FC2ブログ

側溝と虫の話

2016.05.13 (Fri)
うちは親父がある公社に勤めてて、転勤族だったんだよな。
小学校で3回、中学校で2回転校した。
転校自体はまあ問題なかったけど、仙台から名古屋みたいな感じだったから、
言葉に慣れるのがたいへんだったね。笑われるのが嫌で、
どこでもあんまりしゃべらなかったら無口な性格になっちまった。
だからこの話もね、聞いてるあんたらには意味不明のとこもあるかもしれない。
そういうのは最後にまとめて質問してくれ。
でな、俺が中2のとき、その前年の4月に親父が転勤して、
某県の社宅に家族で入ってたんだよ。社宅っても、長屋みたいなのじゃなく、
ちゃんとした一軒家だ。新興住宅地の戸建てを公社がまとめて買ってたんだな。
家の前がバス通り、右横に側溝があって裏は家。

その側溝は石蓋がしてあって、幅2mないくらいの通路になってた。
そこを通っていけば裏の通りに直で出られたんだよ。
でな、ある日夕飯のときに親父がこんな話をした。
「裏の、小西さんとこ、離婚したみたいだなあ」そしたら母親が、
「ずいぶん前から揉めてたみたいだけど、ご主人のほうがやっと判子押したって。
 まあ裁判にならなかったからよかったんじゃない」
母親は主婦で家にいるから、そういう噂は詳しいかったんだ。
「じゃあ、どうなるんだ。奥さんのほうが出ていくのか?」
「売っちゃうんじゃないかしら」俺と弟の前だから詳しいことは言わなかったが、
今思えば、原因は旦那が仕事を馘になったせいだと思う。
それから1ヶ月くらいは、何もしないで裏に住んでたからな。

しばらくして、裏の通りにコンビニがあったんで、
側溝の道を通ったのよ。そしたら一箇所だけ、重そうな石蓋が横にのけられてて、
下の水路が見えてたんだよ。通り際に何気なくのぞいてみたら、
水面は1m以上も深いとこにあって、水はわずかだったが、
何か細かいものがうごめいてた。「うわ、気味悪い」と思ってよく見ると、
細い赤っぽい虫が大量発生してたんだよ。背筋がぞくっとしたね。
裏の家の敷地の横にきたら、離婚したという小西さんが生垣の中でぼうっと立ってた。
いちおう「どうも」って挨拶したら、こっちをじろっと見ると、
何も言わずに家に入ってったんだ。雰囲気悪い感じだったが別に気にはしなかった。
でな、その日の夕飯のときに親父に側溝の話をしたんだよ。
蓋が開けられてて、大量の細い虫が見えたってこと。したら親父は、
「虫なあ。それ赤かったか?」って聞いてきた。

「ああ、暗かったけどたぶんそうだよ」 「じゃあアカムシだな。蚊の幼虫だが、
 刺さない蚊なんだ。アカムシは釣りの餌で売ってるもんだが、
 うっとうしいから、今度薬買ってきて撒いとくか」こんな話になった。
それから2,3日してまた側溝のところを通ったら、
外された蓋が2枚になってたんだよ。中にはもちろん大量のアカムシ。
石蓋を元に戻そうともしてみたんだが、重くて中学生には無理だったな。
親父は話したことを忘れたのか、薬を撒くこともなく、
蓋もそれ以上は外されずに、2週間くらいたったんだよ。
でな、夜の11時ころかな、自分の部屋で宿題をやってたんだ。
俺の部屋は2階にあって、そこの家から弟とは別の部屋になった。
ほら、最初に転校が多かったって言ったろ。

中学生のうちにもう一度転校があるのはわかってたから、
勉強はちゃんとやってたんだよ。学校によって教科書や進度が違うからな。
6月のことで、だんだん暑くなってきて部屋の窓を開けてたんだ。
そしたら、ズシャ、ズシャーって、なんとも言えない気色悪い音が外でし始めた。
柔らかいものを撒き散らすような音だよ。何だろうと思って、
そっちの窓からのぞいてみた。その窓は側溝の道に面してたんだ。
裏通りの街灯で薄ぼんやりと明るい中に、側溝の蓋が外れた場所が見えたが、
その穴の横に人が立ってるように思えた。服を着てる感じじゃないし、
かといって白っぽくないから裸でもない。
黒っぽくやや小さい人の形のものが、前かがみになって立ってると思ったら、
一瞬でぐしゃっと崩れたんだよ。「ええ!?」って思うだろ。

そんなことはありえないからな。人だったものは崩れた状態で
小山のようになってたが、だんだんに積み上がるように人の形をとり、
またぐしゃっと下に落ちた。そんときの音がしてたってことだな。
俺はそこまで見て、下に走ってって親父に知らせたんだ。
親父はまだ寝ないでテレビ見てたが、かなり酒が入ってるようで、面相臭そうに、
「あー、何言ってんだお前。じゃあ、見に行くか」
それで、懐中電灯を持った親父と外に出た。で、側溝の通路に入ったら、
これがすげえ臭いなんだよ。たんに泥の臭いじゃなく、
何かが腐ってるんだと思った。でな、蓋の外れたとこに行ってみると、
その左右の草の上が濡れて、たくさんたくさんアカムシが落ちてたんだ。
俺はこのアカムシが人の形になっては崩れるを繰り返してたと思ったんだが、

親父にそう言うと「んなバカなことはないから」って言われた。
まあそうだよな、そんなことがあるわけはない。でも俺は確かに見たんだよ。
「しかし、この高さまで、虫が這い上がってくるなんてありえないよなあ」
親父はそう言って、アカムシを踏まない位置まで下がって、
懐中電灯で側溝の中を照らし「ああああああっ!!」と大声を上げ、
尻もちをついた。「何だ、どうした?」とのぞこうとした俺を親父は手で制して、
「見るな、お前は見るな。警察に連絡する」って言って、
俺の体につかまりながら立ち上がったんだよ。
それから警察が来て、その夜は朝まで寝られなかった。
側溝の中で、裏の小西さんが死んでたんだよ。親父が懐中電灯で照らしたとき、
側溝の壁にもたれかかった顔を、もろに見ちまったんだな。

いやあ、俺は見なくてよかった。死因は、これは後で聞いたことだが、
薬物死ってことだった。前の仕事がメッキ工場で、俺はよくわからんが、
その関係の劇物を持ってたらしいんだ。警察の見解では、遺書は見つからなかったが、
自殺ってことになった。仕事は馘、奥さんにも逃げられで、動機は十分過ぎるからな。
死後4日って話だったから、だいぶ前からその中で死んでたわけだ。
いや、そこを通る機会があればもっと早く気がついてたんだろうが、
通らなくて幸いとしか言いようがないな。何でわざわざ側溝に入って死んだのかは不明。
それと俺が見たものについても解釈のしようがない。
アカムシが集団で人間のマネするなんて、誰も信じちゃくれないよな。
そこの家にはもう1年住んだが、俺は側溝に向いた窓は、
いつもカーテン閉めっぱなしにして、一度も開けなかったよ。






関連記事
スポンサーサイト




トラックバックURL
http://scoby.blog.fc2.com/tb.php/1122-30babe52
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する