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土管3

2016.04.12 (Tue)

小学校の3年のときだと思うんだよ。夏休み前のPTAがあった日。
その日ね、家に帰るのが嫌で公園にいたんだ。
というのは、PTA前に授業参観があったんだが、教室にテストが貼りだされてて、
母親がそれ見ちゃってね。今はそんなことしないのかもしれないけど、
俺の頃はまだふつうにそういうのやってたから。
でね、俺のテストは90点だったんだよ。貼られるのは満点のやつだけだけど、
どんなテストがあったのかわかるじゃない。
家に戻ったら、テスト見せろって言われて、満点じゃないから怒られる。
そうそう、90点だっていい成績じゃない。ところが、
俺の母親はすごい教育ママで、満点以外はグチグチ小言を言われるんだ。
叩かれたりはしないけど、仏壇の前に正座させられたり。

だから家に戻るのが嫌だったわけ。俺は5時間目で終わって、
母親は学校に残って教室でPTAに参加するんだけど、
早く帰って母親が戻ってくるのを待ってるのがやだったんだよな。
かといって公園で時間をつぶして帰ってもやっぱ怒られるんだけどね・・・
家まで5分くらいの公園なんだが、そこお気に入りの遊具があってね。
コンクリの土管を複雑に組んだものなんだよ。どっかから入ると中で交差してて、
上に出たり左右に出たりする。さあね、俺が高校のときまではあったけど、
今はもうないんじゃないかな。回旋塔とか、危険がある遊具って、
のきなみ撤去されたじゃない。その土管は危険なことはないけど、
かなり古くなってたからね。てっぺんに、口を開けて山高帽をかぶった、
カバかなんかの間抜けな頭がついてて、その口から外をのぞけるようになってた。

けども、その当時から古びててかなり塗料も剥げていたし。
でね、草むらにランドセル置いて、その土管に入ってたんだよ。
暑い日だったけど、中はひんやりしてて土管も冷たくて気持ちよかった。
他の子はだれもいなくて、ひとととおりくぐると中でうとうとしてしまったんだ。
それまでそんなことはなかったんだが、その日は急に眠くなっちゃって。
どのくらい時間がたったのかなあ。目が覚めて、さすがに帰らなくちゃって思って、
一番近い穴から顔を出したら、あたりが真っ赤になってた。
夕日に染まってる・・・って思った。でもなあ、家に戻ったときは、
まだ4時くらいだったから、俺の記憶違いかもしれない。
で、穴の外のすぐ近くに、すごく太った人がいたんだよ。服装は・・・
黒っぽいスーツに白ワイシャツじゃなかったかな。あんまり印象がない。

その人が太りすぎてて、そればっかり頭にあってね。
お腹がまんまるにふくれてて、縦横が同じくらいに見えたな。
それと顔も丸くて、なんだかお月様を連想してしまった。
ほら、マンガなんかであるじゃない。月に顔が描いてあるやつ、あれによく似てた。
ああそうだ、機関車トーマスにも似てるといえばそうかな。
あっけにとられて見てたら、その人は「ぼうや~~~」と言いながら、身をかがめて、
顔を近づけてきたんだ。俺は怖くなって、後じさりして奥に下がった。
そしたら顔が土管の穴にくっつくと、そのままにゅーって頭だけが土管に入ってきたんだ。
これ、どう説明すればわかってもらえるかな。
餅をパイプに押しつけると、そのパイプの太さの分だけ入っていくじゃない。
あんな感じで頭が縦長に伸びて、にゅにゅにゅにゅって入ってきたのよ。

ああ、わかってる。そんなことふつうの人間には無理だし、
俺が想像でこしらえた記憶だって言うんだろ。まあな、俺自身そうだろうって思ってるから。
ま、続きを聞いてくれ。俺がそのときいた土管の穴は、奥が行き止まりになってたところで、
どんどん下がっていって、その顔に追いつめられてしまった。
ああ、土管はところどころが色のついたプラスチックになってて、
そっから明かりが入ってくるんだよ。だから顔の表情もわかった。
満面の笑みだったよ。で、それ以上退がれなくなった俺に向かって、
「ぼうや~ どうしたのかな~、お家にかえらないのかな~~」って聞いてきたんだ。
その声がすごい優しい響きだったんだ。そしたら怖い気持ちがふっと消えて、
なんかいい人なんじゃないかって思えてきた。それで、「家に帰ったら怒られるから」
そう答えた。「だれに~~?」 「お母さんに」

「じゃあ、お母さんがいないほうがいいのかな~~」そう聞かれたんで、
「そうじゃないけど、怒らないお母さんになってほしい」って答えたら、
「ふ~ん、そうかあ。じゃあ、そうなるようにしてあげるよ」土管いっぱいに詰まってた顔が、
すーっと後ろに引っ込んでいった。そのすきに俺は前に出て、上に登り、
反対側の口から外に出たんだよ。それで前に回ると、
その人は土管にまだ顔を突っ込んだままだったんだけど、
首からどんどん土管の中に入っていったんだ。ありえないんだよ。その土管は、
低学年の子と幼児しか入れない大きさで、5・6年生だともう苦しいんだ。
それなのに、太った体からチューブの中身を流しこむようにして、
とうとう中に全部入ってしまったんだよ、で、穴という穴が全部ふさがってしまった。
その人が土管全体に詰まってるってことだ。

穴が素通しで、向こうが見えるとこもあったんだが、
それが見えなくなってたんで、土管全体が肉で充満してしてるってことだな。
で、驚いていると、ポンって感じで顔が一番上のカバの口の中に出たんだ。
目のあたりしか見えなかったけど、にまーっと笑ってる感じで、
「ぼうや~~ もう遅いから帰りなさい。お母さんは怒らないと思うよ~~」こう言った。
もわーんと響くような声だった。それでまた怖くなってきて、
ランドセルを拾って走って家に戻ったんだよ。一軒家の門から入って庭を抜けると、
玄関の戸が開いてて、上がりかまちのところに母親が倒れてたんだ。
よそ行きの、PTAに来たときの格好のまま、上を向いていびきをかいてた。
口から白い泡が出ていたと思う。それで、よくいっしょにキャンプに行ったりしてた、
隣の家に駆け込んで、そこのジイサンに来てもらい、

ジイサンが母親の様子を見て、救急車を呼んでくれたんだよ。
脳卒中だったんだな。命は助かったけど、ずっと寝たきりになって、
リハビリを始めるようになったのは1年後のことだよ。右半身と言語に障害が残って、
たしかに太った人の言ったとおり、それ以後怒られることはなかったが、
家は俺と父親しかいなかったから、かなり苦労したんだよ。
まあそのおかげで、料理とか洗濯はひととおりできるようになったけどな。
こういう話なんだよ。どう思う、全部が俺の脳内ででっちあげた記憶なんだろうか。
けど、それから2日後にあの公園を通ったんだよ。
そしたら、作業服を着た人が何人もいて、あの土管を清掃してるみたいだった。
これは後で聞いたことだけど、土管の中全体がベトベトした液体がこびりついてて、
そのために来てたみたいだったんだ。

あとな、その太った人だが、もう何回か姿を見てる気がするんだ。
それも俺の人生の節目、節目にな。俺が高校受験のときだ。
第一志望の、ちょっと合格は厳しいんじゃないかって言われてた高校を受けたとき、
そこの会場は3階だったけど、数学で解けない問題があって、
テスト用紙から顔を上げて何気なく窓のほうを見たら、
教室の3分の1くらいもの大きさで、太った人が外に見えたんだよ。
「ええっ!」と思って見直したら、もう消えてたけどな。
それで、関係あるかわからないが、その第一志望は合格したんだ。
あとは、今の女房と結婚する前、プロポーズをしようって思ってたときにも、
小学校のときみたいに言葉はかわしてないが、見た気がするんだよな。
これ何なんだろうな? あんたらはそういうのに詳しいって話だったから・・・
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