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身代わり

2017.10.18 (Wed)
いやあ、息子の話なんだよ、今年10歳になる。
それが大変なことになってね。ま、事が起きた順番に話していくから聞いてくれ。
今年の5月の連休に、家族旅行に行ったんだよ。行き先は奈良。
俺と女房は、大学の文学部で知り合ってね。2人とも卒論は古典だったんだよ。
だから在学中はよっく奈良・京都を2人で旅行して。
そんとき歩いた道を一人息子を連れてもう一度たどってみようと思ったわけ。
で、その日の日程は「山の辺の道」を歩く予定だった。
知ってるかな、奈良盆地の三輪山のふもとからの春日山のふもとまで、
だいたい35kmくらいあるんだけど、レンタサイクルを借りて、
そのうちの20kmくらいを家族で走る予定だったんだ。
当日は天気はよかったよ。それでいい風も吹いてて、いかにも5月らしい感じで。

それがね、1時間くらい走ったところで、息子が行方不明になったんだ。
これ、ありえないことだよ。田舎の一本道を親子3人で自転車で走ってて、
どうやって行方不明になる?それがな、道が無舗装になったところで、
息子の自転車がちょっと遅れた。それで後ろをふり返って、
「おい、どした?」って叫んだら、自転車だけ道に倒れてたんだよ。
息子の姿が見えなくなるまで10秒もなかったはずだ。
でな、最初は息子が自転車をおいて脇のヤブに入って、
立ちションでもしてるんだと思った。それが「おーい、どこだ?」って、
いくら声かけても出てこなくてな。ああ、女房と二人でかなりの範囲を探したんだよ。
けど、どこにもいない。それで警察に連絡したんだ。
すぐに来てくれてね。状況を説明したら、遠くまでいくはずがないからって・・・

けど俺ら夫婦に警官4人が加わって探しても、やっぱり見つからなかったんだ。
これはってことで、警察が応援を呼んでね。
かなり大規模な捜索になっちゃったんだよ。それで、結果だけ言えば、
息子は7時間後くらいに、もう夜になってから見つかった。それがな、
いなくなった場所から5kmくらい離れた古墳の前で、ぼうっと一人で立ってるのを、
近所の人が発見してくれたわけ。ああ、その古墳ってのは、
名もしれない小さなやつだよ。山の辺の道の周囲には崇神天皇陵とか、
300mクラスの大古墳がいくつかあるんだけど、そういうのじゃない、
山に少し入ったところの、誰のものともわからない小古墳の前にいたってわけ。
うーん、そのときは、自転車をおいて自分で歩いてったんだと思ったけどな。
どうしてそんなことをしたかはわからないけど。

うん、本人に理由を聞いても言わなかったんだよ。特にケガとかはしてなかった。
とにかくね、迷惑かけた警察や発見者の方にお礼を言って、
その日1泊し、その後の予定は取りやめて大阪に帰ってきたわけ。
でもな、そんときから息子の様子がおかしいんだよ。
心ここにあらずみたいな感じで、何を話しかけても「うん」くらいの返事しかしなくて、
普段はものすごくよくしゃべる、小うるさいくらいのやつだったのに。
女房が、いなくなってる間に何かあったんじゃないかって心配して、
それで何度もそのときのことを聞いたんだけど「わからない・覚えてない」
で、学校を休ませて病院に連れていった。2日がかりで検査したけど、
体の異常は見られなかったんだ。医者は、これは精神的なものである
可能性が高いだろうって、別の病院の心療内科に紹介状を書いてくれたんだよ。

で、心療内科で催眠療法を受けてから、完全におかしくなってしまった。
変なことを大声で叫び出すんだ、誰もわからない言葉で。
うん、なんとなく日本語らしい響きがあるから、
もしかしたら古代の言葉なのかもしれないと思った。それで入院になって、
その夜は女房と2人でついてたんだけど、9時ころになったら、
ベッドの上でガクンガクンって体が揺れだしてね。
体を伸ばして寝た状態で飛び上がるんだ。それも1mも。
息子の体を抱きかかえたら、ものすごい力で上から引っぱられてるようだった。
舌を噛まないように拘束したほうがいいんじゃないかってなったが、
ドスンドスン動いててとても手がつけられない。その様子を見て、
医者が集まって話をしてたが、やがて主治医がこんなことを言い出した。

「このような症状は1回だけ経験したことがあります。
 医師の私がこんなことを言うのは問題あるでしょうが、そのときに治療した、
 民間の療法士さんのところに連れてったほうがいいかもしれません」
それで、治ったのか?って聞いたら、「ええ、治りました」
で、息子にはとりあえず鎮静剤を打って静かにさせて、夜だったけども、
その民間の療法士さんに連絡してもらって車で運んだんだ。
それが、六甲山のふもとにある大邸宅だったんだよ。総ひのき造りっていうのか、
ものすごい大きな家でな。療法士さんって言ったけど、
病院だからそんな言い方をしただけで、出てきたのは白髪を後ろになでつけた、
60代に見える体格のいい人でね。高価そうな和服を着てた。
家には何人も使用人がいて、その人は先生って呼ばれてたな。

先生は息子の様子を見るなり、「ああ、わかりました。下級霊に呼ばれてます」
続けて「身代わりを用意しなくちゃなりません。
 これは準備に時間がかかるので、とりあえず今夜はこのまま寝かせましょう」って。
で、息子はその屋敷の奥まった和室に寝かされたわけ。
翌朝になって、先生がやってきて、「これから行うことは、危険はありませんが、
 ずいぶん非科学的に見えるでしょうが、私を信用しておまかせいただけますか」
って聞いてきたから、「とにかく助けてください」って夫婦そろって答えた。
でな、運ばれてきたのが一頭の豚だったんだよ。そんなに大きくないまだ子どもの。
豚は麻酔を打たれてるってことで、板の上に横になっていびきをかいてた。
それを息子がいる一室とは離れた部屋に寝かせて、腹から背にかけての毛を剃ったんだよ。
で、白衣を着た男が一人来て、先生が「当家専属の医師です」って紹介した。

「これから、息子さんの血を500ccほど採取させていただきます。
 命の危険はありませんからご心配なく」そんときには、
すべてをまかせることに腹は決まってた。医師は息子から血を抜くと、
また鎮静剤を注射したんだ。それから息子を裸にすると、体に筆で字を書いたんだよ。
うん、名簿みたいなのを見ながら、山田健広、石本裕二、中山久美子・・・
たくさんの名前を前身に書いた。医師は「古本屋で買ったどこかの高校の同窓生の名簿です。
 息子さんはこれで姿が見えなくなるはずです」って言った。
それから3人で豚のいる部屋に行いくと、先生が神職みたいな装束に着替えてて、
豚は前後の足をそろえて横向きで寝かされてた。で、腹の毛を剃ったところに、
息子の名前が大きく朱墨で書かれてたんだよ。先生は、「今からこの豚が息子さんです。
 さあ、ご両親は息子さんだと思って、名前を呼びかけてください」

こう小さな声でささやいたんだ。俺らが大声で豚に向かって息子の名を呼ぶと、
先生は「心を込めて、本当の息子さんだと思って」と励ますように言い、
夫婦で30分ほど続けたんだよ。医師が「そろそろ麻酔が切れるころです」
そう言って、さっき抜いた息子の血を注射器で豚の体全体にふりかけた。
先生が「むっ、来ますな」そしたら、豚の体がふっと10cmくらい宙に浮いて落ちた。
先生は大声で、豚に向かって息子の名を呼んだ。もちろん俺らも声かぎりにさけんだんだよ。
豚はドスンドスンと浮いては落ち、だんだんにその高さが高くなって1m以上になった。
それで宙に浮いたときに、豚の体がくしゃっとゆがんだんだ。
まるで目に見えない大きな手でつかまれたみたいに。
先生は「○○を連れて行かないでください!」と大声を出し、俺も女房もそれに合わせた。
そのときには豚は目を覚ましていたらしく、か細い鳴き声を上げたよ。

豚は宙に浮いたまま回転し、天井近くまで持ち上がった。
そして全身がガクガクと揺れて、そのまま下にドスンと落ちた。
医師が豚の首のあたりに触って「絶命しています。連れていかれたみたいです」
と静かに言った。先生は汗をぬぐいながら、「なんとか終わったようだ」続けて、
「ええ、この豚を連れていったのは息子さんが見つかった古墳の主ではありません。
 被葬者の霊はとうに消滅しているでしょうが、そこに何か悪い気が憑いたものでしょう。
 どうしてかはわかりませんが、あなた方の息子さんが気に入って、
 連れていこうとしたんです。ただ、下等なものですから、この程度でだまされて、
 豚の命を持って帰った。ええ、命を一つ取ったのですから、
 これ以上息子さんに手を出すことはできません。ただし、用心のため、
 もう奈良に息子さんと旅行するのはやめなさい」こんなふうに言ったんだよ。









 
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