変な話(公園)

2016.07.02 (Sat)
まだ20代の頃ですね。当時は出身地の県にいて、
警備員のアルバイトしてたんです。
いや大手じゃなく、その県のしかも県北だけでやってる会社です。
そのときにあった話ですね。最初半年はビルの施設警備でしたけど、
その後に公園の夜間警備に回されまして。昼夜逆転の生活になったけど、
これはありがたかったです。一つは人目がないことで、ほら、
ビル警備だと社員の人の目をつねに気にしてなくちゃなんないでしょ。
それに来客対応なんかもあるし。あと夜間だとバイト料がいいんです。
あーラッキーだなと思いました。仕事は、横田さんという50代のベテランの人と
2人組でやるんです。仕事先は○○平和記念公園。
あのあたりでは一番大きいんです。それと自分の部屋からも近かったんで。

ええ、会社に顔を出す必要はなく直行、直帰でOKでした。
会社からは、仕事内容は横田さんに聞けって言われて。
どんな人か心配だったんですが、柔和な人でしたよ。それに柔道3段ってことで、
体が大きく頼りがいもありましたね。あんなことになってしまって残念です。
勤務は夜の8時から朝6時までです。公園の正門のところに
駐車管理センターがあって、夜間はそこが警備員詰所になるんです。
初日は7時40分に顔を出せって言われて、行ったら横田さんが待っていました。
巡回は2時間おきで、あと緊急事態への対応。
まあでも、緊急事態なんてなかったんですけどね。それで、
その日の最初の巡回のときに、横田さんから巡回の経路とコツを教わりました。
うーん例えば、その公園は8時で立入禁止になるんですが、

柵に囲われてるわけじゃないので、アベックなんかが入り込むことが
あるんです。そんな人たちに帰ってもらう、やんわりした言い方とか。
あとアベックをねらってくる、いわゆるのぞきへの厳しい対応の仕方とか。
でも、巡回は2人組でやる決まりでしたので、
ほとんどの場合は横田さんがそういう対応をしてましたね。
だから楽だったですよ。詰所で座ってラジオ聞いててもいいんですから。
ただね、最初に横田さんの話を聞いたときは面食らいました。
ちょっとおいそれとは信じられない内容が含まれてましたからね。
「この公園なあ。俺はもう8年担当してるんだが、楽な仕事だよ。
 ただな、注意しなくちゃなんないことが3つだけある。それ覚えておいてくれ。
 俺もいつ配置換えがあるかわかんねえしな」

それで巡回中にその3つのことを聞いたんです。
「一つ目はな、ほらそこのトイレ。男子のほうはチェックは必要だが、
 女子のほうは見る必要がねえ」 「え、いいんですか」
「見たことにすればいいんだよ。会社のほうでも了承してることだ。
 俺らの警備が入る前に、女子トイレの後ろに覚醒剤の売人が入っててな。
 嫌な事件があったんだよ。それからいろいろおかしなことが起きてなあ」
「ははあ、でも一般の利用者も入るんでしょう」
「昼は大丈夫なんだ。ただ、さっき話したアベックなんかが
 たまにあのトイレに入って、青い顔をして詰所に駆け込んでくることがある」
「ははあ」 「そういうときはなだめすかして帰ってもらうんだが、これ見ろや」
そう言って横田さんは制服の胸ポケットからボールペン抜いたんです。

「これな、特別な仕掛けがしてあって、ポッチ押すとお清めした塩が出るんだよ。
 それをトイレでな何か見たって人の背中にサッサッっと振りかけてやるんだ。
 気づかれないないようにな」 「厄払いってことですか」
「まあそうだ。悪い噂が立たないようにするためのアフターサービス」
またしばらく歩いて、「あの林の中の小道があるだろ。あそこなあ、狸が出るんだ」
「狸!?ですか」 「ああ、どうやら何家族かいるらしい。
 別に珍しいことじゃねえ、東京だって、ヌートリアが
 繁殖してる公園があるっていうじゃないか」 「ああ、聞いたことあります」
「でな、狸は化かすんだよ」 「きれいな女の人に化けてとか?」
「いや、そうじゃないが、突然街灯が全部消えたり・・・まあそう見えるだけなんだが。
 あと、ふっと気がついたら藪の中に座り込んでいたり」

「うわ、横田さんは化かされたことあるんですか?」 
「あるある。恥ずかしい話だが、ここに来た最初の頃に何回か な。でも対処法がある」 
「それは?」横田さんは今度はポケットから百円ライターを出し、
「小道に入る最初に、これでカチカチ火を出すんだ。
 やっぱ畜生だから火が怖いんだろう。これだけで悪さはしてこねえよ」
「ははあ」このあたり、半信半疑というより疑のほうが大きかったんですけどね。
で、公園の中央に来まして、そこにかなり大きな噴水の池があるんです。
「あの池な。あれが一番危ないらしい。らしい、ってのは、
 俺も何か見たわけじゃなく、前任者からの申し送りなんだ。雨模様の夜に、
 あの池からバシャバシャ音が聞こえるようなら、絶対に覗いちゃいけないって」
「もし覗くとどうなるんですか?」 「命をとられるそうだよ」

こんな感じで説明されたんですけど、これ横田さんが冗談を言ってるんだろうか、
よくわからなかったんです。実際、半年間は何事もなかったですから。
ああ、狸の姿は何度か見ましたよ。でも悪さはしてきませんでした。
でね、一冬過ぎて春になったあたりです。夕方に会社から呼び出しがあって、
そこで横田さんが亡くなったことを聞かされたんです。
買い物中のスーパーで脳梗塞で倒れたって。病院に搬送されてすぐ死亡確認。
これショックでしたよ。前日までなんともなかったんですから。
横田さんは一人暮らしで、急いで息子さんがこっちに向かうそうで、
葬式には会社の上司ともに自分も参席させてもらいました。
でね、その日の夜から新人とペアを組んで警備にあたりました。
横田さんから説明された3つの注意事項ってのも説明したんですよ。

まあこっちが信じてないせいもあったでしょうが、新人も、
そんなことあるわけねえって顔をしてましたね。これ、無理もないです。
でもね、自分はタバコ吸わないんですが、百円ライターのカチカチは
やってました。でね、1ヶ月ばかり過ぎた雨の夜のことです。
12時の巡回をカッパ来て回ってましたが、あの中央部の池に近づいたとき、
水面は一段低くなって見えないんですが、けっこう大きな水音がしてたんです。
バシャン、バシャンって。もしや横田さんが言ってたのはこれかって思いました。
で、新人君に「近づくなよ」って言って離れようとしたんですが、
「いやあ、泳いでるのは狸とかでしょう。もしかしたら侵入者かも」
そう言って、池の縁まで行っちゃったんです。止めようもなかった。
「ああああっ!」新人君が大きな悲鳴を上げ、すぐに走り戻ってきました。

「何だった? 何を見た」 「警備員です。たぶん俺らと同じ制服を着た
 体の大きい人。その人がバタフライ・・・じゃないな。ウナギみたいな泳ぎ方で、
 噴水台の向こうに消えていったんです。あれ、生きた人じゃないですよ」
これ聞いて、もしかしたら亡くなった横田さんじゃないかって思ったんです。
もう水音は聞こえなくなってたんで、よっぽど見にいこうかと思ったんですが
やめておきました。明るくなってからの巡回で調べようと思ってたんです。
でね、その次の巡回時間になる前に、新人君が急に胸が痛いって言い出して。
立ってられない状態だったんで、救急車呼んだんですけど、
病院で緊急手術中に亡くなっちゃったんです。心筋梗塞でした。これで俺、
ぶるっちゃって仕事辞めちゃったんです。その後こっちに出てきまして、
あの公園の警備がどうなったかわかりません。知りたくないですよ。

へねjっしsかおあ



 
 
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