FC2ブログ

柱の日

2016.02.04 (Thu)
こんばんは、じゃあ話をさせてもらいます。あらかじめ断っておきますが、
私自身に何かが起きたという話じゃないんですよ。
私が生まれ育った町にある風習についてです。だから、そんなに怖い内容でもないんです。
はい「柱の日」というのがあったんです。期日は7月1日ってことになってましたが、
江戸時代からあることなので、旧暦では何日になるのか、
諸説があってはっきりしないんです。
それと、どうしてそれが始まったかのいわれも伝わっていません。
当時の町の長老も知らなかったし、町史をひもといても記されていないんです。
ただ、柱の日というのが決まっていて、その日は川を渡っちゃいけないことになってたんです。
ええ、そこの町は大きな川の中流域にあって、
あちこちに橋があって4つほどの地域に分断されていまして。

ええ、これはかなり厳格に守られていました。そうすると、通学通勤に困ると思うでしょう。
確かにそうでしたよ。小学校は地域に一つずつあるので問題なかったですが、
中学校や高校は、橋を渡っていく子は休むしかありませんでした。
もちろん仕事もね、町の中で働いてる人なんて少なかったですから、
橋が通勤路に入っている人は年休を取るしかなかったんです。
ただね、近隣の市では、その町の風習は知ってましたから、
「ああ、この日はしかたない」って雰囲気もあったみたいです。
ほら、他の地域でも、大規模なお祭りがあって休むことだってあるじゃないですか。
うーん、その日は特に何かをするわけではないんです。
町内のほとんどの家族が家にいて、できるだけ外出をひかえて静かにしている。
忌み日? ああなるほど、そんな感じかもしれませんね。

そういえば、さっきお祭りの話が出ましたけど。町内ではお祭りというものはなかったんです。
地域の氏神神社はありましたけど、夏祭や秋祭りなんてのは なし。
ええ、ええ、柱の日って聞けば、まず思いつくのは「人柱」ってことでしょ。
それに橋を渡っちゃいけない、っていう忌み事。
これらから考えられるのは、その昔に工事で人柱を立てて、それで祟られてるっていう。
でもね、町にある橋はみな戦後のものですよ。
鉄筋がライトブルーに塗られた近代的な橋で、怖いところなんてありません。
え、昔に橋が流された被害があったとかじゃないかって?
ああ、そうなのかもしれません。ですが、人柱と違ってそういうことなら、
伝承が残っててもよさそうなもんじゃないですか。
災害なので、人聞きが悪いってことはないですからね。

ええ、7月1日というのは台風などが来ることは多いですけどね。
川に流されるのに気をつけろっていう戒めも、あるにはあるのかもしれません。
ただね、いくつかその日は不思議なことがあったんです。
ほら、中学校ですけど、柱の日は学校自体は休みではないんです。休む理由がつけられませんから。
だけど、町内の橋を渡らないと学校に来れない子らは欠席するので、
クラスで出席する生徒は3分の1くらいのものです。
ですから授業もプリント学習がほとんどでしたね。
私なんかはその時間にテスト勉強をやっていたので、ありがたかったですけど。
でね、生徒のうちには、この日にある言葉が頭の中に浮かんでくる子がいるんです。
意味がわからない? そうでしょうね。それは「はんざき」って言葉なんです。
私は違いましたけど、そういう子らは昔からそうなんです。

クラスで4、5人くらいですか。3分の1欠席のうちのその人数だからけっこう多いでしょ。
そういう友達から聞いたんですが、その日は朝10時ころから、
「はんざき」って言葉が頭の中を駆けめぐって、他のことは考えられなくなるらしいです。
そして午後の3時ころにはやむ。だからね、柱の日の自習中に、
頭を抱えている子がいれば、「ああ、はんざきが来てるんだな」って、
他の子も教師もそっとしておいたもんです。はんざきの意味はわかりませんねえ。
他の地域の方言で、はんざきがオオサンショウウオのことをいうのは知ってます。
体を半分に裂かれても生きていられるくらい、生命力が強いってことでしょう。
でも、私のとこにはそういう方言はないですし、
そもそもオオサンショウウオが生息してるなんて聞いたことがないんです。
それでね、私が中3のときにこんなことがあったんです。

3時間目くらいだったかなあ。ガラガラの教室で自習をしていましたら、
一人の男子が急に立ち上がって、「はんざき、はんざき」って大声で叫びだしたんです。
おそらく頭がその言葉でいっぱいになったんでしょう。
「はんざき、はんざき! はんざき!!」その後に、
「柱を通して焼いてくれようか」みいたいなことを言いました。
私にはそんなふうに聞こえたんです。それから机を蹴り倒し、走って教室から出て行きました。
監督していた教師が慌てて追いかけ、校門のあたりでつかまえたそうです。
それから町の病院に搬送されて。翌日は登校しましたからたいしたことなかったんでしょうけど。
でね、その子に何と言ったのかを聞いてみたんですが、
本人は覚えてなかったですね。はんざきで頭がいっぱいになって、
その後のことはまったく覚えていなかったみたいです。

え? もし柱の日に橋を渡ったらどうなるかって? ま、それは当然聞きたいでしょうね。
はい、怖ろしいことになるんです。いえね、私も子どもの頃は、
単なる伝承、迷信と考えていた時期もあったんです。
でもね・・・私が小学校の4年生のときです。赤ちゃんができたばかりの若い夫婦が、
町のある地区にいましてね。嫁さんのほうは他県から来た人です。
あと、旦那さんの父親がそのときちょうど入院していまして。
だから止める人がいなかったんでしょうね。柱の日の前の晩、赤ちゃんが熱を出しまして、
それも40度近い。でね、もう真夜中でやってる病院はないんだけど、
市の大病院だったら、救急外来がある。嫁さんに泣いて頼まれたんでしょうねえ。
車に赤ちゃんを乗せて橋をわたってしまったんです。
まあね、そのままほっておいたら熱でインフルエンザ脳症ってこともありますから、

その判断は責められないと思いますよ。でね、何が起きたかっていいますと、
奥さんが赤ちゃんを抱いて、旦那さんが橋を渡ってる途中で車が止まっちゃったんだそうです。
故障ではなかったようです。翌朝車は動いたっていいますから。
詳しい事情はわからないんです。両親ともにあれですから。事実だけを申しあげますと、
その橋の上で旦那さんが奥さんからむりやり赤ちゃんを取り上げると、
車から出て川に投げ込んじゃったんです。
もちろん助かりはしません。まだ0歳児なんですから。
数日後にだいぶ川下に流されたところで、警察のダイバーが遺体を発見しました。
車は橋の上に残ったまま、夫婦はともに行方不明で。
奥さんのほうは柱の日が明けた日に、町の神社の社殿で、ぽつんと座ってるのが見つかりまして。
意味不明のことを口走っていたそうです。

「川を燃える柱が流れてくる」みたいなことです。
これね、ほら話の中ほどで出てきた、私の同級生が言った「柱を通して焼いてくれようか」
というのに、何かつうじる部分があると思いませんか。あと「夫が子どもを川に投げ込んだ」とも。
でも、それ以上のことはわかりません。奥さんは精神を病んでしまっていて、
長く精神病院に入院してましたが、先ごろ亡くなったという話を聞きました。
旦那さんのほうはずっとゆくえ知れずのままです。もちろん警察では
殺人容疑で捜査をしたんです。でも、電車やバスで移動した形跡はない。
山も捜索しましたが手がかりなし。ただ・・・数年後、持ち山の木を点検に行った人が、
旦那さんらしい人を目撃しています。山中の斜面に巨木が倒れていて、
半裸の人がそれにまたがっていた。旦那さんによく似てたらしいです。
声をかけたら藪の中に転げ落ちて一目散に逃げ、それっきり・・・






関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/1021-8163a602
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する