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狸汁の話

2016.04.25 (Mon)
去年の冬のことですね。そんときはまだ大学生だったんですけど。
寮生活してたんです。お金がなかったですから。
実家の両親が、俺が高校のときに交通事故でいっぺんに亡くなりまして。
保険とか慰謝料が入るような形の事故じゃなかったんです。
親戚が家財などを整理してくれて、交通遺児の奨学金も受けましたけど、
それでは足りず朝から晩までバイトで、
その合間に大学の授業に出てるようなあんばいで。
今にして思えば、何のために大学に入ったのかって考えちゃいますよね。
そんな具合だったけど、年末年始はバイトがなかったんです。
メインが本の配送だったから。でね、短期のバイトでもないかと
寮の共有のパソコンでネット見てたら、一つ上の先輩が来まして、

「お前、正月中ヒマか?」と聞いてきたんです。「4日までバイト先、休みなんです」
って答えると、「じゃあ俺のオジさんのとこに行かねえか」って誘われて。
それ聞いたとき、お金かかるのはやだなって思ったんです。
寮にいれば晩飯は出ますから。躊躇してたら先輩は「なに、金はかからん。
 行くのは山の中だから。行き帰りとも俺の車で送るし、それになあ、
 狸汁とかうさぎ汁が毎日食えるぞ」って。・・・どういうことかと思うでしょ。
でね、詳しい話を聞いてみたんです。そしたら、その先輩のオジさんは今年58歳、
前年に大企業を早期退職したんだそうです。理由は、奥さんと息子さんを
交通事故で亡くされて仕事をする張りを失ったからってことで、ほら、
さっき話したように俺の両親も事故死してるでしょ。他人事じゃない気がしたんです。
先輩は続けて「オジさんは山のわずかな土地を買って、そこで自給自足してるんだ。

 退職する前からその麓に別荘を持ってたんだけどな。で、罠猟の免許持ってるんだ。
 休日とかよく行ってたんだよ。それが本格化したってことだな。
 よく俺の実家に、ミソ漬けの狸肉とか送られてきてるみたいだ」
こんな話だったんです。でね、熱心に誘われて心が動き、
正月の2日、3日とお世話になることにしたんです。先輩の車はスバルの中古で、
雪道に強いやつでした。長野市街から1時間半くらい。道はガラガラでした。
ただ、山麓の道の駅に車を停めて、そっからは雪山を歩いて登ったんです。
40分ほどかかりましたけど、雪がなければ15分くらいの距離だったと思います。
先輩のオジさんが始終通ってるらしく、道はついてました。
もっとね、山奥を想像してたんですけど、考えてみれば、
高いとこだと電気もなだろうし、普通の人が暮らすのは無理ですよね。

着いてみたら、小屋住みだって聞いてたけど、真新しい平屋の、
ずいぶん立派な山小屋でした。オジさんはかなり背の高い人で、ガッチリした体格。
もうすぐ60には見えませんでした。顔中無精髭でにっこり笑うと、
悪いひとには見えなかったんですが・・・ 小屋の中には囲炉裏が切ってあって、
それ以外に薪ストーブもあり、寒さは感じませんでした。
炉には鍋がかかってまして、うまそうなにおいがしてました。着いたのは昼前でしたが、
オジさんは「昨日獲ったばっかのやつだ。冬場だから脂はのってないが、臭みはない」
こう言われて、ごちそうになるとこれがトロけるように柔らかかったんです。
「獣肉は臭いって言うし、確かに狸は独特の臭いがあるけど、ウサギは違う。
 それに狸や穴熊だって、ちゃんと処理すれば立派なジビエだ。晩には、
 ミソ漬けの狸肉食わせてやっから」こう言ったんです。

それから山小屋生活の話、保存食や罠猟のことを聞きました。
外に出てみると、メインの小屋の他に二つ、作りの粗末な小屋が建ってて、
オジさんは作業小屋って言いました。「ほら、家族を事故で亡くしただろ。
 だからねえ、その供養もかねて仏像を彫ってるんだ。それやってるところ」
大きいほうの小屋の戸を開けると、中には電ノコとかいろんな機械があって、
丸木が積まれてました。あと、怖いような歯がついた、獣罠もありました。
で、奥のほうに台座を入れて2mほどの高さの仏像が2体。よくわかんないですけど、
一木彫っていうのかな。丸木の皮をはいでそのまま外から彫ってるやつ。
粗削りで、何という仏様かもわからないし、まだ未完成に見えました。そう言うと、
「ああ、2体平行して彫ってるんだ。失敗しても継ぎ足す技術はないから慎重に」
こんな話をしてたんですが、俺、なんか違和感を感じたんですよ。

だってほら、仏像って仏教のもんだから、殺生を嫌うってことでしょ。
それなのに、像の前には平然と罠が置いてあるし、
小屋の中そのものがすごく獣臭かったんです。仏像のさらに奥には木の台もあったし、
もしかしたらここで解体もしてるんじゃないかと思ったんです。
ねえ、これおかしいと思いますよね。家族の供養って言ってたから、
信心とか関係なく、彫刻の趣味でやってるってこともないだろうし。
無神経なのかなあ、と思ったんです。その後は、スノーモビルを貸してもらって、
暗くなるまで先輩と乗ったんです。戻ってみると、狸汁の他に唐揚げまで用意されてました。
オジさんは「飲めるだろ」と言って、ドブロクなのかな。
黄色く濁った酒を出してきたんですが、これが飲みやすくて、
オジさんも先輩もコップでグイグイやってたんで、ついつられて・・・

そんときに、俺の両親の話も出たんです。「気の毒だねえ、悔しかったろう」って。
酒のせいで俺も饒舌になってて、いろんなことをしゃべり、
ウンウンって聞いてくれてたんですが、そっから先の記憶が途切れてるんです。
これ、後で思ったんですけど、酒になんか入ってたんじゃないかって・・・
とにかく、次に気がついたときには真っ暗な中にいたんです。
頭がガンガン割れるように痛くて。それと自分の体の位置がよくわかりませんでした。
なんかにもたれて立ってるような感じがしたんです。手を伸ばすと、
すぐ胸の先で行き止まりになって、何か箱のようなものに立ったまま入ってる、
そういう状態なんだと思いました。これはパニックになるでしょ。
その状態ですごく暴れたんです。そしたら、そのまま入ってるものごと倒れたような
衝撃があって。前のほうが開いて、俺は外に転げ出たんです。

外は薄明るく、かなり寒かったです。作業小屋の中にいるんだと思いましたが、
昼に見せてもらったほうではなく、小さいほうの小屋。LEDの照明がついてました。
立ち上がると下は藁で、俺が入ってた箱みたいなのは仏像だったんです。
前の2体とは別のにに見えましたね。それの中がくり抜かれて、
そん中に入れられてたってことです。あと、仏像は顔を下向きにして倒れたので、
背中が見えたんですけど、その尻の部分に横に曲がるような形で、
木彫りの獣のしっぽがついてたんです。・・・こんな話信じられますか?
あと、目の前の藁の上には大きな狸だと思いますが、その死体が数匹分
積み上げられていて、血の臭いがしたんで、ごく最近獲ったもんじゃないかと思いました。
わけわかんないながらも、母屋には戻られないと思いました。逃げたほうがいいって。
そんとき俺は、昼着てたダウンのままだったんです。ただ足は靴下だけで。

でもね、小屋の中に長靴と藁沓があったんです。長靴は大きかったけどそれ履いて、
小屋の戸はかんぬき錠で中から開けられたので、そっと外に出ると、
外は雪こそ降ってなかったですが、長野の1月だから、気温は零下だったと思います。
ゾクゾクっと震えがきましたが、来たのは一本道だったから、
とにかく道の駅まで降りようと・・・もちろん街灯も何もないんですが、
雪でぼうっと先のほうが見えました。20mくらい小屋から離れたところで、
後ろで音がしたんです。振り返ってみると、母屋からオジさんと先輩が出てくるところで、
オジさんだと思いますが「逃げるなあっ!!」大声で叫ぶ声が聞こえました。
そっからは俺、転げるようにして坂を下っていったら、
背後で「バーン」という音が聞こえて、これ猟銃を撃たれたんだと思います。
何度も転びながら坂を下って、その間に銃声は3回はしたんじゃんかな。

国道に出たときは心底ほっとしましたが、通ってる車はなし。
そこでやっと腕時計見たら、朝方の5時過ぎでした。道の駅まで走って、
そしたら幸い、駐車場の管理所みたいなとこの明かりがついてたんです。
ドンドン戸を叩いたら、制服の警備員らしい人が出てきて中に入れてくれました。
そのとたん俺の全身に震えがきて、寒気がして倒れてしまったんです。
救急車を呼んでくれたようで、病院で急性肺炎と診断され、
そのまま入院ってことになったんです。救急隊員から話を聞いたのか、
警察もきて事情を聞かれました。あったことをそのまましゃべったんですが、
後になって、山小屋には誰もいなかったって聞かされました。先輩は大学に出てこず、
警察は殺人未遂で捜査したみたいだけど、そもそも先輩にそんなオジさんは
いないようでした。で、俺も人間不信みたいになっちゃって、すぐ大学辞めちゃったんです。






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