「白澤避怪図」について

2016.02.19 (Fri)
えー今日も妖怪談義の続きです。昨夜は話を広げすぎて、
最後のほうはわけわからなくなってしまいましたので、今回は少し絞りたいと思います。
これも、自分のブログを読んだ仲間から、
「最初のほうに『白澤避怪図』とあったが、何のことだ?」という質問を受けまして、
それに対する回答でもあります。昨夜の項では、白澤のことを神と書きましたが、
正確には霊獣なんでしょう。麒麟や鳳凰みたいなものです。
鳥山石燕もその図を描いていますが(下図)、妖怪と言っては失礼なんでしょうね。

鳥山石燕 『今昔百鬼拾遺』の「白澤」


まず、白澤は瑞兆であるということです。これは中国の天命思想、
易姓革命思想から来ているもので、徳の高い人物が天から指名を受けて世を治める。
そうして世の中がうまく回っているときに、瑞兆が現れるのです。
中国の史書には、◯◯帝の◯年、地方から白い雉が献上されたとか、
一尺もの青玉が出たとか、空に龍が昇ったといった記述がよく見られますが、
そういうのが瑞兆なんですね。昨日の最後で、邪馬台国の卑弥呼の話が出ましたが、
中国から見て蛮夷とされる国が遠路朝貢してくるのも、
一種の瑞兆と言えるでしょう。それだけ当代の皇帝の徳が、
遠方まで広まっているということになりますから。

さて、白澤が出現したのは、東方に巡幸した黄帝の前です。
当ブログをお読みの方ならご存知でしょうが、「黄帝」は「皇帝」の誤変換ではなく、
中国を統治した五帝の最初の帝であるとされています。
紀元前25世紀ころが治世なので、まあ伝説上の人物ですね。
薬草・薬石に精通していたという話もあり、
現在でも、中国医学の祖、神として祀られています。

白澤が姿を現したのは、黄帝の徳が高かったからに他なりませんが、
その当時は、さまざまな鬼や妖怪が跳梁する世の中でもありました。
そこで白澤は、黄帝にそういった妖異を避けるためのアドバイスをおくったんですね。
その一つが、白澤の姿を絵に写して飾っておくと妖異が近寄らないようになる、
ということです。これには病魔も含まれるので、古来中国では、
皇帝をはじめ民間でも、白澤を描いたものを身近に置くようになりました。
その風習が日本にも伝わってきているわけです。
『延喜式』に白澤の名が出ているので、少なくとも10世紀までには伝来しています。

白澤イメージとしては、腹に3つの目、その中央は縦についています。
顔にも同じ配置の3つ目、石燕の絵にあるのが代表的なものでしょう。
それと背中から頭にかけてたくさんの角。
このあたりはある種の恐竜に似ていないこともないです。
中国では恐竜の骨の化石を、竜骨として粉末を漢方薬に用いたりしていたので、
何か関係があるのかもしれません・・・とか脇道に踏み込んではいけませんね(自戒)

日本では、安政年間にコレラが大流行した際、
白澤図を枕元に置く家が多かったということです。
また、旅人の道中の必携品ともなっていたと江戸時代の旅行案内には書いてあります。
道中、怪異から身を守るだけでなく、野犬や狼などの害、盗賊の害
なども避けることができるそうです。下が、旅人が携帯した白澤図です。



また少し余談になるのですが、江戸時代後半は旅行が盛んでした。
お伊勢参り、と言えば、農民が領地から抜け出して関所を越えるのも認められ、
目的地は各地の神社仏閣の他、富士講などもありました。
今に残る白澤図には、「戸隠山」と印刷されたものがあり、
山岳信仰との関係も指摘されています。

このため各種の旅行案内のような冊子がたくさん発行されていますが、
これも読むとなかなか面白くて、「◯◯の宿の◯◯屋の飯は不味い」とか、
今なら営業妨害にあたりそうな、かなり具体的な記述もあれば、
「川を越すために舟に乗り、船酔したときには水を飲むと死ぬから、
幼児の小便をもらって飲むとよい」とか、どこまで信じられていたのかわからない、
変な記述も中にはあるんです。十返舎一九の『東海道中膝栗毛』なども、
面白おかしく書かれたガイド本と見てもいいでしょう。

さてさて、白澤のほうに戻りまして、
黄帝へのアドバイスとして、なんと1万1520種の妖異鬼神について語り、
黄帝はこれを部下に書き取らせたということです。
その中には昨夜の飯甑の妖怪も出ていて、
甑(こしき)は米を蒸すための道具ですが、
それが釜の妖怪に変化していったのでしょう。

白澤が述べた怪を避けるための基本は「名前を呼ぶこと」です。
そうすれば怪は正体を見破られたと考えて逃げ去る・・・
しかし、一万以上の妖怪を見憶えて名前を暗記するなんて、
神に近い黄帝ならできたかもしれませんが、一般人には不可能ですよね。
ですが、名を呼ぶことで怪異が破れ、消え去るというパターンは、
昔話などにも見られますし、夢枕獏氏の『陰陽師』シリーズにも出てきます。
これはこれで魔除けの呪法の一つとして定着しているのでしょう。




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