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老人施設の慰問の話

2016.02.02 (Tue)
これは、アパート経営をしているMさんからうかがった話です。
Mさんは現在、60代の後半ですが、ひじょうにお元気で山登りなんかもされています。
今は郷里に戻ってるんですが、若い頃は芸人になる夢を持って大阪に出て、
40歳近くまで頑張ったんですが、芽が出ませんでした。
寄席や地方も回ってそこそこに食えてはいたものの、爆発的に売れるとも思えなかった。
そのうちに、あることがあって芸人生活に見切りをつけ、
親父さんから金を借りてアパートを建てたんですね。
その後ご両親は亡くなられましたが、アパート経営のほうは順調で、
今は悠々自適の生活をしておられます。
で、ヒマがあるので、地域の老人施設の慰問を始めました。
これは、市の係を窓口にしていますが、まったくのボランテイアです。

若いころに磨いた芸を見せて回っているんですね。この芸というのが音楽漫談でした。
Mさんはアコーディオンを弾くんです。その他、ハーモニカもできます。
現役の頃は相方がいて、漫談ですからしゃべりもあったんですが、
今はもっぱらアコーディオンとハーモニカで懐かしい歌を演奏する。
相手がお年寄りですので、Mさんが子供の頃に流行ったものか、それよりちょっと古い曲。
戦前の小学校唱歌や「支那の夜」「夜来香」とか、そういったものです。
老人施設のお年寄りが食堂などに集まっているところで演奏すると、
まだお元気な人は陽気な曲で手拍子をしたり、車イスで動けない方が黙って涙を流していたり、
声を揃えて合唱したり、それはやりがいのあることだったそうです。
老人施設は、最初は近辺の数カ所に行っていただけでしたが、
評判がよかったため、近くの市とも関係がつき、遠出をするようにもなりました。

で、車で1時間ほどかかる他の市の老人施設、これは有料高級介護施設でしたので、
お元気とはいえないお年寄りも多かったそうですが、
そこで慰問をしたときに不思議なことがありました。いつものようにアコーデンオンで伴奏し、
同時にハーモニカでメロデイを吹いてました。そのときは童謡などではなく、
30年ほど前に流行った演歌で、漫談のステージでもよくやっていたものですが、
曲に合わせて、カツ、カツという音が入る。
ちょうどカスタネットみたいな音でした。おかしいなと思って周囲を見たんですが、
何かを叩いている人がいる様子はありませんでした。
エアコンなどの機械の音ではなかったそうです。完全に曲に合っていたので、
意識的に鳴らしてる音に違いないのですが、出どころがわからない。
すべての曲で鳴るわけではなかったんです。昔ステージでやった曲だけ。

これはおかしいとは思いましたが、お年寄りも施設の職員も、
特別不審がっている様子はなかったので、その日はそのまま帰ったんです。
それから半年ほどして、他のところでは何もなかったのに、
その同じ老人施設に行くと、また特定の曲に合わせてカチ、カチという音がする。
けれども原因がわからない。それで、そのときは終った後に、
お礼を言いにきた所長さんに話してみたんです。そうしたら、所長さんは少し考えこんでから、
「ああ、もしかしたら◯◯さんがわかるかもしれませんよ。
 今から部屋に行って話をしてみますか」こう言いました。
◯◯さん、は施設に入所しているお年寄りのお婆さんなんですが、
なんでも50歳頃まで、とある新興宗教の教祖!をされていたのだそうです。
その教団は今でもあり、若い人に代替わりしているものの、

教団関係者がひっきりなしに施設に訪ねてくるんだそうです。所長さんは、
「これオフレコにしてほしいんですが、◯◯さんの回りではいろいろと不思議なことが起きるんです。
 私自身を含めて、職員のほとんどは体験していますから」
で、半信半疑ながら所長さんとともに、◯◯さんの個室を訪れたんです。
◯◯さんはベッドに起き上がって何か手芸、お手玉のようなものを作っていましたが、
Mさんが入ると顔をあげて、「さきほどの音楽すばらしかったですよ、涙が出ました」
と言いました。頭のほうはボケなどはまったくなさそうに思えました。
Mさんが、さきほど聞こえた音のことについて話すと、小首をかしげてから、
Mさんを手でベッドの端に招きました。そこでイスに座らせて、手のひらを額にあてたんです。
「このときは不思議でしたよ。スクリーンがなにの映画が始まったというか、
 頭の中に突然、極彩色の景色が流れ込んできまして」

「撮影テクニックでズームアップってあるでしょ。大きな風景から、
 だんだん小さなものに焦点が絞られていく。ああいう感じで、最初に険しい峡谷が見えました。
 岩だらけの谷川を高いところから見下ろした感じですね。
 それからどんどんカメラが下がっていって、そしたら川原の尖った岩の間に、
 歯があったんです。ええ、人間の頭蓋骨の一部と言ったらいいか。
 上顎と下顎の部分だけが、岩の間にはさまっって」
その白白とした上下の歯が、カチ、カチ、カチと、合わさってリズムを刻んでいたんですね。
「すぐに何だか・・・誰の歯かというのはわかりましたよ」
これはMさんが芸人時代の相方の歯に違いないと思ったそうです。
今から30年近く前に行方不明になっているんですね。
それが原因でコンビ解消せざるをえず、Mさんが廃業するきかっけになりました。

「ええ、よくある話でね。楽屋で流行ってた野球や相撲の賭博に手を出してたんです。
 これね、けっこうやる人は多かったんです。今はどうだか知りませんでしたけど。
 小遣い範囲でやってるうちはいいんでしょうが、
 負けを取り戻そうとして、中には倍々で賭けてしまうやつもいるんです。
 相方が博打にはまってたのは知ってましたよ。だって始終その筋の人が来てましたから」
ある日、予定をすっぽかして、その相方が消えた。
「いや、事件ってことはないでしょう。自分から消えたんだと思いますよ。
 どっかで心機一転新生活を始めることができるような性格ならよかったんでしょうが、
 これは死んでる、と直感しましたよ。どっか人知れないところで」
つまり、◯◯さんの手によってMさんが見たビジョン?は、
その相方の現在の姿ということだったんでしょう。

まだ行方不明のままですから。山中の岩場から投身自殺して、
遺体は砕けて川に流されたものの、頭蓋骨の一部が岩にひっかかっている。
それでMさんは◯◯さんに、その見えた景色の場所を聞いてみたんですが、
地名はわからない、と言われたそうです。ただ、北陸のあたりという感じはする、って。
それから、Mさんの趣味に山登りが加わったんですね。
慰問のボランテイアとともに、北陸方面の山歩きを始めた。
Mさんに見えたビジョンは、そんなに高いところではなさそうでしたので、沢登りを中心に。
それから4年かかりましたが、ついに相方の歯を発見したんですよ。
警察に連絡して、歯科治療跡から間違いないという結論が出ました。
その他、いくつかの骨片も見つかったそうです。
ほとんど人が来ることはないような、渓谷の支流だったということでした。

「『 秋風の ふくにつけても あなめあなめ 』というのをご存知ですか」
「ええと、小野小町のエピソードですよね。(これは自分です)年寄って美貌が衰え、
 野辺にいき倒れて死んだ小野小町の、野ざらしの頭蓋骨の眼窩からススキの穂が生えてきて、
 秋風が吹くたびに穂が揺れて目が痛い、と幽霊になって在原業平に訴えるという話ですね」
「ええ、まあ相方は男ですし、色っぽい話ではないんですが、
 このエピソードを思い出しました。死んでからもねえ、アコーディオンに合わせてくれたんですね」
「うーん、これは◯◯さんの力があったから、それが起きたってことなんでしょうかね」
「不思議ですけど、そうなんでしょう」
ということで、集めた遺骨は念入りに供養しました。
その介護施設にはその後もたびたび訪問していますが、おかしなことはなかったそうです。
ただ、◯◯さんは昨年お亡くなりになったということでした。






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コメント
 内容は全然違うんですが、ふと「歌うしゃれこうべ」を連想しました。こちらは少し物悲しい、でも少し救いを感じる話ですね。Mさんと相方さん、友情は本物だったんだと思います。
| 2016.02.06 23:04 | 編集
コメントありがとうございます
経を読む骸骨というのは上田秋成も書いていましたね
野ざらし・・行き倒れの骸骨というのは
昔はけっこう見慣れたものだったかもしれません
bigbossman | 2016.02.07 07:10 | 編集
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