鼻曲がりと古代紫の話

2016.05.20 (Fri)
これねえ、すごく変な話なんです。だから、だれも信用してくれなくて。
でもね、一枚だけスマホの画像があるんです。
あとでそこのスクリーンにプロジェクターで映しますけど、
これね、見てるとなんか頭がおかしくなってくる感じがするんですよ。
いちおう今、注意しておきます。ほんと、頭グラグラするから。
話は去年の夏です。俺、大学3年だから2年のとき。
夏休み中だったけど、バイトあるから実家にはお盆しか帰らなかったんです。
それで、その日はバイト先の仲間と雀荘で麻雀やってたんです。
12時で店終わったけど、なんか頭がさえて帰る気がしなくなったっていうか。
かといって皆、飲みに行くほどの金持ってなかったんです。
その時間だと安い居酒屋はやってないですから。

でね、車で来てたやつがいたから、どっかにドライブしようってことになって、
市営の共同墓地に行くことに決まったんです。肝試し?
まあ、そうとも言えますけど、俺らお化けとかあんまり関心なかったんで。
そこは小高い丘を切り開いて造られてて、区画ごとに同じ墓が並んでて、
昔はそこの坂を暴走族のバイクがよく走ってたそうなんです。
いや、今はもう警察に徹底的にやられて、そういうのはないんですけど、
中央の広場で多人数の乱闘があったとか、バイクが崖から落ちたとか、
いろいろ伝説的な話を地元出身のやつから聞いて、現場見てみたいなって思ったんです。
道はくねくねしてますが、舗装されててずっと車で行けるんです。
で、行ってみたら、当たり前だけど人っこ一人いなくて、すごい静かでした。
たしか土曜日だったけど、アベックもいませんでしたねえ。

夜景はきれいでしたよ。ただ時間がもう1時近くなってたから、
港の明かりはほとんど消えてましたね。中央広場の自販機でコーヒーとか買って
一服して、それから山の裏手のほうに歩いてったんです。
さすがに墓地区画に入ろうってやつはいませんでした。
裏手は県の史跡になってるんですよ。なんか未発掘の古墳らしいんですけど、
その上に石人というのが何体か立ってるんです。
埴輪というのとは違うみたいですね。石を彫りつけたもの。
ほら、奈良県に石舞台ってのがあるでしょ。
あの近くに猿石というのがあるじゃないですか。時代とかわからないけど、
それに類したもんだと思います。で、地元のやつの話だと、
一体一体に名前がついてるって。ええ、「鼻曲がり」とか「タコ僧都」とか。

何か面白そうでしょ。で、行ってみたら、こんもり高くなって草生えてる上に、
4体の石人が並んましたが、すごい厳重な鉄柵に囲まれてたんです。
人の胸くらいの高さで、先が槍みたく尖ったやつ。
俺ら懐中電灯とか持ってなかったんで、石人の顔までははっきり見えず、
どれがどれかわからなかったんです。ツマンナイんで戻ろうとしたら、
一人のやつ、Sってしときますけど、そいつが柵に足掛けて上り始めまして。
「おい、やめろ。足跡ついたら捜査されるかもしれんぞ」って言ったんですが、
あっという間に向こう側に降りて、「お前らも来いよ」って。
それでね、服を引っ掛けないようにして入ってみました。
石人はどれも1m50cmくらいで、でも昔の人って身長そんなもんでしょ。
顔が平べったくて、斜め上の方を向いてました。

でね、髪の毛は彫られてないから、どれがタコ僧都かはわからなかったんですが、
鼻曲がりははっきりわかりました。並んでる左から2番めのやつが、
三角形の鼻が右方向に曲がってて、すごく間抜けた顔だったんです。
でね、Sのやつがふざけて、「お坊さん、鼻が曲がってますよ」って言いながら、
その鼻をつかんでグイってねじったんです。したらそのとき、
カメラのフラッシュみたくあたりが光ったんです。「え、え!」ってみなあせりました。
不法侵入で証拠写真撮られたかと思ったんです。でも、柵まで駆け寄って探しても、
あたりに人の姿はなし。そのとき、Sのやつが変な顔してこう言ったんです。
「鼻やわらかくて、生きてる人のみたいだった」って。「そんなはずねえだろ」
もう一度石人に近寄って見たら、曲がってた鼻がまっすぐになってたんですよ。
これ不思議でしょう。で、みながまたねじってみても元に戻らなかったんです。

「変だなあ」とか言いながら柵を出て車に向かったんですが、
林の切れ目の夜景が見えるとこで、「あ、何だよあれ」って一人が叫んだんです。
でね、下を見たら、街全体がぼうっと紫に光ってたんです。
なんと表現すればいいのかなあ、赤や青のライトはそのままなんですけど、
その上から紫色のフィルターをかけたような感じ。「なんだこれ、霧か?」
「なんかの自然現象だよな」とか言ってたら、Sのやつが「古代紫だなあ」
って言ったんです。みながちょっとあっけにとられました。
普段はそんな詩的なことを言うやつじゃないんです。金と女のことしか頭にない。
「はあ、古代紫ねえ」 「そうだよ。古代の紫はチョチョラチョラ、チョララリイ」
Sはそんなことを言うと、急に手足を振り回して暴れだしまして。
ふざけてるかと思ったら、そうじゃなかったんです。

自分の鼻をつまんで思いっきりねじって、鼻血が吹き出しました。
そのまま尻もちをついて手足をバタバタさせて、みなで押さえつけたんですが、
すごい力でした。一人が胴の上にまたがり、2人で足を持ったら、
エビ反りになって暴れたんです。その状態が10分くらい続いて、
どうしようもなくて、俺が携帯で救急に連絡したんです。
そしたらオペレーターが出て、場所聞かれました。「市営墓地の山の上です」
って言ったら、「救急車はもう出ました。どんな状況ですか?」って聞かれたので、
Sの様子を説明しました。そしたら、沈黙があって、
「そちら、もしかしそこの石人の鼻さわった?」って聞かれまして。
「何でわかるんだろう」って思いますよね。しかたなく「はい」って言ったら、
「救急車の他に警察も出ますから。誰か一人でいいから、

 もう一度石人のとこに行って、心から謝ってから鼻を元に戻してみて」
こんなことを言われたんです。でね、他の2人はSを押さえてるんで、
俺がまた柵の中に入ったんです。で、鼻曲がりの像の前で、
「さっきはすみませんでした、もう二度としません」って声に出して言ってから、
鼻をねじってみたんです。そしたら、さわると柔らかくて、
ピクンという脈が感じられた気がしました。でね、ねじったらぐにゃっと曲がって、
元の曲がった形に直ったんですよ。そうしてるうちに、
警察と救急車のサイレンが聞こえてきて、戻ってみたら、
Sと他の2人がぼーっと突っ立ってました。Sのシャツは真っ赤でしたが、
鼻血は止まってるようでした。最初にパトカーが停車し、
中から年配の警官が2人出てきました。その後に救急車。

警官の一人が俺らに向かって、「いやはや、20年ぶりくらいだなあ。
 あんた石人いじったろう。そこの血がついてる人が鼻曲がりにさわったのか?
 正気に戻ったんなら、鼻、元に戻したんだな」俺がうなずくと、
「じゃあ救急車は返すわ。あんたらは署まで来てもらわんといかんねえ。
 史跡に無断で入ったんだから、いろいろ法に触れてるし」
で、警察署に連れて行かれてさんざんに絞られました。
書類送検とか、大学に連絡されるようなことにならなかったのは幸いでした。
取り調べ中に、「昔も同じことが2回ほどあったらしいよ。話に聞いてる。
 後の1回は暴走族の解散につながったって」こんなことを言われました。
それから、「あのままだったら、この市は鼻曲がりだらけになっとったかも」とも。
これは意味がわかりませんでしたが、聞き返すこともできなくて。

でね、俺らの携帯は全部調べられて、「市街、紫に見えなかった?
 そんとき、写真撮ってたら出して。全部消去するから、いいね」
警官が何人かで携帯をいじくってたんですが、「ないな、よかったねえ」って、
返してよこしたんです。あと、必要ないかぎり市営墓地には立ち入らない、
って誓わせられたんです。俺らは完全にしょげてしまって、
警察署の前で解散したんです。それから3日後ですね。Sとは別のやつから、
スマホの中に夜景の画像が残ってたって連絡があり、「警察は見つけなかったけど、
 俺、あんとき1枚だけ街を撮ってたんだよな、送るか?」と言われたんですが、
それは断ったんです。で、後で見せてもらった画像を今日持ってきてます。
街全体がぼうっと紫にかすんだ・・・ 俺もSも他の2人も、今まで特に体具合が悪いって
ことはないですけど、この画像見ると、全員が頭痛くなってくるんです。

石人





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