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マユ玉

2016.04.13 (Wed)
2年前ですね。中部地方のある山に家族で行ったときの話です。
はい、家族は私と夫と当時4歳の娘の3人で、夫の運転で車ででかけたんです。
これは登山やハイキングということではなく、参拝と言いましょうか。
ええ、そこは500mほどでしょうか。ゆっくり2時間で登れる低山なんですが、
頂上部分に小さな神社があって、最近はお山全体がパワースポットって言われてるんです。
あ、はい、夫も私もその手のことに関心がありまして。
夫と知り合ったのが、大学の民俗学研究会でのことなんです、ですから。
9月の連休のことでした。近くの温泉に一泊して、2日目の午前に登ったんです。
そうですね、わりと人は出ていましたよ。幼い娘はかなりキツかったようでしたが、
なんとかロープウエーのある4合目までたどり着いて、そこで一休みしていました。
鉄柵のある崖の近くのベンチが空いていたので、そこに親子3人で座ったんです。

ですから、いなくなるなんてことは考えられないんですけど、それが・・・
私たち夫婦が中央広場のほうに向いて座って、
娘は崖下が見えるよう反対を向いていました。
それが急にベンチの上に立ち上がり、「キラキラしたものが降ってきた」と、
頭上に手を伸ばしました。土足でしたので、私が注意しようとして娘のほうを向くと、
娘はベンチの反対側に降りました。そしてそこで、消えてしまったんです。
そんなでしたから、私たちは娘がふざけて、どっかに隠れてるのかと思ったんです。
「出てきなさい」と呼びかけながら、ベンチや植え込みの陰などを探したものの、
どこにも見つからず、不安になってきたんです。
娘の名を大声で呼ぶのも、他の参拝者の目がありましたので、
広場にあった売店の方に事情を話しました。

そしたら、60歳を過ぎたおばさんに見える方でしたが、
「おやまあ、また悪さが始まったかいの」そう言って、携帯で電話をかけたんです。
話を聞いていると、どうやら山頂にある神社の宮司さんのようでした。
それが終わると私らのほうに向き直り、
「今、宮司さんがロープウエーで降りてこられるから、それまで私らで探しましょう。
 ただの迷子ならそれで見つからんことはないでしょう。
 もしも神さんのイタズラだったとしても、宮司さんは慣れてらっしゃるから」
そう言って、広場に放送もしてくれたんです。
ええ、娘の名を呼んで、聞こえたら中央売店に来るようにって。
広場の冊の周囲は150mくらいだったでしょうか。けっして広いところではないし、
隠れるようなところも多くはありませんでした。

ただ、もしも冊をくぐり抜けて草の繁った崖に落ちていったらと思うと・・・
その店員さん2人といっしょにくまなく探しました。
夫は斜面に降りて、そのぐるりを回ったんですが、見つかりませんでした。
そうしているうちに下りのロープウエーが着き、
神社の関係者の方が3名、降りてこられました。それが驚いたことに、
3人とも神職の装束ではなく、作業服を着ておられたんです。
一番年かさの方が宮司さんだと思ったんですが、そのとおりでした。
売店の中で、娘がいなくなったときの状況をお話しましたら、
宮司さんは「これは神さんが隠したんだろう。やれやれ、しばらくなかったことだが」
そうおっしゃって、他の2人の方もうなずかれました。
それから「上の林でマユにされとると思うから、今から探そう。なに、心配いらんから」

それで、私たちと一緒に頂上へ続く登山道を登ることになったんです。
その道は4合目までよりもずっと険しく、高さのある石段が続いていて、
絶対に娘が一人で登れるとは思えませんでした。ですから、
もしこの道を行ったのだとしたら、誰かに連れ去られたのだろうと思ったんです。
夫もそう思ったらしく「誘拐でしょうか」と宮司さんに聞きました。
宮司さんは「いやいやいや、祀ってあるのはイタズラ心のある神さんでね」
と答えられ、そのときには意味がわからなかったんです。
それから40分ほども登ったでしょうか。
道の両側は松の木が目立つ林になっていましたが、宮司さんが「ここらから入ろう」
とおっしゃり、かたわらの方が背負っていたリュックから縄と水筒を出したんです。
縄は細かったんですが、ちゃんと短いな御幣がついていて、注連縄だと思いました。

それを松の大木2本に渡して、頭上の手がやっと届く高さに張りました。
それから縦長の盃2つに水筒の中身を注ぎ、樹の根元に置いて、
宮司さんが祝詞をひとしきり唱え、それから5人で注連縄をくぐったんです。
宮司さんは作業服のポケットから白いものを取り出しました。
それ、そのときはわからなかったんですが、人形(ひとがた)ってものだと思います。
ええ、和紙を大ざっぱに人の形に切り抜いた。
それに白い糸がついてるようでした。宮司さんが何事か唱え、
糸を指にはさんで手を離すと、林の中は風もなかったのに、
それは小さな凧みたいに中に浮かんだんです。といっても高く上がるわけではなく、
宮司さんの体から数十cmほどの頭の高さに。一人の方が宮司さんの前に出て、
ナタを取り出して小枝を切り払いながらそちらの方へ進みました。

それは、歩きづらかったですよ。下草はまだ枯れるのが始まってなかったですし、
登山用のスニーカーに救われました。それより、不思議なのが人形の凧です。
フッ、フッと急に向きを変えるんですから、風の力で動いてるわけじゃありません。
その方向に木の間を抜けていくと、キーン、キーンと耳の奥で音がし始めました。
金属を金属で叩くような音で、とても耳障りでした。
最初は私しか聞こえないのかもと考えましたが、夫のほうを見ると顔をしかめていました。
それと、木の間に何かが飛んでいたんです。透明に近いような細い糸・・・なんでしょうか。
長さがどれくらいかは、はっきり見えなくてわかりませんでした。とにかくそれが、
足元から頭上高くまで、同じ方向に向けて飛んでいってるように見えたんです。
一人の方がそれを指差して、「こちらで間違いないようです」
宮司さんに話しかけ、宮司さんは「もう近い」とおっしゃられて。

すぐに、あらゆる方角からその糸が集まっている場所に出たんです。
やはり木の間に透明な糸が張りついて、蜘蛛の巣のようになっていました。
それは木漏れ日にキラキラ光って、とても美しかったのを覚えています。
中央に楕円形になった半透明の玉ができていました。広場の売店で宮司さんが、
「マユ」という言葉を出されていましたが、これのことかと思いました。
ただ、その玉は20cmほどの大きさで、
4歳の娘が入ることができるものではなかったんです。
宮司さんの持っていた人形の凧が、指を離れて玉に吸い寄せられ、ピタリと張りつきました。
そこで宮司さんは、強くたしなめるような口調で何か言いました。
意味はわからなかったんですが、「取り替えてくださるように」
みたいな内容じゃなかったかと思います。宮司さんはポケットから小刀を取り出しました。

白木の柄の昔風のものでした。それで、瓜の皮を剥くようにして、
マユ玉に切りつけたんです。すると、キーンという音がより強くなりました。
やがて、マユの中に空洞が見え、うつ伏せになって目を閉じている娘の姿が出てきました。
これは10cmほどの大きさしかないように見えましたが、
ぽろりと宮司さんの手のひらに落ちると、急激に大きくなって、
本当の娘の姿になって抱きかかえられていたんです。ええ、夫婦ともに見たんです。
宮司さんは「安心なさい、眠っているだけですよ」こうおっしゃって、夫に娘を渡しました。
マユ玉の残骸は、人形が張りついたまま、ゆっくり溶けていき、
しずくがボタポタと下に落ちていました。こんなお話です。社務所に立ち寄って、
宮司さんたちにお礼を言いましたが、詳しい説明はありませんでした。
娘はしばらくして目を覚ましましたが、何も覚えてはいなかったです。








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