燭陰と古代文明

2016.06.24 (Fri)
今回はあまり一般的ではないお話ですが、なるべくわかりやすく書きます。
石燕の妖怪画は中国にすむ妖怪も描いていて、
下図の燭陰(しょくいん)もその一体です。髭面の人面に龍の体、
身のたけ千里と詞書にあるので、たいへんな大きさです。

『今昔百鬼拾遺 雲』より「燭陰」


さて、この燭陰は、『山海経』にある燭龍(しょくりゅう)と、
同一視されることが多いようです。実際、石燕も山海経を引いています。
中国古神話に見る燭龍は下図のようなものですが、顔面の造作が違いますね。
髭のないつるんとした顔に、縦についた一つ目が特徴です。
この目は、原典に「直目正乗」とある記述を解釈したものですが、
近年、ある遺物が出土したことによって、直目正乗は、
目が前に飛び出した様子を表しているのではないか、との説も出てきました。

『燭龍』


それが下図のもので、「青銅大型 縦目仮面」と呼ばれています。
1986年、四川省の三星堆(さんせいたい)遺跡で他の青銅器とともに
複数個発見され、最も大きなもので約1m40cmあります。
四川省は、長江(揚子江)流域にあり、辛い料理で有名ですね。
自分は昔行ったことがありますが、
やはり食べ物はトウガラシ色で激辛でした。

青銅大型 縦目仮面


このあたりは『三国志』で有名な劉備玄徳が支配した蜀の地にあたります。
ただ、蜀という地域名はもっとずっと古くからあって、
上記の縦目仮面は、紀元前10世紀頃のものと見られています。
これは世紀の大発見でした。というのは、みなさんは歴史で、
「世界の四大文明」というのを勉強された記憶があると思います。
メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、黄河文明ですね。

これらはどれも大河の流域に発生したのですが、この古代蜀の地も、
黄河文明ほど古くはありませんが、やはり長江流域にあります。
発掘された城壁の規模や青銅器の点数から考えても、
初期の殷(商)に匹敵する規模の国家であったようです。
世界第五の古代文明といっても、いい過ぎではないかもしれません。

それにしてもこの仮面、異様ですよね。いったい何を現しているのでしょうか?
古代蜀の地には目の飛び出た人種がいた?
それとも宇宙からの来訪者? しかし奇妙なデザインをすべて宇宙人に
結びつけるのは、自分はどうかなあと思います。古代の壁画や土偶なども、
奇妙な形をしいていても、その地の伝承を調べれば、
何であるかの考察がつく場合が実は多いのです。

中国の古文献では、古代蜀は紀元前20世紀~前9世紀ころまで続き、
蠶叢(さんそう)柏灌(はっかん)魚鳧(ぎょふ)などという名の王が
治めていたと伝えられます。縦目仮面はそのうちの、
最後の王であった魚鳧の時代のものと言われます。この文明は、
これらの青銅器を地中深く残したまま、
歴史から忽然と姿を消してしまうんです。

さて、縦目仮面は、古代蜀の始祖王であった蠶叢を表しているとされます。
この人物には、目が縦についていたという伝説が残っているんです。
そのため、古来、顔に目が縦についた形で考えられてきたのですが、
この仮面の発掘により、上記のように「飛び出した目」
という新解釈が出てきました。じゃあなぜ、目が飛び出しているのでしょう?
こんな人間はいるとは思えませんので、何らかの寓意と解釈されています。

一つは「千里眼能力」を表すのではないかという説。
古代中国の偉大な王は、玉座にいながらにして、
国中のすべてを見通すことができる。
そういう超自然的な能力がイメージ化されたというわけです。
これは十分ありえそうな話ですが、もう一つ、蚕を表すのではないか、
という説もあります。蠶叢の「蠶」は「蚕」の旧字です。
四川省は古来養蚕が盛んであり、それを統べる神が、
縦目仮面=蠶叢であったというわけですね。

また、「蜀」という字に着目してみてください。
目が横になっているものが上にきていますが、これが本来は縦です。
さらに勹(つつみがまえ)の中に虫、この虫は蚕をさしているんでしょう。
国の成り立ちがひと目でわかるように漢字が使われているわけです。

さてさて、これら三星堆の青銅器は、破壊され焼かれ、
人為的に埋められた形で出土しています。ですから、なんらかの外敵が、
古代蜀を武力で滅ぼし、敵の祭祀の品々を穴の中に投げ捨てたと
考えるのが自然です。最近の研究では、
杜宇(とう)族という集団だったのではないか、
と考えられるようになってきています。青銅器を埋めた同じ穴から、
杜宇族の用いた土器も一緒に出土しているんです。滅ぼした敵の祭祀具を
埋めた後に、自分らの儀式に使った土器を投げ込んだとみることができそうです。

この蠶叢の伝説が『山海経』の燭龍になり、それが燭陰と同一視されて、
石燕が描いた・・・こういう流れになりそうなんですが、
ただ、石燕の詞書には「北海の地に住む」という語もあり、
四川省、三星堆は中国南部で北海とはかけ離れています。
燭陰は北海に見られるオーロラを神格化したものという説もあって、
(燭は蝋燭の燭で明かりの意味があるでしょう。
巨大さもオーロラならうなずけます)
自分の解釈が必ずしも正しいとは限らないということも、
最後につけ加えておきます。

三星堆 青銅神樹





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