解体工事2

2017.10.16 (Mon)
えっと一昨年のことなんだ。ある建物の解体工事を請け負った。
それがな、話が来たのが、うちの県の参議院議員の事務所からでな。
だから、これ聞いたときは驚いたよ。
え、何でかって? そりゃ国会議員ともなれば、
縁故でつながりのある建設会社なんていくらもあるだろ。
それが何でわざわざうちみたいな小さいとこに頼むのか、
やっぱ不思議に思うじゃない。それに、
うちは従業員は少ないし機材もそろってるってわけじゃない。
だから大きな建物の解体は最初から無理なんだ。
けどよ、ざっと話を聞いたところ、
壊すのは、たいした床面積もねえ蔵が一棟ってことだったんだ。

それによ、予算はこっちで好きに決めていいみたいなことも言われて、
こりゃおいしい話だって思うじゃない。
で、工事に入る前に現場の下見に行ったのよ。
向こうから来たのは、その議員の秘書だったが、
これがすげえ細身で顔色が真っ白だったのを覚えてる。
場所は山に近いほうで、あたりにはほとんど建物のないとこだった。
まず驚いたのが、その200坪の土地が厳重なフェンスをめぐらされてること。
それがただのフェンスじゃないんだよ。
高さが2m以上あって上に鉄条網までついてたんだ。
秘書は大きな錠前を鍵を2つ使って開けて、俺らはフェンスの中に入った。
ああ、もちろん蔵は外側からも見えたよ。でなあ、これもまた異様な建物でな。

床面積は30坪、だから広大な敷地の真ん中に蔵がぽつんと建ってるってこと。
なあ、不思議な土地の使い方だろ。それと、蔵の高さが異様に高かった。
民家の2階建てよりもまだ高い。それと、
屋根の上に煙突みたいなのが出てたことだ。
だってよ、蔵ってのは宝物を火事から守るためにあるんだから、
火気は厳禁だろ。それが煙突って変な話じゃないか。
でな、その秘書がこれも何個も鍵を使って3重の蔵の扉を開けて中に入った。
そしたら2階建てでもなんでもねえガランとした空間で、
天井がずっと上に見えた。中のものは運び込まれて残ってなかったが、
蔵の床の真中に四角い柱が一本立ってたんだ。で、材質はひと目でわかって、
コンクリ製の50cm四方の柱、そんなのがある蔵なんて聞いたことがねえだろ。

そう。外から煙突に見えたのは、その柱が屋根から突き出てるものだったんだよ。
で、秘書の話では、外のフェンスは全部撤去。蔵も完全に解体するが、
その真ん中のコンクリの柱だけは残してほしいってことだった。
これも変な話だが、別に難しい注文でもねえ。いや、蔵の解体って楽なんだよ。
解体工事で最も大変なのは廃材の分別なんだ。ガラスはガラス、
断熱材は断熱材、金属は金属ってきちんと仕分けしなくちゃなんない。
それもリサイクルできるのとそうでないものに分けてだ。ところが蔵の場合、
窓はないし、壁はしっくい、屋根は瓦で、
断熱材はもちろん、木材や金属はほとんど使われちゃいねえ。
な、楽な仕事だと思うだろ。俺も初めはそう考えてたんだが・・・
でな、現場から戻るときに、その秘書のやつがもう一つ注文をつけた。

「土台が残ってもかまいませんので、蔵の下の土は掘らないでください。
 最後に整地する必要もありませんから。それと、この真ん中の柱には、
 絶対に重機などをぶつけたりしないでください。なんとかよろしくお願いします」
で、見積もりを出してすぐ工事に入った。
いちおう足場を組んで養生シートを張ったが、
隣近所はいないも同然で、1週間以内には片づくはずだった。
ところが作業員の一人が大ケガをしたんだよ。
自分で自分の右足首にシャベルをうち込んで、アキレス腱が切れ骨が折れた。
俺はそんとき現場にはいなかったが、もちろん病院には何度も見舞いに行った。
これは手術が終わってだいぶ落ち着いてから聞いた話だ。
「あの蔵の下に何か埋まってます。家・・・じゃないかって思うんですが」

「何バカなことを言ってるんだ。どうしてそう思ったんだよ」
「いや、あの柱ね、どう考えても変でしょ。じつは・・・
 どこまで埋まってるかと思って、休憩中にまわりを少し掘ってみたんですよ」
「バカ野郎!! 土はちょっともさわるなって言ってあっただろ」
「・・・すいません。でも、不思議じゃないですか。
 なんであんな柱があるのか気になってしかたなくて」  「・・・それで?」 
「そしたら1mも掘らないうちに屋根瓦にあたったんです」
「そりゃ、たまたま埋まってたんだろ」 
「でもそこらずっとが屋根瓦だったんですよ。それもそんなに古くない・・・」
「ありえねえよ。鉄筋コンクリの建物ならともかく、瓦屋根ったら木造家屋だろ。
 それが土の下に埋まってたとして、土の重みですぐつぶれてしまう」

「いや、そうですよねえ・・・で、土を埋め戻そうとしたときに、
 どういう具合か力加減がおかしくなっちゃって、
 思いっきりシャベルで自分の足をぶっ刺しちまって」まあこんな会話をした。
そいつは全治4ヶ月ってことだったが、今は復帰してる。
考えられねえケガだよな。自分の足にシャベルを刺す?
そんなのは高校出たてのアルバイトでもやらねえよ。
ましてやつは10年選手のベテランなんだし、何から何までおかしな話だ。
もちろん土の中に家が埋まってるなんてことはありえねえ。
あのあたりで土砂崩れがあったなんて話も聞いたことがねえしな。
だいいち平地にどうやって家を埋める?
けどな、そっから先いろいろおかしなことがあったんだよ。

解体は終わって、広い敷地の中に四角い柱だけがぽつんと残ってる状態で、
あの秘書を呼んで確認をしてもらったんだが、
約束した時間に行ってみると、柱のまわりにカラスが落ちて死んでたんだよ。
それも4羽も。いや、広い敷地でそこだけなんだよ。まるでその柱が煙突で、
毒の煙が出てるんじゃないかって思ったくらいだ。
うん、実際、中は空洞だったのかもしれないが、そのへんはわからない。
でな、秘書のやつはカラスの死骸を足で蹴りながら、
「おう、いい、いい。これはすごい。20年経ってもこれほどのものか」
正確には覚えちゃいねえが、こんな内容のことを言った。
地鎮祭はやらない契約だったんでこれですべて終わりなんだが、
俺はちょっと興味を持って秘書に聞いてみたんだ。

「この土地、これからどう使うんです?」そしたら秘書のやつは笑って、
「ああ、アパートを建てる予定です」こう言った。続けて、
「そのほうの工事は御社にはお願いすることはできません。申しわけない」って。
でもな、それも釈然としなかったんだよな。国会議員がアパート建てるかね。
てっきり事務所か何かになると思ってたから、これは意外だったな。
それから2ヶ月ほどして、県内の大きい業者が入ってあの土地で工事が始まった。
それでできたのが、アパートっていうかシニア マンションなんだよ。
そう、老人向けの集合住宅だ。完全バリアフリーのつくりで、
住むのは一定年齢以上で、資産条件を満たした高齢者のみ。
うん、そういうのには国からいろんな補助が出るし、税の優遇もあるんだ。
近くの医療機関と連携してて看護師も常駐してる。

あのあたりはあまり店はないが、ひんぱんに街の中心までバスが出てるらしい。
そのへんは国会議員の力なんだろうな。
評判? それがなあ・・・いいと言えばいいか、悪いと言えばいいか・・・
微妙なんだよなあ。うん、入居者がよく死ぬんだ。
それまで元気だった老人が、あのマンションに入ったとたん
コロッと病気で亡くなる。去年だけで何回葬式を出したんだか・・・
けども、部屋に空きが出ればすぐに入居者が埋まる。
自分の親をあそこに入れたいって子どもらが多いみたいなんだな。
ああ、あの蔵にあった柱な。わざわざああやって残したんだから、
マンションの建物の一部として組み込まれてるんだと思う。
なんのためにそんなことをしたのかはわからないけども。

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コメント
おお、これまた懐かしい「彼」の仕事ですね。
土の下にひっそりと一軒家が・・・もしかすると「それ以外」も埋まっているのを想像すると、何となくヒンヤリとした気分になります。
やはり、地下というテーマだけで「死」のイメージがちらつくんでしょうね。
| 2017.10.18 01:42 | 編集
コメントありがとうございます
久々に復帰したので、なんかまだ怖い話がうまく書けません
時間も以前の倍くらいかかってしまいます
bigbossman | 2017.10.18 20:16 | 編集
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