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妻女石の話

2017.11.03 (Fri)
※ ナンセンス話です。

地元の国立大学に合格した発表の夜のことでした。
親父が「ちょっと話がある。大事なことだ」って、僕を夕飯後に書斎に呼んだんです。
で、てっきり大学に入るにあたっての心構えとかを聞かされると思ってました。
ところが、それが違ったんです。「お前、魚石って知ってるか?」親父がこう言い、
僕は首を振りました。「それはな、一見、どこにでもあるような緑っぽい
 石っころなんだが、じつは中に水が入っていて、ごく小さな金魚がすんでる。
 もちろん外からは見えない。これを丁寧に根気よく磨いていくと、
 だんだんに石が透きとおるようになっていき、破れて水が出る一歩手前までくると、
 中の金魚が石の外から見えるようになる。でな、その金魚を見ると長生きができる」
「父さん、それおとぎ話かなんかだろう。だって、酸素がないのに石の中の
 金魚が生きてられるわけないじゃない」僕がこう返すと、

親父は少し笑って「そうだ。これは中国の古い伝説。しかしな、これはお前の将来に
 関係があることなんだ」こう言い、続けて「お前、高校でモテなかっただろう?」
って聞いてきたんです。僕は少しムッとしたんですが、親父の言うとおり、
学校では全然モテなかったんですよ。というか女の子たちに避けられてるような感じで、
僕が近づいていくと、女の子たちはフイっと場所を移動したりして。
だから満足に話をしたこともありませんでした。でもそれ、僕的には、
どうしてそうなるかの心あたりがまるでなかったんです。「・・・まあね」と僕が言うと、
親父は「それなあ、お前のせいじゃなくて、うちの家系に伝わる呪いなんだ」
こんなことを言い出しました。最初はふざけてるのかと思ったけど、
親父は真顔だったんです。「詳しいことは言えない、というか、もはやわからない。
 とにかく遠い先祖が何かをしたことによって、わが家の長男、跡継ぎには、

 女にモテない呪いがかかってるんだ」
「じゃあ妹は大丈夫なの?」 「まあそうだが、あいつに婿をとることに決めたら
 とたんにモテなくなる。不思議な事だがそうなってるんだ」
「・・・・でも、父さんは母さんと結婚できたじゃない」僕が言い返すと、
「うん、そこで魚石なんだよ。ただし、金魚が入っている石じゃない。
 妻女石といってな、将来、自分の妻になる人が中に見える石なんだ、どうだ信じるか」
それで僕は「無理・・・」って答えたんです。親父は、
「まあそうだろうな、俺も最初はそんなことまるで信じられなかった。だが、
 これを信じないと、お前は一生結婚できないし、ここでわが家系は絶えることになる」
「じゃあ母さんも、その石の中に顔が見えたの?」 「そうだ」
「うーん、そんな石があることが、そもそもどうやってわかったの?」

「いい質問だ。それはな、呪いが発動した早い時期に、先祖の一人が地域の拝み屋から
 呪いの対抗措置として聞いてきたものなんだな」
「でも、その石ってどこにあるの? 父さんが持ってるのか?」
「いや、そうじゃない。石は一人ひとりが自分で見つけなくちゃならないんだ」
「どこで、どうやって?」 「それを今から教える」
親父が言うには、うちの家系が代々住んでいた田舎の地には、
一本の渓流が流れていて、その水源地の岸辺に小さな石造りのお堂がある。
そこに一晩こもって ある呪文を唱え、朝日が上るのと同時に渓流を下って、
青か緑の石を探していく。そのうちに手で握ると全身にビビっと電気が走ったように
感じられる石があるので、それを布に包んで持ち帰る。
あとは毎日、丁寧に少しずつ磨いていく。

そのうちに石の中にある女性の顔が見えるようになり、
そうすると遠からず出会いがあって・・・ということなんだそうです。
でね、春休みの中の一日、親父の車で故郷の町まで行き、渓流をさかのぼって
お堂のあるところで降ろされました。「こっからは一人で頑張れ、
 明日の夕方むかえにくる」親父はそう言って僕に呪文を教えて帰っていき、
僕は両開きの戸を開けてお堂に入ったんです。ええ、そこで一晩、
眠いのをガマンして、聞いたばかりの呪文を唱え続けたんですよ。
朝になったときには、寝不足でフラフラになってました。それから、
雪のない地方でしたけど、まだ3月の身を切るような渓流にゴム長で入って、
目をこらしては緑っぽい石を一つずつ拾い上げ、手で握りしめて確かめたんです。
それが4時間ほど続き、距離にして600mくらいですか、

渓流を歩いたとき、文鎮にできるような丸い青い石があり、拾って握りしめたとき、
たしかに全身にビビビビッと電気が走るような感じがあったんです。
僕はこれだ!と思って、用意してきた袋の中に入れました。
家に戻ってから親父に見せると「父さんにはわからない。自分の石は自分にしか
 特別な感じはしないんだ。ただまあ、それで間違いないだろう。
 明日からはとにかく、時間があったらそれを磨くんだぞ」
こう言って、石を磨くための布や紙やすりを用意してくれたんです。
4月になって大学の入学式があり、同じ研究室には女の子も多かったんですが、
やはり全然モテませんでした。向こうからは話しかけてこないし、
僕が話しかけようとすると、みな変な顔をして離れていくんです。
高校のときとまったく同んなじでした。

まあ慣れてはいたんですけど、やっぱり悲しいですよね。
それで、僕は空いていいる時間は空き教室なんかで、持ってった石を布で磨いてたんです。
そしたらたちまち、変人だという噂が広まって、
男の友だちすらできないから、コンパなんかにも誰もさそってくれなくなりました。
でも、その頃には、だんだん石を磨くのが面白くなってきていました。
ええ、磨くと表面がつやつやになって、いっそう青さが増すように感じられて、
紙やすりで削っては布でこするのをくり返していると、
石の形もだんだん球に近づいていったんです。
そうしているうちに秋になりました。その頃には石は2まわりほど小さくなって、
もう宝石かと思うくらい輝いてました。で、その日も、
学食の横のベンチで石をこすっていると、

その表面にぼうっと、女の子の顔が浮かんだんですよ。
前髪を切りそろえた、少し鼻と目が大きい、純朴そうに見える子でした。
そしてそこの子は口を開き「まあ、きれいな石」って言ったんです。
でもその声は背後から聞こえたので、振り返ると、
かなり小柄な女の子がベンチの後ろからこちらをのぞき込んでて、
「いつも石、磨いてるよね。それ趣味なの? わたしもやってみたい」
彼女はそう言ったんですよ。
・・・ええ、それをきっかけにしてトントン拍子に交際が進んでいって・・・
とうとう彼女と学生のうちに婚約してしまいました。
ええ、将来の伴侶としてどうしても手放したくはなかったので。
はい、石に妻の顔が写ったのはそのとき1回だけでしたよ。

石はどうなったかって? それはですね・・・
じつはその後もずっと磨いてたんです。何でかというと、同じ質問を親父にしましたら、
「うん、あれは母さんの指輪になってるよ。
 あそこまで小さくするのは大変だったんだぞ」って。
たしかに、そう言われれば母の指に緑のきれいな石の指輪がはまってるのを、
小さい頃から見てきました。でね、僕も親父にならって、
石はその後も磨き続けたんです。それで大学を卒業して1年ほどで、
指輪にしてもおかしくないだけの大きさになったので、
結婚式を挙げました。まあこんな話なんです。
そうですね、今となっては呪いとやらに感謝してますよ。
というか、これって呪いじゃなくて何かの祝福だったんじゃないんですかねえ・・・

ガラス作家 増永元氏の作品







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