島の神社

2017.10.08 (Sun)
今年の5月のことだよ。連休の期間に、会社の同期4人で釣りに行ったんだ。
場所は・・・瀬戸内の某所。場所は言わないでおくよ。
ありゃ、行っちゃいけねえところだと思うからだ。
・・・ネットで釣宿をさがして予約を入れた。そこは宿のオヤジが小型の釣り船を
持ってて、客を乗せて沖へ出せるようになってたんだ。2泊3日の予定だった。
宿には金曜の夜に着いた。磯臭い漁港の、なんてことはねえ民宿だったよ。
それでその日はみなで酒飲んで寝て、翌日、早くからオヤジの船に乗った。
アジやメバルをねらって朝の8時から昼ころまで釣ったんだが、
釣果はぼちぼちもいいところだった。一番多いやつで3匹とかそんな感じ。
これにはオヤジも恐縮した様子でな。
「冷たい海流が次入ってきてるのかもしれねえ。昨日まではもちっと釣れてたんだが、

 これじゃあちょっとらちがあかねえな。昼食ったら島につけるから、
 そこで磯釣りしたほうがいいかもしれない」こう提案してきた。
「島でもいいよ。なんて名前の島?」 「いや、小さな島で無人島だよ。
 そこの船着き場で釣ればいいし」それで、飯食ってから40分ほど船を走らせて、
その島に着いたってわけ。そうだなあ、周囲4kmくらいで、
中央に低い山があって、家はもちろん一件もねえ。
ただ、船がつけられるような桟橋が長くのびてた。オヤジは、
「この桟橋から、向こうの護岸までのところで釣るといい。今日だったら。
 船に乗ってるよりなんぼかは釣れるだろう」
100mもないような山のほうを見ると、木々の間に赤いものが見えたんで、
「あれは何だい?」って聞いた。「ああ、荒れ果ててるけど神社があるんだ。

 30年ばかり前には、この島にも住んでたやつがいたからな。
 5時にはここにむかえにくるから」そう言い残して戻ってたんだよ。
で、4人がめいめい場所を決めて釣り始めたんだが、これが入れ食いで、
持ってったクーラーボックスがたちまちいっぱいになった。
みなほくほく顔でな。「これはいいとこみつけた。また秋にでもこようぜ」
そんな話も出た。そのときには、あんな目に遭うとは誰も思ってなかった。
夢中になって釣っていると、「もう5時なるぜ。そろそろオヤジがむかえにくる」
仲間の一人がそう言った。ところが、待てど暮らせどオヤジの船がやってこない。
「こねえな、5時半過ぎた。あのオヤジ、俺らをここに置いたことを忘れて
酒でも喰らってるんじゃないか」 「そんなわけねえ。俺らは泊り客だぞ」
そんなことを言ってるうちに、いくら日の長い時期といっても、

だんだんに暗くなってきたんだよ。「オヤジ、本当にこねえ。これマズくないか」
「朝まで釣ってろってか」 「寒くはないから、それはできるけど、
 風呂に入って酒が飲みてえ」 「スマホで連絡取ってみろよ」
「それがさっきからやってるんだが、オヤジも宿も出ねえ。
 それどころかどっこも圏外になってる」 「ありゃ、俺のもだ」
でな、もちろん街灯なんてない無人島だし、
そのうちに手の先も見えなくなってきたんだよ。
「こりゃもう、釣りも無理だ」 「どうすんだ、ここで寝るのか?」
「あれ、おい、雨が降ってきた」
「あ、かなり激しいな。ずぶ濡れになれば、この季節でも低体温症になりかねんぞ」
「どうする? 林の木の下に入るか?」

「まだ明るいうちに、あの鳥居のとこまで行ってみねえか。
 神社があるなら、軒先を借りれるんじゃ」 「多少登りになってるが、
 距離は200mくらいだろ、行ってみよう」 「その間に船、来たらどうする」
「俺たちがいなかったら待つか探しにくるだろ」 「ぷぷぷ。たまらん」
ってことで、俺たちは竿をたたみ、荷物をまとめて神社をめざしたんだ。
幸いなことに、獣道ていどだが道がついてて藪こぎする必要はなかった。
神社は見えてた印象よりもだいぶ近くにあって、時間にして10分ほどで着いた。
鳥居は、もとは赤かったんだろうが、すっかり塗りが剥げてて、
その後ろにある社殿は、つぶれてこそいなかったものの荒れ放題に荒れてた。
「軒下に入ろう」 「大丈夫かよ、崩れてくるんじゃないか」
「表戸を開けてみるぜ、おっ開くぞ」で、俺らが中に入ったときには、

雨雲のせいで暗さが増し、ザーザー雨が神社の屋根を叩いてた。
中の広さは8畳間くらいだったな。
「なにもねえみたいだな。誰か懐中電灯とか持ってるやついるか」
「ライターしかねえ。今、つけてみる」 「あ、この砂みたいなのはホコリか」
「端のほう雨漏りしてるんじゃねえか」 ライターはすぐ消えて、
あとは各自が持ってるスマホの明かりだけになった。
「明るくなるまでじっとしてるしかねえのか」 「さすがにそのうち来るだろ」
「あんのクソオヤジ、ぶん殴ってやりてえ」
「ま、宿代はタダにしてもらわなきゃ済まんな」 
こんな話してると、とつぜんスマホが鳴った。俺のだけじゃなく全員の。
「あ、もしもし」出て見ると、「・・・ヒ ト リ モ ラ イ マ ス」そう聞こえた。

男か女かもわからないひび割れた声だった。「え、え?」
それだけで通話は切れた。「あ、今の電話なんだった?」 
「一人もらいますっって言ったぞ」 「俺のもだ」 「同じ」
そしたら残った一人が「俺は、あなた もらいます って聞こえた・・・」こう言ったんだよ。
「ええ?」そのとき、わずかに開けてた神社の表戸から強い光が入って、
すぐドーンと音がした。「雷か。勘弁してくれよ」 「近いな」
そんときかすかに「おーい、いるんか、おーい」という声が外でして、
「ああ、やっぱりここかあ」雨合羽を来た釣宿のオヤジが入り口に立ってたんだよ。
「お、オヤジか、何やってたんだよ!」 「ああ、スマン、すまねえ、そこまで来てたんだが、
 急にエンジンの調子が悪くなって遅れた。スマン。
 ひでえ雨だが、船つけてあるから乗ってくれ」で、俺らはオヤジに口々に文句言いながら、

桟橋まで戻って船に乗ったんだ。その間にも雷の音は何度も響いてた。
でな、俺が振り返ったときにちょうど稲妻が光って、そしたら神社の前に、
何か大きな黒い獣みたいなのがうずくまってるように見えた・・・
俺らは全員ずぶ濡れで、オヤジがタオルをよこし、船室に入ってなんとか人心地がついた。
「まさか雨になるとは思わんかった、予報は見てたんだが、スマンな」こう言うオヤジを、
俺らはさらに散々ののしって、ここまでの料金をタダにさせ、
さらに晩飯もサービスさせるように交渉したんだよ。
で、船宿に戻り、風呂に入って全員に酒が回ると、みな機嫌がよくなってきた。
ま、魚自体はバカスカ釣れたわけだしな。「さっき、神社にいたときにかかってきた携帯、
 ありゃなんだったんだ?」一人が言い出して、全員が着信履歴を見たが、
誰のにも残ってなかったんだよ。これには首をかしげるばかりだったな。

でな、その次の日は快晴で、早朝からまた船で釣りに出たんだよ。
「オヤジ、エンジンいい調子だな」 「いや昨日はほんとにすまないことで」
オヤジはすっかり低姿勢になってた。で、魚のほうは誰も一匹も釣れず。
「こりゃ昨日の今日で潮がよくないみてえだ。昨日の島にまた行ってみるか。
 上陸はしねえよ。あのあたりの岩陰に入る。海から昨日の神社も見えるから」
オヤジがそう言って、船を走らせて島の下に入った。
たしかに鳥居と神社の屋根のあたりまでが見えた。
「この島ってなんで人がいなくなったん?」 
「そりゃ過疎のせいさ、まあもともと数十人しか住んでなかったけどな。
 あの神社は島の氏神みたいなもんで、それでも10年くらい前までは、
 船で来て世話をしてる神主がいたんだが、死んじまってなあ」

そこで昼まで釣ったら、入れ食いになった。もう腕が利かなくなるくらいだった。
「この島のまわりは魚が濃いんだなあ」興奮してそんなことを言ってると、
目の端で人が飛んだように見えた。「ええ?!」
かなり高い船の手すりを乗り越えて、竿を持ったまま海に落ちたんだ。
けども、トプンとも水音はしなかったと思った。「おい、落ちたぞ!!!」
オヤジがすぐ船を停めて、俺らは海面をのぞき込んだ。どこにも姿が見えない。
ライフベストをつけてたから必ず浮いてなけりゃおかしいのに。波の上を目で追ってると、
落ちたと思われるあたりから急に黒い大きなものが顔を出し、すぐまた沈んだ。
落ちたやつかもしれないし、イルカとかにも見えたが何だかわからない。
オヤジは保安庁と漁協に連絡し、それから何日も捜索が行われたが見つからなかった。
ああ、そうだよ。・・・落ちたのは「あなたもらいます」って言われたやつだ。







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