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死に猫の島 

2016.02.07 (Sun)
当時、泡沫出版社の編集部にいたんですよ。
ええ、コンビニ売りのムックで食ってるようなところ。
で、2年前の夏前ですね。お盆向けにお約束の心霊特集のムックを作ろうって話になって。
これね、ネットでかき集めた動画や話題だけでも1冊こしらえるのは簡単なんだけど、
それだけだとしょうもないんで、何本か現地取材を入れようってことになって。
といっても、経費がかかるから1泊2日まで、そんなに遠くへは行けないんですよ。
でね、編集長が俺に「死に猫の島って聞いたことがあるか」って言ってきて、
「いや、知りません。ウサギやら猫やらを放し飼いにして、
 観光客呼んでるとこなら聞いたことありますけど」こう答えました。
そしたら「うん、そういうのじゃないらしい。ウサギの島なんかは、観光客用に餌売ってて、
 人間が管理してるのと同じだろ。この死に猫の島ってのは無人島みたいだぞ。

 お前、瀬戸内の出身だよな」 「そうですけど」 「そのお前の実家のある県って話だ」
「無人島なんていっぱいありますけど、聞いたことないです」
「調べて記事にしろ。サキ連れて行って写真撮ってこい。伝承はわからなかったり、
 つまんなかったっりしたら、でっち上げたっていいから」
このサキっていうのは、ある芸能プロダクションに所属してる、霊感で売ってるタレントなんです。
うちの編集部でも何度か起用したことがあるんですが、その当時密かに俺とできてまして。
でもそれ、編集長は知ってたんでしょうね。
俺に休暇与えるつもりで話を出してくれたんだと思います。
ありがたい話でしたが、肝心の島自体さっぱり心あたりがなくて。
実家に電話をかけてみました。実家は漁師で兄貴が家を継いでたんです。
「あー、死に猫の島?なんだそれ、聞いたことがねえぞ」 「やっぱそうだよな」

「帰ってくるんか?」 「そっちには行くけど、家に寄る時間はないと思う」
「じゃあ、漁協に聞いておくけど期待するな。本できたら送れ」こんな会話になりました。
その後、サキのプロダクションに電話かけたらちょうどよく空いてまして、
というか売れてないからいつも空いてるんで、俺らも使ってたんですけど。
それから自分で「死に猫の島」についてネットで調べ出しました。
でもね、何も引っかかってこなかったんです。いやいや、困ったってほどでは。
編集長が言ってたように、わからないならそれはそれで、どっかの無人島に上陸して、
それらしい絵を撮ってくりゃいい話ですから。そう思ってたら、3日後に兄貴から電話がきました。
「死に猫の島じゃないけど、似たようなのはあったぞ。猫墓の島って言うらしい。
 あ? いわれ? そんなのわからん。それ調べるのがお前の仕事なんだろ。
 無人島も無人島で、ごくごく狭い。周囲2kmもないみたいだ。

 行くんだったら漁船の手配はしてやるが、それも天候次第だ。宿泊施設はないから野宿になるな」
ここまでわかればもう行くだけです。サキ連絡して話したら、すごい喜んでましたね。
ただ、キャンプ用品なんて一つもないから、それはこっちで準備ということになりました。
でね、当日は天気予報もばっちりで、台風どころかしばらく凪が続くって話でした。
編集長からOKが出たので、贅沢に新幹線を使って、あとはバスで兄貴指定の漁港へ行きました。
写真も素人ですけど俺が撮るんです。途中でパシャパシャやってたら、サキが喜んでまして・・・
ああ、関係ないですねスミマセン。で、そこの漁協へ顔出したら、兄貴から話が通ってて、
その日の3時出発、迎えは翌朝の9時ってことで、漁船を出してもらえることになったんです。
漁協でももちろん話を聞きました。猫墓の名前の由来をわかる人はいなくて、
そのかわり、引退した地元の老漁師さんを紹介してもらったんです。
時間があったので顔出してみましたが、これが耳が遠くて。

方言は俺もその地方出身ですから何とかわかったんですが、話自体通じませんでした。
それでもなんとか聞けたのは、どうやら明治初期ころの話で、
船で旅をしていたイギリス人技師がどうとかこうとか、その飼猫が埋められているみたいで、
おどろおどろしい部分はかけらもなかったんですが、ま、しょうがないです。
7月の初めでカンカン照り、ひどく暑かったので宿泊は寝袋もいらないくらいでした。
ただし、ヤブ蚊は嫌なので、虫除けスプレーと蚊取り線香は準備しました。
小さな漁船にサキと乗って、船長と話しました。
「うーん、蚊ねえ。ま、海岸沿いで寝ればそう心配はないんじゃないか。
 俺は上陸したことないけど、心配するような島じゃないと思うぞ。これまで人住んだ話はない。
 だから井戸の跡なんかもないだろうし、普通のキャンプと変わらんだろう」
船を砂浜と岩浜の中間くらいのところにつけてもらって、礼金を払いました。

「うっわー海きれい。沖縄とかとも違ってすごく青い」サキが言いました。
砂浜と林の堺に簡易テントを立て、いちおうそこを基地ということにして、
飲料水その他を置き、さっそく探索に出ました。写真は観光用ならすごくいいのが撮れましたが、
オカルトムックとしてはちょっと使えないものばかり。
これは夜に期待するしかない、という感じでした。探索自体は2時間もかからなかったです。
島の周囲は岩礁地帯には入れず、半円を描いた程度だし、
中央部はジャングルみたいな森で、人が入った様子はまったくなかったんです。
「これなあ、墓かせめて祠みたいなのでもあればなあ」 「ただの自然の島だよここ。
 最初から観光施設の廃墟のある島とかにすればよかったんじゃない」
「いいよ、写真は合成もできるから」 「えーそれ、反則!」小さな焚き火をして、
夕食はレトルトのカレーで済ませ、2人でビールを飲みました。あ、そういう話はいい?

そうですか。でね、時間はありあまってるんです。だって編集の仕事は毎日半徹夜ですから。
でもまあ、確かにリラックスはできました。夜でも暑かったけど、
星がきれいだったし、心配してた蚊なんかはほとんどいませんでした。
フナムシが這ってるくらい。10時ころになって、俺だけヘッドランプをつけて、
中央部の森に写真を撮りにいきました。ちょこっと入っただけですけど、
すごく静かで、野生動物なんかもいないのかもしれません。
それでね、島に2人きり、無人島ってのはすごく開放感があるんですよね。
はいはい、続けます。暑いのでいちおう寝袋には入りましたが、ジッパーは開けた状態で。
そしたら、夢を見たんです。日本ではないところでしたね。
なんとなくイギリス、という気がしました。昼に漁師の老人から話を聞いたせいでしょうか。
でこぼこした城壁の上を歩いてるようだったんですが、妙に視線が低くて。

そうです。自分が猫くらいになった感じで物が見えるんですね。
てこてこと歩いていると、急に首筋をつかまれた感覚がありました。
ギラッと刃物が光ったと思います。急に両目に強い痛みを感じて、何も見えなくなりました。
それでも俺はまだ猫のままで、仰向けの状態でもがいていた気がします、
腹のところの毛皮が押し広げられる感触があって、
直感的に刃物を腹に入れられるってわかったんです。「やめろーっ!」と叫んで上半身を起こすと、
サキが俺の体に覆いかぶさってきてたんです。手にアーミーナイフを持ってるのが、
焚き火のオキの光でわかりました。サキは固く両目を閉じたまま、
やみくもにナイフを振り回し、もう少しで刺されそうになりましたけど、
なんとか両手をつかんで組み敷くことができたんです。数秒そうしていると、サキは目を開け、
「あ、何? どしたの」と言いました。

これは大丈夫かと思い、ナイフを取り上げて体の上から降りると、
サキは起き上がって「私どうして・・・きゃー何あれ!」と叫びました。
サキの視線のほうを見ると、森の木々の中に薄緑に光る眼がいくつもありました。
20、30、もっとかもしれません。昼は動物なんていないと思っていたのに。
小さなものでした。猫かもしれませんが、イタチとかかも。はっきりわかりませんでした。
そのたくさんの動物たちとしばらくにらみ合っていたんですが、
やがて光がフッ、フッと消えていきました。この間、鳴き声一つなかったんです。
その後は朝まで起きてましたよ。サキにナイフで俺を襲おうとしてたことを話したら、
ちょっと考えこんでから「猫を殺す夢は見た」ってぽつりと言いました。
4時半頃にはもう明るくなってきて、2人で動物たちが消えた方角の森に入ってみたんです。
やはり繁みがキツくて進めませんでしたが、20mほど先。

蔦のからまる中に白い棒のようなものの上部が見えました。
ええ、西洋の十字架の墓じゃないかと思ったんですけど、はっきりはしません。
まあ、こんな話ですよ。予定の時間に漁船が迎えに来て、サキといっしょに帰りました。
ムックの記事も書きましたが、中身はほとんどでっちあげるしかなかったです。
さっき話した、十字架の一部らしき写真も撮ったんですが、
デジカメなのに画像が真っ黒で、使いものにはなりませんでしたね。
まあこんな話です。サキはタレントとしては芽が出ないのを悟ったらしく、
引退して、去年俺と結婚したんです。ああ、はいはい、「猫を殺す夢」ですよね。
これについて何度か聞いたんですけど、あいまいな答えしか返ってこないんです。
この後も、猫墓、死に猫の島については、機会があれば調べてるんですけどわからないです。
いつか2人で再訪してみたいと思ってますよ。







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コメント
 猫はオカルトにおいては負のイメージが付きまといますね。魔を祓うイメージのある犬とは対照的かも。私は猫大好き人間なので、画像の激おこ猫(イギリスの流れからしてブリティッシュ?)も守備範囲ですが。
 しかし、もと霊能タレントの奥さん・・・なかなかいいですね。半分はのろけ話のようで、ルームの面々もゲンナリしたんでしょうがw
| 2016.02.16 17:48 | 編集
コメントありがとうございます
画像はスティーブン・キング原作の映画『ペット・セマタリー』
の一回死んでインデアンの墓地から甦ってきた猫です。
種類はよくわかりません。
bigbossman | 2016.02.17 05:22 | 編集
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