ある宗教施設の話

2016.03.15 (Tue)
地方でカメラマンをやってまして。ええ、今はデジカメの性能がよくなって、
素人でも上手に撮れますからね。プロとしての売りを出すのはなかなか大変です。
それで、この間、タウン誌の仕事である宗教施設を訪問したんです。
いや、自分は写真を撮るだけで文章を書くことはないんで、
編集者といっしょに。30代はじめの女性の方です。
うーん、できればそのタウン誌としても、宗教関係の取材は避けたかったんですよ。
問題になることもあるし。だけど、人口30万人程度の市だから、
どうしてもネタ切れになっちゃうんです。
季刊誌で、年4回発行だったのを隔月にしましたしね。
事前に打ち合わせをしまして、できるだけ教義とかそういう方面の深入りは避けようって。
取材許可がきて、施設を訪問したのが先々週の日曜です。

場所は市の郊外、1000m級の山の裾野の森の中です。
そこは神道系なので、古代の女神像ってのが野外にあるんですよ。
これが全高18mだったかな、鎌倉の大仏より大きいって触れ込みだったけど、
コンクリ製の坐像だし、そんなに有名にはならなかったんです。
できたのはバブル期で、教祖様は当時まだ20歳前の女性だったんです。
そのあたりは下調べして行きました。最盛期には信者数が万までいってたはずですが、
今は数百人まで減ってます。だから施設の維持もままならないんでしょうね。
建物も女神像も、黒く煤けてきてひび割れが走ってましたね。
約束の時間は午後の2時、向こうの指定です。編集者が運転をして行きましたが、
車で40分くらいかかりました。小雨が降ってまして、薄暗かったですね。
ええ、カメラマンですから天気は気になります。

条件がよくないなあと思ってました。だだっ広い駐車場に入って、
車は10台もなかったですが、全部ベンツの高級車でした。
教団幹部のものだったんでしょう。機材を持って車の外に出ると、
教団の人が傘さして迎えに来まして。案内されて施設に入ったんですが、
かなりの大きな建物でした。田舎の中学校くらいはあったでしょう。
いや、特に神社のような造りではなかったです。
3階建ての上のほうで、出家した信者たちが共同生活しているということでしたが、
1階は人の気配がなかったです。案内されたのは会議室のような部屋で、
片側がガラス張りで日本庭園が見えるようになってました。
手入れが行き届いておらず草ぼうぼうになってましたけど、それはそれで風情がありました。
許可もらって、建物の中から何枚か庭を撮りました。

それから話を聞いたんですが、西洋の絵画に出てくるような、
5mもある石製の長テーブルの端っこに座らされまして、教団の広報担当の方2人が出てこられ、
紅茶を勧められました。きついにおいがして自分は飲まなかったですけど。
2人とも40代くらいと思いましたね。スーツを着て、銀行員みたいな感じでした。
うーん、話は宗教的な内容に深入りしないようにしたので、
あんまり盛り上がらなかったですね。それでも編集者ががんばって20分ほどたったところで、
教主様がご挨拶にみえられる、って言われたんです。
おつきの教団員数人と出てこられたんですが、神道とは思えない西洋風のベールをつけてました。
服装もマリア様みたいなイメージでしたね。で、長テーブルの向こう側に座られました。
ちょっとびっくりしましたね。ベールの下の顔が若いんですよ。
肌がみずみずしく、中学生の女の子くらいにしか見えなかったんです。

でもね、バブル期に10代なら、今は40代の半ばになっているはずでしょう。
代替わりしたのかと思いましたが、よくわからなかったです。
断られるかとも思ったんですが、教祖様の写真を撮っていいか尋ねると、
向こうは少し相談があってから、「どうぞ」と言われました。
ただし、テーブルをはさんだ距離からの撮影で、写真は雑誌には載せないという条件つき。
雑誌に使えないなら撮る意味はないんですが、まあ数枚撮らせてもらいました。
もちろんその場で画像も確認しまして、そのときは見たままが写ってたと思ったんですが・・・
教祖様はほとんど言葉もなく、最後に子どものような声で「この国が平和で繁栄しますように」
みたいなことを言っただけでしたね。それで教祖様は下がられ、
教団施設の写真を撮りました。ホールは3階の高さまで吹き抜けのドームになっていて、
明りとりのガラスに天女のような像が描かれてました。

顔は教祖様そっくりでしたよ。それから外に出て、広報担当者とともに車に乗りました。
敷地がだだっ広く、ハーブ園やブドウ園があったんですが、
働いている人は見なかったです。雨はやんでいたので、外に出て撮ったんですが、
ハーブの臭いがすごかったです。あれはたぶんアニス系のものです。
ほら、アブサンが有名だけど、洋酒によく使われてるニガヨモギだと思います。
その臭いが一面に漂っていました。ハーブの畑はまだ土だけの状態でしたから、
前の年に収穫したものですか。施設内で出た紅茶にもこれが使われてたんでしょう。
その後に小高くなった広場に上って、その中央に女神像があったんです。
これはさすがに20m近い大きさで、表面は古びていましたが圧倒されましたよ。
この女神像の顔も、同じベールを被ったようになってて、教祖様にそっくりでした。
離れた場所から全景を撮り、近寄ったところでたいへんなことが起きたんです。

像の右目、これもコンクリ製でしたけど、それがボロッと落ちたんです。
直径50cm以上あるやつが重い音をたてて胸にあたり、
そこで砕けた破片がバラバラと台座に落ちてきました。
自分はとっさに編集者をかばうようにして後ずさりしたんですが、
像の右目のあったところが穴になって、そこから人が顔を出したんです。
これが遠くてよくわからなかったんですが、女性、さっきの教祖様じゃないかと思いました。
ええ、身につけたベールが同じに思えました。ただ、顔は醜くゆがんだ中年女性みたいな・・・
いや、遠かったんですけど、確かにそんなふうに。
教団広報の一人が「あ! 中に回っておられる!」と言い、像の裏側に走っていきました。
どうやら内部が空洞になっていて、入れるみたいだったんです。
もしかしたら教団の建物と地下通路でつながってるのかもしれません。

この後はどうなったかわかりません。そこで取材は中止になってしまったんです。
残った教団広報に車に押し込まれ、駐車場まで連れていかれて、
そこで「今日はこれでお帰り下さい」って。駐車場には教団員が15名ほど出てきていました。
みな白いひらひらした服を着てましてね。
それに見送られるような形で施設を後にしたんですよ。車の中で編集者とこんな話をしました。
「さっき、像の目が落ちたときは驚いたよね。中に人がいなかった?」
「ええ、教祖様だったよね。泣きながら何か叫んでた」
「そこまで気がついた? 冷静だねえ。でも教祖様と同じの被ってたけど、
 もっと老けてなかった?」 「うーん、そうかなあ」
「何にしても、破片がこっちまで飛び散ってこなくてよかった」
これからタウン誌の事務所のあるビルに戻って、写真をパソコンに入れようとして・・・

愕然としたんですよ。教団施設内で撮った教祖様の画像、あれがね、中年女性になってました。
いや、それは今持ってきてますので、あとでスクリーンに映しますけど、
撮ったときは間違いなく若い女性でした。これでも自分はプロですから、そこらへんは。
それが写ってるのは、たぶんあの目玉が落ちたときに顔を出してた女性ですよ。
これ、同んなじ人なんでしょうかねえ、そこまで印象が変わるものなんですかねえ。
とにかく自分は納得していないですよ。
それで、タウン誌への掲載は、教団の方からキャンセルが入ったみたいで、
なくなってしまいました。あとですね、一緒に行った編集者の女性。
タウン誌の編集部をやめちゃったんですよ。理由はわかりません。ただね、噂だと、
あの教団に入信したみたいなんです。うーん、あの取材で何か思うとこがあったんでしょうか。
まあこんな話です。わけわからなくてすみませんね。

がははかいう



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