天井裏の話

2016.05.21 (Sat)
ある公社に勤めてる者です。よろしくお願いします。
いやね、公社の上の方から、ここで話をして対処法があれば聞いてくるように、
って言われているんです。事態が大きく動いたのはここ2週間くらいなんですが、
おかしなことは今の社宅に住むようになった昨年からあったんですよ。
ええ、わたしは全国を股にかけた転勤族でして、だいたい3、4年で
引っ越しをします。家族は妻と、まだ小学生の子ども2人ですから、
それはたいへんですよ。でね、去年の4月から今の社宅に入ったんです。
そうですね、築20年くらいの2階建ての1軒家で、社が借りてるものですので、
家賃等はいっさいかかってません。わたしたちの前ですか?
それが、その頃はまだ所有者がおりまして。40代の男性だということでした。
その人が親から受け継いだ遺産。その方が亡くなって親族の所有になったみたいです。

社が賃貸料払ってるのは不動産屋ですけどね。
いや、その方は家でなくなったわけじゃないんです。登山を趣味にしてて、
山で遭難死されたって聞いています。ともかく順番を追って話していきます。
昨年の4月にその家に入りまして、それまでの社宅とは違って広かったですから、
子どもらもよろこんでたんですよ。それぞれ自分の部屋が持てるって。
でね、入居するにあたって、テレビのアンテナとかエアコンの工事などもしたんです。
そのときは、とくだん異常はなかったってことでしたがねえ。
子どもら・・・上が小6の長男、下が小4の長女ですが、
どっちも新しい学校に慣れてきた8月のことでした。
居間と寝室は1階で、子どもらの部屋は2階です。
最初に気がついたのは家にいる妻でした。天井で異音がするって。

大きな音じゃなく、小さなものがトントン走り回るような。
1階の天井裏ってことですね。これ聞いたときには、ネズミだろうって思いました。
社に言えば対応してくれると思ったんですが、わたしもほら、
転任してきたばっかりの支社でしょう。「まあ、様子みよう」って言って、
しばらくほっといたんです。実際私や、子どもらが学校から帰ってきて、
家にいるときには音はしませんでしたからね。
ええ、日中しか音はしなかったってことですね。でも、よくはわかりませんけけど、
ネズミって夜行性なんでしょう。だから夜に音がしないのは違うんじゃないかって。
でも、妻があまり気になるって頻繁にこぼすので、ネットで調べて業者に来てもらったんです。
これね、自費だったんです。転勤するにあたってかなりの手当が出ますし、
たいした金額でもなかったんで。業者は、有名な殺虫剤を出してる薬品会社の子会社で、

それなら、ぼられる心配もないだろうと思ってました。
でね、2人組の方が来て、さっそく押入の天袋から天井裏に入ってもらったんです。
1時間くらいして下りてきて、「ネズミがいる様子はない」って言ったんです。
巣もないし、つくるための巣材もない。フンも足跡も歯の跡もないって。
「それにしても、ここの屋根裏はかわったつくりですね。いや、建築自体は普通だけど、
 おかしな手の入れ方をしてる」どういう意味か聞きましたら、
「ネズミって、天井裏に餌はないでしょう。だから夜になると必ず食料のあるとこまで
 降りてくる。イエネズミは、まず外から餌を持ち込んだりはしません。
 それがねえ、ここの天井は周到に、生き物が下に降りられないようにしてます」
業者が言うには、天井裏の下部、つまり天井板の上面ですが、
そこにぜんぶ、薄いトタンが敷かれてるってことだったんです。

これ変でしょう。雨漏り対策なら屋根にするのが普通ですよね。しかも1階だし。
でね、さらにトタンの上にビニールシートまで被せられてるって。
「私らが入っていった押入の天袋ね。あそこなんか特に厳重に、
 上に厚板が張られてましたよ。その他、風呂場もトイレも台所も、
 ネズミが下に出られるような隙間はしっかり塞いであるんですよ。
 うーん、前の住人の方がされたんでしょうけど、普通はありえないです」って。
続けて「音がするのは、鳥や大きな虫かもしれませんね。
 外から入れる隙間もないと見たんですが、これ工務店に相談したほうがいいかも」
こんな話をされました。ということで、ネズミではなかったんです。
その後、わたしが家の外回りをぐるっと見てみたんですが、
壁は新しく塗り直したばかりで、虫が飛び込む隙間があるとは思えませんでした。

でも、業者が入ってから、妻が音がするっていうこともなくなったんです。
よかったなって思いましたよ。妻はわりと神経質なほうで、
転勤には慣れているといっても、新しい環境になじむには時間はかかりますから。
それから4ヶ月くらいたった11月のことでしたね。夜中に、
下の娘がわたしたちの寝室に入ってきまして、「怖い夢を見た」って言うんです。
「どんな?」って聞いたら、娘の部屋、ベッドと机を置くといっぱいのせまさですが、
そのわずかな床面から、黒い丸いものが生えてきたってことでした。
「何だと思ったの?」「たぶん髪と頭じゃないかな。私と同じくらいの女の子の頭が、
 少ずつじわじわ床から出てきて、すごく怖かった」って。
まあ夢ですからね、内容を詮索してもしかたないと思いました。
でも、その日から娘は自分の部屋に入らなくなっちゃったんです。

勉強は下でするし、寝るのも毎日わたしたちの寝室で。ま、しばらく前まで
そうでしたから、別に困ることもなかったんです。ただ、娘の部屋に入ってみたら、
床のカーペットに丸いシミができてたんです。娘に聞いたら、
「ちょうどその場所から出てきた」って。油のシミみたいな感じで、
拭いてもとれませんでしたね。でも、これもねえ、
そのときは娘が何かこぼしたと思ってたんですよ。で、また2ヶ月くらいして、
冬の最中ですね。今度は息子です。部屋が臭うって言うんです。
腐った臭いがするって。行ってみましたが、わたしはまったく感じませんでした。
息子は「最近夜中に目が覚める。そのときに部屋中が腐った臭いでいっぱいになってる」
そう言うんですね。そのとき、「もしやこいつ、妹が寝室でわたしらと寝てるのが
 うらやましいのかな」って考えまして、でも6年生ですから、

自立してもらわなくちゃと思って、「じゃあ、臭いがしたとき、父さんを起こしにこい」
って。その2日後、夜中の2時過ぎに息子に起こされまして、
自分で言ったことですからね、しかたなく、寝ぼけまなこで部屋に行ってみました。
「えー、別に臭いとかしないだろう」 「父さん、頭下げてみて」
ベッドの高さまでかがんでみましたら、確かにね、肉が腐ったような臭いがしたんです。
それも下にいくほど強く。「ああ、するなあ」息子の屑かごやベッドの下も見ましたが、
なま物なんてなかったんです。寒かったですが、窓を開けて空気の入れ替えをし、
その場は寝かせました。翌朝、息子の部屋に入りましたら、もう何の臭いもなかったんです。
おかしいでしょうこれも。で、息子はその日からやはり下で寝ることになり、
寝室は妻と2人の子ども。わたしが追い出される形で、
居間に布団敷いて寝ることになったんです。

これじゃあ、広い家に入った意味がないなって思いましたよ。
でね、ときおり息子の部屋には入ってみましたが、
それっきり変な臭いはしませんでした。そんな状態でずっときまして、今年の5月、
2週間前のことです。わたしはほぼ定時退社ですので、7時頃に家族で夕飯を食べてました。
1階の居間でです。そしたら、天井でドタタタタッという大きな音がしたんです。
金属的な音でした。「あ、天井板にトタンが張られてるって、これか」
ネズミ駆除業者の言葉を思い出しました。音はトットッ、ドタタ、トットッと、
止む様子がなく、居間の真上だったので、ほこりが落ちてきました。
「あ、これ鳥かなあ。トットッというのが走る音で、飛び上がって頭をぶつけ、
 下に落ちてるんじゃないか」はじめのうちは、そういう音だったんです。
ところがそれが、だんだんにドンドンという足で踏みつけるような強い音になり、

天井板がたわむのがはっきりわかったんです。ホコリやワタゴミが落ちてきて、
妻が新聞紙を出して料理にかぶせました。「こりゃただごとじゃない!」
そう思って、天井裏に上がる決意をしました。ドンドン、ドカン、ドドドドッ。
いきなりです、居間の天井の中央が二つに裂け、両側が下に垂れ落ちてきました。
悲鳴をあげて立ち上がった妻の頭に片側の板とトタンがあたり、妻はうずくまって、
床に血がしたたりました。「お母さん!」子どもらはパニック状態で、そのときドダンと、
テーブルの上に裂け目から何かが落ちてきたんです。何だと思いますか?
・・・古いアルバムでした。かなり分厚く重く、誰にもあたらなかったのが幸いでしたよ。
妻は軽症で、髪の中を少し切っただけでした。今は社に話してあの家は出ています。
でねえ、そのアルバムですが、開くことができなかったんです。
1ページずつ、すべてガチガチに糊づけされてるんです。はい、今持ってきています。






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