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祖父の守りの話

2017.11.14 (Tue)
去年の秋に82歳で亡くなったうちのジイちゃんの話をするよ。
前の年までは元気で病気一つしたことがなかったジイちゃんだったんだが、
春ごろから、なんだか体がだるいって訴え始めてね。
それで、両親が病院に連れてったら、何日も検査をして、
膵臓がんってことがわかったんだ。それも他の内臓にも転移してる、
いわゆるステージ4の末期がんってやつ。当然、手術もできないし、
治療法は抗がん剤しかなかった。でもね、抗がん剤やったからって、
がんが治るってことはないんだってね。
ただ、いくらか寿命が延ばせるかもしれないって程度。
でね、医者はジイちゃんにがんを告知したんだよ。「余命は半年程度でしょう。
 抗がん剤という選択肢はありますが、副作用でかなり苦しむことになります。

 ですから、その治療はしないで、緩和ケアだけにするという方法もあります。
 そのほうが残された生活の質は保たれるでしょう。どうなさいますか」
って具合に。うん、今は昔と違って、
がん だってことや、余命もきっちり本人に話すみたいだね。それでジイちゃんは、
「わしはもう歳だし、十分生きたから」って言って、
積極的に治療することはしなかったんだよ。
うちの両親もジイちゃんの意思を尊重した。それからはときおり通院しながら、
庭いじりなんかをやってたんだが、6月に入ったところで、
孫の俺たち兄弟をジイちゃんの部屋に呼んだんだ。
あ、俺は今、高校2年だけど、双子なんだよ。いちおう俺が兄ってことになってる。
それともう一人、中2の弟の3人兄弟。

でね、その3人を前にして、ジイちゃんはこんな話を始めたんだ。
「お父さんお母さんに聞いてるだろうが、わしはもう長くない。
 まあ死ぬのはべつに怖くはないが、心残りというか、心配なことが一つだけある。
 庭のお堂があるのはわかるよな」・・・このお堂というのは、
俺が物心ついたときにはすでに庭の一角にあって、
大きさは50cmくらいの小さな石造りのやつ。ジイちゃんが朝夕に灯明や
お酒をあげたりしてたのは3人とも知ってた。
「あのお堂な、じつはなあ、ある呪いを封じるためにあるんだよ」
「呪いって?」俺が質問するとジイちゃんは、少し恥ずかしそうに笑って、
「それはなあ、ジイちゃんの若いころにかかわることなんだが、
 ちょっとお前らには言うことはできない。お前らのお父さんお母さんも、

 詳しいことは知らないんだよ。まあ、あのお堂があることによって、
 この家が災いから守られてたと思ってくれればいい。
 だがなあ、わしも病気になってしまって、いよいよ決着をつけなければならん
 ときがきた。それをお前らに手伝ってほしいんだよ」
こんな話をされて、俺ら3人は黙ってうなづいたんだ。
で、最初にジイちゃんが俺らに命じたのは、
家の縁側から続く庭の部分の庭木を全部掘り返すことだったんだ。
そしてそこに池をつくるように言われた。といっても俺らは高校生だから、
池の造り方なんてわからない。全部ジイちゃんが買い物から何から指示して、
土を掘ってコンクリを流し、石でまわりを囲うとこまでやったんだ。
それからできた池に水を張っては捨てをくり返し、

コンクリの毒気がなくなったところで、ペット屋から買ってきた安い金魚を
200匹くらい入れた。これは俺らにしれみれば、けっこう面白い作業だったな。
ただ、期間は夏休みいっぱいかかった。
で、夏休みが終わるころに、ジイちゃんの体調が悪くなって、
布団に寝つくことが多くなった。医者は入院を勧めたけど、
ジイちゃんは「まだ孫たちに手伝ってもらってやることがあるから」
そう言って、入院しようとはしなかったんだよ。
ジイちゃんは、布団の中から俺らに指示して、次は池の中にお堂を移すことになった。
これは大変だったよ。いくら小さいとはいえ、石造りのお堂は百kg以上あったからね。
お堂は前面に扉がついてたんだが、それを表通りに向けるようにして、
なんとかかんとか池の中にすえつけることができた。

で、ジイちゃんの容態はいよいよ悪くなって、ついに入院することになった。
その病床で、ジイちゃんは俺ら3人にこういう指示を出したんだ。
「わしもいよいよお迎えが近い。こっからが大事だからよく聞いてくれ。
 まず、3人で順番を決めて、池の中のお堂に朝夕、ロウソクをあげてくれ。
 それから、わしが死んだら、やつがいよいよ家までやってくるだろうから、
 やっぱり3人で交代交代で寝ずの番をして、あのお堂を見張っててくれ。
 お前ら、勉強もあるだろうし大変だと思うが、長い期間になることはない。
 なんとか頼む。それでもし異変があったら、わしの火葬のときにお骨といっしょに
 出てきた古銭をとっておいて、お堂に振りかけてくれ。
 それで終わりになるはずだ。このことはお前らの両親にもちゃんと話してある。
 あとは、全部終わったらお堂の扉を開いて、中の物を焼き捨ててくれればいい。

 それが済んだら、お堂はもう壊してもかまわないよ」
こんな内容だった。それから3日してジイちゃんは意識がなくなり、
本人の前からの希望で、人工呼吸器などはつけず、
それからさらに4日して、眠るように亡くなったんだよ。
ジイちゃんの葬式があり、父がジイちゃんのお棺に何やら重そうな紙包みを入れて、
火葬になった。で、お骨拾いのとき、ジイちゃんの遺骨に混じって、
たくさんの古い硬貨が熱で変形して出てきた。
父が、「ジイちゃんに言われてるんだろう」
そう言って、俺らにその古銭を持たせてよこしたんだ。
その日から、俺、双子の弟、下の弟の順番で、夜に池の中のお堂を見張ることにした。
ずっと寝ないで、2階の窓から庭を見下ろしていたんだ。

ジイちゃんの言ったとおり、長くはかからなかった。
見張りを始めて2日目、夜中の2時ころに双子の弟が俺を起こしにきた。
「アニキ、起きて、池のお堂の前に何かいる」廊下の窓から見下ろすと、
お堂の正面に向かうように、白いものがうずくまってた。
人・・・女の人のように見えた。「古銭、用意してるか」 
「大丈夫、今、持ってる」 「よし、外に出よう」俺と弟はパジャマのまま、
そっと玄関を出て池のほうを見ると、ボロボロの白い服を着たザンバラ髪の女が、
両膝をついてかがみ込み、池に口をつけて水をごくごく飲んでたんだ。
その姿を見たとき、背筋がぞくぞくっとした。弟は無言で2・3歩その女に近づき、
握りしめていた古銭をお堂と女の背中に叩きつけた。
そしたら、ずるっと蛇のような動作で女は池の中に落ち、

そのまま消えてしまったように見えた。家の中に戻ると、
父が起きていて「終わったんだな」ってひとことだけ言った。
翌朝、池を見に行くと、水の色が青黒く変わってて、
底に古銭が散らばってるのが見えた。それから、200匹もいた金魚は、
全部死んで腹を出して浮いてたんだ。
次の土曜日、両親と俺ら3人でお堂の扉を開けてみた。
そしたら中には古いアルバムが2冊入ってたんだが、どっちもページ全部が
固く糊づけされてて開くことができなかったんだよ。
無理に開けることはしないで、そのまま庭で焼いた。まあこういう話なんだ。
いや、それからは特におかしなことは何も起きてない。ジイちゃんとあの女の関係、
呪いのことは、まったくわからないままだよ。








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