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奇妙すぎるバイトの話

2017.10.30 (Mon)
これな、だいたい1年前の話なんだよ。
当時俺は無職でね、失業保険で暮らしてた。
リストラされてからなんもやる気が出なくて、パチンコばっか行ってたのよ。
で、その日も朝から大はまりして、
1回もあたりが来ないまま3時間たったわけ。
頭に来て席を立とうとしたら、少し離れたイスにいたやつが、
「アンちゃん、ついてないみたいだな。もう昼だから飯食いに行かねえか」
こう誘ってきたんだよ。それでいっしょに近くの焼肉屋に行った。
そいつは、そうだなあ年は30代かな。髪が床屋に行ったばかりみたいに
ビシっとしてて、いやに色が白かったのを覚えてる。
でな、焼肉屋でこんな話をされた。「ここんとこ、毎日来てるみたいだが、

 ツイてないようだな。パチンコ、少し休んでバイトしないか」って。
まあな、俺も金を失うばっかだったから、詳しい話を聞いてみたのよ。
そしたら、やるのは電話番で期間は2週間、バイト料は50万ってことだった。
2週間で50万って破格じゃねえか。クビになった前の仕事は
手取りで月18万だったんだぜ。こりゃ、なんかワケアリだって思うだろ。
そしたら「報酬がいいのは24時間拘束になるからだ」って言われた。
どういうことか聞いたら、「ある場所に2週間住み込んでもらう。
 寝るのも飯食うのもそこでするんだ。もちろんベッド、食い物は用意してある。
 そこには電話機が2台あって、片方に電話がかかってくるから、
 聞いた内容をもう一方の電話に復唱するだけだよ。簡単だろ。
 ただし、電話は夜中もかかってくる。まあそんなに心配するな。

 電話がくるのは1日にせいぜい2回程度だ。どうだ、やるか?」
でな、俺は少しだけ考えてうんと言ったんだよ。
その翌日、パチンコ屋の前で待ち合わせをして、そいつの車に乗った。
連れて行かれたのは、郊外にある廃工場みたいなところで、
そこの守衛室が仕事場だった。
古い木の机の上に今は見かけなくなった黒電話が2台、
それと仮眠用と思える簡易ベッド、あと大型冷蔵庫と電子レンジがあった。
ああそれから、スマホやパソコンを持ってくるのは禁じられてた。
退屈だって聞いてたから、本は何冊か持ってったけどな。
男は「こっちの右の電話がかかってくる専用。で、左の電話が連絡専用だ。
 0を回せば相手につながるようになってる。難しくはないよな。

 食い物は冷蔵庫に入ってるから、レンジで温めて好きに食ってくれ。
 それと、24時間拘束は気が滅入るだろうから、毎日10時から11時まで、
 自由時間にする。車の免許はあるんだろう?
 敷地にある車を使っていいから、好きな食いもんや本を補充してくればいい。
 ただし、外出時にテレビや新聞を読むのは厳禁だ。
 新聞は買うのもダメ。いいかな」
まあこんな説明をして出ていったんだ。こうして50万のバイトが始まった。
簡易ベッドで寝転がって本を読んでたら、その日の夕方4時過ぎ、
最初の電話がかかってきたんだ。受話器をとると、
男か女かもよくわからない甲高い声で、「シダテツハル、
 シダはこころざしに田んぼの田、テツは哲学の哲、ジはさんずいにムと口」

これだけ2回言って切れたんだよ。メモはとってもいいことになってたから、
俺はダイヤルの0を回してもう一方の電話にかけた。1度だけ呼び出し音がして、
受話器が取られたようだったが、向こうからは何も言ってこない。
それで、志田哲治ってのを最初の電話のとおりに復唱して、こっちから切った。
それで仕事は終了ってわけだな。こんなのは中学生でもできる・・・
ただなあ、どっから考えても変な話だろ。
何で俺が人の名前を中継しなくちゃなんないわけ?
直接やりとりすればいいじゃないか。だろ、それにそもそも何で電話なんだ?
今はファックスもメールもあるし・・・まあ、いくら考えてもわからないから、
考えるのはやめて一日中ごろちゃらしてたんだよ。
腹が減ったら冷蔵庫から冷凍食品を出して気ままに食いちらかしてな。

1日目にはその1回、2日目に2回、3日目は夜中の3時過ぎを含めて3回、
電話はかかってきて、たしか男の名前が4つ、女の名前2つを左の電話で伝えた。
んで、ここまで外出はしてなかったんだが、4日目さすがに飽きてきて、
駐車場の車を借りて10時に外出した。
雑誌を買い込んできたんだよ。車は古いがベンツだった。
あと、俺が外に出ている間に電話がかかってきたのかは
ちょっとわからない。こんなふうにして10日間が過ぎたんだ。
でな、11日目のことだったと思う。その日も自由時間に外出して、
街でラーメン食ってたんだよ。冷凍食品に飽きてたからな。
したらそのラーメン屋でラジオがかかってて、
東名高速で事故があったニュースが聞こえてきたんだ。

玉突き追突が起きて死者が4人出た。その名前と年令を読み上げたんだが、
そのうちの一人の名前に聞き覚えがあったんだよ。ああ、俺が3日前に
電話で聞いて連絡したのと同じだと思ったんだ。
まあ、そりゃ偶然の一致ってこともあるかもしれないが、
その名字のほうはけっこう珍しいやつだったから・・・
でな、なんか気味悪くなってなあ。変な想像が頭をよぎったんだ。
もしかして俺は、これから死ぬ人の名前を伝えてるんじゃないかって。
でもよ、その事故はあきらかに不可抗力で、同じ名前だったのは、
トラックが突っ込んだ2台先の車のやつだったんだよ。
だから俺は、変な考えを頭から追い払って忘れることにしたんだ。
その後も1日2回ほどかかってきたのを律儀に伝えて、いよいよ最終日になった。

その翌朝の6時でバイトは終わりだったんだ。
例の男が車でむかえにくることになってた。俺は50万が入ったらどう使おうか
考えてなんだか浮き浮きした気分になって、その日は遅くまで起きてた。
したら夜中の12時近くになって電話が来た。
で、内容がこうだった。「カワカミコウイチ、カワカミは縦棒3本の川に上、
 コウはたくみ、技巧の巧、イチは漢数字のイチ」
これを聞いて驚いた。なんでかって? それ、俺の名前なんだよ。
受話器を置いて呆然としてしまった。で、前の事故のニュースのことも思い出した。
ああ、左の電話に伝えてもいいかどうかを考えたんだ。
だってなあ気味悪いじゃないか。バイトに誘ってきた男にだって、
俺の名前は言ってないんだしなあ・・・

とにかく左の電話を回して伝えることは伝えたんだが、
ちょっとだけゴマカシたんだよ。
相変わらず音も立てない相手に向かって、俺はこう言った。
「カワカミコウイチ、カワカミは縦棒3本の川に上、
 コウは成功の功、イチは漢数字のイチ」・・・意味わかるかなあ。
俺の名は「川上巧一」なんだが、それを「川上功一」って伝えたわけ。
そしたら、俺が言い終った後、電話の向こうで「クススッ」って笑う声がした。
女の声だよ。それから「ズルしましたね」こう言って電話が切れたんだ・・・
それからは電話はなく、翌朝男がむかえに来てパチンコ屋の前に降ろしてくれた。
そのときに手が切れるような札で50万円入った封筒をもらったんだ。
以来、その男とは会ってない。パチンコ屋にも来なかったな。

でな、俺は自分の部屋に戻るとすぐにパソコンを立ち上げて、
それまでの2週間のニュースを調べたのよ。事故にあったやつ以外に、
俺が電話で中継したやつが死んだりしてないかどうかをな。
うーん、これがよくわからなかった。2週間で名前を中継したやつは、
だいたい30人くらい。メモは置いて帰れって言われたから、
そいつらの名前自体うろ覚えだったし、自然死とかだとニュースにはならないだろ。
だから何とも言えないんだよ。ただなあ、これ見てくれればわかるけど、
俺自身が事故にあったんだ。ああ、なんとか再就職が決まって、
朝にバス停でバスを待ってるとき、急にフラッとよろけて、
まだ停車してないバスの側面に頭をぶつけた。それであたりどころが悪くて、
左耳を持ってかれちまったんだ。髪で隠してるけどほら、こっちの耳がないんだよ。







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