去年の4月から今の社宅に入ったんです。
そうですね、築20年くらいの2階建ての1軒家で、社が借りてるものですので、
家賃等はいっさいかかってません。わたしたちの前ですか?
それが、その頃はまだ所有者がおりまして。40代の男性だということでした。
その人が親から受け継いだ遺産。その方が亡くなって親族の所有になったみたいです。

社が賃貸料払ってるのは不動産屋ですけどね。
いや、その方は家でなくなったわけじゃないんです。登山を趣味にしてて、
山で遭難死されたって聞いています。ともかく順番を追って話していきます。
昨年の4月にその家に入りまして、それまでの社宅とは違って広かったですから、
子どもらもよろこんでたんですよ。それぞれ自分の部屋が持てるって。
でね、入居するにあたって、テレビのアンテナとかエアコンの工事などもしたんです。
そのときは、とくだん異常はなかったってことでしたがねえ。
子どもら・・・上が小6の長男、下が小4の長女ですが、
どっちも新しい学校に慣れてきた8月のことでした。
居間と寝室は1階で、子どもらの部屋は2階です。
最初に気がついたのは家にいる妻でした。天井で異音がするって。

大きな音じゃなく、小さなものがトントン走り回るような。
1階の天井裏ってことですね。これ聞いたときには、ネズミだろうって思いました。
社に言えば対応してくれると思ったんですが、わたしもほら、
転任してきたばっかりの支社でしょう。「まあ、様子みよう」って言って、
しばらくほっといたんです。実際私や、子どもらが学校から帰ってきて、
家にいるときには音はしませんでしたからね。
ええ、日中しか音はしなかったってことですね。でも、よくはわかりませんけけど、
ネズミって夜行性なんでしょう。だから夜に音がしないのは違うんじゃないかって。
でも、妻があまり気になるって頻繁にこぼすので、ネットで調べて業者に来てもらったんです。
これね、自費だったんです。転勤するにあたってかなりの手当が出ますし、
たいした金額でもなかったんで。業者は、有名な殺虫剤を出してる薬品会社の子会社で、

それなら、ぼられる心配もないだろうと思ってました。
でね、2人組の方が来て、さっそく押入の天袋から天井裏に入ってもらったんです。
1時間くらいして下りてきて、「ネズミがいる様子はない」って言ったんです。
巣もないし、つくるための巣材もない。フンも足跡も歯の跡もないって。
「それにしても、ここの屋根裏はかわったつくりですね。いや、建築自体は普通だけど、
 おかしな手の入れ方をしてる」どういう意味か聞きましたら、
「ネズミって、天井裏に餌はないでしょう。だから夜になると必ず食料のあるとこまで
 降りてくる。イエネズミは、まず外から餌を持ち込んだりはしません。
 それがねえ、ここの天井は周到に、生き物が下に降りられないようにしてます」
業者が言うには、天井裏の下部、つまり天井板の上面ですが、
そこにぜんぶ、薄いトタンが敷かれてるってことだったんです。

これ変でしょう。雨漏り対策なら屋根にするのが普通ですよね。しかも1階だし。
でね、さらにトタンの上にビニールシートまで被せられてるって。
「私らが入っていった押入の天袋ね。あそこなんか特に厳重に、
 上に厚板が張られてましたよ。その他、風呂場もトイレも台所も、
 ネズミが下に出られるような隙間はしっかり塞いであるんですよ。
 うーん、前の住人の方がされたんでしょうけど、普通はありえないです」って。
続けて「音がするのは、鳥や大きな虫かもしれませんね。
 外から入れる隙間もないと見たんですが、これ工務店に相談したほうがいいかも」
こんな話をされました。ということで、ネズミではなかったんです。
その後、わたしが家の外回りをぐるっと見てみたんですが、
壁は新しく塗り直したばかりで、虫が飛び込む隙間があるとは思えませんでした。

でも、業者が入ってから、妻が音がするっていうこともなくなったんです。
よかったなって思いましたよ。妻はわりと神経質なほうで、
転勤には慣れているといっても、新しい環境になじむには時間はかかりますから。
それから4ヶ月くらいたった11月のことでしたね。夜中に、
下の娘がわたしたちの寝室に入ってきまして、「怖い夢を見た」って言うんです。
「どんな?」って聞いたら、娘の部屋、ベッドと机を置くといっぱいのせまさですが、
そのわずかな床面から、黒い丸いものが生えてきたってことでした。
「何だと思ったの?」「たぶん髪と頭じゃないかな。私と同じくらいの女の子の頭が、
 少ずつじわじわ床から出てきて、すごく怖かった」って。
まあ夢ですからね、内容を詮索してもしかたないと思いました。
でも、その日から娘は自分の部屋に入らなくなっちゃったんです。

勉強は下でするし、寝るのも毎日わたしたちの寝室で。ま、しばらく前まで
そうでしたから、別に困ることもなかったんです。ただ、娘の部屋に入ってみたら、
床のカーペットに丸いシミができてたんです。娘に聞いたら、
「ちょうどその場所から出てきた」って。油のシミみたいな感じで、
拭いてもとれませんでしたね。でも、これもねえ、
そのときは娘が何かこぼしたと思ってたんですよ。で、また2ヶ月くらいして、
冬の最中ですね。今度は息子です。部屋が臭うって言うんです。
腐った臭いがするって。行ってみましたが、わたしはまったく感じませんでした。
息子は「最近夜中に目が覚める。そのときに部屋中が腐った臭いでいっぱいになってる」
そう言うんですね。そのとき、「もしやこいつ、妹が寝室でわたしらと寝てるのが
 うらやましいのかな」って考えまして、でも6年生ですから、

自立してもらわなくちゃと思って、「じゃあ、臭いがしたとき、父さんを起こしにこい」
って。その2日後、夜中の2時過ぎに息子に起こされまして、
自分で言ったことですからね、しかたなく、寝ぼけまなこで部屋に行ってみました。
「えー、別に臭いとかしないだろう」 「父さん、頭下げてみて」
ベッドの高さまでかがんでみましたら、確かにね、肉が腐ったような臭いがしたんです。
それも下にいくほど強く。「ああ、するなあ」息子の屑かごやベッドの下も見ましたが、
なま物なんてなかったんです。寒かったですが、窓を開けて空気の入れ替えをし、
その場は寝かせました。翌朝、息子の部屋に入りましたら、もう何の臭いもなかったんです。
おかしいでしょうこれも。で、息子はその日からやはり下で寝ることになり、
寝室は妻と2人の子ども。わたしが追い出される形で、
居間に布団敷いて寝ることになったんです。

これじゃあ、広い家に入った意味がないなって思いましたよ。
でね、ときおり息子の部屋には入ってみましたが、
それっきり変な臭いはしませんでした。そんな状態でずっときまして、今年の5月、
2週間前のことです。わたしはほぼ定時退社ですので、7時頃に家族で夕飯を食べてました。
1階の居間でです。そしたら、天井でドタタタタッという大きな音がしたんです。
金属的な音でした。「あ、天井板にトタンが張られてるって、これか」
ネズミ駆除業者の言葉を思い出しました。音はトットッ、ドタタ、トットッと、
止む様子がなく、居間の真上だったので、ほこりが落ちてきました。
「あ、これ鳥かなあ。トットッというのが走る音で、飛び上がって頭をぶつけ、
 下に落ちてるんじゃないか」はじめのうちは、そういう音だったんです。
ところがそれが、だんだんにドンドンという足で踏みつけるような強い音になり、

天井板がたわむのがはっきりわかったんです。ホコリやワタゴミが落ちてきて、
妻が新聞紙を出して料理にかぶせました。「こりゃただごとじゃない!」
そう思って、天井裏に上がる決意をしました。ドンドン、ドカン、ドドドドッ。
いきなりです、居間の天井の中央が二つに裂け、両側が下に垂れ落ちてきました。
悲鳴をあげて立ち上がった妻の頭に片側の板とトタンがあたり、妻はうずくまって、
床に血がしたたりました。「お母さん!」子どもらはパニック状態で、そのときドダンと、
テーブルの上に裂け目から何かが落ちてきたんです。何だと思いますか?
・・・古いアルバムでした。かなり分厚く重く、誰にもあたらなかったのが幸いでしたよ。
妻は軽症で、髪の中を少し切っただけでした。今は社に話してあの家は出ています。
でねえ、そのアルバムですが、開くことができなかったんです。
1ページずつ、すべてガチガチに糊づけされてるんです。はい、今持ってきています。







鼻曲がりと古代紫の話

2016.05.20 (Fri)
これねえ、すごく変な話なんです。だから、だれも信用してくれなくて。
でもね、一枚だけスマホの画像があるんです。
あとでそこのスクリーンにプロジェクターで映しますけど、
これね、見てるとなんか頭がおかしくなってくる感じがするんですよ。
いちおう今、注意しておきます。ほんと、頭グラグラするから。
話は去年の夏です。俺、大学3年だから2年のとき。
夏休み中だったけど、バイトあるから実家にはお盆しか帰らなかったんです。
それで、その日はバイト先の仲間と雀荘で麻雀やってたんです。
12時で店終わったけど、なんか頭がさえて帰る気がしなくなったっていうか。
かといって皆、飲みに行くほどの金持ってなかったんです。
その時間だと安い居酒屋はやってないですから。

でね、車で来てたやつがいたから、どっかにドライブしようってことになって、
市営の共同墓地に行くことに決まったんです。肝試し?
まあ、そうとも言えますけど、俺らお化けとかあんまり関心なかったんで。
そこは小高い丘を切り開いて造られてて、区画ごとに同じ墓が並んでて、
昔はそこの坂を暴走族のバイクがよく走ってたそうなんです。
いや、今はもう警察に徹底的にやられて、そういうのはないんですけど、
中央の広場で多人数の乱闘があったとか、バイクが崖から落ちたとか、
いろいろ伝説的な話を地元出身のやつから聞いて、現場見てみたいなって思ったんです。
道はくねくねしてますが、舗装されててずっと車で行けるんです。
で、行ってみたら、当たり前だけど人っこ一人いなくて、すごい静かでした。
たしか土曜日だったけど、アベックもいませんでしたねえ。

夜景はきれいでしたよ。ただ時間がもう1時近くなってたから、
港の明かりはほとんど消えてましたね。中央広場の自販機でコーヒーとか買って
一服して、それから山の裏手のほうに歩いてったんです。
さすがに墓地区画に入ろうってやつはいませんでした。
裏手は県の史跡になってるんですよ。なんか未発掘の古墳らしいんですけど、
その上に石人というのが何体か立ってるんです。
埴輪というのとは違うみたいですね。石を彫りつけたもの。
ほら、奈良県に石舞台ってのがあるでしょ。
あの近くに猿石というのがあるじゃないですか。時代とかわからないけど、
それに類したもんだと思います。で、地元のやつの話だと、
一体一体に名前がついてるって。ええ、「鼻曲がり」とか「タコ僧都」とか。

何か面白そうでしょ。で、行ってみたら、こんもり高くなって草生えてる上に、
4体の石人が並んましたが、すごい厳重な鉄柵に囲まれてたんです。
人の胸くらいの高さで、先が槍みたく尖ったやつ。
俺ら懐中電灯とか持ってなかったんで、石人の顔までははっきり見えず、
どれがどれかわからなかったんです。ツマンナイんで戻ろうとしたら、
一人のやつ、Sってしときますけど、そいつが柵に足掛けて上り始めまして。
「おい、やめろ。足跡ついたら捜査されるかもしれんぞ」って言ったんですが、
あっという間に向こう側に降りて、「お前らも来いよ」って。
それでね、服を引っ掛けないようにして入ってみました。
石人はどれも1m50cmくらいで、でも昔の人って身長そんなもんでしょ。
顔が平べったくて、斜め上の方を向いてました。

でね、髪の毛は彫られてないから、どれがタコ僧都かはわからなかったんですが、
鼻曲がりははっきりわかりました。並んでる左から2番めのやつが、
三角形の鼻が右方向に曲がってて、すごく間抜けた顔だったんです。
でね、Sのやつがふざけて、「お坊さん、鼻が曲がってますよ」って言いながら、
その鼻をつかんでグイってねじったんです。したらそのとき、
カメラのフラッシュみたくあたりが光ったんです。「え、え!」ってみなあせりました。
不法侵入で証拠写真撮られたかと思ったんです。でも、柵まで駆け寄って探しても、
あたりに人の姿はなし。そのとき、Sのやつが変な顔してこう言ったんです。
「鼻やわらかくて、生きてる人のみたいだった」って。「そんなはずねえだろ」
もう一度石人に近寄って見たら、曲がってた鼻がまっすぐになってたんですよ。
これ不思議でしょう。で、みながまたねじってみても元に戻らなかったんです。

「変だなあ」とか言いながら柵を出て車に向かったんですが、
林の切れ目の夜景が見えるとこで、「あ、何だよあれ」って一人が叫んだんです。
でね、下を見たら、街全体がぼうっと紫に光ってたんです。
なんと表現すればいいのかなあ、赤や青のライトはそのままなんですけど、
その上から紫色のフィルターをかけたような感じ。「なんだこれ、霧か?」
「なんかの自然現象だよな」とか言ってたら、Sのやつが「古代紫だなあ」
って言ったんです。みながちょっとあっけにとられました。
普段はそんな詩的なことを言うやつじゃないんです。金と女のことしか頭にない。
「はあ、古代紫ねえ」 「そうだよ。古代の紫はチョチョラチョラ、チョララリイ」
Sはそんなことを言うと、急に手足を振り回して暴れだしまして。
ふざけてるかと思ったら、そうじゃなかったんです。

自分の鼻をつまんで思いっきりねじって、鼻血が吹き出しました。
そのまま尻もちをついて手足をバタバタさせて、みなで押さえつけたんですが、
すごい力でした。一人が胴の上にまたがり、2人で足を持ったら、
エビ反りになって暴れたんです。その状態が10分くらい続いて、
どうしようもなくて、俺が携帯で救急に連絡したんです。
そしたらオペレーターが出て、場所聞かれました。「市営墓地の山の上です」
って言ったら、「救急車はもう出ました。どんな状況ですか?」って聞かれたので、
Sの様子を説明しました。そしたら、沈黙があって、
「そちら、もしかしそこの石人の鼻さわった?」って聞かれまして。
「何でわかるんだろう」って思いますよね。しかたなく「はい」って言ったら、
「救急車の他に警察も出ますから。誰か一人でいいから、

 もう一度石人のとこに行って、心から謝ってから鼻を元に戻してみて」
こんなことを言われたんです。でね、他の2人はSを押さえてるんで、
俺がまた柵の中に入ったんです。で、鼻曲がりの像の前で、
「さっきはすみませんでした、もう二度としません」って声に出して言ってから、
鼻をねじってみたんです。そしたら、さわると柔らかくて、
ピクンという脈が感じられた気がしました。でね、ねじったらぐにゃっと曲がって、
元の曲がった形に直ったんですよ。そうしてるうちに、
警察と救急車のサイレンが聞こえてきて、戻ってみたら、
Sと他の2人がぼーっと突っ立ってました。Sのシャツは真っ赤でしたが、
鼻血は止まってるようでした。最初にパトカーが停車し、
中から年配の警官が2人出てきました。その後に救急車。

警官の一人が俺らに向かって、「いやはや、20年ぶりくらいだなあ。
 あんた石人いじったろう。そこの血がついてる人が鼻曲がりにさわったのか?
 正気に戻ったんなら、鼻、元に戻したんだな」俺がうなずくと、
「じゃあ救急車は返すわ。あんたらは署まで来てもらわんといかんねえ。
 史跡に無断で入ったんだから、いろいろ法に触れてるし」
で、警察署に連れて行かれてさんざんに絞られました。
書類送検とか、大学に連絡されるようなことにならなかったのは幸いでした。
取り調べ中に、「昔も同じことが2回ほどあったらしいよ。話に聞いてる。
 後の1回は暴走族の解散につながったって」こんなことを言われました。
それから、「あのままだったら、この市は鼻曲がりだらけになっとったかも」とも。
これは意味がわかりませんでしたが、聞き返すこともできなくて。

でね、俺らの携帯は全部調べられて、「市街、紫に見えなかった?
 そんとき、写真撮ってたら出して。全部消去するから、いいね」
警官が何人かで携帯をいじくってたんですが、「ないな、よかったねえ」って、
返してよこしたんです。あと、必要ないかぎり市営墓地には立ち入らない、
って誓わせられたんです。俺らは完全にしょげてしまって、
警察署の前で解散したんです。それから3日後ですね。Sとは別のやつから、
スマホの中に夜景の画像が残ってたって連絡があり、「警察は見つけなかったけど、
 俺、あんとき1枚だけ街を撮ってたんだよな、送るか?」と言われたんですが、
それは断ったんです。で、後で見せてもらった画像を今日持ってきてます。
街全体がぼうっと紫にかすんだ・・・ 俺もSも他の2人も、今まで特に体具合が悪いって
ことはないですけど、この画像見ると、全員が頭痛くなってくるんです。

石人






預かる

2016.05.19 (Thu)
*ナンセンス話です。

あの、保険会社でOLをしていました。よろしくお願いします。
去年の秋のことです。その日も私は、昼休みに外の公園でパンを食べてたんです。
すごくおいしい移動パン屋さんの軽自動車が公園の前の道に回ってくるんです。
そこで調理パン2つと生野菜ジュースを買いました。
ええ、同僚と一緒に食べにいったりしてなかったんです。なんというか、私、
当時少し職場の中で浮いてたところがありまして、
いつも、やめたいなあって思ってたんです。同じ部内に、
独身の勤続35年というお局さんがいたんですが、その人とそりが合わなかったんです。
まあ、今はパワハラとかけっこう厳しいですから、
あからさまなイジメというのはなかったんですけど、
何かにつけてのけものにされてましたし、ちょっとしたミスですごく叱られたし。

それで、一人でベンチに座ってパン食べてましたら、近くの木、
種類わからないですけど、かなりの大木があったんです。
そこから何か小さいものがチョロチョロって走り下りてきて、
ベンチにトンと立ちました。「え、何?」と見たらリスだったんです。
「わ、かわいい」と思いました。リスは小脇にクルミのを1個抱えてて、
まるでマンガみたいでした。私のすぐ前20cmくらいのところで、
リスは首を回して私を見つめ、「はい」という感じで、
そのクルミを渡すしぐさをしたんです。「えー、私にくれるの?」って思いました。
野生動物にそんなことされたのは初めてでしたし、おそるおそる指を出したら、
リスと目が合いました。そのときに、黒いリスの両目が、
オレンジ色にぼうっと燃え上がったように見えたんです。

ぜんぜん逃げるそぶりはなかったので、手のひらでクルミを受け取りました。
すると頭の中に「頼みましたぞ」って、おじいさんみたいな声が響きました。
「え、え?」とあたりを見回しましたが、近くには誰もおらず、
ベンチに視線を戻すと、リスの姿も消えてしまってたんです。
「変なことがあるものだなあ」と思いつつ、手の中のクルミをよく見たんですが、
特に変わったところはない気がしました。ただ、後で調べところ、
その公園内にクルミの木はなかったんです。ともかくバッグにしまい、、
会社に戻りました。その日は打ち合わせもなく、
午後はゆっくり自分の仕事をする予定でした。それで3時頃でしたか、
一休みして目薬さそうと思ったんです。で、イスを引いたら机の右前の脚に、
べとーっとグリーンの蛍光スライムみたいなのがくっついてました。

「わ、何!?」と思いました。20cmくらいのもので、プルプル動いてましたね。
もう少しで叫び声をあげるとこでした。でもそのとき、「さっきのクルミ守らなくちゃ」
って頭に浮かびまして。バッグは机の下の棚に置いてあったんですが、
スライムはその方向に進んでる気がしたんです。とっさに引き出しを開け、
中からシールはがしスプレーを取り出しました。
効くかどうか自信なかったんですが、試しにスライムにシューしてみたら、
パッと消えて、べとべとしたものだったのに何の跡もついてなかったんです。
「あれ? 幻覚だったんだろうか、叫ばなくてよかったなあ」と思いました。
そうしてたら、「何、頓狂な声を出して!」って、
さっき話したお局さんに、ネチネチ絞られてたんじゃないかと思います。
バッグを開けてクルミを確認したら、ちゃんと入っていました。

それにしても、「守る」っていう意識が働いたのも変ですよね。さっき公園で、
「頼む」って声がしたのは、やっぱりこのクルミのことなんだろうか??
それでクルミはバッグから制服のポケットに移しておいたんです。
仕事を続け、時計を見たら4時30分。「あと少しで退社時間♪」
そう思って給湯室にお茶を入れにいったんです。それで戻ってきたら、
さっきから話しに出てるお局さんが、私の机のイスをのけ、
前にかがんでゴソゴソ下の棚を探ってたんです。
「あの、どうしたんですか?」って聞きました。そしたら、
「あんたね、さっき預けられたクルミどこよ?出しなさいよ?」
こっちを向いて、そう叫んで、額に縦ジワが入って目がつりあがってました。
「え、クルミって何ですか? 知りませんけど?」

「さっきお使いに預けられたでしょ。知ってるんだから、アレが届くと大変なのよ~」
こっちを睨んでた目がぼうっと緑に燃え上がったんです。
私はもう怖くて、どうしてクルミのこと知ってるのかとか、
そこまで考えが及びませんでした。「何のことかわかりません!?」
「出しなさい、キーッ!!!」そこまで言うと、お局さんの目がぐるんと裏返り、
白目になってドターンと後ろにひっくり返ったんです。
口から泡を吹いて、両手を胸の上でワナワナ震わせてました。
男性社員が寄ってきて様子を見ましたが、気がつく気配はなく、
そのまま救急車で運ばれていったんです。後になって部長から、
「さっき何話してたの? なんか揉めてた?」って聞かれたんですが、
「わかりません、急に一人で興奮されだして」と答えたんです。

その後、搬送先の病院から連絡が入りまして、
今は平常に戻って休んでるってことだったので、私も退社することにしました。
家は自宅で、電車で40分と歩き15分ほどかかるんです。
クルミはコートのポケットに移し、上から手で押さえるようにしていました。
「さっきお局さんが届けるとか言ってたけど、どうするんだろうコレ」
と思いながらです。電車は込んでたんですが、いつもの駅の2つ手前で、
ビビッとクルミが動いた気がしたんです。「あ、降りなくちゃ」って思いました。
なんでそう考えたかはわかりません。ともかく降りまして、
自然と足が東口に向きました。そこを出ると高架下の通りで、人の姿はまばらでした。
それで、私が出てややしばらくして、後ろで気配がしたので振り返ると、
山伏?修験者?みたいな格好の人が4人、私のほうを指差して何か話してから、

走ってこっちに向かってきたんです。「ああ、逃げなきゃ」そう思って走りました。
じつはですね、私こう見えても、高校時代中距離走でインターハイに出たことあるんです。
道はまったくわかりませんでしたけど、足が自然に曲がっていくというか。
時間は6時近くなってて、すっかり暗かったです。後ろをときどき振り返ると、
追いかけてくる人たちの目が蛍光グリーンに光ってるように見えました。
でもその人たち、足は遅かったのでだんだんに引き離して、
数百mも差がついたとき、ぽっと神社の前に出たんです。
大きなところではなく、林の中にあるお稲荷さんみたいでした。
鳥居の向こうに明かりが灯っているのが見え、「やっと着いた」って思ったんです。
中に入っていくと、人の気配はなかったのに、手水場の陰から人が3人出てきました。
今、人って言いましたが、その方たちは神主さんの着物を着て、

どの人も目がオレンジ色に燃えていたので、「あのリスと同じだ」って思いました。
その中で一番年上に見える方が「ご苦労様でした。お預かりのものをお出し下さい」
そう言ったので、ポケットからクルミを出すと・・・チリンと音がして、
同じ大きさの鈴に変わってたんですよ。「えーこれ、マジック?」と思いました。
ともかく、リスと同じオレンジだから信用してもいいかと、その鈴を渡したら、
3人そろって、「成就しました、有難うございます」って深々と礼をされたんです。
だいたいこんな話なんですけど、その方たちの一人が、
「ささやかですがお礼をしたい。・・そうですなあ、年末ジャンボ宝くじ、
 あれをお買いなさいまし」こう言ったんです。
それから駅に向かい、電車に乗りなおして家に帰ったんです。
以後は特別、おかしなことは起こってないですよ。

え? 宝くじは買ったかって? はい、30枚買ったら、
4等の5万円が当たりました。それと、私会社をやめたんです。
寿退社ってことですね。この後すぐに、別の保険会社の方と知り合いまして、
それからトントン拍子に話が進んで、今年2月に式をあげました。
今は主婦業をしています。子供のころからの夢だったのでうれしいです。
え? その神社ですか? 夫にそのクルミと鈴の話をしまして、
2人でお参りにいきましたよ。だれーもいない寂しいところで、
あのときの神主さんたちも見かけませんでしたし、社殿の扉も閉まってました。
当たった宝くじから1万円を、その扉の中に差し込んでおきました。
よくわかりませんけど、何か神様同士のもめごとに巻き込まれたのかもしれません。
え? お局さんですか? 体はなんともなくまだ会社にいます、勤続36年目で。








鏡の怪談

2016.05.18 (Wed)
鏡の怪談というのが1つのジャンルとしてあると思うんですが、
自分はこれ、あんまり書いてないんですよね。
「龍の鏡」というのがありますが、これは鏡の恐怖というより予知の話ですし。
どうしてなんでしょうね、けして嫌いというわけではないんですが。
関連記事 『鏡の龍』

日本では、古来から鏡は呪具・葬具として使用されてきたようです。
あの、邪馬台国の卑弥呼が魏に使いを送ったときに、
その答礼品として魏帝から銅鏡100枚を下賜されています。
通称『魏志倭人伝』の魏帝の詔書に「故鄭重賜汝好物也(特に好物を与える)」
とあるのは、この鏡のことを指しているという説もあるくらいです。

もしこの鏡が見つかれば、そこが邪馬台国かもしれないということで、
いろいろな候補があげられている現状です。
この当時、中国では鏡は日用品で、片手でつるすことのできる小さなものが
一般的でしたが、日本の遺跡から発見される鏡は、
それよりふたまわりほど大きいものが多いんですね。
関連記事 『三角鏡中国で出土?』

僻邪(へきじゃ)という言葉がありまして、これは魔除けといった意味です。
邪悪なものを避けるということで、よく怖い話に登場する神社の御札も、
一種の僻邪ですね。墳墓で、棺のまわりに鏡がたてかけられていて、
鏡面が外側を向いていた場合、これは遺骸を襲ってくるであろう
魔物をはね返す、僻邪のためのものです。

逆に内側、棺のほうに鏡面が向いていた場合は、
僻聖などといって、棺の中の人物の復活を阻止する意味があるとされたりします。
それから破鏡という語もあり、文字どおり鏡を割ることですが、
当時貴重品であった鏡を小片にして多人数に配るということの他に、
古代の神事として、日の出の太陽が鏡に映って輝いた瞬間に打ち割る、
などということも行われていたようです。

この僻邪という語は中国由来ですが、
西洋のほうでも似たような考え方はありました。
邪悪なもの、人間ではないものは鏡に映らないとかですね。
吸血鬼は俗説として、十字架、聖水、ニンニク、流水、鏡などを怖れるといわれます。
あと、家人が招き入れなければ初めての家には入れないとか。
ただし十字架のように、鏡をつきつけられると苦しむというわけでもなく、
姿が映らないので、吸血鬼の正体を見破られるのを怖れるという設定が多いようです。

さて、鏡の奇談ということで思い浮かぶのは、江戸川乱歩の『鏡地獄』ですが、
オカルトではなく、球体の内側を鏡張りにして、
その中に入った研究者が発狂してしまうという科学的な話でした。
もちろん光源がなければ球体の中は真っ暗でしょうから、中には明かりを入れます。
うーんこれ、でも自分はそんなに怖いのかなあという気がします。
もしも人間の視界が360°あったとしたら怖いかもしれません。
あらゆる反射が見えてしまうわけですから。

ところが人間の目は前方しか見えませんので、大きな凹面鏡を見たときと、
たいして変わらないんじゃないかという気がします。
前方に映った像の後方からの反射もあるでしようが、
それは自分の体がじゃまになって、全部は見えないでしょう。
どうしても人間の体という条件に影響されてしまうんですね。
おそらく、立つ位置によって見えるものが変化してくると思います。

あと、西洋の怪談で「合わせ鏡」というのがありますね。
合わせ鏡を立てておくと悪魔がその中を通って、午前0時ちょうどに
2枚の鏡の間にくるので、それをつかまえると願い事をすることができるとか。
合わせ鏡というのもなかなか面白いもので、見ていて飽きないですね。

ただし無限の鏡の道を生み出すのは、さまざまな理由から不可能です。
まず、2枚の鏡の間に入れる光のエネルギーには限界があるので、
ある時点で反射して映す力を失ってしまいます。
それ以前の問題として、合わせ鏡を人間がのぞくためには、
2枚の鏡を角度をつけて立てなくてはなりませんが、そうすると、
鏡の道はどんどん曲がっていって、どっかで鏡面からはみ出してしまうでしょう。
興味を持たれた方は、何枚まで数えられるか実際に試してみてください。

鏡が怖い理由の一つとして、「もし物理法則どおり映らなかったら」という
恐怖があるんじゃないかと思います。
ある廃墟の階段の踊り場に鏡がかかっているが、それを午前0時にのぞくと、
自分の10年後が見える、自分が死んだときの顔が見える、
なんてのは定番ですし、自分は笑ってないのに鏡の中の顔は笑っていた、
これだけで、もう怖いですよね。

異世界ということとも関係しているかもしれません。
鏡は壁にかけられたりしていますが、それはのぞき窓のようなもので、
鏡の中にはずっと広い世界が広がっている。そう想像してしまいたくなります。
しかも、鏡の中では自分の右手が左手になっているわけですから、
この世とは物理法則が異なっているかもしれない。
そういう想像が広がる余地がありますよね。そういえば、
『ジョジョの奇妙な冒険』のPart3 に登場したJ・ガイルという敵役は、
鏡の中を瞬間移動できるというスタンドを使いましたが、
手がどちらも右手という設定になっていましたね。

さてさて、まとまらない内容をあれこれ書いてきましたが、
自分が一番怖いと思うのは、地獄の閻魔庁にあるとされる
「浄玻璃(じょうはり)の鏡」です。死者がその前に引き出されたときに、
生前のすべてを写し出すといわれます。
自分の一生を撮ったビデオ映画みたいなものですが、
もしこれで嘘をついたことがバレると、ヤットコで舌を抜かれてしまいます。

怖いなあと思うのは、外面だけではなく心の内部も映し出されることで、
それも自分だけではなく、自分にかかわった他人についてもです。
ですから、自分があるとき取った行動に対して、
関係者がどう思ったか、その心情までがはっきりわかってしまうのです。

人間というのは、都合の悪いことは忘れてしまいがちなものです。
他者の心を大きく傷つけていたのに、記憶に残っていないことというのは、
一生の中では、誰でもたくさんあるだろうと思われますが、
それをすべて見せられたんではたまりませんよねえ。
「わかりました、行き先は地獄でいいです」と、
おそれ入って自分から言ってしまうかもしれません。
地獄も浄玻璃鏡も、現世での行いを慎ませるために考えられたという
側面があるのでしょうが、よくできていますよね。
関連記事 『怖い話のアイテム①』
関連記事 『怖い話のアイテム②』







なぞの入り口

2016.05.17 (Tue)
小学校の図工専科の教師をしています。今日はよろしくお願いします。
ついこの間、4月の終わりから5月にかけてあったことです。
6年生のねん土の題材に「なぞの入り口から」というのがあるんですが、
これ、私たち図工教師の間でも、指導が難しい題材って言われてるんです。
だってほら、もし皆さんが、この題名で何か作ってみなさいって言われたら、
どんなものを作りますか? まず発想を得るのがたいへんですよね。
でも、今の図工って、そういう指導の考え方が強くなっているんです。
ねん土だったら、糸ノコで切ったり、丸めたり伸ばしたりする過程で、
自分で作りたいものを思いつくことを重視してるんですね。例えば2年生だと、
「ひみつのグアナコ」という題材がありますが、このグアナコというのは、
どこかにいるかもしれない架空の生き物です。

それを自由に想像して造形していくわけです。低学年の子だとどうしても、
アニメのキャラクターなど、自分のまわりに実際にあるものを作りたがりますよね。
でも、それだとよくないってことで、このような題材が設定されているのです。
あ、専門的な話になってしまってすみません。6年生の2組でした。
まず最初に、全員で「なぞ」ってどんなものがあるか話し合ったんです。
活発なクラスでしたので、いろいろな意見が出ました。
でも、ロールプレイングゲームに関したものがけっこうありましたね。
それからねん土を配って作り始めたんですが、その時点では、
ねん土をこねながら考え込んでいる子がだいぶいました。私は子どもたちの間をまわって、
悩んでいる子にはアドバイスしますが、それも具体的なものを示したりはしません。
どうしても発想が浮かばなかったら、ねん土を糸ノコでジグザクに切ってみて、

その形から何か思いつかない?みたいな助言をするんです。
それで、A君という男子児童がいまして、昨年度も受け持った子ですが、
あまり図工は得意ではなかったんです。最初はそれなりに意欲を持って取り組むものの、
だんだんうまくできなくなって途中で投げ出してしまうことが多かったんです。
絵などでも、色つけの途中でやる気をなくしてしまったり。
このA君も、長方形のねん土を前にして考えこんでいましたので、
「思い切って上からねん土マットの上に落としてみたら。それで何か思いつくかも」
こんなふうに話しかけてみました。しばらくして、一人の子が窓の外を指差し、
「あ、火事?」って叫んだんです。見ると、グランドの向こうは
まばらな林になってるんですが、その上に一筋黒い煙が上がり始めており、
すぐ、サイレンの音が聞こえてきました。

でも、そのあたりまではグランドをはさんで数百mありましたので、
学校に危険がおよぶとは思えませんでした。ええ、校内放送が入りまして、
「特に学校に危険はないと思われますので、落ち着いて授業を続けてください。
 放送のスイッチは切らないでいてください」教頭先生のアナウンスがありました。
そうは言ってもやっぱり小学生ですから、その時間は授業にはなりませんでした。
窓の外を見て手が止まってる子が多かったんです。これはしかたないと思い、
特に注意することもしませんでしたが、その中で、一番先に窓にかけ寄るようなA君が、
黙々とねん土に打ち込んでいたので、少し意外に思いました。
やがて20分ほどで煙はおさまり、後で職員室で聞いたところでは、
林の中にある神社でボヤが出が、少し焼けただけだったということだったんです。
図工の授業は2時間続きでしたので、休み時間をはさんで再開。

そのときには、ほとんどの子が落ち着き、テーマを見つけて造形を始めていました。
「入り口」という言葉から触発されたものでしょう。ねん土に穴をあけて、
壺や洞窟のような形にしている子が多かったです。ところがA君は違っていまして、
作っているのは、一口でいうとゴーヤのような形。微妙な曲線をえがいた
ナマコのような形に、たくさんツブツブがついたものだったんです。
私が「へええ、面白いわね。これのどのあたりがなぞなの?」と聞いてみますと、
「さっき火事だって騒いだときに急に思いついた。これカギだよ」って答えたんです。
「カギって?」 「なぞを開けるカギ」でも鍵にはまったく見えませんでした。
むしろ前にお話したグアナコみたいな生物に近いものです。
すごく不気味な感じがして迫力があり、ああ、A君は造形の才能があるな、
私は評価する目がなかったなあ、って思ったんです。

イボのような突起のそれぞれ高さの違う配置も、まるで生き物のようでしたが、
図工室の中には参考にできるようなものはなかったはずです。
その時間が終わって、制作途中の作品は並べて学年ごとの棚にしまったんですが、
A君のだけが異彩を放っていました。それで、こんなことを言ってはなんなのですが、
私はそれが怖い気がしたんです。理由はちょっと説明できません。
今回は紙ねん土ではないので、色つけはしませんが、
もしこれに色がついたらと考えたら、背筋がゾクゾクっとなったんです。
ですからなるべく奥に、他の作品に隠れて見えないような形でしまいました。
翌週になって授業再開。前の1時間で完成させ、残りの1時間で、
どの部分が「なぞ」を表すのかを一人ずつ自分の作品を持って説明する予定でした。
それから、前の週の神社の火災は、半焼までもいかなかったものの、

燃えたのはロウソクを灯す拝殿ではなく、ご神体のある本殿だったようです。
でも、そこには火の気はないので、警察では、
放火の可能性も考慮して捜査しているという話を他の先生方からお聞きしました。
しまっていた作品を出してみると、他のはなんでもないのに、
A君のだけは表面が荒れてひび割れが縦横に走っていました。今のねん土は、
いくら乾いてもそういうふうにならない素材なんですけど。
A君はひったくるように自分のを取り、すごい集中力で、
ヘラや竹串を押しつけていました。近寄ってみると、表面のひび割れはそのままで、
かえって不気味さを増していました。A君はナマコの先にあたる部分をヘラでこじり、
幾層にも重なった口?を作っていました。プロの芸術家みたいというか、
何かにとりつかれているように見え、話しかけることができなかったんです。

やがて残り10分となり、完成していない子も何人かいましたが、
次の時間にみんなに紹介するので、説明を考えておくようにと言いました。
そのときにも、A君はずっと口の部分を串で掘りつけていたんです。
その日の最後の時間です。順番を決めて一人ずつ前に出て説明を始めましたが、
かなり苦しんでいる子が多かったです。最初にお話しましたように、
この題材は大人でも難しいんですよ。だって、説明のしようがないから「なぞ」
ってことですよね。言葉にすることで、頭の中のイメージを具体化させるといっても、
これは小学生にはかなりきびしい課題です。
ただ、説明のよしあしは評価には含まないことにはしていました。
それぞれの子が、たどたどしいながらも自分の言葉で作品の解説をしましたが、
ほとんどの子が最後に「難しかったです」とつけ加えていました。

それで、わりと早い順番でA君の番になったんです。
A君はこういう場ではいつもにやけるんですが、そのときは口をへの字に結んで、
おごそかと言えるような顔つきをしていました。ねん土マットごと、
教卓の上に「なぞの鍵?」を上げると、ザワザワしていた図工室が
急に静かになりました。A君が甲高い声で、
「これはなぞを開けるカギです。神様のお告で作りました」こう言っても、
ふだんと違ってだれも笑いません。A君が手でマットから作品を持ち上げると、
まだ柔らかく、ぐにゃんと垂れるはずなのに、手のひらの上で魚のように跳ねた、
そう見えたんです。ええ・・・幻覚だと思いたいんですが。
「これを入れて回すと開きます」 A君がしぼり出すように言い、
空中で回すしぐさをしたとき、ビーンという大きな音がしたと思いました。

そうですね、ギターの一番低音の弦を強くつまんで離したような音。
同時に、目の前の空間がゆがんだように感じたんです。うまく表現できないですが、
図工室の中がゼリーで埋まっていて、それを横から平手で叩いたような感じとでも。
理解していただけますでしょうか。そのときに「ああ、開いてしまう」って思ったんです。
何が?と聞かれても答えられないんですが、とにかく「開く」って。
開けばすべてがダメになることも、そのときわかったんです。
知らず知らず体が動いていました。私はA君に走り寄って作品を持っていた手をつかみ、
強く揺さぶると「なぞの鍵」は下に落ち、バシャッと形を崩して液体になったんです。
これもありえないことです。A君はその場に尻もちをつき小刻みに震えていました。
保健室に連れていき、2時間ほど休むと平常に戻りました。放課後に私のところに来て、
「先生あのとき、あれ壊してくれてよかった」こう言って帰っていったんです。







いなくなる茶会

2016.05.16 (Mon)
商社マンをしてます。よろしくお願いします。
でもね、商社マンって言っても、業界何十位かもわからない小さなとこなんです。
それに自分は入社以来ずっと総務課配属で。
仕事の内容は、社内のパソコン関係の備品管理です。
パソコン本体はもちろん、コネクターやソフト類とか。
だから気楽と言えば気楽ですよ。節約は大切だけど、
会社の売上にかかわる仕事じゃないですから。それに、出張もないですし。
できれば定年まで総務畑で過ごしたいと思ってます。
本社は、総合ビルの6、7階の2フロアーを借りて入ってます。
これが築40年近いんで、耐震なんかはかなり怪しいって言われてますけど。
自己紹介はこんなとこでいいですかね。

それで、こないだ企画課の同期の連中から、プロジェクトチームで
小会議をやりたいんで、6階の資料室を使えないかって話がきたんです。
もちろん入ったことがありますよ。鍵のかかる書架が5つ6つあって、
昔の資料や法律関係の本が入ってる。10畳あるかないかくらいの部屋です。
中央には何も置いてないんで、机を置いて5人程度は座れると思いました。
ネット回線は入ってないけど、それはすぐつなげますし。
でもね、自分の一存で決めることもできませんから、
総務課長のところに話をしにいったんです。これが女性課長なんです。
40代後半で独身。でも、堅苦しい感じはないし、
飲み会じゃご奉仕も出してくれるし、なかなかいい上司だと思ってます。
でね、一言話しして済むかと思ったんですが、そうじゃなかったんです。

「ああ、あの部屋ねえ。たしかにね、単に資料置き場にしておくにはもったいない
 気がするでしょうけど、ちょっと事情があってねえ」
こんなふうに言われました。「えー、あんなとこで事情って何です?」
「それがねえ、あの部屋、前は休憩室的な使われ方してたのよ。
 ほら、うちは残業多いから、あそこで夜食食べたりしてたわけ。
 ストーブ入れてお湯沸かしたりして」 「ああ、何か聞いたことあります。
 泊まったりする人もいたんでしょう」 「そう。だけど14年前と11年前かな、
 あの部屋で行方不明になった人がいて・・・」 「ええ? どういうことですか」
「うん、どっちの人も男性社員で、あの部屋の長椅子で毛布かけて泊まったのよね。
 まだ警備保障が入ってない頃だったからできたんだけど、
 それが朝になったらいなくなってたの」 「・・・単に会社を出たんじゃないですか」

「ま、そう思うわよねえ。だけど、その日持ってきたバッグや上履きまで
 会社に残ってたの。だからもし出たとしたら裸足でってことになる」
「いや、それはトイレのスリッパでもなんでも」 
「そうだけど、そうする意味ってある?」 「・・・・で、その後は」
「2人とも今に至るまで行方不明。もちろんご家族が捜索願を警察に出してる」
「うーん、シビアな仕事をしてたんですか」 「忙しかったのはたしかだけど、
 国内の取引だから、そんなきついってほどじゃなかったはず」
「部屋のせいとは思えませんけどねえ」 「私も思ってはいないけど、
 でも、2人もだから。それで、特に上から命令されたわけじゃないけど、
 社内に泊まることはなくなって、あの部屋も資料室になったわけ」
「いや、何回か入ってるけど普通の部屋ですよ。

 窓の外とかも他の部屋から見えるのと同じでしょう。じゃあそうですね。
 自分が何日かあの部屋で勤務してみます。泊まりはしませんけど。
 それで何もなかったら、使ってもいいってことにできませんか。
 企画課のやつらも、泊まったりはしないでしょうし」
まあこんな話になりましてね。今はほら、システム共有やら社内メールがあるから、
事務だけなら仕事はどこでもできますでしょう。
で、ネットの回線を一本だけ引いて、会社のパソコンと当座の仕事を持ち込んだんです。
2日間は何事もなかったですよ。集中力が増して、
自分の席にいるよりはかどったくらいでした。それで3日目のことです。
外で昼食をとってきて、さて午後にもうひと頑張りってところで、
なぜか座ったままふっと寝込んじゃったんです。

いやいや、会社で居眠りなんて一度もしたことないです。前日も定時退社で、
疲れてたわけでもない。ま、一人だって油断はあったかもしれませんけど。
で、夢を見たんです。それがなんと自分は茶会の席にいまして。
いや、一度もやったことはないですから、作法も知りません。
かなりせまい茶室にいて、主人、亭主って言うんですか、その人が女性なんです。
和服で、しかも顔のところに生え際の下から白い布が垂れ下がってまして。
調べましたが、そういう流儀はないでしょう。変だなあと思いましたけど、
まあ夢ですからね。お客は自分の他に2人いまして、どちらも男性。
自分よりは年配の見たことのない人でした。ええ、この2人は和服でしたけど、
顔は隠してなかったんです。自分が一番末席というか、下座に座ってて、
女亭主が立て終わった茶椀が回ってくるんだと思いました。

夢の中で自分はすごい緊張してまして、とにかく作法を知らないから、
前の2人がやることをマネしようと考えました。茶菓子の食べ方とか、
あとほら、茶道って茶碗を回したりするでしょ。そういうやり方をですね。
でね、この茶菓子というのも後で関係してくるんですが、
白っぽいもろこしみたいなものだったんです。あの固くて粉っぽくて、
日持ちする和菓子。あれってお茶が来る前に食べるんですよね。
女亭主が「どうぞ、お菓子をお取り下さい」って言われて、一番前の人が、
「頂きましょう」って菓子器から手で紙の上にお菓子をとり、「お先に」
・・・でね、自分はスーツだし、白い紙、懐紙って言うんですか、
あれも持ってないんで、どうしようか困ってたんです。
そしたらちょうどそこで、肩先をツンツンってつつかれました。

総務課の入ったばかりの女子社員です。お茶を持ってきてくれたんですね。
それは普通の煎茶でしたけど、まずいとこ見られたなあと思ったら、
「具合悪いんじゃありませんか、顔、青いですよ。紙みたいです」
って言われたので、「いやあ、だいぶ寝不足だから」こんな感じにごまかしました。
でね、洗面所に顔洗いにいって鏡を見たら、ほんとに顔が真っ白だったんです。
それと、頬のところに粉みたいなのがついてました。
粉はごく薄いピンクで、夢の中に出てきた干菓子の色に似てました。
で、その後は特に何事もなく、顔色も戻ってきました。退社前に、
その部屋で勤務して3日たったので、課長に報告にいったんです。
そしたら、「あったことは、くだらないと思うようなものでも全部話してみて」
って言われて、迷ったものの、怒られるの覚悟で見た夢の話もしたんですよ。

そしたら、課長はかなり考えこんでから、「その茶席のご主人、どんな着物だった?」
って聞いてきまして。「着物の種類などはわかりませんが、
 オレンジっぽい無地のものだったと思います」そう答えたら、
課長ますます考えこんじゃったんです。「それねえ、もしや創業社長じゃないかしら、
 もうお亡くなりになったけど、女性だったのは知ってるでしょう。私も昔一度、
 茶席にお招きされたことがあるの。部屋に鍵かけた?じゃあ持ってついてきて」
で、またその部屋に入りました。資料棚の下部を開けると、
社内報を綴じたのがたくさんあり、課長は何冊か机の上に出し、しばらく探してから、
2枚の写真を自分に見せたんです。丸型に抜かれた紹介の写真でしたが、
それはどっちも、夢の茶席にいた人だと思いました。「あ、そうです。この2人」
「行方不明になった人たちよ」課長の声がやや震えていました。

いやあ、もちろんびっくりしましたよ。普通、夢の中に出てくる人って、
顔なんてはっきりしないじゃないですか。それにすぐ忘れちゃう。
それが、明らかにあの茶席にいた人だってわかるんです。
しかも11年前にいなくなった人も、自分の入社の5年前ですから、
お会いしたことないし、顔だって当然知らないんです。「不思議ねえ」と課長が言い、
社内報の綴りをしまおうとしたとき、棚の反対側に白い細長い紙箱が
数個積まれてたのが崩れてきまして。一番上のフタがずれて中身が見えたんですが、
それが干菓子だったんです。ええ、そうです。夢の中で自分が食べようとした。
課長が箱を調べると、有名な和菓子屋のものでしたが、はるか以前に
賞味期限切れになってました。・・・こんな話だったんです。ええ、その部屋は、
使わないほうがいいだろうってことになりまして、菓子はそのまま元に戻したんです。







呑牛の術、植瓜の術

2016.05.15 (Sun)
今日は怖い話ではありません。幻術、めくらましの術の話です。
これ系統の話は、にわかには信じがたいものが多いですし、
実際に長い時代をかけて伝わっているうちに、
尾ひれがついて大げさになっていくのでしょうが、ロマンがありますよね。

日本で有名な幻術師というと、前に「果心居士」を紹介しましたが、
もう一人、「飛び加藤」こと加藤段蔵がいます
16世紀、戦国時代に実在した忍者であったとされます。
「飛び」という形容がついていますので、さぞや体術に優れていたことでしょう。
忍者は忍者の家系に生まれ、幼少時から鍛えられるということですから、
もしかしたら、高飛びや幅跳び、短・長距離走で
現在のオリンピック級ほどの力があったかもしれません。

この段蔵の有名な逸話として、こんなのがあります。
『段蔵は全国を回って仕官先を探していましたが、上杉謙信に仕えるべく、
「呑牛(どんぎゅう)の術」を公道にて披露しました。
城下の葉の生い繁る大木の日陰に一匹の大きな黒牛をつなぎ、自分の口を指さして、
集まってきた者に者に言いました。「この大牛をこの口で飲み込んで見せよう」
黒牛の尻に段蔵が取りつくと、どんどんと牛は飲み込まれていき、
ついには段蔵の腹の中に収まってしまいました。

観衆達は驚き騒ぎましたが、木の上で見ていた男が一人いて、
「それはまやかしだ。段蔵は布をかぶって牛の背に乗ってるだけだ」
ここで群衆ははっと気がつきました。腹を立てたであろう段蔵は、しかし笑って、
近くにあった夕顔の葉を扇で仰ぐと、その夕顔の茎がみるみる伸びて
花を咲かせ実をつけたました。段蔵が脇差しを出して上にある花をスパリと切ると、
木の上にいた男の首が血を吹き出しながら落ちてきたのです。
観衆はおそれ。みな逃げ去ってしまいました。』

これが呑牛の術なのですが、もう一つ「植瓜(しょっか)の術」というのも
含まれているようです。植瓜の術は、『今昔物語』にも出てきます。
ある老人が瓜売りに、馬に積んだ瓜を一つくれとせがみ、断られると、
「では自分で出そう」そう言って、落ちていた種を地面に植え、
するとすぐに種から芽が出て双葉が生えてきた。みなが不思議に思っていると、
瞬く間に葉が茂り、花が咲き、瓜がたくさん実をつけた。
老人は成った瓜をその場の人々に配り、自分も食べて去っていった。
やがて瓜売りが自分の馬を見ると、積んでいた瓜は一つもなかった・・・

このバリエーションが夕顔の花で行われたものと見てもよいでしょう。
さて、この呑牛の術、植瓜の術は古くから知られた幻術なのですが、
どちらも似たものが中国の古典に見られます。植瓜の術は「マンゴーの木」
というインド奇術があって、内容がだいたい同じなので、
大元はそこから来ているのかもしれません。
日本における幻術の歴史は、奈良時代に唐より伝来した「散楽」
が始まりとされることが多く、最初は中国の宮廷で行われていたのでしょうが、
大道芸として民衆にも広まり、芸が磨かれていったということのようです。

さて、飛び加藤の話に戻って、上記の話が実際にあったことかはわかりませんが、
これは仕官のためのデモンストレーションであるようです。
戦国時代から江戸初期にかけては、武者修行の武芸者が、羽毛の服を着たり、
背中に日本一の旗を挿したり、奇抜な格好をして自分は強いと公言し、
仕官先を求めていました。高名な宮本武蔵などもその一人なのですが、
忍者もまた同じだったようです。とにかく俺の腕を買ってくれ、ということですね。
で、デモンストレーションですから当然、周到な準備をしていたことでしょう。

これらの術を、集団催眠と見る向きもあるようですが、
現代の催眠術でも、何のタネもなしに、
複数人に同じ幻覚を見せるのは不可能であろうと思われます。
おそらくはタネを準備した上での暗示効果であったのではないでしょうか。

推理作家で、アマチュア奇術に堪能であった泡坂妻夫氏は、
この呑牛の術には白馬、あるいは上記のように
黒牛が使われる場合が多いことから、
ブラック・アートを使ったのではないかと書かれていました。
ブラック・アートは黒技とも呼ばれ、舞台から客席へ強い照明を当てると、
背景が黒い場合は舞台上の黒いものが見えなくなる、
という原理を用いたマジックのことです。

舞台上でやる場合は、背景に黒い幕を使い、その前に、
さらに漏斗を横にしたような形の黒幕を吊るします。術者は2枚の幕の前にいて、
白馬が挽かれてくると、2枚の幕の間を通らせながら、
大きく口を開け、いかにも飲み込んでいくようなそぶりをするのです。
あとは伝統的な暗示の技も十分に駆使します。
上の話で、加藤が布を牛にかぶせていたという記述がありますので、
このバリエーションを使っていたものかと思われます。
しかし照明が自由になる屋内舞台ならともかく、外でやるのは大変そうです。

次に植瓜の術ですが、地面から植物が生えて空に上っていくというのは、
「魔術師の弟子」と呼ばれるインド奇術とも共通点があります。
地面にあるロープがするすると天に上っていき、
魔術師の弟子の少年が最初にそれを登る。口に刀を咥えた魔術師が後を追いかけ、
やがて叫び声とともにバラバラになった弟子の体が落ちてくる。
降りてきた魔術師は手足を拾い集めて箱に詰め、
フタをしてもう一度開けると、中から生きた弟子が飛び出してくる・・・

こんな伝説的な術なのですが、どうやら頭上に高い樹がある場所、
薄暮の時間帯に行われる、ということがキーになっているようです。
とすれば、なんとなくタネは想像がつく気がしますよね。
弟子の少年は双子だったのかもしれません。
段蔵の話の場合も頭上に木があるようです。

もしかしたら、あらかじめ茂みに夕顔のつるを仕掛けておき、
上から細い糸で引っぱり上げたとも考えられます。
逆に、夕顔の花や実はつり下げたとか。
木の上から声をかけてきた男は、段蔵の仲間だったのかもしれません。
ハリボテの首を拾った段蔵は悠々とその場を立ち去り、評判が広まります。

さてさて、飛び加藤ですが、見事、上杉謙信に雇われはしたのですが、
ためしに、さる家来の屋敷から名剣を奪ってくるように命じられ、
段蔵は、警護の犬を毒殺して名剣を掠め取り、
さらには召使いの童女まで生け捕りにして謙信の前に献上したということです。
しかし、あまりの技の冴えにかえって警戒され、
次はライバルの武田信玄に仕官したものの、
最後は裏切りをおそれた信玄に暗殺されたということになっています。
関連記事 『インドの魔術』

馬を呑む「塩の長司」






聞いた話 念3題

2016.05.14 (Sat)
目が合う?

これは自分が海水魚を飼育している関係で知り合った、
私鉄の電車の整備士をしているHさんから聞いた話です。
飲み会でしたので、自分のほうから、いわゆる人身事故の話をあれこれ質問しまして、
「ところで、これは都市伝説かもしれませんけど、線路に落ちた人と運転士さんの
 空中で目が合ってしまうってことはあるんでしょうか。
 あるネットのサイトだと、覚悟の飛び込みの人とは目は合わないけど、
 誤ってホームから落ちた人や、押し出された人とは合うことがあるって
 書いてあったんですけども」Hさんは少し考えて、
「いやあ、それはおっしゃるように都市伝説でしょう。空中でというのは
 考えにくいですね。運転席の位置は高いですし、酔っ払ってホームから落ちたのなら、
 足元の地面が急になくなるんだから、まず下を見るんじゃないかな。

 普通の道でステンと転んだときのことを考えてみればいいです。
 まわりを見たりする余裕なんてないでしょう。電車がくるまで時間があるなら、
 まず逃げることを考えるでしょうし。あってもひじょうに珍しいケースでしょうね」
「まあ、そうですよねえ」
「でもね、興味深い話はいくつかありますよ。ある運転手から聞いた話だと、
 自殺志願と思われる人とは目が合ったことはあるそうです」
「ははあ、まだ飛び込まないでホームにいる人ってことですね」
「そう、どうしようか迷ってる人」 「どうなりましたか」 
「ええ、近づいてくる電車の運転手と目が合ったとたん、
 その人はバツが悪そうな顔をして、人混みの後ろに引っ込んでいったそうです」
「じゃあ、自殺はやめたんですね」

「まあ、そのときはですね。でも運転手の話だと、
 少し後の電車で人身事故はあったんだそうです。同じ人かはわからないですが」 
「ははあ」 「あとですね、これはオカルト話になるんですけど、いいですか」
「ぜひお願いします」 「ある電車がね、人身事故を起こしまして。
 前面のガラス下部に、飛び込んだ人の頭がぶつかって大きくヒビが入り、
 髪の毛もヒビの中に巻き込んだことがあったそうです。
 もちろん電車はすっかり洗浄しますし、点検整備してガラスや他の部分も
 交換・修理します。でね、それから1ヶ月くらいたって、
 同じ路線の、その飛び込みがあった駅で、いきなりガラスにヒビが入り、
 髪の毛や、はがれた頭の皮まで見えたそうです。でもそれは一瞬だけで、
 また元のきれいなガラスに戻った・・・同じ電車なんですが、運転手は別の人です」

事故現場の話

自分がよく行く、ミナミのバーのお客さんから聞いた話です。
Mさんは30代の女性で、不動産関係の業界誌の編集者だそうです。
ある夜、残業があって12時近くに退社しまして、
終電に間に合うように駅へ急いでました。その時間だと交通量も多いし、
ネオンを落としてない店が多く、まだ街は明るいんです。
赤信号につかまって、イライラしながら変わるのを待っていたら、
やや離れた街灯の下の植え込みの前に、花束や缶ジュースが置かれてるのが見えました。
「ああ、事故があったのか」と気がつきましたが、
その日はサイレンが鳴るのは聞こえなかったので、何日か前のものだと思いました。
編集者なので、勤務が不規則なんですね。
なんとなくゾクッとしたので、目を離して前を見たら、

「ねえ、これ開けて」という声が聞こえたそうです。
「え!」また街灯のほうを見ると、着ているものの色がわからないほど、
血でびしょびしょに濡れた10歳前くらいの男の子が、
植え込みの中から立ち上がり、Mさんのほうに缶ジュースを差し出していました。
「え、え、え!?」叫び声を上げる間もなく、男の子の姿は消えてしまい、
ですが、さっき立ってたと思った缶ジュースが、倒れて前に転がり出ていたそうです。
Mさんはおそるおそる近づいて缶のプルタブを開け、きちんと置き直しました。
「幽霊かもしれないけど、私が想像でつくり上げたマボロシかもしれない。
 すごく疲れてたし。でもねえ、霊になったからってフタを開けないで、
 中身が飲めるとはかぎらないわよねえ。それと、その男の子、
 両足で花束を踏んづけてたと思った。あの年頃だとあんまりありがたくないのかも」

バーベキュー

これは自分が出入りしているアメ車雑誌の編集者のKさんから聞いた話です。
Kさんが、隣家の家族と休みの日に川原にバーベキューに行ったんですね。
隣家のご主人は普通のサラリーマンでしたが、
年齢も家族構成も似ていたので、普段から親しくつきあっていたんだそうです。
Kさんの家族は、奥さんと小6の長女、小4の長男。
隣家は、ご主人、奥さんと小4の長男、4歳少し前の長女。
つまり長男同士が同じ小学校の同学年で、とても仲がよかったんですね。
ただ、お互いに忙しく遠出はできないので、
その日行ったのは、車で30分くらいの市が管理している河川敷でした。
サイクリングロードが10kmほど通っており、
川原は草刈りがされていて、バーベキュー可だったんですね。

「いやあ、まだ早いかと思いましたが、けっこうヤブ蚊がいてまいました。
 その日は11時ころから行って、バーベキューするだけの会でしたけど、
 お互い運転して飲めないのはつまらないから、今度は一泊でキャンプ場に、
 って、隣の旦那さんと話してたんですよ」
まあそれでも、子どもたちは大喜びで、大量に持ってきた肉を自分たちで
炭火グリルで焼いてはバクバク食べていたそうです。
1時を過ぎたあたり、そろそろ片付けて近くのパターゴルフ場にでも行こうか、
となったところで、隣家の3歳の女の子が、食べ残って取りのけてあったスペアリブ、
骨付き肉ですね、それをムズとつかんで走りだしたんだそうです。
「こらどこいくの、待ちなさい」隣家の奥さんが追いかけ、
サイクリングコースの舗装の上でつかまえたんですが、

女の子は「肉ほしい、肉ほしいって」と、奥さんの手を振りほどいて、
林の中に数歩踏み込んで、スペアリブを奥に放り投げたんです。
といってもまだ4歳前ですから、すぐ足元に落ちました。
みながそこに集まっていきまして、その子に「どうしたの、食べたいって誰が?
 動物でもいたの?」って聞いたそうですが、
女の子は林の中を指差して「あの人、あの人」って騒ぎました。
「見てくる」そう言って4年生の長男コンビが林の中に入って行きましたが、
まもなく「うわー!!!」と大声を上げて逃げ戻ってきました。
「死んでる!」 「死んでる人がいる」
まさかと思いながらKさんが入っていくと、20mばかり奥の木の根元に、
足を伸ばし、体をくの字に折りたたんだ人の遺体があったんです。

それが、臭いはまったく感じないほど乾燥していました。
もちろん警察に連絡しまして、その日の午後は事情聴取でまるまるつぶれたそうです。
後でわかったことですが、首吊り自殺だったんですね。
上のほうの松の枝に縄がかかっているのが見つかりました。
縄は輪になってましたから、腐った首のほうが切れ落ちたってことです。
冬前にそこで自殺した人が、5ヶ月間見つからずに放置されていたんですね。
警察では「サイクリングの人はけっこういるから、
 見つかってもよさそうなんだけどなあ」こう話していたそうです。
女の子に父親が、「どうしてお肉投げようとしたの?」って聞いたら、
その子は「バーベキューの間ずっと、食べたい、ほしいって言ってた」
遺体を見なかったせいか、少しも怖がる様子もなくそう答えたそうです。





 

側溝と虫の話

2016.05.13 (Fri)
うちは親父がある公社に勤めてて、転勤族だったんだよな。
小学校で3回、中学校で2回転校した。
転校自体はまあ問題なかったけど、仙台から名古屋みたいな感じだったから、
言葉に慣れるのがたいへんだったね。笑われるのが嫌で、
どこでもあんまりしゃべらなかったら無口な性格になっちまった。
だからこの話もね、聞いてるあんたらには意味不明のとこもあるかもしれない。
そういうのは最後にまとめて質問してくれ。
でな、俺が中2のとき、その前年の4月に親父が転勤して、
某県の社宅に家族で入ってたんだよ。社宅っても、長屋みたいなのじゃなく、
ちゃんとした一軒家だ。新興住宅地の戸建てを公社がまとめて買ってたんだな。
家の前がバス通り、右横に側溝があって裏は家。

その側溝は石蓋がしてあって、幅2mないくらいの通路になってた。
そこを通っていけば裏の通りに直で出られたんだよ。
でな、ある日夕飯のときに親父がこんな話をした。
「裏の、小西さんとこ、離婚したみたいだなあ」そしたら母親が、
「ずいぶん前から揉めてたみたいだけど、ご主人のほうがやっと判子押したって。
 まあ裁判にならなかったからよかったんじゃない」
母親は主婦で家にいるから、そういう噂は詳しいかったんだ。
「じゃあ、どうなるんだ。奥さんのほうが出ていくのか?」
「売っちゃうんじゃないかしら」俺と弟の前だから詳しいことは言わなかったが、
今思えば、原因は旦那が仕事を馘になったせいだと思う。
それから1ヶ月くらいは、何もしないで裏に住んでたからな。

しばらくして、裏の通りにコンビニがあったんで、
側溝の道を通ったのよ。そしたら一箇所だけ、重そうな石蓋が横にのけられてて、
下の水路が見えてたんだよ。通り際に何気なくのぞいてみたら、
水面は1m以上も深いとこにあって、水はわずかだったが、
何か細かいものがうごめいてた。「うわ、気味悪い」と思ってよく見ると、
細い赤っぽい虫が大量発生してたんだよ。背筋がぞくっとしたね。
裏の家の敷地の横にきたら、離婚したという小西さんが生垣の中でぼうっと立ってた。
いちおう「どうも」って挨拶したら、こっちをじろっと見ると、
何も言わずに家に入ってったんだ。雰囲気悪い感じだったが別に気にはしなかった。
でな、その日の夕飯のときに親父に側溝の話をしたんだよ。
蓋が開けられてて、大量の細い虫が見えたってこと。したら親父は、
「虫なあ。それ赤かったか?」って聞いてきた。

「ああ、暗かったけどたぶんそうだよ」 「じゃあアカムシだな。蚊の幼虫だが、
 刺さない蚊なんだ。アカムシは釣りの餌で売ってるもんだが、
 うっとうしいから、今度薬買ってきて撒いとくか」こんな話になった。
それから2,3日してまた側溝のところを通ったら、
外された蓋が2枚になってたんだよ。中にはもちろん大量のアカムシ。
石蓋を元に戻そうともしてみたんだが、重くて中学生には無理だったな。
親父は話したことを忘れたのか、薬を撒くこともなく、
蓋もそれ以上は外されずに、2週間くらいたったんだよ。
でな、夜の11時ころかな、自分の部屋で宿題をやってたんだ。
俺の部屋は2階にあって、そこの家から弟とは別の部屋になった。
ほら、最初に転校が多かったって言ったろ。

中学生のうちにもう一度転校があるのはわかってたから、
勉強はちゃんとやってたんだよ。学校によって教科書や進度が違うからな。
6月のことで、だんだん暑くなってきて部屋の窓を開けてたんだ。
そしたら、ズシャ、ズシャーって、なんとも言えない気色悪い音が外でし始めた。
柔らかいものを撒き散らすような音だよ。何だろうと思って、
そっちの窓からのぞいてみた。その窓は側溝の道に面してたんだ。
裏通りの街灯で薄ぼんやりと明るい中に、側溝の蓋が外れた場所が見えたが、
その穴の横に人が立ってるように思えた。服を着てる感じじゃないし、
かといって白っぽくないから裸でもない。
黒っぽくやや小さい人の形のものが、前かがみになって立ってると思ったら、
一瞬でぐしゃっと崩れたんだよ。「ええ!?」って思うだろ。

そんなことはありえないからな。人だったものは崩れた状態で
小山のようになってたが、だんだんに積み上がるように人の形をとり、
またぐしゃっと下に落ちた。そんときの音がしてたってことだな。
俺はそこまで見て、下に走ってって親父に知らせたんだ。
親父はまだ寝ないでテレビ見てたが、かなり酒が入ってるようで、面相臭そうに、
「あー、何言ってんだお前。じゃあ、見に行くか」
それで、懐中電灯を持った親父と外に出た。で、側溝の通路に入ったら、
これがすげえ臭いなんだよ。たんに泥の臭いじゃなく、
何かが腐ってるんだと思った。でな、蓋の外れたとこに行ってみると、
その左右の草の上が濡れて、たくさんたくさんアカムシが落ちてたんだ。
俺はこのアカムシが人の形になっては崩れるを繰り返してたと思ったんだが、

親父にそう言うと「んなバカなことはないから」って言われた。
まあそうだよな、そんなことがあるわけはない。でも俺は確かに見たんだよ。
「しかし、この高さまで、虫が這い上がってくるなんてありえないよなあ」
親父はそう言って、アカムシを踏まない位置まで下がって、
懐中電灯で側溝の中を照らし「ああああああっ!!」と大声を上げ、
尻もちをついた。「何だ、どうした?」とのぞこうとした俺を親父は手で制して、
「見るな、お前は見るな。警察に連絡する」って言って、
俺の体につかまりながら立ち上がったんだよ。
それから警察が来て、その夜は朝まで寝られなかった。
側溝の中で、裏の小西さんが死んでたんだよ。親父が懐中電灯で照らしたとき、
側溝の壁にもたれかかった顔を、もろに見ちまったんだな。

いやあ、俺は見なくてよかった。死因は、これは後で聞いたことだが、
薬物死ってことだった。前の仕事がメッキ工場で、俺はよくわからんが、
その関係の劇物を持ってたらしいんだ。警察の見解では、遺書は見つからなかったが、
自殺ってことになった。仕事は馘、奥さんにも逃げられで、動機は十分過ぎるからな。
死後4日って話だったから、だいぶ前からその中で死んでたわけだ。
いや、そこを通る機会があればもっと早く気がついてたんだろうが、
通らなくて幸いとしか言いようがないな。何でわざわざ側溝に入って死んだのかは不明。
それと俺が見たものについても解釈のしようがない。
アカムシが集団で人間のマネするなんて、誰も信じちゃくれないよな。
そこの家にはもう1年住んだが、俺は側溝に向いた窓は、
いつもカーテン閉めっぱなしにして、一度も開けなかったよ。







目標はインデイ?

2016.05.12 (Thu)
今日はこの話題を取り上げます。本当はあまり大騒ぎになるべき話ではないんですが。
『まさに発想の勝利とでも言うべき、素晴らしい発見が。
カナダの15歳の少年によって達成されました。同国に住むウィリアム・ガドリー君は
星座の星の配置を地図に当てはめることで、
ジャングルに被われたマヤの古代都市を発見することに成功したのです!
 
以前より中央アメリカの古代文明に興味を惹かれていたガドリー君は、
星座の星の並びとマヤの古代都市の配置を観察していました。
そしてある時、その星座の星とマヤの古代都市の位置に
関連性があることを発見するのです!
 
22の星座の星が117のマヤの都市に一致していることを確認したガドリー君は、
23番目の星座の星の一つに一致する都市がないことに気づきます。
その場所は、メキシコのユカタン半島。ガドリー君はカナダの宇宙局に事情を説明し、
当該箇所の衛星写真を撮影。そして、ピラミッドと思われる古代都市の
一部の発見につながったのでした。』
(sorae.jp)

自分が最初にこの記事を読んだときの感想は「うわー」でした。
この「うわー」の意味は「本当だったらすごいけど、かなり危ういよなー」
というものです。まず最初の疑問は、15歳の少年がどうやって
「マドリード絵文書」(Codex Madrid)から星座を特定できたのかということです。
あれは絵文字を用いた非常に難解なもので、下に一部を掲載しますが、
自分のような占星術師が用いる現代の星図とはまるで異なっています。
もしあの中から星座や恒星の位置の記載を見つけ出したというのなら、
それだけでもすごいことですが。

『Codex Madrid』
あsdfg

次に浮かんだのは、一口にマヤ文明といっても、オルメカと呼ばれた紀元前から、
スペインによる植民地化が始まる16世紀まで長期間続いているものですので、
その都市が築かれた時代も、築いた主体もさまざまです。
それらがすべて、星座と位置関係を同じくするという統一的な意図が貫かれて
建設された、なんてことがあるのだろうか?という疑問でした。

ただ、一般的に都市というのは、地形や水運による交通の利便性などから
立地が決められていく場合が多いのですが、
マヤ文明の場合は、何でこんな不便な場所に、
というジャングルのただ中に都市があるのもまた事実ですので、
もしかしたら隠された規則性が存在している可能性も、
絶対にありえないと言うことはできないでしょう。

ここで、少し余談になりますが、ガドリー君がマヤ文明に興味を持った
きっかけというのが、「2012年12月22日に世界が滅亡する」
という世界に流れた噂だったということです。「ホピ族の予言」
とも言われるのですが、しかしこれもかなり危ういものでした。
まず、世界が滅亡するという予言はホピ族にはありませんし、
2012年でマヤ暦の長い1サイクルが終了するのは確かのようですが、
そこで終わりではなく次のサイクルに入るだけという説が有力です。

これと、ニューエイジによる「アセンション」が結びつけられ、
プレイアデスの周囲を取り巻く膨大なフォトンのベルトが地球の破滅をもたらす、
あるいは霊的な変化をもたらす、などと言われましたが、
フォトンベルト自体に科学的な根拠はありません。
あの頃2012年説を唱えていた人たちは、
今、どういう考えなんでしょうねえ。

そもそも、「じゃあ古代マヤ人は、
どうやって2012年に世界が終わることを知ったの?」
このあたり前の疑問に誰も答えられる人がいないですよね。
この場合、宇宙人、地球外生命体が持ち出される場合が多いです。
「この文明が世界の他の地域に比べて、○○が異常に発達しているのは、
そ知識を地球外生命体によって教えられたからだ」
しかしそんな証拠はどこにもありません。

マヤ文明の場合、暦やその計算に用いる数学は発達していましたが、
反面、ずっと金属器を持たずに石器を使用し、
車輪もなかった(土偶などには見られるので概念はあった)し、
牛馬などの家畜もなかったため、物資の移動はすべて人力によっていました。
ヒッタイトの鉄などのように、ある文明がある技術に特化して発達するというのは
ままあることですので、そのあたりはトータルで見る必要があります。
マヤもアステカも、外洋船や武器を発達させたヨーロッパ文明に、
滅ぼされてしまったわけです。

さて、上掲のニュースに5月12日、続報がありました。
『一部の専門家により、今回撮影された四角い部分は、
「古いトウモロコシ畑ではないか」という指摘がなされています。
指摘を行なっているのはテキサス大学の考古学者のDavid Stuart氏など。
Stuart氏によると、「このような遺跡やそれらしい場所はそこら中にあり、
それを意味のある配置だと勘違いしてしまったのではないか」とのこと。
今後の続報が待たれます。』
(sorae.jp)

まあ、日本でも、地図上にある神社に夏至の太陽が昇る方向などを書き加え、
レイライン(古代の遺跡には直線的に並ぶよう建造されたものがあるという仮説)
的な研究を行っている方がおられますが、これもなかなか、
万人を納得させるようなものにはなっていないように思われます。
机上の研究にはやはり限界があるのです。

さてさて、この項はけっしてガドリー君を非難するものではありません。
彼の説が正しいという可能性も、まだ十分にあります。
ですが、こういうことについて、周囲の大人が
あまり騒がないことが重要だと思うんですね。ある程度の結果が検証され、
それで正しかったら、そこでいくらでも称揚すればいいわけです。

このニュースは考古学の分野に入る内容でしょうが、
そこで基本となるのは現地調査、インデイ・ジョーンズのようなフィールドワークです。
(ただしインデイ・ジョーンズは盗掘者ですが)
安易に持ち上げておいて、落とすようなことにはなってほしくないなあと思います。

衛星写真による古代都市?






川の目の話

2016.05.11 (Wed)
じゃあ話しますけど、みなさん、わけがわからないかもしれません。
20年近く前のことですね。自分が小学校6年のときの話です。
その年に、一つ違いの弟が川で溺死してるんですが、その前後にあったことです。
自分でも自信ないんですよ、あれ全部が本当に起きたことなのかって。
ここはそういうことに詳しい人の集まりだと聞いてきたんで、
もし解釈できることがあれば教えてください。6月でした。
日曜の午後だったはずです。母からお使いを頼まれて、
お釣りでアイス買ってもいいと言われたんで、弟と近くのスーパーに行きました。
リストを見ながら買い物を済ませた帰り際です。
入り口の外に自販機が並んでてベンチがありましたが、そこに腰掛けてたおばさん、
ちょっと齢はわからなかったですが、おばあさんというほどの年齢でもなかったです。

服装なんかはよく覚えてません。黒い着物だったような気がしますけど。
その人が、店から出てきた僕らに話しかけてきたんです。
「あんたら双子かい」って。弟は5年生だったから僕より背は低いけど、
顔はよく似てたんです。僕が「いいえ、兄弟です」って答えると、おばさんは、
「ああ、そうみたいだね。・・・変なこと言うと思うだろうけど、
 あんたらを川が見てるよ。川に近づかないこと、知らない人と話をしないこと」
これだけ言ってそっぽ向いちゃったんです。弟と顔を見合わせながら
その場を離れたんですが、子どもでしたから困惑しますよね。
それで道々、「今の人、何だったんだ?」とか言いながら帰ってきました。
「川が見てる」って部分も、意味がわかってなかったんです。
そもそも「かわ」が「川」のことだと僕は思いませんでした。

だって、川は人間じゃないし「見る」ことなんてできないですからね。
「川に近づかいない」のほうは「川」のことだと思いましたけど。
ええ、家の近くに川はありました。名前はついてましたけど、支流で、
そんな大きな川じゃなかったです。それと「近づくな」というのも無理な話で、
小学校への通学路は少しだけど土手を歩いたんです。
朝は集団登校でそのコースは変えられないし、帰りも土手を通るのは数分程度でした。
で、そのおばさんのことは親に言おうかと考えたものの、
家でアイスなめてるうちに、僕も弟も忘れちゃったんです。
でもねえ、今から考えて、親に話してどうにかなったとも思えないんですけども。
翌日の月曜日です。その日、弟はサッカーのスポ少があって、
僕のほうが先に家に戻って宿題やってました。

そしたら6時近くに弟が帰ってきて、一緒に使ってる部屋に入ってくるなり、
「兄ちゃん、変なことがあった」って言ったんです。
「えー、何?」 「さっき土手歩いてたら、たぶんまだ小学校じゃないくらいの
 小さい男の子が寄ってきて、ボール落としたから取ってって言ったんだ」
「それで」 「手を引っぱられて土手をおりていくと、川につながる排水路に
 金色のボールが落ちてたんだよ。でも、あそこの排水路は高さがすごくあるじゃない。
 手を伸ばしても届かないから、そこらに落ちてる枝を拾ってつついてみたんだよ。
 けど、そのまま押し出したら川に流れていっちゃうし、
 棒2本でつまみあげるのも無理そうだったんだ。だから、これ取れないから、
 大人に人に言ったほうがいいよってその子に言おうと振り向いたら、
 もういなくなってたんだ。そんとき、ゴーゴーって水が流れる音がして、
 
 排水路の穴からどっと水が出ててきて、ボールが浮いた。で、やっぱり、
 川に入っちゃったんだけど、そのボールがぐるんと裏返ったときに、
 下になってたほうが出てきて、それが目玉だったんだよ。
 こっちをにらむようにしてから、ぐんと沈んでそれきり浮かんでこなかったんだ」
だいたいこんな話をしたんです。「えー、ボールってどれくらい?」
「ソフトボールくらい」 「それ、目玉の絵が描いてあったんだろう」
「でも、本物の目玉に見えた。生きてるみたいな」
ここまで話して、日曜のスーパーのことを思い出しました。
たぶん弟もそうだったと思います。でも、それはそれとして、
ボールに本物の目がついてるなんて考えませんよね。かといって、
弟が嘘をついてるとも思わなかったです。

そんな変なつくり話する意味ないですからねえ。
「じゃあ、明日お前スポないだろ。帰りに待ち合わせて排水路まで降りてみよ」
こういう話になったんですよ。で、一緒に行ってみたんですが、
やっぱりそんなボールはなかったんです。けど・・・
排水路が川と合流する付近に、なにか大きな四角いものが沈んでるように見えました。
でも、増水してる時期だったから、濁ってて何だかわかりません。
「これ何だろ」子どもだから当然木の枝でつつきますよね。
2人で押してみたら、引っかかってたのが外れたのか、浮き上がってきたんです。
そのときに半回転して、屋根の形と上についてる金の鳥が見えたんです。
「あー、兄ちゃんこれ」 「・・・うん、お神輿だよな」
手につかんでた枝にビビッと電気が走ったような感じがして、

僕は思わず取り落としてしまいましたけど、弟もそうだったんです。
なにか嫌な感じがこみ上げてきたっていうか、
僕も弟も、一目散に土手に登りました。それで上から見ていたら、
お神輿らしきものは、ゆっく浮き沈みしながら下流に流れていったんです。
うーん、排水路からというのは考えられないです。穴のところが格子になってて、
大きなゴミは引っかかりますから。あと、そうですね、
僕らの地域では7月に夏祭りがあって、そのときにお神輿も出るんですが、
それは10人以上で担ぐ大きなのでした。でも、そのとき流れていったのは、
家の神棚よりちょっと大きい程度のものだったんです。
だから、誰かが川に流したのが、たまたまそこに引っかかってたのかもしれません。
ただね、そのとき家に戻るまで、ずっと背中がゾクゾクしてたんです。

弟も同じみたいでした。手で自分の両肩をつかんで縮こまって歩いてたのを覚えてます。
その翌日から長雨になりました。かなり長期間続いたはずです。
弟のサッカーは休みが多くなり、僕は剣道でしたから、
僕のほうが帰る時間が遅い日が続きました。それで3日目に、家に着いたら、
母親が「○○はお前と一緒じゃなかったのか」って言ったんです。
僕が首を振ると、「おかしいわね」と学校に電話をかけ、
そしたら、もう2時間も前に学校を出たって話をされたんです。
そのときが6時過ぎで、さすがに外は真っ暗になってて土砂降りの雨でした。
母はあちこち友だちの家に連絡し、どこにもいないことがわかって、
8時前に帰ってきた父と相談して警察に連絡したんです。
警察の人がたくさんきて、僕も心あたりを聞かれたりしました。

夜中じゅうずっと捜索したんですが、その夜は見つからず・・・
翌日も、その翌日もです。今思えば、誘拐という線もあったんでしょうけど、
警察は川に落ちたのを疑ってるみたいでした。
すごく増水してて、いつも通る土手もすぐ下まで水がきてるように見え、
弟のこともあって通行禁止になりました。父は公務員だったんですが、
ずっと休んで家にいて、僕の登下校を車で送り迎えしてくれたんです。
親戚も集まってきました。それで、雨がやっと上がった翌日、
弟の死体が、ずっと下流の倒木に引っかかってるのが見つかったんです。警察の検死、
火葬、葬式、うちの一家にとっては大ショックでした。・・・こんな顛末です。
弟が会ったという男の子、スーパーのおばさん、お神輿・・・わけがわからないです。
僕はそれ以降、高校を卒業するまで川には近づかないようにしてました。








反則企画

2016.05.10 (Tue)
今日は時間がなく、反則企画です。

黒い郵便配達

余り怖くはなく、どちらかといえば昔話に近いような内容ですので、
ここに投下させていただきます。

私が子どもの頃に祖父から聞いた話です。
祖父が生まれ育った地域は、古くからの神話伝承の豊富な土地柄であり、
これもそういうものの一つかもしれません。
はるか古代に、その地域の国津神がある誓いを立てたのだそうです。
それは、その地域の住人が死ぬ前に本人に死期を知らせるというもので、
なぜそのような奇妙な誓いを立てることになったかのいわれは伝わっていません。

ただし死期を知ることができるのはその血筋の氏の長者、
つまり本家の家長に限られています。そのお告げを受けた場合、
財産の分与などの準備を万事滞りなく済ませてから、
従容と死についた者がほとんどであったといいます。
そしてその死のお告げの形は時代によって変化しながら、
近代まで続いていたということです。例えばこのように。

黒い郵便配達・・・主に雨や風の強い夜にその配達夫は自転車でやってきます。
まだ電話がない時代、あっても普及していなかった時代の話です。
風や雨の強い夜半「電報です」とドンドンと戸を叩く音がします。
ただしその音は家長にしか聞こえません。
外に出てみると、帽子を目深にかぶり黒いゴム引合羽の衿を立てた、
人相のわからない郵便局員がずぶ濡れで立っていて、無言で電報が手渡されます。 

それに目を落として顔を上げると、自転車ごと配達夫の姿はもう見あたりません。
電報には1週間以内の日付が記されていて、
読み終えたとたんにこれもまた溶けるように消えてなくなるといいます。
そこでその家の主人は何事であったかを悟り、
死出の旅路の準備を始めるというわけです。

他にはこんなのもあります。持ち山の様子を見に行ったときに、
慣れ親しんだ道のはずがどうしたわけか迷ってしまい、
さんざんさまよったあげく見たことのない大きな寺の前に出ます。
山門をくぐって中に入り、道を尋ねようと本堂に入りますが、
蝋燭が灯り線香に火がついているのに人の姿がありません。 

そこで何かに誘われるように奥のほうの位牌堂に入っていきます。
位牌堂の入り口には卒塔婆が立てかけてあり、
削りあとも新しい一番上のものに、自分の名前と法要の期日が、
記されているのを目にするというのです。あっと驚いた拍子に、
寺は姿を消し見覚えのある山道の辻に立っているのに気づきます。

また、例祭などでもないのにふらっと氏神の神社に足が向いていきます。
手水をとっていると、水盤の底にゆらゆらと字が浮かび上がってきて、
自分が死ぬ日の日付に変わります。また、陽あたりのいい冬日に、
子守に逆向きにおぶられた孫の顔を何気なくながめていると、
赤ん坊は へくっ とくしゃみをして、そのときに舌を出すのですが、
その舌がべろーんと長く伸びて、そこに墨で黒々と、
日付が書かれていたという話もあります。

お告げを受けた者は、そのことを親類・家族、
檀家寺の住職に話し、死ぬための支度を始めるのです。
これは少なくとも戦前までは当たり前にあったと祖父はいいますが、
子どもの頃の私をからかっていたのかもしれません。
祖父はもう亡くなり、その伝承のあった地から離れていますので、
今現在もこのようなことがあるのかどうかはわかりません。
それから明治の時代に一人、このお告げに抵抗した人の話も聞きましたが、
それは長くなりますので、後日機会があれば投稿したいと思います。


・神様も随分と多種多様な告知の仕方をしてくれたもんだ。
 もしかして、如何に告知するのかあれこれ考えるのを楽しんでるのかもしれんね

・長者は仏教用語だが、国津神がらみだと蘇民将来説話のコタン長者がある。

・神様は寺とか神社とかあんまりこだわってないんだな。
 現代ならメールでぱっと教えてくれそうw

・恐怖新聞のように窓ガラスをブチ割って配達されないだけ良心的なんだな。

・メールで送るにしても、やたらと凝ったメールで着そうだがw

・死亡原因とか書いてあるんだろうか…

・みんな覚悟決めて受け入れる人ばかりなのかな、
 自棄になったりしなかったのか、明治の人以外には抵抗した前例はないか気になる。
 国津神さんはなんでそんな誓いをたてたんだろうね。
 お葬式の手配でバタバタするのが大変そうだから、余裕を持って準備できるように、
 とか?あるいはなるべく志望確定した人が悔いの無いようにする為?
 何にしろ、気になる話だと思った。

・なにそれ神様超現代っこじゃんw

・to ○○
 from 神
 一週間後君、死んじゃうから葬式の用意しときなよー(^_^)v
 みたいな?w

・いっその事LINEのスタンプでいいよw

・デュラハンとかバンシーみたいだな、それよりは親切だけど

・なるほど、つのだじろうの恐怖新聞はこうして出来たのか

・ルシフェルが使ってる携帯ばりに、神から着信あるとかね。

・こうして、前もってちゃんと知らせてくれたら、心の準備も含めて、
 いろいろ用意ができていいな。私の時も知らせてもらえたらな。







妖霊星の話

2016.05.09 (Mon)
今日は怖い日本史に分類される項ですが、
天狗が出てくるので、妖怪談義とも関連があります。
まず、妖霊星(ようれいぼし、よろぼし)とは何かというと、
これは彗星のことです。ハレー彗星を指す場合が多いようですが、
その他の彗星もこう言われることがあります。
中国では紀元前から観測・記録されており、様々な史書に見られますが、
日本で最古の記録は『日本書紀』天武紀に登場する684年のものです。
ただし、まだこの頃は、妖霊星という別称はなかったと思われます。

それ以降はちょくちょく日本の史書にも登場しますが、
不吉なもの、世が乱れる前兆と考えられ、陰陽師や寺社が加持祈祷を行ったり、
1145年出現のときには、天養から久安に改元がなされています。
この星は大乱や時の支配者の交代につながると考えられていたんですね。
それと、この星は「天狗」とかかわりがあるようです。元来、天狗とは、
古代中国では流星、隕石の類を指していました。天を走る狗(いぬ)、
または天つ狐(あまつきつね)などといって、動物的なイメージもありました。
あの山伏姿で鼻の高い姿は、日本独自のもののようです。

『山海経』より天狗


妖霊星の名が有名になったのは、『太平記』からかと思いますが、
今、あまり太平記って読まれないんですよね。中高の国語の古典の教材として、
『平家物語』は出てきても太平記は取り上げられにくい。
たしかに平家物語は美文で、物語としての完成度も高いのですが、
それ以外にも、戦前に、太平記の楠木正成の勤王エピソードなどが、
大々的に取り上げられていたせいもあるかと思います。元寇の神風と同様じく、
国粋主義的なイメージがくっついちゃったんですね。

さて、太平記に登場する妖霊星のエピソードは、
鎌倉幕府最後の執権、北条高時に関するものです。
この人は生来病弱でぼうっとしており、田楽踊りと闘犬のときだけ元気になって、
政治をないがしろにしていたと書かれていますが、
太平記もまた勝者の歴史であり、実際にそうだったかはわかってはいません。

『太平記』巻五、「相摸入道田楽を弄ぶ並びに闘犬の事」には、
『高時が酒に酔って一人で田楽を踊っていると、どこからともなく、
座敷内に田楽法師の集団が現れ一緒に踊りだし、やがて曲調が変わり、
「妖霊星を見よや」と囃す声が聞こえてきました。屋敷の者がのぞき見ると、
踊っているある者は、嘴がかぎのように曲がってとんびのよう。
また体に羽が生えて山伏のような格好の者もいます。人間以外の化け物か妖怪どもが、
人間の姿に身を変えているようです。知らせを聞いて太刀を持った者が入っていくと、
化物は一斉に姿を消し、ただ高時一人が酔いつぶれて寝ていましたが、
畳の上には、鳥や獣のものと思われる足跡がたくさん残っていました。』


この後ほどなく、新田義貞の倒幕軍が鎌倉へ侵攻すると、
高時は菩提寺の葛西ケ谷東勝寺へ郎党と退いて自害します。その人数は、
北条一族と家臣で870人と伝えられていますが、誇張もあるかもしれません。
「腹切りやぐら」と呼ばれる史跡が付近にあるものの、
遺骨は発見されていないようです。これにより、鎌倉幕府は滅亡したんですね。
上の田楽の話は実際にあったこととは考えられませんが、
羽が生えた山伏はカラス天狗を思わせます。また、こういうエピソードもあります。
足利尊氏が征夷大将軍となり、京都に室町幕府を開いた翌年、
またしても夜空に妖霊星が現れました。

『太平記』巻二十七、「雲景未来記」
『羽黒山の雲景という山伏が修行で諸国をめぐり、愛宕山に登ったとき、
僧坊の奥に案内されると玉座があり、大勢の人が集まり座っていました。
上座には大きな金色の鳶が、そしてその右脇には、大弓、大太刀を携えた大男が、
左の席には、天皇の礼服を着て金の笏を手にした方々が何人も座り、
右の席には、袈裟を着て水晶の数珠を持った法師が何人も座っていました。

雲景はおそれ、案内者に「これはどのような方達の集まりでしょうか?」と聞くと、
「上座に見える金色の鳶が崇徳上皇であられる。
右脇の大男が鎮西八郎為朝、左の席の上から、淳仁天皇、井上皇后、後醍醐院、
右の席は諸宗のすぐれた徳のある高僧の方々が、悪魔王の棟梁となられて、
今ここに集まり、天下を乱そうとご相談なされておる。」と楽しそうに答えました。』

愛宕山と言えば天狗ですね。
生きながら天狗と化したといわれる崇徳上皇をはじめ、
名前が出ているのはすべて、世に破れ時をうらんで亡くなったとされる人ばかりです。
世を乱すための謀略に集まっていたのでしょうか。
実際にこの後、南北朝の動乱が起きていくのです。

次は幕末の妖霊星です。数年前放送されたNHKの大河ドラマ『八重の桜』で、
安政5年(1858年) に現れた妖霊星の話が出てきていました。
ただし、これはハレー彗星ではなくドナティ彗星という星のようですが、
当時の人に区別はつかなかったでしょう。これについてドラマの登場人物が、
鎌倉幕府滅亡時に現れた妖霊星と関連づけて語っていました。
やはり、ほどなくして戊辰戦争から明治維新となるわけですね。

さてさて、そろそろまとめますが、日本史の流れの裏筋の一つに、
「妖霊星ー政権交代ー天狗」という認識があったように思われます。
幕末で天狗と言えば『鞍馬天狗』ですよね。これは創作小説ですが、
鞍馬寺の本尊の一つである「護法魔王尊」は、650万年前、
金星から地球に降り立ったもので、その体は通常の人間とは異なる元素から成り、
その年齢は16歳のまま、年をとることのない永遠の存在であると伝えられています。
鞍馬山の天狗とは、もともとはこの護法魔王尊のことだったようです。
クマラ大王という別名もあります。

また、鞍馬山といえば、源義経が牛若丸という名で、
カラス天狗に兵法を教えられて、少年期を過ごした場所としても
知られています。義経は平家を壇ノ浦で滅ぼし、
平家から源氏への政権交代の立役者となった一人です。
しかしその源氏の世も長くは続かず、北条氏が実権を握るわけですね。
オカルト的に言えば、宇宙から来た天狗が歴史の要所要所で暗躍し、
空に妖霊星を出現させて、人間を操っていたということになるでしょうか ww
まあ、さすがに宇宙人は言いすぎですが。







植物怪談 2題

2016.05.08 (Sun)
・前の項を受けて無理くり植物怪談をひねり出してみたんですが、
やはり小手先になって、あんまりいいのはできませんでした。

屋敷の庭

こないだ、2ヶ月くらい前だが、パチンコ屋にいたのよ。
その頃はまったくツキがなくて、その日も朝一で座って3万円やられた。
でまあ、気分を変えようと席を立ったら、自販機コーナーで「よう」と声をかけられた。
見ると70年配ほどのジイサンがいて、最初は誰だかわからなかった。
だがどっかで見覚えがあるなあと記憶をたどって「あっ!」と思った。
○○組の幹部だった人なんだよ。といっても、もう引退してだいぶたつんだが、
見た目がすっかり好々爺になってたから、誰だかわからなかったんだ。
だってよ、元幹部、現役の時はジムで体鍛えてて、
いかにもケンカ強そうに見えたのが、すっかり痩せて縮んでたし。
でな、緊張して話をしたら、「ヒマそうに見えるが、少し俺のとこ手伝わねえか。
 バイト料払うから」こう言われた。

いや、金もなかったけど、ちょっと断れねえ感じがして話聞いてみると、
家の庭の手入れをしたいが、老体一人だと手にあまるからってことで。
ま、確かにヒマだったんで、「いいですよ」って言って、
元幹部の古いベンツで郊外にある一軒家に行ったわけ。豪邸といえるつくりだったが、
すっかり荒れていたな。昔、まだヤクザ屋が景気よかった頃は、
みな競うようにして瓦屋根の屋敷を建ててたからな。
「一人で住んでるんですか」って聞いたら、「おうよ、
 息子は俺の家業が嫌だと抜かしたから縁を切った。この齢じゃ女も必要ねえし、
 気楽な一人住まいよ」こんな話だった。
「でもこれ、継ぐ人がいないんじゃもったいないですね。売らないんスか?」
聞いたら、「ま、ちょいと事情があってなあ。

 しかしいずれは何とかせにゃ。俺もこの先長くないだろうから」って。
でね、まだ残ってた雪囲いを外したり、雑草をとったり池をさらったり、
元幹部の支持にしたがって、あれこれ手入れをしたんだよ。庭はすげえ広さで、
確かに一人で手入れをするのは無理だろうと思った。
「業者、人材センターとかに頼んだらどうです」って言ったら、
「元とはいえ筋者のとこだからな、地域でも警戒されててなあ」こんな話だった。
楓や松、俺はそれくらいしかわからねえが、様々な木がところせましと植えられてて、
元幹部が出してきたハシゴにのって枝切りなんかもした。
でな、敷地の横手のほうに、こんもりと塚みたく地面が盛り上がったところがあり、
そこは何も植えられてなくて、雑草が生い茂ってたんだ。
「ここらの草取りもしますか」って言ったら、

「・・・ああ、じゃあ、あんまり掘っ返さないようにしてやってくれ」
でな、そこに生えてたのは細い固い茎のイネに近いような雑草一種類だったが、
これが奇妙だったんだよ。なんか手にまとわりついてくる気がした。
抜こうとして何十本かまとめてつかむと、シュッシュッと指の間から抜けて、
手首に巻きつくような感じがした。まあそんときは、
茎に弾力があるからそうなるんだろうくらいに思ってたのよ。雑草は生きてるけど、
自分の力で動くわけはねえから。で、4時間ほど作業して5万円もらった。
臨時収入としてはいい額だろ。飲んでいくかって誘われたが、それは断った。
「また荒れてきたら頼むわ」携帯の番号を交換してそのときは別れたが、
次はなかったんだよ。それから少しして、仲間にこの話をしたら、
「ああ、○○さんの家に行ったのか。お前知ってるか?

 あの人、現役時代は荒事でならしたもんだが、組の仕事以外にも、
 何人か周辺の人が消えてるんだよな。噂じゃあ、プライベートでバラして、
 自分の家の敷地に埋めたってことになってる」これ聞いて、ちょっとぞゾッとした。
さっき話した、雑草の生えた小山がそうじゃねえかと思ったんだ。
でな、元幹部は3日前に死んだんだよ。死因は心臓らしいが、
なんと立ったまま死んでたって話だ。いや、これも噂なんだが、
そんな馬鹿げた作り事はしねえだろ。あの雑草の中で立ったまま事切れてたんだ。
なんで倒れねえかっていうと、元幹部の腰のあたりまで、
両足びっしりと、あの草が絡みついてたってことだった。なあ怖ええ話だろ。
さあなあ、屋敷はどうなるんだろうな。息子さんが相続するのか。
あの塚を堀っ返せば何が出てくるのやら。

観葉植物

あの、健康食品の販売会社に勤めてます。社員のほとんどが営業で、
事務職は少ないんですけど、その中でいじめがあったんですよね。
いえ、女子職員の中でってことはないです。
ブラックに近い会社で、仕事もハードですからイジメが発生するほど長くいる
人は少ないんです。私はこれでもけっこう気が強いし、
無神経なほうだから務まってるようなものです。
それで、イジメにあってたのは、営業で入った若い男の子で。
訪問販売中心だから営業の月ごとのノルマがあるんです。
それ達成できないと、上司からものすごく罵倒されて。
「何のために生きてるんだこの無能」とか「給料泥棒は首吊って死ね」
みたいなことまで言われるんです。

気の弱そうな子だったから、ああこれはすぐ辞めちゃうだろうと思ってたんですが、
何でも母親が難病で入院してるということで、
辞めたくてもできなかったみたいなんです。どんどん落ち込んでいって、
外回りに出ずっぱりになり、たまに会社に戻っても
ほとんど誰とも口を聞かないようになって、「ああこれはノイローゼだな、
 自分から辞めなくても馘になるだろう」って思ってたんです。
それで、ある夜9時頃ですね。その日、ちょっと会社に私物を忘れ物しまして、
普通は誰もいなくなる時間帯だったんですが、
会社が入ってるビルの守衛さんはいるので、話をして取ってこようとしたんです。
そしたら、「お宅の会社、まだ閉めてませんよ」って言われて、
入ってみたら照明が消えてたんです。

でも、非常灯があるのでそれなりに明るくて、隅のほうに人が立ってたんです。
ぎょっとしました。その人はコーナーに向かって何かブツブツつぶやいてましたから。
急いで照明をつけると、それは話に出した男子社員で、
その隅には、人の背丈くらいの観葉植物が置いてあったんですが、
それに向かって何か・・・たぶん恨み言をささやきかけてたみたいです。
まあこれは、今考えてそう思うってことですけどね。
「ちょっとあんた、明かりもつけないで何やってるのよ。早く帰りなさい。
 明日もたいへんなんでしょ」こう声をかけたら、「はあ」と力ない返事が返ってきました。
「ああこれはダメだ」と思って、忘れ物をとってすぐに帰ったんです。
それから1週間ぐらいして、その男子社員が出社してこなかったんです。
いや、ノルマを考えれば有給なんかとれませんし、連絡も入ってませんでした。

まあ営業職ですから、出社しないで直接外回りに向かうことも多いんですが、
必ず朝一に連絡は入れることになってたんです。
ですから、それ聞いたときは「いよいよ辞めるんだろうな」くらいでした。
それで、昼前になってですね。「ギイヤアーーーアアア」という、
低いけど耳に残ろような音がしまして、どこだろうと思って見たら、
隅にある観葉植物からだったんです。「え!」って思いました。だって、
その上のほうに一個だけ、人の顔くらいの赤黒い大きな鼻が咲いてるように見えたんです。
ありえないです。蕾もなかったし、だいいち花をつける種類じゃないですし。
眼鏡をはずしてもう一度見ましたら、もう花はなくなっていました。
回りは誰も気にしてる様子はないし、私の見間違い聞き間違いだとそのときは思いましたが。
ええ、後でわかったんですが、ちょうどその男子社員が公園で首を吊った時間だったんです。

・やはり植物が単体で怪異を起こすというのは書けませんでした。
どっちも人の恨みがの念が植物に乗り移った話ですね。




 

植物の怪談

2016.05.08 (Sun)
『雄しべが赤い手のような形をしたデビルズハンドトゥリー(悪魔の手の木)が、
滋賀県草津市下物町の水生植物公園みずの森で開花し、
赤い奇抜な花が来園者をひきつけている。南メキシコやグアテマラ原産の常緑樹。
日本の植物園ではほとんど栽培事例がないという。
みずの森には2011年に愛好家から寄贈された。
ビニールハウス内で温度管理を工夫しながら、14年に初めて開花させた。』

(京都新聞)


今日はこの話題ですが、自分は植物は詳しくないので、どうなりますか。
話がまとまらないまま、あちこちに飛ぶんじゃないかと思います。
日本の怪談に、あまり植物系のものは多くない気がしますが、
祟る木というのはありますね。この木を伐ろうとすると人夫が怪我したり
死んだりするので、じゃまになるけど残しておいた、みたいな話です。

斧を入れると、真っ赤な血のような樹液が吹き出したとか。
そういう逸話を持つ木は全国にあるようです。
大木になれば、その寿命は人間の何倍にもなりますし、
長年地域と結びついてきたものなので、
自然に畏敬の念が生まれて、そういう話ができるのかもしれません。

有名なのは、東京競馬場の第3コーナーの大ケヤキ(実際はエノキだそうです)
このあたりに来ると、馬が故障したり落馬事故が起きたりする。
しかしこれ、木の下に墓があるんですよね。井田是政という
戦国時代の北条家の家臣のもので、子孫の方が移転に大反対したため、
木とともに史跡として残されているらしいです。

ですからもし本当に祟りがあるとしても、木によるというより、
その墓関係のものなんじゃないかと思います。
「是政特別」というレースもあります。中央競馬会が祟りをおそれ、
井田是政の名を冠したレースをわざわざつくった・・・
噂ではそういうことになっていますね。

昔はどうだったか気になって『今昔物語』を見てみましたが、
やはり植物の話は少ないです。「尼さんと木こりが山の中で舞を舞う話」
というのがありますが、たんに毒キノコにあたっただけのことです。
「胡桃酒を飲んで溶けうせる話」これは寸白男(すばくおとこ)、
寸白というのは人間の寄生虫、回虫などのことですが、
その化身である男が人間に混じって普通に生活していたが、
ある場所で胡桃をすりおろした酒をふるまわれ、胡桃には虫下し作用があるので、
溶けて消えうせてしまったという話。でもこの場合、怪異は寸白男のほうです。

やや興味深いのは「蕪と交わって子どもができる話」ある男が旅の途中、
畑に大きな蕪がなっているのを見つけたが、それがまるで人の股のような形。
見ているとムラムラと性欲が起こり、その蕪に穴を開けて交わった。
その後、蕪を収穫した地元の娘がそれを食べると、
まったく身に覚えがないのに子どもを身ごもってしまった。
やがて様々な偶然が重なり、その男と女は夫婦になった、というような内容です。
これ、次に書く西洋の植物怪談と、どこか関連があるような気もします。

西洋で植物怪談と言えば、『ハリー・ポッター』にも出てきた
「マンドレイク(マンドラゴラ)」が有名ですね。実際にあるナス科の植物で、
強い毒性があり、麻酔薬として使用されましたが、そのために死ぬ人もいたようです。
伝説の中のマンドレイクは、根が小人のような形をしていて、
引き抜かれるときに叫び声をあげ、それを聞いた人は死んでしまう。
これを抜く方法としては、犬を茎につないで遠くから呼びつけたり、
餌で釣ったりします。叫びを聞いた犬は死にますが、
マンドレイクは手に入り媚薬や不老不死薬の原料となります。

マンドレイクを抜く犬
ははかいいあそ

マンドレイクの亜種で「アルラウネ」というのもあります。『グリム童話』によれば、
盗賊の家系に生まれた者、妊婦なのに盗みをした女性から生まれた者、
実際には無実なのに拷問にかけられ、泥棒の自白をした者、
これらが縛り首にされたとき、彼らが童貞であって、
死に際に尿や精液を地にたらすと、そこからアルラウネが生えてくるとなっています。
抜く方法はマンドレイクと同じで犬が犠牲になります。
アルラウネの根は生きた小人で、質問をすると未来のことを教えてくれます。

錬金術士パラケルススがつくったとされる「ホムンクルス」
とも共通点がありますね。これは精液をガラス容器の中で培養してできる、
生まれながらにしてあらゆる知識を身につけた小人です。
昔の西洋医学では、精液の中には極小の人間が入っている、
と信じられていた面があった(これを前成説と言います)ので、
このような伝承ができたのかもしれません。

あと、上のアルラウネが生まれるための条件は極めて難しいですが、
魔術の原料となるものは、例えば、
「極悪人の血をなめた猫の舌」などのように、
まず普通の人が入手するのは不可能なものが多いんです。
簡単に集められるものだと、すぐインチキがバレてしまうからかもしれません。

さてさて、最後に、植物がテーマになった短編作品としては、
ナサニエル・ホーソーンの『ラパチーニの娘』が有名です。
毒草の研究家であるラパチーニ博士には一人娘ベアトリーチェがいましたが、
生まれたときから毒草を食事として与えられ、ついには、
そばを飛んだ蝶が、地面に落ちて死ぬほどの毒娘となってしまいました。
このベアトリーチェが恋をして・・・という悲しいお話。
しかしこれは、植物そのものの怪異とは違いますね。
ジョン・コリアの『みどりの想い』もよく知られています。
猫や人を食べる(というより同化してしまう)植物が出てきますが、
才人コリアが書いただけあって、なかなかの仕上がりです。

じゃかいsどあたた





ミギワさんの話

2016.05.07 (Sat)
えー、自分はMと言います。何でも屋のライターをしてますが、
旅行雑誌に書くことが多いです。よろしくお願いします。
それで自分、趣味で怪談を集めてるんですよ。
いろんな知人に怖い体験ないか聞いて回って。
いや、別に実話怪談書こうとかではないです。まあ趣味ですね。
ここ4年くらいやってるんですが、500話くらいにはなったと思います。
ええ、自分が怪談集めてるのを知ってる人が、体験者を紹介してくれるんです。
でね、これはそんな中の、Aさんっていう20代後半の女性からお聞きしたものです。
Aさんは大きな宝石店に勤務してて、そこわりと自分のマンションの近くだったんで、
連絡して退社時に喫茶店で待ち合わせて伺いました。
でねえ、最初に聞いたときはそんなに怖い話じゃないと思ったんですよ。

今からお話します。こんな内容でした。・・・Aさんがまだ小学校高学年で、
実家のある県に住んでたころ、法事があって、
親戚一同がお寺さんに集まることがちょくちょくあったということでした。
お葬式ではなくて法事なんですが、その1年だけで5回くらいあって、
午前中に集まってきて本堂で法要をし、お寺の一室で仕出しの法人料理を食べ、
夕方まで四方山話をして解散する。そういう集まりだったそうです。
ただ、来てる子どもは、Aさん以外は中学生の男子か小さい子ばかりで、
Aさんは退屈して持ってきた本を読んでることが多かった。
そのときに、ミギワさんという和服の喪装の女性がよく話しかけてくれた。
ええ、ミギワというのはAさんの名字とは違ってましたが、
遠い親戚の人だと思ってたそうです。

ミギワさんは当時、30代前半くらいでとても色が白かったことを覚えてると
言ってました。話をする内容は、「学校楽しい?」
みたいなありふれたことだったそうですが、その法事の最後の1回に、
ミギワさんと一緒にお寺の外に出たんだそうです。昼食後に手を引かれ、
お寺の前の停留所からバスに乗りまして、片道1時間くらいかかったそうですから、
けっこう遠くまで出たわけですね。で、着いた先が境内の広い大きな神社。
たくさん参詣者がいて、Aさんは神社の参道に出ていた屋台で、
ミギワさんに串団子を買ってもらって食べた記憶があるそうです。
それから玉砂利を踏んでいくと、大きな金属の狛犬があったんです。
ミギワさんは、その片方の口を開いてるほうの前までAさんはさんを連れてきて、
「これは大事なことだから」そう言って、

Aさんを、顔が狛犬の口の前にくるようにして抱き上げました。
ええ、Aさんは今も小柄なんですが、小学生時代はいつも背の順で1番前だったそうです。
「この中を覗いて、見えるものを教えて」でも、そう言われても、
たぶん銅製の狛犬の口ですから、中は真っ暗のはずですよね。
実際真っ暗だったんですが、「何も見えませんよ」とAさんが言ったとたん、
急にふっと目の前が明るくなり、玉砂利の上で人形を抱いている和服の女の子が
見えたそうです。4、5歳くらいかと思ったそうですが、
なんとなく顔に見覚えがある気がしました。女の子はすごくつまらなそうな顔をして、
振り向いて後ろのほうに歩いていったんですが、
そこに、Aさんが覗いてるのと同じ狛犬があったんだそうです。
だから同じ神社だと思いました。「もういいかな」ミギワさんがAさんを下ろし、

Aさんは狛犬の後ろに回ってみましたが、首の後に穴が開いてるわけでもなく、
また狛犬の後ろに同じものがあるわけでもなくて、そこは社殿の杜になってました。
首をひねりながら見たことを言うと、ミギワさんはその女の子の着物の柄なんかを
細かく聞いてきて、「ありがとうね」とAさんの頭をなでたそうです。
それからまたバスに乗って帰ってきた・・・
こういう話だったんですね。その後法事に出ることはなく、
ミギワさんとは1回も会ってないそうです。で、中学生になってから、
Aさんがそのときのことを思い出して、お母さんにミギワさんのことを尋ねると、
お母さんは首をひねって、「ミギワさんねえ、親戚のだれかなんだろうけど、
 ちょっとわからない」こう答えたんですね。高校生になってから、
「あれほど大きな神社だし、狛犬もまだあるかも」

そう考えて、バスで1時間圏を中心にそのときの神社を探し、
何ヶ所かは行ってもみたんですが、どこも小さいころの記憶とは違っていた・・・
どう思いますか? 特別に怖い所のある話じゃないですよね。
狛犬の口の中に女の子が見えたのは変と言えば変だけど、
それだって子どもの勘違いかもしれないですし。そう思ってたんですが。
で、自分は話を伺うとき、録音とかはしないんです。メモだけ。
録音をすると、どうしても体験者の方が緊張して話がぎこちなくなるんです。
それに保管も大変だし。A5の大きさのパッドに要所だけメモっといて、
これはと思う話だけパソコンでリライトします。Aさんの話の場合は、
そこまでのものではないので、ほっておいたんですが。2日後かな、
仕事から部屋に戻ったとき、机の下にメモパッドが落ちてたんですよ。

特に気にもせず拾い上げましたら、中から1枚、昔のフィルムカメラらしき
写真が落ちてきました。モノクロでしたから古いものだと思います。
で、写ってたのが、たぶん同じ女の人を前と後ろから屋外で撮ったもので。
ええ、つまり合成写真というか、2枚のものを1つにまとめて焼いてあるんです。
女の人は和装の礼服で、顔の色がハレーションを起こしたみたいに真っ白でした。
「これ、話に出てたミギワさんなのかな」って思いました。
ほら、色白だったって言ってたし、年格好も話のとおり。
でもね、Aさんからこんな写真を受け取った覚えはないし、そもそも、
Aさんは喫茶店のテーブルの上に何も出さなかったはずなんです。変ですよね。
それと、もう一つ奇妙なことがありました。写真の右半分は女性の後姿なんですが、
後頭部にあたる部分が焼け焦げていたんです。

そこだけマッチか何かであぶったようで、穴があきかけていたんです。
ともかく、「これは自分が記憶してないだけで、Aさんのものに違いないだろう、
 お返ししなきゃ」って考えました。じつを言うと、嫌な感じのする写真だったんです。
見てると背筋がぞくぞくっときました。でね、翌日Aさんに連絡しまして、
Aさんは写真のことは知らないと言ってましたが、ぜひ見たいということだったんで、
前回の喫茶店でまたお会いすることになりました。
写真を見せると、Aさんは「あっ! そうです。この人ミギワさんだと思います。
 記憶とピッタリ合ってますから。それにこの背景、下が玉砂利ですよね。
 私が連れてってもらったあの神社なんじゃないかな」続けて、
「この写真、帰省したときに母に見せたいんですが、お借りしてもいいですか」
こう聞かれたので、もともと自分のものではないし「どうぞ、返さなくてもいいですよ」

ってなったんです。まあ、自分としては厄介払いできたかなと思いましたし。
で、お母さんが写真を見たときの反応とか聞かせてもらいたいってお願いし、
その場はそれで終わりました。でも、これもきっとAさんのお母さんが、
「ああ、親戚の○○ちゃんだね」と答えて終わる話だと思っていました。
それが・・・今年の正月2日に、Aさんから衝撃的な電話がかかってきました。
「一昨日、母にあの写真を見せまして、そしたら神社の場所はわかりました。
 でもミギワさんが誰かは教えてくれなくて。それで昨日の朝です、
 母が台所で首を吊って、発見されたときにはもう手遅れで」
これだけで電話が切れ、それ以降は携帯もAさんの固定電話もつながらなくなったんです。
正月休みが終わっても東京に出てこないで、お店はやめちゃったみたいです。
これ、どうしたらいいんでしょう。実家のほうに訪ねていけばいいんでしょうか。







3つの破壊

2016.05.06 (Fri)
今日はあまり時間がなく、怪談論にさせてください。
自分はつねづね、怪談には3つの破壊が重要であると考えています。
そのうち最初の2つは、江戸時代ころの怪談でも同じですが、
最後の3つ目は、現代の怪談に特有のものだと思います。
一つ目は、科学法則の破壊です。

われわれは、基本的には中学校に上がるころまでに、
この世の科学法則がどうなっているかを、感覚的に理解します。
これはどういうことかというと、鉛筆を持っていた手を放したら、
それが床のどの辺に落ちるかがだいたいわかるわけです。
鉛筆は円筒形をしているので、どのくらいの勢いで落とせば
どのあたりまで転がるかが予想がつきますよね。これが消しゴムであれば、
弾性があるので、地面で跳ね返って鉛筆よりも遠くまでいく可能性が高い。
また、消しゴムの平たい面から落ちる場合と、
すり減った先端部分から落ちる場合とでは弾み方が違うでしょう。

そういうことを小学校の授業中とかに何度も経験して理解していきます。
これは重要なことで、われわれの生存に直接関係してきます。
例えばそうですね、道路を渡る場合を考えてみましょう。
道路を横断しようとして、右を見たら車が100mほど向こうに見えた。
左からは何も来ていない。これはまだ大丈夫だということで、横断を始めます。
ところが高齢者の場合だと、この感覚が鈍ってきているので、
判断を誤って轢かれてしまうケースが多いんですね。運転者の場合は、
このことを考えて子どもとお年寄りに注意する必要があります。

つまり、経験によって科学法則が体に染みついているわけですが、
それが破壊されてしまうと、怖さにつながるんですね。
10mほど離れた道路の向こうに赤いコートの女性が立っているのを見ました。
その人が自分のところに来るまでに速くても数秒はかかるでしょう。
しかも道路には車がビュンビュン通っているので、簡単には渡れない。
で、一瞬目を離した後、自分のすぐ前にその女性が立っていたらビビりますよね。
脳がダメージを受けると言ってもいいでしょう。
世界がぐにゃっとゆがむ感じがします。これを利用しない手はありません。

生首みたいなのもそうです。首だけになっても生きている生物、
というのは普通ではまず考えられません。
夜道を歩いていたら、塀の上に生首があるのを発見しました。
これだけでもう怖いのですが、普通は事故や犯罪の被害者かと思うでしょう。
驚きあわてているところで、おもむろに生首は目を開け、
「やあ!」と言います。当然「ギャー」となりますよね。
首だけになって生きている生物はいない、という認識に反しているからです。

二つ目は、科学法則との区別が難しいのですが、論理性の破壊です。
例えば、イチゴをもらったが食べきれなかったので、
冷蔵庫に入れておきました。夜になって食べようと思って探したら、
それがどこにも見つかりません。まあ、家族がいれば、
そのうちの誰かが食べたと思うでしょうが、一人暮らしだったどうでしょう。
不思議だなあ、と思いますよね。こういう場合、まず自分自身を疑います。

しまったと思ったのは勘違いで、あのとき全部食べてしまったのか。
冷蔵庫に入れたのは勘違いで、どっか別のところにしまったのか。
だんだん自分の行動に自信がなくなっていきます。
あれーと思いながら冷蔵庫を閉め、他を探してもないので、
もう一度冷蔵庫を開けたら、今度はイチゴがちゃんとあった。
・・・混乱はますます高まります。
これはイチゴと冷蔵庫なのであまり怖い感じはしませんが、
もし位牌と仏壇だったら怖いですよね。

推理小説の場合だと、この論理性はきちんとしていなくてはなりません。
中には、そのトリックは現実的には無理だろうと思うような作品もあるんですが、
少なくとも話の中ではつじつまが合っている必要があります。
証拠品が消えたり出てきたりしたのでは、推理が成り立たないですから。
中にはこれを逆手にとって、最初におもいっきり不可能そうな事件を提示し、
後で一つ一つ論理的整合性がとれるように説明していくタイプの作品もあり、
不可能犯罪物とか言われたりします。日本だと、
『占星術殺人事件』の島田荘司さんなんかがそうですよね。

三つ目は、宗教的な倫理性の破壊です。これは現代怪談特有で、
江戸時代ころの怪談にはあまりなかったものです。
『四谷怪談』なんかを考えてみればいいですが、昔の怪談は仏教的な
成仏の意識が強かったため、亡くなった人が出てきて祟るには、
それなりの理由が必要でした。お岩さんであれば、伊右衛門に毒を盛られて、
髪を梳くとばさっと抜け落ちる。ああいうシーンを前半で見せることで、
「ああ、この人が成仏できずに祟るのはしかたがない」と観客は思うでしょう。

で、後半部分で伊右衛門が破滅していくのを、ザマミロと思って見るわけです。
ところが現代の怪談はちょっと違います。実話怪談本を読んでいると、
「なんで私がこんな目に合わなきゃならないの」
みたいなセリフが出てきますが、今の怪談は、
自分に何の落ち度がなくても怪異に巻き込まれていく
ケースがひじょうに多いのです。いくら幽霊になった人をかわいそうに思っても、
成仏を願ってもどうにもならないんですね。

『リング』の場合で、呪いのビデオを見てしまった主人公らは、
死にたくないので必死になってビデオの秘密を探り、
山村貞子の存在をつきとめます。
「山村貞子の遺体を井戸から引き上げて供養すれば、呪いは解ける」
こう考え、古井戸の底から白骨を引き上げて供養するのですが、
やはり主人公は死から逃れることはできませんでした。
呪いを解くためには他の誰かにビデオを見せる、つまり、
新たな犠牲者が必要だったわけです。このあたり、現代的だなあと思いますね。







霊能家族

2016.05.05 (Thu)
*ナンセンス話です。

うちの家族の話です。うちは両親と僕と妹の2人の5人家族で、
僕は中学2年、妹は双子で小学校4年です。それで全員が、
いわゆる霊能というのを持ってるんです。両親は恋愛結婚なんですが、
どっちも家系が代々霊能者が輩出してる血筋で、その関係で知り合ったみたいです。
その両親の力を、僕ら子どもも受け継いだってことなんですね。
うーん、家族で一番力があるのは、妹2人のうちのどっちかでしょう。
2卵性双生児なんで顔もけっこう違うんですけど、どっちもスゴく力を持ってまして。
妹の名前は、ホントはキラネームなんですが、お梅とお竹にしておきますね。
お梅のほうは心霊系の、まあよくいる霊能者なんですけど、
お竹のほうは珍しいUFO系なんです。いや、宇宙人がいるかどうかは
僕にはわかりませんけど、お竹が巻き込まれる事件てのがそういうのばっかりで。

田んぼミステリーサークルとか、お稲荷さんの地下にある不思議な機械とか、
放射性反応が出る緑の液体とか、いかにもそれ系の怪事にぶちあたるんです。
これも素質というか、才能なのかもしれません。
僕ですか?いや、僕はぼちぼちです。力は家族で4番目だと思います。
妹たち、母、僕、父の順番ですね。
いや、霊能で生活してるってことはありませんよ。
父は普通のサラリーマンですし、母はスーパーのパートですから。
霊能で料金をとったことはありません。ですけど、たまに依頼が来たりはします。
宗教団体とかが多いですね。変な神様を地中から掘り出して収拾がつかなくなったから、
なんとか収めてくれとか。そういうときは人助けと思ってやります。
妹たちが出ていくことが多いです。一番時間の自由がきくので。

でね、2ヶ月くらい前、あるお金持ちの洋館に招待されて、
呪いの元になる品物を探すってのをやったんです。そのときの話をします。
その洋館は明治時代からある建築ですが、大規模に改築して、
あるお金持ちの家族が住んでいるんです。改築があったのが4年ほど前なんですが、
それ以来怖い出来事が起こり始めました。よくある、人がいないはずの2階の足音とか、
夜中にドアをノックされるとかそういうやつです。
これがだんだんにエスカレートしていって、
天井が渦巻いてチョコレートのように溶け始め、そこに巨大な顔が現れたりとか・・・
もちろん、次の瞬間には天井は元に戻ってるんです。
あとは、家中のナベの中に髪の毛のかたまりが入ってるとか、
トイレの水洗から真っ赤な水が流れるとか、その手の怪奇現象が。

でね、知り合いの霊能者に相談をしたら、それは呪いだろうって言われて。
前に改築したときに、一家を怨んでいる人物から、
家のどっかに呪いの種を仕込まれたんだろうって話になったんです。
まあ、そういうことはあります。その家のご主人は会社の社長ですから、
まっとうに仕事をしてるつもりでも、知らず知らず怨まれてる場合もあるんですよ。
いや、これは父が話していたことの受け売りですけど。
それで、その霊能者の人がとりあえずは家の中から呪いの種を見つけようとしまして。
でもね、その洋館は2階建で、1階が12部屋、2階が8部屋もあるんです。
おそらく改築の工事中に仕込まれたものだろうから、
呪いの元がどこにあるのか、探すのはたいへんなんですね。
ええ、これは僕らの家族が行く前のことで、ご主人から聞いた話です。

その霊能者は式神の法を使ったらしいです。
そうです、昔の陰陽師の安倍晴明なんかがやってた技法ですね。
具体的には、習字紙くらいの和紙に呪文を書いて人型に切り抜きます。
で、それを扇でパタパタ扇いで宙を飛ばさせます。
え? 曲芸みたいだって? ああ、でも、人型はセンサーとして、
霊能者の人とつながってるから、手も疲れますけど精神も疲れるんです。
その家の人に全部の部屋のドアを開けさせ、人型を扇ぎながらすべて回ったんですけど、
反応がなかったそうです。たぶん呪いには探知されたときに隠す力もついてたんでしょう。
家の中を2周目に入ったところで、その人は疲労で倒れちゃったんです。
そしたら倒れたところに、飛ばしてた和紙が落ちてきたんです。
人型は畳ほどの大きさの蛾に変化して、霊能者の体の上にバサーッと。

でね、目を回した霊能者が気がついたときには、
人型は元の大きさに戻って、その人の額にべったり張りついてたそうです。
これは自分の力では及ばない、その霊能者はそう考えて、兄弟子にあたる人を呼びました。
その人は、金魚法というのを使ったんだそうです。これは僕は初めて聞いたやり方ですが、
ガラス製の平べったい円筒容器があって、それが中で八方に仕切られてる。
これは8つの方位ってことですね。容器には水が張られ、
それぞれの仕切りに小さな金魚が泳いでるんですよ。それを両手で捧げるようにして持ち、
屋敷の部屋をすべて回る。このときの金魚の動きで、
呪いの元を見つけるってことですね。面白い方法だと思いましたが、
成功はしなかったそうです。どの部屋に入っても8匹の金魚の動きに変化はない。
それで、リビングまで戻って容器の水を変えようとしたら、金魚が一瞬で全部消えた。

ややあって、兄弟子の霊能者が目を白黒させて倒れたんです。
喉もとを押さえてもがく口から、次々と金魚が吐き出されて・・・
ええ、容器から口の中へと瞬間移動しちゃったわけです。それで、その人も失敗。
でまあ、つてをたどってうちに話がきたんです。父が二つ返事で承諾しまして、
翌週の日曜日に、母をのぞく4人でそのお屋敷に出かけました。
持ってたのはダーツです。今、はやってるんでしょう。あの、的にあてる小さい矢。
それを全員が一個ずつ。装備はそれだけでした。
でね、着いたらさっそく、お屋敷のご主人と一部屋ずつ全員で回りました。
1階は何もなかったです。そして2階に上がって3番目の部屋に入ったとき、
ピーンと来たんです。妹たちを見たらうなづいてました。父はわからなかったみたいです。
僕が「せーの!って声かけるから」こう妹たちに言いまして、

せーの!でダーツを投げたんです。そしたら3本とも、
見事に同じ天井の一画に刺さりました。ハシゴを用意してもらって、
父が少し儀式をしてから天井裏に上り、しばらくして、
クモの巣だらけになって出てきたんですが、手には陶製の黒い壺を持っていました。
フタを開けてみると小さな骨が何本か入ってたんです。
これ、五生の呪いっていうやつで、骨は鳥類、爬虫類、両生類、魚類の体の一部と、
残りの一本はたぶん人骨、それも赤ちゃんの骨だと思います。
これはかなり本気の怖い呪いなんですよ。まあ呪いの元は除去できたので、
当面の怪事はしのげます。でも、呪った人はまだいるので、そっちをなんとか
収めなきゃなりません。それは大人の仕事なんで、僕と妹らはこれでお役ごめんです。
ま、こんな話だったんですが、その家のご家族にはすごく感謝されまして。

父はいつものとおり謝礼はお断りしたんですが、ぜひにということで、
ハワイのディズニー・リゾートツアーの招待券を、家族全員分もらったんです。
ええ、こどもの日をはさんだゴールデンウイーク中に行ってきます。
金曜日は僕も妹たちも学校は休みにして。
力を使ったのはほんのちょっとだったので、申しわけない気もするんですが、
すごく楽しみにしていました。そしたら、夜に持ってく荷物を準備してたときに、
塾から戻ってきた妹たちのうち、お竹が変なことを言ったんです。
「さっき帰る途中、空に巨大なUFOが浮かんでた」って。
お梅に「お前も見たか?」って聞いたら首を振りましたが、
お竹は続けて「たぶんだけど、オアフ島で私たち宇宙人に会うと思う。
 そういうメッセージがあった」トロンとした目をしてそう言ったんですよ。







虫、食べられます?

2016.05.04 (Wed)
今日はこのお題でいきますが、おそらく生理的拒絶反応のある方は多いでしょう。
その場合は、スルーをお勧めします。

『海外での食用昆虫ビジネスが活気を帯びている。
ここ3年の間にクラウドファンディング「Kickstarter」において、
食用コオロギを扱ったプロジェクト4件が目標額に達成しており、
総計126万ドルの資金の調達に成功している。
用昆虫への投資は増えており、前述の4件のうち1つの企画団体(Exo社)は、
さらに今年3月、400万ドルの資金調達に成功したという。日本においても今年3月、
徳島大学の研究グループが学術系クラウドファンディング「academist」を通じて、
コオロギ養殖技術の開発プロジェクトを立ち上げている。』
(JBpress)

ま、昆虫食への投資がどんどん増えているということですね。
これは世界の人口増加と食糧問題に大いに関係があります。日本をはじめ、
世界の先進国の中には少子化による人口減少に悩まされている国も多く、
いまいちピンとこないのですが、途上国中心に人口は増大化をたどっており、
2050年には世界人口は90億を超えるという試算もあります。
で、地球全体で見れば食料が足りなくなる。これには、
穀類をはじめとした植物由来の炭水化物の摂取の問題がまずあるのですが、
それと同時に、肉類から摂取するタンパク質の問題もあります。

現在は、牛・豚などの家畜の肉が主に食べられていますが、
食肉の摂取量は将来的に、途上国において50%増加するほか、
世界全体でも3割近く増加すると見込まれています。
これで何がマズいかというと、畜産というのは効率が悪いんですね。
牧草地などで大きな面積を使うのに、とれる肉の量は多くはありません。
穀物の増産を阻害する要因となりえます。
それと、心配されているのは畜産による環境の破壊です。

世界に排出されるアンモニアの7割り程度が家畜に由来するほか、
人間活動による温室効果ガス排出量の14%以上が家畜の排泄物や腸内発酵による、
という試算があるのです。かつて恐竜は、自分たちが出すオナラで、
どんどん環境を破壊して滅びにつながっていったなんて話もありました。
畜産が拡大すれば、土壌汚染、大気汚染も増加します。
せっかく工業由来の2酸化炭素排出量を抑えても、
こちらが増大してしまっては意味がなくなってしまいます。

で、出てきたアイデアが昆虫食なんですね。将来的に大きなビジネスチャンスがある、
というわけです。小昆虫養殖の利点としては、
・排出される環境汚染物質が家畜に比較ししてずっと少ない。
・小さな面積で多くの収量を得ることができる。
・飼料も少なくてすみ、コストがあまりかからない。
・昆虫はまるごと食べられるが、牛・豚などは廃棄する部分が多い。

この他、漁業などは資源枯渇、種絶滅などの問題がありますが、
養殖であればそれは関係ないですよね。
栄養価も、昆虫食は牛・豚などに劣るということはないようです。
全身まるごと食べるのですから、むしろ多様な栄養素が含まれています。
これはいいことずくめのように思えるのですが・・・

こっから話は不快になっていきますのでご注意ください。
現在、養殖が研究されている昆虫として、
「ヨーロッパイエコオロギ、ミールワーム、アルゼンチンモリゴキブリ、イエバエ」
などがあげられています。どうでしょう、
みなさんはハエやゴキブリを食べる気になるでしょうか。
これらは少ない面積でくり返し増やしやすいんですよね。
自分は海水魚を飼育していて、ミールワームやコオロギは、
アロワナなど大型魚の餌として熱帯魚店で売られているのをよく見ています。
これらの養殖はすでに始まってるんです。

うーん、しかし、ゴキブリを食べる気にはならないですよねえ。
これには先入観が大きいと思われます。まず、ハエやゴキブリは不潔であるという。
ですが、ゴキブリやハエは基本的に毒素を持っていません。
寄生虫がいたり、細菌がついている場合はありますが、
清潔な、無菌環境で養殖すればそれはクリアされるはずです。
ですから、生食したとしても問題はないのですが、加熱調理すればより安全でしょう。
安全性については心配はないのです。マンガの『鉄鍋のジャン!』に、
未来のサバイバル食としてハエのウジを生で食べるシーンがありましたが、
あれも無菌養殖されたものだったと思います。

次に食味の点ではどうでしょう。昆虫類は体が小さいですので、
味はその餌による面が大きいと思われます。
サクラケムシを焼いて食べると桜の香りがすると言いますし、
主に樹液を吸っている甲虫類などは木の実のような味がするという話です。
もちろん蜜を常食としていれば、甘い蜜の味に。
あと、昆虫ではないのですが、クモ類などはエビ、カニときわめて近縁の生物です。
タランチュラはカニ味噌の味がするということです。
ですから、味の面でもバラエティに富んでいるんですね。
料理のしがいがあるかもしれません。

さて、ここまで読まれて、将来的に昆虫食をする意欲がわいてこられたでしょうか。
日本人は、イナゴやハチノコなどを食べる場合もありましたが、
世界の中では、あまり昆虫は食べられていないほうだと思います。
ですから、内需が当面は期待できないので、
ビジネスとしても出遅れる可能性が高そうです。

しかし東南アジアの市場に行けば、タガメなどのさまざまな昆虫、
サソリなんかも並べられているのを見ることができます。
ヨーロッパ各国も、日本よりは昆虫食に対する心理的な抵抗感は少ないと思われます。
まずは、粉末やペーストなど、加工食品として導入され、
じょじょに慣れていくという形になるのかもしれません。

あと、日本人は環境保護という言葉に弱いので、
それを使って昆虫食の普及を図るとか。
「僕は環境保護をモットーとしているから、肉は食べないで昆虫を食べる!」
このように公言する人が将来出てくることになるのでしょうか。



さてさて、最後に、昆虫食からは離れますが、
悪食・ゲテモノ食いをテーマとした作品を書かれているホラー・SF作家が日本にはいます。
田中啓文氏ですね。氏の『異形家の食卓』 『ミミズからの伝言』などは、
それ系の話がまとめられたものですが、中でも『異形家の食卓』収録の
「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー キウイソース掛け」という短編は傑作です。
自分はアンソロジーの『異形コレクション』で読んだのですが、
これにはうならされました。みなさんもぜひご一読を。







祟り柱

2016.05.03 (Tue)
俺は、解体業やってんだよ。いや、ただの現場監督だけどな。
うーん、建設会社とはまた違う。解体が専門なんだ。社員数も多くはなし、
小さい仕事ばかりだよ。それでな、この間から、
団地開発のために、丘陵地にある神社の解体をやってたんだ。
神社の解体は別に珍しいことじゃない。
だって簡素な木造建築だから、保ったとしても200年くらいまで。
神社はお寺と違って、素木造りがほとんどで、
これは柱や壁に塗料を塗ったり、木以外の素材を使わないってことだから、
長くは保たないんだよ。屋根が茅葺きのところもあるしな。
だから解体修理や再築、移築は普通にあるんだよ。
あとこれ、勘違いしてる人が多いけど、廃神社なんてのはめったにない。

どんなに寂れてるように見えてる神社でも、世話してる神職はいる。
小さいお社をいくつも掛け持ちしてる人とかな。
そりゃ土地の上に建ってるんだし、土地には必ず管理者がいるもんだ。
だから、ある神社が取り壊されるって場合は、普通は近くの別の神社に合祀される。
境内に摂社として小さなお堂を建てたりするわけだ。
あるいは、何かの事情で完全になくすって場合は、きちんと昇神の儀式をやる。
だからね、世に言われるような廃神社なんてのは、よっぽどの場合だけなんだよ。
でな、そこの神社は、よくある2間四方のお社でな。
屋根はトタン屋根だから、そんな由緒あるものではない。
築100年以内だろうが、もうすっかり痛んでた。お稲荷様でも八幡様でもなく、
祀られてるのは、名もない土地神ってことだった。

もちろん神主を呼んで、きちんと近くの神社に合祀するための手続きを取ったさ。
そっから工事を始めたわけ。神社の解体って簡単なんだよ。
だってな、解体業で一番大変なのが、廃材の分別だ。
しかし神社なら、ガラスも化学合板も断熱材もないわけで、木材とトタンのみ。
少しやっかいなのが、高床造りだから土台の石が埋まってることだが、
それだって重機で掘っ返せば済む話しだしな。
でな、数日かけてあらから作業が終わった時点で、重機のやつが報告をよこした。
「敷地の中央に、長く縦に埋まったものがあります」って。
これはちょっとあせったよ。だってもし遺跡だったら、しばらく工事ストップになる。
ところが、よく話を聞くと、深くまで丸木の柱が埋まってるみたいってことだったんだ。
これ聞いて何思う? やっぱり伊勢神宮の心の御柱だろ。

あれはもちろん尊いものだが、そんな小さな神社にあるって話は聞いたことがない。
まあ、儀式をしてもう神様はいないんだから、
いいからそのまま堀り返せって言った。でな、見てたら重機でいくら掘っても、
直径80cmほどの丸木の柱が出てきたんだよ。
「こらあ、木がまるまる一本分も埋まってるんだ」と思った。
木の種類ははっきりはしないが、トチかカシみたいだった。
下手すれば15mにもなる可能性があるんで、これはダメだと思って、
翌日クレーンを手配することにしたんだよ。幸い地盤は柔らかかったから、
周囲を突き崩しながら、吊り上げて抜こうってわけだ。
でな、翌日ちょっと小雨模様ではあったが、さっそく実行してみた。
そしたら、思ったほど長いわけじゃなかった。

5m少しくらいだったな。それでも慎重を期して、
吊り上げながら周囲に何本もロープをかけ、
ブラブラ揺れないように作業員が持ったのよ。昼の休憩過ぎの1時頃だったな。
クレーンが柱を高く持ち上げ、だんだん柱は先細りになって、あと少しってとき。
地面の穴から、ヒドイ臭いがしてきたんだ。何と形容すればいいかなあ。
一番近いのが、ドブ、いやいや、腐って緑の泡を吹いてる古沼ってとこかな。
腐臭の中にクスリ臭さが混じってるって感じ。みなは顔をしかめながら、
柱の先が出てくるのを見てた。したらだよ。やっと現れた木の先端に、
ありえないものがついてたんだ。刺さってたと言ったほうがいいか。
いやあ、俺にはカエルに見えたなあ。大きさ1m以上の青黒いカエルの死骸。
それが腹を下にして土から出てきたんだ。

いや、生きてはいなかった。ピクリとも動かなかったし、
目をつぶってるように見えたんだ。あとなあ、不思議なのは、
他のやつで、出てきたものには毛が生えてたって言うのもいるんだよ。
大きなネズミみたいなものだったって。どっちが本当かはわからん。
何でかは今から言うよ。それがな、空中で爆発したんだ。
表皮が風船のように膨らんで、弾けるようにパーンと。ああ、音はなかったけど、
まるでそんな感じに。そしたら臭い汁があたりに飛び散って、
俺も含めて周囲にいたやつらみなにかかったんだよ。
「うわあ」 「臭えっ!」こんな叫びがあがり、
ロープを持ってた手を放してしまったやつがいたんだ。これは責められねえと思う。
俺もそうしそうになったからな。そしたら吊り下げてた木は、

バランスを失って、クレーン車のほうにゆらーっと向かってって、
先端部分が運転席のすぐ近くまでいった。けどよ、ぶつかりはしなかったはずだ。
なんとか皆でロープを操作し揺れを収めたときに、クレーン車を見ると、
運転者がハンドルに突っ伏してたんで、手の開いてるやつらを走らせた。
したら、意識がなかったんだよ。ただ、この後病院に連れてったが、
ケガはどこにもなかったんだよ。木が自分に向かってきた恐怖・・・
しかしこの程度のことはよくあるから、やっぱあの臭いにやられたんだろうな。
ともかくそのときは無事だったわけ。でな、俺に巨大カエルに見えたあの死骸は、
探してもどこにもなかったんだよ。皮一切れ残ってない。
けど、体液というか、大量の液体がこぼれた跡は地面に残ってた。
なあ、不思議な話だろう。だけどこれで終わりじゃねえんだ。

クレーンの運転者は、その日のうちに退院してきたが、
それから数日のうちに体中がイボだらけになったんだよ。うーん発疹とか、
蕁麻疹とはまた違うと思った。よく黒イボって言うだろ。
たいがいは産まれたときからあって、ポツンと固くなった青黒いやつ。
あれが全身にできてたんだ。こう言っちゃ可哀想だが、
見てると気味が悪くなってくるほどだった。ただし、本人は痛くも痒くもないって。
何かの中毒だろうってんで入院させた。土壌汚染とかもあるからな。
それから1日して、俺のロープ握ってた手にも同じイボが出てきたんだよ。
いやもちろん、作業手袋はしてた。全身には回らずに手にだけ。
他のやつらも「俺もできた」「俺にも」ってなあ。
これは明らかにヤバイだろうと思って社長に連絡した。

うん、社長は別の現場にいたんだけど、しばらく待機しろって命令があって、
それから、その神社の神様を合祀した別の神社へ、みなで小型バスで向かったんだよ。
行ったら、社長も、入院したクレーンの運転者も来てて、
かなり急いで作ったように見える摂社のお堂の前に連れていかれ、
社長先頭に、その前に平伏したんだ。玉砂利の上に土下座のかっこうでってことだ。
神主が出てきて、3時間近い祝詞をあげる間中ずっと、額を石にこすりつけてたわけ。
始まって1時間くらいで、俺の手のイボがすっと消えた。
それから全身イボだらけのクレーン担当も、後ろから見える首筋のイボが
どんどんなくなっていくのがわかったんだ。でな、祝詞が終わったときには、
みなすっかりきれいな体になってたわけ。さらにその後、全員が谷川に連れてかれ、
そこで禊をさせられたんだよ。・・・詳細は聞かないでくれ、俺も知らされてないんだ。

hsんskそあづえ