琉球人形の話

2017.10.06 (Fri)
今度、結婚することになりました。ですから、
ここでお話をしたら、あのときのことはいっさい忘れてしまおうと思っています。
できるかどうかわかりませんけど・・・あれはちょうど10年前、
私が中学2年生のときのことです。その日、居間のテーブルで宿題やってたんです。
夕方、5時くらいだったでしょうか。
母は主婦だったんですけど、そのとき買い物に出かけてたんです。
それで、宿題が終わってテレビでも見ようかと思ったとき、
テレビ台の上に、液晶テレビと造花を飾った花瓶にはさまれるようにして、
人形が一体置かれていたんです。あれーって思いました。
昨日までなかったし、いつ買ったんだろうって。

それ、日本の人形じゃないように見えました。高さが15cmくらい。
髪型が日本人形とは違ってて、沖縄の人形じゃないかなって思ったんです。
そのときは、琉球人形って言葉を知らなくて。
そうしてるうちに母が「ただいま」って買い物から帰ってきて。
「おかあさん、あの人形どうしたの?いつ買ったの?」って聞いてみたんです。
「人形ってどれのこと?」 「ほらテレビ台に置いてある沖縄の人形」
そしたら母が、持ってた買い物カゴをどさっと床に落とし、
顔色を変えて居間に走り込んできて・・・
「ほらあれよ」私が指差すと、みるみる母の目がつり上がって。
「あーなんで、なんでなのよ!今ごろになってまた出て来るの!」って叫んで。

そんなとりみだした母の姿を見たことがなかったので驚きました。
母は、台所に戻ると紙袋を持ってきて、テレビの横から人形をわしづかみにし、
紙袋に放りこむと、じゅうたんの上に叩きつけ、
「なんで出てくるのよ。もう終わったはずでしょ!
 あんなにたくさんお坊さん呼んで手厚く供養したのに!」
そんなことを叫びながら、人形の入った紙袋を足で何度も何度も踏みつけて。
それから、私のほうを向いて「お母さん、この人形捨ててくるから、
 また留守番おねがい」そう言って走って家を出てったんです。
私は母の態度があまりに異常だったので呆然としてて、
そしたら電話が鳴って・・・出てみると父の会社の人からでした。

父が会社で胸を押さえて急に苦しみだし、救急車を呼んで病院に運んだ、
心筋梗塞の可能性が高く、緊急手術になるから○○病院にすぐ来てほしい、
そういう内容だったんです。わかりました、ありがとうございます、
と言ったものの、私一人ではどうにもならず、
やきもきしながら母が帰ってくるのを待ってました。
やがて母が息を弾ませて戻ってきたので、急いで電話の内容を伝えると、
「ああー、それで出てきたのね。あの人を連れてく気なんだわ!」
・・・とにかくタクシーを呼んで2人で病院に向かったんです。
そのタクシーの中で、母が携帯で父の会社の人に連絡したら、
もう手術は始まってるってことだったんです。

私はもちろん父のことが心配でしたが、母があの人形をどうしたのかも
気になったので「お母さん、人形はどうしたの」って聞いてみました。
そしたら「コンビニのゴミ箱に捨ててきた。でもこうなるんなら、
 灯油かけて庭で焼けばよかった」って・・・
病院に着いて、案内で聞いて手術室のある階に行ったら、
父の会社の人が何人もつきそって来てくださってたんです。
それから手術が終わるのを何時間も待って・・・
母は思い詰めた目をしてずっと下を見てたので、もう何も聞けませんでした。
それで手術が終わってお医者さんが出てきて、
「手術は成功しましたが、まだまだ危険な容態です。集中治療室に入ります」って。

父が管だらけになって運ばれてきて、集中治療室で1回だけ目を開けたものの、
またすぐ眠ってしまって。医師の説明の後、その晩は2人でつき添ったんです。
ほら、集中治療室ですから、あちこちで心電図の鳴る音が響いてて、
その中に2人でいるうちに、母がぽつりぽつりと話し出しまして・・・
「あの人形ね、私がお父さんとの新婚旅行から帰ってきてすぐ送られてきたものなの。
 お父さんと大学時代につき合ってた女の人から。
 これはみんな後になってからわかったことだけど、その人は沖縄の出身で、
 お父さんと別れたことをずっと恨んでたみたい・・・というか、
 お父さんに未練を持ってたのね。だから私たちの結婚式の直後に、
 崖から身を投げて自殺しちゃったの。死ぬ前にあの人形を送って。

 それでね、私はその人のことをお父さんから聞いてなくて、
 人形をふつうに飾っておいたら、いろいろと嫌な、おそろしいことがあったの。
 それでお父さんを問い詰めて事情がわかって・・・
 菩提寺に連絡してご住職に来てもらって供養していただいたのよ。
 それからあなたが産まれて、十数年何もなかったのにまた今日出てきたら、
 お父さんがこんなことになって・・・きっとあの人を連れに来たんだわ」
そのとき心電図の音が切迫して、たくさんのお医者さんや看護師さんが集まってきて、
いろいろしてくださったんだけど、かいなく父は亡くなってしまったんです。
私も母も悲しみにうちひしがれてましたが、なにしろ急なことだったので、
母は気丈に親戚などに連絡し、葬儀社を呼んで・・・

それからお通夜、お葬式となり、私の地方ではその後に火葬をするんです。
父と母の両方の祖父母や親戚と火葬場に行き、
やがて火葬が終わって、お骨上げをすることになりました。
箸で大きなお骨を拾って骨壷に入れるんですが、
父の叔父が黒くなって溶けたものを箸でつまみ出して、
「これ、お骨じゃないな、棺の中になに入れたんだ?
 焼け残るようなものは入れないように言われてただろう」って。
そんなのを入れた覚えはないんだけど、
溶け残った形から、あの琉球人形じゃないかって思ったんです。
そのことは母もすぐわかったらしく、叔父の箸を上から箸で叩いて人形を落とし、

無言のまま何度も、何度もそれを箸で突き刺すようにし、
しまいに木箸が折れちゃったんです。すると母はそれを手でつかみ、
下の床に落として足で踏んで、そのまま泣き崩れてしまったんです。
・・・どうなんでしょう。最初に人形の供養をしてから十数年たってるんだし、
人形に父をあの世に連れて行くまでの力はなかったんじゃないかと思います。
けど、父の死が近いのを知って出てきた・・・
母は悔しかったと思います。父の姿が失われる最後のときに、
あの人形が入り込んでたんですから。・・・こんな話です。え、母ですか、
それが、まだ50歳過ぎたばかりだったんですけど、昨年亡くなりまた。、
私の結婚式を見てもらえないのが残念です。







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