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古墳の電気霊の話

2017.12.16 (Sat)
今年の夏休みの話です。古墳の発掘の手伝いをしていたんです。
あ、僕は学生で、地元の国立大学の人文学部で考古学を専攻してるんです。
ええ、専攻科の1・2年生はほとんど強制的に参加させられました。
3年生以上は自由参加だったんですけど、もうすぐ就職活動が始まるし、
僕は、いい思い出になるだろうと思って自主的に加わったんです。
この発掘は計画的なもので、地元では15年ぶりのことでした。
はい、発掘調査には緊急調査と計画調査があって、
全体の9割以上が緊急調査です。これは道路工事や家屋、工場を建てる際とかに、
地下から遺跡が出てきたときにやるもので、文化財保護法で決められてます。
比較的新しい時代の遺跡が多く、調査が終わった破壊されてしまうことも多いんですね。
でも、今回参加したのは計画調査で、県や市の予算を使って計画的にやるんです。

調査対象は市の郊外の山の麓にある60m級の方墳でした。
古墳というと、鍵穴みたいな形の前方後円墳を思い浮かべる人が多いと思いますが、
方墳というのは正方形の形をしています。
時代としては5・6世紀頃のものが多いようですね。
その古墳は地元では「にえご塚」って呼ばれていました。意味は不明です。
地元の人でもわからないようで、かなり昔から言い伝えられていた名称のようです。
発掘は、まず上にある樹木などをすべて伐り倒し、それから綿密な測量をします。
重機を使って一定の深さまで表土をはがし、あとは遺跡全体を碁盤の目に区切って、
ほとんど手作業で発掘していくんです。
でね、3日目に横穴式石室の入り口が見つかりました。
中は未盗掘で、小ぶりの石棺が出てきたんです。

はい、残念ながら中には遺体はありませんでした。朽ちてしまってたんです。
ただ、被葬者のものと思われる爪が何個か見つかりました。
あと、副葬品はほとんどなかったですが、棺の中に青い管玉がありまして、
これは古代の装身具です。ええ、それで被葬者は女性かもしれないです。
でね、僕は夜間警備を担当していたんです。古墳の横に建てたプレハブに泊まり込んで、
夜間に異常なことが起きないか見回る役目ですよ。
同じ専攻科の2年生と2人でやってまして、いくらかバイト料ももらえたんです。
警備といっても、侵入者なんて来るはずがないですよ。
田舎だし、大学で調査してることは周囲の人はみな知ってますから。
だから見回りのときには、古墳内部のものが崩れ落ちたりしてないか
確認するのことが中心でしたね。

それで、泊まり込むようになった2日目のことです。発掘は6時前には終わりまして、
その後、10時、2時、朝の6時と3回見回るだけです。
それ以外の時間は仮眠をとったり雑誌を読んだりしてればいいんで楽なもんでした。
でね、その日の午前2時前、ソファでうとうとしていたのを後輩に起こされまして、
懐中電灯を持って見回りに行ったんです。
怖いなんてことはなかったです。けっこう明るいですからね。
はい、自家発電をしていて、あちこちにスポットライトがつけられてたんです。
古墳の内部も終夜 照らされてました。2人で外を見回りましたが、異常なし。
1辺が60m程度の方墳なんで10分もあれば回れるんです。
それから入り口の石を取り除いてシートをかけてある石室の中に入っていきました。
真夏でしたが中は気温が低く、ひんやりしてましたね。

石室といっても、奥行きが8mくらいですか、せまいもんです。
ひと目見て異常がないのはわかりました。いちおう奥までいって、
さあ戻ろうかとしたとき、後輩が地面にある石にけつまずいてよろけたんです。
それで転ぶまいとして石壁に手を伸ばし、
外から引いてある自家発電の電線をつかんじゃったんです。
ええ、簡単に設置してあるだけですから、電線は大きくたわんで、
上から吊るしてある照明灯が激しく揺れたんです。
それから、ちょうど蓋をのけた石棺の上にあったやつが、
電線がついたまま石棺の中に落下して、パリンとガラスが砕ける音がしました。
「ああ、ヤバイ」と思いました。でも暗くはなりませんでした。
照明灯は他にもあったし、僕らも懐中電灯を持ってましたから。

「あーあ、何やってんだよ」僕がそう言って、石棺に近づき、
電線をつかんで照明灯を引っぱり上げようとしました。そのときです。
石棺の上でバチバチバチと弾けるような強い音がして、緑色の電光が立ち上ったんです。
うーん、うまく説明できないんですが、クリスマスのイルミネーションってありますよね。
街路樹なんかを飾るやつ。あれの強烈な緑色のやつが石棺の上でチカチカ光ったと言えば
一番近いかもしれないですね。「あ、危ない!」僕は持っていた電線を離し、
バチバチいう音はますます強くなって、緑の電光はまぶしいほど強くなりました。
そしてですね、その光の中に女の人の姿が浮かんだんです。「え、え、え?」 
女の人も全身緑色で、埴輪なんかで見るような古代の服装をしてるようでした。
若い・・・たぶん10代、現代なら中学生くらいに見えました。
女の人は緑の顔に苦悶の表情を浮かべてて、こちらを向いたまま叫んだように見えました。

ええ、声は聞こえなかったです。ただ、バチバチという音が強くなって、
それからテレビを消すようにブツッと消えたんです。
僕らはしばらく呆然としていましたが、ややあって僕が「今の見たか?」
って後輩に聞きました。「ええ、緑の光ですよね。すごかったですね」
「光の中に女の人がいただろ」 「え、女? いや、見ないです。光だけですよ」
こんな会話をしましたが、女の人の姿を見たのは僕だけのようでした。
それで、そのときは幻覚を見たのかと思っていちおう納得はしたんです。
石棺内のガラスなんかを片付けなきゃと思ったんですが、
感電したら危険だし、相談して自家発電の電源を落とすことにしました。
朝になったら、発掘責任者の教授にわけを話して謝ろうと考えたんです。
プレハブ小屋に戻ってきて朝を待ったんですが、僕は頭が痛くなってました。

それと、キーンという音が耳の奥で鳴っていて、いつまでも消えなかったんですよ。
6時の見回りのときはもう明るくなっていて、籍室内は懐中電灯だけで十分見えました。
照明灯は石棺の中に落ちたままで、危険な様子はないようでした。
8時になって、市の責任者や大学の教授陣が来たんで、
後輩と2人でわけを話して謝りましたが、怒られることはなかったです。
「片付けはこっちでやっておくから」と言われて、僕らは帰ることにしました。
幸い、その後輩が車で来ていたんで、市内にある僕のアパートまで送ってもらったんです。
アパートに着いてジャンバーを脱いだ時、背中にチクッとした痛みが走りました。
手で触ってみると、小さく鋭いガラス片がありまして、
ああ、昨夜、照明灯が割れたときに背中に飛び込んだんだろうって思いました。
つまんでゴミ箱に捨てようとしたら、そのガラスが緑色に光ったんです。

はい、そっから、石室内で見た緑の光が野球のボールくらいの大きさになって、
部屋中を飛び回ったんですよ。バチッバチッという音が強くなって、
頭が割れるように痛くなりました。緑の光の球はアパートの壁で何度も跳ね返り、
最後に部屋の小型テレビの液晶画面に飛び込んだんです。
そしたら、スイッチを入れてなかったテレビがぼうっと光ました。
でね、映ったんですよ。石室で見た女の人の顔です。
胸から上が大写しになっていて、やはり十代前半くらいに思えました。
女の人は緑に染まった歯をむき出しにして、テレビの中で叫びに叫んでいました。
僕はよろけてベッドに尻もちをついたまま、ずっとそれを見ていたんです。
・・・どれくらい時間がたったでしょうか。
バチバチいう音がおさまり、それとともにテレビ画面の女の人の姿も

だんだんに薄くなっていって、ついには消えてしまったんです。
そのとき、残念だって思いました。もっとその人のことを見ていたかったって・・・
変な話ですよね。そのときの古代人に見える女の子に恋をしたなんてことじゃないです。
僕には彼女もいますし、そんなんじゃないんです。ただ・・・
それで、古墳のほうなんですが、重大な発見があったんです。
ほら、照明灯が落ちた石室内ですね。人体が朽ちたものが土となって残ってたんですが、
その中から鉄製の矢じりが見つかったんです。これは考古学用語で鉄鏃って言います。
で、はっきりとはわからないんですが、石棺の被葬者が生前に射ち込まれたものじゃないか、
って推測されているんです。はい、矢を胸のあたりに射込まれた後に、
石棺に葬られたってわけです。生贄・・・そこまではわかりませんけど、
あの大きく口を開けて叫んでいる顔は忘れられませんよ。まあこんな話なんです。









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