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新人研修

2017.10.31 (Tue)
※ ナンセンス話です。

うちは不動産会社なんだよ、それは知ってるんだよな。でなに?
新人研修について話せばいいんだよな。いいけどもよ、言っとくがうちは
ブラック企業じゃねえんだ。給料は同業他社に比べりゃ悪かねえよ。
それに残業手当もきちんとつけてる。そういう意味では優良企業だ。
ただまあ、社員教育はスパルタだからな。そのことが知りたいんだろう?
ああいいよ、話してやる。うちは・・・3つの県にまたがって事業を展開してて、
営業所は全部で12ある。今年度は全社で4人、新入社員が入った。
で、そのうちの一人の教育係が俺だってわけね。
あ? テレアポ? 飛び込み営業? そんなありきたりの研修はやらねえよ。
そんなもんは黙ってても自然に覚えるだろ。
いいか、不動産業ってのは生き馬の目を抜く商売なんだ。

業務マニュアルなんてないし、あってもどうせ役に立たねえ。
物件も顧客も千差万別なんだよ。だからなあ、研修の主眼は「人生の厳しさ」
これを叩き込むことにあるんだ。うすらぼんやりしてたらたちまち野垂れ死に
しちまうこの世の中を泳ぎ切る覚悟を、まずは身につけさせるんだよ。
ああ、俺が担当したのはこの4月に大学を卒業した山本ってやつ。
背がひょろ高くて、髪型なんかも坊っちゃん坊っちゃんしたやつでな、
こりゃあ鍛えがいがありそうだって感じたね。
でな、まず最初にやったのは、うちで扱ってる物件に寝泊まりさせること。
そうすりゃ不動産屋が扱ってる商品ってものを肌で感じ取れるだろ。
うん、最初に連れてったのはアパートの1室だよ。
ここで3日間生活させるんだ。え、どんなアパートかって?

それをこれから話していくんだよ。夕方、俺は山本とそのアパートに着くなり、
ワゴン車に積んであった布団一式を運び込ませた。
家具なんかはないけど、アパートの中は清掃済みできれいなもんだ。
それでな、俺が布団を置く位置を決めて敷かせたんだ。
それからビデオセットした。ああ、山本がズルしないように、
寝てる様子を記録するためだ。ズルって何かって? 今にわかるよ。
山本には、自分で夕食をコンビニからでも買ってきてその部屋で食べること、
それと11時になったらビデオのスイッチを入れ、小さい灯りをつけて寝ること、
この2つを指示したわけ。やつは変な顔をしてたな。まあ当然だ、
こんな研修は他社ではやってない。質問をしたそうだったが何も言わなかった。
んで、翌朝、そのアパートを朝の8時に訪れたら山本はもう起きてた。

「どうだ、よく眠れたか」 「・・・はい、まあだいたい眠れたんですが、
 布団に入ってしばらくして、金縛りになりまして」 「それで?」
「体がピクリとも動かなくなって、指一本動かないし、目も開けられなかったんです」
「うん、それで」 「しばらくしたら、自分の顔を何かがこする感じがしたんです。
 上下に何回も、何回も」 「うんうん」
「これ何だろう? 変な感触だなあって思ってるうち、
 いつの間にか眠っちゃいまして」
「うんうん、予定通りだ。じゃあ次の司令を出す。今夜も金縛りになるはずだから、
 そんときに頑張って目を開けるんだ。それにはちょっとしたコツがいる。
 寝ながら吸う息と吐く息を意識して呼吸を整え、
 息を吐いたときにガッと力を入れて、まぶたをこじ開けるんだよ」 

「わかりました。やってみます」
まあこんなやり取りをして、この日の日中は得意先まわりに連れ回した。
で、いっしょに夕飯を食べ、夜の9時過ぎにそのアパートに戻ってきた。
「いいか、金縛りになったら朝言ったように目を開けるんだぞ。
 それと、何があってもこのアパートを逃げ出しちゃなんねえからな。
 お前はまだ試験採用期間中だってことを忘れるな。
 このビデオはお前が逃げたりしないように撮ってるんだから、いいな」
こう念を押し、俺は山本を残してアパートを後にしたんだ。
翌朝、また8時きっかりにアパートを訪れると、山本は頭まで布団をひっかぶって
まだ寝ていた。俺がそれをひっぱがすと、
山本は固く目をつぶってブルブル震えてたんだよ。

「こら起きろ!」俺が2.3発、顔にビンタをすると山本は半身起き上がって、
「先輩~~~」と情けない声を出した。「おい。どうだった、金縛りになっただろ」
「・・・はい」 「そんときちゃんと目を開けたか?」 「・・・・はい」
「よし、じゃあ何が見えた?」 「・・・足の裏です。両足の足の裏が垂さがってて、
 それが自分の顔を往復でなでてたんですよ」 「そうか、上出来だ!」
「え?」 「じゃあ第3段階に入る」俺はそう言って、山本に布団の位置を直させた。
ああ、敷いてる場所はそのままで、頭と足の位置を逆にしたんだ。
「何でこうするんですか?」 「いや、その足の裏ってのが何か、
 お前に全容を知らせるためさ。いいか、何があってもこの部屋を逃げ出すなよ。
 そしたら解雇だからな。必ず朝までここにいろよ」
こう念を押してから、山本に着替えさせ、

その日は会社のデスクで不動産用語辞典を読ませておいた。
でまた夕方になって、いっしょにそこのアパートに行ったわけよ。
それから9時ころまでいろいろ話をして、俺はアパートを後にしたんだ。
翌朝、また8時に行ってみると布団に山本の姿がなかった。
部屋のすみで膝を抱えてガクガク震えてたんだな。
「おい、どうだった?」 「先輩~~ 勘弁して下さいよもう~~」
「ダメだ、これは大事な研修の一環なんだから。昨夜、何があったかちゃんとしゃべれ」
「・・・また金縛りになったんです。
 それで、先輩に教わったとおり目を開けたら・・・
 足元で寝間着を着たジイさんが首を吊ってたんですよぉ~~。
 1日目と2日目に自分の顔をなでてたのは、そのジイさんの足の裏・・・」

「よしよし、それでどうした」 「それ見た瞬間に逃げ出そうと思ったんですが、
 体は金縛りで動かなくて・・・ 目も閉じられなくなっちゃたんです」
「うんうん、それで」 「そしたらです、がっくり首を垂れてたジイさんが
 急に頭を起こしてカッと目を見開き、自分のほうをにらみつけて、
 『苦しい恨めしい・・・』って言ったんです。覚えてるのはそこまでで、
 怖さのあまり気絶してしまい、気がついたら朝になってて・・・」
「よーし、上出来だ。この部屋はな、じつは事故物件なんだ。
 ワケアリ物件とか瑕疵物件、要告知物件とも言う。
 お前が見たのはここに住んでたジイさんの幽霊だよ。
 ジイさんはな、子どもはいるんだが遠くに離れてて、ここで一人暮らしをしてたが、
 オレオレ詐欺にひっかかってなけなしの貯金を取られて、それで自殺したんだよ」
 
「えええ、そんな部屋に自分を泊まらせるなんて・・・」
「馬鹿野郎! それこそが研修の骨子なんだ。お前、ジイさんの姿を見て何を感じた?」
「いや、怖くて・・・」 「怖いのはあたり前だ、それ以外には?」
「・・・物悲しいなあとか・・・」 「悲しい? クソ野郎! ここで必要なのは
 軽蔑の感情だ。わかるか、ジイさんは敗残者なんだ。お前はああなりたいのか?」
「いいえ」 「だろ、これから人生の先は長い、俺らは戦って戦って、
 勝っていかなくちゃならないんだ。あのジイさんの姿は反面教師なんだよ」
「・・・はあ」 「なんだ気のない返事だな。まあいい、これで研修の第一課程は終了。
 次は一軒家の物件に住んでもらう」 「・・・それってまさか」
「そうだよ。そこも事故物件だ。夫婦と子ども2人、たいそうなローンを組んで 
 念願のマイホームを建てたものの、旦那がまだ40代前半でリストラされちまってな。

 それを悲観して、子どもらを絞殺、奥さんは刺殺の一家心中」
「ひええええ、そこも出るんですか?」 「ああ、もちろん4人分出る」  
「もう、勘弁してくださいよう」 「ダメだ、この研修は俺も新人の頃にやった。
 こここのアパートもその一軒家も、新人研修のためにわざと売らずに残してあるんだ。
 いいかよく聞け、リストラされたオッサンは人生の敗残者だ。
 そんなのを伴侶にした妻も同じ。まあ子どもらはかわいそうだけどな。
 この研修の目的は、お前に人生の荒波ってものを思い知らせ、
 他人を押しのけてでも生きのびてやるっていう気力を植えつけるものなんだ。
 わかったか。なあ、うちの会社って、社員みなバイタリティがあるだろ。
 それも全部、この研修のおかげなんだよ。さ、理解したらその一軒家に出かけようか。
 前使ってから1年ぶりだから、まずは掃除からやらなくちゃな」
 








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