ヒル・ハウス

2017.09.28 (Thu)
じゃあ話をさせていただきます。まず自分のことからですけど、
わたし、仕事はスペイン語とポルトガル語の翻訳および文章作成です。
はい、自宅でやってるんです。自由業ですよ。
翻訳も文章作成も、1字いくらって形の請負で報酬をいただくんです。
ええ、十分生活できるだけの収入はあります。
日本にもね、それなりにスペインやポルトガルと取引してる会社はありますし、
それ以外にもスペイン語が母国語の国って多いんです。
あと、ブラジルはポルトガル語ですしね。だから固定客ががっちりついてますし、
この先食いっぱぐれることはないと思いますよ。
ええ、外語大でそっちのほうの言語を選択したんです。
ただ、自宅仕事なもんですから、女性の方と知り合う機会がなかなかなくて、

お恥ずかしいですがこの歳でまだ独身なんですよ。
あ、はい、本題に入ります。1週間前ですね。
仕事の合間にスペインのウエブサイトを見てたんです。それがジプシーのサイトで。
ああ、ジプシーっていうのは差別用語なんですよね。
今はロマって言葉で言い換えられることが多いんですけど、これも問題あります。
ロマってのは一つの民族名で、ジプシーの中にはロマ以外の民族もあるんです。
まあ、スペインに住んでるのはほとんどロマなんですけど。
彼らは自分たちのことをヒターノって呼んでますね。
それでね、その人たちの作ってるサイトを見てたら、
どんどん深いところに入りこんじゃって。急にパソコンの画面がまっしろくなって、
そこに大きな黒い丸が現れたんです。で、パソコンの操作がきかなくなっちゃった。

これはマルウェアかと思って、あせっていろいろやってたら、
その黒丸が2つに分裂しまして・・ちょうどほら、受精卵の細胞分裂ってあるでしょ。
あんな感じで4つが8つに、8つが16にって具合に画面に黒丸が増えてって、
しまいには直径1cmくらいの黒いぶつぶつだらけになっちゃったんです。
それも規則的に丸が並んでるわけじゃなくて、なんか気味悪い感じで。
これは1回再起動するしかないかと考えてたら、シュンって音がして、
画面がブラックアウトしました。そのときにですね、
顔にプチプチと柔らかいものが当たった感覚があったんですよ。
「え、何だ?」と思ったら、画面が突然、最後に見てたサイトに戻りまして。
ええ、パソコンは壊れたわけじゃないんです。今も普通に使えますよ。
で、問題はプチプチのほうで。これ信じられないと思いますけど、

パソコンの画面に映ってる穴から何かがたくさん飛び出したんです。
でも、それ、目に見えないんです。わたしのパソコンは仕事机の上にあるんですが、
そのとき机にひじをついたら、ねちょっと、何かを腕でつぶした感触がありました。
うーん、ゼリーよりちょっと固くて、グミより柔らかいって感じの。
でね、つぶれたものから液体がしみ出してる感じがあって・・・
それも目には見えないんですけどね。気持ち悪いなと思って、
テイッシュをとってヒジを拭きましたけど、
テイッシュは白いままで汚れはつかなかったんです。
で、これはパソコン画面の見過ぎで疲れてるのかと考えて、
コーヒーでも入れようと立ち上がったんです。そしたら、
わたしは部屋ではスリッパはいてるんですが、一歩踏み出したとたん、

柔らかいものをiいくつか同時に踏みつけた感触があったんです。
ええ、そうです。床の上にも何かいるんです。それもやっぱり透明のが。
這いつくばって手のひらで床をなぞるようにしてみました。そしたら、
わたしの足元だけでも、10も20も、目に見えない何かがいました。
うーん、全部同じものですね。しかも手のひらで押さえてるのに、
モゾモゾ動くんですよ。1つ1つの大きさは、4cmくらいですかねえ。
太さは1cmあるかどうか。それが床にたくさん散らばって這い回ってる。
そこまではわかりました。で、これどうしますか。
ともかく目には見えなくても片づけなくちゃならないと思って、
ほうきで掃いたんです。だけどね、そいつら粘着力があるんですよ。
吐き捨てたガムみたいにべたーっと床にくっついてる。

もちろん掃除機も試しましたよ。力を入れて押しつけると、
いくらかは吸い込まれていく感じはありました。でもね、
大部分はやっぱ床にくっついたままで・・・でね、そうしているうちに、
床のもののいくつかがわたしの足に這い上がってくる感触があったんです。
そのときはハーフパンツをはいててスネを出してましたから。
でね、ふくらはぎのところに丸く穴があいたんです。
そっからじわっと血が吹き出してきました。
そのうちに別のところにも穴があいて・・・
あっという間に足が血だらけになっちゃって。
あの、わたしは休日に山歩きすることがあるんですけど、
ちょうど、山ビルにやられたときにそんな傷ができるんです。

まいりましたよ。部屋じゅうに、目に見えない透明なヒルが
無数にいる状態なわけですから。しばし立ちつくしてたんですが、
その間にも何匹も透明ヒルが足に這いのぼってきて・・・
でね、これはジプシー・・・ロマの呪いなんじゃないかって思ったんです。
ウエブのサイトから呪いが感染するってのも考えにくいですが、
わたしが何か見てはいけないサイトに入り込んじゃったせいなんだろうと考えて、
それでね、大阪にいるロマの知り合いに電話したんですよ。
ええ、日本にもけっこう来てます。表向きは水晶球を使った占いをしたり、
あとはギターで民族音楽をやったり。でね、とりあえずこっちの窮状を話したら、
「それはやっぱり呪いだろう」って話になりまして。準備をして助けに行くから、
その間にできるだけヒルを掃除機で吸い取ってろって言われました。

で、部屋で悪戦苦闘してたら、4時間後くらいにロマの人が来まして。
その人はやっぱり占い師で、40代と思える女性なんですけど、
他に2人20代くらいの男が2人、大きなカゴを持って入ってきました。
その頃にはわたしの足はモモまで血だらけですよ。
でね、男たちが抱えてきたカゴには黒い布がかかってまして、
それを取りのけたら、1つのカゴに2匹ずつ黒猫が入ってたんです。
計4匹ってことですが、どの猫も目が金色で口の中が真っ赤で・・・
ロマの女性は、「大阪じゅうのロマから魔力を持った猫をかき集めてきた」
って言って、カゴを開けて猫を部屋の中に放ったんです。
そしたら4匹ともしなやかに、機敏に動いて、
部屋中に散らばってる見えないヒルをぱくぱく食べ始めたんです。

ほんとにあっという間でしたね。
猫たちはベッドの下やすき間というすき間に入り込んで、
どうやらほとんどのヒルを食べ尽くしたみたいでした。ロマの女性は、
「まだ何匹か残ってるかもしれないけど、数日で消えてしまうと思うよ」
そんなふうに言いまして。ああ、助かったと思いましたが、
その後に呪いのヒルの駆除料を請求されました。
ええ、高かったですがしかたがないです。連れてきた黒猫たちは、
日本にはいない非常に珍しい品種の上に、魔術的なトレーニングをしてある、
魔除け専門の猫なんだそうでしたから。
ええ、ええ、ジプシーの呪いってやつは本当にあるみたいです。
で、その対抗手段もしっかり考えられてあるってわけなんです。

どうしてこんなことが起きたかって?うーん、はっきりとはわかりませんが、
スペインに住んでるロマの多くが麻薬の売買に関わってるんです。
で、わたしがたまたま入ってしまったサイトも、
おそらくそれ関係のものなんだろうって。ええ、危ないサイトってのは、
ふつうならウイルスが仕掛けてあるじゃないですか。
そのかわりというか、呪いが発動するようになってたみたいで。
いやほんと、一時はどうなることかと思いましたから。あのままだと、
わたしは体中の血を吸いとられて死んでた可能性が高いでしょう。
で、透明ヒルは数日で消えちゃうんだったら、
わたしの死体が発見されたときには何の証拠も残ってない・・・
ま、今回のことはいい勉強になりましたよ。ネットサーフィンもほどほどにって。








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