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水槽の話

2016.03.17 (Thu)
これ、今から30年くらい前のことなんだけど。
俺が中学生のときの話。だからずっと忘れてたんだけど、最近ある事があって。
それで思い出したら、いろいろ想像がふくらんでしまってね。
どういうことなのかここで聞きたいと思ってね。
中学1年のときだよ。俺らの中学は3つの小学校から集まってきて、
西島は別の小学校だったから、中学のクラスで初めて顔を合わせた。
で、自己紹介するだろ。そのときに「自分は水槽で水草飼育してる」って言ったから、
「これは」と思った。俺も熱帯魚飼うのが趣味だったんだよ。
だけど、水草はレベルが高くて、自分の水槽には金魚藻くらいしか入れてなかった。
今は二酸化炭素の添加装置とか、いろいろいい器材があるから水草栽培も楽だけど、
当時はけっこう高度な趣味だったんだよ。

それで、水草見せてもらいたと思って近づいていった。
小学校のときも同じ趣味を持ってるやつってあんまりいなかったんだよ。
で、話しかけてみたら、オタクっぽいわけでもなく、ごくごく普通のやつだった。
今にして思えば、育ちがよかったって言うんだろうな。家も金持ちみたいだったし。
すぐに親しくなって、互いの家にも遊びに行き来するようになった。
俺が西島の家にいくほうが多かったけどな。俺んちの水槽は45cmで、
飼ってる熱帯魚もホームセンターで売ってるありきたりのやつだったけど、
西島の家には90cm水槽が2本もあったんだ。
一本は南米のアロワナを飼ってて、これは大きくなるんだよ。西島は、
魚がもう少し大きくなったら120cm水槽に代えるって言ってて、
これもうらやましかった。で、いらなくなった水槽は俺にくれるって。

でもな、これは親からOKが出るかどうかわからんかった。
そのときでさえ、水をこぼすとか、電気代がかかるとか文句言われてたし。
ああ、それでね、もう一本のほうが、やっぱり南米の珍しい水草が入ってたのよ。
自然な感じのレイアウトじゃなく、花壇みたくきっちり植える場所を区切って、
当時、俺なんか聞いたこともない種類のものばっかだったな。
今でも栽培難易度の高いやつだ。それで、何度目か家にいったときに、
その水草が全部なくなってたんだよ。そのかわりに、不思議なもんが入ってたんだ。
説明しにくいなあ。高さが15cmくらいかな。全体として葉脈に似てるんだ。
葉っぱの形をしてるんだけど、筋だけが残ってるって言えばいいか。
今思えば、ウミエラというサンゴの仲間に似てた。ただ、ウミエラは海水生物で、
西島は淡水しかやってなかったが。それが水槽の中で4本、ゆらゆら揺れてたんだ。

「これどうしたんだよ」って聞いたら、「真部川の河口で採集してきた」って。
そこは大きな川じゃなく、いちおう海には注いでるけど、
嫌な臭いがして魚もあんまりいないような川なんだ。でね、
それは茎らしき部分が下の砂に刺さっていて、脈状の部分を両側に広げてゆらゆら揺れてた。
全体は透明がかった白で、水流とは関係なく動いてたんだよ。
「これ、動物なのか植物なのか」って聞いたら、「わからない」って。
「今調べているところなんだけど、図鑑には載ってないんだ。
 淡水の部分から採集したから、川の生物だと思うけど、海の図鑑もいちお見た。
 でも、どこにもこんなの載ってない」 「どうやってこんなのいるってわかったんだ?」
「河口の土手からサヨリ釣りの人を見てたら、これが岸のコンクリに張りついてた。
 変なものだなあと思って、次の日にバケツ持ってって手の届くとこのを採ってきた。

 水槽の隅に植えてみたら、翌日、他の水草が全部溶けちゃったんだよ。
 でも、これ新種かもしれないし、それだったら大発見だし、惜しくないや」
「餌、食べるのかな」 「今、研究してるとこだけど、熱帯魚の餌は食べないな」
そのときはこんな会話をして帰ってきた。
で、また2日後に行ったら、それはやや脈が垂れてきて元気ない感じになってたんだ。
西島は「なんか調子悪いみたいだ。水も親父に頼んで、
 車で真部川の同じ部分から汲んできたんだけど、やっぱり餌が必要なのかもしれない。
 今、赤虫とか、サンゴ用のペーストなんかを与えてるんだけど、食べる様子はないな」
その後も何回か見に行ったけど、どんどんしおれるように丸まっていくだけだったな。
ああ、真部川の河口には俺も見にいったが、同じものは見つけられなかった。
それで詳しい場所を聞こうとしてた矢先に、西島が学校を休んだんだ。

先生の話だと熱を出してるってことだったから、見舞いも遠慮した。
1週間して出てきたけど、かなり痩せてて、それと左手の甲に絆創膏が貼ってあったんだ。
「手、どうしたん」って聞いたら、目を輝かせて「あいつらの餌がわかった」って言う。
「何?」 「血だよ。こないだ水槽内の掃除をしてたら急に鼻血が出て、
 水槽に垂れたんだよ。水替えするほどじゃなかったけど、そしたらその日のうちに、
 両側の脈が開いて、あいつらが回復したんだ。だから、とりあえず自分の血を与えてみてるんだ」
「えー」 「今日、見に来いよ」ってことで、学校帰りに西島の家に寄った。
確かにね、その奇妙な生物は見違えるように開いて活発に動いてた。
で、俺の見てる前で、西島は2枚貼ってた絆創膏の一つをはがした。
そしたら縦の浅い傷が何本もあったんだよ。
西島はカッターを出してその傷の一本をなぞり、水槽の上に手を持ってって血をポタポタって。

正直「うえ~」って思った。「痛くないのか?」 「そんなには」
血の量はたいしたことはなかったな。ほんの数滴。けど、それが水槽に入った途端、
奇妙な生物はねじれるような、踊るような動きをしてね。
それ見てると、背筋がゾーッとしたんだよ。早々に家に帰ったんだ。
それから、しばらくは西島の家には行かなかったけど、
クラスで話はした。やっぱり血を与えてて、絆創膏が3本目になってたんだ。
でね、また西島が3日ほど学校を休んで、最後の日の5時ころ、俺んちに電話があった。
「水槽を一本やるから取りに来いよ」って。そう言われても、急には置く場所もないし、
とりあえず西島の家には行った。そしたら水草のほうはそのままで、
アロワナの水槽が空になってたんだ。
「どうしたんだよ」って聞いたら、「急に調子が悪くなって死んだ」って。

で、奇妙な生物のほうは元気に開いていて、少し成長してるみたいだったけど、
確かに4本あったのが3本になってたんだ。
「これも一つ死んだのか?」 「いや、前から3つだったけど」
水槽のことは「親にまだ了解を得ていない」って言ったら、
西島はちょっと不満そうな顔をして「じゃあ熱帯魚店に引き取ってもらうぞ」
翌日から西島は学校に出てきたけど、不思議なことに左手の絆創膏がなくなってて、
手の甲には傷跡もなかったんだよ。そんなに早く治るのはちょっと考えられないだろ。
水槽は親には置き場所がないって言われて、それから西島とは疎遠になっちゃったんだ。
2年になってからはクラスも別々になったし、家を行き来することもなくなった。
いや、話くらいはしたよ。「あの生物どうなったか?」ってね。
そしたら、「大きくなって飼いきれないから川に戻した」ってことだった。

もう水槽飼育はしてないみたいで、俺のほうも勉強が忙しくなったのと、
興味が音楽に移ったのとで、熱帯魚はやめちゃったんだよ。
3年のときは、西島は東京の高校に行くってことで、家族ともども引っ越してった。
ま、こんなことがあったんだが、最初に言ったようにずっと忘れてたんだ。
思い出したきっかけというのが、河川改修で前に西島の家があった近くに工事が入って。
したら、真部川に続く排水路の中から人の骨が出てきたってことで、ちょっとした騒ぎになった。
警察の鑑定だと10~15歳くらいの子どものものってことだった。
事件なのかはわからないけど、排水路は昭和に作られたものだからそれ以前のものじゃない。
現在捜査中なんだよ。それとな、その水路の中で奇妙な生物が発見されたってことも。
これは市報に写真が載ってたけど、あの西島の水槽の中のやつとよく似てるんだ。
そっちは大学で調べてるんだが、やっぱ新種じゃないかって話なんだよ。






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