変身譚

2017.10.08 (Sun)


今日はこのテーマでいきますが、さて、どのくらいの内容が書けますか。
というのも、なかなか現代の怪談では変身を扱ったものが見あたらないんですね。
それはそうだ、という気もします。実話怪談は「実際にあったこと」というのが
前提なのですが、「気がついたら犬になっていた」みたいな話は、
さすがに現実感がないですからねえ。ですので自分も変身譚はほとんど書いていません。
コンペティターという話がやや近いでしょうか。 関連記事 『コンペティター』

さて、変身といって思い浮かべるのは、やはりフランツ・カフカの『変身』でしょう。
ただしこれ、ホラーの要素は多少あるものの、オカルトではなくて文学、
不条理文学ですよね。筋はみなさんご存知だと思いますが、
貧しいながらも家族の生活を支えて懸命に働いていたザムザは、
ある日 目覚めると巨大なゴキブリになっていた。これによって、
それまでのザムザがどういう存在だったのかが浮き彫りになる構造をしています。
一家の担い手から、いきなり厄介者になってしまったザムザ、
家族はしかたなくザムザに頼るのをやめ、自立しようと動き出す・・・

この手法をさらに推し進めたのが、安部公房氏の『棒』です。
子どもを連れてデパートに来ていた男は、不注意で屋上から手すりを越えて落ち、
地面に達したときには一本の棒になっていた。
そこへ死者を罰する役割を持った教授とその学生2人の3人連れがやってきて、
棒になった男の人生を論評する。
「棒のように単純であるが、誠実だった」「棒ていどには役に立っていた」
「道具としては下等過ぎる」・・・で、3人の結論として、
「この男はまさに棒であった。こんなありふれた棒は罰する必要はない」と、
棒になった男をその場に残して去っていく。

さて話を変えて、西洋の変身譚は、キリスト教以前と以後では大きく違っていると
思います。ギリシャ・ローマ神話や北欧神話では、神と人間、
動物の境目があまりないんですよね。例えば、神々の王であるゼウスは、
人間の女に近づくために雄牛や白鳥に姿を変えて寝室に忍び込んだりします。
ここでは人間が動物に変身することへの禁忌がほとんど見られません。
多くの神話はアニミズムを基盤とした多神教ですから、
動物の霊も人間の霊と同じように認められていて、
ボーダーゾーンがあいまいだったのだと考えられます。

ところが、キリスト教が導入されると、人間と動物は厳然とした差があるものである、
という考え方が強まりました。神は天地創造のときに、
自分の姿に似せて人間を造り、その人間に役立つものとして動物を造った。
キリスト教(ユダヤ教)はもともとが荒れ地の漁師や遊牧民の間で発生したものなので、
こういう考え方をするのは当然といえば当然です。
ですから、人間から動物に変身するということは、
その魂が一段低い段階に落ちるということになったんですね。

さて、西洋の変身譚として有名な「狼男」について見てみましょう。
狼男は、werewolf(ウェアウルフ)ですが、このwereの語源は、
古ノルド語で、犯罪者、追放者を意味するという説があります。
狼男はふだんは人間として生活しているものの、満月になると狼に変身して
他人を襲ったりします。人間として持っていた理性が消し飛んでしまい、
獣性(本能)に支配される。ここでは理性を高いものと見て、
獣性をさげすんでいると考えていいと思います。

Wikiに面白い話が載っているので、ちょっと長いですが引用してみます。
中世のキリスト教圏では、その権威に逆らったとして、
「狼人間」の立場に追い込まれた人々がいた。
その傾向は魔女審判が盛んになった14世紀から17世紀にかけて拍車がかかった。
墓荒らしや大逆罪・魔術使用は教会によって重罪とされ、
その容疑などで有罪とされた者は、社会及び共同体から排除され、追放刑を受けた。
この際、受刑者は「狼」と呼ばれた。


当時のカトリック教会から3回目の勧告に従わない者は「狼」と認定され、
罰として7年から8年間、月明かりの夜に、狼のような耳をつけて毛皮をまとい、
狼のように叫びつつ野原でさまよわなければならない掟があった。
人間社会から森の中に追いやられた彼らは、たびたび人里に現れ略奪などを働いた。
時代が下るとこれが風習化して、夜になると狼の毛皮をまとい、
家々を訪れては小銭をせびって回るような輩が現れた。

この内容なんかは、狼男の伝説が生まれた一つの要因であったと考えられます。

もう一つ、ある種の精神疾患として、
獣に変身すると思い込んでしまう症状がありました。
これは日本でも、狐憑きとかが知られていますよね。狐憑きを治すには、
松脂でいぶして体を叩き、キツネを追い出すなどの民間療法がありましたが、
精神疾患に対するショック療法と考えてもいいでしょう。
危険な方法ですが、実際にそれで治る場合も多々あったのです。
さらに、西洋では月の満ち欠けに人間の精神が支配されるという考え方があり、
それが上記の精神疾患と結びついて、満月の夜に狼男に変身して暴れまわる、
みたいな話ができていったんでしょう。

さてさて、最後に、日本の神話や民話では、
ヤマトタケルが死んだとき魂が白鳥に変身して飛び去っていた、などはありますが、
人間が動物に変身するという話はあんまりないんです。
むしろ動物が人間に変身する話が多い。狐や狸が人間の姿になって人を化かすとか、
「鶴の恩返し」みたいなのが一つのパターンとして見られるんですよね。
このあたりは面白いなあと思います。







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