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ある小学校講師の話

2018.01.16 (Tue)
※ これはパロディというかギャグなので、真面目に読まれるとちょっと困ります。

6月の終わりのことです。病休の講師として、ある小学校に赴任したんです。
そのときのことをお話します。私は、小学校教諭の免許を持っていますが、
結婚を機に退職して、それからずっと主婦をやってたんです。
はい、夫が働かなくてもかまわないと言ってくれましたし、
夫は中学校の教諭なので、部活動を担当して帰りが遅いんです。
それでずっと家で子育てをしてたんですけど、6月に市の教育委員家から電話がきまして、
「どうしても講師がいなくて困っている学校があるから、夏休みまでの1ヶ月で
 いいからお願いできないか」って言われたんです。
それで・・・断りきれなかったんです。というのは、
その電話をかけてきた教育委員会の先生が、前にある小学校で同職していて、
たいへんにお世話になった方だったからです。

私の子どもは2人とも中学生で、どちらも部活に入っていて帰りが遅く、
仕事をしても、私のほうが先に家に戻ってこられるうだろうと思っていました。
あと、教員免許は何かのときのために更新してあったんですが、ブランクが長かったので、
子どもたちの指導には不安はありました。ただ、子育てを経験しましたので、
そういう面では、若い頃よりも子どもたちの気持ちを理解できるかな、
とも感じていたんです。委員会で形だけの面接があって採用が決まり、
市の外れのほうにある小学校を訪れました。そこで、校長先生から、
4年生のクラス担任をしてほしいと言われました。はい、校長先生は退職まぎわとみえる
柔和な方で「無理を言って来てもらって申しわけない」とひじょうに恐縮されていました。
4年生は2クラス、私のクラスは2組、児童数28人で、もう一つのクラスの
男性の担任が学年主任も兼ねていたんです。ええ、その方ともお話しました。

私の前に担任されていた先生は、4月からそのクラスを受け持ったものの5月に病休、
それで臨時講師が来たんですが、その方も1ヶ月ほどで病休されてしまったということでした。
これを聞いて、ちょっと嫌な気になりました。
もしや学級崩壊しているクラスかと思ったんです。でも、学年主任は、
「どんな子どもたちか心配かもしれないけど、ものすごく大人しくて聞き分けのいいクラスです。
 この学校の6年生より手がかからないんじゃないかな。特にクラス委員をしてる
 川上さんって女の子、これがすごくしっかりした子で、
 男子も女子もきちっとまとめてるんですよ」こんなふうにおっしゃったんです。
ですから、私の前に病休が重なったのはたまたまだと思ったんですが・・・
翌日、体育館で全校集会があって、私が校長先生に紹介され、その後に自分のクラスを率いて
退場したんです。子どもたちの印象は、とにかく整然としてるってことです。

列を乱したり私語をする子はおらず、行進のしかたもすごく立派でした。
ただ・・・そのとき、あまり立派すぎて軍隊みたいだなとも感じたんです。
列の先頭は体の小さな女の子で、髪を古風なお下げにした子でした。
その子が小さな声で「全員起立」などと声をかけると、クラス全員がイスを持って立ち上がり、
私の後についてきたんです。前日、クラスの顔写真を見ていたので、
ああ、この子が川上さんなんだなとわかりました。教室に戻って、私が自己紹介するのを、
子どもたちは気をつけの姿勢を崩さず、背筋を伸ばして聞いていました。
新しい担任で子どもたちも緊張しているのだろうと思いましたが、
それにしても、あまりに立派すぎるというか、こんな子どもたちは、
正直見たことがありませんでした。ええ、私が現職だったとき、
これほどのしつけはとてもできてはいなかったです。ですが・・・

3ヶ月の間で3人担任が変わったので、子どもたちの学習はやはり遅れていました。
ですので、さっそく授業に入りましたが、やはり初めての学校ですので、
教材備品がどこにあるかもわからず、とまどうことが多かったんです。
でも、私が困った顔をしていると、すぐに川上さんが私のところにやってきて、
「先生、マグネットはこの引き出しです。地図は社会の準備室にあります」というふうに、
にこっと笑いながら教えてくれたんです。その初日だけで、何度川上さんに「ありがとう」
を言ったか数え切れないくらいでした。数学、社会、音楽などがあったんですが、
子どもたちの授業態度もすごく立派でした。ただ、自分から積極的に手を挙げて発表する
子は少なかったです。「大人しくて手がかからない」主任の言ったとおりだと思いました。
給食が終わり、午後の1時間でその日の授業は終わりでした。
帰りの掃除を子どもたちといっしょにしましたが、

子どもたちの机の中やロッカーは一人残らず整理整頓されていました。
それで、後ろのロッカーの上、学級文庫の隣に、透明なプラスチックの飼育ケースが
あるのに気がつきました。中には土が敷いてあり、紫陽花の葉が何枚も重なっていました。
「これ何? 何か飼ってるの?」近くでほうきを使っている当番の子に聞きました。
そしたら、その子は困ったような顔をし、大きな声で「川上さ~ん!」って呼んだんです。
廊下掃除の担当だった川上さんがすぐに走って教室に入ってきて、
「先生、まだ報告してませんでした。それ、クラス全員で飼ってるカタツムリです。
 これからも飼ってもいいでしょうか?」って聞いてきたんです。
私は「ええ、かまわないですよ。生き物の観察は理科の勉強にもなるし」そう言うと、
川上さんは「わーい、よかったなお前たち!」と、それまで聞いたことがない
乱暴な調子で言い、プラケースを持ち上げて揺さぶったんです。

そのとき、紫陽花の葉がずれて、下から真っ黒なものが出てきたんです。
2匹いました。長さ10cmはあったと思います。大きな真っ黒い殻を背負った、
体も真っ黒なカタツムリでした。「え!」見た瞬間にぞくぞくっと背筋が寒くなりました。
「黒いカタツムリ!?」思わず声に出すと、川上さんは「ここらでは珍しくないんです」と、
いつもの調子に戻って答え、またプラケースに「よかったな○○○○、△△△△」と、
よく聞き取れない言葉で話しかけました。「今、なんて言ったの?」
「右にいるのが ○○○○。左が△△△△ 。この子たちの名前です」
「・・・変わった名前ねえ。何かからとってつけたの?」やはりはっきりとは聞き取れず、
そう尋ねたら、川上さんは微笑みながら「みんなでつけたんです。先生もおぼえてください」
「難しい名前で先生ちょっとおぼえられないかも。紙に書いてくれる」そしたら、
教卓から紙とマジックを取ってきて「むんぐるい ふぐるうなふ」って書いたんです。

「今、右にいるツノの先がちょっと赤いのが むんぐるい です。それと、
 葉っぱの下に隠れちゃったけど、ツノの先が少し黄色いのが ふぐるうなふ 。
 先生おぼえてくださいね。この子たちもクラスの仲間なんですから」
掃除が終わって子どもたちは帰っていきました。私は教室内で採点などをし、
5時頃に職員室に戻りました。主任はすでに局員室に来られていて、
「どうでしたか、子どもたちの印象は?」と聞かれたので、「ええ、おっしゃったように、
 とってもいい子たちでした。川上さん、すごいしっかりした子で、きつい感じじゃないのに、
 他の子がみんな言うことを聞いてました」そう言うと、
「そうでしょう、あの子の両親はこの地域の氏神神社の宮司をしていて、
 子どもだけじゃなく、子どもたちの親のほうもみなお世話になっているんですよ。
 古くからある由緒ある神社で、ほとんどの家庭が氏子になってます」

「子どもたち、教室でカタツムリを飼ってましたけど、珍しいですね。
 真っ黒で見たこともない大きさでした」そしたら、「ああ、あれ、どうやら川上さんの
 家の神社の杜に住んでる珍しい種類のものなんだそうです。なんでも県の天然記念物になるかも
 しれないってことで、地元の大学が調査に来てるみたいで」・・・
それから2週間があっという間に過ぎました。ええ、手のかかることや事件などはなかったんですが、
なかなか子どもたちとはなじめませんでした。だって、あんな小学生はいないですよ。
休み時間でも、走り回って遊ぶことも、大きな声を出すこともなく、
トイレに行く以外は席について次の時間の教科書を読んでるんですから。
そんな4年生はどこの学校にもいません。まったく子どもらしいところがなかったんです。
まあでも、もう講師の期間の半分が過ぎたし、
夏休みまであと2週間がんばろう、と思ってました。

カタツムリは、やはり気味が悪いので、なるべく見ないようにしていました。
カタツムリの世話は、放課後、川上さんが一人でやっていたんですが、あるときプラケースに、
鶏卵を入れようとしてましたので、「あら、そんなの食べるの?」って聞いてみました。
すると川上さんは「えー、先生、カタツムリは紫陽花の葉っぱを食べるって思ってるんでしょ。
 違います。紫陽花の葉は毒があって食べられません。
 ただ、この子らが落ち着くから入れてるだけです。カタツムリって、
 カルシュウムを食べないと殻がつくれないんですよ。だから雨上がりなんかに、
 塀のコンクリートが水に溶けたのを吸ってるんです。この子たちは特に食欲があるから、
 家で中身を吸い出した卵の殻をあげてるんです」そうまくし立てるように言って、
プラケースを抱えて教卓にいる私に近づいてきました。被さっていた葉が落ちて、
15cm以上に成長したカタツムリの一匹が側面にへばりついているのが見えました。

「先生、この子はどっち? この子の名前は何?」川上さんが大声で聞き、
座っている私の目の前にプラケースをつきつけたので、思わずよけてしまいました。
「ああ、ごめんなさい。まだおぼえてないの。ちゃんとおぼえるから、元に戻して!」
すると川上さんの口調が変わり「お前もか!」そう吐き捨てると、
プラケースを教室の後ろに置いて、走って出ていってしまったんです。
・・・それからさらに2週間が過ぎ、明日は修了式、私はそこで退任のあいさつをして
任期は終わりです。夏休みの前でかなり暑くなってきていました。
給食の時間のことです。私は教卓で食べていたんですが、
班ごとに机をくっつけていた子どもたちが、突然、授業時のように並び直しました。
「え、みんな、どうしたの?」子どもたちは食器を前にしたまま背筋を伸ばし、
いっせいに「いあ」と言いました。「え? え?」

前の席に座っていた川上さんが、ひときわ大きな声で「むんぐるい ふぐるうなふ」
子どもたち全員がそれに唱和しました。「むんぐるい ふぐるうなふ いあ いあ」
「むんぐるい ふぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
「いあ いあ」 「くとぅるう るるいえ ふたぐん」 「いあ いあ」
すると外が暗くなり、ザーッと土砂降りの雨が落ちてきたんです。
窓を閉めなきゃと、立ち上がろうとしましたが、体が動きませんでした。
教卓のイスに貼りついたようで、手も足も動かすことができなかったんです。
「むんぐるい ふぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
子どもたちの意味不明な呪文のような言葉はまだ続いていました。
川上さんが席から立ち上がり、後ろのプラケースを開け、
それから私のほうに近づいてきたんです。手には給食のスプーンを持ち、

その上に一匹の黒ナメクジがのっていました。殻がなくなり、スプーンから
体半分以上はみ出すほど成長していたんです。川上さんが私のそばに立って言いました。
「お前に最後のチャンスを与える。よく見ろ、そしてこれの名前を言え」
子どもとは思えない厳しい口調でした。「・・・わからない、おぼえてない」
川上さんはさも残念そうに「そうか、じゃあ飲め、これを飲めばいい」
すると、自然に私の口が開いたんです。川上さんはゆっくりと私の口に、
スプーンごと黒いナメクジを突っ込んできました。目を閉じることも声を出すのもできません。
目の前でナメクジが大きく体をくねらせました。ツノが口の中にふれるのがわかりました。
「むんぐるい ふぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」
「いあ いあ」 「いあ いあ」 「いあ いあ」 前のほうの列しかわかりませんでしたが、
子どもたちの口の中に黒いものが蠢いていました。私はそこで気を失ってしまったんです・・・

「先生、どうしましたか? 気分が悪いんですか?」あどけない声が聞こえ、
目を開けると川上さんがそばに立っていました。「いやぁ!」叫んで立ち上がりました。
そこで教室を見回すと、子どもたちが机を給食の配列にしたまま、
黙々と食べているところでした。窓の外はカンカン照りの日差し。
「え? え?」 「先生、お疲れみたいですね。でも明日で学校終わりです」
川上さんが楽しそうな声でそう言い、自分の席に戻っていきました。
思わず自分の胃のあたりを押さえました。・・・今のは夢?
特に気分が悪いということもありませんでした。はい、翌日、修了式があり、
私は子どもたちにお別れをして花束をもらい、その学校での勤務を終えました。
学校から出るとき、クラスの中で川上さんだけが私のところに走ってきて、
「先生、ほんとうにほんとうにさようなら」一言残して去っていったんです・・・








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コメント
 川上さんは「信奉者の同志」が欲しかったんですかね・・・というか、管理人さんもたまにはハメを外したくなるんだなあ、と少し嬉しくなりましたw 
 日本を舞台に本気でコレ系をやろうとすると、受け手側にある程度の基礎知識を期待したり、外せないお約束があったりと、作り手側の負担が大きそうですね。
 そういえば佐野史郎主演のドラマ(映画?)があった気がしますが、あれはインスマスだったかな。
| 2018.01.18 22:35 | 編集
コメントありがとうございます
これはやっぱり知識のない人が読むと何のことかわからないんでしょうね
日本は神道と仏教なので、そのあたりとの兼ね合いも難しいと思いました
でも、書いてるときは面白かったです
bigbossman | 2018.01.19 10:44 | 編集
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