応声虫と人面瘡

2017.10.11 (Wed)


さて、今回は妖怪談義です。
まず、応声虫ですが、聞いたことがある人はあまり多くないでしょう。
中国由来のもので、古い中国の説話集にいろんな話が載っています。
応声虫が人体の中に入り込むと、本人は何もしゃべっていないのに、
腹の中から問いかけに応じた返事がかえって来るとされる。

文字のとおり「声に応える虫」ということですね。
雷丸(サルノコシカケの一種の漢方薬)を服用すれば効果があり、
虫が体外に出るという話もあります。

この応声虫は日本に入ってきて、人面瘡(人面疽)を引き起こす原因とされる
ようになりました。江戸時代の『新著聞集』や随筆『塩尻』に見られる説話では、
元禄16年、油小路に住むある男の腹に応声虫によるできものができ、
できものには目や口があり、食べ物を与えるとそのときだけ痛みや熱がひいた。
様々な種類の薬や祈祷を試したが、一向に効果がない。
ある名医が診察し、様々な種類の薬をできものの口に飲ませ、
その中でも嫌がって飲まないものを選び、
それらを調合したものを無理に口に押し込んだ。
できものは次第に弱り始め、10日ほど経つと肛門から怪虫が出てきた。
それはトカゲのようなもので、頭には1本の角があった。
逃げ出そうとしたところを滅多打ちにして殺し、患者は元気を取り戻した。


この尻から出てきたトカゲのような怪虫が応声虫であったわけです。
これは、回虫など寄生虫の病状を表しているものであり、
回虫が腹にいることによる異常な空腹感や、
虫下しを飲んで肛門から排泄された回虫の死骸を描写した、
と解されることが多いようです。

これだけだと単純な話ですが、人面瘡の場合は「人の恨みによってできる」
という要素もあります。怪異集『諸国百物語』では、
下総国に済む平六左衛門という男の父が下女に手をつけ、
妻は嫉妬のあまり下女を殺害した。以来、父の右肩にできものができ、
その数日後に妻が急死。そして左肩にもできものができ、
絶えず父に話しかけ、父が無視すると死ぬほど呼吸に苦しむようになった。
あるときにこの家に泊まった旅の僧が事情を知り、
父の両肩のできものに対して法華経を唱えると、口から蛇が現れたので、
それを引き抜いて塚に埋め経を読んで供養したところ、
ようやく父のできものは癒えた。


さて、人面瘡について、幕末の蘭方医 桂川甫賢が随筆集『筆のすさび』で
医学的に分析していて、『たんなる腫物の傷口の開いた姿が人間の口のように見え、
しわの寄った窪みや傷穴が人間の目鼻に見え、ひくひくと動く患部が、
あたかも呼吸しているように見えるのであり、怪異のものではない。

たしかにそんなケースが多かったのだろうと思われますが、
それでは当ブログ的にはつまらないので、もう少し考えてみましょう。

人面瘡はいろんな作家の方々が話に取り入れていて、谷崎潤一郎氏、横溝正史氏、
星新一氏、あとマンガの手塚治虫氏の『ブラックジャック』・・・
それぞれ内容がひとひねり、二ひねりされていて、
さすがの巨匠の作品になっています。

これらの作品に見られる人面疽の原因として、一つには、
シャム双生児(医学的には結合双生児と言われるようです)によるもの。
余談ですが、シャム双生児の語は、サーカス団員であったチャン&エン・ブンカー兄弟が、
実際は中国人とマレー人の混血であるのに、「シャム(タイ)のふたご」
と名乗って有名になったことからきています。
この兄弟は肝臓を共有した腹部での結合なのですが、それぞれ別の女性と結婚し、
2人で合計21人の子どもを持っています。
でもこれ、子作りはいろいろとたいへんだったでしょうねえ。

結合双生児にはさまざまな結合状態がありますが、中には片われが小さく、
大きなできもの程度の場合もあります。
そういったものが人面瘡として誤解された可能性もあるかもしれません。
横溝作品はこの結合双生児をあつかったものでしたし、
岩井志麻子氏の『ぼっけえ、きょうてえ』では、
遊女の後頭部の髪の中に「姉」がいるという、
人面瘡とも妖怪「二口女」とも言えるような結末でした。

もう一つが、二重人格による肉体の変形。手塚作品がこれでした。
自分の顔の上に別の顔ができるという患者を治療したブラックジャックですが、
いくら手術で顔を切除してもすぐにもとに戻ってしまう。
精神的なものが原因と判断したブラックジャックは、患者の一つの人格を殺すべく、
(致命傷にならないように)患者をピストルで撃つ・・・
精神的なことで肉体がそこまで変化してしまうのはありえないように思いますが、
人体は不思議です。子宮筋腫という病気では、
子宮内に髪の毛や歯ができてしまうこともよくあるそうです・・・

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