鬼の面

2013.09.07 (Sat)
私は銀行でテラーをしていますが、不思議な出来事があったので投稿します。
私が勤務している支店では「こども絵画展」を主催したり、
ほかにも近辺のカルチャースクール様の作品を店内に展示させていただいたりなど、
地域のみなさまとの親睦を深めるための企画があります。
先月は節分に合わせて学区の幼稚園の年長組の子どもさんたちが作った鬼の面を、
待合ロビーの壁に全部で40面ほど、3段にわけてはり出しました。

鬼の面といっても園児さんが作ったものですから、
最初から面の型に切り抜かれており目の部分の穴もあいていて、
それにクレヨンでまゆ毛を描いたり色をぬったり毛糸の髪をつけたりしたものです。
中に一面だけとても特色のある作品がありました。

ほとんどは地の色が一色程度なのに、
その面は深緑とこげ茶、黒が厚く何度も塗り重ねられて立体感が出ていました。
しかも本来の目の穴の上のまゆにあたる部分に、
真っ赤な目と黄色の縦長の瞳が描かれていたのです。
それを手にしたとき、背筋がぞくぞくするような、
何ともいえない感じがしたのを覚えています。
他の行員もその面を見て強い印象を受けたようで、
「これすごいな」「幼稚園児が作ったとは思えない。鬼気迫るようだ」
「もしかしたら将来は岡本太郎のようになるんじゃないか」
などと感想を述べあっておりました。

この面は二十日ほど展示されていましたが、その間にさまざまなことがありました。
ロビーの長イスでこの面の正面近くに座ったお客様は、
面が目に入るとハッとしたような顔になります。
それから立ち上がって面のほうに近づいていきそうになりますが、途中でやめ、
離れた場所に席をかえてしまわれるのです。

ほとんどの方が同じような反応で、これは掲示してから3日目くらいに気づきました。
さして広くもないロビーですから席をかえても目には入るのですが、
その面の前の長イス3つで、そこだけ縦に人が座っていない状態が続きました。
また小さい子どもさんは、同年代の子が作ったものであるせいか、
すぐに展示に興味をひかれるものの、
その面を見てしまうとくしゃっと顔がゆがみ、かといって泣き出すわけでもなく、
どんなにはしゃいでいた子でもひじょうに大人しくなってしまうのです。

いつもの月にくらべてロビーで具合が悪くなってしまったお客様も多かったと思います。
それと、これは関係がないかもしれませんが、
面を展示していた期間中、私も含めて業務上のミスが多く、
支店長からの訓示めいたことまでありました。
展示から10日くらいたって、他の面はなんでもないのですが、
その面だけ彩色が溶けたようになり、目の縁や口の端からしずくとなって垂れ下がり、
床を汚すようになりました。これだけクレヨンでないのかもしれません。
そしてこれも偶然と思いたいのですが、週2回派遣で来られている、
60代の清掃員の方が急にお亡くなりになったのです。

この面は何かがおかしい。そう気づいているのは私だけではないようでした。
窓口に出ている数人は絶対にその面の不気味さと、
よくない出来事の関連を感じ取っていたと思います。
でも昼休みや退社時などにも、だれもそのことを口に出す人はいませんでした。

私もそうでした。なぜだか、話題にしてはいけない、
言葉に出してはいけないという気が強くしたのです。
あと3日で展示が終わるという日でした。
その日私はロビーに一番近い窓口にいたのですが、
横の入口から黒いスーツを着た、普通の男性より頭ひとつ半くらい高い、
ひじょうに長身のお客様が入ってこられました。
50代くらいだと思いましたが顔にはしわがほとんどなく、
体格に比して小さくやや薄くなった頭をオールバックになでつけておられました。

そのお客様は整理番号札を取りもせず、あのお面のほうに近づいていかれました。
長身のため、掲示してある面とその方の顔がほとんど同じ高さになっていました。
お客様はつぶやくように、「おお息子、ここにいたのか」こう言われました。
小さな声でしたが、お客様が面の前に立ったときから注意していた私には聞こえました。
そして両手で赤ちゃんを抱きとめるような仕草をすると、そのまま出ていかれました。
あまり不思議だったので、手が空いたときにロビーに回ってみました。
するとあの面の、色や造作には違いはありませんでしたが、
見るものをかき乱すような不吉な感じは消え去っていて、
ただの子どもが作ったお面としか思えなくなっていました。

展示期間が終了して幼稚園の先生がお面を取りに来られとき、
好奇心に負けてこのお面の話を出してしまいました。
先生はだまって話を聞いていましたが、
「これを作った子は、今児童相談所にいます」とだけ答えられました。
言ってから、ああいけないという顔をされ、
雰囲気が気まずくなって、お茶でもといったのを断って帰っていかれました。
これでお話は終わりですが、
いつも年金を引き出しにこられる顔見知りの女性のお客様から、
「あの化け物いなくなったんだね、よかったね」と帰りがけに言われました。
あのお面のことだと思います。

『オフィーリア』ジョン・エヴァレット・ミレイ






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