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耳のオカルト

2019.09.30 (Mon)
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今回はこういうお題でいきます。耳なんかで記事が1本書けるのか、
自分もかなり疑問がありますが、どうなることでしょうか。
前に、「音のオカルト」という項を書いてますので、
それとかぶらない内容にしようとは思うんですが、これもどうだか。

うーん、耳ね。「耳から白い糸」という都市伝説がありますよね。
ピアスの穴を自分で耳たぶに開けようとしたところ、
中から白い糸が出てきたので、引っぱって切ったら、急に周囲が
真っ暗になり、そのときにはすでに失明してしまっていた。

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・・・さすがにありえない話でしょう。そもそも耳に視神経は
通ってないですし、視神経は一般的な糸よりもずっと太いんです。
あと、血糖値測定のために耳たぶから少量採血したりしますよね。
もし耳たぶにそんな危険があるなら、
ああいう医療行為は行われないはずですよねえ。

余談ですが、自分は10年ほど前に仕事で「霊術」の治療家を取材
したことがあります。その人は資格を持った鍼灸師とは違って、
先が曲がったフニャフニャの針を使うんです。あまりに細いので、
刺されてもほとんど痛みを感じず、体内に入っていきます。

治療の様子を見せてもらったんですが、その針を患者の首筋に
ちくりと当て、くいっと手首を返すと、透明に近い釣糸のようなのが
針に絡まって引っぱり出されてきました。
治療家は、「これが肩の凝りのもとになってる古い神経線維です。
切ってやれば楽になります」と言って、プチッと切ったんです。

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これは不思議でしたね。でも、そんなことがあるはずはない。
事務所に戻って考えてみたら、トリックはわかったような気がします。
針に一種の接着剤をあらかじめ少量つけておいて、
肩に刺して引くと、接着剤が糸を引くんだろうと思いました。
まあ、証拠があるわけではないですけど。

さて、耳のオカルトというと他にどんなものがあるでしょうか。
「福耳」というのがあるかな。耳たぶの肉が厚く、
下に垂れ下がっている場合にそう言われることが多いですね。
金運に恵まれ福運があるとされています。
大黒様、恵比寿様はどちらも福耳の相をしています。

福耳 布袋様でしょうか?
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これはもともと、仏教のお釈迦様の姿からきてるんだろうと思います。
「釈迦三十二相 八十種好」と言って、普通の人とは異なる32の
大きな体の特徴があり、さらに80の部分に違いがある。
福耳はその一つです。これも余談ですが、お釈迦様の頭の天辺が
盛り上がってるのは髪型ではなく、あの中に肉が詰まってるんです。

これを肉髻(にくけい)と言いますし、尊勝仏頂とも言います。
なぜ盛り上がってるかというと、その霊験で、あらゆる罪業、
障害などを粉砕する力を持っているからとされます。
この肉髻をほめたたえたお経が「尊勝陀羅尼経」。これを唱える
ことで百鬼夜行から逃れられた話が、『今昔物語』に出ています。

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さて、アフリカのある部族では、耳には勇気や叡智が宿っているとされ、
幼い頃に穴を開け、そこに木の輪っかなどをはめ込んで
どんどん大きくしていく風習があります。
みなさんも写真をご覧になったことがあるんじゃないでしょうか。

また、別の部族では下唇に穴を開けて大きくしたり、
体中に盛り上がった火傷の痕をつくったりもします。
まあ、呪術的な意味合いもあるのかもしれませんが、美の基準は、
時と場所によって代わってくるという好例ですね。

アフリカ人女性
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さて、耳のオカルト、ここからは嫌な話になります。
耳の穴からゴキブリその他の虫が入っていったという事例は、
アメリカ、中国、インド、世界中にあります。まあ、生き物のほとんど
いない極寒の地なら大丈夫かもしれませんが。耳に虫が入った場合、
光をあてるとそれに向かって出てくるといった説もあるものの、

走光性のある虫ばかりではないし、効果は薄いそうです。
また、水や油を入れるのも危険。もし虫が中で死に腐敗した場合、
感染症を起こして命にかかわる可能性もあります。すぐ専門医に行くのが
一番いいでしょう。でもこれ、寝てる間に入ってくるのは防ぎようが
ないですよね。このためだけに耳栓をして寝るのもちょっと。

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さてさて、ということで、雑多な話題をご紹介してきましたが、最後に
少し学術的な話を。耳垢には湿性と乾性があるのはご存知でしょうか。
これはメンデル遺伝をするため、はっきりと出ます。湿った耳垢は顕性、
乾いた耳垢は潜性。日本人全体では、湿性耳垢の割合は少数、
乾性耳垢が多数となっています。

湿った耳垢の人は体質的に体臭が強い傾向にあり、これは生理学的に
間違いはありません。日本人では湿性耳垢の人は約16%。
ちなみに白人の90%が湿性、黒人はほぼ100%湿性。
長崎大学の研究では、耳垢が湿性か乾性かは
遺伝子一ヶ所だけの違いなんだそうです。

で、北海道や沖縄に湿性耳垢の人が多いのは、日本にはもともと
湿性耳垢の縄文人が居住しており、やがて九州から本州に
乾性耳垢の弥生人が流入し、それが北海道などには及ばなかったために
残っていると説明されることが多いですね。でも、そんな単純なものでも
ないだろうと自分は思います。では、今回はこのへんで。

関連記事 『音のオカルト』  『目のオカルト』

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虹の神様の話

2019.09.29 (Sun)
あ、どうも今晩は。私は永沢と申しまして、電力関連会社の海外事業部に
勤務しております。さっそく話を始めますが、もしかしたら本当に
あったこととは信じてもらえないかもしれません。
なんというか、全体がファンタジー小説みたいな内容ですから。
それに、怖いかといえば、それほど怖いというわけでもない。
でも、実際にあったことなんです。あ、スミマセン、前置きはこれくらいに
しておきます。私ね、子どもの頃、喘息だったんです。
今思えば、アトピーからきてるものだったんでしょうけど、
当時の医者はよくわかってなくて。いったん咳が始まると、
ほんとに死ぬんじゃないかと思うくらい苦しい。東京で生まれたので、
父親は空気が悪いからだろうって言って、小学生のときは

ずっとマスクをつけさせられてたんです。今でこそ、マスク姿は
珍しくないけど、当時は恥ずかしかったですよ。それでも、
大きな発作は年に何回か程度でしたけど。あ、ここからの話は、
詳しい地名などはふせさせていただきます。迷惑がかかるかもしれませんから。
ええと、小学校2年のときからかな、なるべく東京から離れたほうが
いいだろうってことで、夏休みはほぼずっと、沖縄のある島に
長期滞在してたんです。いや、うちは特に裕福なほうではなかったです。
父は普通の会社員でしたし。父の兄、私にとっては伯父さんにあたる人が、
当時沖縄に住んでまして、そこに行ってたんです。
その人、会社員だったんですが、趣味のスキューバダイビングが高じて、
脱サラで家族ともども沖縄に移住してしまったんです。

向こうで、ダイビングと釣りのショップを開き、ダイビングのインストラクター
も始めました。父とは似てなくて、背が高く筋骨隆々でした。
まだ存命で、今でもその面影は残ってます。
沖縄での生活は楽しかったですよ。海はきれいだし、暑いといっても
私には東京のほうがむし暑く感じられました。ただ、この沖縄滞在は、
小学4年生、10歳のときに終わってしまったんです。
そのいきさつも不思議で。伯父さんの家族は、奥さんと娘さんが一人。
娘さんは私より2つ年上の小学6年生でした。名前を岬さんと言ったんですが、
もう亡くなってしまってるんです。奥さんは優しかったんですけど、
岬さんはすごく性格がきつくて、私からすればこわいお姉さんって感じでした。
学校の宿題は全部向こうに持ってってましたから、

それを教えてもらうときなんか特にね。でもほら、お互いに一人っ子だから、
毎年私が来るのを楽しみにしてくれてたそうです。あ、スミマセン、
話がなかなか前に進まなくて。その日は8月の終わりに近く、
もうすぐ夏休みが終わって東京に戻らなくちゃならない時期でした。
伯父さんのモーターボートで、岬さんと2人、無人島に連れてってもらったんです。
伯父さんは新たなダイビングスポットを開発するつもりだったんでしょう。
島に着くとすぐアクアラングをつけて潜っちゃって。
私と岬さんはずっと磯で遊んでました。いや、危険なことはなかったです。
ずっとサンゴ礁が続く遠浅で、膝くらいの深さのところに
色とりどりの魚がいました。2人でそれらをすくったりしてたんですが、
ケンカしちゃったんです。原因が何だったかとかは覚えてないです。

それで別行動になりまして、私が海沿いの岩場を歩いてると、波打ち際に
丸い青いものが浮かんでたんです。そのときは生き物だとは思わなかったですね。
人工物のような青さでしたから。フリスビーか何かじゃないかって。
けど、下りていくと、かなり大きいものだってわかりました。
直径が1mくらいでタライのように漂ってる。手で触れるとこまで近づきました。
青い表面が水から出てたんで、指で触ってみると柔らかかったんです。
うーん、何というか、ごく細かい青い砂を大きなお盆に敷きつめた感じで、
なぞったとおりに白く跡がついたんです。面白かったんで、
自分の名前なんかを書いてみました。そのときはピクリとも動かなかったん
ですけど。背後で「あっ!」という岬さんの声が聞こえました。
続けて「ダメ! それ神様だよ」驚いてふり向くと、岬さんがすごい勢いで

走ってきて、私のシャツの背中をつかんで引っぱったんです。
そのとき、その丸いものがギラッと輝き、一瞬で鏡面に変わったんです。
私と岬さんの顔がはっきり映りました。同時に、鏡のまわりから何本も
触手が水面上に出てきました。蛸の足のようなのではなく、
クラゲのヒレに近い形でした。それは触手をウネウネと動かし、
ギラギラ光る鏡面のまま、すっと波打ち際を離れ、10mほど沖に出て
海に潜っていったんです。「今の何?」私が聞くと、岬さんは、
「ヌージヌウカミ、虹の神様って意味。前にも見たけど、お父さんから
 さわっちゃいけないものだって言われた」こんな答えが返ってきました。
そのうちに伯父さんが海から上がってきたので、持ってきた弁当を食べて
帰ったんですが、私も岬さんもその話はしなかったです。

いや、あれが生き物だとは思えませんでした。鏡みたいに光る生物なんて
いないですよね。当時はネットなんてなかったんで、図鑑で調べてみたけど、
もちろん載ってなかったです。でね、ずっと後年になって、この神様とは
再会することになるんです。翌年から、沖縄には行けなくなりました。
伯父さんが店を畳んで本土に戻ったからです。店をやめた理由は、岬さんが
亡くなったため。小児性白血病という病気で、中学生になったばかりでした。
ここから話は一気に飛びます。私は工科大学を出て、最初に話したように
電力関連会社に就職したんです。入社して3年目くらいから海外事業部に
配属になり、それからはずっと東南アジアを中心に海外出張をしてます。
で、2004年のことです。この年に起きた大きな出来事というと、
マグニチュード9.3と言われたスマトラ島沖地震です。

あのとき、私はタイのビーチのリゾートマンションの配線工事を
担当してました。朝、出勤の途中でした。あの地震と、
その後の津波に遭遇したんです。海が高く高くビルのように盛り上がって、
あっという間に波にのまれました。いや、あれほどの津波が来るとは、
地震の後、誰も考えてませんでしたよ。
タイでの死者は5000人以上、有名ビーチを直撃したので、
その中には外国からの観光客も多く含まれてました。
私はすぐに気を失って、どのくらい時間がたったか・・・
ふっと気がつくと、瓦礫が積み重なった上に
仰向けに寝てたんです。体はまったく動きませんでした。
瓦礫の下1mまで海水がきてて、ぼんやりとそこに目を向けていると、

泥色の水から、青いものが浮き上がってきたんです。
何かはわかりませんでしたが、前にこれ、見たことがある。
そのとき、その青色に字が浮き上がったんです。
私の名前でした。あ、これ、自分で書いたものだ・・・あの日、沖縄の島で。
それから急に光りだして、青色が鏡に変わりました。
最初は灰色の空を映してるだけだったんですが、
人が2人浮かんできました。子どもの頃の私と岬さんです。やがてそれは、
私たちの姿を映したまま沈んでいったんです。救助されたのは
まる1日後です。その間に、いろいろなことを思い出しましたよ。
虹の神様という言葉もね。神様が助けてくれた?
・・・そうなのかもしれませんが、違うような気がするんです。

現地の病院で、体が動かないのはひどい貧血状態になってるからだって
わかったんです。どこにも大きな傷はないのに、体内のかなりの血液が
失われてるって。いやまあね、極限状態で幻覚を見たんだろうと
言われれば反論できませんし、貧血になったのも説明は
つかないこともないでしょう。まあ、こんな話なんです。これも後になって、
岬さんの墓参りで伯父さんと会ったときにこの話はしました。
伯父さんは首を振り、「あれはよくないものだと言われてる。
 海で見つけても誰も近づかない」って。
それからは一度も見てませんね、海にもできるだけ行かない
ようにしてます。だって海はつながってるし、
またいつどこで出会うかわかりませんから。






鬼のオカルト

2019.09.28 (Sat)
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今回はこういうお題でいきます。「鬼」というのは、さまざまな
要素が複合した難しい概念です。一般的には妖怪の仲間に入るのかも
しれませんが、それだけでは とうてい収まりきらないですね。
さて、何から話しましょうか。鬼の概念に混乱が見られる理由としては、
まず、中国と日本での意味がそれぞれ異なるためでしょうね。

鬼の音読みは「キ」、現在の中国語の発音だと「guǐ」となります。
中国での意味はだいたい各時代を通して一貫していて、
「死者の霊」ということです。日本でも「鬼籍に入る」という慣用句が
ありますが、これはほぼその意味で使われています。鬼籍とは、
亡くなった人の氏名と情報が書かれている冥界の記録簿のこと。

中国の「縊鬼」
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この漢字が日本に導入されたのは6世紀頃と考えられます。法隆寺金堂
釈迦三尊像光背銘の中に「鬼前大后」(聖徳太子の母の穴穂部間人皇女)
という字が見られ、この頃は、特別悪い意味で使われているわけでは
ないようです。で、この漢字にどのような和語の訓をあてるか。

これについては、民俗学者の折口信夫や、国語学者の大野晋らによる
議論があり、「もの」と「おに」の2つの候補があったと考えられています。
「もの」は物の怪の「もの」であり、人間ではない超自然的な存在の総称。
これに対し、「おに」は「おぬ(隠)」からきていて、姿の見えない、
この世ならざるもののことを意味します。

『伊勢物語』に登場する鬼
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鬼が「おに」と読まれる以前は、「もの」と読まれていたという説も
ありますが、そのあたりははっきりとはわかりません。10世紀、
平安時代中期に編纂された『和名類聚抄』には、「おに」という読みが
出てきますので、この頃には鬼がそう読まれていたのは確かです。

ちなみに、同じく10世紀の『延喜式』では、災いや祟りを引き起こす
悪神を「もの」とし、人間・生物に幸福安泰や恵みをもたらす善神の
対義語として出てきます。いずれにしても、最初の鬼の概念は
目に見えない存在であったわけです。それがどうして、
虎の皮のふんどしをつけ、金棒を持った姿形になっていったのか。

鬼門と裏鬼門
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陰陽道と仏教、この2つからの影響が考えられます。
まず陰陽道からみていきますが、これはもともと中国で発生した
陰陽五行説の一部が取り入れられたもので、天文、暦、時刻、方位など
当時の日本においては、最先端科学と言っていい学問でした。

この陰陽道の方位に関した考え方の一つに「鬼門思想」があります。
鬼門はよくない方角とされ、この方角には玄関をつくらず、魔除けの
効果を持つ植物を植えたりしていました。鬼門は北東で、
「艮(うしとら) 丑(うし)と寅(とら)の間」と呼ばれました。

中国の牛頭馬頭像
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いっぽう、仏教からの影響ですが、生前に罪を犯したものは地獄に
堕ち、責め苛まれるという思想が入ってきます。ここで、
亡者に罰を与えるのは「牛頭馬頭鬼(ごずめずき)」で、
字のとおり馬や牛の頭を持った獄卒です。

おそらくですが、この2つが結びついて、鬼は牛の角を持ち、
虎の皮の褌をつけた姿でイメージされるようになったものと思われます。
余談ですが、鬼門の反対の方角(南西)には戌(いぬ)、申(さる)、
酉(とり=雉)があり、鬼退治をする桃太郎のお供になったとも
言われます。ただしこれ、真偽のほどはわかりません。

昔話に登場する目一つの鬼
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さて、鬼は「鍛冶師、金工師」を表しているという説があります。
「鬼」の字が表れる日本最古の文献は『出雲国風土記』ですが、
「大原郡の阿用郷(あよのさと)で、昔、人が山あいに田をつくって
暮らしていたが、あるとき、山から目が一つの鬼が下りてきて、
その人の男根を食べてしまった」と出てきます。怖いですね。

物質民俗学という分野で多数の著書をものにしている若尾五雄氏は、
1981年の『鬼伝説の研究』で、日本各地の鬼伝説のある地が、
また鉱山地である場合が多いことを指摘し、鬼とは、
鉱山採掘や金属精錬、金属製品生産などに従事する者のことでは
ないかという仮説を展開しています。

源頼光に噛みつく酒呑童子の首
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うーむ、鬼の概念はもちろんそれだけではないと思いますが、
前述の『出雲国風土記』では目一つの鬼が出てきますし、
「一本だたら」という、目が一つ、足が1本だけの妖怪もいます。
ここで、目が一つなのは、焼いた金属を槌で打つときに火花が目に入った、
あるいはいつも片目で炉を見張るため一方だけ視力が落ちた。

また、足が1本なのは、たたら師(鍛冶師)が、片足で鞴(ふいご)を
踏むことで片脚が萎えてしまったから、などという話もあるんですね。
あとはそうですね、鬼=漂着した外国人という説もあります。
酒呑童子など、平安時代に有名になった鬼は、

筒井康隆 『死にかた』


体が大きく毛深いため、日本に漂着したロシア人などが山の中に
拠点をつくって盗賊を働いていたという内容です。鬼が人の生き血を
好んですするのは、じつは赤ワインだった・・・でもねえ、
確証のないままこういうことを言うのは、差別的な気もしますね。

さてさて、ということで、今回は鬼について取り上げてみましたが、
とても浅学の自分には無理のある論考になってしまいました。
現代の怪談では鬼はまず出てこないんですが、筒井康隆氏に
『死にかた』という短編があり、現代のオフィスに突然金棒を持った
鬼が現れ、一人一人を叩き殺していくという内容です。では、このへんで。




反骨の人とノーベル賞

2019.09.27 (Fri)
星を活発に生み出す銀河の発見により、現在の理論を見直す必要が出てきた。
銀河内で星が生み出されていく、すなわち銀河が進化していく様子を
調べるために、銀河が発する可視光線や赤外線を観測することがある。
しかし、初期の宇宙で生まれた銀河は、可視光線や赤外線を吸収するちり
(炭素などからなる小さな粒)を大量に含んでおり、

可視光線や赤外線が地球には届かない。そのため、これまでの観測では
発見できていない銀河が存在すると考えられていた。
東京大学のタオ博士らは、ちりに吸収されない性質をもつ「サブミリ波」
とよばれる光(電波)を観測することによって、初期の宇宙に生まれた
銀河を39個検出することに成功した。

そして、これらの銀河はいずれも110億年以上前に生まれ、
初期の宇宙に生まれたものにしては非常に大きく、かつ活発に星を
生み出していることがわかった。宇宙や銀河の進化を説明する
現在の標準理論では、活発に星を生み出す巨大銀河は、初期の宇宙には
これほど存在しないと考えられていた。
(Nature日本語版)

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今回はこういうお題でいきたいと思います。冒頭の記事は長く引用しましたが、
じつはあまり関係のない内容です。ここで取り上げる人物は、
フレッド・ホイル卿。イギリス人で、卿がつくのは、
英王室からナイトの叙勲を受けているためです。

さて、フレッド・ホイルというと、何を思い浮かべられるでしょうか。
まず「定常宇宙論 steady state cosmology」がくるんじゃないかと思います。
現在の宇宙論の主流は「ビッグバン宇宙論」と呼ばれることが多く、
この big bang という語をつくり出したのがフレッド・ホイルですが、
彼はビッグバン理論とは正反対の立場に立つ人物でした。

フレッド・ホイル
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ビッグバン理論成立の経緯は、これまでにも当ブログで書いてきましたし、
ご存知の方は多いと思います。アインシュタインが一般相対性理論を
発表したのが1915年。このとき、アインシュタインの宇宙方程式には
宇宙が膨張(あるいは収縮)する解が存在していました。

ですが、アインシュタイン自身は、そんなことがあるとはまったく考えず、
自分の式に「宇宙項」というのを加えました。これは、
宇宙を定常状態に保つための数式上のトリックと言っていいもので、
確かな根拠があったわけではありません。後年、アインシュタインは、
「宇宙項を式に加えたのは生涯最大の過ちだった」と述べます。

ノーベル賞のメダル
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1929年、天文学者のエドウィン・ハッブルが、当時最大の望遠鏡を
用いて、遠くの銀河がかなりのスピードで後退していることに
気づきます。「宇宙膨張」の発見ですね。これは観測事実であり、
誰が観測しても同じで、否定のしようがないものです。
余談ですが、科学者には実験・観測屋と理論屋がいます。

どちらがノーベル賞を取りやすいかは難しいところですが、理論については、
いくら整合性が高くても、実際に証拠が発見されなければ受賞することは
ありません。かのホーキング博士がノーベル賞を取れなかったのも
このためです。日本のノーベル賞第一号である湯川秀樹博士は
理論物理学者で、中間子の存在を理論的に予言したのが1935年。

ピーター・ヒッグス
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それが1947年になって、宇宙線の中からパイ中間子が発見されて
理論の正しさが証明され、1949年の受賞につながります。
以前、話題になったヒッグス粒子などは、論文が書かれたのが
1964年。それが長い年月を経て加速器によって発見され、
ヒッグス氏がノーベル賞受賞したのが2013年です。

なんと50年もかかってるんですね。これに対し、実験観測については、
画期的なものならば、すぐに受賞の対象になります。近年の
重力波観測がそうでしたし、日本の小柴昌俊氏のニュートリノ観測も
同じ。物理学ではありませんが、山中伸弥氏のiPS細胞もそうです。

ジョージ・ガモフ
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さて、宇宙膨張の発見を受けて、現在膨張しているのだから、
時間を遡っていくと、宇宙はどんどん小さくなって最後には極小の一点に
いきつくと考えたのが、神父でもあったジョルジュ・ルメートル。
ビッグバン理論というと、創始者としてジョージ・ガモフの名前が
有名ですが、最近、ルメートルの再評価の機運が高まっています。

ですが、ビッグバン理論は完全に正しさが証明されたものではありません。
それでガモフはノーベル賞をもらえてないんですね。このビッグバン理論に
対し、まっこうから意を唱えたのがフレッド・ホイルです。彼は反骨の人
というか、定説に対しては何でも反対することで知られていました。
調べてみればわかりますが、一つや二つじゃなく本当に「何でも」です。

ホイルが対抗案として出してきたのが定常宇宙論。宇宙の膨張は
観測事実として認めますが、宇宙の時空は基本的に今のままで
昔からあったとする仮説です。でも、宇宙が膨張してるんだから、
そのうちに物質密度がスカスカになってしまいますよね。そこで、
定常宇宙論では、新たな物質が絶えず生成されていると説きます。

ビッグバン宇宙論と定常宇宙論
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無から物質が生じるわけですから、質量保存の法則に反しているんですが、
生まれてくる物質は、せいぜい1年間に1立方kmあたり水素原子1個程度で、
荒唐無稽というほどでもありません。むしろ、宇宙は温度・圧力無限大の
特異点から始まったとするビッグバン理論のほうがありえないとも言う
ことができ、ホイルはラジオ番組で「big bang idea(大ボラ)」と揶揄します。

それが理論の名前になってしまったんですが、ガモフなどは気に入っていた
ようです。1950年代ころまでは定常宇宙論にも一定の支持者がいましたが、
1964年、「宇宙背景放射」が発見されてビッグバンの大きな証拠とみなされ、
一気に形勢が傾きます。現在の定常宇宙論では、宇宙背景放射は大昔の恒星から
放出された光が、銀河内の塵によって散乱されたものであると説明しています。

さて、フレッド・ホイルはマジで天才的な理論家でした。最大の業績としては、
宇宙の初期には中性水素しかなかったのが、ヘリウム他の重い元素は
恒星内部の原子核反応で作られたとする「元素合成」のアイデアを
最初に提唱したことでしょう。これは事実と認められ、1983年の
ノーベル賞につながりますが、受賞したのはホイルの共同研究者だけで、

元素合成
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ホイル自身は除外されました。これについては、不当だとする大きな議論が
起きています。なぜホイルが選ばれなかったのか、いろいろ言われてますが、
パルサーの発見に対して贈られた1974年のノーベル賞の人選を
ホイルは強く批判していて、それがスウェーデン王立科学アカデミーの
選考委員会の心証を害した可能性も取り沙汰されていますね。

さてさて、フレッド・ホイルはSF作品も書いていて、代表作は1966年の
『10月1日では遅すぎる』でしょう。専業作家ではないのでドラマ性は
イマイチですが、「意識は時空を超越する」というアイデアは、
50年以上前の作品ということを考えれば画期的です。彼は意識と時間に
ついて、作中でじつに深遠な考察を展開しています。では、このへんで。

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自殺者が見える話

2019.09.26 (Thu)
今回は、自分のところに日々集まってくる怪異体験談の中から、
「霊が見える」ことについての話をご紹介したいと思います。
ところで、霊などが見えることを「霊能力」と言ったりしますが、
これは生まれつきのものなんでしょうか。人間の肉体に「霊を見る」
ための感覚器のようなものがあるとしたら、それは遺伝子解析で
わかるはずです。現在、目や髪の色を決める遺伝子、知能や
運動神経に関係した遺伝子などが、どんどん見つかってますよね。
それとも、霊が見えるかどうかは遺伝子とは関係なく、「魂」に
よることなんでしょうか。あと、修業によって見えるようになるとも
言いますし、逆に齢を重ねると見えなくなるという話もあります。
また、頭を打ったのがきっかけで見えるようになったケースも・・・

市立病院勤務 看護師Gさんの話
この方は、今は珍しくなくなった男性看護師をされています。
知人の紹介で、東京都内の喫茶店でお話をうかがいました。
「そうですね、自分が「見える」と気がついたのは、看護大学に
 入学してからです、高校卒業後ってことですね」
「それまではまったく見えなかった?」 「いえ、たぶんそうじゃないと
 思うんです。見る機会がなかった、あるいは見てもそれが
 霊だとは気がつかなかったんだと思います」 「どういうこと?」
「高校まではチャリ通だったのが、看護大学に通うには電車通学を
 しなきゃいけないので、駅を利用しますよね」 「それが?」
「駅のホームって、飛び込み自殺がありますよね」 「ああ」
「その人たちが見えるんです」 「うーん、自殺者だから見えるって

 ことですか」 「そうだと思います。自然死やふつうの事故死で
 亡くなった人を見たことは1度もありません。ほら、僕は大きな病院の
 入院病棟に勤務してますから、ひと月に何人もの患者さんが亡くなって、
 中には臨終に立ち会う場合もあります。そういった患者さんの中には、
 小さいお子さんを遺してたり、やり残した仕事があって、
 最後まで死になくない、生きたいって言われる方もおられるんですが、
 霊になって現れたことはありません」 「この世への未練は関係ないと?」
「そうじゃないかと思います」 「どんなふうに見えるんです?」
「山手線の○○駅ってありますでしょ。自殺者が多いって話題になる」
「ああ、自分もたまたま現場に遭遇したことがあります」
「あそこの○番ホームだと、今は50体くらいの霊がいますね」

「どこに見えるんですか?」 「それがね、ホームの突端のところ、
 線路の上3mくらいの空中に、みなさん整然と並んでおられて」
「うーん、鉄道自殺だと、大きく跳ね飛ばされたり、あるいは車輪の
 下に巻き込まれたりと、亡くなる場所というか、位置が違うと思うんですが」
「そういうこととは関係なく、同じ場所に浮かんでるんです。
 最初は怖かったんですが、毎日見てればだんだん慣れてきますよね。
 それで、よく観察してみたんです。そしたら、みなさん、
 同じ方角を向いてるんですよ」 「ほう」 「西ですね」
「それは興味深い話ですね。仏教では西方浄土って言いますけど、関係が
 あるんでしょうか?」 「わからないですが、東京だとお寺とほとんど
 関係のない生活をしてる人が多いですよね」 「その霊たちはどんな

 様子なんです? 飛び込み自殺だと、体が細切れになるって話もありますが」
「いや、みなさんケガ一つしてないです。ちゃんと服も着てます。
 たぶん、その自殺当日の服装なんだと思います。男性のサラリーマンに
 見える方が多いですね。40代後半から50代前半くらいの。
 リストラとか、そうじゃなくても人生に疲れてくる年代なんでしょうか。
 女の人もいますけど、少ないです」 「その人たちは動かないんですか?」
「まったく動かないです。宙空に貼りついたようになってますね。
 これははっきりはわからないんですが、移動できないんだろうと思います。
 あと、霊どうしで話をしたりもしません」 「不思議ですね、何のために
 そこにいるんでしょう?」 「わからないですが、ネットでいろいろ調べた
 ところでは、一種の罰と書いてあるホームページがありましたね」

「罰?」 「はい、何でも自殺は霊の世界の法則で禁じられているため、
 浄化されるっていうのか、別の世界へ旅立つのか、そのあたりは僕には
 わかりませんが、その時期が極端に遅くなるんだって出てました」
「ああ、そういうことを書いてるスピリチュアル系のサイトはありますね。
 霊の顔の表情とかはどうです」 「徹底した無表情です。苦しんでるとか、
 涙を流してるとか、そういうことはありません」
「なるほどねえ、ただ自殺の罪が赦されるのを待ってるってことなのかな。
 先ほど、50体くらいの霊が見えるって言われましたが、
 いなくなってることもあるんですか」 「僕がその駅を利用するように
 なってから6年くらいたつんですが、その場所から消えた霊が
 4体あると思います。まあでも、新たな自殺者のほうが多いので、

 増えるいっぽうなんですけど」 「ははあ、その消えた霊は古いからって
 ことなんでしょうか?」 「わかりません。そのあたりは調べれば
 わかるのかもしれませんが、やってないです」 「いや、貴重なお話ですねえ。
 あ、そうだ、Gさん以外にそれらの霊が見えるって人に会われたことは?」
「そういう人はいると思います。朝、僕と同じ時間の電車に乗る年配の女性が、
 霊たちがいるほうを見てることが多いんです。
 たぶん見えてるんじゃないかと」 「話をしたことはないんですね」
「はい。ことがことですから、違ってたら大変だし。あとね、一度だけ、
 袈裟を着たお坊さんが、霊の集団に向かって拝んでるのを見たこともあります」
「ははあ」 「それとね、電車の運転士にも見える人がいるのかもしれません。
 ほら、山手線の電車って前面の窓が大きいのが多いでしょう。

 たまに、顔をしかめながら霊の集団に突っ込んでいく運転士さんが見える
 こともあるんです」 「うわ、それは嫌でしょうね。いや、どうも、
 本日はありがとうございました。鉄道以外で自殺者の霊を見たことは
 ないんですよね」 「それが・・・じつは、僕が勤務してる病院にも
 一体だけいるんです」 「それも自殺者?」 「おそらくそうだと思いますが、
 はっきりはしません、昔は病院での自殺は多かったって聞きます。末期癌を
 告知された人が、高階の窓から飛び降りるなどのことがあったみたいですが、
 今は病院内でというのはまず聞かないです。告知や余命宣告には気を遣いますし、
 心療内科や精神科の先生が医療チームに加わってます。警備員も常駐してるし、
 何よりも、病院の窓は一定範囲にしか開かなくなりました」
「じゃあ、だいぶ古い自殺者ってことですね」 「ええ」

「どこに見えるんです?」 「診療棟の2階の窓の外です」 「かなりの高さの
 とこにいるんですね。どうしてそこなんでしょう?」
「これは推測ですが、その霊がいる窓の内側は呼吸器内科の診察室に
 なってるんです。改築前も同じだったそうですが、たぶんそこで
 病名の宣告か、余命の告知を受けた人なんじゃないかと」
「ははあ」 「その霊、駅で見てる霊たちとは違って動けるんです。
 ときどき、窓に近寄ってぴったりガラスに顔をくっつけてることがあります」
「うーん」 「その霊が窓に近づいてるのは、決まって、今は内科部長になってる
 Y先生の診察のときなんです。僕ね、1回だけ、建物の中からその霊の顔を
 見たことがあるんですけど、ものすごい形相でY先生の背中を睨んでました。
 事情はわかりませんが、怨霊とかになっているのかもしれません」 

キャプチャ


 

医療のオカルト

2019.09.25 (Wed)


今回はこういうお題でいきます。けっこう書くことがありそうですが、
まとまらない内容になりそうな気もします。
病院というのは、学校と並んで怪談の舞台としてよく使われます。
自分も、いわゆる「病院の怪談」をいくつか書いています。

学校も病院も人が集まって生活する場ですが、大きな違いは、
学校はふつう夜になると家に帰るのに対し、病院は入院患者がいます。
それと、当然ですが、病院では死がひじょうに身近なものとして
存在していることでしょう。ですから、怪談としての内容も、
学校の場合よりも深刻なものになることが多いですね。

自分の体で薬草を見分けたという中国の神農
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自分は3年前、大きな病気をして入院・手術をしましたが、
まず病院にいるだけで気が滅入ります。こう言うとなんですが、
まわりが高齢者だらけなんですね。それは病室だけではなく、
売店などに下りていったときに見る外来患者も同じです。
少子高齢化社会というのが実感できてしまうんです。

自分は死を意識せざるをえない病気で、手術もかなり危険のある
ものでしたので、毎日不安で夜もよく眠れませんでした。
あるとき夜中に、病棟の廊下をコツコツと早足で歩く音がして、
病室の入口の前を過ぎるとき、「死んでるなんてバカな」
という小さな声が聞こえたんです。

医学の祖とされるピポクラテス
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おそらく、夜間の定時見回りに出た看護師が、患者がベッドで
死亡しているのを発見し当直の医師に知らせ、確認しに足早に
向かってるとこだったんでしょう。この短い言葉を耳にしたときは、
心底ゾーッとしました。心霊など以前の問題として、
自分の死が身近にあるというのは怖いものです。

さて、医療は洋の東西にかかわらず、古くから行われてきました。
怪我をしたときの血止めや傷の縫合、骨折に添え木をあてるなどの
手当てもありましたが、やはり薬学の発達が早かったようです。
古代エジプトでは、紀元前1550年頃と推定されている
パピルス文書に、約700種の薬品名が出ていますし、

古代ギリシアの、医学の祖と言われるヒポクラテスは、
400種の薬を使用したとされています。古代中国では、伝説上の
皇帝である神農が、薬となる植物を判別して人間に与えたと言われます。
紀元前後には、中国最初の本草学の書、『神農本草経』が
編纂されたと考えられています。

蒲の穂で白兎を癒やす大国主命
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日本では、『古事記』に、大国主命の有名な因幡の白兎の話が
出ていますね。ウサギがサメを騙して海を渡ろうとし全身の皮を
はがれたのを、大国主命は「真水で体を洗ってから、蒲の穂を
体にまぶしなさい」とアドバイスします。蒲の花粉には、
実際に止血・鎮痛の効果があるようです。

また、後に大国主命自身が兄の神たちの恨みを買って、焼けた大岩を
抱かせられ全身に火傷を負った際には、母親の神が、赤貝の粉を削り、
はまぐりの汁と混ぜたものを大国主命の体に塗り、命を救っています。
古代には火傷の薬と考えられていたようですが、
どのくらい効き目があるのかはよくわからないですね。

温泉の神でもある大国主命
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大国主命はまた、少彦名神と国々を巡り、『出雲国風土記』には、
人間の寿命が短いのを哀れんで、各地で温泉を掘り、
「温泉の術」を定めたと出てきています。大国主は医療とともに
温泉の神でもあるとされ、現在でも温泉地では大国主命を
祀ってるところが多いんです。

こうして、経験則による薬草の知識はそれなりに深まっていったんですが、
人体そのものの仕組みは長い間わからず、治療には限界がありました。
杉田玄白らが腑分け(解剖)を行ったのは、江戸後期に入る1771年の
ことです。その結果、玄白はオランダ語医学書の正確さに驚くとともに、

五臓六腑は陰陽五行説からきたもの
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それまで日本の医師に伝えられてきた五臓六腑が、いかに間違いだらけ
だったかを痛感することになります。ですから、薬草だけでは多くの
病気は治らず、医療は呪術と結びつくことになります。
清少納言の『枕草子』の「にくきもの」という段には、

「急に病気で苦しむ人が出たので修験者を探したが、いつもの場所に
おらず、あちこち探し歩いてやっと来てもらった。さっそく祈祷を
始めたが、たくさん物の怪を祓って疲れ切っているのか、
すぐに声が眠たげなものになったのは癪に障る」と出てきます。

84歳と、当時としては長生きだった杉田玄白
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平安時代の中期頃でも、医療の現状はこんなものだったんですね。
当時は、天皇が病気になると、有名各寺院が加持祈祷を行って
平癒を願ったんですが、当然、亡くなる天皇はそのまま亡くなりますし、
武士や庶民には、医療はないも同然だったんだと思います。

病気になったらありがたい護符をいただいてきて飲む。そういうことが
江戸時代まで続きましたし、昭和でも戦後すぐのあたりまでは
町々に拝み屋がいて、子どもの疳の虫をとるなどのことをしていました。
また、医療は病気の治療だけではありませんが、疫病の流行時には予防
として、門口に鍾馗様や牛頭天王の札を貼ったりしてたんですね。

疫病除けの鍾馗図
sffv (7)

さてさて、ということで、医療と呪術は長く深い結びつきがあります。
ですから、疑似医療行為はいつまでたってもなくなりませんし、
ネット上には、「末期からの生還、私は奇跡を体感した」などの
惹句があふれています。みなさんもお気をつけください。
では、今回はこのへんで。

関連記事 『科挙と4人の人物』 『疫病神としてのスサノオ』 『看護師の話 3題』

sffv (5)





アバターとヒンドゥー教

2019.09.24 (Tue)
tsはr (4)

今回はこういうお題でいきます。おそらくかなり地味な内容に
なるんじゃないかと思います。スルー推奨かな。
当ブログの記事では、積極的に各宗教について取り上げてきました。
それは、こう書くと怒られるかもしれませんが、
宗教とオカルトは深いつながりがあると考えるからです。

ただ、宗教の中でもヒンドゥー教についてはほとんど書いて
ません。なんでかというと、ものすごく複雑というか雑多で、
自分の理解を超える部分が大きいからです。一般論として、
各宗教の中で最もわかりやすいのがイスラム教だと思います。

イスラム教は、政治・法律・宗教が一体化していて、他の宗教のような
本音と建前の乖離が少ないんですね。そして、すべてのことが
クルアーン(コーラン)の中に書いてあります。信仰しなくては
ならない6つの対象が六信、5つの義務的な行為が五行。

イスラム教の礼拝(サラ―)
tsはr (2)

また、最も厳しい宗教もイスラム教でしょう。例えば、五行の一つ
である1日5回のメッカへの礼拝、これは時間も決まっていて、
イスラム教徒ならどんなに忙しくても必ずやらなくてはなりません。
そうしなければ、多数の部族社会であったアラブ世界をまとめる
ことができなかったんですね。

さて、ヒンドゥー教ですが、もとはバラモン教と呼ばれていて、
その根幹にあるのが輪廻転生の概念です。何度も生まれ変わりを
くり返す。因果が重視され、次にどのように生まれ変わるかは、
前世の行いによって決定されます。また、現世での行いが
来世に影響を与える。これが未来永劫に続くわけです。

ヴィシュヌ神の10のアヴァターラ
tsはr (8)

インドにカースト制度があるのもこのためと考えられています。
今、低いカーストにあるのは、前世からの因果応報。ですから、
文句を言わずに与えられた自分の役目を果たすことが求められます。
カーストの本分を務めることを「ダルマ」と言います。

で、この輪廻転生は、人間にとって苦しみしか生まない悪いものと
だんだん考えられるようになりました。そこで輪廻からの解脱をめざします。
輪廻の鎖から解き放たれるためには、瞑想(ヨーガ)などの修行、苦行が
ありますが、その他にもう一つ、自分が信じる神に対するバクティ
(信愛・絶対的帰依)によっても解脱できると考えられました。

恐ろしい姿のシヴァ神
tsはr (6)

ここで、ヒンドゥー教は日本の神道と同じでたくさんの神々がいます。
それが理解が混乱する原因になってるんですね。
インドで最も多くの信徒を持っているのが「ヴィシュヌ神」と
「シヴァ神」の2体の神です。どうでしょう、時代によって違いますが、
現在はヴィシュヌ神派のほうがやや優勢かもしれません。

ヴィシュヌ神はヒンドゥー教の最高神の一柱で、一般的には、
青い肌の色で4本の腕を持つ姿で描かれます。温和と慈愛の属性を持つ
男神で、幸運と豊穣の女神ラクシュミーを妃とし、
霊鳥ガルーダを乗り物としています。

バクティする人々
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またシヴァ神は、やはり最高神の一柱。破壊と死を司り、
髑髏の数珠とコブラを首にかけ、額に第3の目を持つ恐ろしい姿で描かれる
ことが多いですね。ただまあ、そういう恐ろしいだけの神が
信仰されるというのも変なので、シヴァ神は破壊の後の再生、
豊穣も受け持っているとされます。

さて、やっとアバターの話まできました。映画の『アバター』は
ご覧になった方も多いと思います。2009年、アメリカで制作された
ジェームズ・キャメロン監督の作品で、3D映像が話題を集め、
記録的な興行収入を上げましたが、作中に米軍の敗北が描かれているため、
反米、反軍的であるという批判もありました。

体に針を打つ苦行
tsはr (7)

悪い癖で、映画の話になると長くなるので深入りしませんが、
アバターは、ネット上の、自分(ユーザー)の分身となるキャラクター
という意味でも使われます。このもとになっているのが、
ヒンドゥー教の教義の一つ、サンスクリット語の「アヴァターラ」です。

アヴァターラは化身、権化などと訳されることが多いんですが、
本来は「転落、降下」といった意味の語です。不死の神が特別な
目的のために姿を変え、自分の身を死のある者へと転落させるという
内容を表しています。目的は、魔族などを倒すための場合が多いですね。

ヴィシュヌ神の化身の一つ、ラーマ王子とハヌマーン(猿族)
tsはr (1)

このアヴァターラを10持っているのが、前述したヴィシュヌ神です。
その中には魚や猪、亀など、人間以外のものもありますし、
叙事詩『ラーマヤナ』に登場する英雄、ラーマ王子もヴィシュヌ神の
化身です。あと、笛と音楽の神クリシュナなどもそうですが、
全部は紹介してる余白がありません。

さてさて、このヴィシュヌ神のアヴァターラで特筆すべきなのが、
第9の化身、ブッダです。あれ、どこかで聞いたことがある名前ですが、
これは仏教の創始者である仏陀、お釈迦様のことなんですね。
仏教は紀元前後、インドで大きく勢力を伸ばしました。そこで、
バラモン教ではヴィシュヌ神の化身として取り込んだんです。

ただし、ブッダは「間違った教えを魔族の間に広め、滅ぼすための者」
というネガティブな描き方をされています。仏教は偽りの教えという
宣伝がなされたわけです。まあ、これだけが原因ではありませんが、
仏教は大きく信者を減らしてしまうんですね。もし仏教がインドで主流として
続いていれば、国の形はもっと違ったものになっていたのかもしれません。

関連記事 『輪廻転生って何?』

ブッダ ヒンドゥー教ではヴィシュヌ神の偽悪的化身とされる
tsはr (3)




透明なモノの話

2019.09.23 (Mon)
あれは僕が小学校5年生のときです。あ、話を始める前に、
うちの家族を紹介しておいたほうがいいですよね。
父と母と僕、1歳になった弟です。その2年前まではおばあちゃん、
父の母親がいたんだけど、病気で亡くなってました。
おじいちゃんは、僕がまだ幼稚園の頃に亡くなったはずです。
それでこの話、そのおばあちゃんのことと関係があるんですが、
いまだにどういう意味だったのかよくわからないんです。だから、
ここのみなさんがもし何かわかるのなら、ぜひ教えてほしいと思って。
話の始まりは弟なんです。当時1歳だからもう歩けるんだけど、
まだよくしゃべれなませんでした。うちは祖父が建てた一軒家で、
そこにそのまま住んでたんですが、部屋数もけっこうありましたね。

それで、その弟が、母親が目を離すとすぐに、1階の一番奥にある
仏間に入っていくんです、襖2枚の引き戸なんだけど、それを自分で開けて。
そこは元おばあちゃんの部屋で、おばあちゃんはそこで亡くなったんです。
朝、起きてこなくて、母が見にいったらもう冷たくなってたっていう。
はい、その前日まで表の草とりとかしてたので、ピンピンコロリってことです。
両親とも、亡くなるならおばあちゃんみたいにしたいって言ってましたね。
で、そのときは部屋は誰も使ってなくて、仏壇にはおじいちゃんと
おばあちゃんの遺影が仲よく並んでたのを覚えてます。
え、仏壇の扉? いつも開いてたと思います。朝に母親がお水をお供えし
お線香をあげて、それからずっと。でね、母親が料理とかしてて、
弟の姿が見えないと、僕に探してきてって言いつけまして。

またおばあちゃんの部屋だろうと思って見にいくと、やっぱりいて、
部屋の真ん中に座ってるんです。おばあちゃんの使ってたタンスとかは
もう片づけてたので、仏壇以外に何もない部屋なんですよ。
今考えれば、赤ちゃんの興味を引くものなんてないと思うんだけど、
弟は仏壇に背を向ける格好で、部屋の隅を見てたんです。
いつもすごい上機嫌でした。にこにこ笑いながらじっと何もないところを
見てて、僕が抱き上げてつれてこうとすると嫌がったんです。
不思議でしょう。仏壇のほうを見てるならわからなくもないけど。
それでね、「ここに何かあるの」とか言いながら、弟の視線の先の空間に
手をかざしてみたことがあるんです。けど、当然ながら何もない・・・
ただ、1回だけそのあたりの空気が冷たい感じが

したことはありました。まあ、気のせいだろうと思ってましたけど。
でね、僕に抱っこされて部屋から出るとき、弟はいつも見てた部屋の隅に
向かって手を振ってたんです。最近、実話怪談とかを読むようになったんですけど、
赤ちゃんのときって、大人に見えないものが見えたりすることが
あるみたいなんですよね・・・ それで、僕が夏休み中のことだったと思います。
弟は1歳半を過ぎて、片言だけど少ししゃべれるようになってました。
その日の夕食前です。7時くらいかな。母親がちょっと目を離したすきに
やっぱり弟がいなくなって、「またおばあちゃんの部屋だから見てきて」
って母親に言われました。行ってみると、部屋の襖は少し開いてて、
けど、そんな時間だから中は真っ暗で、さすがにいないだろと思ったんです。
暗いとこは怖がってましたし。いちおう入って電気のひもを引っぱると、

部屋の隅に弟がいたんです。すごく不自然な姿でした。
足は畳についてるのに体は斜めになってて、まるで見えない大きな
ボールとかがあって、それにもたれてるような格好だったんです。
「え!?」弟はうっとりした顔で目を閉じてましたが、眠ってないのは
わかりました。「どういうこと?」そう言いながら近づいて弟を抱き上げたとき、
弟がもたれていた空間にぼよんとした感触を感じたんです。うまく説明
できないけど、パンパンにふくらましたゴム風船を押したような感じ。
「わっ」びっくりして弟を抱えたまま後ろに退がると、
弟が目を開けて「うーっ」とうなったんです。
それから、むちゃくちゃに手足を振り回して暴れ出しました。
顔を引っかかれて手を離しそうになったとき、後ろの仏壇のほうで

カタンという音がしたんです。弟を抱えたまま体ごとふり向くと、
おばあちゃんの遺影が下の畳に落ちてました。暴れてた弟の体から急に力が
抜けてくたっとなったんで、小走りで居間に戻り、テレビを見てた父に
今起きたことを話したんですよ。父は、何をバカなみたいな顔をしてましたが、
機嫌がよくなってる弟を抱き上げると、仏間を見にいったんです。
僕がおそるおそる後をついてくと、電気がついたままの部屋に入って、
「何もないぞ、けど、写真は落ちてるな。これでびっくりしたんだろ、
 もうすぐ6年生なのに怖がりだな」そう言っておばあちゃんの写真を
もとに戻し、部屋の電気を消しました。それから居間に戻ったんですが、
父に抱かれながら、弟が誰もいない暗い仏間の中に向かって
やっぱりバイバイをしたんです。

それで次の日、父が仕事に出た後に、母にその話をしました。
母は真面目に聞いてくれて「うーん、何か変なものがいるとは思えないけど、
 あの部屋はチャッカマンとかもあるし、入れないようにしようか」
それで、僕と弟を連れて近くのホムセンに行き、店員さんに話をして、
襖にはさんで開かなくする金具を買ったんです。それだと弟は
手が届かないから開けられない。母親は、さっき言ったように毎朝、
仏壇にお供えをするのは続けてましたけども。それからしばらくは何事も
起きませんでした。不思議なことに、金具がついてから、
弟は仏間に行こうとしなくなったんです。ただ・・・一度だけ、
母がこんなことを言ってました。「仏壇のお水がすごく減る。
 夏だからかもしれないけど、茶碗半分も蒸発するものかな。

 おばあちゃん、もしかしてのどが渇いてるのかな」って。
それから10日くらいして、夏休みがもうすぐ終わるってときです。
僕は宿題を溜めてしまってたので、12時頃までそれやってました。
僕の部屋は2階にあるんだけど、トイレに降りてきたときに、
パン、パンという下敷きで机を叩くような音が、かすかに聞こえたんです。
廊下の突きあたりの仏間のほうからです。気味が悪かったけど
こわごわ近づいていくと、襖の引き戸がパンという音がするたびに
少しふくらんだんです。部屋の中から何かが戸にあたってるんだと
思いました。そのとき僕の頭の中に、大きな柔らかいボールが
仏間の中を飛んでるイメージが浮かんできたんです。
もちろん開けて確かめたりはしないで、自分の部屋に戻りました。

夏休みが終わってからですね。あるとき、夕食中に弟が食べたものを
吐いたんです。具合が悪そうで、でも、はかっても熱はなかったので、
明日の朝になっても調子悪ければ病院に連れていこうってことで、
1階にある両親の寝室に寝かせました。その夜の2時過ぎです。
階下が騒がしくて目を覚ましたんです。両親が何か大声を出してる。
寝ぼけながらも階段を降りていくと、2人が仏間の前にいて、
必死で戸を開けようとしてたんです。「どうしたの!?」
という僕の問いに答えず、父は両手で襖を外して中に走り込み、
電気をつけたんです。あのいつもの部屋の隅で、弟がうつ伏せに浮いてました。
いえ、うっすら水色の透明な直径1mくらいのボールがあって、
弟がその上に乗ってたんです。両親は駆け寄ろうしたんですが、

どういうわけか部屋の隅に行けない。僕も近くまでいくとボヨンと
撥ねつけられたんです。透明な壁みたいなのがあって、そこだけ遮られてる
っていうか。そうしてるうち、弟の体が顔からボールにめり込み始めたんです。
微生物が他の小さい微生物をとり込むみたいに。「あ、あ、あ」母が声を上げ、
弟の体が半分までボールの中に沈んだとき、奥のところにもう一つ何かが
浮き出てきたんです。・・・おばあちゃんでした。おばあちゃんは白黒で、
生きてたとき座ってお茶を飲んでるときのポーズで顔をかがめ、ボールに口を
つけて吸い始めました・・・どのくらい時間がたったか。いつのまにか
ボールとおばあちゃんの姿のどっちも消え、弟がうつ伏せに倒れてました。
父が踏み込むと中に入れ、抱き上げることができたんですよ。あれから4年たって、
弟は5歳になりましたが、当然というか、当時のことは何も覚えてません。






武道・武術とオカルト

2019.09.22 (Sun)


今回はこういうお題でいきます。さて、どんなことが書けるでしょうか。
自分は、小学校で道場、中高大で柔道部に所属していて、
学生時代はずっと柔道をやってきました。その間、いろんなことを
見聞きしてきましたが、基本的に試合のある武道や格闘技に
オカルトはありません。

野球なんかだと、しばしば実力が下のチームが強豪に勝ったり
することもあるんですが、柔道って番狂わせがほとんどないんですね。
これは、野球は集団スポーツといっても、チーム力における
ピッチャーの占める割合があまりにも大きいので、その日の試合は、
ピッチャーの出来、不出来に左右されてしまうからです。

柔道は個人戦もありますが、学生の場合、やはり団体戦で
勝つことが求められます。男子の団体は5対5でやるんですが、
あのチームと対戦すれば2-1で勝つとか、事前に予想をすれば
だいたいそのとおりの結果になります。団体といっても試合は
1対1だし、どうしても個人の力の差が出てしまうんです。

『グラップラー刃牙』


ですから、格下のチームが上のチームに勝つためには、
選手を並べる順番を工夫したり、相手の選手の苦手な部分を研究して、
負けるはずの選手が引き分けに持ち込めるように考えたり、
かなりの対策を練らなければなりませんが、
それが成功するケースは多くはありません。

あと、これは柔道にはかぎりませんが、格闘技の試合って力の差が
もろに出るんですよね。(打撃系はラッキーパンチもあるでしょうが、
組技系はまずありません。)格下と格上が試合をすれば、
格上の選手がものすごく強く見えます。まあ、あたり前と言われれば
そうなんですが、ちょっと驚くこともあります。

例えば、ある県のある階級で無敵の柔道選手がいるとします。
誰とやっても負けずに、全部一本勝ちする。でも、どこまでも上には
上がいるので、その選手が全国大会に出ると、1回戦で
20秒程度で派手に投げられたりするんですよね。



観ているほうは、「え、あの選手があんな負け方をするのか」と
思うんですが、天狗になっていたのが全国レベルを身をもって知り、
辞めていった選手はたくさんいます。ですから、オリンピックに出る
とこまで行くのは、ほんとうに才能と努力の両方を兼ね備えた
格闘エリートなんです。あと、よく格闘技漫画なんかで、

よれよれの老人が出てきて、若者をバッタバッタ
倒したりするシーンがありますが、あれほど極端でなくても、
似たようなことはあっても不思議ではありません。柔道で若い頃に
全日本レベルで活躍した人は、ケガや病気がなければ、
50代、60代になっても、一般的な柔道部の高校生には負けません。

あれ、オカルトの話になってないですね。うーん、武道・格闘技で
オカルトと言えば、よく出てくるのが中国拳法とかですよね。
手をふれてないのに相手が倒れたり、西瓜を軽く叩いて、
切ってみると中身がグシャグシャになっていたり、
鳩が飛び立とうとするのを気合で止めたり・・・



ただ、これらのものは多くはトリックというか、ネタがあります。
さわってないのに吹っ飛んでくれるのは、その武術家の弟子ですし、
西瓜は前もって布団でくるんだのを叩いておけばいいし、
鳩の足は手品で使う透明な糸で縛っておく。ビール瓶の口切りは、
あらかじめ油を染み込ませた糸を巻いて火をつけ、もろくしておく。

あと、テレビで武術家が、「こういうふうに腕を取ってみてください」
などとやることがありますよね。それでタレントが言われた
とおりにすると、見事にひっくり返されたり、イテテテと悲鳴を上げる。
でも、これはあらかじめ型が決まってるからできる話で、
実際の闘いでは相手の出方がさまざまななので、まず通用しません。

でも、じゃあそれらの武術家がインチキなのかというと、必ずしも
そうも言えないと思います。今の武道は、試合に勝つことだけが目的に
なってしまっている面があり、稽古が過熱したり、コーチが選手に
暴言・暴力を加えたり、一生後遺症が残るようなケガを
してしまったりなど、これには大きな批判もあります。



それに対し、試合のない武術というのは、基本的に何でもありです。
極端な話をすれば、相手を倒すために、暗闇で待ち伏せして
棒で叩いたり、隙をみて睡眠薬を飲ませたっていいわけですね。
そんなの卑怯だ、と思われるかもしれませんが、
競技試合がなければルールもありません。

宮本武蔵も、決闘の場面にわざと遅れてきたり、相手をイラつかせる
言葉を吐いたりしますよね。それが史実かどうかはわかりませんが、
その程度のことは十分ありえると思います。武術は
綜合的なものですから。卑怯というのは、武術が武道に変化して、
競技ルールが前面に出てきてからのことです。

さてさて、何を言いたいのかわからなくなってきたので、
そろそろやめますけど、昔は「武術詐欺」というのがありました。
インチキ武術家が弟子をとり、謝礼や用品の販売で金を集める。
ですが、今はもう通用しないですね。理由はおわかりだと思います。

その武術家に、「そんなに強いのならUFCなどの総合格闘技に出たら」
という言葉一発で終わってしまいます。ですから、
武術詐欺そのものはほとんどなくなったんですが、あえてどことは
言いませんが、整体やマッサージなどに転身して生き残っている
ものもあります。では、今回はこのへんで。

関連記事 『プロレスをやった話』






文字のオカルト

2019.09.21 (Sat)
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「耳なし芳一」

今回はこういうお題でいきます。洋の東西を問わず、文字が力を
持つといった話はよく耳にします。ただ、この場合、
音声と結びついていることが多いんですよね。でも、それだと
「呪文」になってしまいますので、今回は純粋に
文字(表記)だけのオカルトについて考えてみます。

西洋では、力を持つ文字としては「ルーン」が、まずあげられる
でしょうか。ファンタジー小説やゲームにもよく登場します。
これは古代のゲルマン人が用いていた文字体系で、
表音文字のうち、音素文字と呼ばれるものです。

ルーン文字 最初の1行がフサルクという音素
tshhst (7)

「ルーン(rune)」という名称の語源としては、「秘密」を意味する
ゴート語からきていると言われますが、はっきりしません。
ルーン文字は、最初の6文字をとって「フサルク」とも呼ばれます。
実際に見てもらえればわかりますが、ひじょうに素朴な感じがします。

現在の魔術では、ルーン文字は、呪術や儀式に用いられた神秘的な文字
などと言われたりしますが、実際にはそんなことはなく、荷札や伝票など、
日常ふつうに使われていました。魔術に関係があると言われるように
なったのは、ラテン文字が広く普及してからのことです。
ルーン文字は、ラテン文字にいくつか転用されています。

さて、自分が、文字が印象に残っているホラー作品は、
1999年公開のアメリカ映画、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』
ですね。黒い森の中にある存在しないはずの廃墟の壁に
手形とともに書かれていた文字です。最初、ルーン文字かと
思いましたが、よく見ると少し違います。

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』
tshhst (2)

この映画は、「モキュメンタリー( 疑似ドキュメンタリー)」として
話題を集めました。評価は賛否両論がありますが、
自分は面白かったです。さまざまな伏線らしきものが提示されるものの、
最後まで観ても、謎はまったく解決しないという内容は
実話怪談に通じるものがありますね。

この映画に低評価をつけた人は、手持ちカメラのグラグラ揺れる映像で
気持ちが悪くなったせいもあるんじゃないでしょうか。
自分は、これを考えた人は頭がいいと思います。まず、超低予算
ですよね。ずっと野外撮影で、CGどころかセットすらありません。
3人だけのキャストはすべて無名の新人。

それであれだけ話題を読んで興行収入を上げたんだから、
たいしたものだと思います。あ、映画の話ではないので、
これくらいにしておきます。西洋には、「シジル魔術」というものも
ありますが、これは文字というより紋章ですね。イギリスの秘密結社、    
「黄金の夜明け団」が使用して有名になりました。

「シジル魔術」
tshhst (4)

さて、東洋のほうはどうでしょうか。オカルト的なパワーを持った
文字としては、まず漢字があげられると思います。
自分は、これだけ複雑な構成要素を持った表意文字ができたのは、
奇跡に近いことだと考えてるんです。

漢字の起源は古く、甲骨文字がもとになってるのはご存知でしょう。
甲骨文字は主に占いに用いられ、その結果で生贄の数が
決められていたんです。商(殷)の遺跡からは、生贄になった人骨が
14000体も出土していますが、このことと漢字の発生は
深い関係があります。

甲骨文字 焼いてひびわれを観るため甲骨に記された


ですから、何気ない漢字にも恐ろしい意味を持つものがあります。
例えば、「道」という漢字は、首を手にたずさえる形から生まれ、
荒れ地にいる災いをなす鬼神を祓い清めるために、斬った人間の
首を掲げて道をつけていく様子を表す、などと言われます。

で、もともと力を持っている漢字が、さらにお経になると、
いっそうパワーを発揮します。何を言いたいかもうおわかりでしょう。
「耳なし芳一」の話ですね。平家の怨霊に目をつけられた
芳一の姿を隠すため、寺の住職は全身に般若心経を書き込みますが、
耳にだけ書き忘れてしまったために・・・

お経は、声に出して読まなくても、文字として存在するだけで
力があるとされました。これは梵語の場合も同じです。他にも、
経蔵にしまわれていた経文の文字を食べた紙魚(しみ 虫の一種)が、
不思議な力を持って怪異をなすといった話もあります。

tshhst (3)

興味深いのは、四国の某地方に伝わる話で、そこには幼くして海に沈んだ
とされる某天皇がじつは落ちのびてきて、一行が集落の菩提寺に
泊まったときに、礼として書き溜めておいた経文を当時の住職に下した。
そのようないわれのあるものが、いまだに寺に残っていて、
経文はところどころ四角く切り取られた穴が開いている。

どういうことかというと、まともな薬も医師もなかった時代に、
病人が出た家の者が住職のところにやってくると、
うやうやしく経文から小刀で一字を切り取って与えた・・・
ありがたいお経、しかも天皇が自ら写したものだとすれば、当時の人が
飲めば病気が治ると考えても不思議はないかもしれません。

さてさて、この他、文字のオカルトには「神代文字」というのもあり、
漢字伝来以前に古代日本で使用されたと言われるんですが、
確証にとぼしいものばかりです。昔から、日本が中国由来の
漢字を使っているのが気に入らない勢力もあったんですね。
この内容もまだ書くことがありそうですが、まずはこのへんで。

神代文字の一種
tshhst (5)




ドッペルゲンガーの話 2題

2019.09.20 (Fri)
オカルトフアンの方ならご存知だと思いますが、ドッペルゲンガーは
ドイツ語ですね。日本語では「自己像幻視」と訳されますが、
こちらの言葉はほとんど見たことがありません。
基本的に、ドッペルゲンガーを見るのは本人だけなんですが、
最近の怪談では、自分の知らないところで他人がもう一人の自分を
目撃した場合も、ドッペルゲンガーと呼ばれたりするようです。
ドッペルゲンガーは死の予兆であり、これを見た人はごく近いうちに
亡くなるとされます。アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンが
見たという話は有名ですし、日本では芥川龍之介が見たと言われますね。
ただ、リンカーンはともかく、つねに大量の睡眠薬を常用していた
芥川の場合は、幻覚であっても不思議はない気がします。

では、ドッペルゲンガーとは何なのか? これはもちろんわかりませんが、
ジークムント・フロイトが発見した「無意識」がその正体ではないか、
とはよく言われます。ドッペルゲンガーを見たとされる人は、
たいへんなストレス環境下にあることが多く、自分の精神から
無意識が分離してしまったという解釈です。ですから、
他人には見えないわけです。あとまあ、日本でも、姿形がそっくりの
人物が2人出てきて、互いに自分が本物だと主張するような話があり、
古典の説話集にも載ってますが、この場合、一方は狐狸が化けている
ケースが多いようです。ドッペルゲンガーとはちょっと違いますね。
さて、今回は、自分のところに集まってきた話の中から
それに関したものをご紹介したいと思います。

IT企業勤務 村田洋次さんの話
じゃあ話していきますけど、これ、全部夢かもしれないんですよ。
何も不思議なことはなくて、ただ全部、僕が見た夢というか幻覚というか、
そういうものなのかもしれません。それでもかまわないんですよね。
あれは、つい3日前の話でもあり、10年も前のことでもあるんです。
え、意味がわからないって? そうでしょうね。
僕自身がわかってないですから。うちは経理ソフトを開発をする
会社なんです。まあ、IT企業はブラックと言われることが多いけど、
たしかに残業は多かったです。週に20時間はあったと思います。
ただ、すべてがサービスではなく、ある程度まで残業代は出てました。
それと、強制させられるわけじゃなくて、仕事が興に乗ってくると
やめられなくなるって面もあったんです。

さっき言ったように、3日前です。その日もね、残業になりまして、
10時ころまではたくさん人が残ってましたが、みなぼつぼつ帰り出して、
オフィスに僕一人だけになったんです。うちの会社は貸しビルの玄関に
警備員が24時間常駐してますので、いくら遅くなっても
問題はありません。で、午前2時を過ぎた頃でした。
もう少しで仕事の目処がつきそうなので、朝までやろうと思ってたんです。
ブースになってるデスクを離れてコーヒーメーカーのとこまで行きましたが、
その日は朝から胃の調子がよくなかったんで、給湯室にある冷蔵庫から
ヨーグルトを出しました。で、ブースに戻ってきたら人が座っる背中が
見えたんです。最初、場所を間違えたかと思ったんですけど、
自分以外残ってる人はいないはず。そこで怖くなりました。

あとね、うちは服装はカジュアルでもOKなんだけど、その人の着てる
ポロシャツが僕と同じだったんです。髪型も同じ。
後じさりしてブースから出ようとしたら、その人はくるっとイスを
回してこっちを見ました。やっぱり・・・自分だったんです。
いつも鏡で見る自分の顔。無精髭が生えて目の下に隈ができてました。
「・・・」声にならない声をあげた僕に向かって、もう一人の自分が、
「お前なあ、こんなことしてたら死ぬぞ」そう言ったんです。
はい、声も自分の声です。逃げ出そうとしましたが、そのとき急に、
今まで感じたことがないような激痛が胃にあったんです。
思わず手で押さえ、吐き気がこみ上げてきて膝をついたところ
までは覚えてるんですが、そこで失神しちゃったんです。

次に気がついたら、病院のベッドにいました。脇にいたのは
会社の直属の上司一人だけ。これは後で聞いたことだけど、
俺が倒れてるのを発見したのが巡回に来た警備員で、
そのまま救急車を呼んでくれ、病院では出血性の胃潰瘍という
診断がついて、とりあえず内視鏡で出血を止めたということでした。
上司は、お前の実家には連絡してあると言って、ほっとしたような
顔で帰っていき、その後、母親が来て看病してくれて、
20日ほどで退院しました。それで、入院してる間にいろいろ考えて、
会社を辞めたんですよ。命あっての物ダネじゃないですか。
田舎に帰って少しのんびりして、それから何か仕事しなくちゃと
思って、アフィリまとめってのを始めたんです。

いろんな記事をまとめてネットにアップし、その広告収入で
食っていくっていう。いや、最初はほんとボツボツとしかお金は入って
こなかったんです。それでも少しずつ仕事を拡大してって、
ホームページ作りやネットシステムの管理なんかもやるようになってね。
軌道に乗り、人を何人か雇い、オフィスを借りて本格的に会社として
始めました。実家のある田舎だと、そういうのやってるとこ少なかったんです。
それでね、規模は小さいとはいえ、一国一城の主じゃないですか。
面白かったんですよ。無我夢中で突っ走り始め、会社のビルができ、
結婚して子どもも産まれました。で、10年たったころです。
ウエブだけじゃ何かのときに困ると思って、別事業を立ち上げたんです。
始めはセフティーネットのつもりだったんですが・・・ そっちで大きな穴が

開いちゃったんです。もう従業員は50人近くなってましたので、
会社はつぶせない。資金繰りに奔走しました。でね、ヘトヘトになって
夜に会社に戻ったんですよ。遅い時間なので誰も残ってなくて、社長室に入ると、
イスに僕が座ってたんです。そのときにすぐ、10年前のことを思い出したんです。
もう一人の僕は、真っ青な顔にうすら笑いを浮かべてました。「お前、
こりないやつだな。でも、もう終わりだよ」その瞬間、気分が悪くなって床に倒れ、
強く頭を打って・・・ で、気がついたら病院です。不思議なことに、前のIT会社の
上司がいたんです、10年たってるのに当時のままで。僕もね、まだ若い自分で。
えっ、あの10年間は全部夢なのか・・・信じられませんでしたが、
そうだったんですよ。ただ一つ、前と違ったのは、診断が胃潰瘍じゃなく、
末期の胃癌だったことです。腹膜全体に散らばってて、余命半年なんだそうです。

タレント事務所勤務 内田幸治さんの話
俺ね、仕事はうちの会社に所属してるタレントさんのマネージャーやってるんです。
ものすごく忙しいし、公私の区別もありません。タレントさんの送り迎えから、
スケジュール管理、売り込みから何から、1日14、5時間は働いてます。
まあでもね、忙しいのはある意味、幸せなことだと思うようにしてました。
だってそれは、自分が担当してるタレントさんが売れたってことですから。
その日も、社用車でタレントさんを自宅まで送り届け、社に戻ってから
帰宅でしたが、まだぎりぎり終電が残ってました。で、疲れ切って
ホームのベンチにへたり込んでたら、ふーっと体から、何かが抜け出すような
気がしたんです。思わず目をつぶってから開けると、すぐ目の前に背中が
見えたんです。俺の背中だってひと目でわかりました。
特徴のあるコート着てましたから。そのもう一人の俺は、どんどん線路のほうに

歩いていき、俺自身はそれ見てるだけで体が動かないんです。
金縛り・・・というんでしょうか。初めて経験しました。そのうちに、
列車が入るっていうアナウンスがあって、もう一人の俺はホームの端ぎりぎりに
立ったんです。ああ、あいつ飛び込むんだな、他人事のように思いました、
自分なのにね。電車が来て、そいつは不格好に宙を舞い、でも、電車が
ブレーキを掛けることもなかったし、アナウンスもありません。やっぱり実体じゃ
ないんだ。そう思ったとき、ずらっと並んだ駅のベンチの下から、黒い犬のような
ものが何十匹とすごい速さで飛び出してきて、停車してる電車の下に入って
いったんです。そのうちの一匹が近くを通ったとき、幼稚園児くらいの大きさだけど、
大人の顔をしていて、裸で腹が出てるのがわかりました。餓鬼って言うんでしょうか。
飛び込んだもう一人の俺を食うんだな、そう考えたとき、体が動いたんですよ。






宇宙膨張あれこれ

2019.09.19 (Thu)
ydrs (6)

独マックス・プランク天体物理学研究所などの研究者らは今回、
宇宙の膨張率を測定する新たな手法を開発したと明らかにした。
これにより測定したハッブル定数は82.4で、過去の推算値を上回っている。
だが、今回の測定値に10パーセントの誤差があると論文は認めているが、
これは測定値が74~90の範囲にあることを意味する。

科学者によれば、さまざまな手法による差異は計算ミスではなく、
ビッグバン理論が宇宙をどのように説明するかについての解釈の不一致の
表れの可能性があるという。ビッグバン理論では、宇宙は激変的な爆発で
始まって以来、膨張を続けているとされている。
(JIJI.COM)

今回はこのお題でいきます。少し前も似たような記事を書きましたので、
なるべく かぶらないようにしたいと思います。あと、今回の内容は特に
難しいわけではないですが、単純な勘違いを起こしやすいので、もし自分が
おかしなことを書いてたら、コメントで指摘していただければありがたいです。

さて、ハッブルの法則は、前回書いたように「v=Ho d」の式で表されます。
簡単ですよね。小学校何年生かで勉強する正比例です。
ここで、v は、ある天体がわれわれから遠ざかる速度(後退速度)。
d は、その天体までの距離です。そしてHoが比例定数。ですから、Hoの値が
正確に算出できれば、現在の宇宙の大きさと年齢がわかることになります。

今回の測定結果は82.4ですから、けっこう大きめに出ています。
まず、天体の後退速度 v を測るのは難しくありません。
遠ざかっていく光は赤方偏移を起こすので、かなり正確な数値が出せます。
これは、音のドップラー効果のようなもので、自分に近づくときと
遠ざかるときで、救急車のサイレンの音が変わりますよね。

ydrs (2)

問題は、d の距離のほうです。地球からある天体までの距離を測るには、
大きく2つの方法があるかと思います。一つは、変光星の真の明るさと
見かけの明るさを比較する方法、もう一つは重力レンズを使う方法です。
今回の研究では、「新たな手法を開発した」と書かれていますが、
どういうものなのかは、このニュースだけではわからないですね。

ただ、ハッブル定数の測定に関して、バラバラの数値が出るのは、
「ビッグバン理論が宇宙をどのように説明するかについての解釈の
不一致の表れの可能性がある」とまで述べているわけですから、
かなり自信があるんだろうと思います。うーん。

ydrs (1)

さて、ハッブル定数を測定するのに使われる天体は、われわれから
そこまで遠くないものが多いんです。まあ、ずっと遠くの天体は
望遠鏡の性能の問題で見るのが難しいということもありますが、
それ以前に、はるか遠くにある天体は光速度を超えた速さで
遠ざかっているので、何も情報がやってこないんですね。

最初に書いたように、ハッブルの法則の式は正比例ですので、
われわれから距離が5倍離れていれば、速度も5倍になりますし、
1000倍離れていれば、速度も1000倍になります。
あれ、何か変だと思われませんか。たしか相対性理論では、
光速度を超えるのはできないはずだったのでは・・・



じつは、光速度を超える場合はいろいろあります。相対性理論で制限
されているのは、質量を持つ物質が光速度を超えるのはできないこと。
また、光速度を超える速さで情報を伝えることはできないこと。
まあ、どっちも同じことなんですが。もし光速より速く情報が伝わると、
明日の競馬の勝ち馬がわかってしまって、因果律が崩れます。

それは現在の研究では許されないため、予言があたることはありません。
さて、みなさんが最新型の宇宙船に乗っていたとします。その宇宙船は、
光速度にかぎりなく近いスピードが出せます。では、アクセルを
ふかしていくとどうなるかというと、宇宙船の質量はどんどん重くなり、
長さは進行方向に縮み、宇宙船内の時間の流れが遅くなります。

で、もし光速度に達してしまうと宇宙船の質量は無限大になる、つまり、
不可能ということです。あと、思考実験として、大きなブラックホールに
宇宙船が吸い込まれる場合を考えてみましょう。宇宙船が事象の地平線に
近づくにつれて速度が光速に近づき、やがてつるっと吸い込まれてしまう
わけですが、もしこの場面を、ずっと離れた場所から見ていたとしたら?

ゴムぱっちんの原理
ydrs (4)

実際にはそういうことはできませんが、もし見ることができれば、
宇宙船はどんどん縮んで、ブラックホールのふちで止まってしまいます。
貼りついてしまったように見えるんですね。もしかしたらこのことは、
ブラックホールに落ち込んだものの情報が2次元表面に保存される
というホログラフィック原理と関係があるのかもしれません。

さて、余談はこれくらいにして、では、遠くの天体が、どうして光速度を
超えて遠ざかることができるのか。これは天体そのものが
動いてるのではなく、空間が広がっているためです。相対性理論とは
別の話なんですね。みなさんが、まだ膨らませていない風船の
中心にいるとします。その風船にぷーっと息を吹き込むと、

風船の表皮のゴムは遠ざかっていき、中心から離れた場所ほど
そのスピードは速いはずです。まあ当然ですよね。
もしそうでなければ、宇宙全体が一様に膨張することはできません
あるいは、ゴムひもを引っぱって離す漫才のゴムぱっちんを

思い浮かべてください。ゴムを固定している根もとに基準点をとると、
そこから離れた先端にいくほどスピードが速いのはおわかりだと
思います。それと同じです。じゃあ、その光速を超えて遠ざかっている
天体に、もし人が住んでいたら、どうなってしまうんでしょうか。

ydrs (3)

これはどうもなりません。全然平気だと思います。というのは、
その天体の住人から見れば、われわれ地球のほうが超光速で遠ざかって
いるからです。この宇宙はおそらく閉じていて、端っこも中央もない
だろうと思われるので、彼らから見れば地球が宇宙の果てになります。
でも、われわれは何ともないですよね。

さてさて、もう少し考えてみましょう。もし宇宙膨張がどんどん
加速していったらどうなるでしょう。まず、遠くに見えていた銀河との
距離がますます遠ざかり、その銀河も光速を超えて見えなくなります。
最終的にどこからも光が届かなくなり、長い年月のうちに星々は燃えつき、
ブラックホールだけが残りますが、やがてそれも蒸発します。

宇宙のすべての部分の温度が同じになり、動くものがなくなって
「熱的死 Heat death」をむかえると予測されます。まあでも、
それは遠い遠い遠い未来の話で、地球人類の歴史はたかだか数百万年。
別の、もっとくだらない理由で滅びてしまうんでしょう。
心配するのはまさに杞憂でしょうね。では、今回はこのへんで。

関連記事 『時間の減速って?』 『ルメートルの苦悩』  

宇宙の熱的死
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骨のオカルト

2019.09.18 (Wed)
ge (4)

今回はこういうお題でいきますが、これ、独立した項にはなってませんが、
過去記事であちこちに書いてますので、一度読んだことがあるような
内容になるかもしれません。その点はご容赦ください。
さて、洋の東西を問わず、人骨は死の象徴として見られてきました。

どうしてかというと、昔は人間の骨はさして珍しいものではなかった
からです。松尾芭蕉に、「野ざらしを 心に風の しむ身かな」という
有名な句がありますよね。『野ざらし紀行』の序文に出てくるんですが、
「野ざらし」とは、風雨にさらされて白くなった人骨のことです。

野ざらし
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行き倒れた旅人の死骸が片づけられず、そのまま野辺で白骨化し、
多くの人々が、それを横目に通り過ぎていきます。
芭蕉も、自分もそうなるかもしれないという覚悟を持って旅に出る
わけですが、それは、実際の伊賀上野への旅であるとともに、
俳諧という芸術の道に深く分け入るための旅であるとも解釈されます。

これが現代だったら大変ですよね。もし草むらに白骨が転がってれば、
見つけた人は警察に通報して大騒ぎになります。ただ、
あまりニュースにはならないですが、工事現場などで人骨らしきものを
掘り出してしまうケースは多いんです。多くは江戸時代以前ですが、
太平洋戦争当時のものもあります。

この場合どうするかというと、警察に連絡をし、警察が鑑定をして
人骨と判明し、さらに時代がたっているので事件性はないと
判断した場合は、地元自治体の福祉課、教育委員会に引き継がれます。
たいへん面倒なことになってしまうので、発見しても埋め戻したり、

原城跡から出土した島原の乱の人骨
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そのまま破壊してしまうなんて話もありますが、実際にそのケースは
少ないでしょう。古い人骨の場合、ふつう供養などはしませんが、
それが見つかった場所に建物をつくる人は、あまりいい気持ちは
しないでしょうから、個人的にお祓いなどをすることもあって、
予定外の出費になってしまいます。

さて、日本の場合、昔の怪談をみても、骸骨が出てくる話は
多くはありません。これは理由がはっきりしていて、
骸骨だと身元がわからないからです。江戸時代までの怪談は、
基本的に因縁ものです。例えば『四谷怪談』だと、

生前、田宮岩と呼ばれた人が夫にひどいしうちをされ、その怨みで
成仏することができず、幽霊となって怪異を引き起こす。
この一連の流れが重要なんです。ですから、どこの誰ともわからない
骸骨の怪異は、幽霊ではなく妖怪に分類されることになります。
「骨女」や「狂骨」などですね。

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また、現代になって仏教の権威は失われ、戒名はいらない、墓はつくらず
散骨するという人も増えてきました。それとともに、成仏するという
感覚が希薄になり、現代の怪談は何でもありという状況になっています。
「地縛霊」は心霊写真研究家の中岡俊哉氏、「背後霊」は漫画家の
つのだじろう氏が昭和になってつくった造語です。

あとはそうですね、骸骨は前世とのかかわりで語られることも多いです。
ある貴人が原因不明の眼痛にさいなまれる。陰陽師に占わせたら、
前世で旅人だったその人物の頭蓋骨が岩の間にはさまれていて、
木の根が中に侵入してきて痛みを与えているのだ、みたいな話です。
そこで陰陽師の言った場所に人を遣わせると、実際にそのとおりだった。

沙悟浄 本来は河童ではありません
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中国の『西遊記』に出てくる沙悟浄は、首に9つの頭蓋骨をつないだ
飾りをかけていますが、あれはすべて三蔵法師の前世のものなんです。
三蔵法師は9度、天竺への取経の旅を志ざし、そのたびに同じ場所で
沙悟浄に食べられてしまってたんです(笑)。それが、孫悟空をお供に
従えたことで、10回目はついに沙悟浄も弟子になります。

関連記事 『あなめの話』 『玄奘三蔵の冒険』

さて、西欧に話を移して、骸骨はロールプレイングゲームに
スケルトンとして登場します。アンデッド(不死者)の中でも一番弱い
やられキャラです。これは当然で、骨だけだと生前の体重の
約5分の1になります。体重70kgの人なら15kg程度ですね。
ですから、剣を合わせても簡単にふっとばされてしまいます。

スケルトン


西洋でも、骸骨は死の象徴でした。西洋絵画の主題の一つに「死の舞踏」
というのがあります。大勢の骸骨が音楽に合わせて踊る姿が
描かれますが、そこには、王、教皇、修道士、若者、美少女、農奴など
あらゆる身分の人物が見てとれます。生前の財産や地位に関係なく、
死は誰にでも平等に訪れるという寓話なんです。

死の舞踏は音楽にもなっていて、リストの曲などが有名です。
もう一つ、「死と乙女」も、さまざまな画家が主題として取り上げていて、
多くは、若く美しい少女の背後に大鎌を持った死神がたたずむ構図に
なっています。つねに死はすぐそばにある、というわけです。

死の舞踏
ge (2)

西洋でも日本でも、平均寿命の短い時代が長く続きました。
現在、先進国とされる国でも、平均寿命が50歳を超えたのは
20世紀に入ってからのことです。もちろん、平均寿命を大きく引き下げる    
要因は乳幼児死亡率ですが、その他、戦争や疫病の流行も大きかったんです。

さてさて、これらは、古代ローマ時代の「メメント・モリ」を継承していると
言われます。ラテン語で「死を忘れるな」といった意味で、将軍が凱旋の
パレードを行なう栄光の絶頂のときに、その役目の使用人が耳元でこの言葉を
ささやいたとされます。ただ、誤解されがちなんですが、本来の意味は、
「だから今を楽しめ」ということなんですね。では、今回はこのへんで。

死と乙女
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蛇の話 3題

2019.09.17 (Tue)
ペットショップ勤務 上田洋一郎さんの話
じゃあ話していきますけど、わけわかんない内容なんですよ。
しかも子どもの頃のことだから、もしかしたら白昼夢みたいなもの
かもしれません、それでよければ。あれは、俺が小学校4年のときのこと
でしたね。当時、市営団地に住んでたんです。うちは母親が離婚して、
シングルマザーで俺を育ててて、お金がなかったんですよ。
その市営団地にはいい思い出はないです。それで、俺、小さいときから
生き物が好きだったんだけど、市営団地だからもちろんペットは
禁止です。けどね、ハムスターをプラケースで飼ってました。
まあ、それくらいは大目に見られるんです。あと金魚とかも。
でね、たしか日曜日の朝、餌をやろうとして見たら死んでたんです。
ハムスターはずっと寝てばかりだけど、それとは様子が違う。

ショックはショックでした。けど、寿命だと思いました。
ハムスターってネズミだから、せいぜい2、3年しか生きられないんです。
小2から飼ってましたしね。その日は母親が仕事に出てなかったんで、
死んだハムスターを手のひらに乗せて、どうすればいいか聞いたんです。
そしたら、団地の自転車置き場の後ろの草地にでも埋めてこいって。
でね、とぼとぼ階段を下りて外に出、自転車置き場に近づいたら、
「あんたそれ、まさか埋めるんじゃないでしょうね」ってキツイ声がして。
1階に住んでる嫌なオバサンでした。1日中家にいて、
ホウキ持ってゴミ置き場の前とか掃除してるんだけど、
団地の住人の行動にいちいちケチをつけるんです。
「そんなの埋めたら、カラスがほじくりにくるか、でなきゃ虫がたかって

 しょうがない。ダメだよ、団地内に埋めちゃ。そうだね、川に流しといで」
歩いて5分くらいのとこに、そこそこ大きな川があったんです。
このオバサンに見つかった以上、埋めるのは無理そうなんで、
ハムスター持ったまま橋まで行きました。日曜の朝7時くらいだから、
いつもと違ってあんま車は通ってなかったです。橋の上から川に投げ込むのは
さすがにかわいそうな気がしたんで、土手からコンクリで護岸されたとこを
下りていきました。川原は葦が生い茂って、あちこち蚊柱が立ってました。
なんとか水面が見えるとこに出て、ハムスターに「さよなら」って言って
投げようとしたとき、横の草むらがガサガサいって、急に人が出てきたんです。
びっくりしましたよ。でね、それ、誰だったと思います?
さっきのイジワルオバサンだったんです。けど、子どもでもさすがに

ありえないって思いました。だって、俺はけっこう急いできたし、
オバサン足が悪かったんです。オバサンの顔は真っ白で、額に筋が浮いてました。
俺が思わず後退ると、オバサンはいつもと違うかん高い声で、
「そのネズミ、わたしにちょうだいよ」って言ったんです。
「どうするんですか?」って聞いても、無表情のまま、ただ「ちょうだい」って。
そのときね、なんか腹が立ったんですよ。それで「嫌です」って言って、
ハムスターを大きく水面に放りました。そしたら、オバサン、
べたっと草の上に這いつくばり、そのままずるっと川に入ってったんです。
「!?」 オバサンの姿は消え、かなり大きい青大将が一匹、
すーっと泳いで、たぶん俺が投げたハムスターを咥え、対岸に向かって
ったんです。いや、怖くなって、走って土手まで上りました。

草に隠れてて、土手の上からは何も見えなかったです。それで、
団地に戻るとオバサンがいたんですよ。いつものようにコンクリの上を掃く
ふりをしてました。「さっき川にいましたか」とか聞けば
よかったのかもしれませんが、気味が悪くて何も言えませんでした。
オバサンのほうを見ないようにして部屋まで戻ったんです。うーん、ここでね、
オバサンの口の端にハムスターの足が見えたとか、「おいしかったよ」
とか言ったのなら、怪談としてはいいのかもしれませんが、
そんなことはなかったです。でね、俺は高校在学中にバイトしてた
チェーンのペットショップに就職して今にいたるんですけど、
たぶんこのときのことがトラウマになってて、蛇が苦手なんです。
店長にはだらしないぞって言われるんですが、この話はしてません。

特殊清掃業 山根秀次さんの話
あ、特殊清掃をしてる山根と申します。よろしくお願いします。
特殊清掃はご存じですよね。いわゆる汚部屋やゴミ屋敷の片づけもやりますし、
孤独死された方の部屋の清掃もします。でね、これ、誤解されてることが
多いんですけど、私らはご遺体の処理はやらないんです。
死体を処理するのはまず警察、事件性があるとみたら、解剖するには
警察署まで運ばなきゃいけないしね。あとは葬儀屋です。
彼らはドロッドロになった死体も運びます。それに比べれば、私らの仕事は
まあ楽といえば楽で。ただ、遺体が長期間発見されず放置されると、
体液が布団を通して畳から床板にまで染み込みます。で、ウジが無数に
わいてたり。あとね、カミソリで頸動脈を切って自殺した人とか。
その場合、血が天井から壁から飛び散ってスゴイですよ。

あ、すみません。こんな話、嫌ですよね。・・・よくね、飲みに行って
何の仕事してるか言うと、みな内容を聞きたがるんです。けど、
自分らから求めたくせに、こういう話をすると顔をしかめるんですよねえ。
あ、すみません。そのときはね、市営団地の1階に住んでた60代の女性の
部屋を片づけました。いや、死後3日程度で発見されたので、
そんなに汚れてるってことはなかったです。これ、後から耳にした話ですけど、
故人には身寄りがなく、市のほうで無縁墓地に葬ったってことでした。
団地内で嫌われてたらしく、火葬のときに誰も来なかったって。
それでね、部屋はわりに片づいてたんです。ゴミらしいゴミもなく、
そもそも物がほとんどなかったです。で、台所に入ると、
ここもきれいだったんですが、大きなゴミバケツがあったんです。

60Lくらい入るやつが2つ。片方はゴロタ石が蓋の上に載せられてました。
もちろんゴミも片づけるんで、まず石のないほうのフタをとったら、
中のゴミ袋に・・・最初、魚だと思ったんですよ。太刀魚とかああいう細長い。
けどね、ウロコとか違うし模様がついてる。それ、蛇だったんです。
太い蛇が何匹分かなあ、とにかくバケツ半分くらいまでブツ切りで入ってました。
いや、食べたのかどうかはわかりません。骨とかになってるのはなかったです。
あと、フタとのついてるほう、すごい嫌な予感がしたんです。
そんときは2人組で行ってたので、若いやつに「お前、ちょっと見てみろ」
って言って、そいつが石をどけ、おそるおそるフタを少しずらして、
「うわっ」ってのけぞったんです。「蛇、生きた蛇がいます。大量に」
・・・仕事ですからね、それももちろん処理しました。

〇〇市役所道路河川管理課 仁科雄平さんの話
ああ、あの川のことですか。たしかに苦情は来てます。蛇が多いっていう。
ですけど、害獣なんかと違って駆除はできませんよね。
蛇を駆除する業者なんて ここらにはいないし、そもそもきりがありません。
ある地域を駆除したって、別のとこから移ってくるだけでしょう。
だから、対策としては、とにかく草を刈るしかなかったです。
草がなければ蛇は住みにくいし、川原に降りた人も、もし蛇がいても
すぐに発見できます。あとは、これは市の管轄じゃなく国土交通省ですけど、
土の部分をできるだけなくして、コンクリで護岸する。
それでですね、秋に入ったあたりの頃に、大々的に川原の草刈りを
計画したんです。そしたら・・・ええ、蛇は大量にいたんですが、
それとは別に、人骨が4体出てきたんです。

もちろん警察で身元を調べましたが、4体ともいまだに該当者は見つかって
ません。行方不明者と照合したんですが、わからなかったみたいです。
この市の人ではないんだと思いますよ。あと、骨だけなんですが、
傷や骨折痕などはありませんでした。だから、警察は事件には
しないでしょうね。それでね、そのときの作業員から話を聞いたら、
4体とも、肋骨の中に無数の蛇が玉になってうごめいてたんだそうです。
・・・嫌ですよねえ。そんなの見たら、とうぶん夢に出てきそうです。
で、草刈りをして2日後です。市のあちこちで目撃者が出て、
役所にも電話が何件もきました。え、何を見たかって? それが、数百、
数千の蛇が、川面を埋めつくすように泳いで下流に向かって泳いでいった
って話で。ま、この市から出ていってくれたのなら、ありがたいことですけど。






今さらハリ―・ポッター?

2019.09.16 (Mon)
英国人作家J.K.ローリングによる『ハリー・ポッターシリーズ』は、
1990年代のイギリスを舞台に魔法使いの少年と仲間たちが
繰り広げる冒険を描いたファンタジー小説で、映画化されたことからも
世界的に有名になった。

全7巻の原作小説は世界各地の言語に翻訳され、計5億冊以上を
売り上げた、「史上最も売れたシリーズ作品」としても知られている。

しかし、子供だけでなく大人にも人気のこの児童文学は、
出版されて以来オカルトや神秘主義のテーマが特定の宗教の教えに
反するとして、国際的な物議を醸し、英米だけでなくアジアでも
学校の図書館からハリポタシリーズが撤去される事態が起こっている。

(カラパイア)

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今回はこういうお題でいきます。日本ではまったくそういう話は
ありませんが、J・K・ローロングの「ハリー・ポッター」シリーズが
「よくないもの」とされるケースは、世界中にあります。
キリスト教カトリックによることが多いんですが、
イスラム教国の多くもこのシリーズを認めていません。

アラブ首長国連邦やサウジアラビアはもちろん、アジアのフィリピンや
マレーシアでも、学校図書館からシリーズが撤去されるケースが
増えているということです。まあ、私立学校であれば、
学校図書館に何を置くかは学校の方針として決めることができる
でしょうから、しかたのない面はあります。

ポーランドで焚書されるハリー・ポッター


ただ、今回のニュースはちょっと極端で、テネシー州ナッシュビルにある
ローマカトリック系の私立校「セント・エドワード・カトリックスクール」
の運営に携わるダン・リーヒル神父は、エクソシストの助言を受け、
「ハリー・ポッターの中には、悪霊を呼び起こすことができる本物の
呪いや呪文がある」という判断で、

新設する図書館にはこのシリーズを置かない決定を下しました。
いや、さすがに本物の呪文というのはないと思いますが、
ただまあ、真似して唱えてみるという子どもはいるでしょうし、
このシリーズをきっかけにして魔法の研究に入っていくなどという
生徒も、絶対いないとは言い切れないですからねえ。

ハリー・ポッターの世界には幽霊は存在します
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ローマ法王庁は、「ハリー・ポッター」シリーズに対する態度を
はっきりさせてはいません。さすがに、今の時代に焚書なんてことを言い
出せば大問題になりますから、あえてふれないようにしてるんだと思います。
ですから、対処については各教区にまかせられてるんでしょう。

また、米図書館協会(ALA)の調査によると、「禁止もしくは問題あるとされた書籍」
リストで、ハリー・ポッターシリーズは常に上位にランクインしているという
ことです。その理由は、「悪魔主義、反家族的、暴力、オカルト、宗教的観点」
といったことがあげられています。うーん、オカルトと宗教的観点はともかく、
最初の3つは自分は違うと思いますね。

ハリー・ポッターシリーズを読まれたことがある方はおわかりだと思いますが、
あの世界には、宗教というものはありませんよね。それらしきことが
出てきたのは、たしか『炎のゴブレット』だったと思いますが、
クリスマスのダンスパーティくらいじゃないでしょうか。

ダンスパーティのシーン クリスマスの飾りつけはなし
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あの場面でも、クリスマスが何かといったことは説明されませんし、
クリスマスらしい飾りつけもほとんどありませんでした。
原作でも映画でも意識的に避けられてるんです。
ハリー・ポッターの世界は、徹底的な無宗教に描かれてるんですね。

ですから、神がいない世界なのに、その敵対者である悪魔がいるはずは 
ありません。悪魔的という批判はあたらないと考えます。
では、神がいない世界では何が信じられるかというと、
優れた個人の力、個人崇拝になります。

「蛙チョコレート」というお菓子のおまけに「偉人カード」がついていて、
出てくるのが、コーネリアス・アグリッパ、マーリン(アーサー王の宮殿魔術師)
クリオドナ(古代イギリスのドルイド教の女性シャーマン)、
ダンブルドアなどで、実在の人物、伝説上の人物、まだ存命中の人物と、
ごちゃまぜになっていますが、共通点はイギリスに関係した人が多いことかな。

蛙チョコレートの偉人カード
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また、敵役であるヴォルデモートも、悪魔を信仰しているとか、
悪魔から力を借りているといったことはなく、あくまで個人として     
邪悪なんですね。その上で強い魔法の素質を持っているため、魔法界を
自分の手で牛耳ろうと考えます。そして、魔法の力を持たない
マグル(一般人)の世界にも侵入する計画を立てるわけです。

あと、隠れたテーマになっているのが、血統、血筋ということで、
両親ともマグルのハーマイオニは差別されましたし、逆に両親が優秀な
魔法使いであったハリーは尊敬される。マルフォイ家は、魔法界における
最古の純血家系の一族であることをたいへん誇りにしていました。まあ、
移民が増えたといっても、イギリスには上流階級は厳然とありますからねえ。

ハリー・ポッターでの死後の世界観ははっきりしない
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さて、キリスト教では、奇跡を起こすことができるのは神の御業による
場合だけで、それ以外の不可思議な出来事は、すべて悪魔の力によるとされます。
中世に魔女の弾圧が起きたのもこのためで、教会に魔法アレルギーがあるのは
たしかですが、上で書いたように「悪魔的」という批判はあたりません。

「反家族的」というのも変ですよね。ハリーは孤児ですが、
両親は殺される間際まで赤ちゃんのハリ―を守ったわけですし、
ロンの一家を見ても、家族愛はたいへんよく描けていると思います。
あとまあ、たしかに暴力は出てきますが、それはアメリカ映画でもいくらでも
見られるもので、最終的に正義が勝つので問題は少ないと思いますね。

分霊箱 ローリング女史はスピリチュアルに近い考えの人だと思います
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さてさて、ということで、自分が見るかぎり、ハリー・ポッターを
キリスト教、イスラム教が気に入らない原因は2つ。
一つは前述した魔法アレルギーと、もう一つは徹底した神の不在です。
しかし、キリスト教専門学校ならともかく、一般の図書館にも
文句をつけるのは傲慢な気もします。

ハリー・ポッターシリーズを読んでいつも思うのは、作者の
ローリング女史は頭がいい人だなあということで、だからこそ、
世界的ベストセラーが書けたわけですが、これほど注意深く宗教的な
要素を排除しても、やはり魔法を扱うのは問題が多いんですね。
では、今回はこのへんで。




虫のオカルト

2019.09.15 (Sun)
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今回はこういうお題でいきます。さて、どんなことが書けますか。
なるべくグロいほうへはいかないように気をつけます。日本人は昔から、
けっこう虫好きなほうだと思います。清少納言の『枕草子』に
「虫は・・・」という段があって、趣深い虫が取り上げられています。

清少納言が好きなのは、「鈴虫、ひぐらし、蝶、松虫、こおろぎ、
きりぎりす、われから、かげろう、ほたる」と冒頭に出てきます。
この「われから」というのは何でしょうね。調べてみたら、
海に生息する小型の甲殻類のようです。京都の御所まで運んで
こられたんでしょうか。それとも海に遊びに行ったときに見た?

ワレカラ
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あと、その後の記述も不思議で、蓑虫は鬼が生んで、みすぼらしい
着物を着せて捨てていったので「父よ、父よ」と鳴く、と出てきます。
蓑虫はある種の蛾の幼虫なんですが、鳴くとは考えられませんよね。
ですが、平安時代の頃はどうも鳴くと信じられていたようです。
おそらくは、野にいる別の虫の声を聞き違えたんだろうと思います。

ミノムシ
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編者不詳の『堤中納言物語』の一章には「虫愛ずる姫」があり、
身なりにいっさいかまわず、虫を飼育している姫君が主人公として
出てきます。当時の女性のたしなみである眉毛も抜かないし
お歯黒もしない。上流貴族の御曹司が姫に興味を持ち手紙を贈っても、
まったく恋愛関係が成立しないんですね。これも面白い話です。

手入れをしない眉毛が毛虫のようだとバカにされますが、本人はまるで平気
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さて、「虫の音を声として聞くのは日本人とポリネシア人だけ」
という説をご存知でしょうか。これについて研究したのが、
東京医科歯科大学で脳生理学を専門とする角田忠信教授。
氏の研究によれば、外国人には虫の音は雑音としてしか聞こえない。

これは、西洋人は虫の音を機械音や雑音と同様に、右脳(音楽脳)で
処理するのに対し、日本人は左脳(言語脳)で受けとめるからだ、
という実験結果が出されています。言語脳だから「声」というわけですが、
この研究は古く、現在は批判もありますね。

鳴く虫を飼う習慣は平安時代にはすでにありましたが、「虫売り」
という職業が出てきたのは17世紀頃のようです。徳川綱吉の
通称「生類憐れみの令」により禁止され、いったん途絶えますが、
綱吉の死後すぐに復活し、鈴虫、轡虫、松虫、邯鄲(バッタの一種)、
キリギリスなどの鳴く虫の他、季節によって蛍が、

江戸の虫売り 風流ですね


虫籠とともに売られていたようです。江戸の浮世絵にも虫籠が出てくる
ものは多いですよね。寛政の頃、忠蔵という男が瓶に入れた虫の卵を
室内で温め、自然に出てくるよりも早く育てて売り、
莫大な利益を上げたとされています。その後、追従するものが大勢
出てきて、幕府に規制をかけられたりもしてるんです。

関連記事 『祐天上人と生類憐れみの令』

さて、自分が好きな『今昔物語』にも、虫の話はいくつか出ていて、
「犬の鼻から蚕の糸が出る話」というのがあります。これも奇妙なものなので
簡単にご紹介しましょう。昔、三河国の郡司が2人の妻を持ち、
妻はどちらも養蚕をやっていた。ところが、一方の妻が飼っていた
蚕を全滅させてしまい、それで嫌気がさしたのか夫が寄りつかなくなった。

「犬の鼻から蚕の糸が出る話」
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当時は通い婚なんですね。女は嘆いたものの、一匹だけ生き残った
蚕を大事に育てていると、やはり家で飼っていた白犬がその蚕を
ぱくっと食べてしまった。女は腹を立てたが、まさか犬を打ち殺すわけ
にもいかない。そうしてるうち、犬の鼻から蚕の糸がどんどん出てくる。
その糸はきわめて上質で、真っ白で節もない。

女は不思議に思いながらも巻き取ると、莫大な量になり、最後に犬は
ばったり倒れて死にます。その犬の死骸を桑の木の根元に埋めると、
そこに蚕が繁殖し、やはり上質な糸を出す。そこをたまたま通りかかった
夫がその糸の見事さに驚き、女とよりを戻してもう一方の妻のほう
には行かなくなった。こんな話です。

この糸は当時の天皇の御服を織るのにも使われたとされます。
うーん、白犬が出てきて死んで埋めるあたり、「花咲爺さん」との
共通点もありますね。まあ、かわいがっていた犬と蚕が
窮地を救ってくれる報恩譚に分類されるのは確かです。

三上山の大百足
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さて、好かれる虫もあれば、当然嫌われる虫もあります。
嫌われる代表格が百足と蜘蛛でしょうか。逆賊平将門を討った
藤原秀郷(俵藤太)の近江国、瀬田の唐橋での大百足退治は有名です。
大蛇の味方をして、三上山の大百足を弓で射るんですが、体が固くて
矢が通らない。そこで3本目の矢には唾をつけ、見事に射殺します。

土蜘蛛 日本には生息しない虎と関連があります
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蜘蛛のほうは、古代から、大和朝廷にまつろわぬ民は土蜘蛛と
呼ばれましたし、源頼光の土蜘蛛退治の話もよく知られています。
妖怪「絡新婦 じょろうぐも」は、江戸時代の奇譚集『宿直草』などに
こんな話が出ています。あばら家に宿をとった武士の前に、
若い女が子どもを抱いて現れ、「あれはお前の父ぞ、

行って抱かれよ」と子どもを武士にけしかけます。
子どもは重く刀の刃が立たない。武士は女が怪異の正体とみて斬りつけると、
女は天井裏へ逃げ込んだ。翌日、天井裏では2尺もある絡新婦が
刀傷を負って死んでおり、子どもはじつは石の地蔵だった。
その絡新婦に食い殺された無数の人間の死体が転がっていた。

関連記事 『頼光四天王と3本の刀』

絡新婦
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さてさて、古典の話をご紹介しているうちに予定字数になりそうです。
自分が怖いなと思った虫の怪談は、ある行商人が木賃宿に入ると、
部屋の柱に、なんということはない豆粒ほどの甲虫がいる。
ふとイタズラ心を起こした商人は、柱の木を小刀で切り欠いて
その虫を中に入れ、欠片をもとに戻して閉じ込めてしまいます。

数年後、商人は同じところに宿をとり、柱の傷を見て以前のことを
思い出し、まさか生きてないだろう、と欠片を取ると、虫がいる。
さわると、固まっていた虫は動き出し、商人の指をチクリと刺します。
それから商人は高熱を出して寝込み、とうとう死んでしまったという話です。
でもこれ、出典が何だったか覚えてません。では、今回はこのへんで。

関連記事 『虫、食べられます?』




宮司さんから聞いた話

2019.09.15 (Sun)
今回は、自分(bigbosman)が仕事でお近づきさせていただいている
宮司さんからお聞きした話を書きたいと思います。いちおう
解説すると、宮司というのは神職の職階の最高位で、まあ簡単に言うと
その神社のトップということです。宮司の次の位は禰宜(ねぎ)ですが、
大きな神社では、間に権宮司(ごんぐうじ)が置かれることもあります。
また、宮司は宗教法人であるその神社の代表役員でもあります。
宮司は選ばれてなる場合もありますが、世襲の神社もけっこうあります。
世襲の場合、その家系は驚くほど長く続いていることが多いですね。
お話をうかがったのは、ある県の一之宮(その地域の中で最も社格の
高いとされる神社)の宮司を務めておられる方で、6世紀からずっと、
一族の中から宮司が選ばれる家系です。

どこの神社かという具体名は、いろいろさしさわりがあるので
書くのは控えさせていただきます。その宮司さんは、自分より10歳ほど
年長で、たいへん物知りな方です。大阪市内の自分の共同事務所近くの
ホテルのバーでお話をうかがいました。あ、ちなみに仏教とは違って、
神職がお酒を飲まれるのは何の問題もありません。
「ずっと〇〇社で修行されてるんですか」 「子どもの頃はそうでした。
 私が4歳くらいのときから修行が始まりましたね」
「どんな修行です?」 「滝行とかいろいろあるんですが、
 これはくわしくは言えません」 「ああ、そうですよね。その後は」
「神社本庁で修行した後、他の御社の禰宜になり、そこで20年以上
 お務めさせいただきました。宮司になったのは15年ばかり

 前のことです」 「さっそくですが、神社に務められて何か不思議な
 ことや、怖いことなどありましたか」 「ええ、いつのころだったか、
 私が25歳を過ぎたあたりかな、一般の方には見えないものが
 いろいろ見えるようになってきました」 「ははあ、どのような」
「まず龍ですね」 「え、龍?!」 「そうです、黒い龍と虹色の龍、
 2体おられるんです。はっきりとはわかりませんが、
 神様の化身なのでしょうね」 「中国の龍みたいなものですか」
「いや、ああいった顔ではありません。大きいですよ、
 神域の上の空いっぱいに広がりますから、数百mはあるでしょう。
 目も鼻もないけれど、口だけはあるんです。その口で
 参拝にこられたみなさんの願い事を食べるんです」

「どういうことですか」 「私どもの神社では、月に2回、縁日の朝に、
 まず最初に黒い龍がやってきます。そうですね、魚の鯉みたいな墨色を
 していて、大きく口を開けながら神域の上を旋回するんです。
 で、それがいなくなると今度は虹色の龍、それはそれは美しいものです」
「うーん、どうして2体おられるんでしょうか」 「おそらくですが、
 最初の黒い龍は、悪い願い事を食してるんだと思いますね」
「悪い願い事というと」 「こう言ってはなんですが、参拝される方の
 みながみな、まっとうな願い事をされるとはかぎりません。
 これは絵馬に書かれる方もいるんですが、〇〇に死んでほしいみたいな
 ことです」 「ああ、わかります。神様が絶対聞いてくれるとは
 思えないような、反社会的、利己的な願い事も中にはありますよね」

「はい、そういったことは、黒い穢れた気となって神社の上空に溜まって
 しまうんですね。それをまず先がけの黒い龍が食べて浄化する。
 その後にやってきた虹色の龍が、神様がお聞き届けになる祈りを
 体内に収めて戻っていくんです」 「ははあ、そうですよねえ、
 神様が何でもかんでも聞いてくれるわけがない。どういった形で
 願い事をするのがいいんですか」 「よく言われるのは、自分はこれこれを
 がんばりますので、どうか神様、力をお貸しくださいみたいな形」
「やっぱり、自分で努力することがベースにあるんですね」
「そうです。それができていれば、人智ではおよばない運の領域にある
 部分で、神様が力ぞえをしてくださいます。ほら、〇〇断ちという
 のがありますでしょう」 「ああ、お茶断ちとか五穀断ちとか」

「そうです。あるいはお百度参りとか。そういった形で神様にご自分の
 決意を示すのも一つの方法でしょう。言うじゃありませんか。
 神は自ら助くるものを助くと」 「納得できるお話です。他には何か」
「そうですね、これを言っていいのかどうかわかりませんが、
 神社には相性というものがあるんです」
「え、どういうことですか」
「参拝される方と、そこの神社の神様の相性ということです。
 例えば、その方の氏神様と、参詣先の神様の仲が良くないとか、
 日本の神様は大勢がおられますから、敵対というと言葉が悪いですが、
 相反する属性を持つ神様もおられます」 「ああ、なんとなくわかる
 気がします。月の神様と雲の神様みたいな感じですね」

「そうです。それで、そういう相性のよくない方がお参りすると、
 私たちの目にはすぐにわかりますよ」 「どうなるんですか」
「額に穴が空いたり、文字が浮かび上がったりするんです」
「うわあ、実際に穴が空くわけじゃないんですよね」 「もちろんですが、
 中にはこぶしが入るほどの大きな穴が空いて見える方もおられます」
「それ、どうなるんですか」 「鳥居から出ると穴はだいたい消えますね。
 ・・・この話、bigbossmanさん、ブログに書かれるんですか」
「そのつもりですが、うまくないでしょうか」
「いや、そんなことはないですが、でしたらぜひ、
 このことを書いてください」 「どんな」 「今ほら、神社巡りや
 パワースポット巡りというのを、されてる方がおられますでしょう」

「ああ、スピリチュアルブームですから」 「でもね、先ほどお話したように、
 同じ系列の御社を回るならともかく、地域が近いからと言って、
 1日に何社もの神社を回るのは考えものなんです」
「わかります。お守りとかもそうですよね。あっちの神社、こっちの神社と、
 いくつもいただいてきても、かえって具合の悪いことが起きたりするって」
「そうです。俗な言い方ですが、神様のほうでも、なんだ当方の力を
 信じちゃいないのかって考えられるでしょう」 「そうですよねえ」
「たしか新井白石でしたか。古事記などを研究して、神は人なりと
 看破されましたでしょう」 「そうです」 「ある面、それは正しいんですよ。
 日本の神々は一神教の絶対神とは違って、嫉妬や怒りなどの感情を持って
 おられますし、ときには理不尽な暴力をふるわれることもあります」

「そうですよね、荒ぶる神という言葉もあります」 「ですから、
 神様はそういう気まぐれなものだと考えておいたほうがいいと思いますよ」
「なるほど、納得できることばかりです。他に、神社にお務めされていて、
 怖いものを見たということはありますか」 「異形のものでしたらよく見ます」
「どんな」 「最近見たのは、そうですね、衣冠束帯を身に着けて、
 頭だけが丸太に荒縄を巻いたような姿のもの」 「それはいったい何でしょうか」
「おそらくは他の神社からのお使いだと思いました」 「他には」
「目が顔に30ほどもついているクリクリ頭の小坊主」 「小坊主というと、
 仏教の」 「そうです。神社と仏寺というのはまるで異なったものではなく、
 人々の願いを取りあつかうという点では同じですから、
 その小坊主も近隣のお寺さんからのお使いなのでしょうね」

「ははあ、他に?」 「そうですね、俗に言う幽霊も来られますよ。
 特に事故者の方が多いですね」 「というと」 「急な事故で亡くなって
 しまったので、とまどっているんでしょう。頭がつぶれたり、腕がちぎれかけた
 ような姿で現れます」 「どうなるんですか」 「ほとんどの場合、
 鳥居をくぐっただけで消えてしまいます。あるいは御神木の
 枝にふれるとかでも」 「そういう霊って怖くはないんですか?」
「いや、若い頃から見てますので、とっくに慣れっこになりました」
「うーん、自分のブログは恐怖を一つのテーマとしてるんですが、じゃあ
 宮司さんには怖いものはないと」 「いやいや、やはり人間が一番怖いです。
 私の場合は・・・奥さんですね。妻にはどうやっても勝てません。
 頭が上がらないですよ」 「・・・いや、貴重なお話、ありがとうございました」

吉川八幡神社_石鳥居_縦




ネズミのオカルト(鉄鼠)

2019.09.13 (Fri)
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今回はこういうお題でいきますが、たぶん地味な話になると思います。
さて、ネズミがからんだ最大のオカルトというと、
やはり「ハメルンの笛吹き」かなと思いますが、これについては
以前かなりくわしく書いてます。ドイツのハメルンの町でネズミが増えて
困っていたとき、だんだら模様の服を着た一人の男が現れ、

ネズミを退治してやると言います。市長はダメもとで男に依頼したら、
男は笛を吹いて町をねり歩き、するとたくさんのネズミが出てきて
男の後に従った。男はそのまま川へ入り、すべてのネズミを溺死させます。
しかし、お金が惜しくなった市長は男への支払いをごまかします。



怒った男は、町の大人が教会に行っているときに現れ、笛を吹くと
子どもたちがぞろぞろと男の後についていき、どこへともなく消えて
二度と戻らなかった・・・ただ、この元話にはネズミの記述はないんですね。
笛吹き男がハメルンにやってきたのは、ヨーロッパでのペスト大流行以前で、
病気を媒介するネズミのことは後づけで作られたものです。

関連記事 『パイドパイパー伝説』

では、この男の正体は何で、子どもたちはどこへ行ったのか?
興味を持たれた方は過去記事をごらんになってください。
さて、日本でネズミの一番のオカルトは、やはり「鉄鼠 でっそ」に
なるかと思います。あまり知られてなかったんですが、作家の京極夏彦氏が
推理小説『鉄鼠の檻』で取り上げたため、有名になりました。

鉄鼠と化した頼豪阿闍梨 口から光線のようなものを吐いています
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妖怪 鉄鼠は、もともとは頼豪という11世紀の天台宗の僧です。
実在の人物なんですが、はっきりした史実はよくわかっていません。
ただ、頼豪という武ばった僧号を見るかぎり、かなり気の強い
人物ではなかったかと想像できますね。

ときは白河天皇の時代です。天皇は世継ぎがなかったので、
法力に優れるという噂の三井寺の高僧、頼豪に、皇子誕生の祈祷を
命じました。ここで、もし男児が産まれたら何でも望みをかなえようと    
約束します。頼豪は100日間、密教の加持祈祷を行い、
やがて見事に男児が誕生します。そこまではよかったんですが・・・

三井寺
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頼豪がその褒美として所望したのは、「三井寺に戒壇を築く勅許」
だったんですね。ここで少し歴史的な話をすると、伝教大師最澄が開いた
比叡山延暦寺は山門派、唐に留学した円珍が開いた三井寺(園城寺)が
寺門派と呼ばれて、対立関係にありました。

で、戒壇とは何かというと、僧になるための戒律が授けられる場所です。
それを受けなければ、正式な僧侶とは認められませんでした。
当時戒壇があったのは、たしか、奈良の東大寺、九州の観世音寺、
関東の薬師寺、そして比叡山延暦寺、それくらいだったと思います。

ですから、三井寺の者が授戒するには、わざわざ延暦寺まで行って師弟の
礼をとらねばならず、これが屈辱でならなかったんですね。そのために
戒壇設立を願った。逆に比叡山側から見れば、三井寺に戒壇ができると、
これは完全独立ということになります。絶対許されるものではありません。
もし勅許が出たら京に乗り込んで大暴れするぞというかまえを見せました。

比叡山僧兵の強訴
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苦慮した白河天皇は、世の混乱を避けるために約束を違え、頼豪の願いを
退けます。怒り狂った頼豪は食を断ち、悪鬼のような姿で亡くなります。
白河天皇の皇子は敦文親王といいましたが、頼豪の死の前後から、
枕元に白髪の老僧が現れるようになり、やがて病気になって
4歳で亡くなってしまいます。当然、頼豪の怨霊のしわざと噂されました。

頼豪の怨みはこれでまだおさまらず、矛先は比叡山にも向けられ、
人ほどの大きさで鉄の牙を持つ妖怪、鉄鼠となって8万4千匹のネズミを従え、
延暦寺の蔵の経典や仏像をことごとく食い破ったとされています。
しかたなく比叡山では頼豪を祀る祠を建てて、何とか終結したようです。

この話は、『源平盛衰記』や『太平記』などに出てきますので、かなり
早い時代からできあがっていたようです。さらに、江戸時代の読本で
取り上げられて一般にも知られるようになりました。うーん、まあ、
もちろん鉄鼠の妖怪が史実ということはありませんが、頼豪が三井寺の
戒壇設立に奔走し、比叡山の妨害にあっていたのは事実と見られています。

鳥山石燕の「鉄鼠」
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さて、当ブログでは「妖怪談義」というカテゴリもあるんですが、
江戸の妖怪絵師、鳥山石燕が鉄鼠を取り上げていて、上の画像がそれです。
詞書は、「頼豪の霊、鼠と化すと世にしるところ也」石燕にしては
珍しくストレートに伝説を描いていて、判じ物にはなっていない
みたいですが、もしかしたら何か隠された意図があるのかもしれません。

ちなみに、敦文親王に先立たれた白河天皇は、別の僧に命じて祈祷を行い、
後の堀河天皇が産まれますが、29歳の若さで亡くなっています。
だいたいこんな話です。ネズミの妖怪には、この他に「旧鼠 きゅうそ」
というのもいて、年を経たネズミが毛が白く巨大になり、猫さえも食べて
しまうんですが、これは「窮鼠猫を噛む」の洒落でしょうね。

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水木しげる先生の『ゲゲゲの鬼太郎』に登場するねずみ男も
まあネズミの妖怪なんですが、上で書いたどちらかの妖怪がもとになっている
とは考えにくいですね。三枚目のトリックスターキャラとして、
新たに創作されたものなんだろうと思います。

さてさて、ネズミのオカルトですが、妖怪の話をしているうちに字数が
尽きてしまいました。本当は、日本では浦安のほうにいる
耳の大きなネズミのことなんかも取り上げようかと考えてたんですが、
まあ、やめておいて正解かな。では、今回はこのへんで。

関連記事 『心拍数一定説って何?』

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血液のオカルト

2019.09.12 (Thu)
防衛医大などは大量出血した負傷者を救命する人工血液を開発した。
ウサギの実験で成功した。人工血液を素早く輸血できれば、
大けがによる死者を減らせるという。論文を米輸血学誌に発表した。

(朝日新聞)



今回はこういうお題でいきます。血液に含まれる、止血するための
血小板と体全体に酸素を運ぶ赤血球、この2つが出血で失われると
人間は死んでしまうわけですが、チームはどちらも人工的に合成しました。
リポソームという細胞膜成分で作った微小な袋に、止血成分と酸素を
運ぶ成分を詰め、人工血液にしているということです。

重篤な出血状態のウサギで試したところ、10羽中6羽が助かり、
本物の血液を輸血した場合と同程度だったということで、
実用性は高そうですが、今後の人間による治験がなかなか難し
そうですね。あと、特筆すべきなのは、血液型を問わずに
輸血できること。人工血液なので拒絶反応がないんでしょうね。

それから、常温で1年以上保存できるそうで、それだと救急車内に
大量にストックできそうです。ただまあ、これはあくまで緊急用で、
実際の血液を輸血するのにはかなわないんだろうと思います。
人工血液の開発の経緯は古く、1960年代から続けられていますが、
なかなか実用に足るものができなかったんです。続報に期待しましょう。

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さて、血液のオカルトとして最大のものは、やはり「血液型性格診断」
なんじゃないかと思います。これについては、以前くわしく書いたので、
今回は簡単にふれるだけにします。放送作家だった能見正比古氏が
1971年に出版した『血液型人間学』が大ベストセラーになり、
「A型の人は~」などと言われるようになったのは、それ以来ですね。

関連記事 『血液型占いってどうなの?』

そもそも、血液型はABO式だけではないのはご存知だと思います。
ABO式は、数ある血液型分類の一つに過ぎず、血液の中の抗原の種類は
数百あるので、その組み合わせによって、ほぼ無限に近い血液型タイプに
分けることができます。世界的にも、自分の血液型を気にするのは、
日本と、その影響を受けた韓国だけと言われてます。

なんで血液型性格診断が日本でウケるかというと、一つには、日本人の
血液型は、A、B、O、ABのそれぞれの人が一定数いるからですが、
世界はそうでもありません。ABO血液型は遺伝によるところが大きいので、
人口の95%がO型という、グアテマラのような国もあるんです。
まさか国民のほとんどが、同じような性格なわけはないですしねえ。

キリスト教の聖体拝受
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さて、ここからはオカルトに入っていきます。血液は世界の各宗教で
生命の象徴と見られてきました。まず、現在の神道では、
血は不浄のもの、穢れとして忌まれることが多いですが、
古代からそうだったかは、はっきりしません。

現在でも鹿の頭をお供えする神社もありますし、ごく古い時代の神道が
どんなものだったかはよくわからないんですが、自分としては、     
古神道の神々が獣肉を嫌っていたとは思えないんですよね。
殺生戒を持つ仏教が導入された影響なんじゃないでしょうか。

ユダヤ教では、動物の血を食することは律法で禁じられていました。
もちろん獣肉は食べましたが、その前に儀式を行って血抜きをしてたんです。
ところが、それから派生したキリスト教では、そこまで厳しい
制限はありません。まあ、もともとキリスト教は、こと細かな戒律に
縛られるユダヤ教への反発からできていったものですし。

アステカの生贄の儀式
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キリスト教の重要儀式である聖体拝受では、イエス・キリストの
血と肉に見立てたパンとぶどう酒を信者がいただくことになっています。
キリスト教圏の国でも、血のソーセージなどがふつうに食べられて
いますが、ただ、一部の宗派には輸血を拒否するものもあります。

あとはそうですね。日常的に生贄を捧げていたアステカでは、
人間の血と心臓は、太陽の運行と深い関わりがあるとされていました。
黒曜石製のナイフで生きたままの生贄から血と心臓を抜き取り
捧げないと、翌日から陽が登らないと考えられていたんです。
生贄は慢性的に不足し、確保のために戦争を起こすこともありました。

クリストファー・リーのドラキュラ
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さて、もっとオカルトらしい話にいきましょう。やはり吸血鬼が
登場しないと収まりが悪いですよね。吸血鬼伝説がどうやって
始まったかは諸説あるんですが、一つには、改葬のためなどで
掘り出された死体の一部に、腐敗や乾燥が
進んでいないものが見られたことです。

唇は赤く、頬は桃色で生きているように見える死体。まあ、埋葬時の
条件によってはそうなることもあるのかもしれません。それが、
夜になると墓場を這い出て、生命の根源である生き血を吸って
朝までは棺に戻ってくる。その証拠に、寝ている吸血鬼の心臓に
杭を打つと、真っ赤な血がほとばしり出るとされました。

生きているように見えるイタリアの少女のミイラ
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また、吸血鬼に生き血を吸われた人間も吸血鬼と化し、親玉の吸血鬼に
支配されます。これは昔は悪魔の力によるとされていたんですが、
最近のホラー映画だと印象が古臭くなります。そこで、
吸血ウイルスが伝染したためであるとか、吸血によって遺伝子に
突然変異が起きた、などと説明されるストーリーが増えてきました。

このあたりは難しいんです。アメリカでゾンビ映画が流行るのは、
土葬が多いせいもありますが、キリスト教の最後の審判のとき、
すべての死者が墓からよみがえるというイメージが強いためです。
ですから、死んでいない吸血菌感染者というのは微妙なんですよね。

「死者が歩く」(新約聖書のマタイ伝から)
resident evil

さてさて、ということで血のオカルトについて見てきましたが、
書くことはまだまだたくさんあります。
近現代の人体実験の話などにもふれたいですし、そのうち続きを
やることになると思います。では、今回はこのへんで。

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空中浮遊族の話

2019.09.12 (Thu)
※ やや毛色の変わった話です。

ファッション雑誌の編集をやっている塔島洋子と申します。
よろしくお願いします。お話するのは、現在、私の身に起きていることです。
・・・夢、まあ全体として夢の話なんですけど、ただの夢ではないと思うんです。
その証拠に、いろいろおかしなことが現実に身の回りに起きています。
仕事で知り合った霊能者の方にご相談したら、こちらを紹介されました。
そういう不思議なことを専門にする方々が そろっておられるということで、
命の危険があるかもしれないし、ぜひ、どういうことなのか聞いてこいと。
はい、順を追って話していきます。最初は、3週間前の金曜日でした。
その日、編集部に残って一人で仕事してたんです。翌日がお休み
でしたので、朝までかけて記事をまとめ、始発で帰る予定でした。
ええ、雑誌の編集では、そういったことは珍しくありません。

そのビル全体が出版社の所有で、いろんな編集部が入ってて、
どこかしらは校了のために徹夜で仕事してるんです。
ですから、女一人で残ってても、別に問題はありませんでした。
自分のデスクでマックを使ってました。それで午前3時頃でしたか。
さすがに眠くなってきたので、立ち上がってコーヒーメーカーのほうへ
行きました。そのとき何気なく窓を見たら、外に男の人が
立ってたんです。ありえないですよね。私の編集部は9階にあるんです。
そこは大きな強化ガラスで、人の全身がはいります。
男の人は20代後半から30歳くらい。黒っぽいスーツを着てました。
いえ、そのときははっきりは見えなかったので、これは後でわかった
ことです。その人は顔をガラスに近づけ、こぶしでガラスを叩いてました。

といっても、ガラスは厚いので音は聞こえません。私は驚き、
体が固まって動けませんでした。するとその人は、私のほうに目を向けたまま、
指でガラスに何か書いたんです。同じ場所を何度も何度もなぞり、
それからガクンと後ろにのけぞって、視界から消えたんです。
「あっ、落ちた!」と思いました。そのとき、私のアゴが何か固いものに当たり、
われに返ると、自分のデスクにいてノートパソコンの角にぶつけてたんです。
・・・居眠りをしてた、そう思いますよね。反射的に見た窓にはもちろん人の姿はなし。
夢、夢を見ていた。ただ、コーヒーメーカーのスイッチが入ってたんです。
私が入れて、デスクに戻って眠ってしまった。それしか考えられないんですが・・・
窓に近づいてみましたが、外には人が立てるような足がかりはありません。
ただ、さっき男の人が何かを指で書いてたあたりに跡が残ってるようにも

思えました。ゆがんだ星型のような。そのときはそれで終わったんです。
次が起きたのが2週間後です。私は自分の部屋にいて、
部屋は賃貸マンションの7階です。11時過ぎに仕事から戻り、
シャワーを浴びて少しお酒を飲み、ベッドに入ったのは1時過ぎくらいでしたか。
私にしては早い時間です。それで、夢を見たんです。夜空を浮遊する夢。
飛んでいるというのとは違うんです。頭を上にして、でも足は動かしてないのに
かなりの速さで進んでいく。高さは、そうですね、ほとんどのビルが
下に見えたので、100m以上かもしれません。上を見上げても、その日は
曇っていて星は見えませんでした。いえ、気分がいいものではなかったです。
何か落ち着かないような、自分が仕事をやり残してるような感じがして、
あせっていたような気がします。どこへ向かうともわからないまま、

しばらくそうやって浮遊していくと、前に男の人がいたんです。はい、その人も
浮遊してるんです。それで、以前 編集部で見た夢のことを思い出しました。
よく似てる気がしたんです。少し怖くなって、宙にとどまると、
男の人のほうから私に近づいてきて、「やあどうも、同族の塔崎と言います。
 どうやら素質が目覚めたようですね」こう言ったんです。
意味がわからないでいると、その人は私の姿をジロジロ見て、
「そのスーツ、もっと黒いほうがいいなあ。次のお給料で買いましょうよ」って。
そのとき私は、自分が仕事用のグレーのスーツを着ているのに気がつきました。
男の人は私の横に立って腕をつかむと、「集会があります。急ぎましょう」
そう言った途端、一気に急上昇しました。高さは、そうですね、
遠くにスカイツリーの上部が見えたので600m?

それくらいまで上がると、今度は水平にぐんぐんスピードをあげ、
東京湾の上に出たんです。めくるめくような速さでした。月が雲間から出て
明るく、海の波は穏やかで、たくさん・・・30人くらいでしょうか。私たちと同じ
高さで浮遊している人たちが見えてきました。男も女もいましたが、
年齢はみな私と同じ20代後半くらいでした。夢、なんでしょうが・・・
すごいリアルだったんです。海には船が行ききしており、その明かりで海面が
光っているのまでわかりました。近づいていくと、その人たちは
大きな輪をつくっていて、中心に年配者らしい男性がいました。
らしい、というのは、その人だけ、黒いローブに黒い頭巾のようなのを
かぶっていたからです。ローブの上からでも恰幅のいいのがわかりました。
私たちは輪の中に加わり、男の人、塔崎さんが中央の人に、

「遅くなりましたが、新人を連れてまいりました。第17家系の次女、
 塔島洋子です。東京に出てきて編集者になっていることが判明しまして」
頭巾の人は鷹揚にうなずき、「そうか、お前がいろいろ教えてやれ。
 もう朝まで時間がないぞ、さっそくみな とりに行け、散れ!」
朗々とした声でそう言い、みなが一斉に港へと向かって飛び去っていったんです。  
塔崎さんが、「さあ、急ぐよ。もう飛ぶことには慣れただろう」
私の手を離して飛び去っていったので、不安になった私は後を追いかけました。
立ったままの状態で飛ぶのは安定しないように思われるでしょうが、
じつは私、中学のときに陸上部で短距離走をやっていたんです。
足は動いてないですが、そのときのことを思い出しました。
といっても、中学生が走るのとは比べようがないスピードで、

あたりの景色がぐにゃんとゆがむんです。塔崎さんの背中を追いかけて
飛び続けていると、下に街が見えてきました。川崎大師がありましたので、
都内ではありません。だんだん高度が下がっていき、
塔崎さんは10階建ての団地の屋上に立っていました。
かなり大規模な団地で、同じ建物が20近くあったと思います。
「ここで待っていよう」 「何を待つんですか」 「夢を見ている人だよ」
「え?」 こう話してすぐ、塔崎さんはふわりと飛び降り、空中を飛んでいる
光るものを両手でつかまえて戻ってきたんです。バレーボールほどの
大きさで、小さな光るつぶがたくさん集まってできていました。
「それは?」 「だから夢を見ている人。その中でも、魂のほとんどが
 出てきている人だよ。最近は生霊と言うらしい」

「どうするんですか?」 「体内にとり込むのさ」塔崎さんはそう言って、
その光る球に口をつけてチュウチュウ吸い始めたんです。
あの、例えは変ですが、ヤシの実に穴を開けて中身を飲んでいる人の
ようで、すごくおいしそうな、恍惚とした表情をしていました。
それ見て、「ああ、いいな、私もほしい」と思ったんです。
球はだんだんに光を失い、大きさが小さくなっていってフッと消えました。
「ほしいかい、まだいくつもあるからとってきたら」
宙空を見ると、たしかに、うすい光りのもの、強く輝いているもの、
いくつか飛んでいるのがあったんです。それらの動きは遅く、簡単に
つかまえることができそうでした。でも、私が屋上から足を踏み出すと、
不意に姿勢が崩れ、ぐるんと足が上になって宙吊りになってしまったんです。

塔崎さんが急いで私に近づき、片足をつかんで、「今夜はここまでか。
 宗家にお目どおりがかなったし、急いでもしょうがない。
 初めてで体力が続かないだろう」塔崎さんは私の足を離し、
私は浮遊する力を失って、何度か回転しながら落ちていったんです。
ドスン、という衝撃があり、私は自分の部屋のベッドの上にいました。
夢・・・夢だと思うしかないんですが、トレーナーで寝たはずなのに、
仕事用のスーツを着てたんです。夢の中でのものと同じで、
あちこちしわになってました。電気をつけ、バタバタという音が聞こえたので、
リビングキッチンに出てみると、ベランダのサッシが大きく開いていて、
カーテンが風で揺れていたんです。・・・こんな話なんですけど、また次が
起きそうな気がするんです。それで、最初に話したように こちらに・・・
 

 



時間の減速って?

2019.09.10 (Tue)
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今回はこういうお題でいきます。また、わけのわからない話に
なりそうなので、スルーされたほうがいいかもしれません。
みなさんは小学生のときに、「時間」X「速度」=「距離」
というのを勉強されたと思います。あの応用問題って、
けっこう難しいんですよね。大人でも間違える人がいます。

例えばこういうやつです。「弟が分速80mの速さで駅に向かって
家を出発しました。それから10分後に、兄が分速100mの速さで
駅に向かって家を出発しました。兄は出発して何分後に弟に
追いつくことができますか?」これは、下図の公式を使って求める
ことができますよね。暗記されたという方もおられると思います。

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この問題は、出発点から駅までの距離が決められてないので
まだ簡単なほうです。中学校になれば方程式を勉強しますので、
距離が決まっていて、兄が逆方向からやってくるような問題も
出てきます。これで数学嫌いになったという人も
多いんじゃないかという気がしますね。

さて、今回の話も基本的にはこのことが関係しています。
「時間」=「距離」÷「速度」で、時間は速度の逆数になっています。
みなさんは、「ハッブル=ルメートルの法則」をご存知だと思います。
少し前までは、「ハッブルの法則」と言われていたんですが、

最近、宇宙の膨張について、ルメートルがハッブルの2年前に
論文を提出していたことが判明し、上記のように改められました。
ルメートルの業績が再評価されたわけですが、ここにはじつに
興味深いエピソードがあります。そのことは過去記事で
書いてますので、よろしければ参照されてください。

ジョルジュ・ルメートル
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関連記事 『ルメートルの苦悩』 『宮沢賢治と相対性理論』

エドウィン・ハッブルは、当時世界最大の2.5m望遠鏡のある
フッカー天文台に勤務していましたが、1929年、銀河の中にある
変光星を観測し、銀河の赤方偏移と距離の間の経験則を
定式化しました。宇宙膨張の発見です。これがもとになって、
その後ビッグバン理論が構築されていったんですね。

その意味はおわかりだと思います。宇宙が膨張しているのだとすれば、
時間を前に遡っていけば、どんどん宇宙は小さくなっていき、
やがて始まりにいきつくことになります。それは、
無から宇宙が生じた特異点です。宇宙膨張の速度がわかれば、
この宇宙ができてどのくらいかという年齢もわかるはずですよね。

「v=Ho d」の式で、v を天体がわれわれから遠ざかる速さ(後退速度)、
d をわれわれからその天体までの距離とすると、比例定数Hoが
「ハッブル定数」となります。後退速度については、
銀河からの光のスペクトルの赤方偏移を調べることによって
ほぼ正確に決めることができますが、

ハッブルの法則
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その銀河までの距離を正確に測定することは難しいんですね。
現在のところ、様々な算出方法を総合して割り出すしかないので
かなりの誤差があると考えられます。そのため、
現在のハッブル定数はだいたい、Ho=70.0km/s/Mpc、
宇宙の年齢は138億年程度とみられています。

さて、2011年度のノーベル物理学賞は、アメリカの宇宙物理学者
3名が受賞しました。その業績は「宇宙膨張の加速」の発見です。
彼らは当初、膨張速度は減速しているだろうという仮説を立てました。
宇宙にはたくさんの物質があり、その重力によって宇宙の中心に向かって
引っぱられ、衰えるだろうと考えるのは自然です。ところが結果は真逆。

ノーベル物理学賞の3氏
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これは衝撃的でした。宇宙論は再考を迫られ、頭をしぼって
考え出されたのが「ダークエネルギー」です。この宇宙には
物体同士を遠ざけ、空間を広げる斥力(引力とは逆の力)が存在し、
宇宙の全エネルギーの約4分の3をしめているとする説が
主流になってきています。ダークエネルギーの候補としては、

「真空のエネルギー」があげられていますが、今回はふれません。
さて、ここで最初の話に戻って、「宇宙の加速膨張」は
観測事実ですが、その原因として、ダークエネルギーではなく、
「時間の減速」を主張する科学者たちがいるんですね。

これまで、時間の速さは変数としては考えられてきませんでした。
つねに同じに流れているのは自明であるとされたんです。
ですが、宇宙の始まりのときの時間の流れる速さを t として、
現在はそれが、例えば 0.8t とかになっているとしたら・・・

ペイン・バスク大学のホセ・セノヴィーリャ教授とサラマンカ大学の
マルク・マルス教授は、超弦理論を用いて、時間が減速している
という計算結果を発表しました。うーん、現在は精密な原子時計なども
ありますが、宇宙全体の時間がそうなるのであれば、
比較するものがないので、時間の遅れを計測するのは不可能ですね。

宇宙の未来は?


また、人間の意識が時間の減速を感知することもできない気が
しますが、そのあたりのことは、自分の頭では理解を超えています。
みなさんは、どう思われますでしょうか???
彼らの論によれば、時間が減速し続けて停止した場合、
写真や止まった映画のように、すべてが凍りつくとされます。

うーん、時間が、あるとき突然に空間と同時に始まったの確かです。
とすれば、だんだん停止に向かう、あるいは急にストップする、
そういうことも考えられないわけではないですよね。
SF小説では、加速する時間や逆行する時間も出てきますし。

さてさて、自分は以前から書いてるんですが、計算が成り立つことは
起こりえる可能性があるんです。ブラックホールも、当初は計算上の
解と考えられていたのが、実在の証拠がいくつも見つかりました。
結論としては、宇宙というのは人間の常識では測りえないという
ことになりますでしょうかね。では、今回はこのへんで。

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オオカミのオカルト

2019.09.09 (Mon)
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ニホンオオカミの剥製 体長は1m前後で中型の日本犬程度 大きな動物ではありません

明治時代に絶滅したニホンオオカミとみられる頭骨が、徳島市国府町の
民家で見つかった。リフォーム工事に携わっていた石井町石井、
大工髙木望さん(68)が神棚の奥にしまわれていた頭骨を見つけ、
家主の承諾を得て県立博物館に持ち込んだところ、

「ニホンオオカミである可能性が極めて高い」との鑑定結果が出た。
ニホンオオカミの頭骨は希少性が高く、家主は頭骨を寄託するとしている。

(徳島新聞)

今回発見されたニホンオオカミの頭骨
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今回はこういうお題でいきます。なるほど、徳島ですか。
納得できる点が多々あります。さて、オオカミのオカルトというと
まず出てくるのが、西洋で信じられていた狼男でしょう。
これについては以前に取りあげているので、今回はくわしくはふれません。
主に日本の事例について書いていきたいと思います。

意外な事実としては、狼男伝説はもともとあったんですが、
現在、ホラー小説にみられるような形は、キリスト教由来で始まってるんです。
中世ヨーロッパで、墓荒らしや魔術の使用など、特に神が赦さざる
犯したものは、「狼」と呼ばれて共同体から追放される罰を受けました。

フランスの事例ですが、当時のカトリック教会から3回目の勧告を
受けた者は「狼」と認定され、罰として7年~9年間、月明かりの夜に、
狼のような耳をつけて毛皮をまとい、吠え声を上げながら
野原でさまよわなければならないという掟があり、これがもとになって、
満月の夜に変身するなどの伝説ができあがっていったんです。

西洋の狼男のイメージ
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関連記事 『月とオカルト』

さて、日本のオオカミについてですが、すでに絶滅してしまっているため
生物学的な調査が難しいものの、最近では、犬はオオカミから派生した
一亜種と考えられることが多くなっています。
遺伝子DNAにも多くの共通点があるんですね。

日本には、北海道に住むエゾオオカミと本土のニホンオオカミがいましたが、
これは別亜種として区別されているようです。エゾオオカミは大陸系で
大型。生態も異なっていて、エゾオオカミは大きな群れをつくりましたが、
ニホンオオカミは数頭の仲間で狩りをしていました。
獲物は鹿が多かったようです。

また、オオカミとは別に「ヤマイヌ」というのが多くの古文献に出てきていて、
オオカミと同種であるとか、ヤマイヌは野生化した犬であるとする説もあって
混乱しています。現在は同種であるとする意見が強いようですが、
これは地域によっても違うんじゃないかと自分は思います。

日本神話に登場する、大和武尊の道案内をした白い狼
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さて、オオカミは日本に古くから住んでいました。で、神の使い、
眷属であるとして神聖視されることが多かったんです。この理由は、
オオカミが主に肉食であることからきていると思われます。
畑を荒らさないんですね。むしろ、害獣である鹿や狐などを
積極的に捕食してくれる、人間にとって役に立つ存在だったわけです。

ただ、中にはオオカミに人間が襲われるといった事例もありました。
神としての狼は「真神(まがみ)」、または「大口真神(おおくちのまがみ)」
などと呼ばれました。真神という名がついた理由は、奈良県の飛鳥に
真神原という地があり、そこに棲む老狼が多くの人間を襲ったので
畏れられ、神格化されたという話があります。

たくさんの人を食った大口真神
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真神は古来、猪や鹿から作物を守護するものとされ、人語を理解し、
人間の性質を見分ける力を持っていて、善人を守護し、悪人を罰するものと
して信仰されたようです。また、厄除け、特に火難や盗難から守る力が
強いといわれ、絵馬などにも描かれてきました。

さて、引用ニュースに戻って、頭骨は木箱に収められた状態で見つかり、
箱のふたの外側を紫外線カメラで見ると「狼頭入」と書かれていた
ということです。徳島県は古来から犬神信仰の強いところで、
このオオカミの頭骨も魔除け、害獣除けとして使われていたんでしょう。

オオカミの頭骨は軒から吊るされることもあり、これは主に
魔除けのまじないです。江戸末期の19世紀、コレラなど疫病の流行で、
感染を避けるためにはオオカミの頭骨がよいとされ、
また、狐憑きの治療にも使用されて、乱獲されたのが絶滅の原因の
一つになりました。オオカミの遺骸は高値で取り引きされたようです。

四国、山犬ケ嶽にあるニホンオオカミ像
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ニホンオオカミの絶滅は明治30年代、原因は、いろいろな要素が複合して
いるようですが、最も大きいのは、明治になって西洋犬が導入され、
狂犬病やジステンバーが大流行したためです。また、人為的な駆除も
ありました。まあ、当時は種の保存・保護などという概念はなく、
これはしかたのない面があったと思います。

ニホンオオカミの目撃例は現代でもありますが、どれも確証に
乏しいものです。1996年にニホンオオカミに酷似した動物が
撮影されましたが、専門家の意見は分かれました。
自分としては、もしオオカミが生き残っているのなら、ある程度の
群れがあるはずで、生存説は厳しいんじゃないかと思いますね。

さて、オオカミを眷属としているのは、埼玉県秩父市三峰にある
三峯神社で、狛犬のかわりに神社各所に狼の像がたてられていますす。
毎月17日に、お炊き上げというオオカミにご飯を供える神事が行われ、
一升の米を人の手がふれないように御櫃に入れ、
奥の院の少し下がった谷にお供えします。

三峯神社の狛狼
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祝詞を唱えながらこれを行うのは宮司だけで、誰にも姿を見られては
いけないとされます。そのときに回収する前月のお櫃に、
噛み跡が残っているなどとも言われますが、真偽はわかりません。
この神事は300年の間 続いているそうです。

さてさて、ということで、オオカミのオカルトを見てきました。
そういえば、ニホンオオカミ復活計画として、シベリアオオカミの
日本導入が計画されたこともありました。オオカミが絶滅したことで、
天敵がいなくなった鹿や猪、猿の数が増え、被害をもたらして
いるんですね。では、今回はこのへんで。

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棟梁から聞いた話

2019.09.08 (Sun)
自分(bigbossman)は大阪のあるホテルのバーにたまに行くんですが、
そこで千田さんという元大工さんと知り合いました。
年齢は70歳を少し超えたくらいだと思います。工務店をやっておられた
んですが、そちらのほうは息子さんに代替わりして、現在は悠々自適の
生活です。で、千田さん、そのバーでは常連から「棟梁」って呼ばれて
るんですね。名刺を出すと社長と言われてしまうんですが、それが嫌で、
自分から「千田でいいんだけど、社長よりかは棟梁のほうがいいな」
こうリクエストされて、それで呼ばれてるんです。
まあ、昔かたぎの人だってことです。先週の金曜日、試写会に行った帰り、
そのバーに寄ったら棟梁がいて、そこであれこれ話をお聞きしたんです。
ちなみに、棟梁はいつもスコッチのシングルモルトを飲んでるんです。

「それで、家を建てる上で何か怖い話ってありますか」と自分。
「怖い話・・・そうだなあ、ないこともない」 「どんな?」
「家を建てるときには、昔から言われてる決まり事がいくつかあるんだ」
「はああ、鬼門とかですか」 「いや、たしかに昔は、鬼門なんかを気にする
 人は多かった。けど、今はそんなことは言ってられないだろ。
 特に都会だと、ぽっと空いてる土地があって、そこを買って家を建てる。
 だから最初っから制限があるんだ」 「ああ、そうですよね。当然、
 道路に面したほうを玄関にしなくちゃいけないし、家の向きは
 どうしようもないか」 「まあそうだ。でもよ、地図見てみればわかるが、
 鬼門にあたる北東に玄関がある家ってのはそんなに多くはない。
 日当たりなんかの関係で、道がまずそうなってる」

「ははあ、それは知りませんでした。他には何か?」 「そうだなあ、
 細かい決まり事はいろいろあるよ」 「例えば?」 「2階の窓な、
 あれって壁に直付けはあんまりよくないんだ。意味がわからんか、
 窓の下には、ちょっとでもいいから屋根があったほうがいい」
「え、それ、どうしてです?」 「これは俺の親父から聞いたんだが、
 2階の窓ってのは、悪い物が入って来やすいんだ。だが、どういうわけか、
 庇みたいなのでも屋根があれば、たやすく入ってこれなくなる」
「うーん、でも、マンションとかは窓に屋根ないですよね」
「けども、そのかわりにベランダがあるだろ」 「ああ」 「アパートはな、
 ベランダなんかついてないから、じつはあんまりよくない」 
「他には?」 「そうだな、家の裏口ってあるだろ、あれな

 塀を回した家の場合、玄関から裏口まで行き来できないと具合が悪い」
「どうしてです?」 「これは俺もよくわからんのだが、昔から言われてる」
「塀がなければ関係ないんですか?」 「そうだ」
「あ、そういえば、自分の実家もそうです。塀の内側を通って
 玄関から裏口まで行けます。けど、これって設計段階のことですよね」
「建築士はみな知ってるよ。それに、うちは設計から全部やってたから」
「なるほど。実際にご自分で体験されたことってありますか」
「ああ、ないことはない」 「ぜひ」 「あれは昭和40年代だな、
 当時俺は大工になったばかりでね、他の棟梁のとこに修行に行ってた」
「で?」 「当時の修行は厳しかったぞ、ヘマをすると鉋の角で殴られたから」
「まさに修行ですね」 「でな、あるとき、神社の解体・移築の現場に行った」

「へえ、神社って宮大工がやるんじゃないんですか」 「それは有名な大きな
 神社の話で、そこらの町に専業の宮大工なんていねえよ」 「で?」
「そこの神社は明治になってから建てられたもんで、そう古いわけじゃない。
 まだ木材も十分使えるから、バラして少し離れた場所にそのまま移す」
「ははあ、神社建築って釘を使わないって聞きますが」
「いや、それは江戸時代とかそれ以前の話で、理由は2つある。      
 一つは神様が金気を嫌うってことだが、それは表向きのもんで、
 昔は鉄が貴重だったからだよ」 「ははあ、初めて知りました」
「でな、その神社は小さく、本殿と拝殿がかねられてて、解体は1日で終わった」
「どうして移築したんですか、それと神社の御祭神は?」 
「移築の理由はよくわからん。氏子の代表になってる元町長は、

 裏手の山が土砂崩れを起こしそうで危険だからと言ってたが、
 俺にはそう見えなかった。あと神社は、どこにでもある神明社だよ」 
「ああ、天照大神ですね。すみません、何度も話の腰を折って。続けてください」 
「屋根は檜皮葺で、これだけは移築できんから新しくするしかない。
 で、その屋根の葺地の中から妙なものが出てきたんだ」 「何でした?」
「縦3尺、横2尺くらいの金属板を2枚重ねて何かをはさみ、鎖でぐるぐる巻きに
 されてた。すごい重さで、職人2人じゃ持てなかった。後でわかったんだが、
 その金属板は鉛製だったんだよ」 「中には何が?」
「まあそう先を急ぐな。氏子や神職に聞いたら、それはこっちで処分してほしいって
 ことだったんで、トラックに積んでな。で、解体後に儀式をやるだろ。
 俺は神社のことはよくわからんが、祝詞とかあげるやつ」

「ああはい」 「その最中、神主が祝詞を読むのをつっかえたんだよ。
 これがやっちゃいけないことなのはわかるよな」 「はい、そのために
 必ず紙に書いたのを読み上げます」 「そしたら、脇に控えてた元町長が
 突然、前のめりに倒れた。地べたに手をついてえずき、そのまま頭を
 草の上に落としたんだが、みるみるうちに血が広がってな」
「吐血したってことですか」 「そうだ。神事は中断して、救急車が呼ばれたが
 元町長はピクリとも動かず白目を剥いてたから、素人目にもこれはダメだって
 わかったよ。結局、動脈瘤破裂ってことで、その日のうちに病院で死んだ。
 あと、祝詞を上げてた神主も具合が悪そうだったな」 「で?」
「ひとまず会社に戻って、ほらさっき言った鉛板な、みなで鎖を切って
 開けてみたんだ。何が入ってたと思う」 「いや、わからないです」

「写真額だよ。白黒でガラスは入ってなかった」 「何の写真でしたか」
「それがな、結婚式の記念写真だった。新郎が軍服を着てて、歳はまだ若いが
 将校だと思った。で、新婦が花嫁姿」 「それ、もしかしてムカサリって
 やつでしょうか。死後に結婚式をあげる」 「ムカサリというのはよく
 知らんけど、実際の結婚式の写真だよ。おそらくは新郎に召集がかかって、
 出征する直前に式をあげたんだと思った」 「ははあ」
「ただな、不気味なのは、写真の花嫁の顔が、何か尖ったものでこそげたように
 削り落とされてたってことだ」 「うわあ」 「鉛板をもとに戻し、とりあえずは
 会社の倉庫に保管しといたんだが、その写真、祟ったんだよ」
「どんなふうに?」 「まずは、倉庫番のやつが全身に湿疹ができ、高熱が出た。
 市の大きい病院に入院して命はとりとめたけどな」

「で?」 「あと、当日解体に行った大工連中も、多かれ少なかれ
 体にできものができたんだよ」 「棟梁も?」 「ああ、頭の髪の中に
 水ぶくれができて、治るまで半年近くかかった。それだけじゃない、
 その神社のな、氏子の主だった者が次々死に始めたんだよ、みな病死」 「う」
「まあ、その人らは高齢ではあったが、3ヶ月で4人は尋常じゃねえだろう。
 入院とかしてたわけじゃないんだから」 「その写真はどうなったんですか?」
「大工連中はみな触るのを嫌がったが、移築した神社の屋根の中にもとのとおりに
 入れといたんだ。そのときの神事には、奈良にある有名な神社の宮司が来た。
 おそらく氏子たちが頼んだもんだろうが、何事もなく終わったんだよ。
 それで、大工たちにできものができるのも、氏子たちが死ぬのも
 収まった」 「いや、怖い話ですね。その神社に写真額を

 封印してたってことだと思いますけど、被写体の新婚夫婦で何かわかることが
 あったんですか」 「・・・それから10年くらいたって、ある人から
 話を聞いた。その新郎のほうは元町長の次男で、海軍兵学校を
 卒業してすぐ許嫁と結婚し、1ヶ月もたたずに出征。それで、
 昭和20年の初めに戦死公報が入ったんだ。乗艦中に沈没させられたという話で、
 当然、遺骨も遺品もなし。で、遺された花嫁のほうは、その後の空襲のときに
 家から避難せず、仏壇に向かったまま焼死したらしいんだ。これは噂だが、
 姑に、息子の後を追わないことを責められていたらしい」 「うう」
「でな、終戦になって、死んだはずの新郎が復員してきたんだよ。
 戦死の報は手違いだったらしい」 「ええ、そんな!」 「けども、その息子も、
 せっかく生きて帰ってきたのに、しばらくして山中で首を吊ったんだよ」

怪奇ロマン『君待てども』
名称未設定 3

 


寿命のオカルト

2019.09.07 (Sat)
sdt t (1)

今回はこういうお題でいきます。どんなことが書けますでしょうか。
じつは寿命って、オカルト史とはたいへんに深い関係があります。
なぜなら、西洋でも東洋でも「不老不死」は人間にとっての一つの
到達点と考えられていたからです。これをめざして、
さまざまなオカルトが発生してきました。

中国の道教では、冥界はこの世とあまり変わりのないものです。
そこで、修行を積んで死ぬことのない仙人になるのが究極の目標と
されました。秦の始皇帝がその晩年、不老不死を追い求めて、
東方海上にある蓬莱山に方士、徐福を派遣したのは有名な話ですよね。

錬金術師
sdt t (2)

不老不死になるため、具体的な方法として「煉丹術」を実行します。
これは外丹と内丹にわかれ、外丹は草木や鉱物から調合した薬を
服用します。これにより、中国では漢方薬が発達したんですが、
水銀や砒素を服用して命を縮めた者も多かったようです。

内丹は、人体の中で気を練り、火を起こす炉のようにして長命を得る
という方法で、瞑想や呼吸法が重視されました。
これが「気功」のもとになったのは間違いないですし、仏教の禅宗に
おける座禅の源流の一つであるとも言われます。

ただ、不老不死の仙人であっても、事故で死ぬことや殺されることは
あります。また、仙人になるには仙骨という生まれつきの素質が
なくてはダメで、誰でもがなれるわけではありません。道教で祀られる
神様には、中国のさまざまな時代で仙人になった人物がいます。

関連記事 『仙人になるには』 『仙道・道教について』

sdt t (5)

西洋では、錬金術で不老不死が求められました。錬金術の大きな目的は
2つあり、一つは卑金属から金を作り出すこと。もう一つが、
生命の水「エリクサ」を用いて万病を治し、長命を得ることでした。
この研究が現在の化学に発展していきましたし、修道院で作られる
リキュール類もここからできたものですね。

さて、では、人間はどのくらい生きられるんでしょうか。一説には、
120歳が人間の生物学的な寿命の限界と言われていますが、
これについては後でふれます。現在、ご存命の日本の最高年齢の方は、
1903年〈明治36年〉生まれの田中力子さんで、116歳。
同時に世界最長寿でもあります。しかし明治36年というのはすごい。

田中力子さん
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103歳のときに初期の大腸癌で手術をしましたが、それ以外に
大きな病気はしたことがなく、頭のほうもしっかりしていて、毎日オセロを
やっているそうです。なるほど、オセロはルールは単純ですが、
そのわりにゲーム性が深いので、ボケ防止にいいのかもしれません。

では、すでに亡くなった方で世界最高長寿はどのくらいかというと、
ギネスブックが認定した記録では、世界最高が、フランスの
ジャンヌ・カルマンという女性で、122歳で亡くなっています。
ただ、この記録には疑問があり、自分の娘とどこかの時点で
入れ替わっている可能性が指摘されています。

さて、ギネス非公認の記録に目をやると、これはありえない世界になっていて、
世界最長寿記録は中国の李青曇(り せいどん)という人で、なんと256歳。
生まれたのが1677年、1933年に亡くなりました。職業は漢方医で、
山中で仙人から八卦掌(拳法)と内気功を教えられたということです。
身長は2m近くあり、残っている写真を見るとたしかに大きい人ですね。

李青曇
sdt t (4)

長寿の秘訣は、基本的に自ら採取した薬草、霊芝やクコの実、朝鮮人参、
ドクダミ、ツボクサ、あと米酒だけを口にする生活を続けていたためと
されます。まあねえ、256歳はとうてい信じられませんが、清朝時代の
「1827年、李青曇150歳の誕生日を祝った。1877年には200歳の
誕生日を祝った」と記された公文書が発見されているとも言われます。

あと、170歳、161歳の男性もいたようですが、どちらもアフリカの
人物であり、その信憑性には大きな疑問符がつきます。
で、最初のほうに書いた話に戻って、世界の長寿の人物を記したWikiの
表を見ていると、110歳代の人が多いんですよね。
その多くは120歳までいかずに亡くなっています。

テロメア
sdt t (6)

やはり生物学的な限界点があるのかもしれません。「ヘイフリック限界」
という言葉を聞かれたことはあるでしょうか。1961年、人間の細胞の
分裂回数には限界があることが発見され、その発見者の名前から
つけられています。なぜ限界があるのか、
ここで注目されたのが「テロメア」です。

テロメアは染色体の末端部分にあり、クリップのような形をしています。
生まれたばかりのときは長かったテロメアが、年齢を重ねるにつれて
だんだんに短くなり、細胞の分裂限界は50回、
これによって、人間の寿命は最長でも120歳までと見られてるんです。

怖いのは、正常な細胞が遺伝子変異した癌細胞はこれを持っていない
ことで、つまり不死性を獲得していることになります。
ですから、手術などの物理的手段で切り取ることができなければ、
現代の科学では治療法がないんですね。

sdt t (1)

さてさて、では、どうしてあらかじめ寿命の限界が定められているのか。
これは、遺伝子は種全体を繁栄させるのが最大目的で、
子どもを産み育てた時点で、その個体にはこの世から退場してもらう。
言葉は悪いのですが、自然による姥捨てと言っていいのかもしれません。
癌が存在するのも、そのシステムの一つだという説もあるんです。

最後に、日本の平均寿命は長いですよね。香港についで世界2位だったと
思います。ですが、健康寿命はそれほどでもありません。
これは、世界でも類を見ない異常な延命治療が貢献していると言われます。
医療の延命中心主義による人工呼吸や胃瘻など、スパゲッテイ症候群と
呼ばれるものですね。では、今回はこのへんで。

関連記事 『サン・ジェルマンの憂鬱』 『医者はなくなる?』 『歴史を変えた重金属』

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音のオカルト

2019.09.06 (Fri)
abe (2)

今回はこういうお題でいきます。音というのは、皆さんご存知でしょうが、
物体が振動し、それが空気や水などに音波として伝わり、
耳の鼓膜をふるわせたものが信号化され、神経によって脳内に伝達されて
再生されるわけです。けっこう複雑な過程をたどっているんですね。

よくSF映画では、敵宇宙船や惑星などを爆破したときに、
ドカーンなどという効果音が入るんですが、宇宙空間は真空なので、
基本的に音は発生しません。ですけど、映画で無音というのはやはり
変なので、これはしょうがないかなと思います。

映画『スターウォーズ』 爆発するデス・スター
abe (5)

ちなみに、余談ですが、爆風というのも起きないですよね。
例えば、宇宙空間で核爆発が起きれば、熱波や電磁波、放射能などは
発生するでしょうが、威力は弱いと思います。相手の宇宙船を攻撃するなら、
むしろ爆発しない、とがった固い物質をぶつけて穴をあけ、
中の空気を逃してやるほうが効果的かもしれません。

ところで、音については古代ギリシア時代から解明が進んで、
ピタゴラスが音律を数学的に発見したなどとも言われます。
ただ、音についての知識が古くからあったことで、大きな誤解も生じました。
何を言ってるか おわかりでしょう。光についてです。

関連記事 『ピタゴラスと数秘術』

音波は空気を媒質として広がります。海の波が水を媒質として広がるのと
同じなんですが、そうすれば当然、光もそうだと考えたくなりますよね。
ですから、宇宙空間には何らかの物質が満ち満ちていて、それを光の波が
伝わっていると長い間想定されてきました。この仮想的な物質は、
イギリスの自然哲学者ロバート・フックにより、エーテルと名づけられます。

エーテルを検出しようとして失敗に終わった、マイケルソン・モーリーの実験


この考え方は合理的なので、昔の科学者を責めることはできません。
光があまりにも特異なんです。エーテルを発見するため、さまざまな実験が
試みられましたが、どれも不成功に終わっています。
当時の科学水準では、まさか光が波と粒子の両方の性質をかね備えていると
想像できなかったのは、無理がないことでしょう。

さて、最近、音のオカルトの話をよく耳にするようになりました。
一つは「アポカリプティック・サウンド」と呼ばれるもので、
「終末の音」と訳されます。アポカリプスとは、新約聖書の中の
『ヨハネの黙示録』をさす場合が一般的です。

アポカリプティック・サウンドのイメージ
abe (4)

最後の審判が近くなると、7人の天使が出現して高らかにラッパを吹き鳴らす。
イエス・キリストが復活し、このときに最終戦争ハルマゲドンが起きるとも
されます。死者がすべて復活し、地獄と天国に分けられるんです。
ですから、日本人には いまいちぴんときませんが、キリスト教徒にとっては、
アポカリプティック・サウンドは大きな意味を持ったものです。

この話題が初めて出たのは、2011年にアップされたウクライナ、キエフの
動画からです。古びたマンションの5階あたりから外の様子を撮影したもので、
約11分にわたって、断続的に大きな音が聞こえます。
不気味な感じで、たしかにラッパの音に聞こえなくもありませんが、
自分は、何か金属のきしみ音に似ているように思えます。

この音の正体について、2つの説が出されています。一つは、
工事に使われたクレーンが揺れている音というもので、よく聞くと、 
大きな音の合間に、ガシャンという重機らしき音が何度か確認できます。
ただ、近くで工事が行われていたかどうかはわかっていませんし、
この結論はありきたりすぎてつまらないですよね。

アポカリプティック・サウンドとされる動画


もう一つは、映画のヴァイラル・マーケティングとして
動画が出されたという説。ヴァイラル・マーケティングについては
前に少し説明しましたが、多数のメディアを利用して、客が商品を連鎖的に
求めたくなるように仕向けるプロモーション手法のことです。

関連記事 『ネットロアとThis Man』

で、この2011年には、『レッド・ステイト』という、キリスト教原理主義
団体をあつかったマイナー映画が公開されていて、終盤に天使のラッパ音
を模した音が出てくるんですが、その宣伝をねらったものではないかという
話があるんです。聞いてみると、たしかに似ている気がします。
ヨーロッパで映画が公開されたのは、ちょうどこの時期だったんですんね。

『Red State』2011


ただ、映画制作サイドはノーコメントを通しており、真偽はわかりません。
ともかく、これがきっかけとなって、カナダのブリティッシュコロンビア州
テラスの街の動画など、アポカリプティック・サウンドと呼ばれるものが
次々にアップされていきます。ただ、原因はいろいろ考えられますよね。
たんなる工事音、ジェット機が起こす衝撃波などなど。

それに、まあ音ですから、後づけで入れることも簡単にできてしまいます。
もう一つ、「ハム音(The hum)」というのも話題になりました。
「ブン、ブン」というような低い音で、1970年代にイギリス、
ブリストルで報告されて以来、世界各地で話が出てきています。

ハム音の報告があった地域
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この音、同じ場所にいても、聞こえる人と聞こえない人がいるみたいですね。
一説には、2%の人しか聞こえないともいわれますが、そのあたりは
よくわかりません。高圧ガスのパイプラインや送電線の影響ではないかと
いわれる一方、ただの耳鳴りだろうという話もあって、原因は不明のままです。
うーん、電磁波を極端に嫌う人は世界中にいますからねえ。

さてさて、音のオカルトでは、この他にヘミシンクなども流行しました。
パチンコ屋、あるいは職業的に、日常つねに大きな音に接している人は、
高齢になってから難聴になる可能性が高いのは間違いないですので、
みなさんもお気をつけください。では、今回はこのへんで。

関連記事 『音声の話 2題』

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竹ノ輪神社の話

2019.09.05 (Thu)
どうも今晩は、山根と申します。まず、自己紹介をさせていただきます。
私、今年で62歳になります。妻は5年前に急性の白血病で亡くなりました。
それからはずっと一人暮らしです。子どもは、息子が一人いて、
東京に出て就職してます。ですから、身軽な気楽な生活を楽しんでたんですが、
昨年、病気をしたんです。背中にこったような張りと重い痛みを感じて、
近くの開業医に行ったらすぐに大きな病院を紹介されまして。
そこであれこれ検査をして、診断がついたんです。膵臓癌でした。
みなさん、膵臓癌についてご存知ですよね。癌の王様とまで言われて、
罹患者数と死亡者数がほぼ同じ、つまり、かかってしまったら助からないって
ことです。5年生存率ってのがありまして、診断がついてから
5年後に生きている人の割合なんですが、それがすべての癌の中で

最も低いんです。あ、すみません、よけいな話をして。それで、病院では
手術を勧められました。これね、運がいいってことらしいです。
膵臓癌にかかった患者の中で手術ができるのは20%程度、
はい、残りの人はすでにその時点で手遅れの状態ということです。
そのときね、迷ったんです。手術をすると膵臓がなくなるわけだから
完全な糖尿病になります。お腹の中をあれこれツギハギするので、
ものが食べられなくなるし、下痢症状のひどい方が多いんですね。
そのあたりのことはネットで調べました。それと、手術が成功したとしても、
90%以上の人が1年以内に再発してしまうんです。
ねえ、嫌な病気でしょう。ですからね、手術はやめて、緩和ケアだけにする
という選択肢もあったんです。私は仕事も引退しましたし、

息子もとりあえず自分で食っていけてます。だから、このまま何もしないで
いさぎよく妻のところに行こうということも考えたんですが・・・
ただ、心残りなのは、まだ孫の顔を見ていないということで。
はい、息子は独身なんです。それで、迷ったすえに手術を受けることに
しました。いや、大変でした。入院は3ヶ月ちかくになって、
ベッドから自力で下りて歩けるようになるまで2ヶ月もかかったんです。
ほら、私は一人暮らしでしょう。息子はときおり来てはくれましたが、
やはり自分の仕事がありますので、付き添いをしてくれる人を雇ったんです。
まあ、そんなこんなで何とか退院しまして、病院からは再発予防の抗癌剤を
勧められたんですが、これはお断りしたんですよ。
これ以上の体の不具合は耐えられそうもなかったし、

再発したらもう、それは運命だと思うことにしたんです。病院からは、
1ヶ月に一度の定期検査だけしてもらうことにしました。
で、家に戻って最初のうちは、100mの散歩をするだけで息が切れて
しゃがみ込んでしまってたんですが、だんだんに長く歩けるようになり、
体力が回復した自信がついてきたんです。それで、旅行に行くことに
しました。私の両親はとっくに亡くなっていますが、
その出身地の町へです。私も中学校までそこに住んでましたし、
妻もね、その町の出身で中学校の同級生だったんです。
ただ、親戚なんかはそんなに多くはいません。長い時間電車に乗るのは
たいへんでしたが、なんとかその町の駅に着いて、まず実家のあった
場所に行ってみました。はい、実家はもうなくなってて、

跡にはコンビニができてましたね。そこから中学校へ行く通学路を
歩いてみました。そのあたりはほとんど変わっておらず、懐かしい感じが
しましたよ。ああ、もっと頻繁にここにくればよかった、
妻が亡くなる前に一緒にこれればと思いました。中学校は同じ場所に
ありましたが建物は新しくなってて、グランドで野球の練習をしてましたね。
そこから、親戚の家にあいさつに行って帰ろうと思ってたんです。
中学校の裏側の道に出ると片側が林になっていて、休み休み歩いてくと、
小さな神社があったんです。あれ、こんなとこに神社なんてあったかな、
と思いましたが、その道はあまり通ったことがなく、私が見落としていた
だけだろうと考えました。でね、お参りしていこうと思ったんです。
小さな鳥居に神社の名前はなく、そのときは御祭神もわかりませんでした。

短い参道を抜けるとすぐに社殿の前に出ましたが、参拝者は誰もおらず、
社殿の前に大きな竹の輪があったんです。はい、火であぶったのか、
数本の竹が束ねられて丸い形になっていました。そのとき、茅の輪くぐり?
と思ったんですが、あれ、行われるのは6月の末ですよね。
そのときは10月でしたので、違うのかもしれません。くぐってみようかとも
考えましたが、作法もわからないし、ただお参りだけして戻りました。
はい、病気が再発しないようにお願いしたんです。で、その次の月、
病院に行って検査をしたら、腫瘍マーカーが上がっているということで、
抗癌剤を強く勧められました。でも、再度お断りしたんです。
もう治療はしたくありませんでしたから。痛みなどが出てきたら
その管理だけお願いしようと考えていたんです。

それから数日後ですね。いつものように早朝の散歩に出ました。
腫瘍マーカーは上がっているとしても、体調はどんどん回復してきてて、
かなり長い距離が歩けるようになってました。私の家の近くには
運動公園があってそこへの往復です。でね、少し坂になったところを
歩いてると、横の草地に竹の輪があったんです。はい、あの神社で見たものと
同じでした。おかしいなあ、何でこんなところにと思いましたが、
何気なくくぐってみたんです。そしたら、中は霧のようなものにつつまれてて、
今さっきくぐった輪が見えなくなってしまったんです。方角もわからない。
奇妙だなあ、と思いながら後ろを向いて進んでくと、急に霧が晴れ、
田んぼの中に立ってたんです。まわりの景色になんとなく見覚えがありました。
あの実家のある町の、昔の風景のような気がしました。

脇から声をかけられました。「よう、山ちゃん、何でこっちに来た」見ると、
半ズボンをはいた男の子が立ってて、ひと目で誰だかわかったんです。
慎ちゃん・・・慎司という私の幼馴染の子で、家が近く、小学生のときには
いつも遊んでたんです。そのときは気がつきませんでしたが、
慎ちゃんと私の目線が同じ高さだったので、私も子どもに戻ってたのかも
しれません。慎ちゃんは坊主頭の額にシワを寄せ、「こっち来るな、
 戻れ、戻れ」かんしゃくを起こしたような声でそう言い、
私の背中を強く押したんです。ふっと気がつくと、私は運動公園へ向かう
道端にしゃがみ込んでいて、竹の輪はどこにも見あたりませんでした。
ああ、体調が悪くなって幻覚を見てたのか、そう考えてゆっくり立ち上がり
ました。そのとき、慎司はもう20年も前、小さい子ども2人を残して

交通事故で亡くなっていることを思い出したんです。・・・あれはもしかして
死後の世界なんだろうか、まあ、夢なんだろうけど、あそこに戻れるのなら
死ぬのも悪くはないのかな、という気になったんです。
翌月の検査で、腫瘍マーカーはさらに上がっていて、医師からは、
ここで治療をしないのなら、緩和ケア病棟のある病院か、
自宅に往診してくれる医師を探したほうがいいと言われました。
まあ、それならそれでしかたないと思いました。でもね、背中に少し
張りがあるくらいで、痛みはなかったんです。それから、散歩のときに
竹の輪は2度見ました。自分の意志でくぐりましたよ。2回目は私が
小学校前の時代でした。まだ若い両親がいて、やはり前と同じように、
私が来たことを強く叱り、すぐに戻るように2人そろって言ったんです。

最後は、私が中学のときですね。中学校の通学路を、制服を着た妻と
いっしょに歩いていました。妻はその頃から勝ち気な性格で、
「こっちに来ないで、まだやることがあるでしょう」そう言って、
私をその世界から強く押し出したんです。・・・その後、緩和病棟のある別の
病院で検査を受けたら、腫瘍マーカーは正常値になっていて、CTに写っていた
モヤモヤした影もなくなっていたんです。ええ、あの神社にはもう一度
行きましたが、竹の輪は立っておらず、神主さんに話を聞いても、そういうのを
設置したことはないと言われました。でね、今 住んでる市には私と妻が神前式を
あげた大きな神社があり、そこに行って、あったことを話しました。神職は黙って
聞いてから、「貴方には何かまだ、使命があるのでしょう」と言われたんです。
それで・・・考えたすえに、この地域の患者会を立ち上げることにしたんですよ。






ロシアのオカルト

2019.09.04 (Wed)
ロシアといえばウォッカやクマ、プーチンなどが有名だが、
現在ではスピリチュアルな超感覚的なサービスが空前の大ブーム
となり急成長しているらしい。占いや占星術、霊媒など超感覚的な
サービスを専門とするロシアの会社、シックス・センス(Sixth Sense)が
最近、顧客に訴えられて損害賠償の支払いを命じられたようだ。

シベリア西端の都市・オムスクに住む原告の男性(匿名)は、
「出て行った妻を取り戻してくれ!」と依頼したのだが、
それが叶えられなかったのだという。
(カラパイア)

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今回はこういうニュースでいきます。しかしこれ、いかにもな話題ですね。
2017年、シベリア、オムスクに住む原告の男性は、妻に逃げられ、
人探しの広告を出していたシックス・センス社に捜索を依頼します。
社は、占星術を行ったり、霊媒の専属スペシャリストをつけると
約束したものの、実行する様子はありませんでした。

男性は計43万円を支払いましたが、結局、捜索は行われず、
裁判所へ社を告訴したんですね。43万円というのは、
所得の低いロシアではかなりの大金です。で、今回判決が出て、
オムスクの裁判所はシックス・センス社に67万円の賠償を命じました。

ロシアンマフィアの幹部の墓
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うーん、判決がそうだからといって、お金が返ってくるかどうかは
怪しいですね。この手の会社は背後にロシアンマフィアが
ついてたりするからです。自分はロシアに何度か行ってますが、
現地の知り合いからいろいろと危険なことを聞かされました。

ただこれ、別にロシアにかぎってのことではなく、アメリカでも
よく聞く話です。前に少し書きましたが、アメリカでは行方不明者
(多くは家出人)が出ても、警察はまともに捜査してくれませんし、
州警察制ですから、他の州に行ってしまえばどうにもなりません。

そこで、私立探偵に依頼することになります。みなさんも、
アメリカのハードボイルド小説の冒頭、探偵の事務所に
失踪者の捜索のために依頼人が訪ねてくるシーンを読まれたことが
あるんじゃないでしょうか。で、大手の探偵社はともかく、
小規模なところは霊媒師とタイアップしてることもあります。

グリゴリー・ラスプーチン
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詳しくはこちらの過去記事を参照されてください。 『リーディングの話』
さて、占星術のことも引用ニュースに出てきていますが、
自分に言わせてもらうと、それで失踪者の行方をつきとめるのは不可能です。
当たり前の話ですよね。けして自分の腕が悪いせいではありません(笑)。

ですから、もしそういう依頼があってもお断わりするんですが、
どうしてもという場合は、占星術を離れて、雑誌社や新聞社の友人に
協力してもらって探したこともありました。でも、レアケースですね。
本来、占星術とはそういうものではありません。

ソ連時代の超能力者 ニーナ・クラギーナの念動力
tea (2)

さて、ロシアのオカルトというと、みなさんは何を思い浮かべられる
でしょうか。帝政ロシア時代の怪僧ラスプーチン?
それともツングースカ大爆発の宇宙人関与説? あるいは、
ソ連時代の政府機関での超能力実験とか? まあ、ロシアにはその手の
ことを信じやすい精神的な土壌があると思います。

ロシアの宗教はロシア正教と言われることが多いですが、
これは日本の神道に近いものです。ロシアでキリスト教が導入されたのは
10世紀と世界の中でも遅く、それ以前からあった自然崇拝が
かなり習合していて、年中行事にも深くかかわっています。
その中で、グリゴリー・ラスプーチンのような祈祷僧が登場してきました。

ロシア正教会の新年行事 氷点下の禊を行うプーチン大統領 やはり神道に似ています
tea (1)

それが1922年、革命によってソビエト連邦が誕生し、
徹底的に無神論政策を推し進めていきます。この間、ロシア正教は弾圧を受け、
教会の破壊や司祭の逮捕などが始まりました。教会側は完全消滅を
まぬがれるため、政府当局に協力するようになり、
そのことで、ソ連崩壊後には大きく信頼を失ってしまいました。

でも、そうするしかしかたなかったと思います。ソ連時代は思想的な柱として、
宗教にかわって共産主義の理念と科学的世界観がうち立てられました。
よく、ソ連の超能力者ニーナ・クラギーナなどの名前がオカルト本に
登場しますが、ソ連では、あくまで最先端科学として念力や透視、
テレパシーが研究されていたんです。

ロシアのオウム真理教支部
tea (4)

さて、では現在のロシアの精神界はどうなってるかというと、無神論者が
人口の1割以上はいるといわれます。これはソ連時代の影響でしょう。
前述したように、ロシア正教は信頼を失い、新興宗教やスピリチュアルが
ものすごく流行してるんですね。人口の3割近くが無宗教だがスピリチュアルを
信じているとされ、それが引用ニュースのような事件につながっています。

ソ連の崩壊が1991年、精神的支柱を失った人々に新興宗教が       
入り込みます。オウム真理教がロシアで勢力を伸ばしたのはご存知でしょう。
全土で推定3万人の信者がいたと見られ、これは日本よりも多い数です。
オウム真理教モスクワ支部は世界最大の規模でした。

1995年、日本で地下鉄サリン事件が勃発し、ロシアでも家族会などが
オウム真理教を告発し、活動禁止命令が出て宗教法人登録が
抹消されることになります。「シガチョフ事件」はご存知でしょうか。
2000年、ロシア人信徒が麻原彰晃の身柄奪還をねらって爆弾テロを計画
した事件ですが、未遂に終わっています。

法輪功の創始者 李洪志氏 現在はアメリカ在住
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中国でも、1992年から社会主義市場経済が進められ、経済成長が一気に
加速した中で、伝統的な気功を体系化した法輪功が登場。爆発的な数の信徒を
集めましたが、1999年、共産党は法輪功を邪教と認定し100万人レベルの
学習者が投獄され、4000人が収容中に死亡したと見られ、
移植用に臓器が抜き取られたなどといった話も出ています。

さてさて、ロシアのオカルトについて、一般論を書いているうちに字数が
尽きてしまいました。共産主義政権下で信仰心が抑圧された結果、
その反動がきてるんですね。難しい問題をはらんでいると思います。
個々のオカルトについては、いずれ書く機会があると思います。
では、今回はこのへんで。





笑いのオカルト

2019.09.03 (Tue)
taeh (5)

今回はこういうお題でいきます。「笑い」についてWikiを見ると、
いきなり最初に、「動物の中で笑うのは人間だけである」と出てきて、
自分は疑問を持ってしまいました。なぜなら、これについては、
動物も笑うことができるとする研究もあるからです。

例えば、ドイツのフンボルト大学の研究では、ネズミはくすぐられると
笑うという結果が発表されています。え、でも、おかしくて笑うのと、
くすぐられて強制的に笑わされるのは違うんじゃない、
と思われるかもしれませんが、両者の区別は難しいんですね。

人間もやはりくすぐられると笑いますが、これは体表にある
感覚皮質の神経が興奮するためです。で、この神経が興奮すると、
脳内のある部位に信号が伝わって笑いが生じます。
ただまあ、ネズミの場合、ギャグマンガを読んだり、
落語を聞いて笑うということはありませんよね。

笑うネズミ
taeh (2)

そういう知的活動がほとんどできないためですが、結果として、
くすぐられて笑うのも、ギャグを見て笑うのも、脳内で起きる最終的な
反応に大きな差はないんです。ですから、上のWikiの内容も、
「動物の中で知的な笑いができるのは人間だけである」とすれば、
より正確なんじゃないかないかと考えます。

『今昔物語』に、これに関係した話が載っているのでご紹介します。
生まれつき数学(当時は「算道」といったようです)の才能のある男がいて、
日本に来ていた唐人について、さらに道を極めることになりました。
平安時代、算道は呪術の一種と考えられており、天変地異を起こしたり、
人を呪い殺したりすることができると信じられていたようです。

男はすぐに上達し、唐人からさまざまな術を習いましたが、
人を殺す術だけは教えてもらえませんでした。それは自分の弟子として
中国に渡ったら教える、と言うんですね。当時の算道は、「算木」という
積み木のような直方体の棒を並べて計算をしていたようです。

算木とその使い方
taeh (3)

余談ですが、江戸末期から明治初期にかけて、復古神道と呼ばれる
一種の新興宗教が流行し、算木は「天津金木 あまつこんぎ」と呼ばれ、
天地の神秘を解き明かすためのものとされました。これを大成したのが
大石凝(おおいしごり)真素美という人ですが、このあたりはかなり
専門的なオカルトになるので、興味を持たれた方は検索してみてください。

話に戻ります。男は唐人の師に恩義は感じていたものの、
中国に渡るのが嫌だったので、約束をすっぽかしてしまいました。
腹を立てた唐人は、一人で中国に戻る船の上で、その男に算道の呪いをかけ、
そのため、聡明だった男は呆けてしまい、何を聞いてもすぐに忘れる
という状態になります。その後、男は法師になってあるお屋敷に仕えます。

そこでも満足に受け答えもできないので、大勢いる使用人たちに
バカにされていました。ある夜、女房たちが集まって物語の会をしたとき、
一人の女房が、男に向かって「眠気が出てきたので、なにか面白い話をして
笑わせてほしい」と言います。まあ、できないだろうと侮っているわけです。

自分もよくわかりませんが、きわめて高度な計算ができるようです
taeh (4)

男は、「とても私にはおもしろい話などはできませんが、
ただ笑わせることならできます」そう言って、算木を持ってくると
床に積み上げ、その様子がおかしいと、女房たちはますます
バカにします。ところが、その算木を男がはらりと崩すと、
女房たちのあちこちで爆笑が起こり、ついには全員が

転げ回って笑い出したんですね。体をよじり腹を押さえ、
涙とよだれを流しても、いつまでも笑いは止まりません。女房たちは
笑いながら、「このままでは死んでしまう、どうかとめてください」と
男に向かって手を合わせ拝むと、「では」男はさらりと算木の形を崩し、
すると女房たちの笑いはピタリと収まったんです。

笑いを司る脳の部位は?
taeh (1)

あんまり笑いすぎたため、全員がそこらにごろごろと横になって、      
病人のような状態からしばらく回復しなかったそうです。
この話なんかは、算道をやっているところを見ていた人が、
その様子に神秘的なものを感じて できたものだろうと思います。

あ、『今昔物語』を紹介しているうち、もう字数が尽きかけています。
笑いの話に戻って、アメリカのエモリー大学の研究で、
電気刺激を与えると笑いが生じる脳の部分が発見されています。
「帯状回 たいじょうかい」という下図の部分で、感情を司り、
大脳辺縁系の各部位を結びつける役割を果たしているようです。

「帯状回 」
taeh (1)

これは、てんかんの発作を起こす部分を探しているうちに偶然発見されたん
ですが、患者はその刺激によって「愉快でリラックスした気分」を
感じていたそうです。何かの治療に使えるかもしれません。
ところで、youtubeで、笑う赤ちゃんの動画が出てますよね。

大人が変な声を出したり紙を破ったりすると、0歳児が際限なく笑います。
下の動画がそれですので、ぜひご覧になってください。
赤ちゃんは、まだ脳内の神経系の発達が十分ではないため、
回路が大人のようにつながっておらず、こういう現象が起きるようです。

さてさて、笑いについて見てきました。笑うことが健康にいいのは
間違いないみたいですね。免疫をつかさどるNK細胞が活性化し、
癌の予防になるそうです。山形大学は今年度、めったに笑わない人は、
よく笑う人に比べて死亡率が2倍になり、脳卒中などの心血管疾患の
発症率が高いことを発表しています。では、今回はこのへんで。

「Laughing baby」






おーい屁、出てこい

2019.09.03 (Tue)
※ 超ナンセンス話です。
  わかる方はわかると思いますがパロディでもあります。

じゃあ書くけど、これは本当にあったことだよ。俺が小学校低学年の頃だな。
自分の部屋にいると、机の下に何か見慣れないものが転がってた。
直径30cmのボール状だったが、木の皮のような質感があった。
足で転がそうとしたら、それは勝手に動いて俺の膝の上に跳び上がってきた。
見ると、ボールの中に直径20cmほどの穴あいてた。

そしてその上に、木札が横についてて「屁(へ)入れ口」って書いてあったんだ。
「あれ、なんだよコレ」そういう意味のことを言った。
そしたらそれは宙に浮き上がって、イスに座った俺の背後に回ったんだ。
不思議と怖いとは思わなかったな。振り返るとそれは、
穴のほうを俺に向けて宙にとどまってた。そんときに屁がしたくなったんだよ。

それでせっかく「屁(へ)入れ口」って書いてるんだからと思って、
俺はその上に半ズボンの尻を当てようとした。
そしたらそれがずずっと下に下がってちょうどいい高さになったんだ。
それで、おもむろに座って、中に「ぶーっ」とやった。
屁が入って満足したのか、それはぱっと消えてしまったんだ。
もちろん夕飯のときに家族に話したが、みな笑って取りあってくれなかったな。

それから、この屁入れボールは何度も出てきたが、
俺の部屋ではない場合もあった。ただし、すべて俺が一人だけで、
しかも屁をしたいときにかぎってた。家族に見せようと
知らせに走ったこともあったが、戻るとそれは消えてたんだ。
そのとき、なぜだかその中に屁をしないのがもったいない気がした。

それで俺が中学、高校、大学、そして就職してからも、
転居してても屁入れボールはときどき現れ、
俺はその中にさまざまな屁をし続けたんだ。
で、俺の結婚式のときだよ。ケーキの入刀で嫁と2人でナイフを持ってたら、
久々にあのボールがころんと出てきた。
俺以外のやつらがいるときに出たのは初めてで、
あっ、と思った。式に出てるやつらは、それが中から落ちてきたのに、
余興の飾りか何かと思ったのか、まったく動じてなかった。

ただ、俺は嫌な予感がした。なんでかというと、
ボールに「屁(へ)出し口」って書いてあったからだ。
「いよいよ2人で歩む人生はじめての共同作業・・・」式の司会がこう言ったとき、
ボールの中から、「あれ、なんだよコレ」という意味の子どもの声が聞こえてきた。
そして次に「ぶーっ」という音、それからは「ぶぶびび」 「ぶばばば」
「すーぴっぴ」 「ぱぷおーん びびび」 「ぶーすぷぉぉお」・・・

次々に屁が出てきたが、これが長期間中で発酵していたせいか、
ものすごく臭かったんだ。ホテルのボーイの一人が
気がついてみたいで、ボールに近づいたが、「うっぷ、臭ええあああ!!」
そう一言いってばったり倒れた。それからが大変だったんだよ。
前のテーブルにいた幼児が火がついたように泣き出し、
なだめようとした母親が、いきなりマーライオンのようにゲロを吐いた。

ナイフを持ったまま嫁さんがドーンと後ろに倒れ、
かけ寄ってきた親族も次々に倒れた。屁出しボールは宙に舞い上がり、
テーブルの上をぶぶぶぶぶぶと飛び回って、
大勢が吐いたり倒れたりしたんだ。もちろん式場はエアコンも換気扇もあったが、
とうてい間に合うような臭さじゃなかった。最後にボールは俺のほうに近づいてきて、
ケーキのロウソクをかすめた。その瞬間、ボカーンと会場全体が爆発したんだ。
死者がでなかったのが本当に幸いだったよ。

えCDC




看護師の話 3題

2019.09.02 (Mon)
大学病院勤務 西田美優さんの話
私は某大学附属病院の放射線科に勤務しています。内部の移動で
放射線科に変わったときは、正直怖いなと思ったんですが、
分掌は外来の受付でした。はい、自分から外来の希望を出してたんです。
結婚して、夜勤のある入院病棟はもう難しいと思いましたので。
しかも待合室前の受付ですから、放射線被曝の心配もありません。
それで、大きな病院なので、毎日大勢の患者さんが検査に訪れます。
単純X線やCTはさまざまな病気の方が来られますが、
PET検査を受けるのはまず癌患者さんだけです。
その待合室に、いつも座っている50代に見える男性がいました。
灰色のコートを着て、油で頭をびしっとなでつけてる。
観察していてわかったんですが、その人、健康食品の業者なんです。

癌は治る病気になったとはいうものの、それは転移がなく、
原発巣が切除できる場合だけで、PET検査などで転移巣が見つかると、
手術はできず化学療法になります。化学療法では完治は望めません。
癌を放置した場合と比べて、わずかな期間、延命できるだけなんです。
その人は、そういう患者さんやそのご家族を待っていて、見つけると
人の良さそうな笑みを浮かべ、「たいへんね、・・・わかりますよ」
と言いながら近づいていきます。それで、波動水というのを言葉巧みに
販売するんです。「大丈夫、抗癌剤と併用すれば治りますよ、頑張りましょう」
常識で考えて、そんなので治るはずはないんですが、告知を受けて
手術できなければ末期癌です。ショックで頭がいっぱいのとき、
その業者の言葉は、水が染み込むように入ってってしまうんですね。

その波動水、1本4万円のものを週2本飲むみたいですから、
月に40万近くかかります。それで、効果はほとんどない、詐欺同然のものです。
ですから一度、放射線科の准教授に思い切って報告したんです、
どうにかなりませんかって。そしたら、准教授は少し苦い顔をし、
「あの人な、ここの病院の理事長の知り合いらしいんだ。だから、
 かまわないでおくように教授からも言われてるんだよ」頭を振って
こう言われたんです。放射線治療に来た患者さんの中には、
待合室でその波動水を飲んでる方も見かけました。でも、よほどのお金持ちで
なければ、お金が続かないですよね。一昨日です、その人のところに
60代くらいの男性が来てました。男性は病状が進んで かなり具合が
悪そうでしたが、声高に話していて、こんな声が聞こえてきたんです。

「もう・・・貯金は使い果たして、借金までしてしまった、なのに
 どんどん具合が悪くなる一方だ!」 「大きな声を出すのはやめてください。
 それは中には効果がない方もおられます。そうお話したでしょ。残念ですが、
 もう私にできることはありません」その患者さんは頭に血が登ったようで、
よろめきながら立ち上がり、「この・・・」波動水業者のコートの襟首を
つかもうとしました。業者は慣れた様子ですっと後ろに下がり、
待合席の席から30代くらいの男性が2人立ち上がったんです。業者は、
床にへたりこんだ患者さんに向かって、「この人たちは弁護士ですから、
 あとは別の場所で話をしてください」患者さんは、両脇を抱えるようにして
ホールのほうに連れてかれましたが、そのとき、業者のいる真上の天井に、
一瞬、むくむくと黒い雲のようなものが広がり、すぐに消えたんです。

クリニック勤務 三沢瑛美さんの話
私は、駅前にある免疫療法クリニックで働いていました。はい、今はもう
やめてます。免疫療法はご存知でしょうか。癌に対して、患者さん自身の
免疫細胞を強化し、自然治癒に導く。でも・・・はっきり言って、
副作用はないかわり、ほとんど効果もないんです。そのことは、
勤務する前から知ってました。じゃあ、なんでそんなとこに勤めたんだと
思われるでしょうが、すごくお給料がいいんです。一般病院の倍近くでした。
治療費は、自由診療ですから高額です。そのクリニックでは療法1コースが
120万、あとは患者さんの懐具合を計って、4コースとか6コースとか
決めるんです。はい、はっきり言ってインチキなんですが・・・
一般病院と違って、医師はみなすごく優しいんです。患者さんにとって
聞きたくないようなことは絶対に言わないし、診察にも長い時間をかけます。

だから、心の面では安心感だけはあったと思います。まあ、お金が続くうちは。
この間、若い女性の患者さんがみえたんです。まだ20代後半でした。
近くにいて話が耳に入ってしまったんですが、シングルマザーでまだ幼い男の子を
育てているということでした。その患者さん、肺腺癌が見つかったんです。
大きな病院に紹介され、そこでは、転移はなく根治手術が可能という
診断だったそうです。でも、その患者さん、すごく手術を怖がってたんです。
たしかに、麻酔の事故などが起きる可能性はあります。それと、仕事を長期間休めない
ことも気にされていました。手術後は術後化学療法を受けることなりますから、
抗癌剤にも不安があったんだと思います。クリニックの医師はこんな話をしました。
「手術可能でも、完治できるとはかぎりません。検査機器では見えない転移があって、
 手術の途中でやめちゃうケースも多いんです。また、抗癌剤を使用した場合、

 100人に1~2名の割合で副作用死があります。うちの免疫療法で必ず完治するとは
 お約束できませんが、副作用はまずありませんし、お仕事を続けながらでも
 治療できます。・・・どうするかは、ご自身でよく考えてお決めになってください」
その患者さんが帰った後、医師は私に向かって、「今の患者、どうすると思う。
 思い切って手術を受けるか、それとも当院に来るか。どうだ賭けをしないか」
笑いながらそう言ったんです。もちろん賭けは断りました。2週間ほどして、
その患者さん、クリニックを再訪されたんです。もう医師は満面の笑みで、
「よく決断されました。いっしょに治すよう頑張りましょう」って。検査のため、
患者さんが別室に行くと、医師は私のほうにくるりとイスを回し、Vサインしたんです。
そのとき、医師の頭の上にむくむくと黒い雲のようなものが広がり、すぐに消えました。
そんなの見たらもういられないですよね。すぐに辞めさせてもらいました。

〇〇癌センター勤務 峰村恵子さんの話
はい、私は〇〇癌センターの消化器内科の外来に勤務しています。もちろん、
癌センターですから、ほぼすべての患者さんが癌の診断、治療に来ています。
中には腫瘍が良性であることがわかって、喜んで帰っていく方もおられますけど。
1日数千人の患者さんが来られますので、一人の診察時間は3分程度しかありません。
手術でない患者さんには、血液検査の結果を説明して、外来化学療法室で
抗癌剤の点滴を受けてもらいます。ただ、時間をとる場合もあり、
それは最初に癌の告知をするときと、余命をお知らせするときです。
はい、〇〇センターでは、エビデンスに基づいた余命は、できるかぎり
ご本人にお知らせする方針なんです。・・・ここからは、病院の恥を話さなくては
なりませんが、私自身、どうしたらいいのか迷ってまして。

ここのみなさんにお知恵をお借りできたらと思います。
診察室は、小さな部屋が横長に20室以上並んでいます。診察室の奥は、
それらの部屋をすべて通した細長い通路になってて、医師からの指示があれば、
看護師がいつでも駆けつけることができるんです。
それでその日、3時過ぎに外来診察時間が終わり、先生方は食事に出たり、
入院病棟や研究所のほうに行かれたりします。私の勤務は5時半までで、
書類を書いたり片づけをしたり、いろいろやるこがあるんです。
その後ろの通路を通って各室を見て回っていると、一つの診察室から
薄い黒い雲のようなものが流れ出ているように見えました。「え、何か燃えてる?」
と考えましたが、焦げ臭い臭いはしません。入ってみると、たしかに煙が流れていて、
特にある一ヶ所で濃かったんです。はい、棚の上にテイッシュの箱が置いてあって、

その上から天井にかけて広がってました。変だなと思たんです。
患者さん用のテイッシュは診療台の近くにあります。医師が使うために持ってきた
としても、あんな手の届かないところに置くのは。手に取ると重く、カタカタと
何か固いものが入っている音がしました。箱を回してみると・・・巧妙に隠して
ありましたが、レンズが見えたんです。ビデオカメラ? そこで、すごく迷ったんです。
このまま気づかなかったことにしてしまおうかって。でも天井の煙が・・・
慎重に上のテッシュを取り出し、医療手袋をはめてからカメラを出してみました。
子どものビデオを撮ってるので、操作のしかたはわかりました。電源を入れ
巻き戻してみると、映ってたのは、癌の告知、余命宣告を受けている患者さんの
様子の隠し撮りだったんです。何人も何人も、がっくりと肩を落とし、泣き出す人も。
その日、その診療室を使っていたのは、最近離婚したばかりのY先生でした。