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ナイトハイクの話

2017.09.22 (Fri)
もう20年ほど前のことになりますかね。今は別の仕事してますけど。
当時は公立中学校の教師だったんです。
まだ採用されて2年目で、だいたい要領もわかってきて、
すごく張り切ってた時期だったんです。
で、中学2年生の担任をやってまして、5月の終わりに宿泊研修があったんです。
地元の少年の家に2泊3日で行って、飯ごう炊飯やテント泊、
オリエンテーリングなんかをやるんです。
日程的にはかなりキツイんですけど、生徒はみんな楽しみにしてましたよ。
それで夜は、2泊のうちの1日目がキャンプファイヤーで、
2泊目にナイトハイクってのをやったんです。

キャンプファイヤーはクラスの出し物とか司会の原稿とかいろいろ準備が必要でしたが、
ナイトハイクのほうは難しいことは何もなくて、1周2キロ半くらいの森の道を、
暗くなってから生徒5人ぐらいのグループで歩いて回ってくるだけです。
ごちゃごちゃしないように2分くらいの間をおいて、生徒たちが次々に出発していく。
明かりは班長が持つロウソクを入れた灯籠だけで、懐中電灯は禁止でした。
でね、昼のうちに灯籠に新しく紙をはってお化けの絵を描かせてあるんです。
コースは街灯なんてない山道ですからね。女子の中には泣き出す子もいました。
まあ、準備がほとんどいらなくて、心に残る活動だったわけです。
さあどうでしょうね、今もやってるかどうか。
宿泊研修自体はあるんでしょうけど、昨今は何かとうるさいじゃないですか。

暗い中を歩かせて、つまずいてケガをしたらどうするのかとか、
お化けなんて非科学的だとか、そういう苦情が保護者から来ることが予想されますし、
もうなくなったのかもしれませんね。
でね、コースには先生たちが先回りしておいて、お化けの扮装をして生徒をおどすんです。
わたしはが学年の先生方の中で一番若かったですので、
最も遠いコースの折り返し地点まで行かされました。
そこのヤブの中にひそんでいるんです。被り物とかは持っていきませんでした。
学生時代、機械体操をずっとやってたので、
首吊りの格好をして生徒を驚かそうと思ってたんです。
ちょっと高めの木の枝に丈夫なロープをかけてぶら下がりブラブラ揺れる。

もちろんホントに首吊りしたら死んでしまいますから、
ロープをちゃんと両手で持って、ブランコみたいにして揺れるつもりだったんですよ。
何しろ若かったですからね、体力には自信がありました。
で、先回りしてコースの折り返しまで行って、あちこち懐中電灯で照らしてみたら、
斜面にちょうどよさそうな松の太枝があったんです。それに用意してきたロープをかけて、
懸垂する形でぶら下がってみました。当時は体重も軽かったし、
これなら楽勝と思って、タバコを吸いながら生徒の最初の班がくるのを待ってたんです。
・・・15分くらいして、コースの向こうからギャッギャッいう声が聞こえてきました。
女の子たちが叫びっぱなしだったんです。
それとともに灯籠の明かりが揺れながら近づいてきた。

その明かりがだいたい10Mくらいまで来たとき、ロープに首を入れ、
両脇を手でつかんでぶら下がりました。そして体を大きく前後にゆすって、
それでも生徒たちがこっちに気がつかなければ、
「ギャー」って叫び声を出そうと思ってたんです。そのときですよ。
急につかんでいたロープが上に持ち上がりました。「え?!」と思って見ると、
木の枝から身を乗り出すような形で何かがいたんです。
何か、としか言いようがないものです。それの下を向いた顔と目が合ったんですが、
猿なんかじゃない。猿に私の体重を持ち上げる力なんかないでしょ。それとね、
今考えれば暗くて顔なんてわからないはずなのに、そのときはなぜかはっきり見えたんです。
真っ白い顔にトンボの複眼みたいな大きな目がついてました。

それと頬のあたりに黒いぼつぼつした斑点がたくさん・・・・
でね、その何かはものすごい力でロープを上下に揺さぶったんで、
私の片手が外れて、一気にロープがあごの下に食い込んで・・・
たぶん「わー」って大声を出したと思います。でもその何かは、ひるんだ様子もなく、
機械みたいに規則的にロープを上げ下げして、もう片方の手も外れてしまいそうでした。
それだと本物の首吊りになってしまうんで、死に物狂いでしたよ。
とにかく外れた片手でもう一度ロープをつかみ直そうとして・・・
そのとき、最初の生徒のグループが私のいた真横まできました。
恥ずかしい話ですが、生徒たちになんとかしてもらおうと思って、
「助けてくれ!」って叫んだんです。

でも生徒たちは、押し黙ったまま横一列に並んで、班長が灯籠を上にかざして、
突っ立ってこっちを見てるだけ。背丈も性別もばらばらの生徒たちだったんですが、
そのこっちを見てる顔が枝の上にいるやつと同じになってたんです。「あああっ!」
枝の上のやつと生徒の姿をしたやつらが声を合わせて一斉に鳴きはじめました。
「ギャーッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ、ギャッ」
かろうじてロープにかけていた片手が外れ、私は完全に首吊り状態になって、
・・・そのまま気を失ってしまったんです。
でね、気がついたときには私は草の上に寝かされていて、
学年の先生方が心配そうにこっちを見下ろしてたんですよ。
あちこちに散らばってた先生方が集まってきてるんだから、かなり時間がたってたはずです。

うーん、まあたいしたことがなくてよかったんですが、やっぱり恥ずかしかったです。
学年主任の先生からは、首吊りのまねごとをしているうちに、
いつの間にか少しずつ締まっていって気を失ったんじゃないか、って言われました。
生徒が私を見つけたときには、すでに下の草むらに落ちた状態だったそうです。
・・・そうなのかもしれません。確かに見たと思ったあの怪物みたいなのは、
窒息状態が見せた幻覚だったのかもしれないです。
だから他の先生方には見たもののことは話しませんでした。
ただね、腑に落ちないことがいくつかあるんです。
そのとき用意したロープは、綱引きにも使えるような太いやつで、
私の体重くらいで切れるとは考えられない。

それにね、ロープの切り口がすごくきれいで、
鋭利な刃物でズバッと切ったような感じだったんです。それとロープをかけた木の枝、
ふつうの松の枝だと思ってたんですが、あらためて現場で見ると、
そこだけ木の皮がむけてツルツルになってたんです。
いくらロープの結び目が動いたとしても、そんなふうに木の皮が
むけることなんてないでしょ。あたりにも落ちてなかったし。
うーん、自然の闇の中には何かがいるのかもしれませんね。
私はそういうやつと運悪く出くわしてしまったのかも・・・
でね、この宿泊研修が終わってから何だか仕事の歯車が噛み合わなくなってしまって、
何年かして学校の先生はやめちゃったんです。まあこういう話ですよ。

ないとはいきんぐ






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