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肉の家の話

2018.01.05 (Fri)
これ、俺が小学校から中学校にかけてのことだから、今から30年ちかく前の話だよ。
その頃、俺は田舎に住んでて、小学校は学年2クラスしかなかった。
その小学校はすでに廃校になってる。でな、同じ学年に種村ってやつがいたんだ。
家もわりと近くだったから、ふつうは幼なじみとして遊んでるはずだけど、
俺がそいつといっしょに遊んだ記憶は小学校以前から中学校まで一切ないんだ。
まあ、体が弱かったから、学校に行く以外は外に出ないで家にこもってたんだと思う。
他のやつらには、種村だから「たねぼん」って呼ばれてた。
体が小さくて髪が坊ちゃん刈りだったから、イメージぴったりだったな。
で、すげえ無口なやつだったんだ。小学校6年間でたしか4回同じクラスになったが、
口を聞いたのは数えるほどしかないよ。自分からは絶対に話しかけてはこなくて、
俺が何かしゃべっても、「ああ」とか「うん」とか言うだけ。

他のクラスメートとも同じだったよ。要するに、いるかいないかわからないような
やつだったわけ。勉強はふつうにできたけど、
体育は体が弱いせいか見学してることが多かったな。
あと、給食を食べなかった。いつも家から弁当を持ってきてたんだ。
肉アレルギーだってことだった。どんな肉も一切ダメで米と野菜しか食べられない。
ああ、弁当の中身は見たことがあるよ。野菜の煮物やプロッコリーなんかが、
きれいに詰められてた。それを弁当のフタで隠すようにして、
いつも恥ずかしそうに食べてたっけ。でな、中学生になったんだが、
中学は町に一つで、3つの小学校から生徒が集まってくる。
俺のいた小学校はその中で一番小さかったから、
中1のときは知らないやつが多くてかなり緊張したのを覚えてる。

まあでも、俺はバスケ部に入って、友達もできてだんだんに慣れてったけどな。
で、2年のクラスでたねぼんといっしょになったんだよ。
相変わらず体が小さくて、小学校中学年といってもとおりそうだった。
あと無口なのも変わってなかった。そんなだから、あからさまにいじめられてなくても、
何かにつけて軽んじられて、掃除のときなんかは嫌な仕事を押しつけられたりしてた。
昼は小学校のときと同じで一人だけ弁当だったよ。それと、今思い出したが、
給食当番の仕事がなぜか免除されてたんだよな。もしかしたら、
盛りつけをするときなんかの肉のにおいなんかもダメだったのかもしれない。
でな、秋に体育祭があって、そのときはクラス全員が弁当で外で食べたんだ。
たねぼんは木の下で、いつものように一人で食べてたんだが、
ほら、弁当のときはおかずを交換したりってのをやるじゃない。

で、クラスの不良っぽいやつが何人か、たねぼんのところに行って、
一人が、たねぼんの弁当の中身と自分のウインナーを交換しようとしたんだよ。
まあ、たねぼんが肉を食えないのを知ってての嫌がらせだよな。
これも今にして思えば、そのときはたねぼんが珍しくクラス対抗の全員リレーに出て、
走るのが遅くてかなり遅れ、俺らのクラスがビリになったのを怒ってたのかもしれない。
たねぼんは、そいつが爪楊枝に刺したウインナーを見て、ただ黙って首を振って。
それでそいつがますます怒って、たねぼんのアゴをつかんで、
口に無理やりウインナーを押し込んだらしいんだ。
いや、俺は見てたわけじゃない。後でそいつからここまでの話を聞いたんだよ。
「うわ~~~」という悲鳴が上がって、そっち見たら、たねぼんが草の上に倒れてたんだよ。
それが、仰向けの状態で、ブリッジするみたいに体がエビ反りになっててな。

「うわー、うわー」って大きな声で叫んでたんだ。
それからビョンと跳び上がり、たねぼんは四つん這いになって走り出した。
ありえないような速さでな。まるで犬が走ってるみたいだった。
みなが驚いて見ている中、たねぼんはグランド中を四つん這いのままジグザグに走り回って、
先生方も止めることができなかったんだよ。たねぼんは俺の近くも通ったが、
そのとき、口を大きく開けてよだれを垂らしてた。
あと、目がどっちも白目になってたような気がする。で、たねぼんは5分近くも走り続け、
無理やりウインナーを食わせたやつのに近づいて、首に噛みついたんだよ。
さすがに先生方が集まってきて引き離したから、
そいつは血も出なかったし、たいしたことはなかったんだ。
引きはがされたたねぼんは、横向きに倒れて、体をひくひくと痙攣させてたな。

俺が近寄って見にいくと、たねぼんの顔から手から、服から出てるところが
すごい蕁麻疹が出てぼこぼこに腫れてるのがわかった。そのうちに救急車が来て、
たねぼんは病院に運ばれていったんだよ。翌日、担任から話があって、
たねぼんはひどいアレルギーでしばらく休むってことだったんだ。
で、それから3日くらいして、担任から、たねぼんの家にたまったプリントを
届けるように言われた。どうやら入院はしておらず、自宅にいるみたいだった。
俺が一番家が近いということだったが、家の場所がわからなかった。
その日は部活がなくて帰ったのが4時ころ。家にはじいちゃんしかいなかったから、
じいちゃんにたねぼんの家の場所を聞いた。じいちゃんは「種村・・・さんか。
 そのうちは裏山の中腹にあるが、お前何しに行く? 学校のプリントを届ける?
 ・・・そうか、じゃあそれ渡したらすぐに戻ってくるんだぞ」

こんな調子で、なんだか俺が行くのを心配してる感じがしたんだ。
「種村さんて、仕事何をしてるの?」こう聞いてみたら、じいちゃんは、
「昔は馬をたくさん飼ってたが、今は何してるかわからん。
 まだ家の前には大きな馬小屋が残ってたはずだがな」そんなふうに言ってたな。
で、裏山の坂をのぼって、言われたとおりに横手の道に入ったら、
古くて大きな屋敷があったんだよ。高い塀についてるでかい門のインターホンを押したら、
しばらく雑音があって、「・・・誰ですか?」って子どもの声がした。
たねぼんの声だと思った。用件を言うと「開いてるから入ってき」
戸を引いたら、きしみながら開いた。それで一歩中に入ると、すごい生臭い臭いがした。
動物の臭いとも似てるようだが違う。俺は吐き気をこらえながら玄関まで歩いてったんだ。
右手のほうに、馬小屋らしいかなり大きな建物があった。

で、急にその馬小屋の戸の片側少しだけ開いて、小さな人が出てきたんだ。
たねぼん・・・だと思ったが、顔も手も包帯でぐるぐる巻きになってた。
そいつは、ややくぐもってるものの、たねぼんの声で、
「プリントがあるならよこし。もうすぐ、お父さんが帰ってくるから
 早く戻ってけれ」早口でそう言ったんだよ。かなり暗くなってきてたし、
俺も気味悪くなって、プリントの入った封筒を手渡して戻ろうとした。
そのとき、ギュリン、ギュリン、ギュリンという機械の音が馬小屋の中から聞こえてきた。
「あ、いけない」たねぼんはそう言うと小屋に戻っていこうとしたが、
小屋の戸口の低いところから何かが頭をのぞかせたんだ。
人間・・・・なのかどうかわからなかった。髪はまばらで、
体育祭のときのたねぼんのように、顔中が親指くらいのできもので覆われてた。

その生き物が出てきたら、生臭い臭いがいっそう強くなった気がした。
地面から50cmくらいの高さだったから、這った状態で戸口から頭を出したんだと思う。
たねぼんはそれの頭を「こらあ!!」と叫んで蹴りつけたが、
小さな体には似合わない力がこもってた。そいつは「ギャン!」と鳴いて引っ込み、
たねぼんは俺のほうを見もしないで小屋に入ってったんだ。
中でギャリン、ギャリンという機械の音が激しくなり、
俺は小走りになりながら門から走り出た。すると、
坂道を1台のトラックが上ってくるのが見えたんだ。せまい道だったので、
山側によけたら、トラック・・・今にして思えば冷凍車だな。
それがすぐ横を通り過ぎていったが、車体の横に小さく「種村畜業」って書いてあった。
まあ、これでほとんどの話は終わりだよ。

たねぼんはそのまま学校には復帰せず、2週間くらいたって、
担任が転校しましたって言った。まあ、いてもいなくても影響のない存在だったから、
たねぼんにウインナーを食わせたやつらも平然としてたな。
でな、それから1年ちかくたった中3の夏休み、
ふと思い立って、たねぼんの家に行ってみたんだよ。
塀と門と母屋は取り壊されて平地になってたが、なぜか馬小屋だけは残ってた。
ああ、あの生臭い臭いはもうなかったな。馬小屋の戸は鍵がかかってて、
入ることはできなかった。板戸の隙間からのぞいてみても、
中は真っ暗で何も見えなかったよ。うーん、あの奇妙な生き物は人間だったんだろうか。
今となってもなんとも言えないなあ。もしかしたら何かの動物を見間違えたのかもしれん。
とにかく、こんなことがあって、気味の悪い思い出として残ってるんだよ。








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