家ものホラーについて

2016.04.28 (Thu)
今日は怪談論とします。「家ものホラー」というジャンルがあって、
映画、小説、実話怪談のそれぞれで出てきますし、自分もいくつか書いています。
説明するまでもないでしょうが、簡単に言うと、
「ある建物に入ると、そこで怪異が起きる」という筋立てのことです。
みなさんも、あれもこれもと何本も指を折って数えることができるでしょう。
日本での歴史は古く、当ブログで何度か取り上げている『今昔物語』にも、
いくつかそれ系統の話が出てきます。

典型的なのは「三善清行(みよしのきよつら)が空き家へ引っ越す話」
というもので、三善清行は実在の人物。平安時代中期の公卿、漢学者で、
71歳という高齢で参議の地位にまで昇りました。
これは家柄を考えれば大出世と言えますが、実際に有能な人であったようで、
文章博士時代の論争は有名です。また怪異好きでもあり、
『善家秘記』という奇譚集も書き残しています。
もっと有名になってもいい人なんですけどね。

『この清行は、非の打ちどころのない人格者で学問教養が深く、
さらに陰陽道の知識もあり、善宰相(宰相は参議の別称)と民衆から呼ばれました。
清行は清貧を貫いて家がなかったので、家相が悪いといって放置されている
ボロボロの古家を見つけ、安く買って住むことにしました。
もちろん周囲の人は止めたのですが、聞き入れる様子もなく、
わざと日が落ちてからその家にいき、板の間だけを掃除させ、破れた障子の中に座り、
「明日の朝迎えに来い」と言って、供の者をみな返してしまいました。

そうして一本の灯をつけたのみで端座していると、まだ真夜中には間がある時分、
天井で何やら動く気配がします。見上げると、天井格子の一つ一つに顔があり、
それは全部別の顔でした。しかし清行が悠然と構えていると、それらはみな消え、
かわりに、ひさしの上に馬に乗った小人が四、五十人もぞろぞろと現れ、
部屋の上を渡っていきました。しかし清行はまったく怖れません。

やがて夜もふけてくると、急に戸を開いて、口元を袖で隠した女が、
座ったままにじり出てきましたが、その見えている部分はなんとも美しい。
ぜひ顔をすべて見たいものだと思っていると、女は顔をおおっていた袖を開き、
すると大きく横に開いた口の端から20cmほどの銀色の牙が何本も出ていました。
さすがにこれには清行もあきれましたが、怖いとは思いませんでした。
やがて女はまた元の場所に消え、今度は裃を着た老人が訴状を持って出てきました。

相対した清行が何事かと尋ねると、老人は、
「貴方様に住まわれては困るので訴えにきました」と言います。しかし清行は逆に、
「お前は鬼神の類であろうが、家というものは人から人に住まわれてこそ役に立つ。
それをおどかして出て行かせようとするのは物の道理に反する。
鬼神というのは、道理をわきまえているからこそ畏れられるのだ。
察するにお前は狐の類だろうから、明日にでも鷹狩の鷹を家に放してやろうか」
こう叱りつけると老人は恐縮し、

「おどしたのは家の童どもです。イタズラするなと申しつけておったのですが・・・
畏れ入りました。すぐにも出ていきます」と約束しました。
老人が声を上げると、数十人の者が声を合わせて答え、
それっきり家は静かになりました。その後、清行は家を修理して長く住みましたが、
少しも変わったことはありませんでした。このように、肝の座った賢い人には、
鬼神も何もできないものだと世の人は噂し合ったそうです。』(意訳)

こんな話なんですが、面白いと思うのは、最近「小さいおっさん」
などと言われている小人の集団や、口裂け女的な妖異が出てくるところです。
人間の想像力というのは、昔からそう変わるものではないんですね。
結局は家の怪異などというのは、住む人の人品骨柄によってどうにでもなる、
というような教訓が話に含まれているのかもしれません。

さて、次に少し現代の家ものホラーの構造について考えてみます。
まず家にいる怪異ですが、日本だと、何らかの理由でその場所に執着している、
亡くなった人間という場合が多いようです。これはさすがに、鬼神や妖怪、
狐狸などが人間と共存している実感があった平安時代などとは違います。
家に住みついた狐が、新しい住人を追い出すために悪さをするといった内容だと、
現代怪談としてはあまり怖くはならないでしょう。

これが外国だと、人間の幽霊の場合もありますが、
悪魔的な何かが原因となっている作品もあれこれ思い浮かびます。
キリスト教に力があれば、神の対立概念である悪魔も力を持つのですね。
あと、心霊スポット系の話も家ものに入る場合もありますが、
やはり一過性の訪問ではなく、一定期間住む場合を、
家ものホラーとして考えるほうがよさそうです。

家に執着する原因はさまざまですが、
①その家で孤独死をした人の念がとどまっている。
②その家をローンで買ったが、事情で手放して一家心中してしまったなど自殺関連。
③その家で殺人が行われ、犠牲者の恨みつらみが残っている。
④その家は何かのオカルトな儀式に使用され、その影響による。
⑤家の敷地や床下に墓や人の死んだ井戸などがある。
などが考えられます。『呪怨』なんかは③のケースですよね。

また、新しい住人に対する仕打ちとしては、
①たんにおどかして追いだそうとする三善清行のようなケース。
②新しい住人の生気を吸い取ったり、自殺するようにしむけて道連れにしようとする。
③新しい住人に憑依して体を乗っ取ろうとする。
④新しい住人に供養してもらいたい、何かの要求
(隠した金を発見するなど)をかなえてほしがっている。
などが考えられるでしょう。

さてさて、長くなってきましたのでまとめますが、
これは、「地縛霊」という概念が元になっている話が
家ものホラーには多いということです。
場所と人が結びついて離れることができない理由が存在するわけですね。

肉体を失った霊ならどこにでも行けそうなものですが、そうではない。
殺人の犠牲者の場合、相手の加害者に祟りに出ていかないで、
関係のない第三者に害をなすのは理不尽ではないかと思うのですが、
その家に足を踏み入れたのは地雷を踏んだのと同じというのは、現代的でもあります。
ただ、どうして霊と場所が結びついてしまったかの理由は、
それなりに考えて書き込む必要があると思われます。



 


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コメント
ごぶさたしてます。

「幽霊屋敷」では、怪異の原因が「隠されていたわけのわからぬ機械」によるものだ、というやつもありますね。ブルワー・リットンの「幽霊屋敷」とか。

海外のやつでの怨霊ネタは、家が墓場の上に建てられていた、というオチのやつを覚えています。スピルバーグだったかな。タイトルなんだったっけ。

怪奇現象もなにも起っていないのに神経がじわじわやられて気が狂っていく幽霊屋敷小説ないかな。なければ自分で書けということかもしれないけれど。
ポール・ブリッツ | 2016.04.29 02:04 | 編集
 こんばんは、野崎です。

 三津田信三の『禍家』は3に近いですが、出てくる理由は怨恨ではなくて警告でしたね。
 もっとも、怪現象は主人公しか経験していないので、幻覚だったという説明もできそうですが。
 どうでもいいけど、ヒロインが美少女ではないがかわいらしいという表現が良かったです。
野崎昭彦 | 2016.04.29 19:54 | 編集
コメントありがとうございます
お久しぶりです
墓の上に家が建てられた映画は「ポルターガイスト」ではないですか
あの映画も霊障があったとか言われましたよね
bigbossman | 2016.04.30 01:47 | 編集
コメントありがとうございます
やっぱりホラー作家はどうしても「家もの」
を書いてみたくなるんでしょうね
しかし新味を出すのは難しいのに、それでも出そうとするので
バリエーションが増えていきます
bigbossman | 2016.04.30 01:49 | 編集
それそれ(^^)

夜中にテレビで途中から見ました。

惨殺シーンがなかったのでホラー映画苦手なわたしも結構楽しく見られたのを覚えてます。あれたしか、誰も死んでませんよね、驚かすだけで(^^)
ポール・ブリッツ | 2016.04.30 18:52 | 編集
コメントありがとうございます
ポルターガイストは1~3までシリーズで作られましたが

>1作目の公開直後に長女ダナ役のドミニク・ダンが交際相手に殺害され22歳で死去。
2作目のケイン牧師役ジュリアン・ベックが公開前に胃癌で死去。
2作目の祈祷師テイラー役ウィル・サンプソンが公開翌年に腎臓疾患で死去。
3作目の撮影直後にヘザー・オルークが12歳で急死。

こんなことがあって呪われた映画とか言われたりします
bigbossman | 2016.04.30 20:58 | 編集
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