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雪の中での話

2016.01.31 (Sun)
去年のクリスマス前の話です。彼女と一泊でスキーに行ったんですよ。
場所は長野のほうです。ええ、はい、雪が少なくて、まだ新しいスキーにだいぶ傷がつきました。
で、この帰りのことなんです。俺の車で行ったんですが、
彼女が途中で寄りたいところがあるって言って、
それは有名な手芸の店だったんですけど、高速を通らずに下の道を戻ってきたんです。
10時にペンションを出て、まだ午前のうちだったんですけど、
急に吹雪が激しくなりました。風が強かったんですね。
だから降雪はそんなでもないんだけど、地吹雪っていうのかな、
軽く積もった新雪が風に舞って、前が見えないくらいだったんです。
路肩に退避しようとも考えたんですけど、彼女が「後続車も前が見えないから、追突されるかも」
って言って。彼女は一家で新潟から都内に引っ越してきたんで、俺より雪のことは詳しいんです。

だからライトもフォグランプも全部つけて、そろそろと進んでいったんです。
車通りの少ない時間帯だったのが幸いしました。事故には合わなかったんですが・・・
そこらの道って、降雪はそんなでもないのに、両側が1mほどの雪の壁になっていまして。
おそらく毎日の除雪で積み重ねられたものなんでしょうけど、
しばらく進むと、その雪の壁に前部を突っ込んで止まってる車があったんです。
「あ、事故か」と思いましたが、そのわりに車は潰れてるというわけでもありませんでした。
車は大型のアメリカ車のSUVでした。リンカーンのなんとかって言うやつです。
「動かないから、乗り捨てていったんじゃないか」俺がそう言うと、
「でも、ライトがついてるわよ」と彼女。
たしかにリアのフォグランプがついてました。それで、ケガ人がいたらと思って、
後ろに車をつけて停め、様子を見にいったんです。

その車はボンネットの3分の1くらいを雪の壁に突っ込んでいました。
前のウインドウから覗き込むと、運転席にも助手席にも誰も乗っていませんでした。
7人乗りのようでしたが、後ろの座席にも人の気配はなし。
ああ、これはやっぱり救援を求めに行ったんだろうと思いました。
できることはなさそうなので、車に戻ったんです。そしたら彼女が、
「誰もいなかった? でも、一番後ろの席で動いてる人がいたよ」こう言いました。
「え、そうかな」 「ほら」彼女が指差したリアウインドウを見ると、
濃いスモークが入っていてはっきりとはわかりませんでしたが、ぐっと乗り出すようにして、
こっちを見ている人がいるようでした。いえ、子どもじゃなかったです。
普通の大人より大きいようなシルエットで・・・音は聞こえないんですが、
ゴン、ゴンという感じでウインドウに頭をぶつけているように見えました。

「あれ、助けを求めているんじゃない?」彼女が言い、
「わかった、もう一度見てくる」 「私も行くから」2人で後部ウインドウに近づきました。
かなり分厚い布か毛布のようなものを被った人が横たわって動いているようでしたが、
はっきりとはわからず、また助手席のウインドウに回りました。
「えっ!」三列目の席から身を起こした形になっているのは、
毛むくじゃらの・・・たぶん大きな鹿でした。動物とは思わなかったので驚きましたよ。
さっき見えなかったのは、座席の床の部分に落ち込んでいたんでしょうか。
鹿は頭をもたげて、さらに驚かされました。頭の部分に、角隠しっていうんですか、
あの和装の花嫁衣装が被さっていたんです。それで、鹿の顔の部分は見えませんでした。
角はなかったので、雌の鹿なんだとは思います。「何だよこれ・・・」
彼女も俺の後ろから車をのぞき込んで「何、何、どしたの? あー 鹿!」と驚きの声を上げました。

それはそうですよね。動物を運搬するならそれなりの車を用意するはずで、
いくら大型のアメ車といっても鹿を運ぶのはちょっと。
それにね、角隠しのことはどう考えてもおかしいでしょう。
なんだか気味悪くなって「もう行こう」と彼女に言ったとき、
後ろの吹雪の中から「こらあ、お前ら何やってる!」という怒声が聞こえました。
振り向くと、吹雪の中から白い人と黒い人が出てきたんです。
これは普通の人間でした。黒い人というのは黒の革コートを着た背の高い男で、
40代くらいでしょうか、鋭い目つきをしていました。
もう一人、白い人というのは小柄で、対照的に柔和な顔の初老の神主さんでした。
本職の神主かはわかりませんが、その服装をしていたんです。「あんたら、人の車に何やってる」
黒い人は怒鳴り続け、神主さんがまあまあ、というようにそれをなだめました。

「その鹿は、神事に用いるものですよ。いや、車のトラブルです。もうすぐ応援が来ますので、
 ご心配なく」神主さんがそう言い、俺はそれで安心して「そうですか、じゃあこれで」
そう答えたときに、背後で彼女が「キャッ」と叫ぶ声が聞こえたんです。
俺はそっちに行って腕を引っ張り、「じゃ行きますんで、お気をつけて」こう言いました。
すると神主は「ああ、ありがとうね。ところで鹿の顔を見ましたか?」
「いや、被り物をしてたんで見えなかったですけど」
「ならいいんです。・・・ひどい吹雪ですので、そちらもお気をつけて」
こんなやりとりをして車に戻り、発進させました。
その頃には、風はおさまってきていて、視界もだいぶよくなっていたんです。
「ちぇ、心配するまでもなかったな。神事に使う鹿だって」
話しかけても彼女から返事はありませんでした。呆然と前を見つめたまま、
全身が小刻みに震えてて。「なんだ、冷えたのか?」

「わたし、鹿の顔見ちゃった。◯◯があの人たちと話をしてるとき頭の覆いがずれて・・・」
「え、そう言えば神主が、鹿の顔がどうとか話してたな。何かおかしなとことかあった?」
「・・・」 「おい、どうしたんだよ」それ以降、俺がいくら話しかけても、
返事してくれなかったんです。楽しみにしていた手芸店にも寄らず、
ずっと震えていたので、額に手をあてたらひどい熱があって、
東京に戻って病院に直行したんですが、日曜なので救急外来しかやってなくて。
熱以外に風邪の症状はなく、インフルエンザの検査も陰性でした。
2時間かけて点滴をしてさらに1時間ほど休んだら、
熱は下がったんです。詳しい検査は明日ということになり、彼女の家まで送ったんです。
翌日は俺は仕事があったんだけど、彼女は家族といるんで大丈夫だと思ってまいした。
昼休みにはメールを入れたんですが、つながってないみたいで。

夕方にスマホに連絡してもやはりつながらず、しかたなく家の電話にかけました。
彼女のお母さんが出て、ええ、俺との交際は知ってるんで問題はないんですけど、
彼女が出たくない、って言ってるってことだったんです。
で、機嫌が悪いのか聞いたらそうじゃないって。体調が悪いとも言ってないし、
むしろ上機嫌で部屋にこもって編み物をしてるって。
はい、さっき手芸店の話がちょっと出たでしょう。
彼女の趣味が毛糸の編み物なんです。暇があればいつもやってたんです。
その日はそんな感じでしたが、翌朝スマホにかけたら出て、怒ってる感じはなかったんです。
「昨日はどうしたんだよ」って聞いても、「夢中になって編み物をやってた」って言うだけで。
それからは特に前と変わったことはなかったんです。
ええ、俺のほうからも、あの雪の中で見た鹿の話はしませんでしたし。

その週の土日も、遊びに行く約束もしていたんです。
で、金曜の夜です。彼女のほうから連絡があって、明日の打ち合わせかと思ったら、
声が震えてて「もう数針で、編み物ができてしまう」みたいなことを言って泣いてたんです。
「何言ってるんだ? これから家に行くから」
「もう会えないと思う・・・あなたのお嫁さんになっりたかった、さよなら」
これで切れてしまいました。もちろん彼女の家まで飛んで行きましたよ。
でも、部屋には誰もおらず、家族にも行き先を告げていませんでした。
スマホも財布も部屋に残ってたんです。スマホを持たずに行動してるなんて考えられないし、
キャッシュカードもないんですよ。それから手をつくして探してるんですけど、
行方知れずです。あとですね、これは関係あるかわかりませんが、編み物が部屋に残ってまして。
すごく大きなものだったんです・・・ 首と手足、5つの穴があって、鹿が着れるほどにも。






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コメント
 今さらながら帰国されたことを知りました、お帰りなさい。大変なことだったようで、お疲れ様でした。今後も興味深い作品が読めるのを嬉しく思います。
 そしてこの話ですが・・・ううむ、鹿ですね。あのシリーズとはどうも違うようですが。管理人さんにとって、鹿は怪異に近い動物というイメージなんでしょうか。
 それと、いつかここで読んだ「出張先で見た花嫁行列に自分の奥さんがいた」という話を思い出しました。あの話でも確か最後は・・・
| 2016.02.06 22:47 | 編集
コメントありがとうございます
お心遣いにもかさねてお礼します
そうですね、鹿は昔金華山に行ったときに怖いことがありまして
トラウマになっているのかもしれません
bigbossman | 2016.02.07 07:06 | 編集
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