境目

2016.06.08 (Wed)
これ、私ではなくて、大学のときの同期の子の話なんですけど、
ただ、最近、私にもちょっと変なことがありまして・・・
私は、ある県の公立の教員養成大学に入学しまして、
そこは専攻する科目ごとに研究室がわかれていたんです。
私は国語でしたけど、そこで山野さんという子と知り合いまして。
外見は、髪を短くしてスポーツができそうな感じでしたが、
行動がいろいろと変わってたんです。ほら、大学に入りますと、
新入生歓迎会とかそういう行事がありますでしょう。
その最初の歓迎会は参加しましたけど、1次会場のホテルからまっすぐに
タクシーで帰ってしまって、それ以後、夜に行われる会には一切参加せず。
それが徹底してたんです。大学の講義は、最終が午後5時で終わるんですが、

後期の、夏休み後はその最終講義を一つもとらなかったんです。
ええ、その時間帯だと、冬場は帰りが暗くなりますからね。
必修講義もありましたが、翌年の前期にとってましたね。それから、
雨の日も嫌いで、いつも明るい場所、照明の下になるような席に座るんです。
そんな感じだから、男の子の友だちはできなかったんですが、
本人はあまり気にしてる様子はなかったですね。
私には暗い場所を怖がってる、というふうに思えました。
それで興味を持ったっていうか、あるとき学食でいっしょになったときに、
聞いてみたんですよ。私はわりとストレートな性格なので、
「暗いのが苦手なの?」みたいな感じで。そしたらこんな話を聞かされたんです。
ちょっと信じられないような内容だと思いますけど。

「暗いのが嫌いなんじゃなく、明るいのと暗いのの境目が苦手だ」
こう話が始まりました。山野さんは高校は、地元の公立だったんですけど、
そこはいろんなスポーツが強いとこで、山野さんもテニス部だったんだそうです。
それが2年生の秋のことです。練習が遅くなり7時過ぎに終わって、
同じテニス部の友人と、徒歩で帰っているときでした。
その日の練習は学校ではなく近くの総合公園のコートを借りてやったので、
サイクリングコースを2人で歩いてたそうです。
あたりはすっかり暗くなっていましたが、30mおきくらいに
街灯というか、強めのスポットライトが足元を照らしていて、
怖い感じはまったくなかったということです。
そのときにふと地面を見て、「影って面白いな」って思ったんだそうです。

ライトの下にいくと、アスファルトにくっきりと影ができますよね。
それがだんだん薄れていって、光が届かない場所にくると闇の中に影が消える。
そうしてまた、次のライトに近づくにつれて薄っすらと影ができてくる。
その境目の瞬間って見えるんだろうか、そう思って一緒の友達に話してみました。
「えー、あんた面白いこと気にするんだね。ほら、次のライトの光が丸くなってるでしょ。
 あそこに入ったときに影ができるんじゃないの」
山野さんもそうだとは思ったんですが、やっぱりその境目が気になって、
下を見ながら歩いてました。そしたらライトの光がちょうど消えそうな場所で、
不意に前につんのめってしまたんだそうです。
両手には部活のバッグやラケットを持ってて、最初にラケットが地面につき、
そのまま右手を伸ばすような格好で転んじゃったんですが・・・

山野さんは、そのときにラケットを離した手が、
闇の中にはさまってしまったって言うんです。これ意味がわかりませんよね。
「どういうこと?」って聞き返したら、「うーん、うまく言えないけど、
 カーペットが敷いてある下に手をつっこんでしまったみたいな感じ。
 明るいところと暗いところの間ってこと」 「やっぱ、よくわかんない」
「なんていうか、層になって重なってるのよ。明るさと暗さの層。それは普通は、
 微妙に混じり合ってるんだけど、くっきりした明るさがあるときって、
 層もきっちりしてるの」 「・・・うーん、で、どうなったの」
「透明だけど黒っぽいビニールのシートの下に入っちゃったみたいな感じ。
 でも私もあんなことになってるとは知らなくて、ハハハ、ドジとか言いながら、
 手をついてラケットを拾い、立ち上がったのよ。そしたら・・・

 うまく表現できないんだけど、白と黒が入れ替わっちゃってたの」
「わかんない」 「ほら昔の写真で、ネガフィルムっていうのかな。白いはずの顔が、
 真っ黒に見える写真があるけど、そんな感じに。
 一緒にいた友だちが、あんた何、大丈夫?って言ったと思うんだけど、
 その声がギュンギュンとゆがんでて、すごく低くゆっくりに聞こえたの。
 テープに撮った声を遅回ししたみたいに。それでも、大丈夫って言って、
 友だちのほうを振り返ったら、顔が真っ黒だったの。あと手や制服の白い部分なんかも。
 「ダァァァイ・ジョウゥゥゥブゥゥゥ?と言いながら友だちが近づいてきて、
 真っ黒な顔が目の前にきたんだけど、顔の中が動いてたの」
「どういうこと?」 「あのね、幼虫、イモムシ・・・真っ黒いそういったものが、
 何匹も何匹も集まってその友だちの顔になってるように見えた。
 
 ううん、友だちだけじゃなく、私の手もそうだったの。たくさんの
 クロワッサンみたいな形の真っ黒い生き物が集まって手の形をつくってる
 ように見えた。それで、キャーッて叫びながら、泳ぐような格好で中腰で走ったの。
 そしたら、次のライトの光があたってるところで、
 すうっとビニールシートの下から出たみたいな感じがした。
 振り返ると、ちょっと山野、どうしたのよ~って、
 友だちがラケットを持って追いかけてきて、そのときは普通に見えたし、
 声も元に戻ってたのよ。・・・でもそれ以来、明るい場所と暗い場所の境目が
 怖くなっちゃって、部活も辞めちゃたのよね」
「うーん、何と言っていいかわかんないけど、その後もそういうことあった?」
「ないんだけど、あの黒い虫みたいなので体ができてるのは、

 もう二度と絶対に見たくない」これねえ、でも信じられませんよね。
何と答えていいかわからなかったですが、「そのとき頭とか打ったんじゃない?
 それでそう見えただけとか? あんまり気にしないほうがいいと思うよ」
って、あたりさわりのないことを言ったんです。
でも、山野さんは暗いところをやっぱり避けていて、
3年になる前に大学をやめちゃったんです。それ以後連絡もつかなくて、
今、どうしてるのかもわかりません。私は、気の毒だなあと思ってたんですけど、
教育実習や卒論なんかがあって、すっかりそのときのことを忘れちゃって。
ええ、それで私は中学校の教員になりまして、採用されて2年目です。
それで、この間地震による停電があったでしょう。
あのとき夜中だったじゃないですか。

揺れで目が覚めて、最初はついてた電気も途中で消えちゃって、
何度も余震がありましたよね。アパートだったんですけど、
あちこちの部屋で叫び声があがってるのが聞こえました。
怖かったですよ。懐中電灯があったはず、と思って机の中を手探りで探しました。
ああこれだ、と思ってスイッチを入れたら明かりがついて、
ひとまずほっとしたんですけど、そのときにまた大きな余震がきて、
机についていた手がずるっと滑りました。懐中電灯の光の中にです。
そのときに、手がズッと何かの下になったような感じがしました。
重さのないひんやりしたゼリーの中に手を突っ込んだみたいな。
不意に山野さんの言ってたことを思い出して、あわてて手を抜くような動きをしました。
停電は2時間くらいで直りましたけど、それ以来なんだか・・・
 
がんskしどあうあお
 

 

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コメント
 時空系・・・にしてはちょっと禍々しいというか不吉というか。進行性や伝染性はあるようですが、意思めいたものが感じられないので、やっぱり「現象」なんでしょうか。山野さんのくだりを脳内で映像化したくて、何度も読み返してしまいました。
| 2016.06.10 00:03 | 編集
コメントありがとうございます
この話は、時空系というか
自分の幻想がかなり入ったものです
光と闇の層が重なってこの世ができいている、みたいな
bigbossman | 2016.06.10 02:54 | 編集
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