弥生神社

2016.03.26 (Sat)
これねえ、わけわかんない話なんで、後で質問されてもちょっと困るんですけど。
女房は間違いなくなんか知ってるはずなんですが、話してくれないんですよ。
そのときのことを話そうとすると雰囲気が険悪になっちゃって。
まだ小さい子が2人いますから、機嫌を損ねるのもマズいし、
実害はなかったといえばなかったんで、そのままほっぽってあるんです。
それと、あんまり怖い話じゃないですよ。4年前ですね。まだ結婚する前のことですが、
2人で妻の実家にあいさつに行ったんです。中部地方の県で、東京からは車で3時間。
いや、初めてってわけじゃなく、その前にも何度か行ってまして、
結婚自体は了承してもらってました。そのときは親戚に紹介されるってことでしたが、
だからあんまり緊張感もなかったんです。ええ、式の段取りの確認もかねてました。
妻の実家は、旧家ではあるものの、義父はサラリーマンで、

農地も手放しちゃって、まあ普通の家です。親戚筋も特に変わったところもなく。
でね、1日目は大勢が集まって宴会、その日一泊して、翌日の午前中に戻る予定でした。
そしたら出発間際になって、妻が「ちょっと1件だけ寄ってくとこがあるから」
って言い出したんです。「え、今から? どんくらいかかるん?」
「そうね20分くらい。帰り道だし」話を聞くと、前日の集まりにこれなかった親戚、
義母のいとこの年配の女性だということでした。「玄関先であいさつするだけだからいいでしょ」
こう言われまして、別に悪い理由もなかったですから。
高速へ入る道を途中で外れると、景色がどんどん田舎になってきまして。
妻が「あれ、道一本間違えちゃったみたい。この脇なんだけど、
そっちには大回りしないと行けない」その後の予定は特になかったんで、
自分もあせる気持ちはなく「あっそ」と車を走らせてくと、道が上りになってきました。

舗装路なんですが、だんだん細くなって両側が杉の林になりました。
「ねえ、せっかくこっちに来たんだし、この先に神社があるからお参りしていかない」
「ん、いいよ」道はちょっとした峠を過ぎて、下りになったところで、
左手が大きく開けて、石段が見えてきました。それが、ものすごく幅広い立派な石段で。
いや、これどう説明すればいいかわからないんですけど、とにかく、
そのときにはそう見えたんです。その石段の前で車を停めまして、
2人で上っていきましたが、脇に生えてる杉の木がみな雲つくばかりの巨木で・・・
いや、これねえ、俺の記憶違いと言うしかないんですが、とにかく,
そんときはそう思ったんですよ。でね、途中で黒い袈裟衣を着た人が3人降りてきまして。
ええ、神社のはずですからお坊さんがいるのも変なだとは思ったんですけど。
ただ、3人とも短いながらも髪があったので、正式なお坊さんではないのかもしれません。

でね、この3人の体がすごく大きくて、まるで相撲取りみたいな体格だったんです。
こっちの姿を見ると、5段くらい上で3人は立ち止まって、腰を直角ほどに曲げて会釈しました。
それで自分も会釈を返したんですが、妻が袖を引っぱって「いこ」ってうながしたんです。
素っ気ない態度なんで「知り合いじゃないのか」って思いました。
そのまま上ってくと、ちょっとした広場があって、その向こうに平屋の横長の社殿が見えました。
ええ、鳥居はなかったんです。屋根も神社の白木のじゃなく、藁葺で、
古民家みたいな感じがちょっとしました。「へえ、変わったとこだね。なんて神社?」
こう聞きましたら妻が「弥生神社」って。自分ら以外は誰もいませんでしたし、
社殿の扉も閉まってたと思います。真ん前まで行って、お賽銭箱もないので鈴だけ鳴らして。
そしたら、その鈴に応えるように、閉まった扉の中から、カーン、カーンって鐘の音が2回。
それを聞いた途端、妻が跳び上がるような仕草をしたんです。

ええ、驚いたってことです。それから「とにかくお祈りしましょう」って。
でね、2人並んで手を合わせてたら、中から声が聞こえたんです。
男の声だと思いましたが、年齢は不詳ですねえ。若いようにも年とったようにも。
こう言ったんです。「2番めの女の子はもらうぞう」って。意味はわかりませんが、
間違いないです。そしたら妻が震え出しまして。
「どうしたんの?」って聞いても理由言わなかったんです。これ、気になりますでしょう。
でね、車に乗ってもずっと震えてる。それから親戚の人の家に行ったんですが、
神社のある山を降りてすぐでしたよ。そこの家は粗末なトタン囲いで、
出てきたのは小さいお婆さんでした。結婚する予定だってことを報告し、
結婚式の日取りを伝えて、玄関先で終わると思ってたんですが、
妻が上がっていくと言い出しまして。自分は茶の間で待たされ、

妻とその人は別室に行って小一時間ばかり話をしてたんですよ。
変わった家でしたよ。茶の間からフスマなしで、次の部屋が見えたんですが、
何か宗教をやっているような大きな祭壇があって、白い布が何枚も垂れ下がってたんです。
あとで妻に聞いたところ、その婆さんは昔は拝み屋をやってたってことでした。
それから東京に戻ってきたんですが、妻は何だか思いつめたような感じになって、
ほとんど物をしゃべらなかったんですよ。
それで、遅くなったこともあってこっちも機嫌悪くしまして、その日はそのまま。
で、この1ヶ月後に都内のホテルで式をあげたんです。
それからほどなくして子どもができました。でね、まだ男か女かもわからないときから、
妻はこれは男の子に間違いないからって言いはって。
で、やっぱり男だったんですけどね。名前は睦雄、これは自分がつけました。

古風だけどいい名前でしょう。今のキラキラネームって好きじゃないんです。
それから1年して、また子どもができたんです。長男のときは、妻はつわりもひどくなく、
かなり楽なお産だったと思ったんですが、このときは苦しみました。
それで、8ヶ月目のときに、「お参りに行こう」って言い出したんです。
「どこへ?」って聞いたら、あの弥生神社へ行きたいってことでした。
でね、1歳になってた長男も連れて再訪したんですけど、このとき奇妙なことがありまして。
ええ、当然実家には行って、長男を預かってもらったんです。そして弥生神社へ行く前に、
あの拝み屋の親戚の家に。そしたら同じ小さい婆さんが出てきたんですけど、
なんか1年くらいですごく年とったように見えました。家には入らず、
婆さんがバスタオルにくるんだものを渡してよこしたんですが、
これが何だかわかりますか。・・・豚の仔ですよ、それも生きたままの。
 
ほとんど人間の赤ん坊と同じ大きさで、暴れることはなかったです。
ねえ、わけわかんないでしょう。でも、妻に「これ何だよ?」って聞いても答えがなくて。
でね、弥生神社の山に入っていったんですが、最初は道を間違えたと思いました。
だってね、しょぼい急な石段があるだけでしたから。
ええええ、前来たときはもんのすごく広かったはずです。
それに脇に生えている杉も、ありえない巨木だった記憶があるんですが、
そのときに見たのは、一抱えもない細い木ばっかで。「ほんとにここだっけ?」
妻に何度も確かめましたが「間違いない」って答えが返ってくるばかりで。
でもね、上の建物は確かに前と同じだと思いました。
違ってたのは、扉が開いてて、たくさんのロウソクが灯ってたことです。
祭日か何かだったのかもしれませんが、そのわりにやっぱり参拝者の姿はありませんでした。

それで、妻が豚の仔を抱いたままでした。「身重だから俺が抱くから」って言っても聞かずに。
前のときのように2人で手を合わせました。そしたらです、
カーン、カーン、カーンと鐘を乱打するような音が中から聞こえまして、そのときに、
豚の仔が「ギャギュウウウッ」みたいな声で鳴いたんです。
・・・まあこれだけの話ですよ。ただ、帰りにまた婆さんの家に寄って豚の仔を返したんですが、
バスタオルの顔のあたりが赤く染まってて、豚の仔は目を閉じてピクリとも動かなかったんです。
死んでるんじゃないかと思いました。その年の5月に2人目が産まれて、これは女の子でした。
妻がどうしても名前をつけるってきかなくて、弥生ってなったんです。悪い名前ではないですが、
5月生まれですからねえ。それと、たぶんあの神社と関係があるんだろうと考え、
反対はしませんでしたよ。え、子どもらですか?2人ともうるさいくらい元気で、
病気一つしません。それからは妻の実家に孫の顔見せても、弥生神社には行ってないんです。






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