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男は忘れる

2017.09.16 (Sat)
※ やや毛色の変わった話です。

中学校の英語の教師をしてるんです。採用されてまだ4年目なんですけどね。
地元の県は倍率が厳しくて、何年か講師をやりながら試験を受けたもののダメで、
あきらめてこっちに出てきて正採用になりました。
それで、こないだ自分が担当しているバスケットボール部が地区で優勝しまして、
保護者の方たちと祝勝会をやったんですよ。
調子に乗って12時過ぎまで飲んじゃって、もう電車がなくて、
しかたないからタクシーが拾えるところまで歩こうと思って、
ふらふらと高架下を通っていたんですよ。

そしたら、コンクリの壁についてるオレンジの照明がチカチカして、
そっちのほうに目をやったんですよ。その壁に金髪の塊がついてたんです。
ぎょっとしました。ただね、そのときは幽霊だなんて思わなくて、
何かの具合でカツラが引っかかってるのかなぐらいで・・・
で、2・3歩近づいてみました。すると自分の動きにつれて、その髪がふうっと上に動いて、
髪の下に真っ白い顔があったんですよ。その場で動けなくなってしまいました。
下向きだった壁の顔は、少しずつ真っすぐになっていって、
自分のほうを見すえたんです。うつろな目をした女の顔でした。

自分もそこから目が離せなくなってしまい、そのまましばらく時間が過ぎていって・・・
やがて女が口を開いたんです。こう聞こえたというか、頭のなかに響きました。
「なんで・・・なんであのとき追いかけてきてくれなかったの?」って。
反射的に、「・・・追いかける? 追いかけるって何を? あんた誰? 何だよ?」
ここまで一気に言葉が出てきました。そのとき、空洞だった両目に光が入ったようになり、
ゆっくりと顔全体を左右に振ったんですよ。
そのときに何ともいえない奇妙な気持ちがしたんです。
女は顔を伏せ、何か光るものが地面に落ちたように見えたんです。

それで最初のときみたいにまた金髪の髪だけしか見えなくなり、
スーッと壁に沈み込むようにして消えていったんです。いったん後退ったんですが、
かけ寄って壁にさわってみました。ザラザラした何の変哲もないコンクリの壁。
ただ・・・ですね。女の顔になんとなく見覚えがあるような気がして。
それと女が言った「追いかける」って言葉・・・でも考えても何もわからない。
足を早めてその場を離れました。で、高架下を抜けるころには、
今さっき見たものは、酒を飲みすぎたための幻覚なんだろうって、
そんなふうに気持ちを納得させていたんです。幽霊なんているはずはないと思って。

それですね、それから4日ほどして、アパートの固定電話が鳴りました。
ほとんどの用事はスマホを使ってるんで、固定電話にかかってくるのは珍しいんです。
出てみたら、長らく連絡を取ってなかった地元にいる大学の同級生からでした。
「お前のとこに連絡がいってるか? ○○が自殺したぞ」
「え、○○って?」 「まさか覚えてないのか? 大学で同じ研究室だった○○、
 たしかお前、あいつとつき合ってたことがあっただろ」
そこでやっと思い出したんです。あれは自分が大学デビューした年、
新歓コンパで隣の席になり、親しくなってそっからつき合うようになったんです。
といっても、手さえつないだこともなかったんですよ。

授業が終わったあとに一緒に帰るくらいしかできなかったし、
つき合ってた期間も2ヶ月か3ヶ月、そんな淡い間柄でしかなかったんです。
ええ、その後も何人も女の子とはつき合いましたよ。もっと深い関係になって。
だから○○とのことは、ほんとにちょっとした思い出でしか・・・
「あ、まあそう言われればそうだったけど。で、何で自殺したのかわかる?」
「噂でしかないけど、○○は教員の道は選ばずに、英語通訳の仕事を探してたらしい。
 でも上手くいかなくて、水商売みたいなことをしてたとかなんとか。
 自殺の原因ははっきりしたことはわからないけど、
 かなり精神を病んでいたんじゃないかって話はあるよ」

こんな内容で電話は切れたんです。
それで・・・もやもやした胸騒ぎとともに、こないだの高架下の幽霊?
が頭に浮かんだんです。あの顔は、自分がつき合ってたころとはかなり変わっていましたが、
○○だったんだろうか。あの大学1年のときからもう10年過ぎてるのに、
何で自分のところに出てきたんだろう。「追いかける・・・追いかけてくれなかった・・」
その言葉を頭の中でくり返してみて、あっと思ったんです。
○○、あの子とつき合ってた最後の日だったはずです。
夕方、自転車を並べて走ってるときに、
自分が何かあの子を怒らせるようなことを言ったんです。

どういう言葉だったか・・・もう覚えてないけど、○○は頬をふくらませて、
自転車のスピードをさっと速めて。で、自分は追いかけていかなかったんです。
何でって・・・いや、何でなのかなあ? とっさに反応できなかったのか、
いや、こんなことを言ったらあれなんですけど、それっきりになってもいいや、
みたいな気持ちが正直あったかもしれないです。
苦痛ってことはなかったけど、2人でいてもあんまり話もはずまなかったし。
あのとき・・・追いかけていけばよかったんですかね。
「追いかけてきてくれなかったの?」というのはやっぱあのことだったんでしょうか。
自分、どうすればいいんでしょうか。・・・でも、どうにもならないですよねえ。 だって・・・





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