白骨船の話

2017.09.29 (Fri)
親父の手伝いして沖合漁業やってる漁師なんスよ。船に乗って3年目。
ぼとぼち仕事にも慣れてきたけど、まだ親父にはよく怒鳴られるっス。
そんなだから、まあよろしく頼んます。
あ、もちろん日本海側の港っスよ。場所は言わなくてもいいかね。
うん、船は○○丸って言って30t。乗員は俺を入れて7名。
主にまき網でアジ・サンマ・サバとか獲ってるんだけど、
季節によっちゃエビ・カニもやる。ああ、十分食っていけるスよ。
で、先月の半ば頃の話なんス。その日も早朝に出港してね。
午前の漁が終わったあたりの時間だな。
ああ、船泊するのはよっぽどのときだけで、ほとんどは日帰りの漁なんス。
でね、俺が網を戻してると百mほど北に船が見えた。

長さ10mもあったかなあ、高(たか)はほとんどなくて、水すましみたいな船。
それがぷかりと浮いてるのを見つけたんス。
ああ、その日は波もうねりもなくてね、天気もよかったんスよ。
でね、さっそく船長 の親父に知らせたんス。「船長、変な船が見えるス」って。
まあね、もし仲間の船なら無線で連絡とるとかもあるから。
だけど、こう言っちゃあれだけど、あんな丸木舟に毛が生えたようなので、
こんな沖まで出るとかありえないと思ったスけど。
したらね、親父が双眼鏡持ってやってきて、で、その船を一目見るなり、
「ああ、ありゃ白骨船だ」って言ったんス。
「あ、白骨船て気味わりいな。何だスか。それ」
「北朝鮮の船だよ」  「はああ、国から逃げてきたやつスか?」

「いや、おおかたは違う。ありゃ俺らと同じ漁をするための船だ」
「信じられねえ、あんなちょぼい船で沖に出るんスか?」
「そうだ、あいつら大きい船なんて持っちゃいねえから」
「でも、まだ日本の領海内っスよね。不法操業してるってわけ?」
「そうじゃねえだろう、漂流してここまで流されてきたんだろ」
「じゃあ救助するんスか?」  「うーん、いや、まあ見ちゃったからな。
 でもよ、十中八九、生きたやつは乗っちゃいねえ」
「はああ」 「さっきな白骨船って言ったろ。俺らの県にもたまに流れ着くんだ。
 で、調べてみれば中には白骨死体がいくつか転がってる。
 漂流中に餓死したんだろうな」
「・・・泊りがけで漁してるんスか?」

「そこはわからんが、あんな小さい船だし、食料は3日分も持っちゃいないだろ。
 白骨船は漁具もエンジンも、俺らが30年前に使ってたようなやつだよ。
 だから故障でもあれば、もう死んだも同じだ。そのまま漂って、
 海流からいって途中で沈没しなけりゃ、日本の北側かロシアに流れ着く」
「で、どうするわけ?」  「まずは海上保安庁に通報する」
ってことで、親父は無線係の先輩に指示して、海上保安庁に連絡したんス。
したら、指示が2つあって、一つは現在位置を知らせろってことで、
もう一つは、近づいて生存者がいるか確認してくれってこと。
ただし無理する必要はないっても言われたみたいだったス。
それでね、網は巻いた後だったから、エンジンかけて近づいていったんスよ。
「ああ、船長、ありゃやっぱ難破船っスね。あんなに汚れて・・・」

「舳先にハングルが見えるな。軍船みたいな雰囲気もある」
「軍船・・・」  「向こうじゃ人民軍の兵士が漁師を兼ねてるって聞いたことがあるな」
とか言ってるうちに、20mくらいのところまで近づいたんス。
船の高がだいぶ違うんで、こっちから見下ろす形になったけど、
甲板にはシートや網が乱雑に散らばってるだけで、人の姿はなくて。
「拡声器積んでたっけか? ない、じゃあ若いやつら並んで声かけてみろ」
そう言われて、俺と先輩がた二人でその船に向かって、
「おおい、だれかいますか~」って大声を出したんス。
何度もくり返したけども何の反応もなしで、
「どうやら、生きた人はいないようスね」俺がこう言ったときに、
風にあおられたみたいにベロンと、甲板のシートが一枚めくれて、

その下から人が立ち上がったんス。
着てるものはボロで、痩せ枯れてカカシみたいな男だったんス。
「あ、生存者?」 そう俺が言ったとき、
その男が思いもかけない大声で叫んだんスよ。「○☓△□○☓△□・・・・」
もちろん俺らのわかんない言葉でっス。そんとき見ちゃったんスよ。
落ち窪んだ目とこけた頬のあたりから、ザラっという感じで肉と皮が剥がれるのが。
出てきたのは白じらとした骨。「ああっ、あれが何で生きてるんだ!?」
先輩の一人が叫んで後退って尻もちをつき、俺ものけぞってね。
無理ないっしょ。白骨が立ち上がってしゃべってるんだから。
したら、低く小さい船室から、もう一つボロの塊が這いずるようにして出てきて・・・
「船長、死人が、ガイコツが動いてます。何だよ、何だありゃあ!」

もう一人の先輩が叫んで、親父のほうを見て。
したら親父は、「供養だよ、供養するんだ・・・」そう言って俺の髪をつかんで、
「みなの今日の弁当を集めろ!」俺は全身震えながら船室に入って、
ロッカーから弁当箱を出して・・・で、親父の指示でフタを開けた弁当を、
そのまま白骨船に投げ下ろしたんスよ。
したら弁当箱の一つが立ってる男の肩に当たって、
男はガクガクと崩れるように倒れて、そのまま動かなくなったんス。
あと船室から出ようとしてたもう一人も。
向こうの甲板の上には米とおかずが散らばってて。
親父は船室に向かって「生存者はいないようだって報告しろ!」そう言って、
今度は俺らに「知ってるお経唱えろや」って。

いや、無茶言うなって思いましたけど、先輩がたと「ナムアミダブツ・・・」
そのうち海上保安庁から、「こちらが向かいますから、それ以上はけっこうです
 ご協力ありがとうございました」って返信が来て、
俺らの船はエンジンかけて、逃げるようにしてその場を離れたんスよ。
ま、こんな話なんス。嘘だって思うスか? ああ、じゃあいいけど、
俺自身、見たことがいまだに信じられないっス。
けどね、先輩がたも親父も同じの見てるんだしね・・・
で、その日は午後の漁はやめて港に戻ったんス。だって、験が悪いじゃないスか。
いや、その後、海上保安庁はあの船、回収はできなかったみたいスね。
次の日は普通に漁に出たっスよ。いや、変わったことはなかったし、
作業に気をつけるようにしてたけど、魚も普通に獲れてたっス。

あとね、俺もちょっとは調べたんスよ。北朝鮮の白骨船についてね。
この5年間で300隻くらい日本に流れ着いてるみたいっス。
乗員は一隻について3人から10人くらい。
つまり数百人亡くなってるってことっス。
しかもね、これ日本だけじゃなく、ロシアにもかなりの数が行ってるみたいだし、
そもそも流れ着かずに沖で沈没したのも多数あるってことっしょ。
おそろしいっスよね。俺ら漁師は危険と隣り合わせだけど、
それでもここ何年も地元からは遭難者は出してないんス。
それにくらべてね。あんな船だから、いくら軍人っても嫌だと思うんスよ。
しかもね、獲った魚はほとんどが外貨を稼ぐ輸出用で、
朝鮮の人の口には入らないんしょ。・・・怖いことっスよ、ホントに。

米 漁業・船舶用語その他に多数の間違いがあると思いますが、どうかご勘弁を。







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