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センサーマン

2016.02.16 (Tue)
俺の左腕の話なんだよ。な、このとおり肩のつけ根から無くなってる。
これなあ、俺が土建屋いたときに、壁と重機の間にはさまれて、
切断せざるをえなかったんだ。いやあ、事故の瞬間は衝撃で失神したからね。
その後のことはよく覚えていない。気がついたら病院にいて、
そんときにはもう腕はなかったんだよ。
単なる切断じゃなくて、潰れちまってたから医者もこうするしかなかったらしい。
まあね、事故だからしょうがないと思ってるし、
土建の会社もよくしてくれたよ。障害年金ももらってるし。
けどよ、これが傷が治ってからが地獄だったんだわ。
知ってるかい、幻肢痛ってやつ。そうそう、無くなったはずの腕が痛むんだよ。
つけ根の切断面じゃなくて腕そのもの。ちょうど手の甲のあたりだな。

これが激痛なのよ。焼けた火箸を何本もいっせいに突っ込まれるような感じで、
大声で叫んでしまうくらい。人がいないところじゃ転げまわってたよ。
そのくらい痛い。だから仕事にならなかったんだ。
会社のほうでは内勤に回してくれたんだが、辞めざるをえなかったよ。
うん、つねに痛いってわけではないんだ。
俺が、腕がないことを忘れて、左腕で無意識に何かしようとしたときに激痛走るんだよ。
医者は外科から脳神経科に回されたが、そこの話だと、
脳の中の体を動かしてる場所の一部、左腕を担当してたところが、
まだ腕があるもんだと思って働いてるせいってことらしい。
そうそう、だから俺の脳が左腕がないって納得して、
そこの回路が消えちまうまで痛みは続くってことだったんだ。

ミラー療法? ああ、よく知ってるねえ。それもやったよ。箱の中に右手を入れて、
鏡に写して左手がまだあるように脳に錯覚させる。
で、自分で右手を開いたり握ったりして、左手でやってるように脳をだますわけだ。
うーん、効果はあんまりなかったな。信じられないような傷みがちょっとやわらぐくらい。
痛みはいつ襲ってくるかわからないし、あの装置を自宅に設置してはいたけど、
まあ気休めみたいなもんだったな。
それで、家に閉じこもって事故の一時金と年金で鬱々と暮らしてたんだが、
知人から再就職の話がきたんだよ。それがなあ、不動産関係ってことだった。
でもよ、俺は高卒からずっと肉体労働だったから、
デスクワークも営業もできねえんだ。それにさっきから話してた痛みもあるし。
話を聞くだけは聞いてみたんだよ。したら、幻肢痛があるやつを探してるって。

それに、うまくしたら痛みもおさまるかもしれないってことだったんで、
ダメもとだと思って、その不動産屋の顧問に会ってみたんだ。
これが一目でまともじゃないってわかった。俺は土建だったから、
荒っぽい筋とつき合うこともあったが、それと同じにおいがしたね。
言葉遣いは慇懃ではあったけど、要は悪徳土建屋ってことだ。
で、会って一番に「幻肢痛、痛いんですってねえ。治るかもしれませんよ。
 仕事の話はその後でいいから、ちょっと試してみませんかね」こう言われて、
そりゃ痛みがなくなるなら御の字だから、そいつの車で出かけたわけよ。
したら病院に行くと思うだろう普通。それが、車で何時間もかけて着いたのが日本海。
場所は言えないが、もの寂しい岩浜の海岸だったんだ。
季節は冬になりかけの頃だったから人っ子一人いねえ。

ちょっと気味が悪くなってきたが、不動産屋は埠頭に車を止めて、
海の中に長くつき出した桟橋に向かって歩いてく。で、俺もついてったのよ。
あたりは潮のにおいがキツくてね。波のせいで海が泡立ってたな。
その桟橋の先に赤い鳥居と神社があったんだ。
不動産屋が鳥居をくぐって神社の戸を無造作に開け、したら中に大岩があったんだよ。
そうだなあ差し渡し3m高さ2mってとこかな。
でな、その中心に直径20cmくらいの穴が地面と平行にあいてたんだ。
中が金色に光っていた。不動産屋は「ここに左手を入れてみて下さい」
「だって俺、左手ないから」 「いや、あるつもり、入れるつもりで。
 ミラー療法やってたでしょう。あれだってない左手を箱に入れるでしょ」
そう言われればそうなんで、やってみたんだよ。

どうせ本当には入れないんだし、何が起きても危険はないだろうと思って。
頭の中で指先を伸ばし、ヒジを伸ばしたところを想像し、穴の中にスーッと。
何事起きなかった、最初はな。10秒ほどして不動産屋が「どうです。なんか感じますか」
って聞いてきたから「いや、全然。それよりこの金色のは何だい。
 自分で光を出してるように見えるが」逆に聞き返したら、
「それね、ある種のコケなんですよ」 「うーんヒカリゴケとかいうやつか」
「まあその一種です」こんなことを言ってたら突然、
ないはずの左手が穴の中で握られる感触があったんだよ。それと同時に、
俺は信心なんてしたことないから、どう表現していいかわからんが、
なんとも言えない、ありがたーい感じがしたんだ。俺の手を握った相手の、
柔らかい手のひらからじわじわとにじみ出てくるような感じだった。

「あ、あ、誰か中で俺の手、握ってるぞ」 「おお、きましたね」
そうしてるうちに俺はわけもなく感激して、涙がダラダラ流れてきたんだ。
「・・・こらあ、誰が手握ってるんだ。もしかして神様とかか」
「わかりませんが、昔からあるものです」こうして30分ほど、
その神社の大岩の前で過ごしたんだよ。手を抜けと言われて抜いた・・・つもりになった。
もちろん左手が生えてきてるなんてことはない。
ただ、事故以来ずっとザワザワしていた心のうちが、静かになってる感じがしたなあ。
今から思うと、これで俺がセンサーとして完成したんだな。
え、どういうことかって。それを今から話すんだよ。
この帰りの車の中で不動産屋が「もう幻肢痛は起きないと思いますよ」って言った。
でな、実際に1週間たっても、あの痛みが襲ってくることはなかったんだ。

こういう経緯で、その不動産屋の世話になることになった。
どういう仕事かっていうと、会社が新しく物件を買おうとするときに俺がついてくんだ。
一軒家、マンション、地下の飲み屋、ビル、物件はいろいろだわな。
もちろん売り手がいる前では俺の出番はない。
いつも作業服を着て、ガス水道か、建築の技師みたいなふりをして、
あちこちの部屋の入り口からな何気に手を入れる。ああこれは、
ないほうの左手だよ。すると、中に何かいる場合はその手に触れてくるんだ。
いや、理屈はうまくは言えないが、俺の左手だけが、そいつらにははっきり見えるのかもしれん。
だから触ってきたり、中には握ってくるやつもいる。乾いた手、子どもの手、
ドロドロした手もあるよ。手だけじゃなく体や髪が触れることもまれにある。
するとわかるんだよ。触ってきたやつがどういう心持ちでいるのかが。

怒ったり恨んだりしてるときは、それが伝わってくるんだ。
まあ、めったにないんだけどな。ただ、そういうやつは新しい住人に害をなすことがある。
不動産屋としてはトラブルは避けたいだろ。
そういうセンサーの役目を俺が果たしてるってわけだ。まあね、商売だから、
中に悪い霊がいても条件がよければ買うが、情報を持ってれば対処のしかたも違うだろ。
うーん、何もいない場合もあるよ。それが一番多いし、
何かいても、これはすぐいなくなるだろうってのもわかるんだよ。な、便利だろう。
ああ、海辺の神社ね。年に1ぺんは行ってる。あの岩穴に左手を突っ込むと、
やっぱじわじわとありがたい気が伝わってくるな。パワースポット?
そんな難しいことは俺にはわからんし、むしろ会社が、
どうやってあの存在を知ったかのほうが不思議だが、まだ教えてはもらえん。

がなhsじぇいああき




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