矢立神社

2016.06.03 (Fri)
こんばんは、よろしくお願いします。小学校5年生です。
父は、○○神社というところで神主をしていて、これまであった出来事を、
こちらで話してくるように言われたんです。
始まりは、学校の総合学習の時間でした。そのとき、
僕たちのクラスはコンピュータ室で探求学習をしてました。
5年生のテーマは「将来の夢」で、自分がなりたい職業について調べる活動
だったんです。それで、僕は長男なので、将来、
父の跡を継いで神職になることは決まっていました。ですから、
どうやったら神主になれるかとか、神主にはどんな位があるかを、
神社本庁のホームページで調べていたんです。
そしたら、どこをクリックしたかわからないうちにリンクへ飛んで、

ドーンと大きな赤い鳥居に画面が切り替わりました。まあでも、
神社のことを調べてるんだから、鳥居が出てくるのは変じゃないですよね。
だけど、その鳥居の下に僕の名前が縦に書いてあったんです。
それは不思議ですよね。どうしてわかるのかと思いました。
鳥居には扁額がついてて、そこに「矢立神社」と書かれてました。
画面は一瞬フリーズしてたみたいで、カーソルが消えてましたが、
キーボードのあちこちを押していると、画面が動いたんです。
スーッと僕の名前が消え、同じ場所に「こよいやたてをもちていねるがよい」
こう平仮名で出てきたんです。これ、なんとなく小さな声で読んでみました。
すると、プツンと音がして電源が落ちてしまい、
どうやっても回復しないので、先生に来てもらって再起動したんです。

そしたら元に戻ったんですが、もう一度ネットにつないで、
神社本庁のさっき見てたページに入っても、
その矢立神社へのリンクを見つけることができなかったんです。
その日、家に戻りまして夕食のときのことです。
あ、僕の家は父のいる神社のすぐ近くにあって、神社に何人もいる神主さんが
一軒ずつ住んでいる官舎みたいなところなんです。
父に、矢立神社の話をしてみました。すると父は「ふーん」という顔で、
僕の話を興味深そうに聞いてたんですが、「こよいやたてをもちて・・・」
のところにくると、ますます面白そうな顔になり、
「矢立というのは、昔の人が旅先なんかで使う筆記用具で、
 細筆と墨の壺がセットになったものだ。矢立神社の話は聞いたことがある。

 それは夢の中に現れてお告げをしてくれるところだと考えられているな。
 お前、今夜寝るときに矢立を準備しておけと言われてるようだぞ。
 うーん、家に矢立はあるけれど、お前には筆字は難しいだろうから、
 紙とマジックでいいんじゃないかな。お父さんが用意しておいてやるから、
 それをベッドの手が届くところに置いて寝てみなさい。ああ、それから、
 お賽銭がいるかもしれんな」こう言って、財布から1万円札を出し、
「これをパジャマのポケットに入れておきなさい」と、
4つ折にたたんで渡してよこしました。いえ、怖いということはなかったです。
神社なんだから、悪いものだとは思えないし、本当にお告げなんてものが
あるのか、夢を見るのがすごく楽しみでした。
それで、その夜は早めの10時ころにはベッドに入ったんです。

夢を見ました。あの学校で見た大鳥居が目の前にあったんです。
パソコンに出てきたのは平面的でしたが、夢の中のは見上げるくらい高かったです。
はい、父のお仕えしてる神社の倍もあるんじゃないかと思いました。
やはり「矢立神社」という扁額がかかっていましたが、
ほとんど真上に近くまで首を上げなくてはなりませんでした。
玉砂利の真っ白な参道を歩いていき、手水場で作法どおりにお清めをしました。
そのときに、はっと気がついてパジャマのポケットをさぐると、
父がよこしたお札が入っていたんです。境内には誰一人としておらず、
ものすごく広くて、端のほうは雲がかかったようになっていました。
そこを一人で歩いていくと、境内のわりに小さい拝殿が見えてきて、
扉が開いていたんです。でも、中の様子は暗くてわかりませんでした。

お賽銭箱にお札を入れ、鈴を鳴らしてから手を打って礼をしました。
そしたら、中から1mばかりの赤い顔の人形が出てきました。
烏帽子をかぶって神主さんの服装をしてましたが、
人形だということはすぐわかりました。黙ってみていると、
人形はぎこちない動きで懐から黒マジックを取り出しましたが、
それは僕が枕元に置いたのと同じでした。さらに折った紙を取り出して広げ、
立ったままマジックで何やら書いて、僕に渡してよこしたんです。
お賽銭箱ごしにこれを受け取ったところで目が覚めました。
するともう朝になってたんです。時計を見ると午前6時ぴったり、
その日は土曜日で学校がなかったので、そんな早く起きる必要はなかったんですが、
枕元の紙が気になって起き出したんです。

ええ、マジックで前の晩にはなかった字が書かれていました。
それには、「よつのかしわのした ほうけんをもちいよ」とあったんですが、
これ、僕の字にそっくりだったんです。はい、僕は字が下手で、
父に、来年から書道習いに行けって言われてました。
紙を持って父のとこに走ってくと、父はもう装束をつけて神社に出仕する準備を
してました。ええ、土日も休みではないんです。
紙を手にとって「ほう、これがお告げか。なに、宝剣? うーむ、
 とすればあまりよいことではないのかもしれんな。ご縁があるようだから、
 お前もいっしょに来い」こう言われ、着替えて社務所についてったんです。
父はしばらく宮司さんが出てくるのを待ってから、
僕のほうを手で指して事情を話し、宮司さんに紙を見せました。

宮司さんは「はてはて、矢立神社。それはなつかしい。私も子どもの頃に、
 何度かお参りしたものだ」こう言い、続けて「よつのかしわは、杜のご神木の
 四番目の樫の木ということかな。じゃ、宝剣を用意しよう」
宝剣を社殿からとってこられたんですが、それは白木でできた木製のものでした。
宮司さんが先頭に立ち、父がシャベルを持って次に続き、その後が僕。
神社の杜入って、拝殿に近いところから樫の木を数えて4本目、
その前に立ったらなんだか背中がぞくぞくしました。
樫の木の幹の色が他のより黒っぽく感じられ、茂った葉も、
元気がない感じがしたんです。宮司さんは「ははあ、呪がかかっておるか。
 うかつにも気がつかなんだ。○○禰宜、根元を掘ってください」
そう父に言い、父が袖にたすきをかけて根元を掘りはじめました。

そうですね、20cmほども土をのけたところで、
赤い木の箱が出てきたんです。平べったくて、お菓子の箱くらいの大きさでした。
宮司さんは父に開けるように言い、父は懐から小刀を出して、
箱にかかっていた紐をブツブツと切り、ゆっくりと蓋を開けました。
中には・・・大きな毛虫が入っていたんです。そうですね、ペットボトルの500ml
くらいの長さで、黒い毛がフサフサとして、その中に真っ赤な縞が入っていました。
ものすごく気持ちが悪かったです。毛のない赤い部分と黒い毛の部分が交互になって、
毛虫は生きて左右に動いてましたから。宮司さんは「この子がお使いのようだから、
 破ってもらいましょう」そう言って僕に宝剣を持たせて祝詞を唱え始めました。
とまどっていたんですが、父が目でやれ、という合図をしたので、真上にいって、
宝剣の先をぶつりと毛虫に突き刺しました。

すると、木の剣なのにずぶずぶと刺さって、
毛虫が動くたびに、黄色い油のような汁が箱の中にこぼれたんです。
はい、すごく嫌な感触がしました。でも剣を両手で持ち、
体重をかけて押し込んでいくと、オオオーンと毛虫は鳴いて、
全体が黄色い粉になってばっとあたりに散らばったんです。
父が僕の胸に手をかけて後ろに押し、宮司さんは祝詞をやめて、
装束の袖で粉をバタバタあおぎました。やがてそれが消えると、毛虫も、
あれほど撒き散らされた黄色い油もなくなってて、ただ箱だけが残ってたんです。
「うむ、これは誰がやったのか調べねばなるまいなあ。
 困った世の中になったものだ」宮司さんはそうつぶやいてから、僕の頭をなで、
「よくやったな。が、矢立神社に行くことはまたあるかもしれんぞ」と言われたんです。







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