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ユキヨシ様

2013.08.11 (Sun)
母親から聞いた話。
自分が元住んでいた地域では、俺の母親が子供の頃あたりまで、
男の子でも女の子でも3~4歳くらいになると必ずあやとりを覚えさせられた。
技は一種類だけで「蛾」と呼ばれるもの。
これはけっこう複雑な取りかたをするが、
素早くできるようになるまで何度もくり返し練習させられたそうだ。
もちろんその他の技も、特に女の子たちは面白がって遊ぶのだが、
「蛾」を土地の古老から教えられるときは真剣そのものだったという。

今は産業としては成り立たなくなっているが、ここいらは昔は養蚕が盛んで、
集落の裏の山(四百Mほど)のなかほどに「蚕霊塔」と呼ばれる供養塔がある。
こういう供養塔は明治以降、製糸工場の近くに作られたのが多いが、
裏山のはかなり古い時代のものらしい。

この山一帯にはある妖異が棲んでいて、
それは大きなカイコガの姿をしているという。
ただし普通の人間の目には見えない。
この山は禁域なのだが、
何かの事情で子どもが入らなくてはならないときには必ず一本の紐を持たせられる。
白い毛糸の紐で、わざと切れやすいように傷がつけてある。
地域の子どもは、それを中学を卒業する頃まで肌身離さずに持っているのだそうだ。

母親が小学校の高学年のとき、一人で留守番をしていたら、
親戚のヨシユキさんが家にやってきた。
その人は二十歳すぎくらいで白い和服を着ていた。
母親が一人だと知ると、外に遊びに行こうとさそったらしい。
それで変だとも思わず、なにか楽しいことがあるかとのこのことついて行ったという。
そのときには、何度も会ったことのある慣れ親しんだ人だと思い込んでいた。
やがて二人は裏山のほうへと向かい、登りにはいるとヨシユキさんは、
母親に自分の前を歩くように言った。
ほんとうはみだりにその山に入ることは許されないのけれども、
そのときは禁忌のことなど少しも頭に浮かばなかったそうだ。

中程まで登ったときに、
母親の後ろのほうからパサパサという鳥の羽ばたきのような音が聞こえてきた。
そのとき母親は急に我に返ったようになって、
ヨシユキさんなどという親戚はいないことに気がついた。会ったこともない。
そして自分が禁域の深くまで入っていることを自覚して怖くなったそうだ。
すると急に背中を押されて前にうつぶせに倒れこんだ。
背中にカサカサと音を立てるものがのっている。
母親は無我夢中で毛糸紐を取り出し、
なんとか自由になる両手で、すばやく『蛾』をつくり、力を込めて糸をぷっつりと切った。
その瞬間、背中のものの重さがすっと消えたのだという。

裏山に住む妖異は名を「ユキヨシ様」といい、不幸な事情で追放された南北朝時代の皇族なのだそうだ。
この人が、そこら一帯に養蚕の技術を教えたのだとも言われている。
集落ではユキヨシ様をある期間は隠し守っていたのだが、
密告者があったらしく、ついには捕らえられ処刑されてしまったらしい。
そうしてこの貴人の霊は大きなカイコガに姿を変え、
ときに子どもをさらうなどの災いを村にもたらすようになった。
それから身を守るためのあやとりの技なのだが、
いつどのようにしてそれが行われるようになったかはよくわかっていない。
おそらく歴史に埋もれた、秘められた話があるのだと思う。

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