預かる

2016.05.19 (Thu)
*ナンセンス話です。

あの、保険会社でOLをしていました。よろしくお願いします。
去年の秋のことです。その日も私は、昼休みに外の公園でパンを食べてたんです。
すごくおいしい移動パン屋さんの軽自動車が公園の前の道に回ってくるんです。
そこで調理パン2つと生野菜ジュースを買いました。
ええ、同僚と一緒に食べにいったりしてなかったんです。なんというか、私、
当時少し職場の中で浮いてたところがありまして、
いつも、やめたいなあって思ってたんです。同じ部内に、
独身の勤続35年というお局さんがいたんですが、その人とそりが合わなかったんです。
まあ、今はパワハラとかけっこう厳しいですから、
あからさまなイジメというのはなかったんですけど、
何かにつけてのけものにされてましたし、ちょっとしたミスですごく叱られたし。

それで、一人でベンチに座ってパン食べてましたら、近くの木、
種類わからないですけど、かなりの大木があったんです。
そこから何か小さいものがチョロチョロって走り下りてきて、
ベンチにトンと立ちました。「え、何?」と見たらリスだったんです。
「わ、かわいい」と思いました。リスは小脇にクルミのを1個抱えてて、
まるでマンガみたいでした。私のすぐ前20cmくらいのところで、
リスは首を回して私を見つめ、「はい」という感じで、
そのクルミを渡すしぐさをしたんです。「えー、私にくれるの?」って思いました。
野生動物にそんなことされたのは初めてでしたし、おそるおそる指を出したら、
リスと目が合いました。そのときに、黒いリスの両目が、
オレンジ色にぼうっと燃え上がったように見えたんです。

ぜんぜん逃げるそぶりはなかったので、手のひらでクルミを受け取りました。
すると頭の中に「頼みましたぞ」って、おじいさんみたいな声が響きました。
「え、え?」とあたりを見回しましたが、近くには誰もおらず、
ベンチに視線を戻すと、リスの姿も消えてしまってたんです。
「変なことがあるものだなあ」と思いつつ、手の中のクルミをよく見たんですが、
特に変わったところはない気がしました。ただ、後で調べところ、
その公園内にクルミの木はなかったんです。ともかくバッグにしまい、、
会社に戻りました。その日は打ち合わせもなく、
午後はゆっくり自分の仕事をする予定でした。それで3時頃でしたか、
一休みして目薬さそうと思ったんです。で、イスを引いたら机の右前の脚に、
べとーっとグリーンの蛍光スライムみたいなのがくっついてました。

「わ、何!?」と思いました。20cmくらいのもので、プルプル動いてましたね。
もう少しで叫び声をあげるとこでした。でもそのとき、「さっきのクルミ守らなくちゃ」
って頭に浮かびまして。バッグは机の下の棚に置いてあったんですが、
スライムはその方向に進んでる気がしたんです。とっさに引き出しを開け、
中からシールはがしスプレーを取り出しました。
効くかどうか自信なかったんですが、試しにスライムにシューしてみたら、
パッと消えて、べとべとしたものだったのに何の跡もついてなかったんです。
「あれ? 幻覚だったんだろうか、叫ばなくてよかったなあ」と思いました。
そうしてたら、「何、頓狂な声を出して!」って、
さっき話したお局さんに、ネチネチ絞られてたんじゃないかと思います。
バッグを開けてクルミを確認したら、ちゃんと入っていました。

それにしても、「守る」っていう意識が働いたのも変ですよね。さっき公園で、
「頼む」って声がしたのは、やっぱりこのクルミのことなんだろうか??
それでクルミはバッグから制服のポケットに移しておいたんです。
仕事を続け、時計を見たら4時30分。「あと少しで退社時間♪」
そう思って給湯室にお茶を入れにいったんです。それで戻ってきたら、
さっきから話しに出てるお局さんが、私の机のイスをのけ、
前にかがんでゴソゴソ下の棚を探ってたんです。
「あの、どうしたんですか?」って聞きました。そしたら、
「あんたね、さっき預けられたクルミどこよ?出しなさいよ?」
こっちを向いて、そう叫んで、額に縦ジワが入って目がつりあがってました。
「え、クルミって何ですか? 知りませんけど?」

「さっきお使いに預けられたでしょ。知ってるんだから、アレが届くと大変なのよ~」
こっちを睨んでた目がぼうっと緑に燃え上がったんです。
私はもう怖くて、どうしてクルミのこと知ってるのかとか、
そこまで考えが及びませんでした。「何のことかわかりません!?」
「出しなさい、キーッ!!!」そこまで言うと、お局さんの目がぐるんと裏返り、
白目になってドターンと後ろにひっくり返ったんです。
口から泡を吹いて、両手を胸の上でワナワナ震わせてました。
男性社員が寄ってきて様子を見ましたが、気がつく気配はなく、
そのまま救急車で運ばれていったんです。後になって部長から、
「さっき何話してたの? なんか揉めてた?」って聞かれたんですが、
「わかりません、急に一人で興奮されだして」と答えたんです。

その後、搬送先の病院から連絡が入りまして、
今は平常に戻って休んでるってことだったので、私も退社することにしました。
家は自宅で、電車で40分と歩き15分ほどかかるんです。
クルミはコートのポケットに移し、上から手で押さえるようにしていました。
「さっきお局さんが届けるとか言ってたけど、どうするんだろうコレ」
と思いながらです。電車は込んでたんですが、いつもの駅の2つ手前で、
ビビッとクルミが動いた気がしたんです。「あ、降りなくちゃ」って思いました。
なんでそう考えたかはわかりません。ともかく降りまして、
自然と足が東口に向きました。そこを出ると高架下の通りで、人の姿はまばらでした。
それで、私が出てややしばらくして、後ろで気配がしたので振り返ると、
山伏?修験者?みたいな格好の人が4人、私のほうを指差して何か話してから、

走ってこっちに向かってきたんです。「ああ、逃げなきゃ」そう思って走りました。
じつはですね、私こう見えても、高校時代中距離走でインターハイに出たことあるんです。
道はまったくわかりませんでしたけど、足が自然に曲がっていくというか。
時間は6時近くなってて、すっかり暗かったです。後ろをときどき振り返ると、
追いかけてくる人たちの目が蛍光グリーンに光ってるように見えました。
でもその人たち、足は遅かったのでだんだんに引き離して、
数百mも差がついたとき、ぽっと神社の前に出たんです。
大きなところではなく、林の中にあるお稲荷さんみたいでした。
鳥居の向こうに明かりが灯っているのが見え、「やっと着いた」って思ったんです。
中に入っていくと、人の気配はなかったのに、手水場の陰から人が3人出てきました。
今、人って言いましたが、その方たちは神主さんの着物を着て、

どの人も目がオレンジ色に燃えていたので、「あのリスと同じだ」って思いました。
その中で一番年上に見える方が「ご苦労様でした。お預かりのものをお出し下さい」
そう言ったので、ポケットからクルミを出すと・・・チリンと音がして、
同じ大きさの鈴に変わってたんですよ。「えーこれ、マジック?」と思いました。
ともかく、リスと同じオレンジだから信用してもいいかと、その鈴を渡したら、
3人そろって、「成就しました、有難うございます」って深々と礼をされたんです。
だいたいこんな話なんですけど、その方たちの一人が、
「ささやかですがお礼をしたい。・・そうですなあ、年末ジャンボ宝くじ、
 あれをお買いなさいまし」こう言ったんです。
それから駅に向かい、電車に乗りなおして家に帰ったんです。
以後は特別、おかしなことは起こってないですよ。

え? 宝くじは買ったかって? はい、30枚買ったら、
4等の5万円が当たりました。それと、私会社をやめたんです。
寿退社ってことですね。この後すぐに、別の保険会社の方と知り合いまして、
それからトントン拍子に話が進んで、今年2月に式をあげました。
今は主婦業をしています。子供のころからの夢だったのでうれしいです。
え? その神社ですか? 夫にそのクルミと鈴の話をしまして、
2人でお参りにいきましたよ。だれーもいない寂しいところで、
あのときの神主さんたちも見かけませんでしたし、社殿の扉も閉まってました。
当たった宝くじから1万円を、その扉の中に差し込んでおきました。
よくわかりませんけど、何か神様同士のもめごとに巻き込まれたのかもしれません。
え? お局さんですか? 体はなんともなくまだ会社にいます、勤続36年目で。







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