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山の基地の話

2016.02.01 (Mon)
中学のときのことだよ。まあだいぶ昔のことだと思ってくれ。
当時から俺は、あんまりたちのいい仲間とつき合ってなくてな。
ああ、思い出した。2年のときのことだった、秘密基地があったのは。
なんでかって言うと、3年がウザかったからで、上下関係は絶対だから、
3年といっしょにいると使い走りをさせられる。それが嫌でね、
俺ら2年だけで過ごせる基地をさがしたんよ。うん、山の中っちゃそうだけど、
人里離れた場所をイメージしてもらっちゃ困る。
けっこうでかい駅の裏っかわなんだよ。そこは山地の尾根の突端みたくなってて、
30万都市なのに、熊はもちろん、猪や雉も出たんだ。
今は、そこらは開発されて団地になっちゃってるけど、
当時は、ジジババが山菜採りに行く程度の道しかなかった。

で、仲間の一人が、放置された小屋をたまたま見つけてきたんだよ。
全部木造のボロ小屋で、下は土間、中央には囲炉裏が切ってある。
昔々に炭焼きなんかが使ってたのが残ってたんだろうな。
うーん広さは、囲炉裏を囲んで5人くらいで座るともういっぱいだったから、
6畳程度だったんだろうか。当時は広く感じたけどな。
何に使ったかと言えば、学校サボったときなんかに寝てたりするんだ。
毛布を家から持ってきたやつもいた。あと、すげえカビ臭かったんだよ。
カビ・・・コケの臭いなんかなあ。とにかく臭くてこれが一番まいってた。
だから、その基地を知ってるやつは全員、家から一人一つ芳香剤を持ってくる義務があったw
あるときはみなで、壁のコケを落としたりもしたんだよ。
で、コケ臭さがなくなった代わり、今度はタバコ臭くなった。

そうそう、秘密基地を求めた理由の一つは、自由にタバコを吸いたいってのもあったんだ。
俺の家じゃあきらめてたけど、往来で吸うと通報されたりするから。
基地を見つける前は、線路に入って吸ったりしてたんだよ。
それが囲炉裏だろw 巨大灰皿つきってわけだ。こりゃ便利だし、吸い殻を灰の中に落とせば、
火事になる心配もまずないってか、火事になっても周りに家のないボロ小屋一つなんだが。
とはいえ、さすがに火事を出して俺らが特定されれば、家裁の審判になる。
ああ、仲間にはけっこういたんだよ。鑑別所、保護観察処分、少年院・・・
あとはエロ本とかは各自がそれぞれ持ち込んで来てたな。
奥に山になって積まれてた。で、さっきもちょっと話したけど、3年には極秘中の極秘。
必ずとられちまうからな。ああ、ふだんは鍵をかけてたよ。最初見つけたときは、
中からか閉めるつっかい棒しかなかったんで、それじゃあ意味ないだろ。

だから誰かが、自転車のクサリ鍵をもってきて、針金を通して扉につけた。
番号回すやつな。それでメンバーだけに教えたんだ。
ああ、メンバーは10人まではいなかったはず・・・8人くらいか。
そん中でよく集まるのが5人。え? いつまでも話が始まらないって? スマンな、今からする。
夏休み中のことだよ。夜にその基地に集まろうってことになった。
台風が来る予定になってたんだ。なあ、今でもワクワクするよ。
気の合った仲間で集まって、ビール飲んだりして、今にも吹っ飛ばされすな小屋で一晩過ごす。
ああ、ああ、家じゃあ心配なんてしないよ。俺のとこなんか親父自体が、
たまにしか家に戻らず、金も入れなかった。そういうやつらばっか集まってたんだ。
その日来たのは5人だったな。みなどっかから酒を仕入れてきてた。
夕方に集まったんだが、もうすでに風が強くなって、ポツポツ雨が降り出してきてた。

で、みなでタバコをスパスパ吸いながら、人の噂や悪口を言い合ってたんだが、
だんだんに怖い話になってきた。といっても、誰もたいして怖いやつは知らないんだよ。
当時はネットもなかったし、テレビの怪談番組で見たような話ばっか。
9時を過ぎたあたりから、本格的に雨風が激しくなった。
とにかく木が揺れる音がスゴイんだよ。ザーッ、ゴーッって。
気温が下がってきたのはよかったけどな。そのうちに一人が「これなあ、もし幽霊が来るとしたら、
 あの戸を叩いたりするんか?」って言った。みなが戸口のほうを見て、
別の一人が床にほっぽってあったつっかい棒を戸にかけた。
「でもよ、幽霊も台風の日は隠れてるんじゃないか」 「ああ、風で飛ばされそうだよな」
「それに、昔から思ってるんだが、こんな山の中で死ぬ人なんてほとんどいなくね。
 俺んちの近くなんてよく救急車が来てるけど、街中のほうがずっと死人は多いだろ」

「そう言われればそうだな。ああでも、何年か前、この奥の山で山菜採りの年寄りが死んだじゃね」
「ババアの幽霊かよ。見たくねえなあ」 「でもなあ、あの戸がノックされて、
 開けてみたら幽霊がいた、なんてことが本当にあると思うか?」
「ないない」 「そんなのあったら世の中がひっくり返る」
「だろ、だからもし幽霊が来るとしても、それは姿がないもんで、気配だけスーッと入ってきて、
 この中の誰かにとり憑くとかじゃないかなあ」話がここまで進んで俺はちょっと怖くなった。
戸の外に髪の長い女がずぶ濡れで立ってるとか、そんなことはありえないが、
誰かがとり憑かれて暴れだすなんてのはありそうな気がしたんだ。
他のやつらもそう思ったんじゃないか。小屋の中が少しシンとなった。
「うーん、じゃあ誰が取りつかれやすいんかな」このときにみなの視線が一人のやつに集中したんだ。
俺らみたいな仲間ってのは力関係がそれぞれ決まってて、中にはみなから軽く見られてるやつもいる。

視線が集中したのは、けっこう勉強のできるいい家のやつだったが、
親に反抗して俺らの仲間に入ったんで、体も小さくケンカなんかはできなかったんよ。
ただ、使い走りをやらされてるってこともなかったがな。そういうのは1年をつかまえてやらせる。
「ちょ、ちょっとやめてくれよ」そいつがおどけた感じで言ったんで、その話題は終わった。
台風はいよいよ本格的になり、俺らの中にはビールが回って歌い出すやつもいたが、
話することはなくなって、1時過ぎにはみんな寝たんだよ。
つけっぱなしで吊るした懐中電灯と囲炉裏の火で小屋の中は明るく、
夏だったから寒くはなかった。俺もうとうとしてたが、突如、ドンドンドンドンって戸が叩かれたんだ。
みなすぐに飛び起きたよ。いや、幽霊とは思わなかった。
もっとやばい事態、わかるだろ。警察だよ。誰かが通報して、警察がどうやってか基地を見つけて、
俺らをつかまえにきたと思ったんだな。こういうとき、人は現実を考えるもんだよ。

ところが、ずっと戸が叩かれるだけで、「開けなさい」の怒鳴り声もない。
俺らは顔を見合わせてたが、もし警察だとしたら、絵に描いたような袋のネズミだろ。
逃げようがない。ドンドンドンという音が、ドッカン、ドッカンとなって、
戸の板がたわむのが見えた。外から足で蹴っているんだと思った。
それでも誰も動こうとしなかったが、さっき話に出てきた、仲間内で軽く見られてたやつが、
ふっと立ち上がって、つっかい棒を外して戸を開けたんだよ。
俺らも立ち上がって身構えた。チャンスがあれば逃げられるようにってわけだ。
戸が開くと、ガーッとスゴイ音がして風が吹き込んできた。
「あっ! 誰もいない」って開けたやつの声がし、俺らは一斉に外へ飛び出した。
確かに誰もいないし、土砂降りの雨で戸に足跡がついてるとかもわからなかった。
ま、こんな話なんだ。それからは翌朝まで何事もなく、9時過ぎには解散したよ。

あとは後日談だ。あのとき基地の戸を開けたやつだが、新学期が始まってそうそう、
隣の中学のかなり評判になってるやつとケンカしたんだよ、一対一で。
しかも勝ったっていうか、相手が大怪我をして入院したんだよな。
これでそいつは家裁送りになったが、親が弁護士をつけたために、
少年院ってことにはならなかった。でな、鑑別書から出てきてから、
なんだか人が変わったようになったんだ。うーん、気が強くなったし、冷酷になった。
俺らともあんまりつき合いはなくなったんだよ。
中学を卒業して、俺らのほとんどは底辺高校に行くかプー太郎になった中で、
そいつは東京の私立に入り、すげえ大学に行った。で、その後しばらく話を聞かないと思ってたら、
本職のヤクザになってたんだよ。名前を聞けば知ってるやつは多いだろうな。
うん? その夜のこととは、関係があるのかなあ・・・それはちょっとわからんねえ。








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